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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1042968
審判番号 不服2000-6251  
総通号数 21 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-04-27 
確定日 2001-08-09 
事件の表示 平成10年特許願第236993号「多結晶シリコン薄膜の特性改善方法」拒絶査定に対する審判事件[平成11年 4月30日出願公開、特開平11-121379]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願の経緯及び本願発明の要旨
本願は、平成元年8月11日に出願した特願平1-208539号の一部を平成10年8月24日に新たな特許出願としたものであって、原審において、平成11年8月31日付け拒絶理由が通知され、平成12年3月23日付けで拒絶査定されたものである。そして、その請求項1に係る発明は、平成11年11月4日付けの手続補正書および、特許法第17条の2の規定によって平成12年5月17日付けの手続補正書で補正された明細書及び図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。(以下、本願発明という)
「絶縁基板上に形成された多結晶シリコン薄膜に、前記多結晶シリコン薄膜中の結晶部分を溶融させず、微小欠陥を改善するように、非晶質シリコンの融点より高く単結晶シリコンの融点より低くなるようにそのエネルギ密度を制御された紫外域レーザビームを照射する方法であって、
前記多結晶シリコン薄膜は、前記レーザビームが少なくとも2回以上絶縁膜を介して照射される領域を有することを特徴とする多結晶シリコン薄膜の特性改善方法。」
2.引用刊行物記載の発明
これに対して、原審の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である特開昭62-104021号公報(以下、「引用例1」という)には、シリコン半導体層の形成方法が、第1〜7図と共に記載されている。
そして、引用例1の特許請求の範囲には、「基板上のシリコン半導体層に700℃以下の熱処理を施して粒径を成長させた後、1000℃以上で上記シリコン半導体層の融点以下の熱処理により上記シリコン半導体層の粒界トラップ密度を低下させることを特徴とするシリコン半導体層の形成方法」と記載され、第1頁左下欄第13行〜15行には、「薄膜トランジスタを製造する際の能動領域となる薄膜半導体層を形成するのに好適なシリコン半導体層の形成方法」と記載され、第2頁右上欄第17行〜左下欄第9行には、「シリコン半導体層は700℃以下の熱処理前に中性イオン例えばシリコンイオンSi+を注入して非晶質化させておくを可とする。また、1000℃以上で融点以下の熱処理としてはレーザアニール(例えばエキシマレーザによる)、ハロゲンランプ等によるランプアニール(いずれも短波長がよい。)を、或は電子線アニール、等を用いることができる。基板としては、低温プロセスで使用可能な低融点ガラス(例えば無アルカリガラス)、或は石英ガラス、半導体基板上にSiO2等の絶縁膜を被着した基板、等を用いることができる。」と記載され、第3頁右上欄第7行〜15行には、「多結晶シリコン層(6)が溶融しない程度のエネルギーをもって短波長を可とするレーザ(7)(例えばエキシマ(「エキシア」とあるのは、「エキシマ」の誤記と認める)・レーザ)を照射して擬似高温熱処理を施し、粒界トラップ密度を減少せしめた多結晶シリコン層(6)を形成する。このとき熱処理は1000℃以上でシリコンの融点以下の温度で行う。このレーザ熱処理では、粒界トラップ密度が減少するだけで粒径は変化なくそのままの状態に保持される。」と記載されている。更に第1〜7図には、多結晶シリコン層をレーザ加熱して、多結晶シリコン薄膜をアニールする方法が読みとれる。
したがって、上記各記載から、引用例1には、「石英ガラスもしくは、基板上にSiO2等の絶縁膜を被着した絶縁基板上に非晶質シリコンを700℃以下の熱処理を施して形成された多結晶シリコン薄膜を形成する工程と、前記多結晶シリコン薄膜を溶融させないように、1000℃以上でシリコンの融点以下になるようにそのエネルギーを制御されたエキシマレーザを多結晶シリコン薄膜に対して照射して粒界トラップ密度を減少させる多結晶シリコン薄膜の製造方法」が記載されているものと認められる。
同じく原審の拒絶の理由に引用され、本願出願日前に頒布された刊行物である特開昭63-151015号公報(以下、「引用例2」という)には、半導体装置用のSOI基板が、第1図とともに記載されている。
そして、引用例2の特許請求の範囲には、「少なくとも表面に絶縁体層を備えた基板上に多結晶シリコン膜を形成する工程と、この多結晶シリコン膜をイオン注入によって非晶質化あるいは非晶質の中に微小結晶粒が残留したシリコン膜を形成する工程と、このシリコン膜を融点以下の温度で熱処理することにより平均粒径1μm以上の結晶粒の集合からなる多結晶シリコン膜を形成する工程と、この多結晶シリコン膜に対してレーザビームを重ね合わせ走査して前記シリコン膜全面を再結晶化する工程とからなることを特徴とするSOI基板の製造方法」と記載され、第3頁左上欄第18行〜右上欄第7行には、「厚さ0.06μmのシリコン窒化膜70を堆積し、ピッチWを15μm、ストライプ幅5μmストライプパターンを通常のフォトリソグラフィー技術で形成して第1図(b)に示す如くした。上記の試料のストライプに平行な方向に基板温度300℃〜500℃,レーザ径50〜150μm,走査速度10〜20mm/sec,レーザパワー8〜15Wで重ね合わせ率20〜80%の重ね合わせ走査を行い、SOI結晶を得た。」と記載され、第3頁左下欄第1〜6行には、「なお本実施例では大面積SOIを作製するための温度分布を得る方法として、シリコン窒化膜ストライプによる選択反射防止膜法を用いたが、他の方法、例えば基板構造の工夫、ビーム形状の成型、あるいはその両方の組み合わせによっても同様な効果が得られる。」と記載されている。更に、第1図には、多結晶シリコンの上にシリコン窒化膜ストライプを形成したSOI基板が読みとれる。
また、原審の拒絶査定時に周知例として引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である特開昭61-78120号公報(以下、「周知例1」という)には、アニール時のキャッピングが記載されている。そして、周知例1の第3頁左上欄第15行〜17行には、「上記レーザ照射の際には、一般に、多結晶シリコン層5(第3図)の表面にSiO2膜を形成して、いわゆるキャッピングを施している」と記載されている。
さらに、本願出願日前に頒布された刊行物であるE.P.Donovan et.al. 「Heat of crystallization and melting point of amorphous silicon」Appl.Phys. Lett.42(8),1983 第698頁〜700頁(以下、「周知例2」という)には、アモルファスシリコン及び結晶シリコンの融点が記載されており、第699頁右欄30行には、シリコン単結晶の融点が1685K(1412℃)である旨記載され、第700頁左欄8行にはアモルファスシリコンの融点の下限が1295K(1022℃)である旨記載され、同第9〜10行には、アモルファスシリコンの融点が1420K(1147℃)と推測される旨記載され、同30〜31行には、SpaepenとTurnbullによる推測値は1350K(1077℃)である旨記載されている。
3.対比
本願発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、引用例1に記載の「トラップ密度の減少」は、本願発明の「微小欠陥を改善」に相当し、当然多結晶シリコン薄膜の特性を改善しているのものであるから、引用例1の「多結晶シリコン薄膜の製造方法」は、「多結晶シリコン薄膜の特性改善方法」に相当する。
また、引用例1に記載された発明の「粒径は変化なくそのままの状態に保持される。」、「シリコンの融点以下の温度で行う」及び「多結晶シリコン層(6)が溶融しない程度のエネルギーをもって短波長を可とするレーザ(7)(例えばエキシマ・レーザ)を照射して」という記載よりみて、レーザ照射によって多結晶シリコン中の結晶部分が溶融していないと認められ、本願発明の「多結晶シリコン薄膜中の結晶部分を溶融させない」ことが引用例1に記載されていると認められる。
そして、「シリコンの融点以下の温度」は、シリコンの融点温度を含み得るが、結晶部分が実質的に溶融しないためには、シリコンの融点を含むのではなく、シリコンの融点より低い温度でなければならないことは、上記の記載より明らかであるから、「結晶シリコンの融点より低い温度」の意味であると認められる。
更に、引用例1の「エキシマレーザ」は、本願発明の「紫外域レーザ」に相当する。
したがって、本願発明と引用例1に記載された発明は、
「絶縁基板上に形成された多結晶シリコン薄膜に多結晶シリコン薄膜中の結晶部分を溶融させず、微小欠陥を改善するように単結晶シリコンの融点より低くなるようにそのエネルギ密度を制御された紫外域レーザビームを照射する多結晶シリコン薄膜の特性改善方法。」である点で一致し、以下の各点において相違する。
(相違点1)
本願発明では熱処理温度が「非晶質シリコンの融点より高い」のに対して、引用例1に記載された発明では「1000℃以上」である点において相違する。
(相違点2)
本願発明では「レーザビームが少なくとも2回以上絶縁膜を介して照射される」のに対して、引用例1には、レーザビームの照射回数及び、絶縁膜を介して照射することについての記載がない点において相違する。
4.当審の判断
上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
アモルファスシリコンの融点が、シリコン結晶より低く1000℃強であることについては、例えば、周知例2に記載されているように当該技術分野において周知である。そして、引用例1に記載の1000℃以上でシリコンの融点以下という温度限定は多結晶シリコン層が溶融せず、粒界トラップ密度を減少させる目的のもので、本願発明の「非晶質シリコンの融点より高く、単結晶シリコンの融点より低い」という温度限定も多結晶シリコンの結晶部分は溶融させずに、微小欠陥のみ改善(第16段落)させるものであるから、実質的に同じ目的を達成するものである。
したがって、レーザのエネルギ密度を非晶質シリコンの融点より高くする程度のことは、当業者ならば適宜なし得る設計的事項である。
(相違点2について)
引用例2にはシリコン窒化膜をストライプ状に形成し、選択反射防止膜として用いていることが記載されており、本願発明も、明細書第39段落に「SiO2膜が一種の反射防止膜」となることが記載されており、どちらも絶縁層による反射防止という目的は共通である。更に周知例1には、レーザ照射時に多結晶シリコン層の表面全面にSiO2膜を形成することが記載されているように周知である。
更に、引用例2の特許請求の範囲には、「多結晶シリコン膜に対してレーザビームを重ね合わせ走査して前記シリコン膜全面を再結晶化する」ことが記載されており、重ね合わせ部分は当然レーザビームが2回以上は照射されているものである。
したがって、引用例1に記載の多結晶シリコンの改善方法において、引用例2に記載のレーザアニール時の多結晶シリコンを覆う反射防止膜としての絶縁膜を設け、それを介して、レーザを2回以上照射するようにする程度のことは、当業者ならば容易に推考し得ることである。
したがって、本願請求項1に係る発明は、引用例1〜2及び上記周知技術に基づき当業者が容易に推考し得たものである。また、これらを組み合わせたことによる格別の効果もない。
5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、上記引用例1乃至引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-06-12 
結審通知日 2001-06-12 
審決日 2001-06-26 
出願番号 特願平10-236993
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 岡 和久
西脇 博志
発明の名称 多結晶シリコン薄膜の特性改善方法  
代理人 松隈 秀盛  

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