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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H05K
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
管理番号 1039191
異議申立番号 異議1999-74933  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-01-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-12-28 
確定日 2000-12-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2913414号「ホットメルト接着剤およびそれを用いる印刷回路配線板」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2913414号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2913414号に係る発明についての出願は、平成2年5月8日に特許出願され、平成11年4月16日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人 鐘淵化学工業株式会社により特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年7月4日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下の訂正事項a、b及びcのとおりである。
a.特許請求の範囲の請求項1の「a)常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤より成る熱硬化性樹脂組成物 b)熱可塑性樹脂 c)溶剤を主成分とすることを特徴とする印刷回路基板用の熱硬化性ホットメルト接着剤。」を「a)常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤より成る熱硬化性樹脂組成物 b)ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂 c)溶剤を主成分とすることを特徴とする印刷回路基板用の熱硬化性ホットメルト接着剤。」と訂正する。
b.明細書(第2913414号特許公報)2頁4欄9行目〜15行目の「本発明者らはこの目的を解決するため種々検討の結果、接着剤として、常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤よりなる熱硬化性樹脂組成物、b)熱可塑性樹脂、c)溶剤を主成分とする塗布型の熱硬化性ホットメルト接着剤を使用し、この接着剤をプライマーとしてフレキシブル基板の片面および両面に塗布することにより解決した。」を「本発明者らはこの目的を解決するため種々検討の結果、接着剤として、常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤よりなる熱硬化性樹脂組成物b)ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂c)溶剤を主成分とする塗布型の熱硬化性ホットメルト接着剤を使用し、この接着剤をプライマーとしてフレキシブル基板の片面および両面に塗布することにより解決した。」と訂正する。
c.明細書(第2913414号特許公報)2頁4欄27行目〜29行目の「また、熱可塑性樹脂はポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド等の一般的な熱可塑性樹脂を使用することができる。」を「また、ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂等の一般的な熱可塑性樹脂を使用することができる。」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aに関連する記載として、請求項1に記載された「b)熱可塑性樹脂」を「b)ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂」と限定するものである。
上記訂正事項aに関連する記載として、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、特許明細書(第2913414号特許公報)2頁4欄27行に、「また、熱可塑性樹脂はポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド等の一般的な熱可塑性樹脂を使用することができる。」と記載されている。
そうすると、訂正事項aの訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において熱可塑性樹脂を「ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであり、新規事項の追加に該当しない。また、訂正事項b及びcの訂正は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記いずれの訂正も実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)独立特許要件
(引用例)
当審が通知した取消理由で引用した甲第1号証ないし甲第9号証には、以下の記載がある。
甲第1号証(特開昭61-57670号公報)には、「フレキシブルプリント配線板用接着剤はフレキシブル基板フイルムと銅箔との接着に使用される」(1頁右上欄4〜6行)こと、及び「・・・(A)アルコール可溶性ポリアミド樹脂、(B)粒状フェノール樹脂およびエポキシ樹脂の(D)硬化剤からなる主剤とする。次に別に(C)エポキシ樹脂を、・・・混合溶媒に溶解させて補助剤とする。・・・これらの主剤と補助剤とを・・・混合撹拌することにより接着剤溶液が得られる。・・・こうして得られた接着剤溶液を・・・プラスチックフィルム又は配線板の面上に・・・塗布し、乾燥させて溶媒を揮散させる。しかる後一方の被着体面と重ね合わせ・・・加熱加圧して接着させる。また、銅張フィルムの制作に当たっても同じ条件を運用してもよい。」(3頁左上欄9行〜右上欄7行)と記載されている。
同じく、甲第2号証(日本チバガイギー株式会社カタログ「アラルダイト エポキシ樹脂」)には、アラルダイトECN1280は、常温で固形の熱硬化性エポキシ樹脂であること、
甲第3号証(四国化成工業株式会社カタログ「イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤キユアゾール」)には、キュアゾール2E4MZは、イミダゾール系のエポキシ樹脂硬化剤であること、
甲第4号証(特開昭63-172724号公報)には、東レ社商品名CM8000は共重合ポリアミドであること、及び甲第5号証(日本化薬株式会社カタログ[BREN低粘度グレード」)には、BRENは常温で固体のエポキシ樹脂であることが、それぞれ記載されている。
同じく、甲第6号証(特開昭61-188479号公報)には、「ポリアミドを一方とし、エチレンの共重合体をもう一方とする相溶性混合物状態のホットメルト接着剤において、該ホットメルト接着剤が・・・エチレン、エチレン系不飽和ジカルボン酸の内部酸無水物および場合によっては(メタ)アクリル酸エステルおよび/またはビニルエステルよりなる共重合体並びに・・・他の添加物を含有する・・・上記ホットメルト接着剤」について、甲第7号証(実用プラスチック用語辞典 495頁)には、「ホットメルト接着剤に関する一般的な説明及びその一例として金属構造用接着剤は共重合ナイロンーエポキシ系で缶のシールに使用されること」について、甲第8号証(「接着・粘着の事典」、株式会社朝倉書店(1989年6月1日)発行、第3刷、85〜89頁)には、ポリアミド系接着剤に関する一般的な技術的事項について、そして甲第9号証(特開昭60-32387号公報)には、銅合金薄板を合成樹脂フィルム状基材の片面もしくは両面に合成樹脂接着剤を用いて張り合わせた電気回路基板及び合成樹脂接着剤としてエポキシ樹脂接着剤が用いられることについて記載されている。
(対比・判断)
(a)本件請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明と甲第1号証又は甲第6号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証及び甲第6号証には、ポリアミド樹脂と粒状フェノール樹脂及びエポキシ樹脂とより成るホットメルト接着剤又はポリアミドとエチレンの共重合体を含有するホットメルト接着剤についてそれぞれ記載されていて、上記ホットメルト接着剤はポリアミド樹脂を必須の成分とするものであって、ポリアミド樹脂にかえてポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂を用いることができる旨の記載はなく、また、ポリアミド樹脂以外の一般的な熱可塑性樹脂であるポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂を常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤より成る熱硬化性樹脂組成物と配合して上記熱硬化性樹脂組成物とポリアミド樹脂以外の一般的な熱可塑性樹脂であるポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂を主成分とする印刷回路基板用の熱硬化性ホットメルト接着剤について記載されていない。
同じく、甲第2号証ないし甲第5号証、甲第7号証ないし甲第10号証にも、ポリアミド樹脂以外の一般的な熱可塑性樹脂であるポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂を常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤より成る熱硬化性樹脂組成物と配合して上記熱硬化性樹脂組成物とポリアミド樹脂以外の一般的な熱可塑性樹脂であるポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂を主成分とする印刷回路基板用の熱硬化性ホットメルト接着剤について記載されていない。
結局、甲第1号証ないし甲第9号証には、本件請求項1に係る発明を特定する事項である、a)常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤より成る熱硬化性樹脂組成物b)ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂を主成分とする印刷回路基板用の熱硬化性ホットメルト接着剤について記載されておらず、当該事項により特許明細書記載の顕著な効果を奏するものであり、本件請求項1ないし6に係る発明が甲第1号証乃至甲第9号証に記載のものに基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
(b)本件請求項2ないし6に係る発明について
本件請求項2ないし6に係る発明は、本件請求項1に係る発明を更に限定したものであるから、上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、上記甲第1号証乃至甲第9号証に記載の発明から当業者が容易に推考しうるものではない。
(c)したがって、本件請求項1ないし6に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(4)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する126条第2項ないし第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
4.特許異議申立について
(1)特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、「本件請求項1に係る特許発明は、特許法第29条第1項および第2項との規定に違反します。又本件請求項2〜6に係る各特許発明は、特許法第29条の規定に違反します。さらに本件請求項1〜6に係る各特許発明は、・・・特許法第36条第3項・・・の規定に違反します。従って、本件請求項1〜6に係る各特許発明は、同法第113条第2号および第4号の規定により特許を取り消すべきものです。」旨主張する。
(2)判断
(a)本件請求項1ないし6に係る発明
上記2.において記載したように上記訂正が認められるから、本件請求項1ないし6に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(b)特許法第36条第3項違反について
特許異議申立人は、「・・・本件特許明細書の発明の詳細な説明には、・・・容易に本件請求項1〜6に係る特許発明の実施をすることができる程度に、その目的、構成および効果が記載されていません。従って本件特許請求項1〜6に係る発明は、・・・特許法第36条第3項・・・により特許を受けることができない発明です。・・・本件請求項1に記載の発明は、・・・いわゆるサブストラクト法用途の接着剤組成物をも含みます。しかし、フィルムに金属箔を接着するために本件請求項1に記載の組成物を使用することについての説明が本件特許明細書中に存在しません。・・・」(特許異議申立書21頁18行〜27頁10行)との主張について
甲第9号証には、「耐熱性に優れた合成樹脂フィルムを絶縁基材として・・・銅薄板を片面あるいは両面に合成樹脂接着剤を用いてはり合せしかる後鋼薄板を所望の電気回路パターンにエッチアウトしてなる可撓性・・・に富んだ電気回路基板(以下、FPCと呼ぶ。・・・)・・・」との記載があるが、この記載は、サブトラクテイブ法によるFPCの回路形成について述べたものであってアディティブ法によるFPCの回路形成について述べたものではない。
そして、本件特許明細書には、従来技術に関し、「FPCの回路形成には、銅やアルミ箔を張ったフィルムをエッチングして回路を作るサブストラクト法と・・・アディティブ法とがある。」との記載があり、さらに、課題を解決する手段に関し、「印刷回路を形成する基材としては、・・・熱可塑性樹脂、あるいは・・・熱硬化性樹脂などのフイルム状のものを用いることができる。また、回路形成用の塗料は、印刷等で形成できるもので銀ペースト、銅ペースト、カーボンペーストなどが用いられる・・・。抵抗ペーストとしてはカーボン系のものが一般的である。」との記載があって、接着剤の用途としては熱可塑性樹脂製のフィルムにアディティブ法で電気回路を形成する方法のみについて記載されており、サブストラクト法(サブトラクティブ法)によるFPCの回路形成については記載されていないし、本件特許発明における印刷回路基板用の熱硬化性ホットメルト接着剤がサブストラクト法(サブトラクティブ法)によるFPCの回路形成に用いられる旨の記載はないので、本件特許発明における上記接着剤はサブストラクト法(サブトラクティブ法)に用いられる接着剤ではなく、アディティブ法に用いられる接着剤であることは明かである(特許異議意見書7頁末行ないし7頁1行、7頁末行ないし1行参照)。
したがって、特許法第36条第3項違反についての特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(c)本件請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明は、上記2.(3)(a)で示した理由によって、甲第1号証に記載された発明と同一ではないし、また、甲第1号証乃至甲第8号証には、ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤より成る熱硬化性樹脂組成物と配合した印刷回路基板用の熱硬化性ホットメルト接着剤について記載されていない。
さらに、甲第10号証(特開昭51-53295号公報)には、有機質材料を結合材とした導電性ペーストについて記載されているにすぎず、ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂又はアクリル系樹脂を常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤より成る熱硬化性樹脂組成物と配合した印刷回路基板用の熱硬化性ホットメルト接着剤について記載されていない。
結局、甲第1号証ないし甲第10号証には、本件請求項1に係る発明を特定する事項である、a)常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤より成る熱硬化性樹脂組成物b)ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂を主成分とする印刷回路基板用の熱硬化性ホットメルト接着剤について記載されておらず、当該事項により特許明細書記載の顕著な効果を奏するものであるので、本件請求項1に係る発明が甲第1号証乃至甲第10号証に記載のものに基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
(d)本件請求項2ないし6に係る発明について
本件請求項2ないし6に係る発明は、本件請求項1に係る発明を更に限定したものであるから、上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、上記甲第1号証乃至甲第10号証に記載の発明から当業者が容易に推考しうるものではない。
(d)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1ないし6に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし6に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ホットメルト接着剤およびそれを用いる印刷回路配線板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤よりなる硬化性樹脂組成物
b)ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂
c)溶剤
を主成分とすることを特徴とする印刷回路基板用の熱硬化性ホットメルト接着剤。
【請求項2】
特許請求の範囲第1項記載の塗布型の熱硬化性ホットメルト接着剤をフィルム状基板の少なくとも片面に塗布し、その上に回路パターンおよび/または抵抗などを印刷により形成したことを特徴とする印刷回路基板。
【請求項3】
特許請求の範囲第1項記載の塗布型の熱硬化性ホットメルト接着剤をフィルム状基板の両面に塗布し、その上に回路パターンおよび/または抵抗などを印刷により形成し、これらを張り合せたことを特徴とする多層印刷回路基板。
【請求項4】
特許請求の範囲第1項記載の塗布型の熱硬化性ホットメルト接着剤をフィルム状の基板の両面に塗布し、その片面上に回路パターンおよび/または抵抗などを印刷により形成し、他の面を筺体に張り合わせたことを特徴とする一体成型可能な印刷回路基板。
【請求項5】
特許請求の範囲第3項記載の多層印刷回路基板の1面を筺体に張り合せたことを特徴とする一体成型可能な多層印刷回路基板。
【請求項6】
特許請求の範囲第2〜5項のいずれかに記載の印刷回路基板上に抵抗、コンデンサなどの表面実装部品を半田付けにより表面実装したことを特徴とする印刷回路基板。
【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
この発明は、フィルム上に形成した印刷回路パターンおよび/または印刷抵抗などの印刷部品を形成する印刷回路基板を製造するとき、あるいはその印刷回路基板を筐体に熱圧着して回路パターンおよび/または印刷抵抗などの印刷部品をもつ印刷回路基板を一体成型するときに使用する際に用いる塗布型の熱硬化性ホッメルト接着剤と、この塗布型熱硬化性ホットメルト接着剤を用いて得られる一体成型可能な印刷回路基板に関するものである。
(従来の技術)
ポリエステルやポリイミドなどのフィルム上に印刷回路を形成し、そのフレキシビリティを利用することにより配線を行なうフレキシブル印刷回路(FPC:Flexible Printed Circuit)は広く応用されている。
FPCの回路形成には、銅やアルミ箔を張ったフィルムをエッチングして回路を作るサブストラクト法とフィルムの上に銀、銅、カーボンなどの導電粒子を含む導電性ペーストを印刷して回路を作るアディティブ法とがある。
アディティブ法による場合、導電性ペーストとして導電性の良い銀ペーストが使用された。更に、用いられる基材としては、一般に、価格と加工性の点で有利であるポリエチレンテレフタレート(PET)が用いられた。
更に、FPCの回路形成に用いるアディティブ法に使用される接着剤としては、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いる場合とポリエステル系等の熱可塑性ホットメルト接着剤を用いる場合があった。
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、PETフィルムの銀ペースト印刷回路基板では、半田付けによる部品実装が難しい(半田付け接合強度が著しく弱い)ために、導電接着剤による実装しか使えないこともあって、それほど高密度な部品実装回路を形成することができないという難点がある。
従来の接着剤としてエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を使用すると、一般に、形成した塗膜が硬すぎてフレキシブル基板の可撓性に追従できず、折り曲げなどにより塗膜にクラック等が入り、銀ペースト回路の導通不良を生じやすい。またポリエステル系等の熱可塑性ホットメルト接着剤を使用すると、形成した塗膜の耐熱性がなく半田付け工程においてプライマー層自身が溶融してしまい、銀ペースト塗膜が破壊して半田付けができないという難点がある。
(課題を解決するための手段)
本発明は、PET上に銀ペーストで形成した回路に直接半田付けで電子部品を接合することが可能となる方法、即ち、PETフィルムの表面に熱硬化性ホットメルト接着剤をプライマ一として塗布することにより、耐熱性の低いPETフィルム等の上に形成した熱硬化性および/または熱可塑性銀ペーストパターンに半田付けが可能になること、その上、熱硬化性樹脂に熱可塑性ホットメルト接着剤を配合することによって、フレキシブル基板の可撓性にも追従でき、半田付け工程において溶融するようなことがないため良好な半田接合が可能になることを見出し本発明を完成した。
本発明の目的は、接着剤として熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を使用して、その導電性の良い、導電不良のない柔軟な印刷回路基板を提供することにある。
本発明者らはこの自的を解決するため種々検討の結果、接着剤として
a)常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤より成る熱硬化性樹脂組成物、
b)ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂、
c)溶剤を主成分とする塗布型の熱硬化性ホットメルト接着剤を使用し、この接着剤をプライマーとしてフレキシブル基板の片面および両面に塗布することにより解決した。
本発明の塗布型熱硬化性ホットメルト接着剤を用いることによって、フレキシブルな単層または多層基板を作ることが可能で、更にこれらの基板を筐体に熱圧着することにより電子回路を筐体に一体成型することが可能になる。更にまたこれらの配線回路に印刷抵抗を組み入れることも可能である。
本発明において用いられる常温で固形の熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、メラミン系樹脂等のうち、常温(25℃)で固形のものが好ましく、必要に応じ硬化剤を配合して用いられる。
また、熱可塑性樹脂はポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂等の一般的な熱可塑性樹脂を使用することができる。
ここでa)およびb)成分の相溶性は必ずしも必要ない。
また、本発明に使用する溶剤は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を溶解するものであればよいが、粘度変化などを考慮した場合、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、石油ナフサなどが好ましい。
また、上記成分以外に硬化促進剤、流動性調整、消泡剤、レベリング剤などの各種塗料用添加剤を必要に応じ併用することができる。
このような組成の熱硬化性ホットメルト接着剤をプライマーとして塗布し、印刷回路を形成する基材としては、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリエーテルイミド、芳香族ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの熱可塑性樹脂、あるいはエポキシ、フェノール、不飽和ボリエステルなどの熱硬化性樹脂などのフィルム状のものを用いることができる。
また、回路形成用の塗料は、印刷等で形成できるもので銀ペースト、銅ペースト、カーボンぺーストなどが用いられるが、半田付けをする場合には銀または銅ペーストが好ましい。抵抗ペーストとしてはカーボン系のものが一般的である。
塗布型の熱硬化性ホットメルト接着剤の使い方としては、
1)熱硬化性ホットメルト接着剤をフィルム状基板の少なくとも片面に塗布し、その上に印刷回路および/または印刷抵抗などの印刷部品を形成して印刷回路とする
2)熱硬化性ホットメルト接着剤をフィルム状基板の両面に塗布し、その上に印刷回路および/または印刷抵抗などの印刷部品を形成し、これらを張り合せることによって多層印刷回路基板とする
3)熱硬化性ホットメルト接着剤をフィルム状基板の両面に塗布し、その片面上に印刷回路および/または印刷抵抗などの印刷部品を形成し、他の面を筺体に張り合せることにより筺体に一体成型された印刷回路基板とする
4)上記2)に記載の多層印刷回路基板の1面を筺体に張り合せることによって筺体に一体成型された印刷回路基板とする
等の方法がある。
(実施例)
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。
実施例1〜5、比較例1〜3
第1表に示す実施例1から5の組成物をディゾルバーで溶解・分散して本発明の塗布型熱硬化性ホットメルト接着剤を作製した。
これらを各々厚さ50ミクロンのポリエチレンテレフタレート(PET)に先ず片面にスクリーン印刷し、120℃×l0分で仮乾燥した。ついで前記接着剤塗布面に、ポリエステル樹脂をバインダーとして印刷回路形成用銀ペースト(アサヒ化学研究所製LS-405)をスクリーン印刷し、120℃×20分で乾燥させた。
このようにして作製したFPCについて下記項目の評価を行なった。比較例として、接着剤を塗布しない場合(比較例1)、熱硬化型ホットメルト接着剤をプライマーとした場合(比較例2)、熱乾燥型ホットメルト接着剤を使用した場合(比較例3)を示す。結果を第1表に示す。

(評価項目と具体的方法)
(1)仮乾燥時におけるタックフリー性(ホットメルト接着剤を印刷した後、120℃に設定したボックス炉に10分間放置した後、冷却してから塗膜表面のタック性を指触で確認する)
(2)乾燥塗膜の可撓性(仮乾燥したテストピースを180℃の完全折り曲げを5回行なった後の塗膜変化について観察した)
(3)ホットメルト性(印刷塗膜面と未処理PETフィルムを張り合せ、ライオン社製のクリップで固定する。固定したものを150℃に設定した熱風炉に30分間放置する。それを冷却し、テストピースとPETフィルムとの密着状態を評価する)
(4)本硬化後の塗膜の可撓性(仮乾燥したテストピースを150℃×30分間で本硬化した後、テストピースを180℃の完全折り曲げ5回行なった後の塗膜状態について観察した)
(5)本硬化後の耐熱性(テストピースを150℃×30分で本硬化した後、塗膜表面を230℃の半田槽に20秒間浸漬した時の塗膜の状態変化を観察した)
(6)接着剤仮乾燥状態での銀ペーストの密着性(仮乾燥状態のテストピース上に銀ペーストを印刷・硬化させた後、銀ペーストの密着性をセロテープ剥離試験により評価した)
(7)接着剤本硬化後での銀ペーストの密着性(テストピースを150℃×30分本硬化した後、塗膜上に銀ペーストを印刷・硬化させ、銀ペーストの密着性をセロテープ剥離試験により評価した)
(8)接着剤仮乾燥状態での半田付け強度(仮乾燥状態のテストピースに3mm×3mm角のパターンを180メッシュ、50ミクロンの印刷条件で銀ペーストを印刷して、120℃×20分で硬化した。こうして得られた試験片にヤニ入り糸ハンダを使用して0.5mmφの針金を半田付けした。そして垂直方向の引っ張り強度を測定した)
(9)接着剤本硬化後での半田付け強度(テストピースを150℃×30分で本硬化した後、評価項目の(8)と同様の手順で半田付け強度を測定した)
実施例6
フィルム状基板1(PET)の両面にホットメルト接着剤2(実施例1の接着剤)を塗布し、120℃で10分熱処理してから、その片面に印刷回路3を熱硬化性銀ぺースト(アサヒ化学研究所製、LS-506を用い、120℃で30分熱処理)で形成し、更に印刷抵抗4(アサヒ化学研究所製、TU-100-8を用い、スクリーン印刷)を形成し、FIR(遠赤外線炉)で硬化を行なって、印刷抵抗のついたFPC基板を得た。この基板をプラスチック筺体5に張り合せて加圧、加熱(150℃、30分)して筺体表面に印刷回路を形成した。
筺体表面に形成された銀ペーストによる導体上に、半田7でリード線8を付けることが可能であった。(第1図)
実施例7
フィルム状基板1(PET)の両面にホットメルト接着剤2(実施例3の接着剤)を塗布し、120℃で20分熱処理し、その片面に印刷回路3を熱可塑性ポリエステル樹脂系銀ペースト(アサヒ化学研究所製、LS-405を用い、80℃で20分熱処理)で形成し、更に150℃で30分硬化を行なった。このようにして得た印刷回路基板に半田付けでチップ部品6(ここでは抵抗を用い、半田ごてで半田付けした)。チップ部品6は印刷回路基板に強固に半田7で接合された(第2図)。
比較として、フィルム状基板1(PET)にホットメルト接着剤を塗布せず、片面に印刷回路3を銀ペースト(アサヒ化学研究所製、LS-405を用い、80℃で20分熱処理)で形成し、更に150℃で30分熱処理を行なって得た印刷回路基板に半田付けでチップ部品6(ここでは抵抗を用い、半田ごてで半田付けした)で半田付けをしたところチップ部品6は印刷回路基板に半田で接合することができなかった。
実施例8
フィルム状基板1(PET)の両面にホットメルト接着剤2(実施例5の接着剤)を塗布し、120℃で20分熱処理してから、その片面に印刷回路3を熱可塑性ビニル系樹脂銀ぺースト(アサヒ化学研究所製、LS-408を用い、80℃で20分熱処理)で形成し、更に印刷抵抗4(アサヒ化学研究所製、TU-100-8を用い、スクリーン印刷)を形成し、FIR(遠赤外線炉)で硬化を行なって、印刷抵抗のついたFPC基板を得た。
別のフィルム状基板1(PET)の両面にホットメルト接着剤2(実施例5の接着剤)を塗布し、120℃で20分熱処理し、その片面に印刷回路3を銀ペースト(アサヒ化学研究所製、LS-408を用い、80℃で20分熱処理)で形成した。このようにして得た2枚の基板を前者が下になるように重ねあわせ加圧しながら150℃で30分硬化を行なった。
このようにして得た印刷回路基板に半田付けでチップ部品6(ここではコンデンサを用い、半田ごてで半田付けした)を得た。チップ部品6は印刷回路基板に強固に半田7で接合された。(第3図)
(発明の効果)
本発明の一体成型可能なホットメルト接着剤を使用して、フィルム状の印刷回路配線板を作製すると、従来200℃前後の温度をかけると溶融してしまったPETのような熱可塑性樹脂フィルム基材も200℃以上の半田付けに耐えられるような耐熱性を付与させることができる。
また、このホットメルト接着剤を塗布することによって、半田付け温度で溶融してしまう熱可塑性樹脂バインダーを使用した銀ペーストに半田を付けることが可能になる。そのため従来のようにコストの高い耐熱性フィルムを使用する必要がなくなるため、かなりのコストダウンに繋る。また表裏両面にホットメルト接着剤を塗布することによってFPCの多層基板が容易に作製できるとともに筐体と一体成型することができるので、従来より更に、軽量化、小型化された電子機器等が得られる。
【図面の簡単な説明】
第1図は実施例6に基づいて作製された印刷回路基板の一部縦断面図である。
第2図は実施例7に基づいて作製された印刷回路基板の一部縦断面図である。
第3図は実施例8に基づいて作製された印刷回路基板の一部縦断面図である。
1……フィルム状基板
2……ホットメルト接着剤
3……印刷回路
4……印刷抵抗
5……プラスチック筐体
6……チップ部品
7……半田
8……リード線
 
訂正の要旨 訂正の要旨
a.特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1の「a)常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤より成る熱硬化性樹脂組成物
b)熱可塑性樹脂
c)溶剤を主成分とすることを特徴とする印刷回路基板用の熱硬化性ホットメルト接着剤。」を「a)常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤より成る熱硬化性樹脂組成物
b)ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂
c)溶剤を主成分とすることを特徴とする印刷回路基板用の熱硬化性ホットメルト接着剤。」と訂正する。
b.明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書(特許第2913414号特許公報)2頁4欄9行目〜15行目の「本発明者らはこの目的を解決するため種々検討した結果、接着剤として、a)常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤より成る熱硬化性樹脂組成物b)熱可塑性樹脂c)溶剤を主成分とする接着剤を使用し、…塗布することに解決した。」を「本発明者らはこの目的を解決するため種々検討した結果、接着剤として、a)常温で固形の熱硬化性樹脂とそれの硬化剤より成る熱硬化性樹脂組成物b)ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂c)溶剤を主成分とする接着剤を使用し、…塗布することに解決した。」と訂正する。
c.明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書(特許第2913414号特許公報)2頁4欄27行目〜29行目の「また、熱可塑性樹脂はポリエスチル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド等の一般的な熱可塑性樹脂を使用することができる。」を「また、熱可塑性樹脂はポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂等の一般的な熱可塑性樹脂を使用することができる。」と訂正する。
異議決定日 2000-11-27 
出願番号 特願平2-118263
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H05K)
P 1 651・ 113- YA (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡田 和加子  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 大島 祥吾
井口 嘉和
登録日 1999-04-16 
登録番号 特許第2913414号(P2913414)
権利者 株式会社アサヒ化学研究所
発明の名称 ホットメルト接着剤およびそれを用いる印刷回路配線板  
代理人 久米 英一  
代理人 久米 英一  
代理人 山本 秀策  

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