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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議200171906 審決 特許
異議199971254 審決 特許
無効200035269 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
管理番号 1039330
異議申立番号 異議1999-71260  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-04-08 
確定日 2001-05-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第2807453号「強度、延性、靱性及び疲労特性に優れた熱延高張力鋼板」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2807453号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第2807453号の発明は、昭和61年12月9日に出願した特願昭61-291555号の1部を平成9年6月19日に分割して新たな特許出願としたものであって、平成10年7月24日にその特許の設定登録がなされたものである。本件特許の請求項1、2に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
C:0.01〜0.20重量%、
Si:1.00重量%以下、
Mn:2.00重量%以下、
Al:0.10重量%以下、
N:0.0070重量%以下、
Nb:0.0050〜0.15重量%、
を含み、残余は不可避不純物を除き実質的にFeの組成からなり、フェライトの平均粒径が2〜3μmの微細フェライトが面積率で70%以上、ベイナイトとマルテンサイトを含む組織の面積率が20%以下で、残部の面積率が平均粒径10μm以下のフェライトの混合組織からなる強度、延性、靱性及び疲労特性に優れた熱延高張力鋼板。
【請求項2】
C:0.01〜0.20重量%、
Si:1.00重量%以下、
Mn:2.00重量%以下、
Al:0.10重量%以下、
N:0.0070重量%以下、
Nb:0.005〜0.15重量%、
に加えて、
Ti:0.005〜0.050重量%、
V:0.01〜0.200重量%のうち、一種又は二種を含み、残余は不可避不純物を除き実質的にFeの組成からなり、フェライトの平均粒径が2〜3μmの微細フェライトが面積率で70%以上、ベイナイトとマルテンサイトを含む組織の面積率が20%以下で、残部の面積率が平均粒径10μm以下のフェライトの混合組織からなる強度、延性、靱性及び疲労特性に優れた熱延高張力鋼板。」
(以下、特許請求の範囲の請求項1、2に記載された発明をそれぞれ「本件発明1、2」という。)
2.申立ての理由の概要
特許異議申立人住友金属工業株式会社は、証拠として甲第1号証(特開昭61-96057号公報)、甲第2号証(SAE Technical Paper Series 820283 p1〜9)、甲第3号証(「神戸製鋼技報」Vol.33No.4(1983.10月)p49〜54)、甲第4号証(特開昭59-110725号公報)、甲第5号証(特開昭60-56024号公報)、甲第6号証(特開昭57-194214号公報)を提出し、本件発明1は、甲第1〜3号証に記載された発明であり、また、本件発明2は、甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明であり、また、本件発明1、2は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであり、また、請求項1、2に記載された発明に係る特許が特許法第36条第3又は4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされているので、請求項1、2に記載された発明に係る特許は取り消すべき旨主張し、また、特許異議申立人株式会社神戸製鋼所は、証拠として甲第1号証(特開昭59-205447号公報)、甲第2号証(特開昭59-170238号公報)、甲第3号証(日本学術振興会鉄鋼第19委員会編「鉄鋼と合金元素(上)」(昭和46年12月6日)株式会社誠文堂新光社第723,761〜781頁)を提出し、本件発明1、2は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、また、請求項1、2に記載された発明に係る特許が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされているので、請求項1、2に記載された発明に係る特許は取り消すべき旨主張している。
3.引用刊行物記載の発明
当審が通知した取消理由に引用された刊行物1(特開昭61-96057号公報、特許異議申立人住友金属工業株式会社が提出した甲第1号証と同じ)には、
「重量%で(a)C0.01〜0.12%、Si0.1〜1.6%、及びMn0.7〜2.5%を含み、更に、(b)Nb0.01〜0.08%、V0.02〜1.5%、Ti0.01〜0.08%、及びZr0.02%〜0.18%よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含み、ポリゴナルフェライトとベイナイトからなる複合組織を有すると共に、ベイナイトの面積比率が5〜60%であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の成形性、抵抗溶接性及び疲労特性に優れた高強度熱延鋼板。」(特許請求の範囲第2項)、
「次に、本発明鋼の製造方法について説明する。本発明鋼の製造においては、上記した化学組成を有する鋼スラブを常法に従って熱間圧延する。この熱間圧延の終了後、先ず、所望の面積率にてフェライトを生成せしめるべく、700〜500℃、望ましくは600℃の温度までを5〜35℃/秒の平均冷却速度で冷却(1次冷却)する。・・・上記1次冷却に続いて、未変態のオーステナイトをベイナイトに変態せしめるべく、上述の冷却速度以上であり、且つ、25〜80℃/秒の範囲の平均冷却速度にて、575〜250℃まで冷却(2次冷却)する。」(第4頁左上欄第7行〜右上欄第13行)と記載され、また、第1表には、鋼の化学成分(重量%)として、鋼記号D:C0.04,Si0.60,Mn1.51,P0.008,S0.005,Al0.02,Nb0.021、
鋼記号E:C0.07,Si0.95,Mn1.48,P0.006,S0.006,Al0.02,Nb0.025、
鋼記号L:C0.05,Si0.75,Mn0.60,P0.008,S0.008,Al0.03,Nb0.020、
鋼記号P:C0.08,Si0.57,Mn2.83,P0.008,S0.005,Al0.02,Nb0.019,Ti0.03、
鋼記号Q:C0.03,Si1.83,Mn1.59,P0.005,S0.006,Al0.02,Nb0.024と記載され、
刊行物2(SAE Technical Paper Series 820283 p1〜9、同甲第2号証と同じ)には、
「Nbを添加したフェライト-ベイナイト鋼板はホイールリム及びディスク製造における二相鋼として採用される」(第1頁右欄第34〜36行)、
「実験室での実験はNbを添加したフェライト-10〜15%ベイナイト鋼板はホイールリム及びディスク用として最も優れた鋼種であることを示す。」(第5頁右欄第3〜5行)と記載され、また、第1表には、鋼の化学組成(wt%)として、S2:C0.07,Si0.78,Mn1.66,Al0.038,Nb0.022と記載され、第3表には、熱間タンデム圧延機により製造した鋼S2の機械的特性として、降伏強度53.9kgf/mm2,引張強度63.5kgf/mm2,伸びEl25.9%,λ63.8%,疲労強度40.0kgf/mm2と記載され、また、第9図には鋼の走査電子顕微鏡写真が記載され、
刊行物3(「神戸製鋼技報」Vol.33No.4(1983.10月)p49〜54、同甲3号証と同じ)には、
「フェライト相と10〜30%のベイナイト相からなる当社独自のホイール用熱延高張力鋼板を開発するに至った。」(第49頁右欄第3〜5行)と記載され、また、第1表には、実験用鋼板の化学組成(wt%)として、A:C0.05,Si0.49,Mn1.60,P0.004,S0.006,Nb0.025,Al0.033と記載され、また、写真1には、KBHF55B(フェライトーベイナイト鋼)の顕微鏡組織が記載され、また、第3表には、KBHF-Bシリーズの代表的特性値例として、降伏強度48.8kgf/mm2,引張強度58.0kgf/mm2,伸びEl30.5%,λ96%、と記載され、
刊行物4(特開昭59-110725号公報、同甲第4号証と同じ)には、
「C0.005〜0.15%、Si0.1〜0.5%、Mn0.8〜2.0%、Ti0.003〜0.04%,Al0.005〜0.08%、S0.008%以下,N0.0010%を越え0.010%未満で・・・高張力鋼の製造方法。」(特許請求の範囲)、
「Nは溶接部靭性の劣化を防止するために限定する必要がある。・・・一方0.010%以上ではTiN析出物量が過剰もしくは固溶Nが残存し、いずれにおいても溶接部の靭性を劣化させるので,Nは0.0010%を越え0.010%未満の範囲内にする必要があり、」(第3頁左上欄第19行〜右上欄第8行)と記載され、
刊行物5(特開昭60-56024号公報、甲第5号証に同じ)には、
「重量%で、C:0.06〜0.18%、Si:0.05〜0.25%、Mn:0.08〜1.50%、Al:0.01〜0.05%、Ti:0.008〜0.045%、N:0.0030〜0.0080%、残部鉄・・・熱延高張力鋼板の製造法。」(特許請求の範囲)、
「N・・・は、・・・得られる熱延板の強度、延性および靭性の向上を図るために添加される。つまり、Nが0.0030%未満では組織の微細化が図れず、一方、Nが0.0080%超では前述の粗大窒化物TiNを形成しやすくなるので、本発明で目的とするような上述の効果が図れない。」(第2頁右下欄第17行〜第3頁左上欄第2行)と記載され、
刊行物6(特開昭57-194214公報、同甲第6号証と同じ)には、
「C0.02〜0.10%、Si≦0.05%、Mn0.10〜0.80%、Ti0.002〜0.02%、N≦50ppm・・・高延性高降伏点鋼の製造方法。」(特許請求の範囲)、
「NはTiと化合して鋼中で安定な窒化物を形成する。したがってNが高いときは大型の窒化物が析出し強度上昇に寄与しないばかりか延性を低下させるので上限を50ppmとする。」(第2頁右上欄第5〜8行)と記載され、
刊行物7(特開昭59-205447号公報、特許異議申立人株式会社神戸製鋼所が提出した甲第1号証と同じ)には、
「C0.02〜0.3%,Mn0.1〜2%を含有し、更にSi・・・を各々2%以下及び/又はAl,Ti・・・の1種又は2種以上をAl0.1%以下、Ti・・・各々0.03%未満、・・・V各々0.1%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、熱間加工された状態において、フェライト組織が70%以上含まれ、該フェライト組織が平均粒径4μ以下の等軸フェライト結晶粒からなり、該フェライト結晶粒以外の第2相組織が・・・マルテンサイト、・・・ベイナイトの少なくとも1種からなることを特徴とする超細粒フェライト鋼。」(特許請求の範囲第2項)、
「なお、Nb・・・は通常このような鋼に添加されることが多いが、本発明の場合は加工によるフェライト変態をむしろ阻止して望ましくない場合があり、実質的に添加しない方が望ましい。」(第4頁右下欄第2〜6行、摘示イ)、
「第2相はベイナイトおよび/またはマルテンサイトを主体とする組織となり強度が向上する。」(第6頁右下欄第19行〜第7頁左上欄第1行)、
「本発明の1つの好ましい実施態様によると、P0.015%以下、S0.010%以下、N0.0025%以下と限定する。」(第7頁左上欄第6〜8行)、
「この組織は、その粒径が4μ以下のフェライト粒が70%以上含まれており、更にその粒界が大傾角すなわち隣接し合う結晶粒の結晶方位が大きく異なっている状態の粒界になっている。粒径が小さくなると、強度及び靭性が向上するが、第3図に示すように、平均粒径が4μ以下になると通常のPetchの関係式によって予想された値に比し、急激に降伏応力及び靭性が良くなるのである。」(第9頁左下欄第9〜17行)と記載され、また、第3表には、鋼の組織、機械的性質として、
(組織(板厚方向平均))フェライト量(%)90、平均フェライト粒径(μ)3、(引張特性(JIS5号))試験片採取方向L、0.2%耐力(kg/mm2)46、引張強さ(kg/mm2)58、伸び(%)30、疲労強度(平面曲げ)(kg/mm2)32、試験片採取方向C、0.2%耐力(kg/mm2)48、引張強さ(kg/mm2)61、伸び(%)30、疲労強度(平面曲げ)(kg/mm2)34、
(組織(板厚方向平均))フェライト量(%)95、平均フェライト粒径(μ)2.2、(引張特性(JIS5号))試験片採取方向L、0.2%耐力(kg/mm2)58、引張強さ(kg/mm2)61、伸び(%)29、疲労強度(平面曲げ)(kg/mm2)33、試験片採取方向C、0.2%耐力(kg/mm2)57、引張強さ(kg/mm2)62、伸び(%)31、疲労強度(平面曲げ)(kg/mm2)33と記載され、また、第6表には、組織及び機械的性質として、
(組織(板厚方向平均))フェライト量(%)85、平均フェライト粒径(μ)2.7、(引張特性(JIS13B号L方向))0.2%耐力(kg/mm2)49、引張強さ(kg/mm2)75、伸び(%)26と記載され、
刊行物8(特開昭59-170238号公報、同甲第2号証と同じ)には、
「本質的にほぼ一様の成分組成を有するC:0.3wt%以下、合金元素の合計量5wt%以下を含み、熱間圧延終了後の状態で、表面から少くとも0.3mmの厚さの部分が平均5μ以下の径の微細フェライト粒が70%以上占めるような組織を有することを特徴とする表面微細粒フェライト鋼。」(特許請求の範囲第1項)、
「Cを0.3wt%以下とした。合金元素としては中心部の組織調整が目的であり、急冷が可能であれば少量でもよく例えば0.2〜0.8wt%のMnのみを含むような鋼でも十分本発明の組織を得ることができる。」(第3頁第6〜10行)、
「以上のC,Mn以外の成分の添加量を具体的に示せば、次のとおりである。なお%はすべてwt%である。Si:1.5%以下、・・・V:0.1%以下,Ti:0.03%未満、Nb:0.01%以下・・・Al:0.1%以下・・・であり、これ等の元素を必要に応じ、1種又は2種以上を添加してもよい。」(第3頁右上欄第18行〜左下欄第8行)と記載され、また、第2表には、実施例の化学成分として、C0.14、Si0.33,Mn1.06,P0.014,S0.002,Al0.032,N0.0060と記載され、
刊行物9(日本学術振興会鉄鋼第19委員会編「鉄鋼と合金元素(上)」(昭和46年12月6日)株式会社誠文堂新光社第723,761〜781頁、同甲第3号証と同じ)には、
「Nbの効果のおもなものに1)極端に細かい結晶粒度を与え、延性、靭性を改良する。」(第760頁第24、25行)、
「Nb処理鋼の特長として細粒組織、高強度、高延性、良好な溶接性などがあげられている」(第761頁第9、10行)、
「Nbの細粒化作用はアルミ・キルド鋼でも認められ、一層の微細化が生じる。」(第765頁第7行)、
「Nb添加により引張強さ、降伏点、伸び、絞り、衝撃値が著しく改良される」(第774頁第19、20行)と記載されている。
4.対比・判断
(特許法第29条第1、2項について)
本件発明1と刊行物1に記載の発明を対比する。
刊行物1、第1表鋼番号D,E,L,P,Qの鋼のAl含有量が0.02重量%,0.03重量%であることから、刊行物1に記載の高強度熱延鋼板のAl含有量は0.02重量%又は0.03重量%であると認められるので、両者は、C,Si,Mn,Al及びNbを含み、残余は不可避不純物を除き実質的にFeの組成からなり、これらの合金成分の含有量が重複する、強度、延性及び疲労特性に優れた熱延高張力鋼板である点で一致し、本件発明1は、N含有量を0.0070重量%以下に限定し、フェライトの平均粒径が2〜3μmの微細フェライトが面積率で70%以上、ベイナイトとマルテンサイトを含む組織の面積率が20%以下で、残部の面積率が平均粒径10μm以下のフェライトの混合組織からなるのに対し、刊行物1にはこれらの点が記載されていない点で相違する。
相違点について検討すると、刊行物1に記載のものは、ポリゴナルフェライトとベイナイトからなる複合組織を有すると共に、ベイナイトの面積比率が5〜60%であるというものであり、マルテンサイトを含有する本件発明1と相違する組織を有するものであり、また、刊行物1には、固溶状態でNが残存し靭性が劣化するのを阻止するため、鋼のN含有量を0.0070重量%以下に限定する点を示唆する記載はない。また、刊行物4〜6には、鋼のN含有量を0.0070重量%以下に限定することが記載されているが、刊行物4〜6に記載のものは、本件発明1のように低温で巻取った場合に固溶状態でNが残存し靭性が劣化するのを阻止するために鋼のN含有量を0.0070重量%以下に限定するものでない。
以上のことから、刊行物4〜6の記載を合わせみても、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるとも、また、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
本件発明2は、本件発明1において、Ti:0.005〜0.050重量%、V:0.01〜0.200重量%のうち、一種又は二種を含む点を付加したものであるから、本件発明1と同じ理由で、刊行物4〜6の記載を合わせみても、本件発明2は、刊行物1に記載された発明であるとも、また、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
次に、本件発明1と刊行物2に記載の発明を対比する。
刊行物2に記載のものは、第9図からすると、平均粒径10μm以下のフェライト組織を有することが読みとれるから、両者は、C,Si,Mn,Al及びNbを含み、残余は不可避不純物を除き実質的にFeの組成からなり、これらの合金成分の含有量が重複し、平均粒径10μm以下のフェライト組織を有する、強度及び疲労特性に優れた熱延高張力鋼である点で一致し、本件発明1は、N含有量を0.0070重量%以下に限定し、フェライトの平均粒径が2〜3μmの微細フェライトが面積率で70%以上、ベイナイトとマルテンサイトを含む組織の面積率が20%以下の混合組織からなるのに対し、刊行物2にはこれらの点が記載されていない点で相違する。
相違点について検討すると、刊行物2に記載のものは、第9図からすると、フェライトの平均粒径が2〜3μmの微細フェライトが面積率で70%以上のものと読みとることはできず、また、刊行物2に記載のものは、フェライトとベイナイトからなる複合組織を有し、ベイナイトの比率が10〜15%であるというものであり、マルテンサイトを含有する本件発明1と相違する組織を有するものであり、また、刊行物2には、固溶状態でNが残存し靭性が劣化するのを阻止するため、鋼のN含有量を0.0070重量%以下に限定する点を示唆する記載はない。また、刊行物4〜6に記載のものは、本件発明1のように低温で巻取った場合に固溶状態でNが残存し靭性が劣化するのを阻止するために鋼のN含有量を0.0070重量%以下に限定するものでない。
以上のことから、刊行物4〜6の記載を合わせみても、本件発明1は、刊行物2に記載された発明であるとも、また、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
本件発明2は、本件発明1において、Ti:0.005〜0.050重量%、V:0.01〜0.200重量%のうち、一種又は二種を含む点を付加したものであるから、本件発明1と同じ理由で、刊行物4〜6の記載を合わせみても、本件発明2は、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
次に、本件発明1と刊行物3に記載の発明を対比する。
刊行物3に記載のものは、写真1からすると、平均粒径10μm以下のフェライト組織を有することが読みとれるから、両者は、C,Si,Mn,Al及びNbを含み、残余は不可避不純物を除き実質的にFeの組成からなり、これらの合金成分の含有量が重複し、平均粒径10μm以下のフェライト組織を有する、強度及び延性に優れた熱延高張力鋼板である点で一致し、本件発明1は、N含有量を0.0070重量%以下に限定し、フェライトの平均粒径が2〜3μmの微細フェライトが面積率で70%以上、ベイナイトとマルテンサイトを含む組織の面積率が20%以下の混合組織からなるのに対し、刊行物3にはこれらの点が記載されていない点で相違する。
相違点について検討すると、刊行物3に記載のものは、写真1からすると、フェライトの平均粒径が2〜3μmの微細フェライトが面積率で70%以上のものと読みとることはできず、また、刊行物3に記載のものは、フェライトとベイナイトからなる複合組織を有し、ベイナイトの比率が10〜30%であるというものであり、マルテンサイトを含有する本件発明1と相違する組織を有するものであり、また、刊行物3には、固溶状態でNが残存し靭性が劣化するのを阻止するため、鋼のN含有量を0.0070重量%以下に限定する点を示唆する記載はない。また、刊行物4〜6に記載のものは、本件発明1のように低温で巻取った場合に固溶状態でNが残存し靭性が劣化するのを阻止するために鋼のN含有量を0.0070重量%以下に限定するものでない。
以上のことから、刊行物4〜6の記載を合わせみても、本件発明1は、刊行物3に記載された発明であるとも、また、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
本件発明2は、本件発明1において、Ti:0.005〜0.050重量%、V:0.01〜0.200重量%のうち、一種又は二種を含む点を付加したものであるから、本件発明1と同じ理由で、刊行物4〜6の記載を合わせみても、本件発明2は、刊行物3に記載された発明であるとも、また、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
次に、本件発明1と刊行物7に記載の発明を対比すると、両者は、C,Si,Mn,Al及びNを含む鋼組成からなり、これらの合金成分の含有量が重複し、フェライトの平均粒径が2〜3μmの微細フェライトが面積率で70%以上、ベイナイトとマルテンサイトを含む組織の面積率が20%以下で、残部の面積率が平均粒径10μm以下のフェライトの混合組織からなる強度、延性、靱性及び疲労特性に優れた熱延高張力鋼板である点で一致し、本件発明1は、Nb0.0050〜0.15重量%を含むのに対し、刊行物7にはこの点が記載されていない点で相違する。
相違点について検討する。
刊行物8には、表面微細粒フェライト鋼においてCを0.3wt%以下、0.2〜0.8wt%のMnを含み、Si:1.5wt%以下、V:0.1wt%以下,Ti:0.03wt%未満、Nb:0.01wt%以下、Al:0.1wt%以下の1種又は2種以上を添加してもよいことが記載され、また、刊行物9には、Nbの添加により極端に細かい結晶粒度を与え、引張強さ、降伏点、伸び、絞り、衝撃値が著しく改良されることが記載されているが、摘示イから、刊行物7に記載のものは、Nbを添加しない鋼を前提とするものであるから、Nbを添加しない鋼を前提とする刊行物7に記載のものと刊行物8,9に記載のものを寄せ集めることにより当業者が本件発明1を容易に構築できるものとすることができない。
そして、本件発明1は、請求項1に記載の事項を構成要件とすることにより、「本発明によれば、コスト面で問題となるCr, Ni, Mo等の添加を避けられ、強度、延性を損なわないで、靱性、疲労特性の優れた熱延高張力鋼板が得られる。」(明細書段落0029)という特許明細書に記載のとおりの顕著な作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は、刊行物7〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件発明2は、本件発明1において、Ti:0.005〜0.050重量%、V:0.01〜0.200重量%のうち、一種又は二種を含む点を付加したものであるから、本件発明1と同じ理由で、本件発明2は、刊行物7〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。
(特許法第36条第3、4項について)
(a)特許異議申立人住友金属工業株式会社は、請求項の記載において混合組織の内容が不明であり、また、実施例1は金属組織について包括的に述べるだけで各鋼種について具体的に何ら明らかにすることがなく、またその趣旨が不明であると主張している。しかしながら、請求項1,2には、混合組織が、フェライトの平均粒径が2〜3μmの微細フェライトが面積率で70%以上、ベイナイトとマルテンサイトを含む組織の面積率が20%以下で、残部の面積率が平均粒径10μm以下のフェライトの組織であることが記載され、また、実施例2表3(本件明細書段落0028)の記載からすれば、平均粒径10μm以下のフェライトは、必ずしも不可欠の構成要件でないことが読みとれるので、請求項1,2に記載の混合組織の内容が不明瞭であるとすることができない。また、実施例1には、種々の鋼種について製造条件、得られた鋼の特性及び混合組織が明記されているので、実施例1の記載が不明瞭であるとすることができない。
(b)特許異議申立人神戸製鋼所は、鋼板中に観察されるフェライト粒の平均粒径を算出する方法が明確に示されておらず、算出方法によっては、本件発明に属したり属しなかったりするケースが生じるから、本件発明における組織に関する構成要件は明瞭でないと主張する。しかしながら、特許異議意見書によると、本件発明1、2は、JISG0552の「鋼のフェライト結晶粒度試験方法」又はこれに準じた方法により、単位面積当たりのフェライト結晶粒の数からフェライト結晶粒の平均断面積を求め、この平均断面積から平均粒径を求めるというものであり、フェライト相中に、全体的に見られる大きさとは著しく異なる大きさの幾つかの結晶粒が混在する場合にあっては、この著しく異なる大きさの幾つかの結晶粒の平均断面積を求め、この平均断面積から、その大きな結晶粒の平均粒径を求めるというものであるから、本件発明1,2における組織に関する構成要件は明瞭でないとすることはできない。
5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1,2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1,2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-04-11 
出願番号 特願平9-162418
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C22C)
P 1 651・ 532- Y (C22C)
P 1 651・ 531- Y (C22C)
P 1 651・ 113- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 影山 秀一長者 義久小川 武  
特許庁審判長 三浦 悟
特許庁審判官 柿沢 恵子
能美 知康
登録日 1998-07-24 
登録番号 特許第2807453号(P2807453)
権利者 川崎製鉄株式会社
発明の名称 強度、延性、靱性及び疲労特性に優れた熱延高張力鋼板  
代理人 植木 久一  
代理人 杉村 興作  
代理人 杉村 純子  
代理人 小谷 悦司  
代理人 杉村 暁秀  
代理人 広瀬 章一  

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