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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60G
管理番号 1040425
審判番号 審判1999-7649  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-09-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-05-06 
確定日 2001-06-15 
事件の表示 平成 4年特許願第 80442号「ショックアブソーバの減衰係数制御装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年 9月17日出願公開、特開平 5-238234]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は、平成4年3月2日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成9年11月26日受付の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲における請求項1に記載された事項によって特定される、次のとおりのものと認める。
「ばね下部材とばね上部材との間に配設された減衰係数可変のショックアブソーバの減衰係数制御装置にして、前記ばね上の上下方向の速度Zdを検出するばね上速度検出手段と、前記ばね上と前記ばね下との間の上下方向の相対速度Ydを検出する相対速度検出手段と、前記ばね下の支持荷重Pを検出する荷重検出手段と、前記ショックアブソーバの減衰係数を速度比Zd/Ydと所定の係数との積に応じて制御する制御手段とを有し、前記制御手段は車輌の停止中に検出された前記支持荷重Pに応じて前記所定の係数を増減補正するよう構成されたショックアブソーバの減衰係数制御装置。」(以下、「本願発明」という。)
2.引用例の記載事項
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である「特開平3-276811号公報」(以下、「引用例1」という。)には、サスペンション制御装置に関し、以下の記載がある。
ア.「各輪ごとに車軸支持部材と車輪との間に設けられたサスペンション機構におけるバネ上部材の上下方向への運動状態及びバネ上・バネ下部材の相対的な運動状態に基づいて同サスペンション機構における減衰力を制御するにあたり、・・・変換手段4が同補正後の車体の運動状態を上記サスペンション機構におけるバネ上部材の上下方向への運動状態へ変換して、同変換後のバネ上部材の上下方向への運動状態に応じて各サスペンション機構における減衰力を制御する。」(2頁右上欄9〜左下欄4行)
イ.「バネ上部材の上下方向への加速度Z”1〜Z”4を検出する加速度センサ12a〜12d・・・加速度Z”1〜Z”4を同積分器・・積分することによってバネ上部材の上下方向への速度Z’1〜Z’4を測定し・・・バネ下部材のバネ上部材に対する上下方向への相対変位量Y1〜Y4を検出する変位量センサ14a〜14d・・・バネ下部材のバネ上部材に対する上下方向への相対速度(以下、バネ下部材の相対速度という。)Y’1〜Y’4を測定し、・・・・流動油量を同可変絞り機構23で規制して減衰力を可変としている。」(2頁右下欄20行〜3頁右上欄15行)
ウ.「第10図に現実のサスペンション機構と車両の関係を簡略化して記載している。
質量mのバネ上部材30がバネ下部材31上にバネ係数Kのバネ32と減衰係数C*のアブゾーバ33とによって支持されているとすると、バネ上部材30の運動方程式は、
mZ”=-C*(Z’-X’)-K(Z-X)・(1)
で表されるが、第11図に示す減衰係数Cのアブゾーバ33を使用したいわゆるスカイフックダンパとした場合のバネ上部材30の運動方程式は、
mZ”=-CZ’-K(Z-X) ・・(2)
で表される。
従って、現実のサスペンション機構においても減衰係数C*を、
C*=Z’/(Z’-X’)C ・・(3)
=Z’/Y’ C ・・(4)
なる関係とすればスカイフックダンパを構成することが可能となる。
従って、マイクロコンピュータ10は、逐次、バネ上部材30の速度Z’をバネ下部材31の相対速度Y’で除算し、同商にてアブゾーバの減衰力を制御する。」(4頁左下欄5行〜右下欄7行)
エ.「重み係数KR、KP、KH、KWは、・・同振動を効果的に抑制すべくアブゾーバにおける減衰力を増大せしめる為の係数であり、・・減衰係数C*を定める右辺において分子成分に同係数を乗算することにより、重み付けを行なう。」(5頁右上欄4〜11行)
(但し、上記「Z”」、「Z’」、「X’」、「Y’」は、引用例1においては、「・・ 「 ・ 「・ 「・
Z 」、 Z 」、 X 」、 Y 」と表示されている。)
上記記載から、引用例1には、
「バネ上の上下方向加速度センサで検出された加速度を積分することによりバネ上部材の上下方向の速度Zを測定し、バネ下部材のバネ上部材に対する上下方向への相対速度Yを測定し、
減衰力をZ’/Y’C(ここで、Cは、第11図に示すいわゆるスカイフックダンパの系での減衰係数)となるようにアブゾーバの減衰力を制御するサスペンション制御装置」が記載されていると認める。
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である「特開昭62-292519号公報」(以下、「引用例2」という。)には、ショックアブゾーバの減衰定数制御装置について、以下の記載がある。
オ.「特に、車輪荷重を考慮して、前輪及び後輪の減衰定数を決定し、車体の上下振動を効果的に抑制し、乗心地を向上するようにしたショックアブゾーバの減衰定数制御装置に関する」(1頁右欄11〜15行)
カ.「通常、乗員が乗降したり荷物を積込み・積卸した場合に、車両重量自体が増減しあるいは前輪と後輪との荷重分担率が変化し、このため前輪と後輪の車輪荷重が変化するが、しかしながら、上記のような従来のショックアブゾーバの減衰定数制御装置にあっては、ショックアブゾーバの減衰定数の変更に際してこのような車輪荷重の変化を考慮していないため、車両重量が増加すると減衰不足が生じてフワフワした上下振動が発生する等、車輪荷重が変化したときには車体(ばね上)の上下振動の収束性が悪化して上下振動を有効に低減することができず、乗心地が悪化するという問題点があった。」(2頁左上欄12行〜右上4行)
キ.「第6図において、前輪又は後輪の減衰定数、ばね定数、車輪荷重をそれぞれ一般にc,k,W,重力加速度gとすると、・・・減衰定数を臨界減衰定数Ccと呼び、
Cc=2√{(W/g)k} ・・(1)
で与えられる。そして、このCcとCとの値から、減衰度合いを表す減衰比γは、
ζ=C/Cc
=C/2√{(W/g)k} ・・(2)
で表される。この減衰比ζは車輪荷重Wの値によって変化し、従って、Wが異なると異なった振動特性となり、乗心地も異なったものとなる。・・・そこで、Wが増えた場合には、減衰定数Cを変えることによって・・・車輪荷重が増減しても減衰定数Cを変えることによって減衰比ζを常に一定にすることができ・・・車輪荷重Wを検出し、このWと予め判明しているばね定数kを用いて、(3)式により減衰定数Cを求め、求められた減衰定数となるように減衰定数可変型ショックアブゾーバの減衰定数を設定すれば・・・乗心地を良好にすることができる。」(2頁右上欄15行〜3頁左上欄1行)
ク.「今、イグニションスイッチ(図示しない)がオンになると、・・・荷重センサ8からの検出信号はA/D変換器13によりデジタル信号に変換されてマイクロコンピュータ12のインターフェイス回路15に供給され、・・・第3図(第5図の誤記と認める)は、マイクロコンピュータ12において実行される処理の手順を示す。・・・すなわち車両の停車中又は極く低速走行中以外の走行中の場合は、何もせずにステップまる1に戻る。」(5頁右上欄13行〜左下欄9行)
引用例2における「荷重センサ」、「車輪荷重」は、それぞれ、本願発明における「荷重検出手段」、「支持荷重」に相当し、引用例2に記載されたものは、上記キの記載から、支持荷重に応じて減衰係数を増減補正しているものといえ、さらに、上記クの記載から荷重センサは車両の停車中に荷重を検出しているといえるので、上記記載から、引用例2には以下の事項が記載されていると認める。
「乗員の人数や荷物の量が変化することによる乗心地の悪化を防止するために、ばね下の支持荷重を検出する荷重検出手段を有し、制御手段は車両の停止中に検出された支持荷重に応じて減衰係数を増減補正するショックアブゾーバの減衰定数制御装置」
3.発明の対比・判断
本願発明と、引用例1に記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明における「バネ上の上下方向の速度Z’」が、本願発明の「ばね上の上下方向の速度Zd」に相当し、以下同様に、「バネ下部材のバネ上部材に対する上下方向への相対速度Y’」が「ばね上とばね下との間の上下方向の相対速度Yd」に相当している。そして、引用例1においても、C*=Z’/Y’Cとして、スカイフック理論に基づいて減衰力を制御しているのであるから、速度比Zd/Ydと所定の係数との積に応じて減衰係数を制御しているものといえる。そこで、本願発明と引用例1に記載の発明を対比すると、
「ばね下部材とばね上部材との間に配設された減衰係数可変のショックアブソーバの減衰係数制御装置にして、前記ばね上の上下方向の速度Zdを検出するばね上速度検出手段と、前記ばね上と前記ばね下との間の上下方向の相対速度Ydを検出する相対速度検出手段と、前記ショックアブソーバの減衰係数を速度比Zd/Ydと所定の係数との積に応じて制御する制御手段とを有したショックアブソーバの減衰係数制御装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点>
本願発明においては、「前記ばね下の支持荷重Pを検出する荷重検出手段」を有し、「制御手段は車輌の停止中に検出された前記支持荷重Pに応じて前記所定の係数を増減補正するよう構成」しているのに対して、引用例1に記載の発明においては、そのような事項を有する旨の記載はない点。
以下、相違点について検討する。
本願発明において指摘されている図9のモデルであれ、図10のモデルであれ、車両の運動モデルであるのであるから、その係数であるC、K、Mは車両ごとに設定されるものであり、通常、サスペンションの係数であるC及びKは車輌自体の特性や乗心地等をどのようにするかに応じて設定されるものであって、設定された振動特性は、Mにも依存して変化することは当業者にとって自明の事項である。
そして、引用例1において指摘されている減衰係数C*は、引用例の第11図のモデルでの減衰係数Cと等価となるように定められるものであるが、その値自体は
C*=Z’/Y’×C
で定められる時々刻々変動する値であって、該減衰係数C*自体を補正する点が示されている。
一方、引用例2には、本願と同様に乗員の人数や荷物の量が変化することによる乗り心地の悪化を防止するために、ばね下の支持荷重を検出する荷重検出手段を有し、制御手段は車輌の停止中に検出された支持荷重に応じて減衰係数を増減補正したものが示されており、これを、技術分野を同じくし、同一の技術課題を有する引用例1に適用することは当業者が容易になし得たことである。そして、該引用例2に記載の技術思想を引用例1に適用した場合は、車輌の運動モデルとなる本願の図10に示されているスカイフック減衰係数「C*」を支持荷重に応じて変更するようにすることは当業者にとって当然の事項であり、これは、すなわち、引用例1において、「前記ばね下の支持荷重Pを検出する荷重検出手段」を有し、「制御手段は車輌の停止中に検出された前記支持荷重Pに応じて前記所定の係数を増減補正するよう構成」することになる。
したがって、上記相違点は、引用例2から当業者が容易になし得たことである。
4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、上記引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本願発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-04-02 
結審通知日 2001-04-13 
審決日 2001-04-25 
出願番号 特願平4-80442
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 刈間 宏信  
特許庁審判長 蓑輪 安夫
特許庁審判官 大島 祥吾
鈴木 法明
発明の名称 ショックアブソーバの減衰係数制御装置  
代理人 明石 昌毅  

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