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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H05K 審判 全部申し立て 2項進歩性 H05K 審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 H05K |
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管理番号 | 1044561 |
異議申立番号 | 異議1999-71854 |
総通号数 | 22 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-12-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-05-14 |
確定日 | 2001-04-02 |
異議申立件数 | 3 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2826206号「プリント配線板」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2826206号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第2826206号に係る発明についての出願は、平成3年6月20日に特許出願され、平成10年9月11日にその発明について特許の設定登録がされた。これに対して、異議申立人である半谷 仁、京セラ株式会社及び西川武則より3件の特許異議の申立てがあったので、特許法第29条第1項第3号、第29条第2項及び第36条の規定に違反する旨の取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成11年10月27日に訂正請求書(後日取下げ)が提出された。その後再度、特許法第36条の規定に違反する旨の取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成13年2月6日に改めて訂正請求書が提出されたものである。 2.訂正の適否 (1)訂正明細書の請求項に係る発明 【請求項1】絶縁基板上に塗布された接着剤層上に無電解メッキによって導体回路を形成したプリント配線板において、 絶縁基板としての基板上に、銅層が形成された銅張積層板を用い、その銅層に対しエッチング処理を施して前記基板上に内層回路を形成すると共に、前記基板の表面と前記内層回路の表面が粗化されており、前記絶縁基板上の接着剤層にバイアホールとなる開口を形成し、その上に無電解メッキによって導体回路を形成したことを特徴とするプリント配線板。 【請求項2】前記接着剤層の表面は酸あるいは酸化剤処理によって粗化されることを特徴とする請求項1記載のプリント配線板。 【請求項3】前記接着剤層を形成するための接着剤は、酸あるいは酸化剤に対して可溶性である予め硬化処理された耐熱性樹脂微粒子と、硬化処理することにより酸あるいは酸化剤に対して難溶性になる耐熱性樹脂液とからなり、前記微粒子が前記樹脂液中に分散されていると共に、硬化処理によって前記樹脂液が硬化される接着剤であることを特徴とする請求項1または2に記載のプリント配線板。 【請求項4】前記絶縁基板の表面粗度(Rmax)は0.5μm〜10μmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のプリント配線板。 【請求項5】前記接着剤層の厚さは10μm〜100μmであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか-項に記載のプリント配線板。 【請求項6】前記耐熱性樹脂微粒子の大きさは0.1μm〜10μmであることを特徴とする請求項3乃至5の何れかー項に記載のプリント配線板。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、拡張・変更の存否 特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。 (訂正事項1)特許明細書の【請求項1】の「【請求項1】絶縁基板(1)上に塗布された接着剤層(3)上に無電解メッキによって導体回路(7)を形成したプリント配線板において、前記絶縁基板(1)の表面が粗化されていることを特徴とするプリント配線板。」 との記載を、「【請求項1】絶縁基板上に塗布された接着剤層上に無電解メッキによって導体回路を形成したプリント配線板において、絶縁基板としての基板上に、銅層が形成された銅張積層板を用い、その銅層に対しエッチング処理を施して前記基板上に内層回路を形成すると共に、前記基板の表面と前記内層回路の表面が粗化されており、前記絶縁基板上の接着剤層にバイアホールとなる開口を形成し、その上に無電解メッキによって導体回路を形成したことを特徴とするプリント配線板。」と訂正する。 (訂正事項2)特許明細書の【請求項2】の「層(3)の」との記載を、「層の」と訂正する。 (訂正事項3)特許明細書の【請求項3】の「層(3)の」との記載を、「層の」と訂正する。 (訂正事項4)特許明細書の【請求項4】の「板(1)の」との記載を、「板の」と訂正する。 (訂正事項5)特許明細書の【請求項5】の「層(3)の」との記載を、「層の」と訂正する。 (訂正事項6)特許明細書の請求項6の「【請求項6】前記耐熱性微粒子の大きさは0.1μm〜10μmであることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載のプリント配線板。」との記載を、「【請求項6】前記耐熱性樹脂微粒子の大きさは0.1μm〜10μmであることを特徴とする請求項3乃至5の何れか-項に記載のプリント配線板。」と訂正する。 (訂正事項7)特許明細書の【請求項7】を削除する訂正をする。 (訂正事項8)特許明細書の【0006】段落の「【課題を解決するための手段及び作用】上記の課題を解決するために、本発明は絶縁基板上に塗布された接着剤層上に無電解メッキによって導体回路を形成したプリント配線板において、前記絶縁基板の表面が粗化されていることを特徴とする。」との記載を、「【課題を解決するための手段及び作用】上記の課題を解決するために、本発明は絶縁基板上に塗布された接着剤層上に無電解メッキによって導体回路を形成したプリント配線板において、絶縁基板としての基板上に、銅層が形成された銅張積層板を用い、その銅層に対しエッチング処理を施して前記基板上に内層回路を形成すると共に、前記基板の表面と前記内層回路の表面が粗化されており、前記絶縁基板上の接着剤層にバイアホールとなる開口を形成し、その上に無電解メッキによって導体回路を形成したことを特徴とする。」と訂正する。 (訂正事項9)特許明細書の【0041】段落の【発明の効果】の欄の最後に、「特に、気相ヒートサイクル試験で加熱・冷却のサイクルを繰り返した後でも、絶縁基板と接着剤層との間に剥離が全く見られない。」との一文を追加する訂正をする。 (訂正事項10)特許明細書の【符号の説明】の「1絶縁基板、3接着剤層、7導体回路。」 との記載を、「17感光性接着剤層、18バイアホールとなる開口、23外層回路、31銅張積層板の基板、32銅張積層板の銅層、33内層回路。」と訂正する。 訂正事項1について:新しい請求項1のプリント配線板は、特許明細書に記載の実施例3(【0034】〜【0036】参照)の開示に基づくものである。 まず、新請求項1では、当初記載の「絶縁基板(1)」、「接着剤層(3)」及び「導体回路(7)」からそれぞれ、「(1)」、「(3)」及び「(7)」の括弧付き参照符号を取り除いたもので、これは明りようでない記載の釈明を目的とするものである。今回の訂正請求で、請求項1を実施例3に基づく発明に訂正した結果、実施例1を念頭において付されていたクレーム中の括弧付き参照符号(つまり1,3,7)をそのまま残しておくことは、却って不明瞭であり混乱を招く原因となる。これら参照符号の削除は、以下で説示する請求項1の減縮訂正に伴って不可避的に生ずることになる不明瞭な記載の釈明を目的としたもので、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 次に「おいて書き」以下の追加記載部分に関して、 特許明細書の【0034】段落(特許公報の第5頁第9欄第28〜30行参照)には、『工程:実施例3では、基板31上に銅層32が形成されたFR-4グレードの銅張積層板MCL-E-67(日立化成工業製)を使用した(図3(a)参照)。』と記載され、同段落(特許公報の第5頁第9欄第30〜32行参照)には、『そして、前記銅層32に対し常法によってエッチング処理を施し、内層回路33を形成した(図3(b)参照)。』と記載されている。又、特許明細書の【0024】段落(特許公報の第4頁第7欄第25〜30行参照)には、『工程(1):実施例1では絶縁基板1としてFR-4グレードの絶縁基板LE-67N,Wタイプ(日立化成工業製)を使用した。この基板1に対して石川表記製、高精度ジェットスクラブ研磨機IJS-600を用いて基板1の表面研磨を行い、表面粗度が7μmの粗面2を得た。』と記載されている。更に、特許明細書の【0008】段落(特許公報の第2頁第4欄第11〜13行参照)には、『さらに、実施例3に示すように、絶縁基板上には内層回路が形成されていてもよい。』と記載されている。これらを勘案すると、【0008】段落でいう絶縁基板とは銅張積層板の基板31を一義的に指していることは明らかであるから、「絶縁基板としての基板」と対応付けることが可能であり、絶縁基板と基板とは実質同一であるといえる。また、【0034】段落「基板上に銅層が形成された銅張積層板を用い、」ることは直接的且つ一義的に導かれる。更に、【0034】段落及び【0008】段落から、「銅層に対しエッチング処理を施して前記基板上に内層回路を形成する」ことも直接的且つ一義的に導かれる。従って、請求項1において追加した文章:「絶縁基板としての基板上に、銅層が形成された銅張積層板を用い、その銅層に対しエッチング処理を施して前記基板上に内層回路を形成すると共に、」の部分は、特許明細書から直接的且つ一義的に導かれる事項である。 特許明細書の【0035】段落(特許公報の第5頁第9棚第33〜41行参照)には、『その後、高精度ジェットスクラブ研磨機を用いて前記実施例1の工程(1)と同様の方法にて表面研磨を行い、前記基板31表面を表面粗度が5μmの粗面34に変えた(図3(c)参照)。そして、内層回路33の表面を粗面35に変えるために、内層回路33表面を酸化した後に再びその表面を還元する、いわゆる黒化還元処理を行った(図3(d)参照)。内層回路33の表面粗度は3μm(1μm〜5μmが好適範囲)であった。』と記載されている。即ち、この記載から、「基板31の表面と内層回路33の表面が粗化されている」ことは、直接的且つ一義的に導かれる。 又、特許明細書の【0036】段落(特許公報の第5頁第9欄第42〜44行参照)には、『この後、実施例2の工程(2)〜工程(5)に従い、ビルドアップ法によってバイアホールを備えた多層プリント配線板を製造した。』との記載があり、実施例3のプリント配線板は、実施例2の工程(2)〜工程(5)、つまり特許明細書の【0029】段落から【0032】段落まで(特許公報の第4頁第8欄第30行から同公報の第5頁第10欄第8行まで)に記載された手順(図2の(b)〜(f)に相当する手順)を踏襲して完成される旨が明示されている。そこで、【0029】段落の一連の手順を振り返ると、【0030】段落の工程(3)及び図2(b)では、基板及び内層回路に対して接着剤ワニスを塗布して接着剤層17を形成することが示され、【0030】段落の工程(4)及び図2(c)では、接着剤層17にバイアホールとなる開口18を形成することが示され、【0031】段落及び図2(d)では、関口18が形成された接着剤層17が、開口18を有する層間絶縁層21になることが示され、【0032】段落の工程(5)並びに図2(e)及び図2(f)では、接着剤層17(=層間絶縁層21)上に無電解メッキによって外層回路23が形成されることが示されている。この一連の手順を上位概念的に表現したものが、請求項1のおいて書き部分の記載:「絶縁基板上に塗布された接着剤層上に無電解メッキによって導体回路を形成した」に他ならない。実施例3においては外層回路23こそが請求項1のおいて書きに言う「無電解メッキによる導体回路」に相当することは一義的に明らかであり、そのことは、【0021】段落『この無電解メツキがなされた後に、メッキレジストを除去することによって所望の導体回路パターンが得られる。』と照らし合わせても明らかである。更に、【0030】段落『……バイアホールとなる関口18を形成した(図2(c)参照)。』との記載と、図2(c)とを照らし合わせれば、「接着剤層にバイアホールとなる開口を形成し、」たことは、直接的且つ一義的に導かれる内容である。請求項1に既に記載されている「おいて書き」と、【0035】段落、【0030】段落及び図2(c)を勘案すると、請求項1において追加した文章「前記基板の表面と前記内層回路の表面が粗化されており、前記絶縁基板上の接着剤層にバイアホールとなる開口を形成し、その上に無電解メツキによって導体回路を形成した」の部分が、直接的且つ一義的に導かれる。 よって、請求項1に関するこれらの訂正は、特許明細書及び図面から直接的且つ一義的に導かれる内容であり、特許明細書及び図面に記載した事項の範囲を逸脱するものではない。又、請求項1への追加記載によって特許請求の範囲が減縮されたことは明らかであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。 訂正事項2〜5について:請求項2〜5では、当初記載の「接着剤層(3)」または「絶縁基板(1)」からそれぞれ「(3)」または「(1)」の括弧付き参照符号を取り除いているが、これは、請求項1を実施例3に基づく発明に減縮訂正した結果、実施例1を念頭において付されていたクレーム中の括弧付き参照符号(つまり、3または1)をそのまま残しておくことは却って不明瞭になるからである。この訂正は、請求項1の減縮訂正に伴って不可避的に生ずることになる不明瞭な記載の釈明に過ぎず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。また、請求項2〜5は基本的には請求項1を引用して成り立つ従属項であり、請求項1の減縮訂正に伴って請求項2〜5も減縮される結果となるから、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 訂正事項6について:訂正事項6では、特許時の請求項6中の「耐熱性微粒子」を「耐熱性樹脂微粒子」と訂正し、且つ、特許時の請求項6中の「請求項1乃至5」を「請求項3乃至5」に訂正している。この訂正は、先の取消理由通知(平成11年9月3日付け)で指摘された特許法第36条第5項違反を解消すべく、誤記の訂正ないしは明りようでない記載の釈明を目的としたものであり、訂正の根拠は、請求項3中に「耐熱性樹脂微粒子」との用語が既に用いられており、特許時の請求項6の「耐熱性微粒子」とは一義的にその「耐熱性樹脂微粒子」を指していることにある。この訂正は、誤記訂正ないしは明りようでない記載の釈明を目的としたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。また、請求項6は基本的には請求項1を引用して成り立つ従属項であり、請求項1の減縮訂正に伴って請求項6も減縮される結果となるから、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 訂正事項7について:これは特許明細書の請求項7を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項8について:請求項1の訂正に伴い、明細書の【課題を解決するための手段】の欄の記載を新請求項1に整合させるための訂正であって、この訂正は、明りようでない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項9について:訂正事項9は、減縮訂正された発明の理解をより容易にするために、発明の効果の欄に効果に関する説明を補充するものである。特許明細書の【0038】(特許公報の第5頁第10欄第48行〜同公報の第6頁第11欄第4行参照)には、『また、気相ヒートサイクル試験では、気相における加熱・冷却のサイクル(一65℃から125℃まで)を1000回繰り返した後に、絶縁基板と接着剤層との間の接合状態を調査した。その結果も前記ハンダ耐熱性試験と同様であり、各実施例1,2,3では表2に示すように、絶縁基板と接着剤層との間に剥離が全く見られなかった。』との記載があり、この文章から「気相ヒートサイクル試験で加熱・冷却のサイクルを繰り返した後でも、絶縁基板と接着剤層との間に剥離が全く見られない。」との効果説明を抽出したものである。故に、この訂正事項は、特許明細書の記載範囲を逸脱するものではないし、明りようでない記載の釈明を目的とするしたものである。 訂正事項10について:訂正事項10は、各請求項に記載の発明が実施例3の開示から導かれる発明に減縮訂正されたこととの整合を図るための「符号の説明」の訂正である。特許明細書の【0030】段落には「感光性接着剤層17」との用語が用いられ、同段落には「バイアホールとなる開口18」との記載があり、【0030】段落には「外層回路23」との用語が用いられている。また、【0034】段落には、「基板31上に銅層32が形成されたFR-4グレードの銅張積層板」との記載があり、同段落には「内層回路33」との用語が用いられている。これらの記載や用語から『17感光性接着剤層、18バイアホールとなる開口、23外層回路、31銅張積層板の基板、32銅張積層板の銅層、33内層回路。』との符号の説明が可能となる。この訂正は、特許請求の範囲の減縮に伴って必要となった明りようでない記載の釈明を目的としたものである。 (3)独立特許要件 取消理由で引用した刊行物1(特公昭58-15949号公報)または刊行物2(特公昭58-15951号公報)には、絶縁基板としての積層板上に熱硬化性樹脂からなる接着剤を塗布するとともに該接着剤上に無電解メッキによって回路を形成した印刷配線用基板において、前記積層板の表面を粗化することで、積層板表面と接着剤との密着性を向上させるようにした発明が記載されている。 また、同刊行物3(特開昭64-47095号公報)には、絶縁層上に形成された接着層上に無電解メッキによって形成した導体回路を形成してなるプリント配線板において、接着層の表面を酸化剤処理によって粗化すること、接着層を耐熱性樹脂の硬化物に酸化剤に対して溶解性の高い予め硬化処理された耐熱性樹脂微粉末を分散させたもので形成すること、接着層の厚みを2〜40μmとすること、及び接着層の耐熱性樹脂の硬化物中に分散されている予め硬化処理された耐熱性樹脂微粉末の平均粒径を5μm以下とすることで、接着層と無電解メッキで形成される導体回路との密着性を向上させるようにした発明が、また、同刊行物4(特開昭64-53497号公報)には、基材上に形成された絶縁層上に無電解メッキによって導体回路を形成してなるプリント配線板において、絶縁層の表面を酸化剤処理によって粗化すること、絶縁層を耐熱性樹脂の硬化物に酸化剤に対して溶解性の高い予め硬化処理された耐熱性樹脂微粉末を分散させたもので形成すること、絶縁層の厚みを20〜100μmとすること、絶縁層の耐熱性樹脂の硬化物中に分散されている予め硬化処理された耐熱性樹脂微粉末の平均粒径を5μm以下とすることで、絶縁層と無電解メッキで形成される導体回路との密着性を向上させるようにし、さらに、基材表面には、銅箔をフォトエッチングして得られた内層回路が形成されている発明が、さらに、同刊行物5(特開平2-58295号公報)には、基材上に絶縁性樹脂層を介して回路を形成したプリント回路基板において、基材表面をRmaxが1〜15μmの粗面としたものが、それぞれ記載されているものと認められる。 そこで、本件訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、本件訂正発明という)と前記刊行物1または刊行物2に記載された発明とを対比すると、前記刊行物のいずれにも本件訂正発明の特徴的構成である「絶縁基板としての基板上に、銅層が形成された銅張積層板を用い、その銅層に対しエッチング処理を施して前記基板上に内層回路を形成すると共に、前記基板の表面と前記内層回路の表面が粗化されており、前記絶縁基板上の接着剤層にバイアホールとなる開口を形成し、その上に無電解メッキによって導体回路を形成した」という点については記載されていない。そして、本件訂正発明の前記特徴的構成については、前記刊行物3〜5を参酌しても、そのいずれにも開示も示唆もないのである。 そして、本件訂正発明のプリント配線板によれば、気相ヒートサイクル試験で加熱・冷却のサイクルを繰り返した後でも、絶縁基板と接着剤層との間に剥離が全く見られないという明細書記載の効果を発現するものと認められる。 したがって、前記訂正事項1に係る本件訂正発明は、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものとすることはできない。 また、訂正後の請求項2〜6に係る発明は、本件訂正発明における接着剤層又は絶縁基板の構成を更に限定したものであるから、本件訂正発明が特許要件を有するものである以上、これらの各請求項に係る発明も特許出願の際、独立して特許を受けることができるものである。 (4)明細書の記載不備 平成11年8月6日付け、及び平成12年11月21日付けの取消理由通知で指摘した明細書の記載不備については、特許明細書を全文訂正することで記載不備は解消した。 (5)訂正の適否のまとめ 以上のとおり、前記訂正事項1〜10の訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件特許発明 特許第2826206号の請求項1〜6に係る特許発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された前記2.(1)のとおりのものである(記載省略)。 (2)特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人・半谷 仁は、訂正前の本件特許の請求項1、2、4、5及び7に係る発明に対して、証拠として甲第1号証〜甲第3号証を提出して、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反して特許されたものであり、また、特許異議申立人・京セラ株式会社は、訂正前の本件特許の請求項1〜7に係る発明に対して、証拠として甲第1号証〜甲第5号証を提出して、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反して特許されたものであり、また、特許異議申立人・西川武則は、訂正前の本件特許の請求項1、2、4、5及び7に係る発明に対して、証拠として甲第1号証〜甲第6号証を提出して、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、本件各請求項に係る発明についての特許を取り消すべき旨主張している。 (3)判断 異議申立ての対象となった請求項は、訂正前の請求項1〜7に係る発明であるが、訂正前の請求項1〜7に係る発明が、訂正後は請求項1〜6に係る発明になったので、異議申立についての新規性・進歩性の判断は、訂正後の請求項1〜6に係る発明に対して行う。 本件請求項1に係る特許発明(以下、本件特許発明という)と特許異議申立人・京セラ株式会社が提出した甲第1号証〜甲第5号証刊行物(取消理由通知で引用した刊行物1〜5に、それぞれの甲各号証刊行物が順次対応)に記載された発明とを対比すると、前記刊行物の何れにも本件特許発明の構成である「絶縁基板としての基板上に、銅層が形成された銅張積層板を用い、その銅層に対しエッチング処理を施して前記基板上に内層回路を形成すると共に、前記基板の表面と前記内層回路の表面が粗化されており、前記絶縁基板上の接着剤層にバイアホールとなる開口を形成し、その上に無電解メッキによって導体回路を形成した」という点については記載も示唆もないのは、前記2.(3)の独立特許要件のところで説示したとおりである。 また、かかる構成は異議申立人・半谷 仁、及び異議申立人・西川武則が提出した甲各号証刊行物(3件の異議申立ての証拠の中には、一部重複証拠あり)のいずれにも記載されていない。 したがって、本件特許発明は、異議申立人・半谷 仁、異議申立人・京セラ株式会社及び異議申立人・西川武則が提出した前記甲各号証刊行物記載の発明ではないし、前記甲各号証刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に推考できたものでもない。 さらに、本件請求項2〜6は、いずれも基本的には本件請求項1を引用する従属項であり、本件特許発明が前述のとおり特許要件を有しているのであるから、本件請求項2〜6に係る特許発明も特許要件を有するものである。 (4)むすび 以上のとおりであるから、各特許異議申立人が主張する理由及び提出した証拠によっては、本件請求項1〜6に係る特許発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜6に係る特許発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 プリント配線板 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】絶縁基板上に塗布された接着剤層上に無電解メッキによって導体回路を形成したプリント配線板において、 絶縁基板としての基板上に、銅層が形成された銅張積層板を用い、その銅層に対しエッチング処理を施して前記基板上に内層回路を形成すると共に、前記基板の表面と前記内層回路の表面が粗化されており、前記絶縁基板上の接着剤層にバイアホールとなる開口を形成し、その上に無電解メッキによって導体回路を形成したことを特徴とするプリント配線板。 【請求項2】前記接着剤層の表面は酸あるいは酸化剤処理によって粗化されることを特徴とする請求項1記載のプリント配線板。 【請求項3】前記接着剤層を形成するための接着剤は、酸あるいは酸化剤に対して可溶性である予め硬化処理された耐熱性樹脂微粒子と、硬化処理することにより酸あるいは酸化剤に対して難溶性になる耐熱性樹脂液とからなり、前記微粒子が前記樹脂液中に分散されていると共に、硬化処理によって前記樹脂液が硬化される接着剤であることを特徴とする請求項1または2に記載のプリント配線板。 【請求項4】前記絶縁基板の表面粗度(Rmax)は0.5μm〜10μmであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のプリント配線板 【請求項5】前記接着剤層の厚さは10μm〜100μmであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のプリント配線板。 【請求項6】前記耐熱性樹脂微粒子の大きさは0.1μm〜10μmであることを特徴とする請求項3乃至5の何れか一項に記載のプリント配線板。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は絶縁基板上に金属によって導体回路が形成されるプリント配線板に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 この種のプリント配線板を形成する方法の一つとして、従来よりアディティブ法が提案されている。この形成方法によると、ガラスエポキシ等の絶縁基板に無電解メッキ用の接着剤を塗布することにより接着剤層を形成し、その接着剤層の表面を粗化した後にその上にメッキレジストを形成し、更に無電解メッキによって導体回路となる金属を付着させている。 【0003】 この方法によると導体回路は基本的に無電解メッキによって形成されるため、少ない製造工程によって容易かつ確実に微細パターンを形成できるという利点がある。また、粗化された接着剤層に対して導体回路を付着することにより、両者間に優れた接合性が確保されているため、導体回路が接着層から剥離しにくいという特徴も有している。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 ところが、上述のように導体回路と接着剤層との間の接合性が改善されたとしても、粗面を有しない絶縁基板上に前記接着剤層を形成するような場合には、接着剤層と絶縁基板との間に充分な接合性が確保されず、その結果両者の界面にて剥離が生じてしまう虞れがある。このような事情から、導体回路の剥離強度をより向上させるためには、導体回路と接着剤層との間の接合性のみならず、絶縁基板と接着剤層との間の接合性も同時に向上させることが望まれている。 【0005】 本発明は上記の事情に鑑みて成されたものであり、その目的は、絶縁基板とその絶縁基板上に塗布形成される接着剤層との間の接合性をより向上させることにより、剥離が生じにくい導体回路を備えたプリント配線板を提供することにある。 【0006】 【課題を解決するための手段及び作用】 上記の課題を解決するために、本発明は絶縁基板上に塗布された接着剤層上に無電解メッキによって導体回路を形成したプリント配線板において、絶縁基板としての基板上に、銅層が形成された銅張積層板を用い、その銅層に対しエッチング処理を施して前記基板上に内層回路を形成すると共に、前記基板の表面と前記内層回路の表面が粗化されており、前記絶縁基板上の接着剤層にバイアホールとなる開口を形成し、その上に無電解メッキによって導体回路を形成したことを特徴とする。 このように絶縁基板表面が粗面化されている本発明の構成によれば、粗面を有しない絶縁基板と比較した場合、接着剤層と絶縁基板との間に大きな接触面積を確保することができる。そのため、接着剤が基板表面に塗布された場合に、両者間に充分な接合力を付与することが可能になる。従って、従来のプリント配線板のように絶縁基板と接着剤層との界面に剥離が生じることがない。 【0007】 以下に、上述したようなプリント配線板を製造する方法について詳しく説明する。 前記絶縁基板には、例えば、紫外線遮蔽材入りのガラスエポキシ樹脂基板を用いることが好適である。このような樹脂材料を使用することによって、メッキレジスト形成時に紫外線で露光した場合、基板を透過した紫外線により基板裏側にもレジスト層が形成されてしまうといった、いわゆるメッキレジストの裏かぶり現象の防止が図られている。 【0008】 尚、前記の紫外線遮蔽材入りのガラスエポキシ樹脂基板以外のものとして、例えば、ガラスポリイミド樹脂基板も勿論適用が可能であるほか、窒化アルミニウム、アルミナ等のセラミックス製の基板、及びアルミニウム、鉄等の金属製の基板を用いてもよい。 さらに、実施例3に示すように、絶縁基板上には内層回路が形成されていてもよい。 この絶縁基板の表面を粗化する方法としては、例えば、砥粒を噴射することにより研磨を行うサンドブラストや、表面に砥粒が保持された回転バフによって研磨を行うバフ研磨等が好適である。これら以外の従来の研磨方法であっても、絶縁基板上に所望の粗面を形成することが可能であれば、充分適用することが可能である。 【0009】 このような研磨方法を用いて前記絶縁基板の粗化を行ったとき、その表面粗度(Rmax)はJIS-B-0601(触針式表面粗さ測定器による表面粗度測定試験)に従って測定される。この場合、前記表面粗度は0.5μm〜10μmの範囲内になることが望ましく、より好ましくは1.0μm〜5.0μmの範囲内である。 【0010】 この表面粗度の値が0.5μm未満であると絶縁基板と接着剤層との問に大きな接触面積を確保することができず、よって、両者間に充分な接合力を付与することができない。また、この表面粗度の値が10μmを越えると絶縁基板上の凹凸が大きくなるため、接着剤層を形成したとしても層表面の平滑性に悪影響を及ぼす虞れがある。このように平滑でない接着剤層に導体回路を形成しても剥離が生じる原因となるばかりでなく、電子部品を載置したときに実装不良になり易いため好ましくない。 【0011】 次に、前記絶縁基板と金属製の導体回路との接着性を改善するために、絶縁基板上に塗布される接着剤の組成について詳細に説明する。 接着剤層を形成するための接着剤は、酸あるいは酸化剤に対して可溶性でありかつ予め硬化処理された耐熱性樹脂微粒子(フィラー樹脂)と、硬化処理することにより酸あるいは酸化剤に対して難溶性になる耐熱性樹脂液(マトリクス樹脂)とからなり、前記微粒子が前記樹脂液中に分散されていると共に、硬化処理によって前記樹脂液が硬化されるものであることが望ましい。また、前記マトリクス樹脂は感光性樹脂であってもよい。 【0012】 前記耐熱性樹脂微粒子としては、例えば、平均粒径が2μm以下の耐熱性樹脂粉末を凝縮させて平均粒径2μm〜10μmの大きさとした凝集粒子、平均粒径2μm〜10μmの耐熱性樹脂粉末と平均粒径が2μm以下の耐熱性樹脂粉末との粒子混合物、または平均粒径2μm〜10μmの耐熱性樹脂粉末の表面に平均粒径が2μm以下の耐熱性樹脂粉末もしくは無機微粉末の何れか少なくとも1種を付着させてなる疑似粒子の中から選択されることが望ましい。 【0013】 特に、前記粒子混合物を耐熱性樹脂微粒子として用いることが好適であり、この樹脂によって形成されるアンカーによれば、より確実なアンカー効果を確保することができる。従って、その上に形成される導体回路等に充分な剥離強度を付与することができる。 前記接着剤の硬化は、例えば、加熱処理あるいは触媒添加等によって行われる。接着剤層はこの処理によって、酸化剤等に対して難溶性のマトリクス樹脂中に酸化剤等に対して可溶性のフィラー樹脂が分散された状態になる。この状態で、例えばクロム酸、クロム酸塩、過マンガン酸塩、オゾン等によって酸化処理を行うと、フィラー樹脂部分のみが選択的に溶解され、マトリクス樹脂表面にはアンカーとしての無数の微細孔が形成される。その結果、接着剤層の表面が粗化される。 【0014】 この微細孔を有する接着剤層表面に対してメッキレジスト若くは導体回路を形成すれば、いわゆるアンカー効果が得られ、この効果によりメッキレジスト及び導体回路が接着剤層から剥離しにくくなる。 前記の粗化処理の後に、JIS-B-0601に従って測定される接着剤層表面の表面粗度(Rmax)が1μm〜20μmの範囲内になることが望ましい。 【0015】 この表面粗度の値が1μm未満であると、導体回路と接着剤層との問に大きな接触面積を確保することができず、この場合、両者問に所望の剥離強度を確保することができない。また、この表面粗度の値が20μmを越えると、アンカーが大きくなりすぎて充分なアンカー効果が得られないため、所望の接着強度を確保することができない。上記理由より表面粗度(Rmax)が2μm〜15μmの範囲内であることがより好ましい。 【0016】 前記フィラー樹脂となる耐熱性樹脂微粒子としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビスマレイミドートリアジン樹脂等の粉末を使用することが好適であり、そのような樹脂微粒子の大きさとしては0.1μm〜10μmの範囲内であることが望ましい。 この微粒子の大きさが0.1μm未満であると、溶解除去によって形成されるアンカーの大きさが充分でなく、所望のアンカー効果を確保することができない。従って、その上に形成される導体回路等に、充分な剥離強度を付与することが難しくなる。 【0017】 また、この微粒子の大きさ10μmを越える場合には、微粒子を溶解除去したときに形成されるアンカーが低密度かつ不均一になり易く、また、アンカーが大きくなりすぎるため充分なアンカー効果が得られず、導体回路に充分な剥離強度を付与することが困難となる。 前記マトリクス樹脂となる耐熱性樹脂としては、エポキシ樹脂、エポキシ変成ポリイミド樹脂、ポリイミド樹脂及びフェノール樹脂等が使用可能である。また、これらの樹脂に対して感光性を付与させてもよい。この樹脂液に対して上記の樹脂微粒子を所定量配合した後に、ブチルセルソルブ等の溶剤を加えて攪拌することによって、前記樹脂微粒子が均一に分散された接着剤のワニスとすることができる。 【0018】 前記接着剤ワニスを絶縁基材の表面上に塗布する方法としては、ロールコータを用いて塗布することが好適であり、このロールコータを用いた方法によれば前記ワニスを所定の均一性を保ち、かつ所定の厚さに塗布することが可能である。また、このような塗布方法以外にも、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピナーコート法、カーテンコート法及びスクリーン印刷法等の各種の手段を用いることができる。 【0019】 これらの方法のうち何れかの方法によって接着剤ワニスの塗布を行った場合、前記接着剤層の厚さが10μm〜100μmの範囲内になることが望ましい。 接着剤層の厚さが10μm未満であると、絶縁基板の粗面の状態に影響を受け易く、平滑な接着剤層を形成することができない。また、接着剤層の厚さが100μmを越える場合には、配線板を高密度化できないばかりでなく、厚塗りするため量産性の低下、コスト増を招いてしまう。 【0020】 上述した方法によって接着剤ワニスの塗布、硬化及び粗化処理が行われた後、前記接着剤層の粗面にはパラジウムースズコロイド等の触媒核が付与される。この処理によって接着剤の粗面が活性化され、無電解メッキを行った際に金属を容易に析出させることができる。そして、上記処理が行われた表面に対して所望の導体回路パターンを形成するために、導体回路の非形成部分に対応して無電解メッキ用のメッキレジストがラミネートされる。 【0021】 上記のメッキレジストとしては、例えば、感光性のドライフィルム等が好適である。このようなドライフィルムによれば、接着剤層上に微細な導体回路を確実かつ高精度に形成することが可能である。それ故、高密度化、高集積化の要求に対して充分に対応することができる。 そして、接着剤層表面にラミネートされたメッキレジストを露光した後に、現像を行うことにより、導体回路非形成部分のみをマスクする。この状態で無電解銅メッキ、無電解ニッケルメッキ、無電解スズメッキ、無電解金メッキ及び無電解銀メッキ等を行い、前記触媒核が付与された接着剤層表面の導体回路形成部分に金属を析出させる。この無電解メッキがなされた後に、メッキレジストを除去することによって所望の導体回路パターンが得られる。 なお、この方法は、フルアディティブ法と呼ばれる。 また、いわゆるセミアディティブ法を使用してもよい。即ち、接着剤表面全体に無電解メッキ膜を形成した後、メッキレジストを設け、電解メッキを行い、メッキレジストを除去してメッキレジスト下の無電解メッキ膜をエッチングするものである。 いずれの方法も、無電解メッキによって導体回路を形成する方法である。 【0022】 以上のような方法によれば、基板両面の導体回路がスルーホールによって連結されたプリント配線板等が製造可能であるばかりでなく、スルーホール若くはバイアホールによってより高集積化・高密度化されたビルドアップ多層配線板、多層プリント配線板等も製造できる。また、上記の方法によって得られるプリント配線板では、その表面が粗化されているため、接着剤層との接合性が確保され、接着剤の剥離が生じることはない。 【0023】 【実施例及び比較例】 以下、本発明を具体化した実施例1、実施例2及び実施例3と、これらの実施例に対する比較例1及び比較例2とについて図面に基づき詳細に説明する。 〔実施例1〕 実施例1はアディティブ法によって単層のプリント配線板を製造するものである。以下に製造工程(1)〜(5)について、図1(a)〜(f)に基づき説明する。 【0024】 工程(1):実施例1では絶縁基板1としてFR-4グレードの絶縁基板LE-67N,Wタイプ(日立化成工業製)を使用した。この基板1に対して石川表記製、高精度ジェットスクラブ研磨機IJS-600を用いて基板1の表面研磨を行い、表面粗度が7μmの粗面2を得た。面粗度の測定は接針式の面粗度計(東京精密サーフコム470A)を用い、JIS-B-0601に従い測定した(図1(a)参照)。このとき、研磨剤の吐出圧を1.8kg/cm2に設定し、ラインスピード(基板搬送速度)を2m/minに設定した。 【0025】 工程(2):フェノールノボラック型エポキシ樹脂(油化シェル製、商品名、E-154)60重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェル製、商品名、E-1001)40重量部、イミダゾール硬化剤(四国化成製、商品名、2P4MHZ)4重量部、エポキシ樹脂微粉末(東レ製)粒径5.5μmのもの10重量部、及び粒径0.5μmのもの25重量部を配合し、三本ロールにて混練すると共にブチルセロソルブアセテートを適量添加して接着剤のワニスを作成した。 【0026】 工程(3):前記絶縁基板1上に上記接着剤のワニスをロールコータを用いて塗布した後に、100℃で1時間及び150℃で5時間乾燥硬化して、厚さ50μmの接着剤層3を形成した(図1(b)参照)。 工程(4):次に、クロム酸に10分間浸漬することによりエポキシ樹脂微粉末を溶解除去して、接着剤層3の表面を粗面4とした(図1(c)参照)。そして、中和後に水洗してクロム酸を除去した。 【0027】 工程(5):市販のパラジウムースズコロイド触媒に浸漬して前記粗面4を活性化し、触媒核層5を形成した。続いて、120℃、30分の熱処理後、ドライフィルムフォトレジストをラミネートすると共に、露光現像を行ってメッキレジスト層6を形成した(図1(d)参照)。そして、表1に示す無電解銅メッキ液に15時間浸漬して、厚さ約35μmの導体回路7を形成した(図1(e)参照)。そして、メッキレジスト層6を除去した後、基板1を酒石酸と塩酸との混合溶液(酒石酸5〜100g/1,35%塩酸200〜350mI/1)に浸漬し、被導体形成部分の触媒を除去してプリント配線板を製造した(図1(f)参照)。 〔実施例2〕 次に、ビルドアップ法による実施例2の多層プリント配線板の製造工程(1)〜(5)について、図2(a)〜(f)に基づき説明する。 【0028】 工程(1):実施例2では前記実施例1で用いた絶縁基板11を使用した。この基板11に対して石川表記製のオシュレーション研磨機IOP-600を用いて表面研磨を行い、表面粗度が2μmの粗面12を得た。このとき、回転数を2000r.p.m.に、ラインスピード(基板搬送速度)を2m/min.に、オシュレーション回数を575回/min.にそれぞれ設定した。 【0029】 そして、実施例1の工程(2)〜(5)に従ってアディティブ法を基板11に適用し、絶縁基板11、接着剤層13、粗面12,14、触媒核層15及び内層回路16を備える配線板10を形成した(図2(a)参照)。 工程(2):クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(油化シェル製、商品名、エピコート180S)の50%アクリル化物60重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェル製、商品名、E-1001)40重量部、ジアリルテレフタレート15重量部、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノプロパノン-1(チバ・ガイギー製、イルガキュアー907)4重量部、イミダゾール(四国化成製、商品名、2P4MHZ)4重量部、エポキシ樹脂微粉末(東レ製、粒径0.5μm)50重量部を配合し、ブチルセロソルブを適量添加しながらホモディスパー攪拌機で攪拌して接着剤のワニスを作成した。 【0030】 工程(3):内層回路16に対してロールコータを用いて上記の接着剤ワニスを塗布し、100℃で1時間乾燥硬化して、厚さ50μmの感光性接着剤層17を形成した(図2(b)参照)。 工程(4):次に、前記工程(3)の処理を施した配線板10に直径100μmの黒円及び、打ち抜き切断部位が黒く印刷されたフォトマスクフィルムを密着させ、超高圧水銀灯により500mj/cm2で露光した。これをクロロセン溶液で超音波現像処理することにより、配線板10上に直径100μmのバイアホールとなる開口18を形成した(図2(c)参照)。 【0031】 次いで、前記配線板10を超高圧水銀灯により約3000mj/cm2で露光し、更に100℃で1時間、その後150℃で3時間加熱処理することによりフォトマスクフィルムに相当する寸法精度に優れた開口18を有する層間絶縁層21を形成した。 そして、クロム酸に10分間浸漬することにより層間絶縁層21表面を粗面19にかえ、中和後に水洗してクロム酸を除去した(図2(d)参照)。 【0032】 工程(5):市販のパラジウム-スズコロイド触媒に浸漬して触媒核層22を形成して、窒素雰囲気下、120℃、30分で熱処理を行った。そして、ドライフィルムフォトレジスト20をラミネートした後に露光現像を行った(図2(e)参照)。その後、以下に示す表1の組成の無電解銅メッキ液に15時間浸漬し、外層回路23として約35μmの銅メッキ層を形成した後(図2(f)参照)、メッキレジストを除去し、バイアホールを備える多層プリント配線板を製造した。 【0033】 【表1】 【0034】 〔実施例3〕 実施例3は前記実施例1及び実施例2と異なる研磨方法が採用されるビルドアップ式の多層プリント配線板であり、その製造方法について図3(a)〜(d)に基づき説明する。 工程:実施例3では、基板31上に銅層32が形成されたFR-4グレードの銅張積層板MCL-E-67(日立化成工業製)を使用した(図3(a)参照)。そして、前記銅層32に対し常法によってエッチング処理を施し、内層回路33を形成した(図3(b)参照)。 【0035】 その後、高精度ジェットスクラブ研磨機を用いて前記実施例1の工程(1)と同様の方法にて表面研磨を行い、前記基板31表面を表面粗度が5μmの粗面34に変えた(図3(c)参照)。そして、内層回路33の表面を粗面35に変えるために、内層回路33表面を酸化した後に再びその表面を還元する、いわゆる黒化還元処理を行った(図3(d)参照)。内層回路33の表面粗度は3μm(1μm〜5μmが好適範囲)であった。 【0036】 この後、実施例2の工程(2)〜工程(5)に従い、ビルドアップ法によってバイアホールを備えた多層プリント配線板を製造した。 前記実施例1〜実施例3に対する比較例として、基板表面に粗化処理を行わないプリント配線板を製造した。以下に、比較例1及び比較例2の製造工程について説明する。 〔比較例1〕 前記実施例1で用いた絶縁基板に表面研磨を施さない状態で、その表面粗度を測定したところ0.4μmであった。その後、この基板を用い、前記実施例1の工程(2)〜工程(5)の手順に従い、同様の方法にて単層のプリント配線板を製造した。 〔比較例2〕 比較例2として、実施例3で使用したものと同じ銅張積層板を使用した。そして、常法によりエッチング処理を施し、内層回路を形成した。その後前記実施例1の表面研磨を行うことなく前記の黒化還元処理を行って、内層回路を表面粗度が7μmの粗面35に変えた。この後、実施例2の工程(2)〜工程(5)に従いビルドアップ法によって、バイアホールを備えた多層プリント配線板を製造した。 【0037】 以上の方法によって製造された実施例1,2,3及び比較例1,2の各プリント配線板における絶縁基板と接着剤層との問の接合状態を比較評価するために、ハンダ耐熱性試験及び気相ヒートサイクル試験を行った。 ハンダ耐熱性試験では、各プリント配線板を260℃のハンダ中に15秒間浸漬することにより絶縁基板と接着剤層との間の接合状態を調査した。表2に示すように、各実施例1,2,3では絶縁基板と接着剤層との間に剥離が全く見られず、接着剤層の接合状態は良好であった。これに対して、比較例1では絶縁基板と接着剤層との間に部分的に剥離が見られ、また、比較例2では両者間に全体的に剥離が見られた。 【0038】 また、気相ヒートサイクル試験では、気相における加熱・冷却のサイクル(-65℃から125℃まで)を1000回繰り返した後に、絶縁基板と接着剤層との間の接合状態を調査した。その結果も前記ハンダ耐熱性試験と同様であり、各実施例1,2,3では表2に示すように、絶縁基板と接着剤層との間に剥離が全く見られなかった。それに対して、比較例1及び比較例2では両者間に部分的、全体的に剥離が見られた。 【0039】 【表2】 【0040】 尚、表中における○印は絶縁基板と接着剤層との間に剥離が全く見られない状態を、△印は絶縁基板と接着剤層との間に部分的に剥離が見られる状態を、×印は絶縁基板と接着剤層との間に全体的に剥離が見られる状態をそれぞれ示している。 以上の結果によると、前記実施例1,2,3のように基板表面に対して粗化処理を行うことで、粗化処理を行わない場合よりも接着剤層と絶縁基板との間に大きな接触面積を確保することができる。そのため、両者間の接合性が改善され、両者の界面にて剥離が生じることが効果的に防止される。 【0041】 【発明の効果】 以上詳述したように、本発明のプリント配線板によれば、絶縁基板とその上に塗布形成される接着剤層との問の接合性が向上することにより、導体回路に剥離が生じにくくなるという優れた効果を奏する。特に、気相ヒートサイクル試験で加熱・冷却のサイクルを繰り返した後でも、絶縁基板と接着剤層との間に剥離が全く見られない。 【図面の簡単な説明】 【図1】(a)〜(f)は実施例1のプリント配線板の製造工程を示す概略図である。 【図2】(a)〜(f)は実施例2のプリント配線板の製造工程を示す概略図である。 【図3】(a)〜(d)は実施例3のプリント配線板の製造工程を示す概略図である。 【符号の説明】 17 感光性接着剤層、18 バイアホールとなる開口、23 外層回路、31 銅張積層板の基板、32 銅張積層板の銅層、33 内層回路。 |
訂正の要旨 |
(訂正の要旨) 本件特許異議申立てに係る訂正請求における訂正の要旨は、以下のとおりである。 1.特許請求の範囲を次のとおりに訂正する。 【請求項1】絶縁基板上に塗布された接着剤層上に無電解メッキによって 導体回路を形成したプリント配線板において、 絶縁基板としての基板上に、銅層が形成された銅張積層板を用い、その銅層に対しエッチング処理を施して前記基板上に内層回路を形成すると共に、前記基板の表面と前記内層回路の表面が粗化されており、前記絶縁基板上の接着剤層にバイアホールとなる開口を形成し、その上に無電解メッキによって導体回路を形成したことを特徴とするプリント配線板。 【請求項2】前記接着剤層の表面は酸あるいは酸化剤処理によって粗化さ れることを特徴とする請求項1記載のプリント配線板。 【請求項3】前記接着剤層を形成するための接着剤は、酸あるいは酸化剤 に対して可溶性である予め硬化処理された耐熱性樹脂微粒子と、硬化処理することにより酸あるいは酸化剤に対して難溶性になる耐熱性樹脂液とからなり、前記微粒子が前記樹脂液中に分散されていると共に、硬化処理によって前記樹脂液が硬化される接着剤であることを特徴とする請求項1または2に記載のプリント配線板。 【請求項4】前記絶縁基板の表面粗度(Rmax)は0.5μm〜10μ mであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のプリント配線板 【請求項5】前記接着剤層の厚さは10μm〜100μmであることを特 徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のプリント配線板。 【請求項6】前記耐熱性樹脂微粒子の大きさは0.1μm〜10μmであ ることを特徴とする請求項3乃至5の何れか一項に記載のプリント配線板。 2.特許明細書の【0006】段落の第1文 「【課題を解決するための手段及び作用】 上記の課題を解決するために、本発明は絶縁基板上に塗布された接着剤層上に無電解メッキによって導体回路を形成したプリント配線板において、前記絶縁基板の表面が粗化されていることを特徴とする。」との記載を、 「【課題を解決するための手段及び作用】 上記の課題を解決するために、本発明は絶縁基板上に塗布された接着剤層上に無電解メッキによって導体回路を形成したプリント配線板において、絶縁基板としての基板上に、銅層が形成された銅張積層板を用い、その銅層に対しエッチング処理を施して前記基板上に内層回路を形成すると共に、前記基板の表面と前記内層回路の表面が粗化されており、前記絶縁基板上の接着剤層にバイアホールとなる開口を形成し、その上に無電解メッキによって導体回路を形成したことを特 徴とする。」と訂正する。 3.特許明細書の【0041】段落の発明の効果の欄の最後に、 「特に、気相ヒートサイクル試験で加熱一冷却のサイクルを繰り返した後でも、 絶縁基板と接着剤層との間に剥離が全く見られない。」との一文を追加する訂正をする。 4.特許明細書の符号の説明の欄 「1絶縁基板、3接着剤層、7導体回路。」との記載を、 「17感光性接着剤層、18バイアホールとなる開口、23外層回路、 31銅張積層板の基板、32銅張積層板の銅層、33内層回路。」と訂正する。 |
異議決定日 | 2001-03-12 |
出願番号 | 特願平3-148999 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(H05K)
P 1 651・ 121- YA (H05K) P 1 651・ 532- YA (H05K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡田 和加子 |
特許庁審判長 |
藤井 俊明 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 鈴木 法明 |
登録日 | 1998-09-11 |
登録番号 | 特許第2826206号(P2826206) |
権利者 | イビデン株式会社 |
発明の名称 | プリント配線板 |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | 恩田 博宣 |