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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) F16T
管理番号 1045818
審判番号 審判1999-35788  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-09-07 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-12-27 
確定日 2001-04-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第2711610号発明「復水排出装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2711610号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第2711610号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)についての出願は、平成4年2月14日に出願され、平成9年10月31日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
(2)これに対して、請求人は、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明と同一の発明、若しくは甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定に違反してされたものであると主張し、甲第1号証として英国特許第26407号明細書、甲第2号証として実願昭49-58831号(実開昭50-147228号)のマイクロフィルムを提出している。
(3)一方、被請求人は、平成12年5月9日に訂正請求書を提出して、明細書について訂正を求めた。当該訂正は、本件特許の願書に添付した明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものである。すなわち、特許請求の範囲については下記のとおりに訂正することを求めるものである。
「復水の流入口と還元口及び高圧操作流体の導入口と循環口を有する復水溜り室に水位と共に浮上降下する開放または密閉のフロ―トを配置し、導入口を開閉する吸気弁と循環口を開閉する排気弁をフロ―トに連結し、流入口と還元口に配置した逆止弁との協働作用により、復水溜り室が所定の高水位に達するまでは導入口を閉じると共に循環口を開いて流入口から復水を導入し、所定の高水位に達すると循環口を閉じると共に導入口を開いて還元口から復水を排出する復水排出装置において、復水溜り室が所定の低水位のときに還元口を閉じ、水位の上昇により還元口を開く弁手段をレバーを介してフロートに連結し、弁手段は主弁体と副弁体を有し、副弁体には該副弁体を貫通する案内棒を設けた復水排出装置。」(以下、「訂正発明」という。)
(4)当審では、平成12年9月21日付けで、「上記訂正発明は、前記甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、訂正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるので、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年改正法による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。」旨の訂正拒絶理由を通知した。
(5)被請求人は、平成12年12月5日付け意見書において、訂正が認められるべき理由として「訂正発明の復水排出装置は、復水溜り室に外部から高圧の流体を導入して作動させるものであり、通常、工業用で16kg/cm2程度までの圧力(高圧用になれば数百kg/cm2)の蒸気系に接続して使用されますから、入口側圧力と出口側圧力との差圧は数kg/cm2乃至数百kg/cm2の広範囲に及びます。これに対して、甲第1号証に記載の発明は、大気圧下で作動させる排出装置であり、入口側圧力と出口側圧力との差圧は最大でlkg/cm2程度であります。
一次側圧力が二次側圧力よりも高い場合、弁手段には一次側圧力と二次側圧力の差圧に基づく閉弁力が作用しています。復水を排出するためには、一次側圧力と二次側圧力の差圧に基づく閉弁力に打勝つ開弁力を弁手段に作用させて弁手段を開弁させなければなりません。訂正発明の復水排出装置は、弁手段をレバーを介してフロートに連結したものであり、フロートの浮力をレバーによって拡大することにより、一次側圧力が二次側圧力よりも高く両者の差圧が大きな場合であっても弁手段を開弁させることができます。これに対して、甲第1号証に記載の発明は、弁手段をレバーを介してフロートに連結したものではありませんから、復水溜り室に外部から高圧の流体を導入して作動させる用途に用いた場合、一次側圧力が二次側圧力よりも高く両者の差圧が大きな場合には、弁手段を開弁させることができません。
このように、甲第1号証に記載の発明は、排出装置を作動させる圧力条件が訂正発明とは全く異なるものであり、訂正発明と同様の圧力条件下で使用しますと、復水を排出できないものであります。訂正発明及び甲第2号証に記載の発明のような復水溜り室に外部から高圧の流体を導入して作動させる復水排出装置において、弁手段をレバーを介してフロートに連結することは、慣用されている手段では決してありません。したがいまして、甲第1号証に記載の発明を甲第2号証に記載の状態で作動させましても、一次側と二次側の圧力にかかわらず、復水のみを排出あるいは圧送できる復水排出装置が得られるものではありません。
以上のとおり、訂正発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定に該当するものではなく、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであります。」と主張している。

2.訂正の可否に対する判断
(1)訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の存否
前記訂正請求による訂正事項について検討すると、上記訂正は、特許明細書の請求の範囲に記載の弁の構成について、一時側と二次側の圧力にかかわらず、復水のみを排出あるいは圧送できるようにするという本件特許発明の課題を解決するために「弁手段をレバーを介してフロートに連結し、弁手段は主弁体と副弁体を有し、副弁体には該副弁体を貫通する案内棒を設けた」と特許請求の範囲を減縮するものであり、該構成については、特許明細書の実施例の記載である【0008】〜【0010】に明確に記載されている事項であって、新規事項の追加に該当せず、また、上記本件特許発明の課題を逸脱するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)独立特許要件の検討
(2-1)訂正発明の認定
訂正に係る請求項1の発明(以下、「訂正発明」という。)は、平成12年5月9日付で提出された訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された上記1.(3)に記載のとおりのものと認める。
(2-2)引用例及びその記載内容
訂正拒絶理由に引用した甲第1号証には、「液体を放出するトラップに関する改良」の発明が開示され、下記の趣旨の記載がある。
(ア)ここに添付する図1及び図2は、この発明を図解しており、両図とも改良されたトラップの構造を示す断面図であり、両図は互いに直交する方向から見た図である。中間介在のバルブ用の弁座(a)が、円筒形のポートを備えた鋳造体(b)の上端に配置され、この鋳造体(b)はその軸がフロート(c)の軸と一線に並ぶようになっており且つ一方通行の注入バルブ(f)を一方通行の排出バルブ(e)に接続する通路(d)に備えられた1個又は複数のポートを通じて連通している。この場合には、特に図解する必要なく理解出来ると思われるが、フロート(c)にはその低い方の先端に単純なバルブを配設し弁座(a)と共働されるようになっているか、又は複雑なバルブを配設される。この複雑なバルブは、図示されるようにメインパート(g)とパイロットパート(h)から構成され、このパイロットパートはメインパートの弁座と共働し、メインパートは動かない弁座(a)と共働している。メインバルブパート(g)はフロート(c)を作動させるようにはなっておらず、直接にフロート(c)に連結されたパイロットパート(h)が、メインパートに先立った開放をもたらす。外気又は圧力を受けている流体の源と連通している容器(j)の内部に配置されたバルブ(i)は、後述するように必要に応じてフロート(c)により間接的に操作される。図示されているように、容器(j)の中に伸展するステムが用意され、このステムにはカラー(n)が存在する。(p)(q)はベルクランクレバーであり、カラー(n)の上部と下部に係合する突出ラグ(o)とアーム(q)に固定された錘(q)を備えている。フロート(c)はベルクランクレバー(p,q)のアーム(p)にピン(r)により連結され、このピン(r)はフロート(c)に固定された穴あきリンク(r)の中で自在にスライドすることが出来る。
符合(k)は鉄板から作成される漏斗であり、この漏斗の機能は上澄みをすくい取る器具として作動し、液体が放出される際に、水分中の表面から油分を取り除く作業を行う。この漏斗は小さな1個か又は複数の孔(m)を底部に作成して、容器内の液体水位が漏斗の上部より少し下位に落下する際に、常に完全に空にならないように工夫されている。操作に当たっては、中間介在のバルブが単純な形態であることを想定すると、トラップ内の圧力が外気圧力より高いならば、充分な液体が容器内に集められてフロート(c)に作動してトラップ内の圧力に対抗して弁座(a)から離れて中間介在のバルブを上昇させると同時に、中間介在のバルブの下側の圧力はある程度まで増加し、その結果、フロートは、その負荷を解除されて、更に上昇し、中間介在のバルブを急激に弁座の上方へと持ち上げる。液体の放出に従って容器内の液体水位が低くなり、バルブが閉鎖される。複合バルブの場合には、パイロットパート(h)が単独にてフロート(c)により持ち上げられるか、両パートが持ち上げられる。
トラップが外気圧力以下で作動される場合には、トラップ内の液体水位の頂点及びトラップ内の圧力が外気圧力と等しくないか又はこの圧力を越えていないならば、中間存在のバルブの開放のみでは放出は起こらない。何故ならば、排出バルブ(e)は前記する外気圧力により閉鎖されているからである。このような場合には、フロート(c)は、穴あきリンク(r)内の底部がベル・クランクレバー(p,q)のアーム(p)の先端でピン(r)と係合するまで、上昇し続ける。上昇し続けると、フロートはベルクランクレバーをその支点上で揺動させ、時には断面の中心線を越えて錘(q)を作動させる。このことが始まるや否や、錘は落下し、突出ラグ(o)の一つがカラー(n)の下側と係合し、急激にバルブ(i)を開口させ、トラップの内部を外気又は外気と同様の圧力を有する流体の源と連通出来る位置を作出し、内部の圧力を外部と同じ圧力か又は内部の圧力の値が外部の圧力を越えさせる。これにより、排出バルブ(e)が自在に開口してトラップからその内容物を放出させる。容器において液体水位が落下する場合には反対の作動が起きる。
図2に従って、バルブ(s)が容器(j)と排水されるチャンバーとの間に関連して用意される。トラップが真空下で操作される時、このバルブ(s)はバルブ(i)が開口される際に閉鎖され、バルブ(i)が閉鎖される際に開口するように、バルブ(i)と同様に作動される。このバルブは、トラップが放出する時に容器に入る空気や圧力を受けた他の流体を許容するために使用される。バルブ(i)が閉鎖される時に空気や圧力下の流体をチャンバーに逃避させ、バルブ(i)が開口される時に、容器を通じて、チャンバーと外部の圧力や圧力を受けた流体の源との間の連通を閉鎖する。図示されているように、ベル・クランクレバー(p,q)が空気バルブ(i)及び真空バルブ(s)の両方を操作出来るようにギアを設けると便利である。
トラップ内の圧力が外気圧力より可成り高くなる場合には、複合バルブを採用することが好ましい。パイロットパート(h)のみが上昇するならば、圧力下の作業を行う場合には、放出に充分な範囲を与えるべきであり、その間にメインパート(g)が、作業が真空にて行われる場合には、より大きな放出開口を達成する。
バルブ(i,s)の錘は、例えば、ピボットレバーや錘のレバーによるなどの適切な方法で多少ともバランスを取った方が良く、その一例としては、図1のt点においてバルブ(i)のステム上にカラー(u)を係合している。」(公報の第3頁第12行から第4頁第27行)
(イ)Fig.1及び上記記載からみて、パイロットパート(h)から容器を構成する鋳造体(b)内方にフロートを案内する棒状部材が延びているものと認められる。
上記記載から、甲第1号証には下記の発明が記載されていると認められる。
「一方通行の注入バルブ(f)が配置された流入口と、一方通行の排出バルブ(e)が配置された通路(d)、及び空気バルブ(i)が配置された流体流路と真空バルブ(s)が配置された流路を有する容器(j)に、水位と共に浮上降下するフロート(c)を配置し、バルブ(i)(s)をフロート(c)に連結し、流入口に配置された一方通行の注入バルブ(f)と通路(d)に配置された一方通行の排出バルブ(e)を備え、一方通行の注入バルブ(f)と排出バルブ(e)の作用により、容器(j)内が所定の水位に達するまでは空気バルブ(i)を閉じると共に真空バルブ(s)を開いて注入バルブ(f)が配置された流入口から液体を導入し、所定の高水位に達すると真空バルブ(s)を閉じると共に空気バルブ(i)を開いて通路(d)から液体を排出し、通路(d)に配置されたメインパート(g)とパイロットパート(h)からなるバルブをフロート(c)に連結し、パイロットパート(h)から棒状案内部材が延びている液体を放出するトラップ。」
前記訂正拒絶理由に引用した甲第2号証には、その実用新案登録請求の範囲に下記の事項が記載されている。
(ウ)「復水の導入を許す逆止弁と排出を司る逆止弁とをそれぞれ流入口2および排出口3に具えたケーシング1の上端開口をおおうカバー4に圧力気体源と通じた圧力弁7と復水発生源または大気と通じた均圧弁8を具え、各弁に連結した作動レバー機構9,10を相互に反対に開閉弁作動を導くための摺動スリーブ11にフロート13を昇降自在に遊装してなるポンピングトラップにおいて、前記摺動スリーブ11の上下端ストッパaおよびbあるいはその一方とフロート13の間にコイルばねを挟装したポンピングトラップ。」
上記記載から、甲第2号証には、実質的に「復水溜り室に外部から高圧の流体を導入して復水溜り室の復水を排出するようにする点」が記載されているものと認める。
(2-2-3)対比・判断
そこで、訂正発明と上記甲第1号証に記載の発明とを対比すれば、上記甲第1号証の「トラップ」も低圧タービンの排気蒸気の回収に利用されるものであるので、上記甲第1号証における「液体」は訂正発明における「復水」に相当し、以下同様に、「液体を放出するトラップ」が訂正発明における「復水排出装置」に、「一方通行の注入バルブ(f)」が、「逆止弁を配置した流入口」に、「一方通行の排出バルブ(e)」が「逆止弁を配置した還元口」に、「液体の容器(j)」が「復水溜まり室」に、「空気バルブ(i)」が「導入口を開閉する吸気弁」に、「真空バルブ(s)」が「循環口を開閉する排気弁」に、「棒状案内部材」が「案内棒」に相当している。そして、甲第1号証における排出バルブ(e)の作動についての記載から見て、「メインパート(g)」が「主弁体」に、「パイロットパート(h)」が「副弁」に相当しているといえ、上記(ア)における「急激にバルブ(i)を開口させ、トラップの内部を外気又は外気と同様の圧力を有する流体の源と連通出来る位置を作出し、内部の圧力を外部と同じ圧力か又は内部の圧力の値が外部の圧力を越えさせる。これにより、排出バルブ(e)が自在に開口してトラップからその内容物を放出させる。」の記載からバルブ(i)から流入する流体は、液体(訂正発明の「復水」に相当)を押し出す作用をするものといえるので、両者は、
「復水の流入口と還元口及び復水を押し出すための流体の導入口と循環口を有する復水溜り室に水位と共に浮上降下する開放または密閉のフロ―トを配置し、導入口を開閉する吸気弁と循環口を開閉する排気弁をフロ―トに連結し、流入口と還元口に配置した逆止弁との協働作用により、復水溜り室が所定の高水位に達するまでは導入口を閉じると共に循環口を開いて流入口から復水を導入し、所定の高水位に達すると循環口を閉じると共に導入口を開いて還元口から復水を排出する復水排出装置において、復水溜り室が所定の低水位のときに還元口を閉じ、水位の上昇により還元口を開く弁手段をフロートに連結し、弁手段は主弁体と副弁体を有し、副弁体には案内棒を設けた復水排出装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
復水を押し出すための流体として、訂正発明においては、高圧操作流体を使用しているのに対して、甲第1号証のものにおいては、外気又は外気と同様の圧力を有する流体である点。
<相違点2>
訂正発明においては、弁手段は「レバーを介して」フロートに連結されているのに対して、甲第1号証のものにおいては、そのような構成は取られていない点。
<相違点3>
案内棒について、訂正発明においては、「副弁体を貫通する」ものであるに対して、甲第1号証のものにおいては「副弁体から延びているものである」点。
以下、相違点について検討する。
相違点1について
訂正発明における復水排出装置の作動状況及び「高圧操作流体」について訂正明細書の記載をみると、訂正発明の復水排出装置は、訂正明細書の【産業上の利用分野】における「本発明は蒸気配管系で発生した復水を排出したり、復水をボイラや廃熱利用装置に圧送する復水排出装置に関する。・・・復水をボイラや廃熱利用装置等の高圧箇所に回収する場合や、真空中の復水を大気中に排出する場合等」との記載からみて、復水を高圧箇所に回収する場合のほかに、真空中の復水を大気中に排出する場合についても想定されているものといえる。そして、高圧操作流体についての発明の詳細な説明における記載は「導入口から導入される高圧操作流体によって復水溜り室の圧力が上昇し、還元口の逆止弁が開いて復水を還元口から排出する。」(【0006】)、及び、「高圧操作気体が導入口8から吸気弁11を通して復水溜り室3に流入し、復水溜り室3の圧力上昇によって還元口5の逆止弁7が開き、復水が還元口5から排出される。」(【0009】)の記載があるのみで、他に高圧操作流体の具体的圧力については記載されていない。しかも、甲第1号証のものにおいても、空気バルブ(i)を通じて流入させる流体の圧力によって復水を排出させている点で訂正発明の「高圧操作流体」とかわりはなく、甲第2号証には、復水溜り室に外部から高圧の流体を導入して復水溜り室の復水を排出するようにした点が記載されているから、相違点1の復水を押し出すための流体を「高圧操作流体」としたことは、この種の液体排出装置を如何なる圧力で作動させるかに応じて適宜決定し得ることであり、当業者が容易になし得たことといえる。
相違点2について
フロートの浮力をレバーによって拡大するためにフロートをレバーを介して弁手段に連結することは、慣用されている手段(例えば、実願平1-145207号(実開平3-85798号)のマイクロフィルム参照)であって、甲第1号証のフロートと弁手段の間をレバーを介して連結するようにすることは、当業者がフロートの浮力、作動時の圧力、弁の構造等に応じて適宜なし得る設計的事項といえる。
相違点3について
訂正発明において案内棒を副弁体を貫通して設けることで、主弁体、副弁体及び案内棒の作動関係を変更するものではなく、相違点3は単に取り付け関係を特定するものであるから、当業者が適宜なし得た設計的事項といえる。
そして、訂正発明による作用効果は、上記甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明から予測される範囲内のものである。
したがって、訂正発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。
なお、被請求人は、弁手段をレバーを介してフロートに連結した構成について、上記1.(5)の後段に記載されているように「訂正発明の復水排出装置は、・・一次側圧力が二次側圧力よりも高く両者の差圧が大きな場合であっても弁手段を開弁させることができます。・・甲第1号証に記載の発明は、・・一次側圧力が二次側圧力よりも高く両者の差圧が大きな場合には、弁手段を開弁させることができません。・・訂正発明と同様の圧力条件下で使用しますと、復水を排出できないものであります。・・復水溜り室に外部から高圧の流体を導入して作動させる復水排出装置において、弁手段をレバーを介してフロートに連結することは、慣用されている手段では決してありません。」と主張している。
しかしながら、一次側と二次側の圧力差が大きな場合に開弁できるかどうかは、フロートの浮力の大きさや、レバーを利用する場合はその力点、支点、作用点の関係によって左右されるものであるから、単にレバーを介してフロートに連結したことで、圧力差が大きな場合にも復水を排出できるものともいえず、訂正発明においては、レバーとフロートの力点、支点、作用点の関係について限定していないのであるから、これらの関係によっては、必ずしもフロートの浮力を拡大されるものとはいえないものである。加えて、フロートを利用した復水排出装置においてレバーを用いることも周知(例えば、実開平3ー85798号公報参照)であるので、被請求人の上記主張は採用できない。
(3)訂正の認否
以上のとおりであるから、本件訂正請求による上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年改正法による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

3.本件特許発明に対する判断
(1)本件特許発明
本件特許発明は、上記のとおり訂正が認容されないので、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載の次のとおりのものと認める。
「復水の流入口と還元口及び高圧操作流体の導入口と循環口を有する復水溜り室に水位と共に浮上降下する開放または密閉のフロ―トを配置し、導入口を開閉する吸気弁と循環口を開閉する排気弁をフロ―トに連結し、流入口と還元口に配置した逆止弁との協働作用により、復水溜り室が所定の高水位に達するまでは導入口を閉じると共に循環口を開いて流入口から復水を導入し、所定の高水位に達すると循環口を閉じると共に導入口を開いて還元口から復水を排出する復水排出装置において、復水溜り室が所定の低水位のときに還元口を閉じ、水位の上昇により還元口を開く弁手段をフロートに連結した復水排出装置。」
(2)引用例及び対比・判断
請求人の提出した甲第1号証及び甲第2号証には、上記2.(2)(2-2-2)に記載したとおりの事項が記載されている。
そこで、本件特許発明と上記甲第1号証に記載の発明を対比すると、両者は、復水を押し出す流体として、本件特許発明においては「高圧操作流体」を使用しているのに対して、甲第1号証の発明においては、外気又は外気と同様の圧力を有する流体である点で相違し、その余の点で一致している。
しかるに、上記相違点は、上記2.(2)(2-2-3)において検討した相違点1と同一であるので、上記箇所説示の理由により、上記相違点は、当業者が容易になし得たことといえる。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-01-26 
結審通知日 2001-02-09 
審決日 2001-02-21 
出願番号 特願平4-61411
審決分類 P 1 112・ 121- ZB (F16T)
最終処分 成立  
前審関与審査官 阿部 利英  
特許庁審判長 蓑輪 安夫
特許庁審判官 粟津 憲一
大島 祥吾
登録日 1997-10-31 
登録番号 特許第2711610号(P2711610)
発明の名称 復水排出装置  
代理人 竹内 裕  

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