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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 特29条の2  C04B
管理番号 1044926
異議申立番号 異議2000-71572  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-17 
確定日 2001-05-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2964725号「セラミック基板用組成物」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2964725号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.本件の経緯
本件特許第2964725号は、平成3年9月19日に出願し、平成11年8月13日に設定登録され、同年10月18日に特許公報に掲載されたところ、平成12年4月17日に三浦次郎から、平成12年4月18日に小野尚純、京セラ株式会社および日本特殊陶業株式会社からそれぞれ特許異議の申立を受けたものであって、その後平成12年11月30日付で取消理由通知(平成12年12月15日発送)がなされ、その指定期間内である平成13年2月13日に訂正請求がなされたものである。
2.設定登録時の本件発明
設定登録時の本件発明は、特許公報に掲載されたとおりの次のものである。
[請求項1]重量%表示で、ガラスフリット60〜95%とチタン酸塩5〜40%からなることを特徴とするセラミック基板用組成物。
[請求項2]前記チタン酸塩がSrTiO3である請求項1記載のセラミック基板用組成物。
[請求項3]前記チタン酸塩がCaTiO3である請求項1記載のセラミック基板用組成物。
[請求項4]前記ガラスフリットが重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%、PbO 7.8〜8.3%、CaO 3.3〜3.8%、B2O3 2.5〜3.0%、MgO 1.1〜1.5%、Na2O 1.1〜1.5%、K2O 0.8〜1.1%で構成される請求項1乃至3いずれかに記載のセラミック基板用組成物。
3.特許異議申立人の主張
3-1.三浦次郎の主張
特許異議申立人三浦次郎は、甲第1〜3号証を提出して次のような主旨の主張をしている。
(イ)本件請求項1〜3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜3号証に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、もしくは、同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(ロ)本件請求項4に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
3-2.小野尚純の主張
特許異議申立人小野尚純は、甲第1〜5号証を提出して次のような主旨の主張をしている。
(ハ)本件請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜4号証に記載された発明と同一であり、また、本件請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と同一であり、さらに、本件請求項3に係る発明は、甲第1〜2号証に記載された発明と同一であるから、本件請求項1〜3に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
(ニ)本件請求項4に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
3-3.京セラ株式会社の主張
特許異議申立人京セラ株式会社は、甲第1〜4号証を提出して次のような主旨の主張をしている。
(ホ)本件請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜3号証に記載された発明と同一であるか、もしくは、それらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、もしくは、同条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
(ヘ)本件請求項2及び3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、或いは、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
3-4.日本特殊陶業株式会社の主張
特許異議申立人日本特殊陶業株式会社は、甲第1〜2号証を提出して次のような主旨の主張をしている。
(ト)本件請求項1〜3に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(チ)本件請求項1〜3に係る発明は、本件特許の出願の日前に出願し、本件特許の出願後に出願公開された甲第2号証に係る先願の出願当初の明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者は先願の発明者と同一ではないし、また、本件特許の出願の時に、本件特許の出願人は先願の出願人と同一ではないから、本件請求項1〜3に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
(リ)本件明細書の[0019]〜[0028]段落及び[表1]には、本発明の実施例についての説明がなされており、表1中では(1)〜(4)が実施例で、(5)〜(8)は請求範囲外であって、従来の組成物であるとしているが、上記(1)〜(4)の実施例は、いずれもガラスフリットの組成が請求項4に規定される範囲内にあり、一方、(5)および(6)は、ガラスフリットの組成が請求項4に規定される範囲外であるため、絶縁破壊強度、曲げ強度、TCC、焼成温度等が本発明の目的および作用効果を満足しないことが示されている。そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明によれば、ガラスフリットの組成を特定の範囲内としたとき初めて本件発明は効果を奏するのであるから、ガラスフリットの組成を特定していない本件請求項1〜3に係る発明は、本件明細書に記載されたものとはいえない。したがって、本件明細書の記載は不備であるから、本件請求項1〜3に係る特許は、その明細書が特許法第36条の規定を満たしていない出願に対してなされたものである。
4.訂正の要旨
平成13年2月13日付訂正請求における訂正の要旨は次のとおりである。
(a)特許請求の範囲の請求項1の「からなる」と「ことを特徴とするセラミック基板用組成物」の間に、「セラミック基板用組成物であって、前記ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%を含む」を挿入する。
(b-1)特許請求の範囲の請求項4の「前記ガラスフリットが重量%表示で、・・・で構成される請求項1乃至3いずれかに記載のセラミック基板用組成物」を、「重量%表示で、ガラスフリット60〜95%とチタン酸塩5〜40%からなるセラミック基板用組成物であって、前記ガラスフリットが重量%表示で、・・・で構成されることを特徴とするセラミック基板用組成物。」と訂正する。
(b-2)特許請求の範囲の請求項4の「B2O3」を、「B2O3」と訂正する。
(c-1)本件明細書の[0004]段落の「Al2O3」を、「Al2O3」と訂正する。
(c-2)本件明細書の[0008]段落の「B2O3」を、「B2O3」と訂正する。
(c-3)本件明細書の[0010]段落の「SiO2」を、 「SiO2」と訂正する。
(c-4)本件明細書の[0015]段落の「Na2O」を、 「Na2O」と訂正する。
(c-5)本件明細書の[0016]段落の「K2O」を、 「K2O」と訂正する。
5.訂正の適否についての検討
5-1.訂正の目的
上記(a)の訂正は、特許請求の範囲の請求項1において、ガラスフリットの主成分を規定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に相当する。
上記(b-1)の訂正は、特許請求の範囲の請求項4において、請求項1,2および3の引用を外して独立形式の請求項とし、併せて引用していた訂正前の請求項1の「重量%表示で、ガラスフリット60〜95%とチタン酸塩5〜40%からなることを特徴とするセラミック基板用組成物」という内容を文章として書き起こしたものであって、請求項2および3の引用を外し、また、訂正前の請求項1の内容は引き継いでいるから、特許請求の範囲の減縮に相当する。
上記(b-2)、(c-1)〜(c-5)の訂正は、化学式中の右下小文字が大文字に誤っていたものを直すものであるから、誤記の訂正である。
5-2.新規事項
上記(a)の訂正は、本件明細書の[0008]段落や[0010]段落や「0017」段落等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものである。
上記(b-1)〜(b-2)、(c-1)〜(c-5)の訂正は、その内容からみて、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
5-3.拡張・変更
上記(a)、(b-1)〜(b-2)、(c-1)〜(c-5)の訂正は、その内容からみて、実質上特許請求の範囲を拡張したり、変更したりするものでないことは明らかである。
5-4.訂正の認否
上記5-1,5-2および5-3の項で検討したように、上記訂正は、特許法第120条の4の第2項の第1号および第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項で準用する同法第126条第2項および第3項の規定に適合するものであるから、上記訂正は認める。
6.訂正後の本件発明
訂正後の本件発明は、上記訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲に記載された次のものである。
[請求項1]重量%表示で、ガラスフリット60〜95%とチタン酸塩5〜40%からなるセラミック基板用組成物であって、前記ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%を含むことを特徴とするセラミック基板用組成物。
[請求項2]前記チタン酸塩がSrTiO3である請求項1記載のセラミック基板用組成物。
[請求項3]前記チタン酸塩がCaTiO3である請求項1記載のセラミック基板用組成物。
[請求項4]重量%表示で、ガラスフリット60〜95%とチタン酸塩5〜40%からなるセラミック基板用組成物であって、前記ガラスフリットが重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%、PbO 7.8〜8.3%、CaO 3.3〜3.8%、B2O3 2.5〜3.0%、MgO 1.1〜1.5%、Na2O 1.1〜1.5%、K2O 0.8〜1.1%で構成されることを特徴とするセラミック基板用組成物。
7.特許異議申立人の主張についての検討
7-1.三浦次郎の主張について
7-1-1.上記(イ)の主張について
甲第1号証(特開平3-45556号公報)には、「CaTiO3 5〜35wt% Al2O3 15〜45wt% ホウケイ酸亜鉛系ガラス 40〜60wt%を主成分とするセラミック回路基板用誘電体組成物。」(特許請求の範囲第1項)等が記載されており、その実施例では、ホウケイ酸亜鉛系ガラスの一例としてSiO2 35wt%、B2O3 15wt%、Al2O3 5wt%、ZnO 20wt%、PbO 20wt%、CaO 5wt%を用いたことが記載されている(第2頁左下欄8〜11行を参照)。
そして、本件発明でいうガラスフリットは、本件明細書の「0020」段落の「まずガラスフリットは、重量%でSiO2 27%、PbO 8.1%、CaO 3.5%、B2O3 2.7%、MgO 1.3%、Na2O 1.3%、K2O 1.1%の組成になるように、通常の方法により各原料を調合し、1400〜1500℃の温度にて撹拌しながら溶融し、溶融後、水砕又は、フレーク状とし、これにAl2O3 55重量%を添加し、ガラスフリットを作製した。」と記載されていることからして、ガラス粉末にAl2O3を添加したものである。
そうすると、甲第1号証に記載された発明におけるAl2O3とホウケイ酸亜鉛系ガラスとを合わせたものが、本件発明でいうガラスフリットに対応するので、Al2O3とホウケイ酸亜鉛系ガラスの合計の組成について考察すると、甲第1号証に記載のものは、訂正後の本件請求項1でいうAl2O3 50〜60重量%という規定を満たそうとして、Al2O3とホウケイ酸亜鉛系ガラスとの比率を50:50にすると、Al2O3の重量%は、Al2O3に由来する50%と、ホウケイ酸亜鉛系ガラス中のAl2O3(5%)に由来する5%×0.50=2.5%との合計で、52.5%となり、確かに、訂正後の本件請求項1でいうAl2O3 50〜60重量%という規定を満たすものの、その場合のSiO2の重量%は、35%×0.50=17.5%となってしまい、訂正後の本件請求項1でいうSiO2 25〜30重量%という規定を満たすことができない。
また、訂正後の本件請求項1でいうSiO2 25〜30重量%という規定を満たそうとして、SiO2を含有しているホウケイ酸亜鉛系ガラスの比率を上げ、Al2O3とホウケイ酸亜鉛系ガラスとの比率を47:53にすると、Al2O3の重量%は、Al2O3に由来する47%と、ホウケイ酸亜鉛系ガラス中のAl2O3(5%)に由来する5%×0.53=2.65%との合計で、49.65%となり、訂正後の本件請求項1でいうAl2O3 50〜60重量%という規定を既に外れてしまうし、しかも、その場合でさえ、SiO2の重量%は、35%×0.53=18.55%にしかならず、訂正後の本件請求項1でいうSiO2 25〜30重量%という規定に遥かに及ばない。
したがって、甲第1号証に記載された発明において、Al2O3とホウケイ酸亜鉛系ガラスとを合わせたものの組成が、Al2O3が50〜60重量%、SiO2が25〜30重量%となることはないから、甲第1号証には、ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%を含むものである本件請求項1に係る発明は記載されていない。
甲第2号証(特開昭56-37274号公報)には、「Al、Sr、Mg、Siがこれ等の化合物であるAl2O3、SrTiO3、MgO、SiO2に換算した状態で、Al2O3、SrTiO3、MgO+SiO2の三元図における、
Al2O3 96重量%、SrTiO3 2重量%、MgO+SiO2 2重量%を示す点(A)と、
Al2O3 80重量%、SrTiO3 10重量%、MgO+SiO2 10重量%を示す点(B)と、
Al2O3 40重量%、SrTiO3 10重量%、MgO+SiO2 50重量%を示す点(C)と、
Al2O3 40重量%、SrTiO3 58重量%、MgO+SiO2 2重量%を示す点(D)と、
を順次に結ぶ直線で囲まれた範囲に含まれ且つMgOとSiO2とのモル比がMgO/SiO2≧2となる範囲に含まれ且つSiO2が0.5重量%以上の範囲に含まれるような割合で混合されたものを焼結した磁器組成物。」(特許請求の範囲)が記載されており、その第1頁右下欄7〜12行には、「本発明は、コンデンサを形成することが可能な絶縁回路基板を形成するのに好適な酸化物磁器組成物に関し、更に詳細には、コンデンサを形成する時に要求される特性を有していると共に、IC等の回路基板を作る時に要求される特性も有している磁器に関するものである。」と記載されているが、甲第2号証に記載された発明の磁器組成物は、原料のAl、Sr、Mg、Siの化合物を混合して焼結し、Al2O3、SrTiO3、MgO+SiO2の三元系のセラミックスを直接製造するものであって、ガラスフリットを使用するものではない。
甲第3号証(特開昭63-291307号公報)には、「チタン酸ストロンチウム若しくはチタン酸鉛をχとし、フッ素金雲母若しくはフッ素四ケイ素雲母を(1-χ)としたとき、
重量比で0.1≦χ≦0.25となるように前記2物質を調合した混合物に、
酸化ホウ素-二酸化ケイ素-酸化アルミニウムからなるガラス粉末を20〜40wt%添加したことを特徴とする高周波用誘電体材料。」(特許請求の範囲)が記載されているものの、これは、高周波用誘電体材料であって、基板用ではないし、また、フッ素金雲母やフッ素四ケイ素雲母を使用するものであるから、本件発明と明らかに相違している。
なお、特許異議申立人三浦次郎は、特許異議申立書第9頁15〜17行で、「雲母は、同号証(甲第3号証)第1頁右下欄4行の「マイカ結晶化ガラス」の記載から明らかなようにガラス成分と考えることができるので、雲母とガラスの合計をガラスフリットと見なすことができる。」と主張しているが、例えば、「セラミックス辞典 第2版」(社団法人日本セラミクス協会編、丸善(株)、平成9年3月25日発行、p.699)に、マイカ結晶化ガラスについて、「ガラスを加熱して、フッ素金雲母または四ケイ素雲母を析出させた結晶化ガラス。普通の旋盤やのこぎりで容易に穿孔、切削などの機械加工ができる。例えば、K2O 9.5、MgO 14.5、Al2O3 16.7、B2O3 8.7、SiO2 47.2、F 6.3[mass%]の組成のガラスを1050℃まで加熱し、ガラス中にアスペクト比が10程度のフッ素金雲母KMg3AlSi3O10F2の平板状結晶(大きさ数μm)を析出させるとマイカ結晶化ガラスが得られる。機械加工が容易で、電気絶縁性の高い材料として市販されている。」と記載されているように、マイカ結晶化ガラスは、特殊な組成のガラスを加熱してフッ素金雲母や四ケイ素雲母を析出させた特殊な結晶化ガラスであるし、また、甲第3号証の第2頁3〜13行に、「このようにして得られたフッ素金雲母の試料粉末、SrTiO3の試料、PbTiO3の試料粉末及びB2O3-SiO2-Al2O3からなるガラス粉末を、以下に記した第1表中に示した割合で調合し、坩堝内で混合して1450℃で溶融した後、20φ×20tの内容積を持つグラファイト坩堝に流し込んで急冷し、円柱状のガラスを作成した。この円柱状ガラスを焼きなまし温度(1000℃)で再加熱し、ガラス中に雲母とSrTiO3やPbTiO3の結晶を析出させ、円柱状の試料を得た。」と記載されているように、甲第3号証に記載された高周波用誘電体材料におけるフッ素金雲母やフッ素四ケイ素雲母は、ガラス中に雲母を析出させるための成分である。
そして、本件明細書には、ガラスフリットを加熱してフッ素金雲母またはフッ素四ケイ素雲母を析出させることは全く記載されておらず、そのようなことを意図していないことは明らかであるから、甲第3号証に記載された高周波用誘電体材料におけるフッ素金雲母やフッ素四ケイ素雲母は、本件発明でいうガラスフリットの成分に当たるものではない。
してみると、訂正後の本件請求項1に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明と同一であるとは認められないし、また、請求項1を引用している訂正後の本件請求項2および3に係る発明も、甲第1〜3号証に記載された発明と同一であるとは認められない。
そして、本件明細書の実施例の組成例(1)〜(6)によれば、ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%という範囲に含まれる組成例(1)〜(4)が、その範囲を外れた組成例(5)〜(6)に対し、総合特性において優れていることは明らかであるから、訂正後の本件請求項1に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められないし、また、請求項1を引用している訂正後の本件請求項2および3に係る発明も、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
したがって、上記(イ)の主張は理由がない。
7-1-2.上記(ロ)の主張について
甲第1号証(特開平3-45556号公報)については、上記7-1-1の項で既に検討したところであり、また、本件明細書の実施例の組成例(1)〜(6)によれば、ガラスフリットが重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%、PbO 7.8〜8.3%、B2O3 2.5〜3.0%、MgO 1.1〜1.5%、Na2O 1.1〜1.5%、K2O 0.8〜1.1%という範囲に含まれる組成例(1)〜(4)が、その範囲を外れた組成例(5)〜(6)に対し、総合特性において優れていることは明らかであるから、本件請求項4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
したがって、上記(ロ)の主張も理由がない。
7-2.小野尚純の主張について
7-2-1.上記(ハ)の主張について
甲第1号証(特開平3-45556号公報)は、特許異議申立人三浦次郎の提出した甲第1号証と同じであって、上記7-1-1の項で既に検討したところである。
甲第2号証(特開昭49-76100号公報)には、「重量基準で(a)チタン酸カルシウム1〜40%と(b)下記成分すなわち25〜40%SiO2、5〜15%TiO2,7〜12%Al2O3,10〜30%BaO、10〜26%ZnO、2〜10%CaOおよび2〜8%B2O3そして場合により2%までのMgOおよび4%までのBi2O3よりなりしかもBaOとZnOとの和がそのガラスの30〜40%であるようなガラスフリット60〜99%とより本質的になることを特徴とする、印刷回路中における誘電体層を形成するに有用な粉末組成物。」(第7頁右下欄の特許請求の範囲)が記載されているが、その第2頁左下欄15〜17行に、「本組成物は、乾燥時かまたは不活性液体ベヒクル中の分散液として基材上に印刷(通常スクリーン印刷)することができる。」と記載されているように、それは、基材上に印刷して印刷回路中における誘電体層を形成するものであるから、基板用のものではなく、しかも、Al2O3を7〜12重量%しか含まないから、ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%を含むものである訂正後の本件請求項1に係る発明と明らかに相違しており、また、請求項1を引用している訂正後の本件請求項2および3の発明とも明らかに相違している。
甲第3号証(特開平2-225339号公報)には、「ガラス組成物粉末に、このガラス組成物粉末よりも強度の高い高強度粉末と、ガラス組成物粉末よりも熱膨張率の小さな低熱膨張率粉末とを添加したものを焼成してなるとともに、前記ガラス組成物粉末の焼成後の結晶構造における主結晶がα-コージエライトであるガラスセラミック焼結体。」(特許請求の範囲第1項)等が記載されており、その第1頁右下欄10〜15行には、「この発明は、ガラスセラミック焼結体に関し、詳しくは、各種半導体部品を搭載したり、電気信号の入出力用端子ピン等を取り付けたりして機能モジュールを構成するためのセラミック配線基板等として利用されるガラスセラミック焼結体に関するものである。」と記載されている。
そして、特許異議申立人小野尚純は、第2表の実施例8を指摘しているが、その第2表の実施例8のG-3(ガラス組成物粉末)70%、アルミナ粉末15%、チタン酸アルミニウム粉末15%(いずれも体積%)および第1表のG-3(ガラス組成物)-SiO2 54.5%、Al2O3 18.2%、MgO 18.2%、B2O3 9.1%(いずれも重量%)からみて、本件発明でいうガラスフリットに対応する甲第3号証のガラスセラミック焼結体の原料のG-3(ガラス組成物粉末)とアルミナ粉末の合計の中のAl2O3の割合は、体積%であるとしてもアルミナ粉末の配合割合が15%と小さいこと、および、G-3(ガラス組成物粉末)中のAl2O3の含有割合が18.2重量%と小さいことからして、Al2O3が50重量%以上となるようなことはなく、また、G-3(ガラス組成物粉末)中のSiO2の含有割合が54.5重量%と大きく、しかも、体積%であるとしてもG-3(ガラス組成物粉末)の配合割合が70%と大きいから、本件発明でいうガラスフリットに対応する甲第3号証のガラスセラミック焼結体の原料のG-3(ガラス組成物粉末)とアルミナ粉末の合計の中のSiO2が30重量%以下となるようなことはない。
したがって、甲第3号証にも、ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%を含むものである訂正後の本件請求項1に係る発明は記載されていない。
甲第4号証(特開平2-225340号公報)には、「ガラス組成物粉末に、このガラス組成物粉末よりも熱膨張率の小さな低熱膨張率粉末を添加したものを焼成してなるとともに、前記ガラス組成物粉末の焼成後の結晶構造における主結晶がα-コージエライトであるガラスセラミック焼結体。」(特許請求の範囲第1項)、「ガラス組成物粉末が、SiO2 48〜63重量%、Al2O3 10〜25重量%、MgO 10〜25重量%、B2O34〜10重量%からなる組成を有する粉末である請求項1記載のガラスセラミック焼結体。」(特許請求の範囲第2項)、「低熱膨張率粒子が、コージエライト、石英ガラス、チタン酸アルミニウム、β-スポジュメン、β-ユークリプタイトの中から選ばれた少なくとも1種以上の粉末である請求項1または2記載のガラスセラミック焼結体。」(特許請求の範囲第3項)が記載されており、その第1頁右下欄5〜10行には、「この発明は、ガラスセラミック焼結体に関し、詳しくは、各種半導体部品を搭載したり、電気信号の入出力用端子ピン等を取り付けたりして機能モジュールを構成するためのセラミック配線基板等として利用されるガラスセラミック焼結体に関するものである。」と記載されているものの、甲第4号証に記載された発明では、ガラス組成物中以外にAl2O3は使用していないし、しかも、ガラス組成物粉末中のAl2O3は10〜25重量%と少なく、また、SiO2は48〜63重量%と多いものである。
したがって、甲第4号証にも、ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%を含むものである訂正後の本件請求項1に係る発明は記載されていない。
なお、甲第5号証(「電子材料」、1986年5月、p.59-66)には、内海和明外2名の「CR内蔵形低温焼成多層セラミック基板」についての技術紹介記事が掲載されており、その図2には、CR内蔵形多層セラミック基板の断面構造が示されており、また、第60頁右欄23〜28行には、絶縁材料として、「CR複合基板の基板および小容量の容量素子を形成する材料としては、アルミナとホウケイ酸鉛ガラスの混合粉末を用いた。この材料の組成はアルミナ55wt%、ホウケイ酸鉛ガラス45wt%で、900℃の温度で焼結でき、焼結体の抗折強度は3,000kg/cm2以上と通常のアルミナ程度の値を示す。」と記載されているが、その絶縁材料はチタン酸塩を含むものではない。
してみると、訂正後の本件請求項1に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明と同一であるとは認められないし、また、請求項1を引用している訂正後の本件請求項2に係る発明も、甲第2号証に記載された発明と同一であるとは認められないし、さらに、請求項1を引用している訂正後の本件請求項3に係る発明も、甲第1〜2号証に記載された発明と同一であるとは認められない。
したがって、上記(ハ)の主張は理由がない。
7-1-4.上記(ニ)の主張について
甲第1号証(特開平3-45556号公報)については、上記7-1-1の項で既に検討したところである。
したがって、上記(ニ)の主張も理由がない。
7-3.京セラ株式会社の主張について
7-3-1.上記(ホ)の主張について
甲第1号証(特開平3-45556号公報)は、特許異議申立人三浦次郎の提出した甲第1号証と同じであり、上記7-1-1の項で既に検討したところである。
甲第2号証(特開平2-225340号公報)は、特許異議申立人小野尚純の提出した甲第4号証と同じであり、上記7-2-1の項で既に検討したところである。
甲第3号証(特開昭52-125799号公報)には、「ガラスおよび結晶性物質の混合物であり、而して重量基準で
(a)700℃以上の軟化点およびアルミナのそれよりも低い熱膨張係数を有する1種またはそれ以上のガラス65〜90%、および
(b)全組成物重量基準で
(1)0〜25%のMgTiO3および/または
(2)0〜35%のMgTiO3を形成しうる前駆体酸化物MgOとTiO2の混合物のものである結晶性充填剤10〜35%を包含ししかも粉末組成物中のMgTiO3の重量が10%以下である場合には前駆体結晶性酸化物(2)の相対比率は焼成誘電体層中に全部で少なくとも10%のMgTiO3を存在させるのに充分な量でありそして更に前駆体結晶性酸化物の相対比率は焼成誘電体層中に25%を越えないMgTiO3を存在させるような量であることを特徴とする、アルミナ基材上の伝導体および誘電体層の多層エレクトロニクス構造体中の誘電体層形成に有用な微細分割無機粉末組成物。」(特許請求の範囲第1項)等が記載されているものの、その第3頁左上欄13〜15行には、「本発明によれば、多層エレクトロニクス構造体中の誘電体層を印刷するのに有用な組成物が提供される。」と記載されているように、それは、誘電体層を印刷するための組成物にすぎず、しかも、その組成物は、後記ガラス組成の他にAl2O3を使用しないし、また、その実施例で使用しているガラスは、SiO2 40%、BaO 18%、CaO 5%、B2O3 6%、Al2O3 10%、MgO 5%、ZnO 8%、PbO 8%の組成であり、その「%」については特段の断りないことからガラス組成で通常使用される重量%と解されるが、SiO2の割合が大きく、Al2O3の割合が小さいものであるから、甲第3号証には、ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%を含むものである訂正後の本件請求項1に係る発明は記載されていない。
そして、既に上記7-1-1の項で記載したように、本件明細書の実施例の組成例(1)〜(6)によれば、ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%という範囲に含まれる組成例(1)〜(4)が、その範囲を外れた組成例(5)〜(6)に対し、総合特性において優れていることは明らかである。
してみると、訂正後の本件請求項1に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明と同一であるとは認められないし、また、それらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。
したがって、上記(ホ)の主張も理由がない。
7-3-2.上記(ヘ)の主張について
甲第1〜3号証については、上記7-1-1,7-2-1および7-3-1の項で既に検討したところであり、また、甲第4号証(岡崎清著、「セラミック誘電体工学 第3版」、(株)学献社、1983年6月10日第3版1刷発行、p.276-277)には、温度補償用磁器コンデンサ材料(7.2.1の項)に関して、SrTiO3の添加はCaTiO3よりも温度係数を負にする効果が大きい旨(第277頁20〜23行を参照)等が記載されているにすぎない。
そして、既に上記7-1-1等の項で述べたように、本件明細書の実施例の組成例(1)〜(6)によれば、ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%という範囲に含まれる組成例(1)〜(4)が、その範囲を外れた組成例(5)〜(6)に対し、総合特性において優れていることは明らかである。
結局、請求項1を引用している本件請求項2及び3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
したがって、上記(ヘ)の主張も理由がない。
7-4.日本特殊陶業株式会社の主張について
7-4-1.上記(ト)の主張について
甲第1号証(特開平3-45556号公報)は特許異議申立人三浦次郎の提出した甲第1号証と同じであり、上記7-1-1の項で既に検討したところである。
したがって、上記(ト)の主張も理由がない。
7-4-2.上記(チ)の主張について
甲第2号証(特開平5-211006号公報)に係る先願(特願平4-231390号、平成3年8月9日に出願した特願平3-224979号に基づいて国内優先権を主張)の出願当初の明細書および図面には、「ガラスと、誘電率の温度係数τεが正の酸化物骨材と、誘電率の温度係数τεが負の酸化物骨材とを含有(ただし、酸化アルミニウムと酸化チタンとをともに含有することはない)する高周波誘電体材料。」(特許請求の範囲の請求項1)等が記載されており、その表2には、ガラスとτε<0の酸化物骨材とτε>0の酸化物骨材を含有するサンプルが挙げられている。そのNo.11,1,12,13は、τε>0の酸化物骨材としてAl2O3を含有させるものの、τε<0の酸化物骨材として、TiO2を含有させるものであって、チタン酸塩を使用していないから、その点で訂正後の本件請求項1〜3に係る発明と相違しているし、また、τε>0の酸化物骨材としてAl2O3を含有させるNo.21,22,41,42のサンプルは、τε<0の酸化物骨材としてチタン酸塩を含有させているものの、Al2O3の含有割合は36.0Vol%が最大で、しかも、ガラスの含有割合は最小で60Vol%であり、その[0056]段落に示されているように、ガラス粒子の組成は、SiO2:62モル%、Al2O3:8モル%、B2O3:3モル%、SrO:20モル%、CaO:4モル%、MgO:3モル%であり、SiO2が圧倒的に多くAl2O3は少ないから、Al2O3やガラスの含有割合がVol%で、ガラス粒子の組成がモル%で表されており、それらを重量%で具体的に表示することはともかく、本件発明でいうガラスフリットに対応するものであるAl2O3とガラスを合わせたものの内の、Al2O3が50重量%以上で、しかもSiO2が30重量%以下であるようなものではないといえる。
してみると、甲第2号証に係る先願の出願当初の明細書や図面に、ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%を含むものである訂正後の本件請求項1に係る発明、および、請求項1を引用している訂正後の本件請求項2および3に係る発明が記載されているとすることはできない。
したがって、上記(チ)の主張も理由がない。
7-4-3.上記(リ)の主張について
上記訂正により、訂正後の本件請求項1には、ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%を含むことが規定された。
そして、上記7-1-1等の項で既に述べたように、本件明細書の実施例の組成例(1)〜(6)によれば、ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%という範囲に含まれる組成例(1)〜(4)が、その範囲を外れた組成例(5)〜(6)に対し、総合特性において優れていることは明らかであるから、訂正後の本件請求項1〜3と本件明細書の発明の詳細な説明の記載は充分対応している。
してみると、上記(リ)の主張に関する本件明細書の記載不備は、上記訂正により解消した。
8.むすび
訂正後の本件請求項1〜4に係る特許は、特許異議申立の理由および証拠によっては取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
セラミック基板用組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】重量%表示で、ガラスフリット60〜95%とチタン酸塩5〜40%からなるセラミック基板用組成物であって、前記ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%を含むことを特徴とするセラミック基板用組成物。
【請求項2】前記チタン酸塩がSrTiO3である請求項1記載のセラミック基板用組成物。
【請求項3】前記チタン酸塩がCaTiO3である請求項1記載のセラミック基板用組成物。
【請求項4】重量%表示で、ガラスフリット60〜95%とチタン酸塩5〜40%からなるセラミック基板用組成物であって、前記ガラスフリットが重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%、PbO 7.8〜8.3%、CaO 3.3〜3.8%、B2O3 2.5〜3.0%、MgO 1.1〜1.5%、Na2O 1.1〜1.5%、K2O 0.8〜1.1%で構成されることを特徴とするセラミック基板用組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、導体、抵抗体等の電子回路を多層に形成する多層配線基板に良好なセラミック基板用組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、多層に回路を形成する電子部品としては、焼成したアルミナ基板上に回路、絶縁層を交互に印刷し、これを焼成することによって製造する第1の方法と、未焼成のセラミック基板に回路を印刷し、互いに回路が接触しないようにこれを積層し、プレスした後、焼成して製造する第2の方法がある。
【0003】
第1の方法のものは、回路の影響によってその上に形成する絶縁層に凹凸が生じ、それは上層ほど大きくなる。この凹凸が大きくなると、この上に次の回路を印刷することは難しくなり、通常10層前後が限度とされている。
【0004】
これに対し、第2の方法のものは、回路の印刷は常に平面に近い状態の基板に対して行うために、積層数の多いものを製造することができ、高密度の集積回路形成が行える。この第2の方法の基板に使用するセラミック基板組成物としては、Al2O3粉末と15重量%以下のガラス粉末を無機バインダーで固定したものや、Al2O3-SiO2系にPbやBを混入させ低温で焼成したものがある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の第2の方法のAl2O3粉末と15重量%以下のガラス粉末を無機バインダーで固定したものは、焼成温度が1450〜1600℃と極めて高いので、回路を構成する材料もこの焼成温度で劣化しないMo、W等の高価なものを使用し、又、還元雰囲気で焼成する必要があるので作業性が劣った。
【0006】
Al2O3-SiO2系にPbやBを10wt%以上混入させ低温で焼成したものは、温度変化に対する静電容量の変化率(以下、TCCと記す)が大きいという問題点があった。
【0007】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決し、極めて低い温度、すなわち750〜950℃で焼成でき、Au、Ag、Ag-Pd、Cu等のペーストを内部電極として使用することが可能な、しかも体積固有抵抗率、誘電率、誘電正接、絶縁破壊強度、曲げ強度等、導体、抵抗体等の電子回路を多層に形成する多層配線基板としての諸特性を充足し、さらに、TCCが±0ppm/℃〜100ppm/℃と調整可能なセラミック基板用組成物を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この課題を解決した本発明のセラミック基板用組成物は、重量%表示で、ガラスフリット 60〜95%、チタン酸塩 5〜40%、とからなる。前記チタン酸塩としては、SrTiO3、CaTiO3、がある。又、前記ガラスフリットとしては、重量%で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%、PbO 7.8〜8.3%、CaO 3.3〜3.8%、B2O3 2.5〜3.0%、MgO 1.1〜1.5%、Na2O 1.1〜1.5%、K2O 0.8〜1.1%が望ましい。
【0009】
ガラスフリットが60重量%より少ないと、焼成温度が高くなり、本発明の課題である低温度での焼成を行うことが困難である。一方、ガラスフリットが、95重量%より多いと、焼成体の曲げ強度、及び耐湿性が低下し好ましくない。又、TCCの調整も困難となる。
【0010】
SiO2は25重量%より少ないと、軟化温度が低くなり焼成時に大きな変形を生じ、30重量%より多いと、焼成温度が高くなり過ぎ、いずれも好ましくない。
【0011】
PbOは、ガラスの溶解性を向上させるために、7.8重量%以上の添加が望ましい。8.3重量%より多いと、ガラスの軟化温度が低くなり過ぎ、焼成時に大きな変形を生じやすく、好ましくない。
【0012】
CaOは、ガラスフリット製造時の、溶融性の向上、及びガラスの熱膨張係数を調整する目的で添加する。3.3重量%より少ないと、上記溶融性が向上せず、フリット製造時に失透を生じやすい。3.8重量%より多いと、熱膨張係数が大きくなり過ぎ、いずれも好ましくない。
【0013】
B2O3はフラックスであり、2.5重量%より少ないと、焼成温度が高くなり過ぎ3.0重量%より多いと、ガラスの化学的安定性が低下し、いずれも好ましくない。
【0014】
MgOは、ガラスフリット製造時の、溶融性の向上、及びガラスの熱膨張係数を調整する目的で添加する。1.1重量%より少ないと、上記溶融性が向上せず、フリット製造時に失透を生じやすい。1.5重量%より多いと、熱膨張係数が大きくなり過ぎ、いずれも好ましくない。
【0015】
Na2Oは、ガラスの溶解性を向上させるために、1.1重量%以上の添加が望ましい。1.5重量%より多いと、ガラスの軟化温度が低くなり過ぎ、焼成時に大きな変形を生じやすく、好ましくない。
【0016】
K2Oは、ガラスの溶解性を向上させるために、0.8重量%以上の添加が望ましい。1.1重量%より多いと、ガラスの軟化温度が低くなり過ぎ焼成時に大きな変形を生じやすく、好ましくない。
【0017】
Al2O3は、セラミックの機械的強度を向上させるために、50重量%以上の添加が望ましい。60重量%以上の添加では、焼成温度が高くなり過ぎ、好ましくない。
【0018】
【作用】
この構成によって、従来に比べ極めて低い温度、すなわち750℃〜950℃で焼成でき、厚膜技術で広く使用されているAu、Ag、Ag-Pd、Cu等のペーストを内部電極として適用を可能とし、又、その焼成体は、曲げ強度が大きく、熱伝導率に優れ、誘電率が比較的小さく、絶縁抵抗が大きく、耐熱性に優れており、特に、正のTCC特性を持つガラスフリットと負のTCC特性を持つチタン酸塩系の焼成反応により、TCCの調整を容易にすることができる。
【0019】
【実施例】
以下に本発明の実施例について説明する。
【0020】
まずガラスフリットは、重量%でSiO2 27%、PbO 8.1%、CaO 3.5%、B2O3 2.7%、MgO 1.3%、Na2O 1.3%、K2O 1.1%の組成になるように、通常の方法により各原料を調合し、1400〜1500℃の温度にて撹拌しながら溶融し、溶融後、水砕又は、フレーク状とし、これにAl2O3 55重量%を添加し、ガラスフリットを作製した。
【0021】
次に、このガラスフリットとチタン酸塩のSrTiO3が、それぞれ90重量%、10重量%になるように秤量し、ボールミルにて粉砕、混合し本発明の組成物を得た。この粉砕混合した組成物に、バインダーを10重量%添加し造粒、成形後、900℃にて15分焼成した。この焼成体の相対密度を測定したところ、99.98%であったので、直径30mm、厚み0.35mmに加工後、Ag電極を焼き付け、TCCを測定したところ、-25℃〜+85℃にて±0ppm/℃であった。
【0022】
そこで、この粉砕混合した組成物に種々のバインダーや可塑剤、溶剤を添加、混練して粘度10ps〜30psのペーストを作製した。このペーストを常法のドクターブレード法により、厚み0.1mmのグリーンシートとした。このグリーンシートを50枚重ね、その後、35℃にて約50トンの圧力にて熱圧着させ、900℃にて15分焼成した。焼成したシートの各種特性を測定したところ、体積固有抵抗率1014〜16Ω、誘電率8〜11、誘電正接≦5×10-4、絶縁破壊強度700〜900KV/cm、曲げ強度2000〜2500kg/cm2、TCC(-25℃〜+85℃)±0ppm/℃であった。即ち、導体、抵抗体等の電子回路を多層に形成する多層配線基板としての良好なセラミック基板の特性を満足する結果を得た。
【0023】
さらに、上記ガラスフリットとSrTiO3が、それぞれ94重量%、6重量%になるように秤量し、ボールミルにて粉砕、混合し、上記方法にてグリーンシートの焼成体を得た。この場合の焼成温度は、800℃であった。焼成したシートの各種特性を測定したところ、体積固有抵抗率、誘電率、誘電正接、絶縁破壊強度、曲げ強度等は、上記と同等の値を得た。TCCは、+50ppm/℃であった。
【0024】
ガラスフリットとCaTiO3が、それぞれ70重量%、30重量%の場合は、焼成温度870℃にて、体積固有抵抗率、誘電率、誘電正接、絶縁破壊強度、曲げ強度等は、上記と同等の値を得た。TCCは、-20ppm/℃であった。
【0025】
ガラスフリットとCaTiO3が、それぞれ60重量%、40重量%の場合は、焼成温度920℃にて、体積固有抵抗率、誘電率、誘電正接、絶縁破壊強度、曲げ強度等は、上記と同等の値を得た。TCCは、-30ppm/℃であった。
【0026】
さらに、Au、Ag、Ag-Pd、Cu等の、ペーストを内部電極とし積層した、焼成体についても同様の結果を得た。以上の結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明は表1から分かるように、従来の組成物と比較して極めて低い温度で焼成が実現できるようになり、TCCの調整が容易である。
【0029】
【発明の効果】
以上の様に、本発明によれば、極めて低い温度、すなわち750〜950℃で焼成が実現できるようになり、Au、Ag、Ag-Pd、Cu等のペーストを内部電極として使用することが可能となった。更に、焼成体の各種要求特性、すなわち、体積固有抵抗率、誘電率、誘電正接、絶縁破壊強度、曲げ強度等、また導体、抵抗体等の電子回路を多層に形成する多層配線基板としての特性を満足し、更に、TCCも±0ppm/℃〜±100ppm/℃と調整が容易なセラミック基板用組成物を実現できるものである。
 
訂正の要旨 特許第2964725号の明細書中、特許請求の範囲の減縮を目的として、
(a)特許請求の範囲の請求項1の「からなる」と「ことを特徴とするセラミック基板用組成物」の間に、「セラミック基板用組成物であって、前記ガラスフリットが主成分として、重量%表示で、Al2O3 50〜60%、SiO2 25〜30%を含む」を挿入し、
(b-1)特許請求の範囲の請求項4の「前記ガラスフリットが重量%表示で、・・・で構成される請求項1乃至3いずれかに記載のセラミック基板用組成物」を、「重量%表示で、ガラスフリット60〜95%とチタン酸塩5〜40%からなるセラミック基板用組成物であって、前記ガラスフリットが重量%表示で、・・・で構成されることを特徴とするセラミック基板用組成物。」と訂正し、
誤記の訂正を目的として、
(b-2)特許請求の範囲の請求項4の「B2O3」を、「B2O3」と訂正し、
(c-1)本件明細書の[0004]段落の「Al2O3」を、「Al2O3」と訂正し、
(c-2)本件明細書の[0008]段落の「B2O3」を、「B2O3」と訂正し、
(c-3)本件明細書の[0010]段落の「SiO2」を、「SiO2」と訂正し、
(c-4)本件明細書の[0015]段落の「Na2O」を、「Na2O」と訂正し、
(c-5)本件明細書の[0016]段落の「K2O」を、「K2O」と訂正する。
異議決定日 2001-04-20 
出願番号 特願平3-239217
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C04B)
P 1 651・ 16- YA (C04B)
P 1 651・ 121- YA (C04B)
P 1 651・ 534- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深草 祐一  
特許庁審判長 加藤 孔一
特許庁審判官 唐戸 光雄
野田 直人
登録日 1999-08-13 
登録番号 特許第2964725号(P2964725)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 セラミック基板用組成物  
代理人 坂口 智康  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 坂口 智康  

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