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審判番号(事件番号) データベース 権利
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判定200260108 審決 特許
判定200560030 審決 特許
判定200160010 審決 特許
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審決分類 審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属する(申立て成立) A45B
管理番号 1039432
判定請求番号 判定2000-60165  
総通号数 19 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1991-06-11 
種別 判定 
判定請求日 2000-12-08 
確定日 2001-04-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第2676418号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す発明は、特許第2676418号発明の技術的範囲に属する。 
理由 1.請求の趣旨

本件判定請求は、イ号図面並びにその説明書に示す発明は、特許第2676418号の技術的範囲に属する、との判定を求めたものである。

2.本件発明

本件発明は、明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであって、その構成、目的及び効果は、以下の通りである。

(1)本件発明の構成

本件発明の構成を分説すると次のようになる(以下「構成要件A」などという)。

A.順次縮径された円筒状をした短尺な複数の各連結筒を同心状に嵌合させ、
B.これらの各連結筒は上下端部にそれぞれ設けた係止手段を介して内外で隣接する外側連結筒と内側連結筒とを伸縮方向へ相互に抜け止め係止した態様で摺動自在に連結して伸縮カバー部が構成され、
C.この伸縮カバー部の最内周に嵌合されて伸長時に最先端に位置する連結筒には、傘軸の先端側に取着される傘軸装着部を装着し、
D.この傘軸装着部を介して前記伸縮カバー部が常時は縮短状態で傘軸の頂部に装着されると共に、
E.使用時には伸長状態にして閉じた雨傘の傘地の外周を防水被覆するようにした雨傘用カバーにおいて、
F.前記各連結筒の係止手段は、各連結筒の上端に位置する小径側の端部内周に設けた内側突縁と、
G.各連結筒の下端に位置する大径側の端部外周に設けた外側突縁と、
H.各連結筒の下端に位置する大径側の端部内周に円周方向へ沿って円弧状に突設された複数の係止突起と、
I.この各係止突起から所定間隔を隔てた小径側位置の内周に前記係止突起より突出高さを低くして設けた係合突起とで構成され、
J.この係止手段によって前記伸縮カバー部の伸張時には、内外に隣接する各連結筒は外側連結筒の内側突縁に内側連結筒の外側突縁が係止して伸張方向に対する抜け止めを行うと共に、
K.伸縮カバー部の縮短時には、内側連結筒の外側突縁が外側連結筒の係合突起に一旦係止され、この状態で更に縮短方向へ押圧させると当該外側突縁が係合突起を乗り越えて係止突起と係合突起間に嵌合係止し、
L.縮短方向に対する抜け止めと縮短後における伸長方向へのずり落ちの防止を行うようにしたことを特徴とした雨傘用カバー。

(2)本件発明の目的及び効果

明細書の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は「従来の雨傘用カバーでは、伸縮筒部を伸長させた際に各連結筒が抜け出さないように、外側連結筒の小径側端縁の内周に形成した突縁と内側連結筒の大径側端縁の外周に形成した突縁とを係止させた連結構造であるために、次のような問題点があった。先ず、従来の雨傘用カバーは完全な伸張状態になるまでの間に係止部がなく、摩擦力のみによっ保持されているので伸長方向へずり落ち易く、傘軸の頂部を上にした状態で閉じた雨傘を開こうとすると、ずり落ちた伸縮筒によってに妨げられて開くことができなくなる。そこで、やむなく傘軸の頂部が下になる状態にして雨傘を開くようにしなければならず、操作が不便であった。また、この種の雨傘用カバーでは軽量化や強度を持たせる等の目的で、連結筒には板厚をできるだけ薄くした可撓性のあるプラスチック材が用いられるので、従来の係止状態による連結構造では係止保持力が不十分である。このために、伸縮時に最外周の連結筒を把持して扱くように伸長方向または縮短方向へ強い力で摺動させると、傘軸装着部と伸縮筒部との間や各連結筒間の係止状態が外れ、容易に抜け出して分解する恐れがあった。」(本件特許公報第4欄43行〜第5欄12行参照)であり、その効果は「請求項1のように、傘軸に装着された伸縮カバー部を縮短状態にした際に、各連結筒は内側連結筒の外側突縁が外側連結筒の係合突起を乗り越えて係止突起と係合突起間に嵌合係止する係止手段を設けたことにより、この係止手段が伸縮カバー部の縮短方向に対する抜け止めと縮短後における伸長方向へのずり落ちの防止とが行なわれる。従って、縮短された伸縮カバー部は各連結筒が係止保持状態に維持されて例え傘軸の頂部を上にして雨傘を開く時でも開閉動作が阻害されることがないと共に、伸長状態の伸縮カバー部を強い力で縮短状態に移行させても各連結筒は相互に脱落することがない。また、前記係止手段を設けたことによって各連結筒の寸法精度は多少のバラッキが許容されるので、生産性の向上とコストの低減を図ることができると共に、伸縮作動を円滑に行うことができる。」(同第11欄37行〜第12欄1行参照)にある。

3.イ号発明

イ号図面及びイ号説明書の記載から、イ号図面及びその説明書に示す発明(以下、「イ号発明」という)は、次の通りのものと認める。

a.順次縮径された円筒状をした短尺な複数の各連結筒3(3a,3b..3l)を同心状に嵌合させ、
b.これらの各連結筒3は上下端部にそれぞれ設けた係止手段を介して内外で隣接する外側連結筒と内側連結筒とを伸縮方向へ相互に抜け止め係止した態様で摺動自在に連結して伸縮カバー部4が構成され、
c.この伸縮カバー部4の最内周に嵌合されて伸長時に最先端に位置する連結筒3lには、傘軸の先端側に取着される傘軸装着部6を装着し、
d.この傘軸装着部6を介して前記伸縮カバー部4が常時は縮短状態で傘軸の頂部に装着されると共に、
e.使用時には伸長状態にして閉じた雨傘の傘地5の外周を防水被覆するようにした雨傘用カバーにおいて、
f.前記各連結筒の係止手段は、各連結筒3の上端に位置する一方の端部内周に設けた内側突縁8(8a,8b..8l)と、
g.各連結筒3の下端に位置する他方の端部外周に設けた外側突縁9(9a,9b..9l)と、
h.各連結筒3の下端に位置する他方の端部内周に円周方向へ沿って円弧状に突設された複数の係止突起10(10a,10b..10l)と、
i.この各係止突起10から所定間隔を隔てた上方の内周に前記係止突起10より突出高さを低くして設けた係合突起11(11a,11b..11l)とで構成され、
j.この係止手段によって前記伸縮カバー部4の伸張時には、内外に隣接する各連結筒3は外側連結筒の内側突縁8に内側連結筒の外側突縁9が係止して伸張方向に対する抜け止めを行うと共に、
k.伸縮カバー部4の縮短時には、内側連結筒の外側突縁9が外側連結筒の係合突起11に一旦係止され、この状態で更に縮短方向へ押圧させると当該外側突縁9が係合突起11を乗り越えて係止突起10と係合突起11間に嵌合係止し、
l.縮短方向に対する抜け止めと縮短後における伸長方向へのずり落ちの防止を行うようにした雨傘用カバー。

4.イ号発明が本件発明に属するか否かの検討

(1)対比

まず、本件発明の構成要件である「連結筒」の形状について述べる。特許請求の範囲の記載に拠れば、各係止手段の位置を特定するに際し、「各連結筒の上端に位置する小径側の端部」、「各連結筒の下端に位置する大径側の端部」との構成を述べると共に、発明の詳細な説明においても、「この伸縮カバー部A1には、第5図のように次第に縮径する円筒状をした複数の短尺な連結筒3が使用される。この連結筒3は、例えばポリプロピレン等のように可撓性を有する比較的軟質なプラスチック材で形成され、小径側の端部内周に内側突縁4が、大径側の端部外周に外側突縁5が各々環状に突設されている。」(同第7欄8〜13行参照)との記載がある。従って、特許請求の範囲に、「小経側端部」、「大径側端部」なる文言が用いられている以上、前掲の発明の詳細な説明の記載も勘案し、個々の「連結筒」の形状は、「小径側端部及び大径側端部を有する次第に縮経する円筒状」であると解さざるを得ない。

一方、イ号図面を見るに、イ号発明に係る各連結筒3(3a,3b..3l)個々の形状は、「軸方向全長に渡って同径の円筒状」であり、このため何れの端部が大径或いは小径と言うことはできない。

さて、本件発明とイ号発明とを対比すると、イ号発明の構成要件a、b、c、d、eは、本件発明の構成要件A、B、C、D、Eをそれぞれ充足している。また、イ号発明の構成要件f、g、h、iの中の個々の技術的手段である係止手段「内側突縁8(8a,8b..8l)」、「外側突縁9(9a,9b..9l)」、「係止突起10(10a,10b..10l)」、「係合突起11(11a,11b..11l)」は、本件発明の構成要件F、G、H、Iの中の個々の技術的手段である係止手段「内側突縁」、「外側突縁」、「係止突起」、「係合突起」にそれぞれ機能上相当すると共に、これら各係止手段の一致により、イ号発明の構成要件j、k、lは、本件発明の構成要件J、K、Lを充足することとなる。

一方、イ号発明の構成要件f、g、h、iを詳細に見るに、上記各係止手段の配置を特定するに際し、その個々の連結筒3(3a,3b..3l)の形状が「軸方向全長に渡って同径の円筒状」であるがため、「一方の端部」、「他方の端部」、「上方の位置」と特定せざるを得ないのに対し、本件発明は、その個々の「連結筒」の形状が「小径側端部及び大径側端部を有する次第に縮経する円筒状」であるがため、「大径側の端部」、「小径側の端部」、「小経側の位置」と特定しており、この点で両者は相違している。

換言すれば、かかる相違点は、個々の「連結筒」の形状の相違、即ち、本件発明の「連結筒」が「小径側端部及び大径側端部を有する次第に縮経する円筒状」であるのに対し、イ号発明の「連結筒」は「軸方向全長に渡って同径の円筒状」であるという点に帰着することとなる。

(2)相違点についての検討

最高裁平成6年(オ)第1083号判決は、「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、(a)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、(b)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(c)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(d)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(e)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された製品と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である」と判示している。

そこで、上記「連結筒」の形状の相違が、本件発明と均等なものとして、その技術的範囲に属するか否か、以下に検討する。

(a)本質的部分について

均等の成立要件にいう本質的部分とは、明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち、当該特許発明特有の作用効果を生じさせる技術的思想の中核をなす特徴的部分をいうと解すべきである。

これを本件についてみると、上記2.(2)で引用した本件発明の目的及び効果から見て、本件発明特有の作用効果は、伸縮カバー部の縮短方向に対する抜け止めと縮短後における伸長方向へのずり落ちの防止にあり、こうした特有の作用効果を生じせしめるため、「連結筒」に設ける個々の「係止手段」を工夫した点にその本質的部分があるといえる。

その上、当該技術分野において、「連結筒」の形状を「小径側端部及び大径側端部を有する次第に縮経する円筒状」とするものは、例えば、当庁の審査手続において拒絶理由通知書で指摘した実願昭54-120974号(実開昭56-38614号)のマイクロフィルムの第1実施例や本件発明の特許公報に参考文献として指摘される実開昭53-30965号公報に記載されるように本件発明の出願以前より公知であると共に、「軸方向全長に渡って同径の円筒状」とするものも、例えば、上記マイクロフィルムの第2実施例や本件発明の特許公報に参考文献として指摘される実開昭57-27924号公報に記載されるように本件発明の出願以前より公知であるなど、当該技術分野においては、既に常套手段であったと認められるから、上記相違点は、本件発明の本質的部分には該当し得ない。

(b)置換可能性について

本件発明の「連結筒」の形状を、上記相違の如く、「軸方向全長に渡って同径の円筒状」のものに置き換えたとしても、伸縮カバー部の縮短方向に対する抜け止めと縮短後における伸長方向へのずり落ちを防止するという本件発明の目的を達し、更に同一の作用効果を奏するものであると言えることから、ここに置換可能性があると認められる。

(c)置換容易性について

前掲の通り、個々の「連結筒」の形状を、「小径側端部及び大径側端部を有する次第に縮経する円筒状」とするものも、或いは「軸方向全長に渡って同径の円筒状」とするものも本件発明の出願当時に既に公知であることから、上記相違に基づく置換は、当業者が容易に推考できたものと認める。

(d)公知技術からの容易推考性について

イ号発明が、本件発明の出願時において、公知技術と同一、又は、当該出願時に当業者がこれらから容易に推考できたと認めるに足りる証拠はない。

(e)意識的除外等の事情について

本件発明において、「小径側の端部」、「大径側の端部」なる用語は、出願当初より明細書において使用されており、加えて、拒絶査定及び拒絶理由通知における特許拒絶理由を回避するために付加されたものではなく、しかも、「連結筒」の形状を「小径側端部及び大径側端部を有する次第に縮経する円筒状」とするものも「軸方向全長に渡って同径の円筒状」とするものも、前掲の通り、従来公知の常套手段に過ぎない。したがって、「連結筒」の形状を「軸方向全長に渡って同径の円筒状」とする点が、本件発明の特許出願手続において、特許請求の範囲の記載から意識的に除外されたものに当たるとの特段の事情は認められない。

以上の通り、「連結筒」の形状を「軸方向全長に渡って同径の円筒状」とするイ号発明は、本件発明の均等の範囲にあるものであって、本件発明の技術的範囲に属すると言うべきである。

5.結び

以上の通りであるから、イ号図面並びにその説明書に示す発明は、本件発明の技術的範囲に属する。
よって、結論の通り判定する。
 
別掲
 
判定日 2001-04-05 
出願番号 特願平2-51824
審決分類 P 1 2・ - YA (A45B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大橋 康史  
特許庁審判長 大槻 清寿
特許庁審判官 大久保 好二
澤井 智毅
登録日 1997-07-25 
登録番号 特許第2676418号(P2676418)
発明の名称 雨傘用カバー  
代理人 大島 陽一  

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