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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B60R
管理番号 1039279
異議申立番号 異議2000-73059  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-06-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-08-07 
確定日 2001-04-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3006967号「車両用防音材」の請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3006967号の請求項2に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3006967号に係る発明についての出願は、平成4年11月26日の出願であって、平成11年11月26日にその発明について特許の設定登録がなされた後、特許請求の範囲の請求項2に係る発明について、特許異議申立人 市原敏夫により特許異議の申立てがなされ、平成12年10月30日付けで取消しの理由が通知されたものである。
2.特許異議の申立てについての判断
(1)本件発明
本件特許第3006967号の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
請求項2
粉末状ポリプロピレンと、長さ5〜25mm、直径5〜20ミクロンのチョップドガラス繊維を、水中で分散混合した後抄紙法でシート化し、脱水並びに加熱乾燥圧縮した比重1.0〜1.4の原反シートに、比重0.9〜3.0のオレフィン系合成樹脂シートを重ねて再度加熱し、所定形状に成形して得られた、原反シート部分が比重0.3〜0.8に膨張した基板層と、その基板層の一方の面に融着一体化した前記オレフィン係合性樹脂シートとを有する車両用防音材。
(2)申立ての理由の概要
特許異議申立人 市原 敏夫は、「本件請求項2の特許発明は、甲第1号証に記載された発明と区別することができないものであり特許法第29条第1項により特許することができないものである。また、・・・甲第2〜5号証の記載を合わせて考えると、甲各号証の記載からきわめて容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許されることができないものです。したがって、本件請求項2は特許法法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものです。」旨主張する。
証拠方法
(a)甲第1号証:公表特許公報、昭61-501398号(以下、「引用例1」という。)
(b)甲第2号証:自動車研究、第8巻、第7号、269〜279頁「自動車の騒音対策に用いられる遮音、吸音、制振材料」、昭和61年7月(以下、「引用例2」という。)
(c)甲第3号証:プラスッチクフィルムー加工と応用ー、218〜221頁、技報堂出版株式会社、1982年6月1日、1版7刷発行(以下、引用例3」という。)
(d)甲第4号証:特開平4-232047号公報(以下、引用例4」という。)
(e)甲第5号証:岩波理化学辞典1987年10月12日第4版第1刷および1991年1月10日第4版第5刷(以下、「引用例5」という。)
(3)引用例の記載事項
取消しの理由において引用した引用例1には、
(a)「1.合成樹脂材料の連続孔質マトリックスと、このマトリックス中に分散し、複合体の10〜55重量%を占める、ランダムに配向した補強用繊維から成り、前記繊維が3〜25mmの平均長さと少なくとも約40の縦横比を有する、水性スラリー法で製造される繊維強化複合体であって、複合体全体体積の20〜90%の空隙量を有するようになるまで膨張することを特許とする複合体。
2.前記熱膨張した複合体が0.24〜1.04g/ccの密度を有する請求項第1項記載の複合体。
4.前記繊維をガラス繊維、・・・からなる群から選択する請求の範囲第1項、第2項・・・に記載の複合体。
5.前記繊維が直径13〜25μm、平均長さ4〜12mmを有する請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の複合体。
7.合成樹脂材料の前記マトリックスは、ポリオレフィン・・・から成る群から選択される請求の範囲第1項〜第6項のいずれかに記載の複合体。
8.前記合成樹脂材料を・・・ポリプロピレンから成る群から選択する請求の範囲第7項記載の複合体。
21.合成樹脂材料の連続マトリックスと、このマトリックス中に分布し、全体の全重量に基づいて10〜50重量%を占める補強用繊維とから成り、前記繊維が前記複合体によって限定される面内で実質的に二次元にランダムに配向し、少なくとも約40の縦横比及び3〜25mmの平均長さを有する圧縮複合体から低密度繊維強化複合体を製造する方法において、前記複合体によって定められる面に対して垂直な方向に複合体を膨張させるに十分な温度まで圧縮繊維強化複合体を加熱し、次に冷却して低密度繊維強化複合体を形成する工程を特徴とする方法。
27.間隔をおいて配置した2面の間の間隙を膨張した複合体が完全に満たすように、前記2面の間で前記加熱段階と冷却段階を実施することによって、複合体の主要面上に・・・平滑な層を形成する請求の範囲21項記載の方法。
28.前記面が軟化した熱可塑性樹脂によって濡れる材料から成る請求の範囲21項記載の方法。
」(7頁右下欄5行乃至8頁23行)の記載、
圧縮シートの製造工程に関する「好ましい複合体製造方法によると、樹脂加水に不溶であり(「樹脂加水に不溶であり」は「樹脂は水に不溶であり」の誤記であるものと解される。)、粒状物・・・のような粒子懸濁液として製造され得るものであることが一般に望ましい。」(3頁2行ないし4行)との記載、「このような圧縮シートは、製紙プロセスを利用し、このプロセスの次に例えば米国特許第4,426,470号の実施例6に述べられいる圧力下での圧縮、または同様なプロセスによって有利に製造される。」(4頁右上欄12行ないし16行)との記載
低密度複合体又は膨張した複合体の製造工程に関する「本発明のプロセスでは、圧縮シートをその軟化点以上に加熱することによって、シートをシート面に対して垂直方向に膨張させる、すなわちシートの厚さを増大させる。」(4頁右上欄22行ないし24行)との記載、
さらに、前記圧縮シート及び低密度複合体の製造工程に関する実施例4(6頁右下欄1行ないし25行)における「水7l(7リットル)に撹拌しながら、キサンタンゴム0.25gを加える。次に、長さ6mm、直径13μmのチョップしたガラス繊維23.1gをこの水に加え、5分撹拌してガラス繊維を分散させる。・・・凝集したスラリーを・・・スクリーン上で脱水する。次に、湿ったマットを軽く圧縮し、110℃で乾燥させて残留水を除去する。マットを145℃で圧縮成形して、約1.06g/ccの密度を有する圧縮複合体を形成する。
このシートのサンプルを次のプロセス:・・・マッチド・メタル・ダイセット中で100℃に加熱する。このダイセットは圧縮シート厚さの約2倍にまで、開いた状態になる。
によって、発泡させる。
いずれのプロセスを用いても、膨張した複合体は約0.58g/ccの密度を有する。」(6頁右下欄1行ないし25行)との記載がある。
そして、上記引用例1には、上記繊維強化複合体の用途に関し、(b)「本発明の低密度複合体は音を弱めることにもすぐれているため、・・・自動車・・・における遮音体として利用することができる。」(5頁左下欄12行ないし14行)との記載、(c)「本発明の複合体は・・・他の種類の材料との積層体を製造するのに有効である。従って、例えば、本発明の複合体を・・・他の機能の物質を積層するための基質として利用することができる。・・・この複合体を合成樹脂材料・・・等の基質層に、中間粘着層なしに、直接接着することもできる。」(5頁右下欄4行ないし5行)との記載がある。
上記記載によれば、上記引用例1には、
(d)「粒状物であるポリプロピレンと、長さ4〜12mm、直径13〜25μmのガラス繊維を、製紙プロセスを利用し、すなわち、水中で分散混合したのち抄紙法でシート化し、脱水並びに加熱乾燥圧縮した圧縮複合体、圧縮繊維強化シート又は圧縮シート(以下、「圧縮シート」という。)を形成すること」、
「ポリオレフィン・マトリックスとして、ポリエチレンを用いた場合には、圧縮シートの比重が1.22(密度1.22g/cc、実施例1)、1.06(密度1.06g/cc、実施例4)であること」、
「上記圧縮シートを加熱し、次に冷却し、低密度繊維強化複合体を形成すること」、
「間隔をおいて配置した2面の間の間隙を膨張した複合体が完全に満たすように、前記2面の間で上記圧縮シートに加熱段階と冷却段階を実施することによって、前記圧縮シートを圧縮シート面に対して垂直方向に膨張させて低密度複合体又は膨張複合体(以下、「膨張した複合体」という。)の主要面上に軟化した熱可塑性樹脂によって濡れる材料から成る平滑な層を形成させた、膨張した複合体とその各面上に形成された平滑な合成樹脂層を有する積層体を製造すること」、
「上記膨張した複合体が0.24〜1.04g/ccの密度を有すること」、
「上記膨張した複合体が自動車における遮音体として利用することができること」が実質的に開示されている。
(4)対比・判断
(a)そこで、請求項2に係る本件発明と、引用例1に記載の膨張した複合体の各面上に形成された平滑な合成樹脂層を有する積層体とを対比すると、本件発明における原反シートは引用例1に記載の圧縮シートに、そして、本件発明における膨張した基板層及びオレフィン系合成樹脂シートは、引用例1に記載の上記積層体の膨張した複合体及び上記合成樹脂層にそれぞれ対応するものと認められる。
そうすると、両者は、粉末状ポリプロピレンと、長さ5〜12mm、直径13〜20ミクロンのチョップドガラス繊維を、水中で分散混合した後抄紙法でシート化し、脱水並びに加熱乾燥圧縮した原反シート(圧縮シート)に熱可塑性樹脂を重ねて再度加熱し、所定形状に成形して得られた、原反シート(圧縮シート)部分が比重0.3〜0.8に膨張した基板層(膨張した複合体)と、その基板層の面に融着一体化した合成樹脂材料シートとを有する車両用防音材である点において共通しており、
(a-1)本件発明では、原反シートの比重が1.0〜1.4であるのに対し、引用例1のものでは、ポリオレフィン・マトリックスとして、ポリプロピレンを用いた場合の圧縮シートの比重については特に記載されていないが、ポリエチレンを用いた場合には、圧縮シートの比重が1.22(密度1.22g/cc、実施例1)、1.06(密度1.06g/cc、実施例4)である点
(a-2)本件発明では、原反シートに重ねる熱可塑性樹脂が比重0.9〜3.0のオレフィン系合成樹脂シートであるのに対し、引用例1のものでは、熱可塑性樹脂の比重について記載がない点、
(a-3)本件発明では、膨張した基板層の一方の面に融着一体化した前記オレフィン系合成樹脂シートを有するのに対し、引用例1に記載のものでは、
膨張した基板層(膨張した複合体層)の両方の面に融着一体化した熱可塑性樹脂層を有する点において相違している。
(b)上記相違点(a-1)について検討すると、
引用例1のものでは、ポリオレフィン・マトリックスとして、ポリプロピレンを用いた場合の圧縮シートの比重については特に記載されていないが、ポリエチレンを用いた場合には、圧縮シートの比重が1.22(密度1.22g/cc、実施例1)、1.06(密度1.06g/cc、実施例4)であることが記載され、圧縮シートの密度(比重)はそれに用いる特定の樹脂とガラス繊維の使用割合に依存することは明らかである。そして、膨張した複合体の密度は0.24〜1.04g/ccであり、ポリエチレンの比重は0.919〜0.965であり、ポリプロピレンの比重は0.90〜0.91である(取消しの理由において引用した引用例3及び引用例5参照)ので、実施例1及び4にしたがって、ポリオレフィン・マトリックスとしてポリエチレンにかえてポリプロピレンを用いたときにも、ポリエチレンを用いたときの比重と近似した比重を有するものとすることは容易に選択しうることといえる。
相違点(a-2)及び(a-3)について検討すると、
取消しの理由において引用した上記引用例2には、防音材に関する周知技術に関し、「自動車では・・・軽量化してもなお高い遮音性能を維持できる材料がとくに必要となる。このようなうまい材料は均質材料では実現不可能であるが、多層構造にすることで実現可能となる。」(271頁左欄8行ないし12行)との記載及び「図12は・・・グラスウールに各種のフィルムを被せて測定した吸音率の変化を示しており、・・・これは表面に被せたフィルムが膜状の吸音材として作用し、フィルム背後の空気層(ガラスウール層)との間で共振系を構成するためと考えられ、」(274頁右欄8行ないし275頁右欄32行参照及び図12)との記載があり、フィルムの具体例としてオレフィン系合成樹脂であるポリエチレンが例示されており、ポリエチレンの比重は0.919〜0.965を有することは従来周知の技術的事項である(取消しの理由において引用した引用例3参照)。
また、上記取消しの理由において引用した引用例4には、「本発明は、抄造技術により製造される繊維強化熱可塑性樹脂の多孔質成型品の外観改良方法を提供するものである。」【0007】との記載があり、
その手段に関し、「繊維強化熱可塑性樹脂シート状成形素材を加熱し、・・・圧縮成形することにより、空隙を有する繊維強化熱可塑性樹脂成形品を製造する方法において、・・・繊維強化熱可塑性樹脂の外表面に、3〜30体積%の無機フィラーを含有した熱可塑性樹脂層を積層したシート状成形素材を用いること」【0008】、「熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン・・・等の樹脂であり、」【0017】、繊維強化熱可塑性樹脂に積層する無機フィラーを含有した熱可塑性樹脂層に関し、「タルク40重量%・・とポリプロピレン樹脂60重量%・・・の組成を、・・・混練し、・・・タルク含有ポリプロピレン樹脂フィルムを成形した」【0028】、「無機フィラー含有熱可塑性樹脂層6が繊維強化熱可塑性樹脂層を完全に覆った状態で加熱できる」【0009】との記載があり、
「本発明における繊維強化熱可塑性樹脂の外表面に、無機フィラーを含有した熱可塑性樹脂層を積層する方法は、・・・フィルムを繊維強化熱可塑性樹脂の外表面に積層し、プレス成形機で加熱加圧し、さらに冷却して成型することにより容易に行うことができる。」【0018】との記載とともに「成形品用途により片側の外観改良のみ要求される場合は、不燃材料または、シート状成形素材の片側にのみ無機フィラー含有熱可塑性樹脂を積層することもできる。」【0020】との記載がある。
引用例2及び4の上記記載によれば、多孔質吸音材にポリエチレンなどの各種フィルムを被せ吸音率を変化させること及び抄造技術により製造される繊維強化熱可塑性樹脂成形素材を加熱加圧成形して得られる多孔質成形品の片側にのみ無機フィラーを含有するポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系合成樹脂を積層することが開示されている。
さらに、上記したように、オレフィン系合成樹脂であるポリエチレンの比重は0.919〜0.965を有すること、ポリプロピレンの比重は0.90〜0.91を有することは従来周知の技術的事項(取消しの理由において引用した引用例3及び引用例5参照)であるので、無機フィラーを含有したポリエチレン及びポリプロピレンの比重は0.90を越えることは明かである。
したがって、引用例1に記載の圧縮シートの一方の面に比重が0.9を越え3.0以下のポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系合成樹脂シートを重ね、そして、加熱し、膨張した複合体の一方の面に前記オレフィン系合成樹脂シートを融着一体化することは容易に想到しうることであるというべきである。
そして、請求項2に係る本件発明は引用例1及び引用例2に記載のもに比して格別優れた効果を奏するものとは認められない。
(5)むすび
以上のとおりであるので、請求項2に係る本件発明は、上記引用例1、上記引用例1に記載の米国特許第4,426,470号明細書、上記引用例2及び引用例4に記載のもの並びに周知の技術的事項(引用例3及び引用例5)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2に係る本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-02-26 
出願番号 特願平4-337837
審決分類 P 1 652・ 121- ZC (B60R)
最終処分 取消  
前審関与審査官 小椋 正幸岡田 孝博  
特許庁審判長 蓑輪 安夫
特許庁審判官 大島 祥吾
井口 嘉和
登録日 1999-11-26 
登録番号 特許第3006967号(P3006967)
権利者 盟和産業株式会社
発明の名称 車両用防音材  

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