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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01D
管理番号 1038598
審判番号 審判1999-3518  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-04-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-03-10 
確定日 2001-05-09 
事件の表示 平成4年特許願第247574号「ガスタービン翼」拒絶査定に対する審判事件[平成6年4月5日出願公開、特開平6-93801]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成4年9月17日の出願であって、その請求項1〜5に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜5に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。
「内部に空洞を有する翼本体と、前記空洞内に配置され、冷却媒体が供給される自身の内部空間と、自身の翼コード方向の一端に位置して冷却媒体が回収される外周面の経路とを有するインサートと、該インサートの翼本体の内側面と対向する領域に設置され、前記内部空間より供給される冷却媒体を噴射する多数の噴射孔と、前記インサートの一部で翼のスパン方向に延び、冷却媒体が回収される凹部通路と、翼本体の内周側面に翼コード方向に延びるよう設置され、前記噴出孔より噴出された冷却媒体を翼コード方向に導き前記凹部通路に供給する複数の突堤と、を有することを特徴とするガスタービン翼。」

2.刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本出願前国内で頒布された特開平2-241902号公報(以下「刊行物1」という。)及び特開昭64-69701号公報(以下「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。

刊行物1の、
(イ)「いわゆるクロスフロー(インピンジ孔104から噴出される冷却媒体とインピンジメント冷却を終了した冷却媒体の各々の流れがほぼ直交する。)となってインピンジメント冷却効果を低下させる。」(第5頁右上欄15行〜19行)、
(ロ)「前述の(1)のように構成されたタービンの冷却翼においては、インサート内から噴出してインピンジメント冷却をした後の冷却媒体は翼のスパン方向に案内されて流れ、特に冷却要素としてのインサートが複数設けられているような場合には、それぞれクロスフローが低減されてインピンジメント冷却効率が向上する。また、スパン方向に案内された後の冷却媒体を他の冷却要素としてのインサート内へ供給するようにしているので、それぞれの冷却要素へ別々に冷却媒体を供給する場合よりも供給する冷却媒体が少なくても冷却効率が向上する。さらに案内手段で案内された後の冷却媒体を回収するための回収手段を設けているため、冷却媒体を翼本体外の主流ガス中に放出することが無く、主流ガスの温度低下をもたらすことがない。そしてこの回収した冷却媒体を他のサイクルへ供給すればプラント全体の効率が向上する。」(第7頁左上欄17行〜同頁右上欄14行)、
(ハ)「第1図は、本発明のタービン冷却翼をガスタービンの第1段静翼に適用した例であり、概略構成斜視図、第2図は第1図のA-A線切断縦断面図である。この翼は、翼本体1と、この翼本体21(「翼本体1」の誤記と認められる。)に一体に設けられた上部シュラウド2および下部シュラウド3とで構成されている。翼本体1内には、翼本体1のスパン方向に延びる空洞5、すなわち翼本体1と上下シュラウド2,3で囲まれた空間が形成されている。この空洞5内には、翼の前縁部側に挿設され供給源からの冷却媒体を内部に案内するための案内筒としての第1のインサート6と翼の後縁部側に挿設される同じく案内筒としての第2のインサート7とが設けられている。これら第1及び第2のインサート6,7は上下部シュラウド2,3に固定されている。一方、第1及び第2のインサート6,7の周囲には、冷却孔8,9が各々複数穿設されている。上部シュラウド2の上方に設けられた冷却媒体供給口17,18から冷却媒体は、各々第1及び第2のインサート6,7内に供給され、翼本体1のスパン方向に案内されながら冷却孔8,9から噴出し、翼本体1の内面をインピンジメント冷却する。(中略)また、第1のインサート6からは突壁6a,6bが突設しており、この突壁6a,6bは仕切板10に当接し、突壁6a,6bと仕切板10とで囲まれた案内手段たる第1の回収通路12が形成されている。この第1の回収通路12は翼のスパン方向に延びるもので、突壁6a,6bに形成された回収小孔13a,13bからインピンジメント冷却後の冷却媒体が第1の回収通路12内へ流入するように構成されている。同様に第2のインサート7からは、突壁7a,7bが突設しており、この突壁7a,7bは仕切板10に当接し、突壁7a,7bと仕切板とで囲まれた案内手段たる第2の回収通路14が形成されている。この第2の回収通路14も翼のスパン方向に延びるもので、突壁7a,7bに形成された回収小孔15a,15bからインピンジメント冷却後の冷却媒体が第2の回収通路14内へ流入するように構成されている。すなわち、第1のインサート6の冷却孔8から噴出した冷却媒体は、翼内面をインピンジメント冷却し、その後翼本体21(「翼本体1」の誤記と認められる。)の内面と第1のインサート6の外面との隙間を翼のコード方向に沿って流れて、翼内面を対流冷却し、第1の回収通路12内に流入して翼のスパン方向に沿って流れる。同様に第2のインサート7の冷却孔9から噴出した冷却媒体は、翼内面をインピンジメント冷却し、その後、翼本体21(「翼本体1」の誤記と認められる。)の内面と第1のインサート6(「第2のインサート7」の誤記と認められる。)の外面との隙間を翼のコード方向に沿って流れて、翼の内面を対流冷却し、第2の回収通路14内に流入して翼のスパン方向に沿って流れる。これら第1及び第2の回収通路12,14に集められた冷却媒体は回収通路12,14に連通し、下部シュラウド3に設けられた回収口20を通して回収される。」(第7頁右下欄3行〜第8頁左下欄2行)、
(ニ)「本発明によれば、タービンの翼の冷却において、冷却媒体のクロスフローが低減するため冷却効率が向上する。また、冷却に用いた冷却媒体を回収する場合には主流ガスの温度低下が防止できると共に回収した冷却媒体を他のサイクル、特に複合発電プラントにおいては、冷却蒸気を蒸気タービンへ戻すようにすればプラント全体の効率が向上する。」(第16頁右上欄17行〜同頁左下欄4行)、
(ホ)「第1及び第2の回収通路12,14は、その断面形状が凹部を形成している。」(第1図参照)、
及び第1〜2図の記載からみて、刊行物1には、
「内部に空洞5を有する翼本体1と、前記空洞内に配置され、冷却媒体が供給される自身の内部空間と、自身の翼コード方向の一端に位置して冷却媒体が回収される外周面の経路とを有する第1及び第2のインサート6,7と、該インサート6,7の翼本体1の内側面と対向する領域に設置され、前記内部空間より供給される冷却媒体を噴射する多数の冷却孔8,9と、前記インサート6,7の一部で翼のスパン方向に延び、冷却媒体が回収され、断面形状が凹部である第1、第2の回収通路12,14と、を有するガスタービン翼」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

刊行物2には、
(ヘ)「本発明は冷却構造を備えたガスタービン翼に係り、タービン翼の全体にわたり均一にしかも冷却気体の量を出来るだけ小量とし、上記ガスの温度低下を防止出来るガスタービン翼に関する。」(第1頁右下欄10行〜13行)、
(ト)「翼内部に挿入体を挿入し、挿入体先端部から翼前縁の内面に向けて高速の空気噴流を吹き付け、内面熱伝達率を高くするすることにより冷却効果を上げる、いわゆる衝突冷却方式」(第1頁右下欄17行〜20行)、
(チ)「すなわち、外被1の中空内に設定された中空状の挿入体30は断面が外被と相似形をしており、外被1のリブに挿入体30の外壁を当接することによってダクト40を形成している。ダクト40の形成されている挿入体30の各壁面には夫々必要数だけ気体通過孔31が形成されて矢印で示すように挿入体30の中空内に導入された圧縮気体を効率よくダクト40の先端部から後端部へ流通せしめるようにしてガスタービン用の翼10を構成して成る。」(第3頁右上欄5行〜14行)、
(リ)「外被1のリブと挿入体30の外壁とで形成されるダクト40は、外被1の内周側面に翼コード方向に延びるように形成され、気体通過孔31より噴出された冷却気体を翼コード方向に導く。」(第1図、第4図参照)
が記載されている。

3.対比
本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「翼本体1」、「第1及び第2のインサート6,7」、「冷却孔8,9」、「断面形状が凹部である第1、第2の回収通路12,14」は、それらの機能からみてそれぞれ、前者の「翼本体」、「インサート」、「噴射孔」、「凹部通路」に相当するから、両者は、
「内部に空洞を有する翼本体と、前記空洞内に配置され、冷却媒体が供給される自身の内部空間と、自身の翼コード方向の一端に位置して冷却媒体が回収される外周面の経路とを有するインサートと、該インサートの翼本体の内側面と対向する領域に設置され、前記内部空間より供給される冷却媒体を噴射する多数の噴射孔と、前記インサートの一部で翼のスパン方向に延び、冷却媒体が回収される凹部通路と、を有するガスタービン翼」で一致し、以下の点で相違する。
【相違点】前者では、翼本体の内周側面に翼コード方向に延びるよう設置され、前記噴出孔より噴出された冷却媒体を翼コード方向に導き前記凹部通路に供給する複数の突堤を有するのに対して、後者では、突堤を有していない点。

4.当審の判断
上記相違点について検討すると、刊行物2記載の「外被1」、「中空状の挿入体30」、「気体通過孔31」、「冷却気体」は、それらの機能からみてそれぞれ、本願発明1の「翼本体」、「インサート」、「噴射孔」、「冷却媒体」に相当するものであり、また、刊行物2記載の「衝突冷却」は、「インピンジメント冷却」である。そして、刊行物2記載の「外被1のリブ」は、挿入体30の外壁とともにダクト40を構成し、外被1の内周側面に翼コード方向に延びるように形成され、気体通過孔31より噴出された冷却気体を翼コード方向に導いているから(上記摘記事項(チ)、(リ)参照)、本願発明1の「突堤」に相当するものである。
してみれば、刊行物2には、
「内部に空洞を有する翼本体と、前記空洞内に配置され、冷却媒体が供給される自身の内部空間と、自身の翼コード方向の一端に位置して外周面に冷却媒体の経路とを有するインサートと、該インサートの翼本体の内側面と対向する領域に設置され、前記内部空間より供給される冷却媒体を噴射する多数の噴射孔と、翼本体の内周側面に翼コード方向に延びるよう設置され、前記噴出孔より噴出された冷却媒体を翼コード方向に導く複数の突堤と、を有し、インピンジメント冷却される、ガスタービン翼」が記載されていると言える。
そして、刊行物1記載の発明は、上記刊行物2記載の発明と同じく、「内部に空洞を有する翼本体と、前記空洞内に配置され、冷却媒体が供給される自身の内部空間と、自身の翼コード方向の一端に位置して外周面に冷却媒体の経路とを有するインサートと、該インサートの翼本体の内側面と対向する領域に設置され、前記内部空間より供給される冷却媒体を噴射する多数の噴射孔と、を有するガスタービン翼」であって、しかも、その冷却構造はインピンジメント冷却によるものであるから(上記摘記事項(ロ)、(ハ)参照)、刊行物1、2記載の発明は、同一の技術分野に属するものである。さらに、刊行物1には、インピンジメント冷却効果を十分に確保するためには、これからインピンジメント冷却を行う冷却媒体とすでにインピンジメント冷却を終了した冷却媒体の各々の流れがほぼ直交する、いわゆるクロスフローを防止する必要のあることが、記載されているから、刊行物1記載の発明において、さらにクロスフローを防止しようとして、インサート外周面の冷却媒体経路に、刊行物2記載の発明の突堤を設けることは、当業者が容易になしうることと認められる。
さらに、本願発明1の作用効果につき検討するに、請求人は、審判請求書中で、本願発明1が「冷却媒体の圧力損失の増大をともなうことなく冷却媒体のクロスフローを低減でき、インピンジメント冷却性能を向上させることができる。」(段落【0034】参照)という作用効果を奏する旨主張している。
ところで、本願明細書の段落【0008】の「回収小孔93a,93b,95a,95bは、冷却孔88,89の総面積に比べてある程度少ない面積とならざるを得ず、その冷却媒体の圧力損失は大きくなる。」との記載、及び、段落【0023】の「冷却媒体をインサート26の凹部通路31に導く手段はかかる突堤とインサートと翼仕切壁との間に設けられた隙間であり、従来のように大きな圧力損失を伴うことがない。」との記載からみれば、上記作用効果のうち、「冷却媒体の圧力損失の増大をともなうことなく」との作用効果は、本願発明1の構成に欠くことができない事項ではない、「冷却媒体をインサート26の凹部通路31に導く手段は、小面積の回収小孔ではなく、突堤とインサートと翼仕切壁との間に設けられた隙間である」ことによるものであり、また、「冷却媒体のクロスフローを低減でき、インピンジメント冷却性能を向上させることができる。」との作用効果は、上述のとおり、刊行物1、2記載の発明から予測可能な範囲内のものである。すなわち、本願発明1の作用効果は、刊行物1及び刊行物2記載の発明から当業者が予測できる範囲内のものと認められる。

5.むすび
したがって、本願発明1は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-02-20 
結審通知日 2001-03-02 
審決日 2001-03-14 
出願番号 特願平4-247574
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 則夫亀田 貴志  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 飯塚 直樹
関谷 一夫
発明の名称 ガスタービン翼  
代理人 作田 康夫  

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