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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60P
管理番号 1040867
審判番号 審判1999-3139  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-03-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-03-02 
確定日 2001-06-27 
事件の表示 平成 5年特許願第234254号「車輛用昇降装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 7年 3月 7日出願公開、特開平 7- 61276]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯・本願発明
本願は、平成5年8月25日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成11年3月2日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載からみて、次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という)
「車輛の床面3上のタイヤハウジングの後方のスペース部に設けられた左右で1組の軽ミゾ形鋼部を有する支持部材4、4と、これらの支持部材に第1枢支ピン11、第2枢支ピン13、第3枢支ピン18及び第4枢支ピン19を介して軸支され、かつ、平行な4節リンク機構を構成する上方アーム10及び下方アーム12と、上端部側が前記第3枢支ピン及び第4枢支ピンを介して上方アーム及び下方アームに軸支され、かつ、くの字型状に折り曲げ形成された下端部側に垂直板22及び該垂直板に所要間隔を有して軸支された複数個の滑車23を一体的に有する車椅子のプラットホーム24案内用支持アーム17と、前記支持部材4、4の内部に全体が配設された油圧駆動装置14の横方向シリンダー15と、この横方向シリンダーに嵌挿され、かつ、突出先端部が前記第2枢支ピン13よりも下方に延設する接続用最下端部に軸着された作動杆16とから成り、前記車椅子のプラットホーム24は、左右の側壁に支持部材側の前記滑車23に水平状態に支持される一対のガイドレール25を介して前記床面3上から車輌の後方へ突出すると共に、前記作動杆16の収縮により上方アーム10、下方アーム12及び支持アーム17を介して路面へと下降し、また前記支持部材4及び支持アーム17にそれぞれ枢支された上方及び下方アームの各支点間(11と18),(13と19)の長さ寸法は、地面に下降した前記プラットホームが前屈みの状態になるように異なることを特徴とする車輛用昇降装置。」
なお、前記明細書の特許請求の範囲の請求項1には、上で「タイヤハウジング」とした部分が「タイヤハジング」と記載されているが、発明の詳細な説明の「タイヤハウジング」との記載を参酌して、上の如く認定した。
【2】引用例
(1)これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭59-130508号(実開昭61-45256号)のマイクロフィルム(以下「第1引用例」という。)には、
(あ)「図において(1)は車体、(2)は後輪、(3)は地面である。(4)は車体(1)の後部の開口部(5)附近の片側に固着して設けたシリンダボックスで、内部にシリンダ(6)の一端が軸(7)により枢着されている。(8)、(9)はシリンダボックス(4)に軸(10)、(11)により回動自在に枢着されたリンクで、互に平行に設けられている。(12)はリンク(9)と一体的に設けられたアームで、端部に軸(13)により、シリンダ(6)のピストンロッド(14)の先端が枢着している。(15)はリンク(8)、(9)の先端部に軸(16)、(17)により枢着された、くの字型の支柱で、その下部に支持板(18)が固着されている。(19)はくの字型支柱(15)の中央部から変心した位置に垂直に固着した支柱で、(20)は支持板(18)と支柱(19)の下部に支持された枢軸で、前後方向に、水平より少し傾斜して設けられている。(21)は昇降板で、つぎのように構成されている。(22)は主板でその側面に固着されたブラケット(24)、(25)を介して、車体(1)に水平方向より少し傾斜して設けられた枢軸(20)の軸心線、すなわち第1軸線ΧーΧを中心として折りたたみ自在に設けられている。(23)は主板(22)の後部に蝶番(26),(26)を介して枢着された補助板で、蝶番(26)の軸心線、すなわち第2軸線Y-Yを中心として折りたたみ自在に設けられている。第2軸線Y-Yは第1軸線ΧーΧと直交する方向に設けられている。」(明細書第7頁第3行〜第8頁第9行)
(い)「本考案の作用について説明すれば、第1図は着地状態で、この位置で昇降板(21)上面に荷物又は車椅子を乗せ、(明細書第9頁第15〜17行)…… シリンダ(6)を伸長方向に作動して、軸(10)、(11)を中心としてリンク(8)、(9)が回動し昇降板(21)は水平を維持しながら上昇し、車輌(1)の床面と一致する、(明細書第10頁第1〜4行)…… 昇降板(21)上の荷物又は車椅子を車内に移動し終れば、補助板(23)を蝶番(26)、(26)を中心として、すなわちYーY軸線で主板(22)上に折りたたみ、つぎに支柱(15)、(19)下部の軸(20)すなわちΧーΧ軸線を中心として、ブラケット(24)、(25)に固着している主板(22)を補助板(23)と一緒に折りたたみ立ち上げて、図示してない掛金でロックする。(明細書第10頁第9〜16行)……上スイッチ(53)を押して保持すればシリンダ(6)が伸長して、リンク(8)、(9)が回動し、リンク(9)中央部の係止ピン(36)が係止鈎 (34)を押しているガスシリンダ(39)の押圧に抗しながら回動し、リンク(8)、(9)が上死点を通過しても、ガスシリンダ(39)の押圧による軸(11)まわりのモーメントが、リンク(8)、(9)、支柱(15)、(19)、主板(21)等の自重による軸(11)まわりのモーメントより大にしてあるのでスムーズに格納され、係止片(27)の端面が緩衝ゴム(33)を介して、ブラケット(32)に当接する。上スイッチの保持を解き、支柱(15)の下方部を図示してない掛金でシリンダボックス(4)とロックすれば格納完了となる。(明細書第11頁第2〜14行)」
(う)「格納状態から地面位置迄の操作作動を説明する。(明細書第11頁第15行)……シリンダ(6)の油圧がタンク(45)に解放されるので、ガスシリンダ(39)の押圧が係止鈎(34)を介して係止ピン(36)に作用して、リンク(9)、(8)を回動させ、上死点を越しても、アンロード弁はタンクに戻る油圧を一定に保つ、すなわち流量を一定に保つ圧力補償式なので加速されることなくスムーズに作動して、引出される。(明細書第11頁第19行〜第12頁第6行)……折りたたみ立ち上げた昇降板(21)の図示してない掛金を解き、主板(22)と補助板(23)を一緒に、軸線(20)すなわちΧーΧ軸線を中心として開き次いで蝶番(26)、(26)軸線すなわちY-Y軸線を中心として補助板(23)を開けば、昇降板(21)の上面は車体(1)の床面と一致する。(明細書第12頁第10〜16行)……車椅子等が昇降板(21)上面に乗り移り、下スイッチ(52)を押して保持すれば、(明細書第12頁第18〜19行)……シリンダ(6)の油圧がタンク(45)に解放され、(明細書第13頁第1行)……昇降板(21)はスムーズに自重降下し着地する。(明細書第13頁第2〜3行)」
等の記載があり、これらの記載及び図面等を参照すると、第1引用例には、
“車輌の床面上の後方のスペース部に設けられたシリンダボックス4と、このシリンダボックス4に軸10、軸11、軸16及び軸17を介して軸支され、かつ、平行な4節リンク機構を構成するリンク8及びリンク9と、上端部側が前記軸16及び軸17を介してリンク8及びリンク9に軸支され、かつ、くの字型状に折り曲げ形成された車椅子の昇降板21支持用の支柱15と、前記シリンダボックス4の内部に全体が配設された油圧シリンダ6と、前記シリンダボックス4の外部に配設されたガスシリンダ39と、前記油圧シリンダ6に嵌挿され、かつ、先端が前記軸11よりも下方に延設するアーム12端部に枢着されたピストンロッド14と、リンク9の中央部を押圧可能に設けた前記ガスシリンダ39のピストンロッドとから成り、前記車椅子の昇降板21は、その上昇位置において上面が車輌床面と一致し、車輌の後方へ突出すると共に、リンク8、リンク9及び支柱15を介して路面へと下降し、その際前記ピストンロッド14が収縮する車輌用昇降装置.”
が記載されているものと認める。
(2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された実願平1-97046号(実開平3-40132号)のマイクロフィルム(以下「第2引用例」という。)には、
(え)「本考案は、例えばバン型車両に装置されることにより、車椅子に座した身障者の乗降、あるいは荷物の積み下し等に利用される車両用リフタに係り、」(明細書第2頁第5〜8行)
(お)「可動部材9の左右の可動プレート10には、その後部上端に上側の連結アーム18の一端部が枢支ピン20を介して回動可能に取付けられ、また、前記後側の転動ロ一ラ12bのローラ軸13に下側の連結アーム19の一端部が回動可能に取付けられている。」(明細書第7頁第11〜16行)
(か)「左右の上下連結アーム18、19間にはスライド支持部材21が取付けられている。このスライド支持部材21は左右の略三角形状の側面プレート22と、この左右の側面プレート22の下部を相互に連結する複数本の連結プレート23とより構成され、この略三角形状の側面プレート22の上端部には枢支ピン24を介して上側の連結アーム18の他端部が回動可能に取付けられ、また、側面プレート22の下部外側には案内フレーム4を転動可能とする転動ローラ25がローラ軸26を介して枢着され、同ロ一ラ軸26には下側の連結アーム19の他端部が回動可能に取付けられている。また、この左右の側面プレート22の対向面の下部側には、前後一対のローラ軸27が突出され、このローラ軸27にはプラットフォーム31の案内ローラ28がそれぞれ回転可能に設けられ、この左右の対をなす案内ローラ28間にはプラットフォーム31が水平方向へスライド可能に装着されている。このプラットフォーム31は左右の摺動枠32と両摺動枠32を連結する複数本の連結プレート33とにより所定のスペースに枠組みされてプレート34が取付けられ、この摺動枠32はスライド支持部材21の案内ローラ28に対し摺動可能に嵌込む断面略コ字形状に形成され、」(明細書第8頁第2行〜第9頁第7行)
(き)「次に、前記四節リンク機構Rの動作を案内するガイド手段は、(明細書第18頁第19〜20行)……案内ローラ80と(明細書第19頁第1行)……ローラガイド81と(明細書第19頁第3行)……左右のアームガイド82とからなり(明細書第19頁第5行)、その案内作用によって、前記スライド支持部材21をほぼ水平状態を保つたままフロア2上から接地面上へ、あるいは接地面上からフロア2上へとほぼ円弧状の移動軌跡を描くように昇降移動させるように構成されている。(明細書第19頁第6〜10行)」
(く)「車両用リフタは、そのプラットフォーム31を格納する水平状態においては、コラム3内に四節リンク機構Rおよびスライド支持部材21の側面プレート22等が格納され、スライド支持部材21は車両1のフロア2上の格納位置におかれる」(明細書第19頁第11〜16行)
(け)「この固定用ロック42のアンロック操作とほぼ同時に格納側へ押送することができてプラットフォーム31を格納することで、左右の格納用ロック41はフロア2側のストライカ72とロックされて格納固定される。また、このプラットフォ一ム31の格納固定状態より引き出す場合には同様にして手摺37のハンドルレバー39を引くとロック解除機構61のコントロール部材62およびリンクロッド69a,69bを介して格納用ロック41a,41bとストライカ72とのロック状態をアンロックすることができ、この格納用ロック41a,41bのアンロック操作とほぼ同時にプラットフォーム31を引き出し操作することができる。」(明細書第20頁第3〜16行)
等の記載があり、これらの記載及び図面等を参照すると、第2引用例には、
“下端部側に側面プレート22及び該側面プレート22に所要間隔を有して軸支された複数個の案内ローラ28をもつスライド支持部材21が連結された車椅子のプラットホーム31の案内支持用の連結アーム18、19を設けると共に、前記車椅子のプラットホーム31は、左右の側壁に前記側面プレート22の前記案内ローラ28に水平状態に支持される一対の摺動枠32を形成して、該摺動枠32を介してフロア2上から車両の後方へ突出すると共に、前記連結アーム18,19を介して路面へと下降するようにした車両用リフタ.”
が記載されているものと認める。
(3)また同じく原査定の拒絶の理由に引用された実公平5ー15159号公報(以下「第3引用例」という。)には、
(こ)「第2図において、平行リンク構成杆13は、車体フレーム1の下方において、ゲート板支持アーム11,11に並設して設けられており、その基端を回動軸支持筒21,21の外周面下部に固着した構成杆支持用固定ブラケット60,60に枢軸61によって枢支するとともに、その先端を、連結機枠43の下部に枢軸62によって枢支連結している。そして、かかる構成において、各アーム支持用回動ブラケット23と、各ゲート板支持アーム11と、連結機枠43と、平行リンク構成杆13と、構成杆支持用固定ブラケット60とによって、略平行四辺形をなす四節回転連鎖、即ち、平行リンク機構が形成されることになる。従って、ゲート昇降用シリンダー26を駆動してゲート板支持アーム11,11を上下方向に回動すると、ゲート板支持アーム11,11の先端に取付けた連結機枠43,43は同一姿勢を取りながら、昇降することになる。これにより、連結機枠43,43に水平倒伏状態に支持されたゲート板12も、水平倒伏状態を保持しながら、昇降することになる。また、上記平行リンク構成杆13は、第4図〜第6図に示す如く、手動操作式伸縮ロッドから形成されており、その長さを軸線方向に伸縮させることによって、ゲート板12を、第2図に示す如く、僅かに後方下部に傾動させることができる。」(第7欄第12行〜第38行)
(さ)「第8図に示す如く、ゲート板12の先端を下方にわずかに傾動することができ、荷台2の床面80と荷物用プラットフォーム81の床面81aとの間に段差があっても、容易に荷物の積み降ろしを行うことができる。」(第9欄第11行〜第15行)
等の記載があり、第3引用例には、
“平行4節リンク機構を構成するゲート板支持アーム11,11及び平行リンク構成杆13,13のうち平行リンク構成杆13,13を伸縮可能とすることにより、平行リンク構成杆13の枢軸61、62間の長さ寸法を必要に応じて変化させ得る構成として、荷物用プラットフォーム81の床面81aに下降したゲート板12の先端を、必要に応じて、下方にわずかに傾動できるようにした点”
が記載されているものと認める。
【3】対比・判断
(1)本願発明と第1引用例に記載された発明とを対比するに、第1引用例に記載の“シリンダボックス4”は、機能上本願発明の「支持部材4」に対応し、以下同様に、“軸10”は「第1枢支ピン11」に、“軸11”は「第2枢支ピン13」に、“軸16”は「第3枢支ピン18」に、“軸17”は「第4枢支ピン19」に、“リンク8”は「上方アーム10」に、“リンク9”は「下方アーム12」に、“昇降板21”は「プラットホーム24」に、“支柱15”は「支持アーム17」に、“油圧シリンダ6”及び“ガスシリンダ39”は「シリンダー15」に、“ピストンロッド14”及び“ガスシリンダ39のピストンロッド”は「作動杆16」に対応するから、両者は、
「車輛の床面上の後方のスペース部に設けられた支持部材と、該支持部材に第1枢支ピン、第2枢支ピン、第3枢支ピン及び第4枢支ピンを介して軸支され、かつ、平行な4節リンク機構を構成する上方アーム及び下方アームと、上端部側が前記第3枢支ピン及び第4枢支ピンを介して上方アーム及び下方アームに軸支され、かつ、くの字型状に折り曲げ形成された車椅子のプラットホーム用支持アームと、前記支持部材の内部に全体が配設された油圧駆動装置のシリンダーと、このシリンダーに嵌挿され、かつ、突出先端部が前記第2枢支ピンよりも下方に延設する接続用最下端部に軸着された作動杆とから成り、前記車椅子のプラットホームは、前記車輌の後方へ突出すると共に、前記作動杆の収縮時に上方アーム、下方アーム及び支持アームを介して路面へと下降する車輛用昇降装置」の点で一致し、次のa〜fの点で相違する。
a.上記支持部材が設けられる床面上の後方のスペース部が、本願発明は「タイヤハウジング」の後方のスペース部であるのに対して、第1引用例記載の発明では、「タイヤハウジング」の後方と明示されたものではない点
b.本願発明は、支持部材が「軽ミゾ形鋼部を有する」のに対し、第1引用例記載の発明では、支持部材に対応するシリンダボックスが軽ミゾ形鋼部を有しているか否か明りょうでない点
c.本願発明は、支持部材、上方アーム、下方アーム、支持アーム、横方向シリンダー、作動杆が「左右で1組」設けられているのに対し、第1引用例記載の発明では、このように「左右で1組」設けられているとはいえない点
d.本願発明は、プラットホームを昇降駆動する駆動手段が、「支持部材4、4の内部に全体が配設された油圧駆動装置14の横方向シリンダー」であって、該シリンダーの「作動杆16の収縮により」プラットホームが路面へと下降するのに対して、第1引用例記載の発明では、プラットホームを昇降駆動する駆動手段を、支持部材の内部に全体が配設された油圧駆動装置のシリンダー6と、支持部材の外部に配設されたガスシリンダー39とした点
e.本願発明は、支持アームは、下端部側に垂直板及び該垂直板に所要間隔を有して軸支された複数個の滑車を一体的に有し、プラットホームは、左右の側壁に支持部材側の前記滑車に水平状態に支持される一対のガイドレールを介して床面上から車輛の後方へ突出するようにしているのに対し、第1引用例記載の発明では、支持アームに対応する支柱は上記のような垂直板及び滑車を有しておらず、また、プラットホームに対応する昇降板は、車輛の床面と同一高さで車輛の後方へ突出するものであり、更に上記のような滑車に支持される一対のガイドレールを設けるものではない点
f.本願発明は、支持部材及び支持アームにそれぞれ枢支された上方及び下方アームの各支点間の長さ寸法は、地面に下降したプラットホームが前屈みの状態になるように異なるのに対し、第1引用例記載の発明では、このような構成を有していない点
そこで、これら相違点a〜fについて以下検討する。
[相違点aについて]
第1引用例の図面第1図、第2図、第5図、第7図を参照すると、シリンダボックス4は、車輛の後輪より後方の床面上に設けられる点が示され、これと併せて、図面第4図を参照すると、シリンダボックス4は、その下面板(28)がタイヤハウジングの後方のスペース部に設けられていることが示されているから、第1引用例のシリンダボックス4と対応する支持部材を、車輛の床面上の「タイヤハウジング」の後方のスペース部に設ける構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
[相違点bについて]
第1引用例記載の昇降装置においても、本願発明の支持部材に対応するシリンダボックス4は、その内部に油圧駆動装置の油圧シリンダ6の全体を収納配設し、かつ、上方アーム8及び下方アーム9の軸10,11を支持すべく互いに対向する垂直フレームを有している点で、本願発明の支持部材と本質的な形状の差は見られないし、しかも、「軽ミゾ形鋼」自体は、本願出願前より周知の形鋼であって、広い分野で使用されており、その上、支持部材は、上下アーム等を支持するための部材であるから、材料に所定の強度が要求されることはいうまでもないことであるから、前記垂直フレームを軽ミゾ形鋼を形成する垂直フレームに構成して、支持部材を「軽ミゾ形鋼部を有する」ようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
[相違点cについて]
この種の車両用昇降装置において、プラットホームを昇降する構成部材を「左右1組」設けるようにすることは、本願出願前よりごく普通に採用される慣用技術である(参考例 特開昭63-263144号公報、特開平3-109140号公報、実開平3-40132号公報)から、相違点(c)における本願発明の構成は、当業者が容易に想到し得ることである。
[相違点dについて]
アームの第2枢支ピンより下方に延設する接続用最下端部のアームに対する延設角度を適宜設定することにより、油圧シリンダーを所望の方向に配置できることは技術常識であり、また、本願の願書に添付した明細書の段落[0016]には、「14は支持部材4の軽ミゾ形鋼部5の垂直フレームに後端部が支持された多少斜めの横方向シリンダー15」の記載があり、また、願書に添付した図面図2,図3にも多少斜めのシリンダー15が示されているから、本願発明の「横方向シリンダー」は厳密な意味での「横方向」とも認められず、加えて、第1引用例に記載された発明における油圧シリンダ6も「斜め」に配置されているので、本願発明において、シリンダーを「横方向シリンダー」とすることが困難とはいえない。
そして、一般に油圧駆動装置のシリンダーを伸縮両方向において駆動力を出力する複動形として用いることが本願出願前に周知の事項であることを考慮すると、第1引用例に記載されたもののようにガスシリンダを用いることなく、油圧駆動装置のシリンダーを複動形として、作動杆の収縮により上方アーム、下方アーム及び支持アームを介してプラットホームを路面へと下降する構成とすることが困難とはいえない。
このように、相違点(d)における本願発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものである。
[相違点eについて]
第2引用例に記載のものにおける“側面プレート22”、“案内ローラ28”、“摺動枠32”は、それぞれ本願発明の「垂直板22」、「滑車23」、「ガイドレール25」に相当し、第2引用例に記載のものにおける“連結アーム18,19”は、下端部側に車椅子のプラットホーム31を案内し支持するスライド支持部材21が連結されているから、機能上本願発明の「支持アーム17」に対応して車椅子のプラットホーム案内用支持部材といえるので、第2引用例には、下端部側に垂直板及び該垂直板に所要間隔を有して軸支された複数個の滑車を有する車椅子のプラットホーム案内用支持部材を備え、前記車椅子のプラットホームは、左右の側壁に前記垂直板の前記滑車に水平状態に支持される一対のガイドレールを介して車輌床面上から車輌の後方へ突出すると共に、前記支持部材を介して路面へと下降する車輌用昇降装置が、記載されているものと認められる。
そして、第1引用例及び第2引用例に記載のものは、本願発明と同様に、車輛用昇降装置若しくはリフタに係わるものである点で技術分野が共通し、第1引用例に記載の昇降装置に第2引用例に記載の技術を適用することが格別困難とはいえず、第1引用例に記載されたものの支柱15の下端部側に、第2引用例に記載のもの垂直板及び該垂直板に所要間隔を有して軸支された複数個の滑車を備える構成を採用し、「下端部側に垂直板22及び該垂直板に所要間隔を有して軸支された複数個の滑車23を一体的に有する車椅子のプラットホーム24案内用支持アーム17」を備え、「前記車椅子のプラットホーム24は、左右の側壁に支持部材側の前記滑車23に水平状態に支持される一対のガイドレール25を介して前記床面3上から車輌の後方へ突出すると共に、」「上方アーム10、下方アーム12及び支持アーム17を介して路面へと下降」する構成とするとすることは、当業者が容易に想到し得るとするのが相当である。
このように、相違点eにおける本願発明の構成は、第1引用例に記載された発明に、第2引用例に記載された技術的事項を適用することにより、当業者が容易になし得たものである。
[相違点fについて]
本願発明の相違点fでいう構成について、その技術的意味を考察するに、本願発明は、上方及び下方アームの各支点間の長さ寸法を異ならせることにより略平行四辺形をなす4節リンク機構として、路面に下降した際にプラットホームが自動的に必ず前屈みの状態となるようにして、シンプルな構造で、車椅子がプラットホームに容易に乗り込むことができるようにする、というところに技術的意味があるものと認められる。
しかしながら、第3引用例には、“必要に応じ”とはいえ、容易に荷物の積み降ろしができるように、各リンクの支点間の長さ寸法を、ゲート板12の先端を下方に傾動できるように、異ならせることを可能とした技術的事項が実質的に記載されている。
加えて、平行4節リンク機構自体は、厳密な意味において平行四辺形をなす構成とする場合には、枢支点を中心にして回動する過程の前後において、相対向するリンク同士は常に平行状態を維持する一方、厳密な意味において平行四辺形を構成しない場合、即ち、本願発明のように、上下の平行リンクの一方が他方に対しそれらの各支点間の長さ寸法を異ならせた構成の場合には、回動の前後において、相対向するリンクが相互に平行状態を維持することができず、この回動過程の前後において相対向するリンクの相対角度が常に変化すること、即ち、自動的に変化することは、技術常識である。
したがって、車椅子がプラットホームに容易に乗り込むことができるように、路面に下降したプラットホームが前屈みの状態となるようにすることは、上記第3引用例に記載された技術事項に基づいて容易に想到し得る事項であり、自動的に前屈みの状態となるように各支点間の長さ寸法を異ならせることは、第1引用例に記載された発明に上記第3引用例に記載された技術的事項を適用する際に上記技術常識によって具体化できた事項にすぎず、当業者が容易に想到し得たものとするのが相当である。
そして、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成によって得られる効果も、前記周知事項及び技術常識を考慮に入れれば、各引用例に記載された発明から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。
【4】むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、第1〜3引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する
 
審理終結日 2001-04-17 
結審通知日 2001-04-27 
審決日 2001-05-09 
出願番号 特願平5-234254
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 孝幸粟津 憲一林 浩  
特許庁審判長 蓑輪 安夫
特許庁審判官 大島 祥吾
刈間 宏信
発明の名称 車輛用昇降装置  
代理人 三浦 光康  

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