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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23F
管理番号 1044591
異議申立番号 異議2000-73513  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-12-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-13 
確定日 2001-03-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3026436号「2―ブタンチオ―ル化合物からなる茶飲料用添加剤」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3026436号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3026436号の請求項1乃至3に係る発明についての出願は、平成11年6月9日に特願平11-162150号として出願され、平成12年1月28日にその特許の設定登録がなされ、その後、大岩伸治より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年2月13日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求
1.訂正の内容
特許請求の範囲の請求項1乃至3に係る記載「茶飲料」を、「緑茶飲料」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項は、「茶飲料」を「緑茶飲料」に訂正するものであるから特許請求の範囲の減縮に該当し、また、この訂正は新規事項に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法120条の4,2項及び同条3項で準用する126条2項、3項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。

III.特許異議申立
1.特許異議申立書の理由の概要
特許異議申立人は、甲第1号証(Food Technology-June 1993,103-104,106,108,112,114,116-117頁)を提出し、訂正前の本件請求項1乃至3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないと主張している。
2.判断
甲第1号証には、
「フレーバ及び抽出物製造者協会(FEMA)のエキスパートパネルは1958食物添加物改良法のもとにGRAS(通常安全と認められる)状態の評価のためにフレーバ成分の検討を続けてきた。本論は過去2年間の検討結果を報告する最新の報告である。GRASと決定された22個の新フレーバ成分を表1に示す。」(104頁左欄16〜23行)との記載とともに、112頁の「GRAS16-主要な名称、同義語」の表には、「FEMANo.3785」として「4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオール」が示され、116頁の表には、FEMANo.が「3785」である「4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオール」には「他の用途」として、「インスタントコーヒー及び茶-0.001/0.01」との記載がある。
よって検討するに、甲第1号証には、「インスタントコーヒー及び茶」というように「茶」という記載はあるものの、この「茶」に「緑茶」が包含されるか否かは不明である。
しかるに、乙第1号証(「LONGMAN DICTIONARY OF CONTEMPORARY ENGLISH-3rd Edition」Londman Group Ltd 1995年)には、「tea」の項に、「a hot brown drink made by pouring boiling water onto the dried leaves from a paticular bush」との記載があるのに対し、「green tea」の項には「light-coloured tea made from leaves that have been heated with steam」との記載があり、この記載によると「緑茶」たる「green tea」は「light-coloured tea」であって、「tea」が「a hot brown drink」であるのと相違する。
また、乙第2号証(「カレッジライトハウス和英辞典」研究社発行)には、「ちゃ 茶」の項に、「(2)英米ではteaと言えば普通「紅茶」(black tea)を指す。「日本茶」はgreen teaという」、並びに乙第3号証(「ジーニアス英和辞典」大修館書店発行)には、「tea」の項に、「英米では単にteaと言えば紅茶のこと。green tea(緑茶)などと区別する場合は特にblack teaという。」との記載があり、これらの記載を踏まえると、甲第1号証における「茶」には、「緑茶」が含まれないと解するのが相当である。
そうすると、訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、「4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールからなる緑茶飲料用添加剤」であるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
また、訂正後の請求項2及び3に係る発明(以下、「本件発明2及び3」という。)は、前者が「4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールを10-3〜104ppbの濃度添加したことを特徴とする緑茶飲料用香味料組成物」であり、後者が「4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールを10-5〜102ppbの濃度添加したことを特徴とする緑茶飲料」であって、これらの事項については、いずれも甲第1号証には記載されていないから、本件発明2及び3も、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

3.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1乃至3についての特許を取り消すことはできない。
また他に本件発明1乃至3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
2-ブタンチオール化合物からなる茶飲料用添加剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールからなる緑茶飲料用添加剤。
【請求項2】 4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールを10-3〜104ppbの濃度添加したことを特徴とする緑茶飲料用香味料組成物。
【請求項3】 4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールを10-5〜102ppbの濃度添加したことを特徴とする緑茶飲料。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は茶飲料用添加剤、該添加剤を添加した茶飲料用香味料組成物および該組成物を添加した茶飲料に関する。
【0002】
【従来の技術】
緑茶に代表される茶類は、日々の生活に潤いを与え、日本人の生活にはなくてはならないものである。最近では茶類の持つ抗酸化性が注目を集めており、健康的な飲み物として、茶飲料は無糖飲料の代表的なものとなってきている。しかしながら、従来の茶飲料の持つ欠点としては、茶類が本来持っていた入れ立ての馥郁とした香りが消費者の手に渡る前に失われるという問題点があった。この問題を解決する手段として、入れ立ての茶の香気を得るために、茶葉に短時間に蒸気を通ずる方法(特開平8-116882)、酸化防止剤の存在下に茶から香気成分を蒸留する方法(特開平8-73886)等が提案されている。しかしながら、上記方法で得られた香気も経時的に劣化が進行し、問題の解決とはならなかった。
【0003】
茶飲料自体の香味を増強する手段として、茶の香気は茶葉に存在するカロチン類の分解によるとの考えから、茶飲料にカロチン類の熱分解物を加える方法が提案されている(特公平7-99995)が、これにより得られる香味は主として花香調であり、茶本来の持つ香りではなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、入れ立ての茶が持つ軽く穏やかなグリーン香を持った茶飲料を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、極微量の4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールを茶飲料に添加することにより、入れ立ての茶が持つ良質な香味を有する茶飲料が得られることを発見し、本発明を完成させた。
従って本発明は、4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールよりなる茶飲料用添加剤からなる。さらに本発明は4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールを10-3〜104ppb濃度添加したことを特徴とする茶飲料用香味料組成物からなる。本発明はさらに4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールを10-5〜102ppb濃度添加したことを特徴とする茶飲料からなる。
【0006】
本発明で使用される4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールは、ブラックカラントに見いだされた成分であるが、茶類の成分としては未だ報告されたものはなく、ましてや茶飲料用として研究されたことのない物質である。4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールは、上記天然物から抽出、減圧条件下での精密蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等の手段で得るか、或いは合成手段によって得ることができる。4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールの匂いは極めて強く、水溶液中での閾値は0.03〜0.06ppbとされ、微量でも不快臭を感じるものであるが、10-5〜102ppb、より好ましくは10-4〜10ppb、更に好ましくは10-3〜1ppbの範囲で茶飲料に含有されたときに限り、入れ立ての茶が持つ軽く穏やかなグリーン香を持った茶飲料が得られる。含有量が10-5ppb未満であれば、他のいかなる成分との相乗効果によってしても入れ立ての茶が持つ軽く穏やかなグリーン香は得られず、含有量が102ppbを越えると、不快臭が強く飲料に適さない。したがって、4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールを香味料組成物の中に添加する場合は、当該香味料を茶飲料中に1%添加する場合、10-3〜104PPb、より好ましくは10-2〜103ppb、更に好ましくは10-1〜102ppbの範囲で添加されなければならない。4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールは極微量で使用されるため、好ましくはエタノールやプロピレングリコール等の溶剤に溶解させて、そのまま茶飲料に添加するか、或いは茶飲料用香味料組成物に添加して用いられる。
【0007】
本発明の茶飲料用添加剤が添加される茶飲料の例としては、緑茶、紅茶、ウーロン茶などの茶葉を常法により熱水、温水または冷水で抽出して得られる茶抽出液、茶の香味成分を適宜調合して得られる茶香味を有する調合飲料などがあげられ、茶飲料用香味料組成物の例としては、上記茶抽出液を蒸留して得られる茶溜出液または茶の香味成分を調合して得られる添加用組成物などがあげられる。調合に使用される茶の香味成分には特に制限はなく、(Z)-3-ヘキセノール、β-イオノン、ヘキサナール、リナロールオキシド、イソブチルアルデヒド、ヘキサノール、オクタノール、ベンジルアルコール、(E)-2-ノネナール、リナロール等、公知の茶用香味成分が目的に応じて適宜混合して用いられる。
【0008】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより
限定されるものではない。
【0009】
実施例1
緑茶抽出液100重量部に対し、4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールの10ppbエタノール溶液を0.1重量部加え、4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオール0.01ppb含有する本発明の緑茶飲料を得た。このものは緑茶独特の苦味及び渋みが軽減し、入れ立ての茶が持つ軽く穏やかなグリーン香を持ったものであった。
【0010】
実施例2
緑茶抽出液を蒸留して得られた緑茶飲料用香味料組成物100重量部に対し、4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールの100ppbエタノール溶液を0.02重量部加え、4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールを0.02ppb含有する本発明の茶飲料用香味料組成物を得た。このものを緑茶抽出物100重量部に対し1重量部添加したところ、緑茶独特の苦味及び渋みが軽減し、入れ立ての茶が持つ軽く穏やかなグリーン香を持った緑茶飲料が得られた。
【0011】
実施例3
表1の緑茶飲料用香味料組成物100重量部に、4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールの1ppbエタノール溶液を5重量部加え、4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールを0.05ppb含有する本発明の香味料組成物を得た。このものを緑茶抽出物100重量部に対し、1重量部加え、4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールを0.0005ppb含有する緑茶飲料を調製した。
【0012】
【表1】
表 1
成分名 重量部
(Z)-3-ヘキセノール 0.2
β-イオノン 0.1
ヘキサナール 0.1
リナロールオキシド 0.4
イソブチルアルデヒド 0.1
ヘキサノール 1.0
オクタノール 0.06
ベンジルアルコール 0.04
(E)-2-ノネナール 0.002
リナロール 0.06
95%アルコール 適量
水 400
計 1000
【0013】
比較例1
表1の緑茶飲料用香味料組成物100重量部に、4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールの1000ppmエタノール溶液を2重量部加え、4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールを20ppm含有する香味料組成物を得た。このものを緑茶抽出物100重量部に対し1重量部加え、4-メトキシ-2-メチル-2-ブタンチオールを200ppb含有する緑茶飲料を調製した。
【0014】
試験例
実施例3及び比較例1の緑茶飲料を、8名のパネルで7段階評価を行い、その結果を表2に示した。
【0015】
【表2】

【0016】
【発明の効果】
本発明の茶飲料用添加剤を茶飲料に添加することにより、入れ立ての茶類が持つ軽く穏やかなグリーン香を持った茶飲料を提供することができる。
 
訂正の要旨 (訂正の要旨)
特許請求の範囲の請求項1乃至3に係る記載「茶飲料」を、特許請求の範囲の減縮を目的として「緑茶飲料」と訂正する。
異議決定日 2001-02-27 
出願番号 特願平11-162150
審決分類 P 1 651・ 113- YA (A23F)
最終処分 維持  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 斎藤 真由美
田中 久直
登録日 2000-01-28 
登録番号 特許第3026436号(P3026436)
権利者 小川香料株式会社
発明の名称 2―ブタンチオ―ル化合物からなる茶飲料用添加剤  
代理人 西村 公佑  
代理人 西村 公佑  
代理人 高木 千嘉  
代理人 高木 千嘉  

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