• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B62M
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B62M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B62M
審判 全部申し立て 2項進歩性  B62M
管理番号 1045151
異議申立番号 異議1999-71609  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-07-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-04-23 
確定日 2001-09-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第2820794号「自転車用ギヤシフトアクチュエータ」の請求項1ないし42に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2820794号の請求項11ないし13、17ないし24、27ないし32、34、36ないし37、39に係る特許を取り消す。 同請求項1ないし10、14ないし16、25ないし26、33、35、38、40ないし42に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2820794号(以下、「本件特許」という。)は、1992年(平成4年)3月18日(パリ条約による優先権主張1991年(平成3年)3月20日、米国(US))を国際出願日とする特許出願に係り、平成10年8月28日にその請求項1ないし42に係る発明について特許権の設定登録がなされたものであり、その後、全請求項に係る発明の特許に対して、平成11年4月23日に特許異議申立人・株式会社シマノ(以下、「異議申立人」という。)より特許異議の申立てがあったので、当審において当該申立ての理由を検討の上、平成11年11月11日付けで特許取消理由を通知したところ、その通知書で指定した期間内である平成12年5月29日に特許異議意見書と共に訂正請求書が提出され、この訂正請求があったものに対して、当審より平成12年7月26日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、その通知書で指定した期間内である平成13年2月8日に特許異議意見書が提出されたものである。

2.訂正請求の適否について
2-1.訂正請求に係る発明
本件訂正請求に係る発明は、上記平成12年5月29日に提出された訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし41に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項17,18,19,20,21,22,23,26,27,29,30,31,35及び36に係る発明は、それぞれ、次のとおりのものと認める。
「(17) コントロールケーブルをその軸線方向に変位させることで作動せしめられるギヤ切換えシステムを有した多段ギヤ自転車に用いられると共に、前記自転車のハンドルバーに設けられかつシフトダウン方向及びシフトアップ方向において第1軸まわりに選択的に回動可能である回転子を備える手動型の自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕であって、
前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回動可能なジャッキスプールと、前記回転子と前記ジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段とを有し、
前記ジャッキスプールは、それが前記コントロールケーブルを引き寄せるシフトダウン方向において回転可能であり、かつ、それが前記コントロールケーブルを解放するシフトアップ方向において回転可能であり、
前記回転子は、複数のギヤ指定回り止め位置の1つから他のギヤ指定回り止め位置へ回転可能であり、固定されたハンドグリップよりも内寄りに設けられたシフター回転子であり、
前記連動手段は、1つの前記ギヤ指定回り止め位置から他の前記ギヤ指定回り止め位置への前記回転子のシフトダウン方向の回転により前記ジャッキスプールにシフトダウン方向への回転を生ぜしめ、かつ、1つの前記ギヤ指定回り止め位置から他の前記ギヤ指定回り止め位置への前記回転子のシフトアップ方向の回転により前記ジャッキスプールにシフトアップ方向への回転を生ぜしめ、
前記回転子と前記ジャッキスプールとの間の前記連動手段は、ケーブルによる連結部を含む、ことを特徴とする自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕。
(18) 自転車用コントロールケーブルをその軸線方向に移動せしめるべく、自転車のハンドルバーに設けられてかつ前記ハンドルバーと略同軸の第1軸まわりに回動可能な手動回転子を備えるハンドグリップ型の自転車用ギヤシフトアクチュエー夕であって、
前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、前記ジャッキスプールと前記回転子との間の動きを伝える連動手段とを有し、
前記コントロールケーブルの一端部は前記ジャッキスプールに取り付けられ、
前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せる第1方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する第2方向において回転可能であり、
前記回転子は、前記ハンドルバーに固定されたハンドグリップから内寄りの位置に設けられて、シフター回転子であり、
前記連動手段は、前記シフター回転子が1の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第1方向への回転を生ぜしめ、かつ、前記シフター回転子が前記1の方向とは反対の2の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第2方向への回転を生ぜしめ、
前記回転子と前記ジャッキスプールとの間の前記連動手段は、ケーブルによる連結部を含むことを特徴とする自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(19) 自転車用コントロールケーブルをその軸線方向に移動せしめるべく、自転車のハンドルバーに設けられてかつ前記ハンドルバーと略同軸の第1軸まわりに回動可能な手動回転子を備えるハンドグリップ型の自転車用ギヤシフトアクチユエータであって、
前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、前記ジャッキスプールと前記回転子との間の動きを伝える連動手段とを有し、
前記コントロールケーブルの一端部は前記ジャッキスプールに取り付けられ、 前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せる第1方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する第2方向において回転可能であり、
前記回転子は、前記ハンドルバーに固定されたハンドグリップから内寄りの位置に設けられて、シフター回転子であり、
前記連動手段は、前記シフター回転子が1の方向に回転することにより前記ジャツキスプールに前記第1方向への回転を生ぜしめ、かつ、前記シフター回転子が前記1の方向とは反対の2の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第2方向への回転を生ぜしめ、
前記回転子と前記ジャッキスプールとの間の前記連動手段は、ギヤによる連結部を含むことを特徴とする自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕。
(20) 前記ハンドルバーに固着されて回り止めスプリングを支持するマンドレルを有し、前記回転子及び前記ジャッキスプールのうちから選択された1つが前記マンドレルのまわりに位置決めされて回動可能部分を形成し、
前記回り止めスプリングは割り出し突起を有し、
前記回動可能部分は、前記シフトアクチュエータを所望のギヤシフト位置に選択的に保持するために前記割り出し突起と係合し得る一連の回り止め凹部を有する、
ことを特徴とする請求の範囲第17ないし第19項いずれか1つに記載の自転車用ギヤシフトアクチユエ一夕。
(21) 前記自転車が駆動チェーンに選択的に係合せしめられる複数のスプロケットを有し.前記回り止め凹部の数が前記スプロケットの数に対応している、ことを特徴とする請求の範囲第20項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(22) 前記コントロールケーブルに所定張力を与える自転車用ギヤ切換えシステムと共に用いられるものであり、前記回り止め凹部の各々はシフトダウン傾斜面及びシフトアップ傾斜面を有し、前記シフトダウン傾斜面の各々は前記シフトアップ傾斜面の各々よりも傾斜角度が緩やかになっている、ことを特徴とする請求の範囲第21項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕。
(23) 前記回り止めスプリングは、前記割り出し突起と連結する長手状ベースを有し、
前記マンドレルは前記回り止めスプリングの前記ベースを受容する空腔を有し、
前記シフトアクチユエー夕の回転軸を基準とした前記空腔の角度方向の大きさは、前記回転軸を基準とした前記回り止めスプリングの前記ベースの角度方向の大きさよりも大であり、
前記回動可能部分の回動方向が前記第1方向と前記第2方向との間において変化する際に、前記回り止めスプリングの前記割り出し突起が現在嵌合している前記回り止め凹部からの離脱より前に、前記ベースは前記空腔内において摺動して、前記コントロールケーブルと前記コントロールケーブルシステムとの間に生ずる空動きを補償する、ことを特徴とする請求の範囲第20ないし第22項いずれか1つに記載の自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕。
(26) 前記第2軸の方向は前記第1軸の方向から90度偏倚している、ことを特徴とする請求の範囲第17ないし第25項いずれか1つに記載の自転車用ギヤシフトアクチュエ-夕。
(27) 前記自転車のハンドルバーに対して固定される固定構造と前記回転子及び前記ジャッキスプールのうちの1つを含む回動可能構造との相互作用により形成されるギヤ指定回り止め手段を有する、ことを特徴とする請求の範囲第17項ないし第19項いずれか1つに記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(29) 前記回り止め手段は、前記固定構造及び回動可能構造の一方に設けられた回り止め突起及びスプリングと、前記固定構造及び回動可能構造の他方に設けられた弓形状に間隔をおいて配列された回り止めノッチとを有する、ことを特徴とする請求の範囲第27項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕。
(30) 前記スプリングは長尺な板ばねを含む、ことを特徴とする請求の範囲第29項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(31) 前記回り止め突起は、球状の回り止め手段を含む、ことを特徴とする請求の範囲第29項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕。
(35) 軸受部に固着された複数のギヤと機能的に協働せしめられるディレーラと、前記ギヤのいずれか1つから他のいずれか1つに前記ディレーラによって移動せしめられ得る駆動チェーンと、前記デイレーラと機能的に接続される第1端部を有するコントロールケーブルとを備え、前記コントロールケーブルの所定量の移動により、前記ギヤの1つと他の選択された1つとの間で切り換えるべく前記ディレーラを作動させるものであり、自転車のハンドルバーに取り付けられた手動型回転可能シフトアクチュエー夕を有し、前記シフトアクチュエータは第1軸まわりに回転可能なシフター回転子を含み、前記回転子はシフトダウン方向及び反対のシフトアップ方向に回転可能である自転車用ギヤ切換えシステムであって、
前記シフトアクチユエー夕は、前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、前記第1端部とは反対側で前記ジャッキスプールに機能的に接続された前記コントロールケーブルの第2端部とを含み、
前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せるシフトダウン方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する反対のシフトアップ方向において回転可能であり、さらに
前記回転子のシフトダウン方向への回転により前記ジャッキスプールがシフトダウン方向に回転し、かつ、前記回転子のシフトアップ方向への回転により前記ジャッキスプールがシフトアップ方向に回転するように、前記シフター回転子と前記ジャッキスプールとの間に設けられた連動手段を有し、
前記連動手段はケーブルによる連結部を含むことを特徴とする自転車用ギヤ切換えシステム。
(36) 前記シフトアクチュエー夕は、前記自転車のハンドルバーに対して固定された構造と前記回転子及び前記ジャッキスプールのうち予め選択された1つを含む回転可能な構造との相互作用から形成されるギヤ指定回り止め手段を含み、前記回り止め手段は前記構造の一方において第1のシフトアップ位置と第2のシフトダウン位置との間で移動可能である、ことを特徴とする請求の範囲第35項記載の自転車用ギヤ切換えシステム。」
2-2.独立特許要件について
上記訂正明細書の請求項17,18,19,20,21,22,23,26,27,29,30,31,35及び36に係る発明が、本件特許に係る出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下で検討する。
2-2-1.引用刊行物とその記載事項の概要
当審が上記平成12年7月26日付けで通知した訂正拒絶理由で引用した刊行物とその記載事項の概要は、次のとおりである。

刊行物1:実公昭48-33173号公報(甲第3号証)
刊行物2:実公昭62-13911号公報(甲第2号証)
刊行物3:実公昭62-26596号公報(甲第4号証)
刊行物4:米国特許第4,900,291号明細書(甲第1号証の1)
(なお、異議申立人が提出した甲第1号証の2(特表平3-502912号公報)に開示された内容は、刊行物4に開示された内容と同一であると認められ、この甲第1号証の2を、以下、刊行物4の「翻訳書」という。)

2-2-1ー1.刊行物1の記載事項の概要
刊行物1には、自転車に於ける変速機の切換操作をこの自転車に於けるハンドル杆の握り部近くで行なわせる自転車に於ける変速機の切換操作装置に関して、図面第1図ないし第3図と共に、次の事項が記載されている。
(1-1)「従来ハンドル杆の握り部近くで変速機の切換え操作を行なわせるに、このハンドル杆の握り部を回動自在に構成し、この握り部の回動によって変速機の切換操作を行う様にした装置が提供されていた。所がこの場合自転車の発進時或は運転中の振動やブレーキ操作時等に於て握り部が不測に回動されて変速機の切換えが不用意に行なわれる恐れがあった。又この握り部の形状、特に大きさは限定を受け握り部を大きく形成する事ができず、握り部の回動操作に大なる力を必要とする等の欠点があった。」(第1頁第1欄第21行〜第31行)
(1-2)「而して本考案は上記した様に自転車に於けるハンドル杆の握り部近くで変速機の切換操作を行なう様に構成して前記握り部を握っている手を離さないで安全に変速機の切換操作を行う事ができ乍ら、・・・(中略)・・・自転車に於ける握り部近くのハンドル杆部分に駆動用回転体を回転自在に挿嵌し、この回転体を回転させる為の操作部分を回転体の握り部側に形成すると共に、該回転体の外周部に歯車歯を形成し、該歯車歯に噛合する歯車歯を外周部に有する被回転体をハンドル杆又はハンドル杆に固定の枠体に回転自在に取付け、この被回転体に自転車に於ける変速機の操作用索を連結した事を特徴とするものである。」(第1頁第1欄第32行〜第2欄第10行)
(1-3)「以下その実施の態様を例示図について詳述すれば、・・・(中略)・・・このカバー体2により自転車に於けるハンドル杆Aに回動自在に挿嵌した回転体4を覆わしめた状態でこのカバー体2をその弧状内面をしてハンドル杆Aに嵌合させると共に、・・・(中略)・・・一方前記回転体4の外周に歯車歯4’を形成してその一部を前記筐体1内に突入させ且つこの回転体4のハンドル杆Aの握り部B側に操作用つまみ部5を形成すると共に前記筐体1の略々中心部に軸6を起立させこの軸部分6に被回転体7を回転自在に保持し、この被回転体7の外周に歯車歯7’を形成して前記歯車歯4’に噛合せしめ、・・・(中略)・・・前記軸部分6に上方から板バネ9、押え体10を挿嵌した状態で筐体1の上方開口部に、中央に貫通孔を有する覆板11を嵌着固定し・・・(中略)・・・前記被回転体7に変速機(図示せず)操作用のインナーワイヤー16を連結させて成るものである。」(第1頁第2欄第11行〜第2頁第3欄第3行)
(1-4)「以上の説明に於て回転体4につまみ部5を形成したものを説明したがこのつまみ部5は図例の如くハンドル杆Aの握り部Bを握持した状態で回転体4の操作が出来る様にしたものでその他回転体4の一部をカバー体2から露出させてこの露出部分外周にローレット切りを行なってもよい。」(第2頁第3欄第8行〜第13行)
(1-5)「又この被回転体7を所定角度回動させて変速を行った時該回動位置で保持させるために該被回転体7は板バネ9を介して軸支されて居るのであるがその他ボールとスプリングとから成る保持機構を用いてもよいのである。」(第2頁第3欄第20行〜第24行)
(1-6)「而して変速機の切換え操作を行うには、ハンドル杆Aの握り部Bを握っている手の指でつまみ部5を介して回転体4を回動させると、この回動力は噛合した歯車歯4’、7’を介して被回転体7に伝わり該回転体7を回転させるのである。之により該被回転体7に結合されて居るインナーワイヤー16を介して変速機の切換操作を行なうのであり」(第2頁第3欄第29行〜第36行)
(1-7)「ハンドル杆の握り部を握っている手で操作部を操作して駆動用回転体を回転し、被回転体を介して変速機の切換操作を行う事が出来、即ち変速機の切換操作をハンドル杆を握っている手を離さずして極めて安全に行なわせる事ができる乍らハンドル杆の握り部とは異なる個所で操作を行うから従来の如く不用意に変速機の切換操作が行なわれる様な恐れが全くなくなったのである。」(第2頁第4欄第12行〜第19行)
2-2-1-2.刊行物2の記載事項の概要
刊行物2には、主として自転車に使用する変速操作装置に関して、図面第1図ないし第5図と共に、次の事項が記載されている。
(2-1)「又、前記位置決め機構9は、複数個の係合部91…と、該係合部91の一つに係合する係止体92とから成り、前記係合部91を前記位置決め体5の大径筒部52外周面に、変速段位に相当する動き量に合わせて設け、また前記係止体92を、弾性を有する円弧状の弾性部92aと該弾性部92aの頂部に突設する係止部92bとにより形成して、前記レバー2の内腔部22に設ける凹入部23に支持するのであって、この係止体92の係合部91への係合により変速段位を決定すると同時に、その変速段位に相当する位置に前記レバー2を停止させるのである。」(第3頁第5欄第14行〜第25行)
(2-2)「尚、前記係止体92と該係止体92を支持する前記凹入部23には、前記係止体92の相対移動を許す隙間dを設けているが、この隙間dは、前記ワイヤWと該ワイヤWを案内するアウタ筒(図示せず)との相対有効長さを吸収するためのもので、」(第3頁第5欄第25行〜第30行)
(2-3)「尚、前記係合部91と係止体92とは、位置決め体5とレバー2との間であれば、その配設位置は特に限定されるものでないし、又、係止体92を位置決め体5に係合部91を操作レバー2に設けてもよい。」(第3頁第5欄第32行〜第36行)
(2-4)「又、前記係止体92に弾性を持たせる他、前記係合部91を例えば弾性板により形成して、弾性を持たせてもよいし、又、係止体92を、ボール、ロールなどの転動体により形成して、この係止体92をスプリングにより外方に付勢するようにしてもよい。」(第3頁第5欄第36行〜第41行)
2-2-1-3.刊行物3の記載事項の概要
刊行物3には、自動二輪車、四輪車等の車両における気化器内のスロットルバルブである被動部材をアクセルグリップ、アクセルペダル等の人為駆動操作部材の操作により作動させ、車両の速度調整を行う装置に関して、図面第1図ないし第8図と共に、次の事項が記載されている。
(3-1)「第1図、第2図はロータの構造を示す平断面図、側断面図で、ロータ10はハウジング11内にビスによる軸12を中心として回動自在に支承される。平面欠円状の円盤状に形成されたロータ10の外周側面には2個のワイヤ巻溝13,14が形成され、該溝13,14の終端には2本のワイヤ15,16の対向端が連結具17,18で連結される。ハウジング11にはアウタワイヤ19,20の端部が結合され、ワイヤ15は巻溝13に巻き付けられながらアウタワイヤ19の内部を挿通してハウジング11外へ導出され、先端は車両の人為駆動操作部材、即ち自動二輪車の場合にはアクセルグリップ、四輪車の場合にはアクセルペダルに連らなっている。他方のワイヤ16も他の巻溝14に巻き付けられながらアウタワイヤ20の内部を挿通してハウジング11外へ導出され、先端は車両の気化器内のスロットルバルブに連らなっている。」(第2頁第3欄第17行〜第34行)
(3-2)「第5図はロータハウジング31をアクセルグリップ32のアクセルハウジング33に取り付けた実施例を示し、第6図はロータハウジング41をハンドルバー42に取り付けた実施例を示す。これらの実施例のようにロータを車体に対して左右に操向されるハンドル側の部材に取り付ければ、操向時におけるアクセルグリップとロータとの間のワイヤに撓みが発生することはない。」(第2頁第4欄第38行〜第3頁第5欄第1行)
2-2-1-4.刊行物4の記載事項の概要
刊行物4には、前部及び後部変速機機構がそれぞれの回転可能なハンドグリップシフト作動器によって正確に制御される変速機型自転車シフティングシステムに関して、図面第1図ないし第50図と共に、次の事項が記載されている。
(4-1)「An endless drive chain 52・・・(中略)・・・the respective shift actuators 62 and 66.」(第9欄第4行〜第40行)
(「無端駆動チェーン52が、動力をチェーンホイール群50から多重フリーホイール54に伝導し、このフリーホイール54が従来の方法で後部車輪ハブ機構に作動的に連結されている。
全体的に56で示された前部変速機機構は、群50の2つのチェーンホイールの間で横方向にチェーン52をシフトするためチェーンホイール群50と協働して、小さいチェーンホイールから大きいチェーンホイールにダウン・シフトし、あるいは大きいチェーンホイールから小さいチェーンホイールにアップ・シフトする。後部変速機機構58は、チェーン52を小さいスプロケットから大きいスプロケットにダウン・シフトするか、あるいは大きいスプロケットから小さいスプロケットにアップ・シフトして、多重フリーホイール54をスプロケットからスプロケットに横にシフトするために、ダウンフォーク34及びボトムフォーク36の右側部分の合流点の近くでフレームに旋回可能に連結されている。前部ハンドグリップシフト作動器62が前部変速機機構56と協働し、且つ変速機機構56のシフトを制御するように、前部制御ケーブル60が前部ハンドグリップシフト作動器62を前部変速機機構56に作動的に連結している。
同様に、後部ハンドグリップシフト作動器66が後部変速機機構58と協働し、且つ後部変速機機構58のシフトを制御するように、後部制御ケーブル64が後部ハンドグリップシフト作動器66を後部変速機機構56に連結している。
第1図乃至第19図に例示した本発明のハンドグリップシフト作動器はすべて自転車のハンドルバー32の端上に取付けられるようになっており、それぞれのケーブル60及び64の各々は、ハンドルバー32のそれぞれの端部分を通りそれぞれのシフト作動器62及び66に作動的に連結されている。従って、ケーブル60及び64の各々は、それぞれのシフト作動器62及び66に結合するためにハンドルバー32の壁の外側から内側にハンドルバー32の壁内のそれぞれの開口を通り挿入されている。」(翻訳書第7頁右上欄第21行〜右下欄第3行))
(4-2)「The return spring・・・(中略)・・・the cam pin operating end 98.」(第12欄第27行〜第30行)
(「後部変速機機構58の戻りスプリングが絶えずケーブル101をぴんと張っている。このケーブルが更に絶えずカム作動面99をカムピン作動端98に対してバイアスしている。」(翻訳書第9頁右上欄第6行〜第8行))
(4-3)「FIG.8 illustrates the profile・・・(中略)・・・as seen in FIG.1.」(第12欄第59行〜第65行)
(「第8図は、理解し易くするために平面にレイアウトしたカム部材74の作動面又は表面99の断面を例示している。カム作動面9は一連の山又は頂上112と中間のくぼんだ谷114とより成っている。作動面99は、第1図から明らかなように、6スプロケット後部変速機フリーホイールに役立つため、6つのくぼみと5つの中間の山とを有している。」(翻訳書第9頁左下欄第9行〜第14行))
(4-4)「However,down-shifting from the smallest sprocket position 268・・・(中略)・・・these succesive arcs being designated 282,284,286,288 and 290.」(第24欄第16行〜第31行)
(「しかし乍ら、最小スプロケット位置268から最大スプロケット位置278へのダウン・シフトは、フリーホイールのスプロケットからスプロケットへのシフト中、変速機戻りスプリング208にかかる荷重を連続的に増加する。戻りスプリング荷重のこの漸進的増加を保証するため、最小スプロケットくぼみ268から最大スプロケットくぼみ278への連続的カム突出部のカム傾斜面281は、漸進的に増加する機械的利点のため漸進的に平らになっており、それにより連続的ダウン・シフト増加がハンドグリップシフト作動器66に加える実質的に同じ量のトルクで行なうことができる。従って、カム作動面266の形状は、連続シフト位置間の回転アークが漸進的に増加するようになっており、これ等の連続アークが282,284,286,288及び290で示されている。」(翻訳書第16頁右上欄第7行〜第18行))
(4-5)「During the shifting event,・・・(中略)・・・and down backslope 302 into valley 296.」(第24欄第50行〜第54行)
(「シフト作動中、カムピン94は、高ギヤ比のくぼみ294から目的の低ギヤ比のくぼみ296の方に移動される。カムピン94は谷294からカム傾斜面298を上方に登り、下り勾配302を下って谷296に入る。」(翻訳書第16頁左下欄第8行〜第11行))
(4-6)「This up-shift event is illustrated in FIG.36・・・(中略)・・・and into the destination higher gear ratio detent 294.」(第27欄第26行〜第34行)
(「このアップ・シフト作動が第36図に例示されており、これはカム292の運動が反対の回転方向であることを除いて第35図と同じである。便宜上、カム作動面293に対して移動しているときのカムピン94を参照すると、ピン94は高いくぼみ296においてスタートし、それから下り勾配302を登り、山300を越えて、それからカム傾斜面298を下り、そして目的の高ギア比のくぼみ294に入る。」(翻訳書第18頁左上欄第11行〜第17行))
(4-7)「FIGS.45-50 illustrate alternative handgrip shift actuators ・・・(中略)・・・inboard of right grip 376.」(第30欄第16行〜第31行)
(「第45図乃至第50図は、本発明による他のハンドグリップシフト作動器を例示しており、これはハンドルバー端部の内側、好ましくは従来のハンドグリップのすぐ内側に配置されている。本発明のこの形式は、マウンテンバイクの乗り手達が、最もよい制御のためにハンドルバーの端に固定したハンドグリップを好むので、「マウンテンバイク」に特に適している。
第45図は、全体的に370で示したマウンテンバイクの前部端部分を例示しており、これは僅かに後方に曲がっている広がったハンドルバー372を有している。それぞれ従来の左右のグリップ374及び376は、ハンドルバー372の端に位置づけされている。前部ハンドグリップシフト作動器378は、左のグリップ374のすぐ内側にハンドルバー372上に係合されており、そして後部ハンドグリップシフト作動器380は右のハンドグリップ376のすぐ内側にハンドルバー372上に係合されている。」(翻訳書第19頁右下欄第3行〜第16行))
2-2-2.対比・判断
《訂正明細書の請求項17に係る発明について》
訂正明細書の請求項17に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「インナーワイヤー16」、「ハンドル杆A」、「回転体4」、「被回転体7」、「握り部B」は、それぞれ、訂正明細書の請求項17に係る発明の「コントロールケーブル」、「ハンドルバー」、「回転子」、「ジャッキスプール」、「ハンドグリップ」に相当する。
また、自転車に於ける変速機は、通常、多段ギヤを備えたものであり、刊行物1に記載の自転車に於ける変速機の切換操作装置は、訂正明細書の請求項17に係る発明のギヤ切換えシステムの一部を構成するものであって、当該切換操作装置は、明らかに手動型のもので、訂正明細書の請求項17に係る発明の手動型の自転車用ギヤシフトアクチュエータに相当する。
更に、刊行物1に記載された発明の回転体4は、明らかに、固定された握り部Bよりも内寄りに設けられおり、また、当該回転体4の外周に形成した歯車歯4’及び被回転体7の外周に形成した歯車歯7’は、回転体4と被回転体7との間の動きを伝える点では、訂正明細書の請求項17に係る発明の、回転子とジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段に相当するものである。
よって、訂正明細書の請求項17に係る発明と刊行物1に記載された発明とは、「コントロールケーブルをその軸線方向に変位させることで作動せしめられるギヤ切換えシステムを有した多段ギヤ自転車に用いられると共に、前記自転車のハンドルバーに設けられかつシフトダウン方向及びシフトアップ方向において第1軸まわりに選択的に回動可能である回転子を備える手動型の自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕であって、前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回動可能なジャッキスプールと、前記回転子と前記ジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段とを有し、前記ジャッキスプールは、それが前記コントロールケーブルを引き寄せるシフトダウン方向において回転可能であり、かつ、それが前記コントロールケーブルを解放するシフトアップ方向において回転可能であり、前記回転子は、固定されたハンドグリップよりも内寄りに設けられたシフター回転子であり、前記連動手段は、前記回転子のシフトダウン方向の回転により前記ジャッキスプールにシフトダウン方向への回転を生ぜしめ、かつ、前記回転子のシフトアップ方向の回転により前記ジャッキスプールにシフトアップ方向への回転を生ぜしめる、自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕」である点で一致しているが、次の2点で相違している。
相違点1:ギヤ指定回り止めに関して、訂正明細書の請求項17に係る発明では、回転子が、複数のギヤ指定回り止め位置の1つから他のギヤ指定回り止め位置へ回転可能であるのに対して、刊行物1に記載の発明の回転体4には、ギヤ指定回り止め手段に相当する部材が設けられておらず、被回転体7に、回動位置で保持させるための保持機構が設けられている点。
相違点2:連動手段に関して、訂正明細書の請求項17に係る発明では、回転子とジャッキスプールとの間の連動手段が、ケーブルによる連結部を含むものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、回転体4と被回転体7とが、歯車歯4’,7’によって連動されている点。
そこで、上記相違点について、以下で検討する。
(相違点1について)
刊行物2には、位置決め体5と操作レバー2との間に、係合部91と係止体92とから成る位置決め機構9を設ける点が記載されており、この点を刊行物1に記載された発明に適用して、刊行物1に記載の発明の回転体4に上記位置決め機構9を設けてギヤ指定回り止めとし、当該回転体4が、複数のギヤ指定回り止め位置の1つから他のギヤ指定回り止め位置へ回転可能であるようにすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
(相違点2について)
2つの回転体の間の動きを伝える連動手段としては、刊行物1に記載の発明のような歯車歯による連動手段以外にも、種々の形式の連動手段が従来周知であり、ケーブルによる連結部を含む連動手段も、例えば刊行物3に記載されているように、従来周知のものである。
そして、どのような形式の連動手段を採用するかは、当業者であれば必要に応じて適宜選択し得るものであり、刊行物1に記載の回転体4と被回転体7との間の連動手段を、歯車歯4’,7’による連動に替えて、上記周知のケーブルによる連動とすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、訂正明細書の請求項17に係る発明は、刊行物1ないし3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《訂正明細書の請求項18に係る発明について》
訂正明細書の請求項18に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「インナーワイヤー16」、「ハンドル杆A」、「回転体4」、「自転車に於ける変速機の切換操作装置」、「被回転体7」、「握り部B」は、それぞれ、訂正明細書の請求項18に係る発明の「自転車用コントロールケーブル」、「ハンドルバー」、「手動回転子」、「自転車用ギヤシフトアクチュエータ」、「ジャッキスプール」、「ハンドグリップ」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明の回転体4は、明らかに、固定された握り部Bよりも内寄りに設けられおり、また、当該回転体4の外周に形成した歯車歯4’及び被回転体7の外周に形成した歯車歯7’は、回転体4と被回転体7との間の動きを伝える点では、訂正明細書の請求項18に係る発明の、回転子とジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段に相当するものである。
よって、訂正明細書の請求項18に係る発明と刊行物1に記載された発明とは、「自転車用コントロールケーブルをその軸線方向に移動せしめるべく、自転車のハンドルバーに設けられてかつ前記ハンドルバーと略同軸の第1軸まわりに回動可能な手動回転子を備える自転車用ギヤシフトアクチュエー夕であって、前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、前記ジャッキスプールと前記回転子との間の動きを伝える連動手段とを有し、前記コントロールケーブルの一端部は前記ジャッキスプールに取り付けられ、前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せる第1方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する第2方向において回転可能であり、前記回転子は、前記ハンドルバーに固定されたハンドグリップから内寄りの位置に設けられて、シフター回転子であり、前記連動手段は、前記シフター回転子が1の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第1方向への回転を生ぜしめ、かつ、前記シフター回転子が前記1の方向とは反対の2の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第2方向への回転を生ぜしめる、自転車用ギヤシフトアクチュエータ」である点で一致しているが、次の2点で相違している。
相違点1:手動回転子に関して、訂正明細書の請求項18に係る発明では、手動回転子が、ハンドルバーに固定されたハンドグリップから内寄りの位置に設けられたハンドグリップ型のシフター回転子であるのに対して、刊行物1に記載の発明の回転体4は、ハンドル杆Aの握り部B側に操作用つまみ部5を形成したものである点。
相違点2:連動手段に関して、訂正明細書の請求項18に係る発明では、回転子とジャッキスプールとの間の連動手段が、ケーブルによる連結部を含むものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、回転体4と被回転体7とが、歯車歯4’,7’によって連動されている点。
そこで、上記相違点について、以下で検討する。
(相違点1について)
刊行物4には、上記2-2-1-4.(4-7)で摘記した記載事項及び図面第45図ないし第50図の記載からみて、回転子を、「handlebar(ハンドルバー)372」に固定された「handgrip(ハンドグリップ)374,376」から内寄りの位置に設けられた「handgrip shift actuator(ハンドグリップシフト作動器)378,380」とする点が記載されている。
そして、刊行物1には、上記2-2-1-1.(1-1)で摘記したように、従来技術の問題点が記載されているが、この記載は、ハンドル杆Aの握り部B自体をシフター回転子とした場合の問題点を記載したものであって、ハンドル杆Aの握り部Bとは別体の回転体4をハンドグリップ型のものとすることの妨げとなる記載ではない。更に、刊行物1には、上記2-2-1-1.(1-4)で摘記したように、回転体4につまみ部5を形成したもの以外に、「その他回転体4の一部をカバー体2から露出させてこの露出部分外周にローレット切りを行なってもよい」旨が記載されており、この記載は、回転体4に操作用つまみ部5を形成することに替えて、上記刊行物4に記載のハンドグリップシフト作動器を適用することの動機づけとなり得るものである。
よって、上記刊行物4に記載のハンドグリップシフト作動器を刊行物1に記載の発明に適用して、刊行物1に記載の発明の回転体4を、ハンドグリップ型のものとすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
(相違点2について)
上記《訂正明細書の請求項17に係る発明について》の(相違点2について)で説示したのと同様な理由により、刊行物1に記載の回転体4と被回転体7との間の連動手段を、歯車歯4’,7’による連動に替えて、従来周知のケーブルによる連動とすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、訂正明細書の請求項18に係る発明は、刊行物1、3及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《訂正明細書の請求項19に係る発明について》
訂正明細書の請求項19に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「インナーワイヤー16」、「ハンドル杆A」、「回転体4」、「自転車に於ける変速機の切換操作装置」、「被回転体7」、「握り部B」は、それぞれ、訂正明細書の請求項19に係る発明の「自転車用コントロールケーブル」、「ハンドルバー」、「手動回転子」、「自転車用ギヤシフトアクチュエータ」、「ジャッキスプール」、「ハンドグリップ」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明の回転体4は、明らかに、固定された握り部Bよりも内寄りに設けられおり、また、当該回転体4の外周に形成した歯車歯4’及び被回転体7の外周に形成した歯車歯7’は、回転体4と被回転体7との間の動きを伝えるものであり、訂正明細書の請求項19に係る発明の、回転子とジャッキスプールとの間の動きを伝える、ギヤによる連結部を含む連動手段に相当するものである。
よって、訂正明細書の請求項19に係る発明と刊行物1に記載された発明とは、「自転車用コントロールケーブルをその軸線方向に移動せしめるべく、自転車のハンドルバーに設けられてかつ前記ハンドルバーと略同軸の第1軸まわりに回動可能な手動回転子を備える自転車用ギヤシフトアクチユエータであって、前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、前記ジャッキスプールと前記回転子との間の動きを伝える連動手段とを有し、前記コントロールケーブルの一端部は前記ジャッキスプールに取り付けられ、前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せる第1方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する第2方向において回転可能であり、前記回転子は、前記ハンドルバーに固定されたハンドグリップから内寄りの位置に設けられて、シフター回転子であり、前記連動手段は、前記シフター回転子が1の方向に回転することにより前記ジャツキスプールに前記第1方向への回転を生ぜしめ、かつ、前記シフター回転子が前記1の方向とは反対の2の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第2方向への回転を生ぜしめ、前記回転子と前記ジャッキスプールとの間の前記連動手段は、ギヤによる連結部を含む、自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕」である点で一致しているが、次の点で相違している。
相違点:手動回転子に関して、訂正明細書の請求項19に係る発明では、手動回転子が、ハンドルバーに固定されたハンドグリップから内寄りの位置に設けられたハンドグリップ型のシフター回転子であるのに対して、刊行物1に記載の発明の回転体4は、ハンドル杆Aの握り部B側に操作用つまみ部5を形成したものである点。
そこで、上記相違点について検討すると、上記《訂正明細書の請求項18に係る発明について》の(相違点1について)で説示したのと同様な理由により、上記刊行物4に記載のハンドグリップシフト作動器を刊行物1に記載の発明に適用して、刊行物1に記載の発明の回転体4を、ハンドグリップ型のものとすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、訂正明細書の請求項19に係る発明は、刊行物1及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《訂正明細書の請求項20に係る発明について》
刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-1)で摘記した記載事項及び図面第1図ないし第5図の記載からみて、操作レバー2の位置決め機構9として、操作レバー2の凹入部23に係止体92を設け、該係止体92を、弾性を有する円弧状の弾性部92aと該弾性部92aの頂部に突設する係止部92bとにより形成し、又、位置決め体5には、複数個の係合部91を形成する点が、記載されている。
また、この刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-3)で摘記したように、「係止体92を位置決め体5に係合部91を操作レバー2に設けてもよい」旨も記載されており、このようにして設けた位置決め機構9において、「係止体92」、「位置決め体5」、「操作レバー2」、「係止部92b」、「係合部91」は、それぞれ、訂正明細書の請求項20に係る発明の「回り止めスプリング」、「マンドレル」、「回動可能部分を形成する回転子」、「割り出し突起」、「回り止め凹部」に相当する。
そして、刊行物1に記載の発明における保持機構に替えて、刊行物2に記載の発明における位置決め機構9を適用して、訂正明細書の請求項20に係る発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、訂正明細書の請求項20に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《訂正明細書の請求項21に係る発明について》
自転車が駆動チェーンに選択的に係合せしめられる複数のスプロケットを有し、回り止め凹部の数をスプロケットの数に対応させることは、刊行物2の上記2-2-1-2.(2-1)に摘記した記載事項及び刊行物4の上記2-2-1-4.(4-3)に摘記した記載事項のように、従来周知の技術である。
よって、訂正明細書の請求項21に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《訂正明細書の請求項22に係る発明について》
刊行物4に記載の発明のケーブル101には所定の張力が与えられるものであり(上記2-2-1-4.(4-2)の摘記事項、参照)、刊行物4の上記摘記事項2-2-1-4.(4-4)、(4-5)、(4-6)及び図面第34図ないし第36図には、シフトダウン傾斜面に相当する「cam ramp(カム傾斜面)298」は、シフトアップ傾斜面に相当する「cam backslope(カム下り勾配)302」よりも傾斜角度が緩やかになっていることが、示されている。
よって、訂正明細書の請求項22に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《訂正明細書の請求項23に係る発明について》
刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-1)で摘記した記載事項及び図面第1図ないし第5図の記載からみて、操作レバー2の位置決め機構9として、操作レバー2の凹入部23に係止体92を設け、該係止体92を、弾性を有する円弧状の弾性部92aと該弾性部92aの頂部に突設する係止部92bとにより形成し、また、位置決め体5には、複数個の係合部91を形成する点が、記載されている。
また、この刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-3)で摘記したように、「係止体92を位置決め体5に係合部91を操作レバー2に設けてもよい」旨も記載されており、このようにして設けた位置決め機構9において、「係止体92」、「係止部92b」、「弾性部92a」、「位置決め体5」、「凹入部23」は、それぞれ、訂正明細書の請求項23に係る発明の「回り止めスプリング」、「割り出し突起」、「長手状ベース」、「マンドレル」、「空腔」に相当する。
更に、この刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-2)で摘記したように、係止体92の相対移動を許す隙間dを設ける点が記載されており、この隙間dを、訂正明細書の請求項23に係る発明の「空動きを補償する」ためのものとすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、訂正明細書の請求項23に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《訂正明細書の請求項26に係る発明について》
刊行物1の図面第1図及び第2図の記載からみて、回転体4の回転軸と被回転体7の回転軸とは90度偏倚している。
よって、訂正明細書の請求項26に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《訂正明細書の請求項27に係る発明について》
刊行物1の上記2-2-1-1.(1-5)で摘記した記載事項のうちのボールとスプリングとから成る保持機構は、訂正明細書の請求項27に係る発明におけるギヤ指定回り止め手段に相当する。
よって、訂正明細書の請求項27に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《訂正明細書の請求項29に係る発明について》
刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-1)で摘記した位置決め機構9が記載されており、この位置決め機構9は、訂正明細書の請求項29に係る発明の回り止め手段に相当する。
そして、刊行物1に記載の発明における保持機構に替えて、刊行物2に記載の上記位置決め機構9を適用して、訂正明細書の請求項29に係る発明のように構成することに格別の困難性はない。
よって、訂正明細書の請求項29に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《訂正明細書の請求項30に係る発明について》
刊行物2に記載の係止体92の円弧状の弾性部92aは、訂正明細書の請求項30に係る発明の長尺な板ばねに相当する。
よって、訂正明細書の請求項30に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《訂正明細書の請求項31に係る発明について》
球状の回り止め手段を含む回り止め突起は、従来周知のものである(例えば、刊行物1の上記2-2-1-1.(1-5)で摘記した記載事項及び刊行物2の上記2-2-1-2.(2-4)で摘記した記載事項、参照)。
よって、訂正明細書の請求項31に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《訂正明細書の請求項35に係る発明について》
訂正明細書の請求項35に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「インナーワイヤー16」、「ハンドル杆A」、「回転体4」、「被回転体7」は、それぞれ、訂正明細書の請求項35に係る発明の「コントロールケーブル」、「ハンドルバー」、「シフター回転子」、「ジャッキスプール」に相当する。
また、自転車に於ける変速機は、通常、複数のギヤを備えたものであり、刊行物1に記載の自転車に於ける変速機の切換操作装置は、明らかに手動型回転可能なもので、訂正明細書の請求項35に係る発明の手動型回転可能シフトアクチュエータに相当し、当該切換操作装置は、訂正明細書の請求項35に係る発明の自転車用ギヤ切換えシステムの一部を構成するものである。
更に、刊行物1に記載された発明の回転体4の外周に形成した歯車歯4’及び被回転体7の外周に形成した歯車歯7’は、回転体4と被回転体7との間に設けられた連動手段といえるものである。
よって、訂正明細書の請求項35に係る発明と刊行物1に記載された発明とは、「コントロールケーブルを備え、自転車のハンドルバーに取り付けられた手動型回転可能シフトアクチュエー夕を有し、前記シフトアクチュエータは第1軸まわりに回転可能なシフター回転子を含み、前記回転子はシフトダウン方向及び反対のシフトアップ方向に回転可能である自転車用ギヤ切換えシステムであって、前記シフトアクチユエー夕は、前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、前記ジャッキスプールに機能的に接続された前記コントロールケーブルの第2端部とを含み、前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せるシフトダウン方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する反対のシフトアップ方向において回転可能であり、さらに前記回転子のシフトダウン方向への回転により前記ジャッキスプールがシフトダウン方向に回転し、かつ、前記回転子のシフトアップ方向への回転により前記ジャッキスプールがシフトアップ方向に回転するように、前記シフター回転子と前記ジャッキスプールとの間に設けられた連動手段を有する、自転車用ギヤ切換えシステム」である点で一致しているが、次の2点で相違している。
相違点1:訂正明細書の請求項35に係る発明では、自転車用ギヤ切換えシステムが、「軸受部に固着された複数のギヤと機能的に協働せしめられるディレーラと、前記ギヤのいずれか1つから他のいずれか1つに前記ディレーラによって移動せしめられ得る駆動チェーンと、前記デイレーラと機能的に接続される第1端部を有するコントロールケーブルとを備え、前記コントロールケーブルの所定量の移動により、前記ギヤの1つと他の選択された1つとの間で切り換えるべく前記ディレーラを作動させるもの」であるのに対して、刊行物1には、「複数のギヤ」、「ディレーラ」、「駆動チェーン」及び「コントロールケーブル」とそれら各部材間の関係が、明確には記載されていない点。
相違点2:連動手段に関して、訂正明細書の請求項35に係る発明では、連動手段がケーブルによる連結部を含むものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、連動手段が歯車歯4’,7’による連結部を含むものである点。
そこで、上記相違点について、以下で検討する。
(相違点1について)
自転車用ギヤ切換えシステムにおいて、「軸受部に固着された複数のギヤと機能的に協働せしめられるディレーラと、前記ギヤのいずれか1つから他のいずれか1つに前記ディレーラによって移動せしめられ得る駆動チェーンと、前記デイレーラと機能的に接続される第1端部を有するコントロールケーブルとを備え、前記コントロールケーブルの所定量の移動により、前記ギヤの1つと他の選択された1つとの間で切り換えるべく前記ディレーラを作動させるもの」は、従来周知の事項であり(例えば、刊行物4の上記2-2-1-4.(4-1)で摘記した記載事項、参照)、訂正明細書の請求項35に係る発明の上記相違点1の構成は、上記周知の事項を明示したものにすぎない。
(相違点2について)
2つの回転体の間に設けられる連動手段としては、刊行物1に記載の発明のような歯車歯による連動手段以外にも、種々の形式の連動手段が従来周知であり、ケーブルによる連結部を含む連動手段も、例えば刊行物3に記載されているように、従来周知のものである。
そして、どのような形式の連動手段を採用するかは、当業者であれば必要に応じて適宜選択し得るものであり、刊行物1に記載の回転体4と被回転体7との間に設けられた連動手段を、歯車歯4’,7’による連結部を含むものに替えて、上記周知のケーブルによる連結部を含むものとすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、訂正明細書の請求項35に係る発明は、刊行物1、3及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《訂正明細書の請求項36に係る発明について》
刊行物1の上記2-2-1-1.(1-5)で摘記した記載事項のうちのボールとスプリングとから成る保持機構は、訂正明細書の請求項36に係る発明におけるギヤ指定回り止め手段に相当する。
また、刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-2)で摘記したように、係止体92の相対移動を許す隙間dを設ける点が記載されており、この隙間dを利用して、刊行物2に記載の係止体92が、第1のシフトアップ位置と第2のシフトダウン位置との間で移動可能であるようにすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、訂正明細書の請求項36に係る発明は、刊行物1乃至4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2-3.訂正請求の適法性について
したがって、訂正明細書の請求項17,18,19,20,21,22,23,26,27,29,30,31,35及び36に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、本件訂正請求を認容することはできない。

3.特許異議の申立てについて
3-1.本件特許発明
上記のとおり、訂正請求を認めることができないので、特許登録時における願書に添付した明細書を本件特許明細書と認定して、特許異議の申立てに係る本件特許発明は、当該特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし42に記載された次のとおりのものと認める。
「(1)コントロールケーブルをその軸線方向に変位せることで作動せしめられるギヤ切換えシステムを有した多段ギヤ自転車に用いられると共に、前記自転車のハンドルバーに対して略同軸に回動可能に取り付けられた回動部材を有する手動型の自転車用ギヤシフトアクチュエータであって、
前記コントロールケーブルの端部を前記ハンドルバーに係止する係止部材と、前記コントロールケーブルを沿わして移動せしめるカムローブを備えると共に前記回動部材上に設けられたカムとを有し、
前記カムローブは、前記回動部材の第1方向への回転によって前記コントロールケーブルを前記シフトアクチュエータに向けて引き寄せ、かつ、前記第1方向と逆の第2方向への前記回動部材の回転によって前記コントロールケーブルを前記シフトアクチュエータから離れる方向へ解放する、ことを特徴とする自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(2) 前記回動部材は、前記ハンドルバーの端部よりも内寄りにおいて前記ハンドルバーの外周上に配置されている、ことを特徴とする請求の範囲第1項記載の自転車用ギアシフトアクチュエータ。
(3) 前記ハンドルバーに取り付けられたマンドレルを有し、
前記回動部材は前記マンドレルの外側に設けられている、ことを特徴とする請求の範囲第1項又は第2項記載の自転車用ギアシフトアクチュエータ。
(4) 前記マンドレルによって支持される回り止めスプリングを有し、前記回動部材は複数の回り止め凹部を有し、前記回り止めスプリングは前記回り止め凹部のいずれとも係合し得る割り出し突起を有する、ことを特徴とする請求の範囲第3項記載の自転車用ギアシフトアクチュエータ。
(5) 前記コントロールケーブルに所定張力を与えるべく自転車のギヤ切換えシステムに用いられるものであって、前記回動部材に設けられた前記回り止め凹部の各々はシフトアップ傾斜面及びシフトダウン傾斜面を有し、前記シフトダウン傾斜面の各々は前記シフトアップ傾斜面の各々よりも傾斜角度が緩やかである、ことを特徴とする請求の範囲第4項記載の自転車用ギアシフトアクチュエータ。
(6) 前記回り止めスプリングは、前記割り出し突起と連結する長手状ベースを有し、
前記マンドレルは前記回り止めスプリングの前記ベースを受容する空腔を有し、
前記シフトアクチュエータの回転軸を基準とした前記空腔の角度方向の大きさは、前記回転軸を基準とした前記回り止めスプリングの前記ベースの角度方向の大きさよりも大であり、
前記回動部材の回動方向が前記第1方向と前記第2方向との間において変化する際に、前記回り止めスプリングの前記割り出し突起が現在嵌合している前記回り止め凹部からの離脱より前に、前記ベースは前記空腔内において摺動して、前記コントロールケーブルとコントロールケーブル作動システムとの間に生ずる空動きを補償する、ことを特徴とする請求の範囲第4項又は第5項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(7) 前記回り止めスプリングは、前記割り出し突起と連結する長手状ベースを有し、
前記マンドレルは前記回り止めスプリングの前記ベースを受容する空腔を有し、
前記シフトアクチュエータの回転軸を基準とした前記空腔の角度方向の大きさは、前記回転軸を基準とした前記回り止めスプリングの前記ベースの角度方向の大きさよりも大であり、
前記回動部材の回動方向が前記第1方向と前記第2方向との間において変化する際に、前記回り止めスプリングの前記割り出し突起が現在嵌合している前記回り止め凹部からの離脱より前に、前記ベースは前記空腔内において摺動して、前記コントロールケーブルの変位のオーバーシフト増分を与える、ことを特徴とする請求の範囲第4ないし第6項いずれか1つに記載の自転車用ギアシフトアクチュエータ。
(8) 前記コントロールケーブルはディレーラと操作可能にして連結され、
前記回り止めスプリングは、前記割り出し突起と連結する長手状ベースを有し、
前記マンドレルは前記回り止めスプリングの前記ベースを受容する空腔を有し、
前記シフトアクチュエータの回転軸を基準とした前記空腔の角度方向の大きさは、前記回転軸を基準とした前記回り止めスプリングの前記ベースの角度方向の大きさよりも大であり、
前記回動部材の回動方向が前記第1方向と前記第2方向との間において変化する際に、前記回り止めスプリングの前記割り出し突起が現在嵌合している前記回り止め凹部からの離脱より前に、前記ベースは前記空腔内において摺動して、前記コントロールケーブルと前記コントロールケーブルシステムとの間に生ずる空動きを補償する、ことを特徴とする請求の範囲第4ないし第7項いずれか1つに記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(9) 複数のスプロケットと機能的に協働せしめられる復帰スプリングを有したディレーラと、自転車のハンドルバーに前記ハンドルバーと略同軸にて設けられた回動可能部分を有するハンドグリップシフトアクチュエータと、前記回動可能部分上に位置するカムと、前記ディレーラに連結される第1端部を有すると共に復帰スプリングによって前記ディレーラに向けて付勢されるコントロールケーブルと、を備える自転車用ギヤ切換えシステムであって、
前記コントロールケーブルの第2端部は前記ハンドルバーに対して固着され、前記カムは前記コントロールケーブルを弧を描くように移動せしめるカムローブを有し、前記カムローブは、その一方向への回転により前記ディレーラのシフトダウンを生ぜしめるべく前記復帰スプリングの付勢力に抗して前記コントロールケーブルを引っ張り、かつ、前記一方向とは反対の方向への回転により前記ディレーラのシフトアップを生ぜしめるべく前記復帰スプリングの付勢力の方向に前記コントロールケーブルを解放するように形成されている、ことを特徴とする自転車用ギヤ切換えシステム。
(10) 前記シフトアクチュエータが、前記ハンドルバーに固着されたマンドレルと、前記マンドレルに支持される回り止めスプリングとを有し、前記回り止めスプリングは割り出し突起を有し、前記シフトアクチュエータの前記回動可能部分は複数の回り止め凹部を有し、前記回り止め凹部のいずれもが前記シフトアクチュエータを所望のシフト位置に選択的に保持すべく前記割り出し突起と係合し得る、ことを特徴とする請求の範囲第9項記載の自転車用ギヤ切換えシステム。
(11) 前記回り止め凹部の数は、複数のディレーラフリーホイールスプロケットの数に対応する、ことを特徴とする請求の範囲第9又は第10項記載の自転車用ギヤ切換えシステム。
(12) 前記回り止めスプリングは、前記割り出し突起と連結する長手状ベースを有し、
前記マンドレルは前記回り止めスプリングの前記ベースを受容する空腔を有し、
前記シフトアクチュエータの回転軸を基準とした前記空腔の角度方向の大きさは、前記回転軸を基準とした前記回り止めスプリングの前記ベースの角度方向の大きさよりも大であり、
前記回動部材の回動方向が前記一方向と前記反対の方向との間において変化する際に、前記回り止めスプリングの前記割り出し突起が現在嵌合している前記回り止め凹部からの離脱より前に、前記ベースは前記空腔内において摺動して、前記コントロールケーブルと前記コントロールケーブルシステムとの間に生ずる空動きを補償する、ことを特徴とする請求の範囲第9ないし第11項いずれか1つに記載の自転車用ギヤ切換えシステム。
(13) 前記回り止めスプリングは、前記割り出し突起と連結する長手状ベースを有し、
前記マンドレルは前記回り止めスプリングの前記ベースを受容する空腔を有し、
前記シフトアクチュエータの回転軸を基準とした前記空腔の角度方向の大きさは、前記回転軸を基準とした前記回り止めスプリングの前記ベースの角度方向の大きさよりも大であり、
前記回動部材の回動方向が前記一方向と前記反対の方向との間において変化する際に、前記回り止めスプリングの前記割り出し突起が現在嵌合している前記回り止め凹部からの離脱より前に、前記ベースは前記空腔内において摺動して、前記コントロールケーブルの変位のオーバーシフト増分を与える、ことを特徴とする請求の範囲第9ないし第12項いずれか1つに記載の自転車用ギヤ切換えシステム。
(14) 複数のフロントチェーンリングスプロケットを有し、前記回り止め凹部の数は前記フロントチェーンリングスプロケットの数に対応する、ことを特徴とする請求の範囲第10,第12,第13項いずれか1つに記載の自転車用ギヤ切換えシステム。
(15) 前記回り止めスプリングの割り出し突起が前記回り止め凹部と係合して自転車のチェーンを対応するチェーンリングスプロケット上に位置付ける第1回り止めシステムと、前記回り止めスプリングが前記マンドレル内の少なくとも2つのノッチに係合し得る第2突起手段を有して前記回り止めスプリングに少なくとも2つの回り止め位置を設定する第2回り止めシステムとを有し、
前記第2回り止めシステムは、前記第1回り止めシステムが前記回り止めスプリングに対する前記回動可能部分の移動を許容する前に、前記回動可能部分が前記マンドレルに対して前記回り止めスプリングを移動せしめる、ことを特徴とする請求の範囲第14項記載の自転車用ギヤ切換えシステム。
(16) コントロールケーブルの引き寄せ及び解き放しを行うと共にマンドレルに対して回動可能な回動可能部分を備える自転車用アクチュエータであって、
前記コントロールケーブルの一端部は前記マンドレルに固着され、前記回動可能部分のカムは前記コントロールケーブルを弧を描くように移動せしめるカムローブを有し、前記カムローブは、前記回動可能部分が一方向に回転することで前記コントロールケーブルを引き寄せかつ前記一方向とは反対の方向に回転することで前記コントロールケーブルを解放するように形成された輪郭を有する、ことを特徴とするアクチュエータ。
(17) コントロールケーブルをその軸線方向に変位させることで作動せしめられるギヤ切換えシステムを有した多段ギヤ自転車に用いられると共に、前記自転車のハンドルバーに設けられかつシフトダウン方向及びシフトアップ方向において第1軸まわりに選択的に回動可能である回転子を備える手動型の自転車用ギヤシフトアクチュエータであって、
前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回動可能なジャッキスプールと、前記回転子と前記ジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段とを有し、
前記ジャッキスプールは、それが前記コントロールケーブルを引き寄せるシフトダウン方向において回転可能であり、かつ、それが前記コントロールケーブルを解放するシフトアップ方向において回転可能であり、
前記回転子は、固定されたハンドグリップよりも内寄りに設けられ、複数のギヤ指定回り止め位置の1つから他のギヤ指定回り止め位置へ回転可能であり、
前記連動手段は、1つの前記ギヤ指定回り止め位置から他の前記ギヤ指定回り止め位置への前記回転子のシフトダウン方向の回転により前記ジャッキスプールにシフトダウン方向への回転を生ぜしめ、かつ、1つの前記ギヤ指定回り止め位置から他の前記ギヤ指定回り止め位置への前記回転子のシフトアップ方向の回転により前記ジャッキスプールにシフトアップ方向への回転を生ぜしめる、ことを特徴とする自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(18) 自転車用コントロールケーブルをその軸線方向に移動せしめるべく、自転車のハンドルバーに設けられてかつ前記ハンドルバーと略同軸の第1軸まわりに回動可能な手動回転子を備えるハンドグリップ型の自転車用ギヤシフトアクチュエータであって、
前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、ジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段とを有し、
前記コントロールケーブルの一端部は前記ジャッキスプールに取り付けられ、
前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せる第1方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する第2方向において回転可能であり、
前記回転子は、前記ハンドルバーに固定されたハンドグリップから内寄りの位置に設けられて、ハンドグリップ回転子となり、
前記連動手段は、前記ハンドグリップ回転子が1の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第1方向への回転を生ぜしめ、かつ、前記ハンドグリップ回転子が前記1の方向とは反対の2の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第2方向への回転を生ぜしめる、ことを特徴とする自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(19) 前記回転子と前記ジャッキスプールとの間の前記連動手段は、ケーブルによる連結部を含む、ことを特徴とする請求の範囲第17又は第18項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(20) 前記回転子と前記ジャッキスプールとの間の前記連動手段は、ギヤによる連結部を含む、ことを特徴とする請求の範囲第17又は第18項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(21) 前記ハンドルバーに固着されて回り止めスプリングを支持するマンドレルを有し、前記回転子及び前記ジャッキスプールのうちから選択された1つが前記マンドレルのまわりに回転して回動可能部分を形成し、
前記回り止めスプリングは割り出し突起を有し、
前記回動可能部分は、前記シフトアクチュエータを所望のギヤシフト位置に選択的に保持するために前記割り出し突起と係合し得る一連の回り止め凹部を有する、
ことを特徴とする請求の範囲第17ないし第20項いずれか1つに記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(22) 前記自転車が駆動チェーンに選択的に係合せしめられる複数のスプロケットを有し、前記回り止め凹部の数が前記スプロケットの数に対応している、ことを特徴とする請求の範囲第21項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(23) 前記コントロールケーブルに所定張力を与える自転車用ギヤ切換えシステムと共に用いられるものであり、前記回り止め凹部の各々はシフトダウン傾斜面及びシフトアップ傾斜面を有し、前記シフトダウン傾斜面の各々は前記シフトアップ傾斜面の各々よりも傾斜角度が緩やかになっている、ことを特徴とする請求の範囲第22項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(24) 前記回り止めスプリングは、前記割り出し突起と連結する長手状ベースを有し、
前記マンドレルは前記回り止めスプリングの前記ベースを受容する空腔を有し、
前記シフトアクチュエータの回転軸を基準とした前記空腔の角度方向の大きさは、前記回転軸を基準とした前記回り止めスプリングの前記ベースの角度方向の大きさよりも大であり、
前記回動部材の回動方向が前記第1方向と前記第2方向との間において変化する際に、前記回り止めスプリングの前記割り出し突起が現在嵌合している前記回り止め凹部からの離脱より前に、前記ベースは前記空腔内において摺動して、前記コントロールケーブルと前記コントロールケーブルシステムとの間に生ずる空動きを補償する、ことを特徴とする請求の範囲第21ないし第23項いずれか1つに記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(25) 前記回り止めスプリングは、前記割り出し突起と連結する長手状ベースを有し、
前記マンドレルは前記回り止めスプリングの前記ベースを受容する空腔を有し、
前記シフトアクチュエータの回転軸を基準とした前記空腔の角度方向の大きさは、前記回転軸を基準とした前記回り止めスプリングの前記ベースの角度方向の大きさよりも大であり、
前記回動部材の回動方向が前記第1方向と前記第2方向との間において変化する際に、前記回り止めスプリングの前記割り出し突起が現在嵌合している前記回り止め凹部からの離脱より前に、前記ベースは前記空腔内において摺動して、前記コントロールケーブルの変位のオーバーシフト増分を与える、ことを特徴とする請求の範囲第21ないし第24項いずれか1つに記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(26) 前記割り出し突起は、自転車の駆動チェーンを対応するスプロケット上に位置付けるべく第1回り止めシステムの前記回り止め凹部と係合し、
前記回り止めスプリングが前記回動可能部分の少なくとも1つの凹部と協働し得る第2突起手段を有して前記回り止めスプリングに少なくとも2つの回り止め位置を設定する第2回り止めシステムを有し、
前記第2回り止めシステムは、前記第1回り止めシステムが前記回り止めスプリングに対する前記回動可能部分の回転を許容する前に、前記回動可能部分が前記マンドレルに対して前記回り止めスプリングを移動せしめる、ことを特徴とする請求の範囲第21ないし第25項いずれか1つに記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(27) 前記第2軸の方向は前記第1軸の方向から90度偏倚している、ことを特徴とする請求の範囲第17ないし第26項いずれか1つに記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(28) 前記自転車のハンドルバーに対して固定される固定構造と前記回転子及び前記ジャッキスプールのうちの1つを含む回動可能構造との相互作用により形成されるギヤ指定回り止め手段を有する、ことを特徴とする請求の範囲第18項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(29) 前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルの一端部が固定される第3リングと、回転子のギヤリングによって回転せしめられる被駆動リングとを有し、前記回り止め手段は前記固定構造と前記第3リングとの間で係合せしめられ、さらに、
前記第3リングと前記被駆動リングとの間に空動き駆動連結部を有し、
前記空動き駆動連結部は、前記被駆動リングがコントロールケーブルを引き寄せる第1位置とコントロールケーブルを解放する第2位置との間で前記第3リングに対して回転可能であるようにする、ことを特徴とする請求の範囲第28項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(30) 前記回り止め手段は、前記固定構造及び回動可能構造の一方に設けられた回り止め突起及びスプリングと、前記固定構造及び回動可能構造の他方に設けられた弓形状に間隔をおいて配列された回り止めノッチとを有する、ことを特徴とする請求の範囲第28項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(31) 前記スプリングは長尺な板ばねを含む、ことを特徴とする請求の範囲第30項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(32) 前記回り止め突起は、球状の回り止め手段を含む、ことを特徴とする請求の範囲第30項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(33) 前記回り止め手段における選択されたギヤ位置のいずれにおいても、前記第1及び第2位置で前記回り止め突起及び前記スプリングをいっしょに選択的に保持すべく、前記スプリングと前記両構造の一方との間で係合し得る第2回り止め手段を有する、ことを特徴とする請求の範囲第30項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(34) 前記アクチュエータは、復帰スプリングを備えたディレーラの切り換えが可能であり、前記回り止め手段の前記スプリングは、シフトダウン動作の間高いディレーラ復帰ばね力を補償するように、前記第1位置にあるときよりも前記第2位置にあるときに相対的に低いばね定数を有する、ことを特徴とする請求の範囲第30項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(35) 前記コントロールケーブルは復帰スプリングを備えたディレーラを駆動し得、前記回転子及び前記ジャッキスプールの一方に設けられたカムがシフトダウン動作において前記ディレーラの復帰スプリングの増加する力を補償する、ことを特徴とする請求の範囲第17又は第18項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。
(36) 車軸に固着された複数のギヤと機能的に協働せしめられるディレーラと、前記ギヤのいずれか1つから他のいずれか1つに前記ディレーラによって移動せしめられ得る駆動チェーンと、前記ディレーラと機能的に接続される第1端部を有するコントロールケーブルとを備え、前記コントロールケーブルの所定量の移動により、前記ギヤの1つと他の選択された1つとの間で切り換えるべく前記ディレーラを作動させるものであり、自転車のハンドルバーに取り付けられた手動型回転可能シフトアクチュエータを有し、前記シフトアクチュエータは第1軸まわりに回転可能なハンドグリップ回転子を含み、前記回転子はシフトダウン方向及び反対のシフトアップ方向に回転可能である自転車用ギヤ切換えシステムであって、
前記シフトアクチュエータは、前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、前記第1端部とは反対側で前記ジャッキスプールに機能的に接続された前記コントロールケーブルの第2端部とを含み、
前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せるシフトダウン方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する反対のシフトアップ方向において回転可能であり、さらに
前記回転子のシフトダウン方向への回転により前記ジャッキスプールがシフトダウン方向に回転し、かつ、前記回転子のシフトアップ方向への回転により前記ジャッキスプールがシフトアップ方向に回転するように、前記ハンドグリップ回転子と前記ジャッキスプールとの間に設けられた連動手段を有する、
ことを特徴とする自転車用ギヤ切換えシステム。
(37) 前記シフトアクチュエータは、前記自転車のハンドルバーに対して固定された構造と前記回転子及び前記ジャッキスプールのうち予め選択された1つを含む回転可能な構造との相互作用から形成されるギヤ指定回り止め手段を含み、前記回り止め手段は前記構造の一方において第1のシフトアップ位置と第2のシフトダウン位置との間で移動可能である、ことを特徴とする請求の範囲第36項記載の自転車用ギヤ切換えシステム。
(38) 前記ディレーラは、前記コントロールケーブルを前記ディレーラに向けて偏倚せしめる復帰スプリングを有し、前記回転子及び前記ジャッキスプールの一方にカムを有し、かつ前記カムはシフトダウン方向における前記復帰スプリングの増加する力を補償する、ことを特徴とする請求の範囲第36項又は第37項記載の自転車用ギヤ切換えシステム。
(39) 前記ディレーラは、前記コントロールケーブルを前記ディレーラに向けて偏倚せしめる復帰スプリングと、前記回転子及び前記ジャッキスプールの一方に位置して前記ディレーラをシフトアップ行程の際と同様シフトダウン行程の際に指定スプロケットを越えて過移動せしめることで前記駆動チェーンを前記シフトダウンの方向と同一方向において前記指定スプロケットに近づけるカムと、を含むことを特徴とする請求の範囲第36項又は第37項記載の自転車用ギヤ切換えシステム。
(40) コントロールケーブルの長手方向の変位により作動するギヤシフトシステムを有し、前記コントロールケーブルの遠隔端は前記ギヤシフトシステムと動作可能にして連結し、自転車のハンドルバーに対して略同軸に設けられた回動部材を有するシフトアクチュエータを有する、多段ギヤ自転車に用いられる手動シフトアクチュエータであって、
前記コントロールケーブルの他端は前記ハンドルバーに対して固着され、
前記シフトアクチュエータは前記コントロールケーブルが通過するカム表面を有し、
前記回動部材の第1の方向の回転により、前記コントロールケーブルは前記カム表面で摺動し、前記シフトアクチュエータに向かう方向に前記コントロールケーブルの前記遠隔端を牽引し、前記回動部材の第2の方向の回転により、前記コントロールケーブルは前記カム表面で摺動し、前記シフトアクチュエータから離れる方向に前記コントロールケーブルを解放する、ことを特徴とする手動シフトアクチュエータ。
(41) 前記コントロールケーブルは前記カム表面との係合部位を有し、
前記回動部材が第1の方向に回転する際に、前記カム表面は、前記ハンドルバーの軸に対し外側に向かって前記コントロールケーブルの前記カム表面との前記係合部位を変位せしめ、前記回動部材が第2の方向に回転する際に、前記カム表面は、前記ハンドルバーの前記軸に向う前記コントロールケーブルの前記カム表面との前記係合部位の変位を可能にする、ことを特徴とする請求の範囲第40項記載の手動シフトアクチュエータ。
(42) 前記カム表面は、長部の有効スプーリング直径Dと、Dよりも小なる短部の有効スプーリング直径dと、を有し、
前記回動部材の回動によって生ずる前記コントロールケーブルの長手方向の移動量は、D-dに比例している、ことを特徴とする請求の範囲第40項記載の手動操作シフトアクチュエータ。」
(以下、それぞれ、「本件請求項1ないし42に係る発明」という。)
3-2.特許異議の申立ての理由の概要
異議申立人は、本件特許明細書の記載に関して、概ね次の主張をしている。
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1,3,6,7,8,9,11,12,13,15,16,17,18,21,24,29,33,34,35,36,38,39,及び42の記載は不明瞭であり、上記各請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には不明瞭な記載があり、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていない。したがって、本件発明の特許は、平成2年改正特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明の特許を取り消すべき旨主張している。
更に、異議申立人は、証拠として甲第1号証の1ないし甲第4号証を提出して、本件請求項1ないし42に係る発明は、甲第1号証の1あるいは甲第3号証に記載された発明であり、又は、甲第1号証の1ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条の規定により特許を受けることができないものであるから、本件請求項1ないし42に係る発明の特許を取り消すべき旨主張している。
3-3.明細書の記載不備についての判断
《請求項1の記載について》
異議申立人は、請求項1に記載の「カムローブ」の構成が不明瞭であり、また、請求項1に記載の「コントロールケーブルの端部を前記ハンドルバーに係止する」ことは意味不明である旨主張している。
そこで検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明における「カムローブ」に関する主な記載部分を参照すると、以下のように記載されている。
(1)本件特許明細書第40頁第24行〜第26行(特許公報第17頁第34欄第30行〜第33行)
「ショベル・カム306は、薄い円筒状のすべりセクション304、放射状に進行しているカム・ランプ部分310、および主要なカム突出部分312、即ちカムローブ312から通じている移り変るエントリ部分308を有する。」
(2)本件特許明細書第41頁第28行〜第42頁第1行(特許公報第18頁第35欄第27行〜第30行)
「前述の、ショベル・カム306が3つの部分、移り変るエントリ部分308、カム・ランプ部分310、およびカム突出部分312を含んでいる。カム突出部分312は、カップ端329を有する。」
(3)本件特許明細書第44頁第28行〜第45頁第4行(特許公報第19頁第37欄第44行〜第38欄第2行)
「図23および27において示されるようにショベル・カム306のまわりに膨張するために突出312が、時計回りに回転する。ますますケーブル23を次第に、ショベル・力ム306の中で、突出部分308,310,312の上の力ム溝302の薄い円筒状のケーブルすべりセクション304を離れ、動かす。したがって、次第に、マルチフリーホイール52を横切ってリアディレーラ機構56をシフトするようにケーブル236の中で引っぱる。」
(4)本件特許明細書第46頁第19行〜第23行(特許公報第20頁第39欄第15行〜第20行)
「ショベル・カム306の螺旋状にカーブしている形が、転移フロント・エントリ部分308を通して進むように変化する“ノーチラス(nautilus)”形状力ム・ランプ部分310、そしてリアディレーラ・フリーホイール52の連続した異なるスプロケットの間に必要なケーブル牽引変化に適応させるように力ム突出部分312を有する。」
(5)本件特許明細書第47頁第13行〜第17行(特許公報第20頁第39欄第49行〜第40欄第5行)
「マルチフリーホイール52のスプロケットの各々に十分にあるランプ部分310から力ム突起部分312、即ちカムローブ312に進行するように、ショベルカム306の累進的な高さは、ダウンシフト現象における目的フリーホイールスプロケットを越えて十分なるオーバーシフト量にリアディレーラ機構がチェーンを動かすようにする。」
(6)本件特許明細書第58頁第18行〜第23行(特許公報第25頁第49欄第5行〜第13行)
「ケーブル発動フランジ構造296bは、放射状な指向円板部分298bおよび外のケーブル動作セクション300bを含む。ケーブル発動セクション300bを、移り変るエントリ部分308b、カム・ランプ部分310bおよびカム突出部分312b、即ち力ムローブ312bを有している同じく輪郭を描かれたショベル・カム306b、即ちカム306bを含むリアハンドレスト・シフトアクチュエー夕66の最初の形のケーブル・カム溝302となるべくなら同じであるケーブル・カム溝302bを含む。」
上記各記載事項及び図面の記載を参酌すると、請求項1に記載の「カムローブ」は、ショベル・カム306に設けられたカム突出部分312のことであり、ショベル・カム306が回動すると、カム突出部分であるカムローブ312は、コントロールケーブルをシフトアクチュエータに向けて引き寄せたり、シフトアクチュエータから離れる方向へ解放するものであり、その構成が不明瞭であるとはいえない。
また、請求項1に記載の「コントロールケーブルの端部を前記ハンドルバーに係止する」ことに関する事項として、本件特許明細書第46頁第1行〜第4行(特許公報第19頁第38欄第40行〜第44行)には、「一方、端ビード328のケーブル端は、固定した本体240の上に静止したままである。これは、機械の利点が存在することができない、ケーブル端が、アクチュエー夕によって回転される従来の単純なスプール回転式アクチュエー夕の反対である。」と記載されており、この記載事項からみて、コントロールケーブルの端部は、その軸方向には移動しないように、固定部分であるハンドルバーに係止されていることを意味することが、明らかである。
よって、請求項1の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不明瞭な記載ではない。
《請求項3の記載について》
異議申立人は、本件請求項3に係る発明では、回動部材がマンドレルの外側に設けられていることが特徴となっているが、「外側」がどのような位置であるのか不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、マンドレルに関する事項として、本件特許明細書第37頁第29行〜第38頁第5行(特許公報第16頁第32欄第13行〜第21行)に
「リアディレーラ・シフトアクチュエータ66は、手側の固定したハンドルグリップ226の中心寄りでハンドル222の右手側の部品に固着された円形の本体240を含む。アクチュエータ本体240は、それがハンドル222の上に嵌合することができる環状の中央の開口部243を有している内の心棒部分242を含む。本体240の心棒部分242、即ちマンドレル242における貫通された放射状の孔244が、止めねじ246を受ける。なるべくなら、ハンドル222上に心棒242を固着するスパナねじがよい。」と記載され、又、回動部材に関する事項として、本件特許明細書第39頁第28行〜第40頁第3行(特許公報第17頁第33欄第43行〜第50行)に「リアハンドレスト・シフトアクチュエータ66の回転部分が、一般に、290で示され、そしてもっともよく、図19および21-29において示されている。ハンドレスト回転部分290が、固定した右のグリップ226の中心寄りでじかにハンドル222上に回転可能にサポートされる延長された円筒状の本体292を含む。そして、本体292は軸の方向であって、外の方向におけるハンドル222上に置かれている。」と記載されている。
上記各記載事項及び図21の記載からみて、「マンドレル」は符号242で示す心棒部分であり、又、「回動部材」は符号290で示すハンドレスト回転部分であって、両者をハンドル(ハンドルバー222)の外周上に配置し、ハンドル(ハンドルバー222)の端部であるハンドグリップ226よりも内寄りにおいて順に「回動部材」(ハンドレスト回転部分290)、「マンドレル」(心棒部分242)を設けることは記載されているが、「回動部材」(ハンドレスト回転部分290)を「マンドレル」(心棒部分242)の外周に設けることは、何ら記載されていない。
よって、請求項3に記載の「外側」が、「外寄り」を意味することは明らかであり、請求項3の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不明瞭な記載ではない。
《請求項6及び8の記載について》
異議申立人は、請求項6及び8に係る発明は、「コントロールケーブルとコントロールケーブル作動システムとの間に生ずる空動きを補償する」ことを特徴としているが、上記「空動きを補償する」とは、どのような構成であるのか不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、リアディレーラ機構における空動きの原因については、本件特許明細書第30頁第24行〜第31頁第24行(特許公報第13頁第26欄第20行〜第14頁第27欄第10行)に記載されており、又、この請求項6及び8の構成に対応する実施例の説明を参照すると、本件特許明細書第43頁第20行〜第44頁第11行(特許公報第18頁第36欄第44行〜第19頁第37欄第21行)に「ダウンシフト順序における最初のステップが、もっともよく、図22および24において見える。弓形ばね構成要素250が、固定した本体240の肩266に対して境を接するばね構成要素250の他の端が、図24のダウンシフト位置に固定した本体240の肩268に対して境を接した図22のそのアップシフト位置から動かされる。ダウンシフト運動のこの最初の増加量の間に、ばね割り出し突起284は、ハンドレスト回転部材290の回転(図22-24で時計方向)でもって、バネ部材250が、固定した肩266に隣接する固定した肩268による隣接からシフトされるように、もっとも高い歯車バネもどし止め322のなかに止まる。バネ構成要素250の内のフィート280と282は、ばね250の定数がその外の端フィート277および278の間のばね250の全体の長さのばね率を減らされるようにそれぞれの突起270と272をシフトしないでおく。回転ハンドレスト部分290の運動のこの最初の増加量が、3つの事をなしとげる。最初に、ばね250の中で下側のみまね率にシフトすることは、ダウンシフト現象の間に増やされたディレーラ復帰ばね力のための補償を提供する。第2に、それは、以前に説明したようにリアディレーラ機構およびリアディレーラ・ケーブル・システムにおける空動きを克服するリア制御ケーブル236の初めの吸収のための回転の運動の先行の増加量をハンドレスト回転部分290に提供する。第3に、それは、同じく、以前に記載されるようにはっきりしたシフト割出しのためのケーブル運動のオーバーシフト増加量を提供する。」と記載されている。
上記各記載事項からみて、回り止めスプリング(弓形ばね構成要素250)の長手状ベースが、マンドレルの空腔内を摺動することにより、「空動きを補償する」ことは明らかであり、請求項6及び8の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不明瞭な記載ではない。
《請求項7の記載について》
異議申立人は、請求項7に係る発明は、「オーバーシフト増分を与える」ことを特徴としているが、どのようにしてオーバーシフト増分を与えているのか不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、上記《請求項6及び8の記載について》で説示したのと同様な理由により、回り止めスプリング(弓形ばね構成要素250)の長手状ベースが、マンドレルの空腔内を摺動することにより、「オーバーシフト増分を与える」ことは明らかであり、請求項7の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不明瞭な記載ではない。
《請求項9の記載について》
異議申立人は、請求項9に係る発明は、その構成要件の1つとして「力ムローブを有する力ム」を有しているが、このカムローブに関する記載が、請求項1について言及したように不明瞭であり、又、同じく力ムローブに関して、「前記カムローブは、その一方向への回転により前記ディレーラのシフトダウンを生ぜしめるべく前記復帰スプリングの付勢力に抗して前記コントロールケーブルを引っ張り、かつ、前記一方向とは反対方向への回転により前記ディレーラのシフトアップを生ぜしめるべく前記復帰スプリングの付勢力の方向に前記コントロールケーブルを解放するように形成されている」ことを特徴としているが、この部分は、発明の詳細な説明に記載したものでない旨主張している。
そこで検討すると、上記《請求項1の記載について》で説示したのと同様な理由により、「カムローブ」の構成が不明瞭であるとはいえない。
また、コントロールケーブルは、ディレーラ復帰ばね98即ち復帰スプリング98により、ディレーラに向けて付勢されているから、カムローブが、上記構成にように、コントロールケーブルを引っ張り、かつ、解放するように作動することは明らかである。
よって、請求項9の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《請求項11の記載について》
異議申立人は、請求項11において、「前記回り止め凹部の数は、・・・請求の範囲第9又は第10項記載の・・・」と記載されているが、引用した請求項9には「回り止め凹部」なる構成は記載されておらず、請求項11の構成は不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、請求項9には「回り止め凹部」については何ら記載されておらず、請求項9を引用した請求項11の記載は不明瞭である。
よって、請求項11の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない。
《請求項12の記載について》
異議申立人は、請求項12においては、「前記回り止めスプリングは、・・・請求の範囲第9ないし第11項いずれか1つに記載の・・・」と記載されているが、引用した請求項9には「回り止めスプリング」なる構成は記載されておらず、請求項12の構成は不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、請求項9には「回り止めスプリング」については何ら記載されておらず、請求項9を引用した請求項12の記載は不明瞭である。
よって、請求項12の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない。
《請求項13の記載について》
異議申立人は、請求項11,12と同じく、引用した請求項9には「回り止めスプリング」、「回り止め凹部」なる構成は記載されておらず、請求項13の構成は不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、請求項9には「回り止めスプリング」、「回り止め凹部」については何ら記載されておらず、請求項9を引用した請求項13の記載は不明瞭である。
よって、請求項13の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない。
《請求項15の記載について》
異議申立人は、請求項15は、第1回り止めシステムと第2回り止めシステムとを有し、「前記第2回り止めシステムは、前記第1回り止めシステムが前記回り止めスプリングに対する前記回動可能部分の移動を許容する前に、前記回動可能部分が前記マンドレルに対して前記回り止めスプリングを移動せしめる、」ことを特徴としているが、「回動可能部分」が実施例のどの部分に対応し、またどのような作用をするのか不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、「回転可能部分」は、符号290aで示すハンドレスト回転部分に対応することは明らである。
また、本件特許明細書第52頁第3行〜第54頁第8行(特許公報第22頁第43欄第39行〜第23頁第45欄第30行)に、「フロントハンドレスト・シフトアクチュエータの動作モード」として作用が記載されており、上記記載の作用は明らかである。
よって、請求項15の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《請求項16の記載について》
異議申立人は、上記《請求項1の記載について》と同様に、請求項16に記載の「カムローブ」の構成が不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、上記《請求項1の記載について》で説示したのと同様の理由により、請求項16に記載の「カムローブ」の構成が不明瞭であるとはいえない。
よって、請求項16の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《請求項17の記載について》
異議申立人は、請求項17に係る発明は、「ジャッキスプール」が重要な構成要件の1つとなっているが、「ジャッキスプール」という語句は、本件特許発明が属する自転車の技術分野において一般的に使用されている語句ではなく、この語句だけでは当業者は構成を理解することができない旨主張している。また、この請求項17では、「ハンドグリップ」という語句が使用されているが、発明の詳細な説明中においては、このような語句は一切使用されておらず、実施例のどの部分に対応しているのか不明瞭である旨も主張している。
そこで検討すると、ジャッキスプールに関する事項としては、本件特許明細書第63頁第18行〜第65頁第1行(特許公報第27頁第53欄第13行〜第54欄第22行)に記載されており、当該記載事項からみて、「ジャッキスプール」は、符号436で示すジャッキ・スプールで、コントロールケーブルの一端部が接続される回転体のことであり、当該ジャッキスプール436が回転することにより、コントロールケーブルを引き寄せ、又は解放するものといえるから、請求項17に記載の「ジャッキスプール」の構成が不明瞭であるとはいえない。
また、請求項17に記載の「ハンドグリップ」は、明らかに「ハンドルグリップ」の誤記である。
よって、請求項17の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《請求項18の記載について》
異議申立人は、請求項17の記載と同様に、請求項18に記載の「ジャッキスプール」の構成が不明瞭である旨主張し、また、「ハンドグリップ」及び「ハンドグリップ回転子」が、実施例のどの部分に対応しているのか不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、上記《請求項17の記載について》で説示したのと同様の理由により、請求項18に記載の「ジャッキスプール」の構成が不明瞭であるとはいえない。
また、請求項18に記載の「ハンドグリップ」が符号404,406で示すグリップに対応し、又、「ハンドグリップ回転子」が符号412,413で示すシフター回転子に対応することは明らかである。
よって、請求項18の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《請求項21の記載について》
異議申立人は、請求項21においては、「前記ハンドルバーに固着されて回り止めスプリングを支持するマンドレルを有し、前記回転子及び前記ジャッキスプールのうちから選択された1つが前記マンドレルのまわりに回転して回動可能部分を形成し、」と記載されているが、ジャッキスプールがマンドレルのまわりを回転するような実施例および記載は全くなく、請求項21に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されものではない旨主張している。
そこで検討すると、本件特許明細書第84頁第29行〜第91頁第10行(特許公報第35頁第70欄第33行〜第38頁第75欄第43行)に記載の「直接のジャッキ・スプールもどり止めによる歯車被駆動形」のものにおいて、ジャッキ・スプール取付け柱524は、請求項21に記載の「マンドレル」に対応するものであり、ジャッキ・スプール436cが上記ジャッキ・スプール取付け柱524のまわりに回転することが記載されている。
よって、請求項21に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されものであり、請求項21の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしている。
《請求項24の記載について》
異議申立人は、請求項24において、「前記回動部材・・・前記第1方向と前記第2方向・・・」と記載されているが、この請求項24が引用した請求項17〜23において、「回動部材」、「第1方向」、「第2方向」は記載されておらず、構成が不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、請求項17には、回転子が2つの方向に回転することが記載されており、請求項24に記載の「回動部材」は、請求項17に記載の「回転子」に対応し、請求項24に記載の「第1方向」、「第2方向」は、請求項17に記載の回転子の「2つの回転方向」を区別して明示したものといえる。
よって、請求項24の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《請求項29の記載について》
異議申立人は、請求項29において、「被駆動リングがコントロールケーブルを引き寄せる第1位置とコントロールケーブルを解放する第2位置との間で・・・」と記載されているが、被駆動リングは一方向あるいは逆の他方向に回転しながらコントロールケーブルを引き寄せたり解放したりしているはずであり、このような被駆動リングにおける「第1位置」と「第2位置」とは、回転時のどの時点での位置を示しているのか不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、上記被駆動リングにおける「第1位置」と「第2位置」とは、回転時のどの時点での位置を示しているのか不明瞭である。
よって、請求項29の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない。
《請求項33の記載について》
異議申立人は、請求項33において、「前記第1及び第2位置で前記回り止め突起及び前記スプリングをいっしょに選択的に保持すべく」と記載されているが、「いっしょに」保持することと、「選択的に」保持することとは、相反する構成であり、「いっしょに選択的に保持する」とは、どのような構成をいうのか意味不明である旨主張している。また、「2回り止め手段」と記載されているが、この「2回り止め手段」とは何であるか意味不明である旨主張している。
そこで検討すると、上記請求項33の「前記第1及び第2位置で前記回り止め突起及び前記スプリングをいっしょに選択的に保持すべく」という記載は、「前記回り止め突起及び前記スプリングをいっしょに前記第1及び第2のいずれかの位置に選択的に保持すべく」という意味に解することができ、意味不明であるとはいえない。また、「2回り止め手段」という記載は、特許公報の誤りであって、本件特許明細書である、平成10年4月28日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項33には、「第2回り止め手段」と記載されており、意味不明ではない。
よって、請求項33の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《請求項34の記載について》
異議申立人は、請求項34において、「シフトダウン動作の間高いディレーラ復帰ばね力を補償するように」と記載されているが、どの程度、何に対して「高い」のか構成が不明瞭である旨主張している。また、「前記第1位置にあるときよりも前記第2位置にある時に・・・」と記載されているが、引用先の請求項30,28,18には、「第1位置」、「第2位置」が記載されておらず、どのような位置を示すのか不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、請求項34の記載及び引用先の請求項30,28,18の記載からは、ディレーラ復帰ばね力が、どの程度、何に対して「高い」のか不明であり、また、上記「第1位置」、「第2位置」がどのような位置を示すのか不明である。
よって、請求項34の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない。
《請求項35の記載について》
異議申立人は、請求項35において、「前記ディレーラの復帰スプリングの増加する力を補償する」と記載されているが、上記「増加する力を補償する」という構成が不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、本件特許明細書第68頁第19行〜第23行(特許公報第29頁第57欄第17行〜第24行)には、「図51,52,56は、次第に、ダウンシフト方向におけるフロントディレーラ復帰ばね、即ち復帰スプリングの増やしている対向力のための補う増加しているトルクを提供するジャッキ・スプール軸出力ケーブル凹部458のオウムガイ・カム形を示す。そして逆に言えば、アップシフト方向におけるディレーラ復帰ばねの力に反対して、減るために補うところの次第に減しているトルクが提供されている。」と記載されており、この記載からみて、上記「増加する力を補償する」とは、「増やしている対向力のための補う増加しているトルクを提供する」を意味することは明らかである。
よって、請求項35の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《請求項36の記載について》
異議申立人は、上記請求項17と同様に、請求項36に記載の「ジャッキスプール」の構成が不明瞭である旨主張し、また、請求項36において、「車軸に固着された複数のギヤ・・・」と記載されているが、複数のギヤが「車軸ボルト38」に固着されていては、自転車として成立せず、構成が不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、上記《請求項17の記載について》で説示したのと同様の理由により、請求項36に記載の「ジャッキスプール」の構成が不明瞭であるとはいえない。
また、自転車における技術常識を考慮すれば、上記「車軸」は、「車軸ボルト38」ではなく、「車軸の軸受部」を意味するものといえるから、請求項36の上記記載が格別不明瞭であるとはいえない。
よって、請求項36の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《請求項38の記載について》
異議申立人は、請求項38において、「前記コントロールケーブルを前記ディレーラに向けて偏倚せしめる復帰スプリング」と記載されているが、ここで、「偏倚」とは、広辞苑によれば、「かたよること」を意味しており、上記記載は、「復帰スプリングはコントロールケーブルをディレーラに向けて片寄らせている」という構成を意味していると理解されるが、どのような構成であるのか不明瞭である。
そこで検討すると、上記請求項38の「偏倚せしめる」は、付勢して偏倚させることを意味していると解され、上記請求項38の記載が不明瞭であるとはいえない。
よって、請求項38の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《請求項39の記載について》
異議申立人は、請求項39において、「前記ディレーラは、前記コントロールケーブルを前記ディレーラに向けて偏倚せしめる復帰スプリングと、前記回転子及び前記ジャッキスプールの一方に位置して前記ディレーラをシフトアップ行程の際と同様シフトダウン行程の際に指定スプロケットを越えて過移動せしめることで前記駆動チェーンを前記シフトダウンの方向と同一方向において前記指定スプロケットに近づけるカムと、を含む」と記載されており、すなわち、ディレーラが復帰スプリングとカムとを含んでいることが記載されているが、ディレーラに含まれる「カム」が発明の詳細な説明に示されておらず、構成が不明瞭である旨主張している。また、上記《請求項38の記載について》と同様に、「偏倚せしめる」という構成が不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、発明の詳細な説明には、シフトアクチュエータのジャッキスプールにカムを形成することは記載されているが、ディレーラに含まれる「カム」については何ら記載されておらず、上記「カム」の構成が不明瞭である。
よって、請求項39の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない。
《請求項42の記載について》
異議申立人は、請求項42において、「前記カム表面は、長部の有効スプーリング直径Dと、Dよりも小なる短部の有効スプーリング直径dと、を有し、前記回動部材の回動によって生ずる前記コントロールケーブルの長手方向の移動量は、D-dに比例している、」と記載されているが、発明の詳細な説明には、「長部の有効スプーリング直径」及び「短部の有効スプーリング直径」という記載はない旨主張している。
そこで検討すると、本件特許明細書第45頁第7行〜第19行(特許公報第19頁第38欄第6行〜第24行)に「薄いケーブルすべりセクション304のより小さい直径およびショベル・カム突出部分312のより大きい直径の間の差が、特有のリアディレーラ機構のために、過去に現在または将来であるにせよ、必須のケーブル運動の量に仕立てられることができる。この時に従来のディレーラ機構が、もっとも小さいものからもっとも大きいフリーホイール・スプロケットへダウンシフトするために牽引されるのにおよそ.760インチ必要とする。試験は、この発明のケーブルすべりセクション304のためのおよそ1インチからおおよそ突出312のための1.6インチの直径差が、ハンドレスト回転部分290のおよそ136°に.760インチのケーブル牽引であり、それはシフト回転の、標準的なレンジの範囲内であり、また同じく標準的なトルク・レンジの範囲内である。1.6インチのカム突出312の直径と1インチケーブルすべりセクション304の直径を有している本発明の試験模型のために、ハンドレスト回転部分290の回転の量が、上記に参照する136°であり、パイ掛ける(1.6マイナス1すなわちD-d)として計算されることができる。」と記載され、又、本件特許明細書第46頁第12行〜第15行(特許公報第20頁第39欄第5行〜第9行)に「カム突出312のより大きい直径およびケーブルすべりセクション304のより小さい直径の比を調整することによって、ケーブル運動の量、そして対応して得られる機構の利点の量が、既存のリアディレーラ機構についても、完全に適合され改造するために、調整される。」と記載されている。
上記記載事項からみて、ショベルカム306は、長い直径部分と短い直径部分とを有するものであり、長い直径部分が、請求項42に記載の「長部の有効スプーリング直径D」に対応し、又、短い直径部分が、請求項42に記載の「短部の有効スプーリング直径d」に対応するといえるものである。
よって、請求項42の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《本件特許明細書第20頁第1行〜第4行(特許公報第9頁第17欄第34行〜第39行)の記載について》
異議申立人は、本件特許明細書第20頁第1行〜第4行(特許公報第9頁第17欄第34行〜第39行)に記載の「リアハンドレスト・シフトアクチュエー夕は、ハンドルの右の側上に装着され、リアディレーラがフロントディレーラよりいっそう頻繁にシフトされるので、ほとんどのライダを適応させるために設けられたハンドルの左の側上にフロントハンドレスト・シフトアクチュエー夕は装着されている。」は、意味が不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、上記記載自体の意味が明瞭であるとは言い難いが、ギアシフトアクチュエータを備えた自転車における技術常識を考慮すれば、上記記載は、「リアディレーラはフロントディレーラよりも頻繁にシフトされるものであるが故に、大多数のライダーに適応すべく、リアハンドレスト・シフトアクチュエータはハンドルの右側に設けられ、フロントハンドレスト・シフトアクチュエータはハンドルの左側に設けられている。」ことを意味するものと解することができる。
よって、本件特許明細書第20頁第1行〜第4行(特許公報第9頁第17欄第34行〜第39行)の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《本件特許明細書第20頁第5行〜第9行(特許公報第9頁第17欄第40行〜第46行)の記載について》
異議申立人は、本件特許明細書第20頁第5行〜第9行(特許公報第9頁第17欄第40行〜第46行)に記載の「本発明のショベル・カム形において、各々のハンドレスト・シフトアクチュエー夕は、丸くされたカム突出、即ちカムローブを有する“ショベル・カム(shovel cam)”として応用者が参考にすることを含む。要するに、ダウンシフトの中のアクチュエータの範囲内のケーブル端部分は捉まれて膨張し、そして、アップシフトの間にケーブルを解放するために逆になる。」は、意味が不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、上記記載自体の意味が明瞭であるとは言い難いが、ギアシフトアクチュエータを備えた自転車における技術常識を考慮すれば、上記記載は、「本発明のショベル・カム形において、各々のハンドレスト・シフトアクチュエー夕は、丸くされたカムローブを有する“ショベル・カム(shovel cam)”と出願人が呼ぶものを含む。そして、上記カムローブは、実際において、ダウンシフト中にアクチュエータの中において、ケーブル端部分を拾い上げて膨らませ、そして、アップシフト中にケーブルを解放するために逆の動作をする。」ことを意味するものと解することができる。
よって、本件特許明細書第20頁第5行〜第9行(特許公報第9頁第17欄第40行〜第46行)の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《本件特許明細書第20頁第23行〜第21頁第1行(特許公報第9頁第18欄第15行〜第25行)の記載について》
異議申立人は、本件特許明細書第20頁第23行〜第21頁第1行(特許公報第9頁第18欄第15行〜第25行)に記載の「本発明のいくらかのジャッキ・スプール形において、シフター回転子およびジャッキ・スプールの間の機械の連結は、短いケーブル連結である。このケーブル連結は、ディレーラ制御ケーブルの中で牽引しているジャッキ・スプールおよび対応するダウンシフトのダウンシフト回転を起こすためにシフター回転子のダウンシフト回転の間に牽引される。ハンドレスト回転子のアップシフト回転が、ケーブル連結を開放する。ディレーラ制御ケーブルを通して適用されたディレーラ復帰ばねの力にジャッキ・スプールのアップシフト回転を起こすのを可能にする。」は、意味が不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、上記記載自体の意味が明瞭であるとは言い難いが、ギアシフトアクチュエータを備えた自転車における技術常識を考慮すれば、上記記載は、「本発明のいくらかのジャッキ・スプール形において、シフター回転子およびジャッキ・スプールの間の機械の連結は、短いケーブル連結である。このケーブル連結は、シフター回転子のダウンシフト回転中に牽引されて、ジャッキ・スプールのダウンシフト回転とディレーラ制御ケーブルの対応するダウンシフト牽引を生じさせる。ハンドレスト回転子のアップシフト回転が、ケーブル連結を解放し、ディレーラ制御ケーブルを通して加えられたディレーラ復帰ばねの力がジャッキ・スプールのアップシフト回転を生じさせるのを可能にする。」ことを意味するものと解することができる。
よって、本件特許明細書第20頁第23行〜第21頁第1行(特許公報第9頁第18欄第15行〜第25行)の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《本件特許明細書第32頁第14行〜第24行(特許公報第14頁第27欄第36行〜第50行)の記載について》
異議申立人は、本件特許明細書第32頁第14行〜第24行(特許公報第14頁第27欄第36行〜第50行)に記載の「そのようなその累積する空動きは、リラックスさせられるか、あるいはあそびを作る。そして、最終の転送先に向かうケーブル運動と対抗させている力ベクトルは、ケーブル・ハウジングに横に対抗する低いケーブル力のために、小さくて、そして安定である。最終の転送先がアップシフト方向において届かれるようにオーバーシフトが使われるとき、より大きいスプロケットにダウンシフトするための同じ要因がえられる。それゆえに、同じフリーホイール・スプロケットへのダウン-シフトおよびアップシフト現象の両方は、スプロケットによるチェーンの同じ正確な一列になる。アップシフトの間に各フリーホイール・スプロケットのために都合よく計算される初めの一列にすることは、同じく、各スプロケットへのダウンシフトのための正しいチェーン位置決めを提供する。」は、意味が不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、上記記載自体の意味が明瞭であるとは言い難いが、ギアシフトアクチュエータを備えた自転車における技術常識を考慮すれば、上記記載は、「これにより、累積していた空動きは緩和したものとなるか又は逆方向に戻る動きとなる。ケーブルがケーブルハウジングに及ぼす力は小さいが故に、最終的な位置に移動しようとするケーブルに対して抵抗する力は小さいものでありかつ安定したものとなる。より大きいスプロケットに向かってオーバーシフトしてダウンシフトした場合においても同じことが当てはまり、このためオーバーシフトした場合にはアップシフトするようにして最終的な位置に達する。従って、同じフリーホイール・スプロケットに向かってダウンシフト動作する場合においてもアップシフト動作する場合においても、チェーンはそのスプロケットに対して正確に同じ位置に位置づけられることとなるのである。アップシフトする際における配置をフリーホイールの各々について見積もっておくことにより、ダウンシフトする際においても各々のスプロケットにチェーンを正確に位置づけることができるのである。」ことを意味するものと解することができる。
よって、本件特許明細書第32頁第14行〜第24行(特許公報第14頁第27欄第36行〜第50行)の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
《本件特許明細書第49頁第7行〜第12行(特許公報第21頁第41欄第22行〜第30行)の記載について》
異議申立人は、本件特許明細書第49頁第7行〜第12行(特許公報第21頁第41欄第22行〜第30行)に記載の「バネ250の内フィート280と282が固定した本体240のリブまたは突起270および272に係合される。その結果ハンドレスト・シフトアクチュエータ操作力が、一般に、ディレーラばね力に対してダウンシフトするように、ディレーラばね力によるアップシフトと同じである。その高いばね率位置にばね250を動かすハンドレスト回転部分290のこの先行のアップシフト回転が、前のダウンシフトの後残されるリアディレーラ機構およびケーブル・システムの空動きを開放する。」は、意味が不明瞭である旨主張している。
そこで検討すると、上記記載自体の意味が明瞭であるとは言い難いが、ギアシフトアクチュエータを備えた自転車における技術常識を考慮すれば、上記記載は、「バネ250の内フィート280と282が固定した本体240のリブまたは突起270および272に係合される。その結果、ハンドレスト・シフトアクチュエータ操作力は、一般的に、ディレーラばね力と同方向のアップシフトのための操作力と、ディレーラばね力と反対方向のダウンシフトのための操作力とが同じになる。ばね250をそのより高いばね率位置に動かすハンドレスト回転部分290を回転する、この予備的なアップシフト回転が、先のダウンシフト後に残されているリアディレーラ機構およびケーブル・システムの空動きを解放する。」ことを意味するものと解することができる。
よって、本件特許明細書第49頁第7行〜第12行(特許公報第21頁第41欄第22行〜第30行)の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというほどの不備な記載ではない。
3-4.明細書の記載不備についての判断のまとめ
したがって、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項11,12,13,29,34及び39の記載は、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしておらず、本件請求項11,12,13,29,34及び39に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。
また、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1,3,6,7,8,9,15,16,17,18,21,24,33,35,36,38及び42の記載並びに発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないとはいえない。
3-5.新規性及び進歩性の欠如についての判断
3-5-1.引用刊行物とその記載事項の概要
異議申立人が証拠として提出し、また、当審が上記平成11年11月11日付けで通知した特許取消理由でも引用した刊行物とその記載事項の概要は、上記「2-2-1.引用刊行物とその記載事項の概要」に記載したとおりである。
更に、刊行物4(米国特許第4,900,291号明細書(甲第1号証の1))には、上記「2-2-1-4.刊行物4の記載事項の概要」で摘記した事項(4-1)ないし(4-7)に加えて、次の事項が記載されている。
(4-8)「Rear handgrip shift actuator 66・・・(中略)・・・and the up-shift direction.」(第9欄第63行〜第10欄第1行)
(「次に第3図乃至第11図に関連して後部ハンドグリップシフト作動器66について詳細に説明する。全体的に螺旋形の作動面を有している回転カム部材74が、後部ハンドグリップシフト作動器66の主要部であって、そしてダウン・シフト方向及びアップ・シフト方向の双方に確実にスムースな、且つ容易なシフトを行うように後部変速機機構58と協働する。」(翻訳書第7頁右下欄第20行〜第8頁左上欄第1行))
(4-9)「FIGS.3-11 illustrate the details・・・(中略)・・・handlebar end portion 72.」(第10欄第48行〜第58行)
(「第3図及び第11図は、後部ハンドグリップシフト作動器66の構成の詳細を例示している。シフト作動器66の一次作動部材は、それぞれのハンドルバー端部分72と同軸に配置されている全体的にシリンダー状のカム部分75と、ハンドルバー端部分72の軸線を横切っている全体的に平たい外部端部分76とを有している全体的にカップ形状のカム部材74である。カム部材74の全体的にシリンダー状の部分75は、内方に向けて内部端77で終わっており、これがまたハンドルバー端部分72の軸線を横切っている。」(翻訳書第8頁右上欄第12行〜第19行))
(4-10)「Cam member 74,cover member 78, and bushing 82 are registered such that all three members rotate together.」(第11欄第20行〜第22行)
(「カム部材74、カバー部材78及びブッシング82は、すべての3つの部材が一緒に回転するように整合される。」(翻訳書第8頁左下欄第18行〜第19行))
(4-11)「The operating surface of cam member 74・・・(中略)・・・relative to cable 101.」(第11欄第54行〜第12欄第26行)
(「カム部材74の作動面は、ハンドルバー端部分72に固定的に取付けられているカムピン94に係合し、その上に乗る。第3図、第4図、第7図及び第11で明らかなように、カムピン94は全体的にシリンダー状の形状であり、そして一端に減少した直径部分95を有している。カムピン94はハンドルバー端部分72内に取付けられており、その減少した直径部分95が、ハンドルバー部分72の外面を越えて延びないようにハンドルバー部分72の壁を通り開口97内に置かれている。カムピン94は、ハンドルバー部分72の内側を横切って直径方向に延びており、ハンドルバー部分72の壁内の大きな開口97を通って外方に突出している。カムピン94のカム作動端部分98がハンドルバー部分72の外面から半径方向外方に延びていて、固定した、滑らかな丸い保持部材を提供し、これに対してカム部材74の作動面又は表面99が乗っている。
カムピン94は2つの機能に役立っている。第1に、その外部部分98は、カム作動面99によって係合される前述の保持面を提供する。第2に、カムピン94は、ケーブルハウジング又はケーシングの端部のためのロケーター(locator)を提供する。穴100が、ハンドルバー部分72内の半径方向に心を合わされ、且つハンドルバー72と軸線方向に整合した位置においてカムピン94を通り直径方向に設けられている。後部変速機シフティングケーブル101がこの穴100を通過する。穴100の端ぐり穴102がハンドルバー端の内方に面している肩を提供する。整合中心開口103及び104がそれぞれカム及びカバー部材端部76及び80を通って延びており、そしてハンドルバー端の外方の方向に金属保持面を提供するように、環状保持プレート105がカム部材端76内に成型されている。ケーブル101をカムピンの穴100を通り張った後、ケーブルはカム部材端の穴103及び保持プレート105を通過し、そしてクリンプしたカラー又は鋳型した(cast-on)金属ビード106のいずれかで終わり、そしてこれは鉛で作られている。ケーブル101のためのハウジング又はケーシング107は、その端をクリンプしたフェルール108を有しており、そしてフェルール108はカムピンの端ぐり穴102内に座している。従ってケーブル101に対するケーブルハウジング107のための固定位置を提供する。」(翻訳書第8頁右下欄第21行〜第9頁右上欄第6行))
(4-12)「When cable 101・・・(中略)・・・to a smaller sprocket」(第12欄第30行〜第50行)
(「ケーブル101が、カム作動面99によってハンドルバー端に対して外方に引かれると、ケーブル101の他端が後部変速機機構を車輪40に近い大きいフリーホイールスプロケットの方にダウン・シフト運動を行い;一方カム作動面99によるケーブル101の解放によって後部変速機機構58の戻りスプリングがケーブル101を変速機機構58の方に引き、そして変速機機構がチェーンを車輪40から離れて小さいスプロケットにアップ・シフトせしめる。カム部材74の全体的に螺旋状の段のついた作動面99は、好ましくはハンドルバーの軸線方向外方に移動するように配置されていて、そしてサイクリストから見て時計の針の方向に回されるとき、それによりケーブル101を外方に引き、そして後部変速機機構58を大きいスプロケット、即ち大きいギヤ比にシフトする。反対に、カム部材74がサイクリストによって反時計の針の方向に回されると、ケーブル101上の変速機戻りスプリング張力がカム部材74をハンドルバー端の内方に移動せしめ、変速機機構58を小さいスプロケットの方に上方にシフト可能にする。」(翻訳書第9頁右上欄第8行〜第24行))
(4-13)「The apparatus of rear derailleur mechanism 58a・・・(中略)・・・in detail in connection therewith.」(第19欄第3行〜第8行)
(「後部変速機機構58aの装置は第21図及び第27図乃至第30図に最もよく例示されている。後部ハンドグリップシフト作動器66と、後部ケーブルシステム178と、後部変速機機構58aとの作動の新規な協働モードが、第31図乃至第36図に例示されており、そしてそれに関連して詳細に説明する。」(翻訳書第13頁左上欄第13行〜第17行))
(4-14)「Derailleur return spring 208・・・(中略)・・・frame 12a and freewheel 54a 」(第19欄第41行〜第53行)
(「変速機戻りスプリング208は、第29図で最もよく判り、そしてピボットピン206の周りに配置されたそのコイルを有している螺旋スプリングであって、平らな、より密接な状態に平行四辺形182をバイアスするようにシフターボディ194を押しているそれぞれのアームを有し、それによりシフターボディ194をフレーム12a及びフリーホイール54aに対して横に外方にバイアスしている。第21図、第27図及び第29図に見られるケーブルクランプ210が、ケーブル180の端をクランプするため外部平行四辺形リンク196に取付けられている。ケーブル180への張力増加が、平行四辺形182を、より開いた長方形形状の方に引き、それによりシフターボディ194をフレーム12a及びフリーホイール54aに対し内方に移動する。」(翻訳書第13頁右上欄第23行〜左下欄第10行))
(4-15)「A cylindrical cam member 412・・・(中略)・・・shown in FIGS. 13, 15 and 38.」(第31欄第5行〜第14行)
(「シリンダー状のカム部材412は、全体的にシリンダー状のハウジング414内に取付けられており、第47図及び第50図に示した環状アレイのピン416によってハウジング414にロックされている。カム部材412は、ボディカラー部分402に対して回転可能に座している環状の内側端部418と、その外側端に形成された全体的に螺旋状のカム作動面420とを有している。前部変速機機構と協働するように形造られているカム作動面420は、第13図、第15図及び第38図に示した断面のいずれかに類似の断面を有していればよい。」(翻訳書第20頁右上欄第4行〜第12行))
(4-16)「A cam follower plate 424・・・(中略)・・・with all of the same advantages.」(第31欄第30行〜第45行)
(「カムフォロワープレート424は、フォロワースロット408内に全体的に軸線方向に乗っており、そしてそれにしっかり固定された、半径方向外方に向いたフォロワーピン426を有している。カムフォロワーピン426は、第47図、第48図及び第49図から明らかなように、カム作動面420に対して乗っていて、カム面420の形状に追従する。鉛で作られている金属ビード428が、前部制御ケーブル384の端に鋳型されており、そしてカムフォロワープレート427の相補的へこみ430内に座している。ケーブルハウジング366の端にクリンプされたフェルール432がボディ396のカラー部分402内のへこみ434内に座していて、シフト作動器378とのケーブル接続を完成している。
ハンドグリップシフト作動器358及び360は、それぞれのシフト作動器62及び66に対して今までに詳述したと同じ方法でそれぞれの前部及び後部変速機システムと協働し、そしてすべての同じ利点を有している。」(翻訳書第20頁左下欄第2行〜第16行))
3-5-2.対比・判断
《本件請求項1に係る発明について》
本件請求項1に係る発明と刊行物4に記載された発明と対比すると、刊行物4に記載された発明の「ケーブル101」、「ハンドルバー32」は、それぞれ、本件請求項1に係る発明の「コントロールケーブル」、「ハンドルバー」に相当する。また、刊行物4に記載の「カム部材74、カバー部材78及びブッシング82からなる部材」(上記(4-10)で摘記した事項、参照)は、本件請求項1に係る発明の「回動部材」に相当し、当該部材を有する、刊行物4に記載された発明の「ハンドグリップシフト作動器62,66」は、ケーブル101をその軸線方向に変位せることで作動せしめられるギヤ切換えシステムを有した多段ギヤ自転車に用いられるものであり、本件請求項1に係る発明の「自転車用ギヤシフトアクチュエータ」に相当する。
また、刊行物4に記載の「環状保持プレート105」と「金属ビード106」とからなる部材は、ケーブル101の端部を係止する点では、本件請求項1に係る発明の「係止部材」に一応相当するといえる。
更に、刊行物4に記載の「カム作動面99」を備えた「回転カム部材74」は、ケーブル101をその軸線方向に移動せしめて上記摘記事項(4-12)のように作動させるものである点では、本件請求項1に係る発明の「カムローブ」を備えた「カム」に一応相当するといえる。
よって、本件請求項1に係る発明と刊行物4に記載された発明とは、「コントロールケーブルをその軸線方向に変位せることで作動せしめられるギヤ切換えシステムを有した多段ギヤ自転車に用いられると共に、前記自転車のハンドルバーに対して略同軸に回動可能に取り付けられた回動部材を有する手動型の自転車用ギヤシフトアクチュエータであって、前記コントロールケーブルの端部を係止する係止部材と、前記コントロールケーブルを移動せしめるカムローブを備えると共に前記回動部材上に設けられたカムとを有し、前記カムローブは、前記回動部材の第1方向への回転によって前記コントロールケーブルを前記シフトアクチュエータに向けて引き寄せ、かつ、前記第1方向と逆の第2方向への前記回動部材の回転によって前記コントロールケーブルを前記シフトアクチュエータから離れる方向へ解放する、自転車用ギヤシフトアクチュエータ」である点で一致している。
しかしながら、コントロールケーブルをその軸線方向に移動せしめる構成に関して、本件請求項1に係る発明では、コントロールケーブルの端部が係止部材によって、固定部材である「ハンドルバー」に係止され、当該コントロールケーブルがカムローブに沿わして移動せしめられるのに対して、刊行物4に記載された発明では、ケーブル101の端部が環状保持プレート105と金属ビード106とによって、回動部材であり且つ軸線方向に移動する「回転カム部材74」に係止され、当該ケーブル101の端部が軸線方向に移動せしめられることにより、ケーブル101がその軸線方向に移動せしめられる点で、本件請求項1に係る発明と刊行物4に記載された発明とは相違しており、また、刊行物4の記載からは、上記相違点における本件請求項1に係る発明の構成を、当業者が容易に想到できたともいえない。
更に、上記相違点における本件請求項1に係る発明の構成は、刊行物1ないし3にも記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
よって、本件請求項1に係る発明は、刊行物4に記載された発明ではないばかりか、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
《本件請求項2ないし8に係る発明について》
本件請求項2ないし8に係る発明は、本件請求項1に係る発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものであるから、上記《本件請求項1に係る発明について》で説示したのと同様な理由により、刊行物4に記載された発明ではないばかりか、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
《本件請求項9に係る発明について》
刊行物4の上記摘記事項(4-13)及び(4-14)並びに図面第20図、第21図、第27図及び第29図の記載からみて、刊行物4に記載の「フリーホイール54a」、「変速機戻りスプリング208」及び「後部変速機機構58a」は、それぞれ、本件請求項9に係る発明の「複数のスプロケット」、「復帰スプリング」及び「ディレーラ」に相当する。
また、刊行物4において、上記摘記事項(4-7)、(4-15)及び(4-16)並びに図面第45図ないし第50図に記載のハンドグリップシフト作動器378,380は、上記《本件請求項1に係る発明について》で説示したハンドグリップシフト作動器62,66と同様にそれぞれの前部及び後部変速機システムと協働するものであり(上記(4-16)で摘記した事項、参照)、本件請求項9に係る発明と刊行物4の上記摘記事項(4-7)、(4-15)及び(4-16)並びに図面第45図ないし第50図に記載のものとを対比すると、刊行物4に記載された発明の「ハンドルバー372」、「ハウジング414」、「ハンドグリップシフト作動器378」及び「制御ケーブル384」は、それぞれ、本件請求項9に係る発明の「ハンドルバー」、「回動可能部分」、「ハンドグリップシフトアクチュエータ」及び「コントロールケーブル」に相当する。
また、刊行物4に記載の「カム作動面420」を有する「カム部材412」は、制御ケーブル384を移動せしめるものである点では、本件請求項9に係る発明の「カムローブ」を有する「カム」に一応相当するといえる。
よって、本件請求項9に係る発明と刊行物4に記載された発明とは、「複数のスプロケットと機能的に協働せしめられる復帰スプリングを有したディレーラと、自転車のハンドルバーに前記ハンドルバーと略同軸にて設けられた回動可能部分を有するハンドグリップシフトアクチュエータと、前記回動可能部分上に位置するカムと、前記ディレーラに連結される第1端部を有すると共に復帰スプリングによって前記ディレーラに向けて付勢されるコントロールケーブルと、を備える自転車用ギヤ切換えシステムであって、前記カムは前記コントロールケーブルを移動せしめるカムローブを有し、前記カムローブは、その一方向への回転により前記ディレーラのシフトダウンを生ぜしめるべく前記復帰スプリングの付勢力に抗して前記コントロールケーブルを引っ張り、かつ、前記一方向とは反対の方向への回転により前記ディレーラのシフトアップを生ぜしめるべく前記復帰スプリングの付勢力の方向に前記コントロールケーブルを解放するように形成されている、自転車用ギヤ切換えシステム」である点で一致している。
しかしながら、コントロールケーブルを移動せしめる構成に関して、本件請求項9に係る発明では、コントロールケーブルの第2端部が固定部材である「ハンドルバー」に対して固着され、当該コントロールケーブルがカムローブにより弧を描くように移動せしめられるのに対して、刊行物4に記載された発明では、制御ケーブル384の第2端部が軸線方向に移動するカムフォロワープレート424に係止されており、当該カムフォロワープレート424がカム作動面420により軸線方向に移動せしめられることにより、制御ケーブル384が軸線方向に移動せしめられる点で、本件請求項9に係る発明と刊行物4に記載された発明とは相違しており、また、刊行物4の記載からは、上記相違点における本件請求項9に係る発明の構成を、当業者が容易に想到できたともいえない。
更に、上記相違点における本件請求項9に係る発明の構成は、刊行物1ないし3にも記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
よって、本件請求項9に係る発明は、刊行物4に記載された発明ではないばかりか、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
《本件請求項10に係る発明について》
本件請求項10に係る発明は、本件請求項9に係る発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものであるから、上記《本件請求項9に係る発明について》で説示したのと同様な理由により、刊行物4に記載された発明ではないばかりか、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
《本件請求項11ないし13に係る発明について》
上記「3-3.明細書の記載不備についての判断」の《請求項11の記載について》ないし《請求項13の記載について》で説示したとおり、請求項9を引用した請求項11ないし13の記載は不明瞭であるので、請求項10を引用して記載した本件請求項11ないし13に係る発明について検討すると、上記本件請求項11ないし13に係る発明は、本件請求項10に係る発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものであるから、上記《本件請求項10に係る発明について》で説示したのと同様な理由により、刊行物4に記載された発明ではないばかりか、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
《本件請求項14及び15に係る発明について》
本件請求項14及び15に係る発明は、本件請求項10に係る発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものであるから、上記《本件請求項10に係る発明について》で説示したのと同様な理由により、刊行物4に記載された発明ではないばかりか、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
《本件請求項16に係る発明について》
本件請求項16に係る発明は、アクチュエータの構成に関しては、請求項1に係る発明と実質的に同様であり、上記《本件請求項1に係る発明について》で説示したのと同様な理由により、本件請求項16に係る発明では、コントロールケーブルの一端部が固定部材である「マンドレル」に固着され、当該コントロールケーブルがカムローブにより弧を描くように移動せしめられるのに対して、刊行物4に記載された発明では、ケーブル101の一端部が環状保持プレート105と金属ビード106とによって、回動部材であり且つ軸線方向に移動する「回転カム部材74」に係止され、当該ケーブル101の端部が軸線方向に移動せしめられることにより、ケーブル101がその軸線方向に移動せしめられる点で、本件請求項16に係る発明と刊行物4に記載された発明とは相違しており、また、刊行物4の記載からは、上記相違点における本件請求項16に係る発明の構成を、当業者が容易に想到できたともいえない。
更に、上記相違点における本件請求項16に係る発明の構成は、刊行物1ないし3にも記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
よって、本件請求項16に係る発明は、刊行物4に記載された発明ではないばかりか、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
《本件請求項17に係る発明について》
本件請求項17に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「インナーワイヤー16」、「ハンドル杆A」、「回転体4」、「被回転体7」、「握り部B」は、それぞれ、本件請求項17に係る発明の「コントロールケーブル」、「ハンドルバー」、「回転子」、「ジャッキスプール」、「ハンドグリップ」に相当する。
また、自転車に於ける変速機は、通常、多段ギヤを備えたものであり、刊行物1に記載の自転車に於ける変速機の切換操作装置は、本件請求項17に係る発明のギヤ切換えシステムの一部を構成するものであって、当該切換操作装置は、明らかに手動型のもので、本件請求項17に係る発明の手動型の自転車用ギヤシフトアクチュエータに相当する。
更に、刊行物1に記載された発明の回転体4は、明らかに、固定された握り部Bよりも内寄りに設けられおり、また、当該回転体4の外周に形成した歯車歯4’及び被回転体7の外周に形成した歯車歯7’は、回転体4と被回転体7との間の動きを伝える点では、本件請求項17に係る発明の、回転子とジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段に相当するものである。
よって、本件請求項17に係る発明と刊行物1に記載された発明とは、「コントロールケーブルをその軸線方向に変位させることで作動せしめられるギヤ切換えシステムを有した多段ギヤ自転車に用いられると共に、前記自転車のハンドルバーに設けられかつシフトダウン方向及びシフトアップ方向において第1軸まわりに選択的に回動可能である回転子を備える手動型の自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕であって、前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回動可能なジャッキスプールと、前記回転子と前記ジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段とを有し、前記ジャッキスプールは、それが前記コントロールケーブルを引き寄せるシフトダウン方向において回転可能であり、かつ、それが前記コントロールケーブルを解放するシフトアップ方向において回転可能であり、前記回転子は、固定されたハンドグリップよりも内寄りに設けられ、前記連動手段は、前記回転子のシフトダウン方向の回転により前記ジャッキスプールにシフトダウン方向への回転を生ぜしめ、かつ、前記回転子のシフトアップ方向の回転により前記ジャッキスプールにシフトアップ方向への回転を生ぜしめる、自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕」である点で一致しているが、次の点で相違している。
相違点:ギヤ指定回り止めに関して、本件請求項17に係る発明では、回転子が、複数のギヤ指定回り止め位置の1つから他のギヤ指定回り止め位置へ回転可能であるのに対して、刊行物1に記載の発明の回転体4には、ギヤ指定回り止め手段に相当する部材が設けられておらず、被回転体7に、回動位置で保持させるための保持機構が設けられている点。
そこで、上記相違点について検討すると、刊行物2には、位置決め体5と操作レバー2との間に、係合部91と係止体92とから成る位置決め機構9を設ける点が記載されており、この点を刊行物1に記載された発明に適用して、刊行物1に記載の発明の回転体4に上記位置決め機構9を設けてギヤ指定回り止めとし、当該回転体4が、複数のギヤ指定回り止め位置の1つから他のギヤ指定回り止め位置へ回転可能であるようにすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、本件請求項17に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項18に係る発明について》
本件請求項18に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「インナーワイヤー16」、「ハンドル杆A」、「回転体4」、「自転車に於ける変速機の切換操作装置」、「被回転体7」、「握り部B」は、それぞれ、本件請求項18に係る発明の「自転車用コントロールケーブル」、「ハンドルバー」、「手動回転子」、「自転車用ギヤシフトアクチュエータ」、「ジャッキスプール」、「ハンドグリップ」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明の回転体4は、明らかに、固定された握り部Bよりも内寄りに設けられおり、また、当該回転体4の外周に形成した歯車歯4’及び被回転体7の外周に形成した歯車歯7’は、回転体4と被回転体7との間の動きを伝える点では、本件請求項18に係る発明の、ジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段に相当するものである。
よって、本件請求項18に係る発明と刊行物1に記載された発明とは、「自転車用コントロールケーブルをその軸線方向に移動せしめるべく、自転車のハンドルバーに設けられてかつ前記ハンドルバーと略同軸の第1軸まわりに回動可能な手動回転子を備える自転車用ギヤシフトアクチュエー夕であって、前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、前記ジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段とを有し、前記コントロールケーブルの一端部は前記ジャッキスプールに取り付けられ、前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せる第1方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する第2方向において回転可能であり、前記回転子は、前記ハンドルバーに固定されたハンドグリップから内寄りの位置に設けられて、回転子となり、前記連動手段は、前記回転子が1の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第1方向への回転を生ぜしめ、かつ、前記回転子が前記1の方向とは反対の2の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第2方向への回転を生ぜしめる、自転車用ギヤシフトアクチュエータ」である点で一致しているが、次の点で相違している。
相違点:手動回転子に関して、本件請求項18に係る発明では、手動回転子が、ハンドルバーに固定されたハンドグリップから内寄りの位置に設けられたハンドグリップ型のハンドグリップ回転子であるのに対して、刊行物1に記載の発明の回転体4は、ハンドル杆Aの握り部B側に操作用つまみ部5を形成したものである点。
そこで、上記相違点について検討すると、刊行物4には、上記2-2-1-4.(4-7)で摘記した記載事項及び図面第45図ないし第50図の記載からみて、回転子を、「handlebar(ハンドルバー)372」に固定された「handgrip(ハンドグリップ)374,376」から内寄りの位置に設けられた「handgrip shift actuator(ハンドグリップシフト作動器)378,380」とする点が記載されている。
そして、刊行物1には、上記2-2-1-1.(1-1)で摘記したように、従来技術の問題点が記載されているが、この記載は、ハンドル杆Aの握り部B自体をハンドグリップ回転子とした場合の問題点を記載したものであって、ハンドル杆Aの握り部Bとは別体の回転体4をハンドグリップ型のものとすることの妨げとなる記載ではない。更に、刊行物1には、上記2-2-1-1.(1-4)で摘記したように、回転体4につまみ部5を形成したもの以外に、「その他回転体4の一部をカバー体2から露出させてこの露出部分外周にローレット切りを行なってもよい」旨が記載されており、この記載は、回転体4に操作用つまみ部5を形成することに替えて、上記刊行物4に記載のハンドグリップシフト作動器を適用することの動機づけとなり得るものである。
よって、上記刊行物4に記載のハンドグリップシフト作動器を刊行物1に記載の発明に適用して、刊行物1に記載の発明の回転体4を、ハンドグリップ型のものとすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、本件請求項18に係る発明は、刊行物1及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項19に係る発明について》
2つの回転体の間の動きを伝える連動手段としては、刊行物1に記載の発明のような歯車歯による連動手段以外にも、種々の形式の連動手段が従来周知であり、ケーブルによる連結部を含む連動手段も、例えば刊行物3に記載されているように、従来周知のものである。
そして、どのような形式の連動手段を採用するかは、当業者であれば必要に応じて適宜選択し得るものであり、刊行物1に記載の回転体4と被回転体7との間の連動手段を、歯車歯4’,7’による連動に替えて、上記周知のケーブルによる連動とすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、本件請求項19に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項20に係る発明について》
刊行物1に記載された発明において、回転体4の外周に形成した歯車歯4’及び被回転体7の外周に形成した歯車歯7’は、回転体4と被回転体7との間の動きを伝えるものであり、本件請求項20に係る発明の、回転子とジャッキスプールとの間の動きを伝える、ギヤによる連結部を含む連動手段に相当するものである。
よって、本件請求項20に係る発明は、刊行物1,2及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項21に係る発明について》
刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-1)で摘記した記載事項及び図面第1図ないし第5図の記載からみて、操作レバー2の位置決め機構9として、操作レバー2の凹入部23に係止体92を設け、該係止体92を、弾性を有する円弧状の弾性部92aと該弾性部92aの頂部に突設する係止部92bとにより形成し、又、位置決め体5には、複数個の係合部91を形成する点が、記載されている。
また、この刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-3)で摘記したように、「係止体92を位置決め体5に係合部91を操作レバー2に設けてもよい」旨も記載されており、このようにして設けた位置決め機構9において、「係止体92」、「位置決め体5」、「操作レバー2」、「係止部92b」、「係合部91」は、それぞれ、本件請求項21に係る発明の「回り止めスプリング」、「マンドレル」、「回動可能部分を形成する回転子」、「割り出し突起」、「回り止め凹部」に相当する。
そして、刊行物1に記載の発明における保持機構に替えて、刊行物2に記載の発明における位置決め機構9を適用して、本件請求項21に係る発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、本件請求項21に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項22に係る発明について》
自転車が駆動チェーンに選択的に係合せしめられる複数のスプロケットを有し、回り止め凹部の数をスプロケットの数に対応させることは、刊行物2の上記2-2-1-2.(2-1)に摘記した記載事項及び刊行物4の上記2-2-1-4.(4-3)に摘記した記載事項のように、従来周知の技術である。
よって、本件請求項22に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項23に係る発明について》
刊行物4に記載の発明のケーブル101には所定の張力が与えられるものであり(上記2-2-1-4.(4-2)の摘記事項、参照)、刊行物4の上記摘記事項2-2-1-4.(4-4)、(4-5)、(4-6)及び図面第34図ないし第36図には、シフトダウン傾斜面に相当する「cam ramp(カム傾斜面)298」は、シフトアップ傾斜面に相当する「cam backslope(カム下り勾配)302」よりも傾斜角度が緩やかになっていることが、示されている。
よって、本件請求項23に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項24に係る発明について》
刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-1)で摘記した記載事項及び図面第1図ないし第5図の記載からみて、操作レバー2の位置決め機構9として、操作レバー2の凹入部23に係止体92を設け、該係止体92を、弾性を有する円弧状の弾性部92aと該弾性部92aの頂部に突設する係止部92bとにより形成し、また、位置決め体5には、複数個の係合部91を形成する点が、記載されている。
また、この刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-3)で摘記したように、「係止体92を位置決め体5に係合部91を操作レバー2に設けてもよい」旨も記載されており、このようにして設けた位置決め機構9において、「係止体92」、「係止部92b」、「弾性部92a」、「位置決め体5」、「凹入部23」は、それぞれ、本件請求項24に係る発明の「回り止めスプリング」、「割り出し突起」、「長手状ベース」、「マンドレル」、「空腔」に相当する。
更に、この刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-2)で摘記したように、係止体92の相対移動を許す隙間dを設ける点が記載されており、この隙間dを、本件請求項24に係る発明の「空動きを補償する」ためのものとすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、本件請求項24に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項25に係る発明について》
本件請求項25に係る発明は、ベースが空腔内において摺動して、「前記コントロールケーブルの変位のオーバーシフト増分を与える」点で、上記本件請求項24に係る発明の「前記コントロールケーブルと前記コントロールケーブルシステムとの間に生ずる空動きを補償する」点と相違しているが、その余の点では上記本件請求項24に係る発明と差異はない。
そして、上記《本件請求項24に係る発明について》で説示したとおり、刊行物2には、係止体92の相対移動を許す隙間dを設ける点が記載されており、「空動きを補償する」動作は、シフトダウン操作の初期に生じるものであるので、上記刊行物2に記載の隙間dを「空動きを補償する」ためのものとすることは、当業者であれば容易に想到できたといえるが、本件請求項25に係る発明の「コントロールケーブルの変位のオーバーシフト増分を与える」動作は、シフトダウン操作の後期に生じるものであり、オーバーシフト増分を与えるだけの大きさの隙間dが必要であるが、刊行物2には、そのような大きさの隙間dについては何ら記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
更に、ベースが空腔内において摺動して、「前記コントロールケーブルの変位のオーバーシフト増分を与える」点は、刊行物1,3及び4にも記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
よって、本件請求項25に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
《本件請求項26に係る発明について》
上記《本件請求項21に係る発明について》で説示したとおり、刊行物2には位置決め機構9が記載されており、当該位置決め機構9の「係止部92b」及び「係合部91」は、それぞれ、本件請求項26に係る発明の「割り出し突起」及び「回り止め凹部」に相当するから、刊行物2には、本件請求項26に係る発明の「第1回り止めシステム」に相当するものは記載されているといえるが、本件請求項26に係る発明の「第2回り止めシステム」については何ら記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
更に、上記「第2回り止めシステム」については、刊行物1,3及び4にも記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
よって、本件請求項26に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
《本件請求項27に係る発明について》
刊行物1の図面第1図及び第2図の記載からみて、回転体4の回転軸と被回転体7の回転軸とは90度偏倚している。
よって、本件請求項27に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項28に係る発明について》
刊行物1の上記2-2-1-1.(1-5)で摘記した記載事項のうちのボールとスプリングとから成る保持機構は、本件請求項28に係る発明におけるギヤ指定回り止め手段に相当する。
よって、本件請求項28に係る発明は、刊行物1及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項29に係る発明について》
上記「3-3.明細書の記載不備についての判断」の《請求項29の記載について》で説示したとおり、請求項29の記載は不明瞭であるので、本件請求項29に係る発明についての新規性及び進歩性の欠如についての判断はしない。
《本件請求項30に係る発明について》
刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-1)で摘記した位置決め機構9が記載されており、この位置決め機構9は、本件請求項30に係る発明の回り止め手段に相当する。
そして、刊行物1に記載の発明における保持機構に替えて、刊行物2に記載の上記位置決め機構9を適用して、本件請求項30に係る発明のように構成することに格別の困難性はない。
よって、本件請求項30に係る発明は、刊行物1,2及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項31に係る発明について》
刊行物2に記載の係止体92の円弧状の弾性部92aは、本件請求項31に係る発明の長尺な板ばねに相当する。
よって、本件請求項31に係る発明は、刊行物1,2及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項32に係る発明について》
球状の回り止め手段を含む回り止め突起は、従来周知のものである(例えば、刊行物1の上記2-2-1-1.(1-5)で摘記した記載事項及び刊行物2の上記2-2-1-2.(2-4)で摘記した記載事項、参照)。
よって、本件請求項32に係る発明は、刊行物1,2及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項33に係る発明について》
刊行物2には、本件請求項33に係る発明の「第2回り止め手段」については何ら記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
更に、上記「第2回り止め手段」については、刊行物1,3及び4にも記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
よって、本件請求項33に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
《本件請求項34に係る発明について》
上記「3-3.明細書の記載不備についての判断」の《請求項34の記載について》で説示したとおり、請求項34の記載は不明瞭であるので、本件請求項34に係る発明についての新規性及び進歩性の欠如についての判断はしない。
《本件請求項35に係る発明について》
刊行物1には、本件請求項35に係る発明の「回転子及びジャッキスプールの一方に設けられたカムがシフトダウン動作においてディレーラの復帰スプリングの増加する力を補償する」ことについては何ら記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
更に、上記事項については、刊行物2ないし4にも記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
よって、本件請求項35に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
《本件請求項36に係る発明について》
本件請求項36に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「インナーワイヤー16」、「ハンドル杆A」、「回転体4」、「被回転体7」は、それぞれ、本件請求項36に係る発明の「コントロールケーブル」、「ハンドルバー」、「回転子」、「ジャッキスプール」に相当する。
また、自転車に於ける変速機は、通常、複数のギヤを備えたものであり、刊行物1に記載の自転車に於ける変速機の切換操作装置は、明らかに手動型回転可能なもので、本件請求項36に係る発明の手動型回転可能シフトアクチュエータに相当し、当該切換操作装置は、本件請求項36に係る発明の自転車用ギヤ切換えシステムの一部を構成するものである。
更に、刊行物1に記載された発明の回転体4の外周に形成した歯車歯4’及び被回転体7の外周に形成した歯車歯7’は、回転体4と被回転体7との間に設けられた連動手段といえるものである。
よって、本件請求項36に係る発明と刊行物1に記載された発明とは、「コントロールケーブルを備え、自転車のハンドルバーに取り付けられた手動型回転可能シフトアクチュエー夕を有し、前記シフトアクチュエータは第1軸まわりに回転可能な回転子を含み、前記回転子はシフトダウン方向及び反対のシフトアップ方向に回転可能である自転車用ギヤ切換えシステムであって、前記シフトアクチユエー夕は、前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、前記ジャッキスプールに機能的に接続された前記コントロールケーブルの第2端部とを含み、前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せるシフトダウン方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する反対のシフトアップ方向において回転可能であり、さらに前記回転子のシフトダウン方向への回転により前記ジャッキスプールがシフトダウン方向に回転し、かつ、前記回転子のシフトアップ方向への回転により前記ジャッキスプールがシフトアップ方向に回転するように、前記回転子と前記ジャッキスプールとの間に設けられた連動手段を有する、自転車用ギヤ切換えシステム」である点で一致しているが、次の2点で相違している。
相違点1:本件請求項36に係る発明では、自転車用ギヤ切換えシステムが、「車軸に固着された複数のギヤと機能的に協働せしめられるディレーラと、前記ギヤのいずれか1つから他のいずれか1つに前記ディレーラによって移動せしめられ得る駆動チェーンと、前記デイレーラと機能的に接続される第1端部を有するコントロールケーブルとを備え、前記コントロールケーブルの所定量の移動により、前記ギヤの1つと他の選択された1つとの間で切り換えるべく前記ディレーラを作動させるもの」であるのに対して、刊行物1には、「複数のギヤ」、「ディレーラ」、「駆動チェーン」及び「コントロールケーブル」とそれら各部材間の関係が、明確には記載されていない点。
相違点2:回転子に関して、本件請求項36に係る発明では、回転子が、ハンドグリップ回転子であるのに対して、刊行物1に記載の発明の回転体4は、操作用つまみ部5を形成したものである点。
そこで、上記相違点について、以下で検討する。
(相違点1について)
自転車用ギヤ切換えシステムにおいて、「車軸に固着された複数のギヤと機能的に協働せしめられるディレーラと、前記ギヤのいずれか1つから他のいずれか1つに前記ディレーラによって移動せしめられ得る駆動チェーンと、前記デイレーラと機能的に接続される第1端部を有するコントロールケーブルとを備え、前記コントロールケーブルの所定量の移動により、前記ギヤの1つと他の選択された1つとの間で切り換えるべく前記ディレーラを作動させるもの」は、従来周知の事項であり(例えば、刊行物4の上記2-2-1-4.(4-1)で摘記した記載事項、参照)、本件請求項36に係る発明の上記相違点1の構成は、上記周知の事項を明示したものにすぎない。
(相違点2について)
上記《本件請求項18に係る発明について》で説示したとおり、上記刊行物4に記載のハンドグリップシフト作動器を刊行物1に記載の発明に適用して、刊行物1に記載の発明の回転体4を、ハンドグリップ回転子とすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、本件請求項36に係る発明は、刊行物1及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項37に係る発明について》
刊行物1の上記2-2-1-1.(1-5)で摘記した記載事項のうちのボールとスプリングとから成る保持機構は、本件請求項37に係る発明におけるギヤ指定回り止め手段に相当する。
また、刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-2)で摘記したように、係止体92の相対移動を許す隙間dを設ける点が記載されており、この隙間dを利用して、刊行物2に記載の係止体92が、第1のシフトアップ位置と第2のシフトダウン位置との間で移動可能であるようにすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。
よって、本件請求項37に係る発明は、刊行物1,2及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《本件請求項38に係る発明について》
刊行物1には、本件請求項38に係る発明の「回転子及びジャッキスプールの一方にカムを有し、かつ前記カムはシフトダウン方向における復帰スプリングの増加する力を補償する」ことについては何ら記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
更に、上記事項については、刊行物2ないし4にも記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
よって、本件請求項38に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
《本件請求項39に係る発明について》
上記「3-3.明細書の記載不備についての判断」の《請求項39の記載について》で説示したとおり、請求項39の記載は不明瞭であるので、本件請求項39に係る発明についての新規性及び進歩性の欠如についての判断はしない。
《本件請求項40に係る発明について》
本件請求項40に係る発明と刊行物4に記載された発明と対比すると、刊行物4に記載された発明の「ケーブル101」、「ハンドルバー32」は、それぞれ、本件請求項40に係る発明の「コントロールケーブル」、「ハンドルバー」に相当し、上記ケーブル101の遠隔端がギヤシフトシステムに連結されていることは明らかである。また、刊行物4に記載の「カム部材74、カバー部材78及びブッシング82からなる部材」(上記(4-10)で摘記した事項、参照)は、本件請求項40に係る発明の「回動部材」に相当し、当該部材を有する、刊行物4に記載された発明の「ハンドグリップシフト作動器62,66」は、ケーブル101の長手方向の変位により作動するギヤシフトシステムを有した多段ギヤ自転車に用いられるものであり、本件請求項40に係る発明の「手動シフトアクチュエータ」に相当する。
よって、本件請求項40に係る発明と刊行物4に記載された発明とは、「コントロールケーブルの長手方向の変位により作動するギヤシフトシステムを有し、前記コントロールケーブルの遠隔端は前記ギヤシフトシステムと動作可能にして連結し、自転車のハンドルバーに対して略同軸に設けられた回動部材を有するシフトアクチュエータを有する、多段ギヤ自転車に用いられる手動シフトアクチュエータ」である点で一致している。
しかしながら、コントロールケーブルをその長手方向に変位させる構成に関して、本件請求項1に係る発明では、コントロールケーブルの端部が固定部材である「ハンドルバー」に対して固着され、シフトアクチュエータはコントロールケーブルが通過するカム表面を有し、前記回動部材の第1の方向の回転により、前記コントロールケーブルは前記カム表面で摺動し、前記シフトアクチュエータに向かう方向に前記コントロールケーブルの前記遠隔端を牽引し、前記回動部材の第2の方向の回転により、前記コントロールケーブルは前記カム表面で摺動し、前記シフトアクチュエータから離れる方向に前記コントロールケーブルを解放するものであるのに対して、刊行物4に記載された発明では、ケーブル101の端部が環状保持プレート105と金属ビード106とによって、回動部材であり且つ軸線方向に移動する「回転カム部材74」に係止され、当該ケーブル101の端部が軸線方向に移動せしめられることにより、ケーブル101がその長手方向に変位せしめられる点で、本件請求項40に係る発明と刊行物4に記載された発明とは相違しており、また、刊行物4の記載からは、上記相違点における本件請求項40に係る発明の構成を、当業者が容易に想到できたともいえない。
更に、上記相違点における本件請求項40に係る発明の構成は、刊行物1ないし3にも記載されておらず、また、当業者が容易に想到できたともいえない。
よって、本件請求項40に係る発明は、刊行物4に記載された発明ではないばかりか、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
《本件請求項41及び42に係る発明について》
本件請求項41及び42に係る発明は、本件請求項40に係る発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものであるから、上記《本件請求項40に係る発明について》で説示したのと同様な理由により、刊行物4に記載された発明ではないばかりか、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
3-5-3.新規性及び進歩性の欠如についての判断のまとめ
したがって、本件請求項17,18,19,20,21,22,23,24,27,28,30,31,32,36及び37に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項17,18,19,20,21,22,23,24,27,28,30,31,32,36及び37に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定により、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。
また、本件請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,14,15,16,25,26,33,35,38,40,41及び42に係る発明は、刊行物1又は刊行物4に記載された発明ではないばかりか、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項11ないし13,17ないし24,27ないし32,34,36ないし37,39に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるので、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、しなければならないとされる特許法第114条第2項の規定により、取り消すべきである。
また、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし10,14ないし16,25ないし26,33,35,38,40ないし42に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし10,14ないし16,25ないし26,33,35,38,40ないし42に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1ないし10,14ないし16,25ないし26,33,35,38,40ないし42に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものではないので、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、しなければならないとされる特許法第114条第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-04-13 
出願番号 特願平4-509969
審決分類 P 1 651・ 531- ZE (B62M)
P 1 651・ 113- ZE (B62M)
P 1 651・ 121- ZE (B62M)
P 1 651・ 534- ZE (B62M)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 小椋 正幸岡田 孝博平城 俊雅  
特許庁審判長 蓑輪 安夫
特許庁審判官 鈴木 久雄
刈間 宏信
登録日 1998-08-28 
登録番号 特許第2820794号(P2820794)
権利者 シュラム コーポレーション
発明の名称 自転車用ギヤシフトアクチュエータ  
代理人 小野 由己男  
代理人 藤村 元彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ