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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1046693
異議申立番号 異議2000-70909  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-06-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-06 
確定日 2001-06-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2944806号「 母材靱性に優れる低降伏比耐火H形鋼及びその製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2944806号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2944806号の請求項1ないし4に係る発明は、平成3年12月3日に特許出願され、平成11年6月25日にその特許権の設定登録がなされ、その後、新日本製鐵株式会社から特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成12年11月27日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求は、次のA及びBの訂正事項をその内容とするものである。
A.訂正事項a-1
特許請求の範囲の請求項1の記載について、
「【請求項1】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.40wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下、
N:0.012wt%以下
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼。」とあるのを、
「【請求項1】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼。」と訂正する。

訂正事項a-2
特許請求の範囲の請求項2の記載について、
「【請求項2】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.40wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有し、かつ
Cr:0.05〜 0.40wt%、 V:0.005〜0.10wt%
のうちから選んだ1種又は2種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼。」とあるのを、
「【請求項2】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有し、かつ
Cr:0.05〜 0.40wt%、 V:0.005〜0.10wt%
のうちから選んだ1種又は2種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼。」と訂正する。

訂正事項a-3
特許請求の範囲の請求項3の記載について、
「【請求項3】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.40wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼の製造方法。」とあるのを、
「【請求項3】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼の製造方法。」と訂正する。

訂正事項a-4
特許請求の範囲の請求項4の記載について、
「【請求項4】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.40wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有し、かつ
Cr:0.05〜 0.40wt%、 V:0.005〜0.10wt%
のうちから選んだ1種又は2種を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼の製造方法。」とあるのを、
「【請求項4】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有し、かつ
Cr:0.05〜 0.40wt%、 V:0.005〜0.10wt%
のうちから選んだ1種又は2種を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼の製造方法。」と訂正する。

B.訂正事項b-1
明細書の段落【0008】第3行目(特許公報第4欄第33行目)、段落【0010】第2行目(特許公報第4欄第44行目)及び並びに段落【0011】第2行目(特許公報第5欄第2行目)の記載について、「Mo:0.20〜0.40%」とあるのを、「Mo:0.20〜0.38%」と訂正する。

訂正事項b-2
明細書の段落【0015】(特許公報第5欄第26〜30行目)の記載について、
「Mo:0.20〜0.40%
Moは、高温強度を向上させる元素として0.20%以上を必要とするが、0.40%を超えると溶接性、靭性を損なうと共に経済的にも不利となるので、0.20〜0.40%の範囲で含有させるものとした。」とあるのを、
「Mo:0.20〜0.38%
Moは、高温強度を向上させる元素として0.20%以上を必要とするが、0.38%を超えると溶接性、靭性を損なうと共に経済的にも不利となるので、0.20〜0.38%の範囲で含有させるものとした。」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否
A.訂正事項a-1ないしa-4について
上記訂正事項a-1は、Mo含有量に関し、「Mo:0.20〜0.40%」を「Mo:0.20〜0.38%」と、その上限値を下げるものであるところ、当該上限値「0.38%」は、特許明細書の実施例に関する段落【0026】の【表1】中に本発明鋼(記号H)に相当する値として記載されたものであり、Moの含有量に関する規定範囲が減縮されるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
上記訂正事項a-2ないしa-4についても、上記訂正事項a-1と同様であり、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、いずれも新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

B.訂正事項b-1及びb-2について
また、上記訂正事項b-1ないしb-2は、上記訂正事項a-1ないしa-4の特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正と整合するように発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)むすび
したがって、上記A及びBの訂正事項は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、訂正を認める。


3.特許異議の申立てについての判断
(1)申立ての理由の概要
特許異議申立人新日本製鐵株式会社は、請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証(特開平2-77523号公報)、甲第2号証(特開平3-6322号公報)、甲第3号証(特開昭60-152626号公報)、甲第4号証(特開平1-176016号公報)及び甲第5号証(特開平1-176017号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、特許を取り消すべきものと主張している。

(2)本件の請求項1ないし4に係る発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1ないし4」という。)は、本件訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼。
【請求項2】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有し、かつ
Cr:0.05〜 0.40wt%、 V:0.005〜0.10wt%
のうちから選んだ1種又は2種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼。
【請求項3】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼の製造方法。
【請求項4】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有し、かつ
Cr:0.05〜 0.40wt%、 V:0.005〜0.10wt%
のうちから選んだ1種又は2種を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼の製造方法。

(3)引用刊行物記載の発明
当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物には、それぞれ、次のような発明が記載されている。

刊行物1:特開平2-77523号公報
これには、「重量比で、C 0.04 〜0.15% 、Si 0.6%以下、Mn 0.5〜1.6%、Nb 0.005〜0.04% 、Mo 0.4〜0.7%、Al 0.1%以下、N 0.001〜0.006%に加えてTi 0.005〜0.10%、Zr 0.005〜0.03%、V 0.005〜0.10%、Ni 0.05〜0.5%、Cu 0.05〜1.0%、Cr 0.05〜1.0%、B 0.0003〜0.002%、Ca 0.0005%〜0.005%、REM 0.001〜0.02%のうち1種または2種以上 残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼片を1100〜1300℃の温度域で加熱後、熱間圧延を800〜1000℃の温度範囲で終了する耐火性の優れた建築用低降伏比鋼材の製造方法。」が記載されており(第1頁左下欄第18行目〜同右下欄第20行目(特許請求の範囲2))、
同刊行物1の第5表〜第6表には、本発明鋼4の成分組成(wt%)として、「C:0.044、Si:0.53 、Mn:0.86 、P:0.015、S:0.002 、Al:0.025、Mo:0.45、Nb:0.020、Ti:0.013、REM:0.0015、N:0.0032 、Ceq:0.322、Pcm:0.135」が、
本発明鋼7の成分組成(wt%)として、「C:0.053、Si:0.25 、Mn:0.75 、P:0.006、S:0.002 、Al:0.026、Mo:0.50、Nb:0.014、Ti:0.009、REM:0.0023、N:0.0030、Ceq:0.313、Pcm:0.132」が、
本発明鋼22の成分組成(wt%)として、「C:0.104、Si:0.22、Mn:0.65、P:0.005、S:0.003、Al:0.022、Mo:0.63、Nb:0.015、Cr:0.34、Ti:0.013、REM:0.0023、N:0.0024、Ceq:0.447、Pcm:0.203」が、
また比較鋼36の成分組成(wt%)として、「C:0.046、Si:0.35、Mn:0.83、P:0.012、S:0.004、Al:0.025、Mo:0.22、Nb:0.013、Ti:0.012、N:0.0022 、Ceq:0.254、Pcm:0.114」が、
それぞれ記載されている。

刊行物2:特開平3-6322号公報
これには、「重量比でC 0.04 〜0.15%、Si 0.6%以下、Mn 0.5〜1.6%、Mo 0.2〜0.7%、Al 0.1%以下、N 0.006%以下に更にNb 0.005〜0.04%、Ti 0.005〜0.10%、Zr 0.005〜0.03%、V 0.005〜0.10%、Ni 0.05〜0.5%、Cu 0.05〜1.0%、Cr 0.05〜1.0%、B 0.0003〜0.002%、Ca 0.0005〜0.005%、REM 0.001〜0.02%のうち1種または2種以上を含有し残部がFe及び不可避不純物からなる鋼片を1100〜1300℃の温度域で加熱し、熱間圧延を800〜1000℃の温度範囲で終了した後、鋼板をAr3-20℃〜Ar3-100℃まで空冷し、続いてこの温度から3〜40℃/秒の冷却速度で550℃以下の任意の温度まで水冷し、その後放冷することを特徴とする耐火性の優れた建築用低降伏比鋼材の製造方法。」が記載されており(第1頁左下欄第16行目〜同右下欄第10行目(特許請求の範囲2))、
同刊行物2の第12頁〜第14頁の第1表には、本発明鋼4の成分組成(wt%)として、「C:0.055、Si:0.53、Mn:1.03、P:0.015、S:0.002、Al:0.027、Mo:0.53、Ti:0.012、REM:0.0015、N:0.0033 、Ceq:0.381、Pcm:0.160」が、
本発明鋼7の成分組成(wt%)として、「C:0.053、Si:0.25 、Mn:1.36、P:0.006、S:0.005、Al:0.023、Mo:0.52、Ti:0.008、REM:0.0020、N:0.0031、Ceq:0.420、Pcm:0.164」が、
また本発明鋼22の成分組成(wt%)として、「C:0.103、Si:0.23、Mn:0.84、P:0.007、S:0.003、Al:0.025、Mo:0.67、Cr:0.25、Ti:0.013、REM:0.0020、N:0.0035、Ceq:0.470、Pcm:0.210」が、
それぞれ記載されている。

刊行物3:特開昭60-152626号公報
これには、「C:0.01 〜0.15wt% 、Si:0.05〜0.6wt%、Mn:0.5〜2.0wt%、およびAl:0.01〜0.08wt%を基本成分として含有し、強さとじん性の要請に応じてさらに、Nb:0.005〜0.10wt%、V:0.005〜0.15wt%、Ni:0.1〜2.0wt%、Cu:0.1〜1.0wt%、Cr:0.1〜1.0wt%、Mo:0.05〜0.5wt%およびB:0.0005〜0.002wt%の1種以上の強化成分を含むほか、鋼中N:0.001〜0.007wt%に抑制した組成になる大入熱溶接用高抗張力鋼を、その(Ac3点-30℃)の温度から1150℃を越えない温度範囲におけるスラブ加熱下の熱間圧延にて製造するに当り、上記スラブが、Ti:0.005〜0.025wt%とREM:0.002〜0.01wt%とを複合含有する成分調整を行い、該加熱の際に伴われる異常粒の生成を抑制することを特徴とする溶接構造用高張力鋼のじん性安定化方法。」が記載されており(第1頁左下欄第5行目〜同右下欄第9行目(特許請求の範囲))、
同第1頁右下欄第12行目〜第17行目には、「50000J/cm以上のいわゆる大入熱溶接が適用される溶接構造用高張力鋼の圧延母材およびその溶接部におけるじん性のばらつきの軽減に関してこの明細書に述べる技術内容は、大入熱溶接用高張力鋼の製造の最近のすう勢に対応した成分調整についての開発成果を提案するものである。」と、
また、同第3頁右上欄第2行目〜同第13行目には、「REMとTiの複合添加が低温加熱時のオーステナイトの異常粒成長を防止するのに役立って、低温加熱時のオーステナイトを整粒化し、ひいては母材及び大入熱溶接部におけるじん性のばらつきを少くするのに有効に寄与することを見出しこの発明を完成させた。つまり、かような寄与を適切に実現することがこの発明の目的であり、TiとREM複合添加によりTiNとREMのoxysulfideとが複合的に有効に作用して低温加熱時のオーステナイトの異常成長を妨げることの基本認識に立脚している。」と、
また、同第4頁左上欄第1行目〜同第3行目には、「この発明にあってはTiおよびREM の含有により、TiNとしてREMのoxysulfideと共にオーステナイトの異常粒成長を防止する。」と、
さらに、同第4頁左下欄第19行目〜右下欄第9行目には、「この熱間圧延のための加熱温度の上限は1150℃でありそれを越えると平均オーステナイト粒径が過大となり好ましくない。また、前述のように混粒が生じる加熱温度の上限も1150℃である。一方下限は鋼をオーステナイト化する意味からAc3温度であるが、実用上はAc3-30℃まで許容できる。なお、(Ac3-30℃)〜1150℃に加熱した後の圧延および冷却の条件についてはとくに規定しないが、この発明の目的に対しては、制御圧延法、加速冷却法又は直接焼入れ法を採用するのが最適である。」と、
それぞれ記載されている。

刊行物4:特開平1-176016号公報
これには、「脱酸処理後の溶鋼にCa、ついでREMを添加し、C:0.01 〜0.2wt% 、Si:0.01〜0.5wt%、Mn:0.5〜2.5wt%、Ti:0.004〜0.03wt%、Al:0.005〜0.05wt%、P:0.03wt%以下、S:0.008wt%以下およびN:0.008wt%以下を含み、さらにREM:0.1・P[wt%]〜2・P[wt%]を含有する組成になる鋼に溶製し、引続き鋳造を行うことを特徴とする溶接継手部のじん性に優れた鋼材の製造方法。」が記載されており(第1頁左下欄第5行目〜同第18行目(特許請求の範囲))、
同第2頁右下欄第14行目〜19行目には、「一方従来、溶接部じん性を向上させるためREMを添加する例はあったが、REMのオキシサルファイドを鋼中に分散させ、溶接熱サイクル時のオーステナイト粒の粗大化防止や、変態中のフェライトの析出核として利用するものであり、この発明におけるREM添加の技術思想とはまったく異なる。」と、
また、同第3頁右下欄第1行目〜同第6行目には、「Ti:Tiは溶接部のじん性を向上させるために必須の元素であり、TiN を形成して溶接熱サイクル時のオーステナイトを微細化させるために添加するが0.004%以下では効果がなく、一方0.03%を超えて添加するとかえって溶接部のじん性を劣化させる。」と、
それぞれ記載されている。

刊行物5:特開平1-176017号公報
これには、「脱酸処理後の溶鋼にCa、ついでREMを添加し、C:0.01〜0.2wt%、Si:0.5wt%以下、Mn:0.5〜2.5wt%、Ti:0.05wt%以下、P:0.03wt%以下、S:0.008wt%以下およびN:0.008wt%以下を含み、さらにREM:0.1・P[wt%]〜2・P[wt%]およびTi系酸化物を含有する組成になる鋼に溶製し、引続き鋳造を行うことを特徴とする溶接継手部のじん性に優れた鋼材の製造方法。」が記載されており(第1頁左下欄第5行目〜同第18行目(特許請求の範囲))、
同第2頁右下欄第11行目〜同第16行目には、「溶接部じん性を向上させるため、REMを添加する例はあったが、それはREMのオキシサルファイドを鋼中に分散し、溶接部サイクル時のオーステナイト粒の粗大化防止や、変態中のフェライトの析出核として利用するものであり、この発明のREM添加の技術思想とはまったく異なり」と、
また、同第3頁右下欄第3行目〜同第7行目には、「Ti:この発明においては、Ti系酸化物を含有させ溶接熱影響部において、フェライトの生成サイトとして働かせ、島状マルテンサイトの生成を抑えると共に、鋼中にTiNとして存在して溶接熱影響部のオーステナイト粒の成長を抑制する。」と、
それぞれ記載されている。

(4)対比・判断
(4)-1 特許法第29条第2項の適用(取消理由通知の取消理由2)について
(4)-1-1 本件発明1及び2と刊行物1ないし5
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、組成に関して、両者は、C:0.04〜0.12wt%、Si:0.02〜0.6wt%、Mn:0.5〜1.0wt%、Nb:0.005〜0.03wt%、Ti:0.005〜0.02wt%、REM:0.001〜0.01wt%、Al:0.05wt%以下、N:0.001〜0.006wt%を含有する低降伏比耐火鋼である点で一致し、また、本件発明2と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、C:0.04〜0.12wt%、Si:0.02〜0.6wt%、Mn:0.5〜1.0wt%、Nb:0.005〜0.03wt%、Ti:0.005〜0.02wt%、REM:0.001〜0.01wt%、Al:0.05wt%以下、N:0.001〜0.006wt%を含有し、かつ、Cr:0.05〜0.40wt%、V:0.005〜0.10wt%を含有する低降伏比耐火鋼である点で一致し、刊行物1に記載された発明は、Mo含有量が0.4〜0.7wt%であるのに対し、本件発明1及び2は、いずれもMo含有量が0.20〜0.38wt%である点で相違する。
また、TiとREMの含有に関し、本件発明1及び2はこれらを必須成分とするのに対し、刊行物1に記載された発明においては、これらは選択可能な成分として記載されている点で相違する。
刊行物1に記載された実施例に関しても、刊行物1における鋼4、7及び22は、Nb、Ti、REM の含有量が本件発明1及び2の組成範囲に入るものの、Mo含有量が本件発明1及び2で規定された範囲の上限を超えている。
ちなみに、同刊行物1における比較鋼36、41、46は、Mo含有量が本件発明1及び2で規定された範囲に入るものの、Ti、REMのうちの少なくとも1つが添加されていない点で本件発明1及び2と相違する。

そこで、これらの相違点について検討する。
Mo含有量に関して、刊行物1には、「本件発明の特徴は、低C-低Mn鋼に微量Nbと適当量のMoを複合添加した成分組成の鋼片を、高温で再加熱したのち、比較的高温で圧延を終了することにあり」と記載されており(同第4頁左上欄第11行目〜第14行目)、さらに、「NbとMoは、微細な炭窒化物を形成し、さらに、Moは固溶体強化によって高温強度を増加させるが、Moの単独添加では600℃という高温領域において十分な耐力を得ることは難しい」(同第4頁右上欄第9行目〜第12行目)、「しかしながら、Nb、Mo量が高すぎると、溶接性が悪くなり、さらに溶接熱影響部(HAZ)の靱性が劣化するので、Nb、Mo含有量の上限はそれぞれ0.04%、0.7%とする必要があり、また下限は複合効果が得られる最小量としてそれぞれ0.005%、0.4%を含有せしめる」(同第16行目〜第20行目)と記載されている。
これに対して、本件発明1及び2においては、成分毎の作用の説明として「Moは、高温強度を向上させる元素として0.20%以上を必要とするが、0.38%を超えると溶接性、靱性を損なうと共に経済的にも不利となるので、0.20〜0.38%の範囲で含有させるものとした。」(特許公報段落【0015】)と、その上下限設定理由が記載されているものの、【課題を解決するための手段】の項において、「Moを適正量添加した上でMnの添加量を制限することによって、高温における耐力の低下を抑制できる」との知見に立脚するものである旨記載されている。
したがって、刊行物1に、Mo含有量の上下限設定理由が、高温強度の増加であり、溶接性、溶接熱影響部の靱性の劣化であると定性的に示されているからといって、これをもって、NbとMoの複合添加を組成上の特徴とする刊行物1記載の発明から、他の成分組成との兼ね合いで、就中Mnとの関係にも配慮することを想到し、刊行物1記載の発明とは異なる範囲で本件発明1、2のようにMo含有量の最適範囲を決定することが容易であるとする根拠とすることはできない。

また、この点に関して、刊行物2には、「Moは微細な炭化物による析出硬化と固溶強化によって高温強度を増加させる。必要な高温耐力を得るためのMo量は他のベース成分やミクロ組織によって異なるが、本発明鋼の合金成分やプロセスを前提とすると、0.2%未満ではその効果は小さく、Moの下限は0.2%以下である。しかしながら、Mo量が高すぎると、溶接性が悪くなり、さらにHAZの靱性が劣化するので、Mo量の上限は0.7%とする必要がある。」とMo含有量に関する上下限設定理由が記載されている(第4頁左上欄第18行目〜同右上欄第6行目)ので、以下で、さらに検討する。

同刊行物2に記載の発明に関し、「本発明の特徴は、低C-低Mn鋼にMoを添加した成分組成の鋼片を、高温で加熱したのち、比較的高温で圧延を終了し、その後空冷過程でオーステナイトからフェライトへの変態途中であるフェライト分率20〜50%(Ar3-20℃〜Ar3-100℃の温度範囲)まで空冷し、この温度域から550℃以下の任意の温度(550℃から室温までの温度範囲)まで水冷して、その後、放冷する方法で、本発明法によって製造した鋼材は、適当な常温耐力を有するとともに、高温耐力が高いという特性を備えている。つまり、常温耐力に対し600℃の温度域における耐力の割合が大きい。この理由は適当量のMoを添加した鋼のミクロ組織が比較的大きなフェライトとベイナイトの混合組織とするためである。」と説明される(第3頁第右下欄第9行目〜第4頁左上欄第4行目)低降伏比耐火鋼は、「鋼片を1100〜1300℃の温度域で加熱し、熱間圧延を800〜1000℃の温度範囲で終了した後、鋼板をAr3-20℃〜Ar3-100℃まで空冷し、続いてこの温度から3〜40℃/秒の冷却速度で550℃以下の任意の温度まで水冷し、その後放冷する」方法によって製造されるものである。すなわち、同刊行物2に記載された発明は、熱間圧延後に制御冷却を行う工程を必須にするものであるという製造方法の点で本件発明1及び2とは異なっている。
そして、靱性に関して、同刊行物2には、成分限定理由についての説明において「さらにC量が多過ぎるとHAZの低温靱性に悪影響をおよぼすだけでなく、母材靱性、溶接性をも劣化させるので、0.15%が上限となる。」(同第4頁右上欄第11行目〜第14行目)、「つぎに、Mnは強度、靱性を確保する上で不可欠の元素であり、その下限は0.5%である。」(同左下欄第1行目〜第2行目)、「一般に靱性、板厚方向強度などに関する鋼の特性は、P、S量が少ないほど向上する。」(同第18行目〜第20行目)、「さらに以下に述べる元素即ちNb、Ti、Zr、V、Ni、Cr、B、REMを選択的に添加すると強度、靱性の向上について、さらに好ましい結果が得られる。」(同右下欄第3行目〜第6行目)とのみ言及され、同刊行物2に記載された実施例には、Mo、Nb、Ti、REMの含有量が本件発明1及び2の条件を満たすものはない。
これに対して、本件発明1及び2は、その目的が「圧延制御などを行う必要なしに、γ粒の有利な微細化を図り、もって常温における降伏比が低く、かつ高温強度の高い耐火H形鋼を得るところにある」ものであり(段落【0005】)、組成上の目的達成手段として、「TiとREMを複合添加すること」を採用して「熱間圧延の際に高い加熱温度を必要とするH形鋼においても、γ粒の粗大化を効果的に抑制」しており(段落【0006】)、さらなる手段として、「Moを適正量添加した上でMnの添加量を制限すること」を採用し、「高温における耐力の低下を抑制」することを図り、「NbやVの添加を微量として炭素当量の増大を抑えること」を採用して、「常温強度を確保」することを図ったものである(段落【0007】及び段落【0015】〜【0018】)。
したがって、本件発明1及び2は、刊行物2に記載された発明とは質的に異なる技術的思想を有するものであるから、同刊行物2に、Mo含有量の上下限設定理由が、高温強度の増加であり、溶接性、溶接熱影響部の靱性の劣化であるとして、本件発明1及び2において規定されるMo含有量の範囲を包含する範囲が示されているからといって、これをもって、NbとMoの複合添加を組成上の特徴とする刊行物1記載の発明から、他の成分組成との兼ね合いで、就中Mnとの関係にも配慮することを想到し、刊行物2に記載の発明におけるMo含有量の範囲からさらに限定的に本件発明1及び2のようにMo含有量の最適範囲を決定することが容易であるとする根拠とすることはできない。

次に、TiとREMの含有に関して、本件発明1及び2においては、TiとREMとを複合添加することによって、熱間圧延の際に高い加熱温度を必要とするMo含有耐火H形鋼におけるγ粒の粗大化を効果的に抑制することを図っている(特許公報段落【0005】〜【007】及び【0016】〜【0017】)が、刊行物1には、TiとREMとは選択可能な成分元素として記載されているのみで、前記複合添加の技術的思想が記載されていない。
このTiとREMの複合添加の技術的思想に関して、刊行物3には、溶接構造用高張力鋼のじん性安定化方法として、熱間圧延に供される鋼材の組成において、TiとREMとを本件発明と重複する、Ti:0.005〜0.020wt%、REM:0.001〜0.01wt%の範囲で複合添加する点が記載されている。
また、同刊行物3には、「50000J/cm以上のいわゆる大入熱溶接が適用される溶接構造用高張力鋼の圧延母材およびその溶接部におけるじん性のばらつきの軽減に関してこの明細書に述べる技術内容は、大入熱溶接用高張力鋼の製造の最近のすう勢に対応した成分調整についての開発成果を提案するものである。」、「この発明にあってはTiおよびREM の含有により、TiNとしてREMのoxysulfideと共にオーステナイトの異常粒成長を防止する。」と記載されている。
ひるがえって、本件発明1及び2は、その目的が「圧延制御などを行う必要なしに、γ粒の有利な微細化を図り、もって常温における降伏比が低く、かつ高温強度の高い耐火H形鋼を得るところにある」ものであり(段落【0005】)、組成上の目的達成手段として、「TiとREMを複合添加すること」を採用して「熱間圧延の際に高い加熱温度を必要とするH形鋼においても、γ粒の粗大化を効果的に抑制」しており(段落【0006】)、さらなる手段として、「Moを適正量添加した上でMnの添加量を制限すること」を採用し、「高温における耐力の低下を抑制」することを図り、「NbやVの添加を微量として炭素当量の増大を抑えること」を採用して、「常温強度を確保」することを図ったものである(段落【0007】及び段落【0015】〜【0018】)。
しかるに、刊行物3に記載された発明は、「REMとTiの複合添加が低温加熱時のオーステナイトの異常粒成長を防止するのに役立って、低温加熱時のオーステナイトを整粒化し、ひいては母材及び大入熱溶接部におけるじん性のばらつきを少くするのに有効に寄与する」との認識に立脚したものであり(第3頁右上欄第2行目〜同第13行目)、抑制しようとする対象が高温時の平均オーステナイト粒径の増大ではなく低温加熱時の異常粒成長の出現である点で本件発明1及び2と相違する。
この相違は、刊行物3に記載された発明に関して、「この熱間圧延のための加熱温度の上限は1150℃でありそれを越えると平均オーステナイト粒径が過大となり好ましくない。」と説明されていることからも明らかである。
そして、この「この熱間圧延のための加熱温度の上限は1150℃でありそれを越えると平均オーステナイト粒径が過大となり好ましくない。」との説明は、「1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了する」方法によって製造される本件発明1及び2が有する作用効果、すなわち高い加熱温度を必要とするH形鋼におけるオーステナイト粒の粗大化を効果的に抑制するという作用効果、があることを予測させるものというよりは、むしろ「1200〜1350℃の温度範囲に加熱」する手段の採用自体を好ましくないものとして示唆するものであると認められる。
したがって、TiとREMとの同時添加により1150℃以下の温度範囲での加熱時のオーステナイト粒の異常粒成長を防止できるという技術的事項が刊行物3に記載されているからといって、これをもって、熱間圧延の際に1200〜1350℃の高い加熱温度を必要とするH形鋼におけるオーステナイト粒の粗大化を効果的に抑制することを図るという本件発明1ないし2を当業者が容易に想到し得た根拠とすることはできない。

また、TiとREMを必須添加成分とする点に関しては、刊行物4ないし5に、オーステナイトの粗大化防止を図るという観点からの記載があるが、前述のとおり、本件発明1及び2は、高い加熱温度を必要とするH形鋼の熱間圧延時のオーステナイト粒の粗大化を効果的に抑制することを図るものであるのに対し、刊行物4ないし5に記載された発明は、溶接熱サイクル時のオーステナイト粒の粗大化防止を図るものであって、同刊行物4ないし5において従来知られた事項として記載された「溶接部じん性を向上させるためREMを添加する例はあったが、REMのオキシサルファイドを鋼中に分散させ、溶接熱サイクル時のオーステナイト粒の粗大化防止や、変態中のフェライトの析出核として利用するもの」との記載もまた、溶接熱サイクル時の組織変化を対象とする技術として記載され比較されているものであるから、両者は技術的思想が相違する。したがって、改善すべき特性であるじん性が、本件発明1及び2においては母材全体であるのに対し、刊行物4ないし5に記載された発明においては溶接継手部であるという相違点となっていると認められる。
したがって、TiとREMを必須成分とすることにより溶接熱サイクル時のオーステナイト粒の粗大化防止に寄与し得るという技術的事項が刊行物4ないし5に記載されているからといって、これをもって、高い加熱温度を必要とするH形鋼におけるオーステナイト粒の粗大化を効果的に抑制し母材靱性に優れた形鋼を得ることを図るという本件発明1ないし2を当業者が容易に想到し得た根拠とすることはできない。

以上のとおり、本件発明1及び2と刊行物1に記載された発明との相違点は、いずれも質的に異なる技術的思想に基づく相違であるから、刊行物1ないし5に記載のものに基づいて本件発明1ないし2を当業者が容易に発明し得たものであるとすることはできない。


(4)-1-2 本件発明1及び2と刊行物2、3ないし5
本件発明1と刊行物2に記載された発明とを対比すると、鋼材としての組成に関し、両者は、C:0.04〜0.12wt%、Si:0.02〜0.6wt%、Mn:0.5〜1.0wt%、Mo:0.2〜0.38wt%、Nb:0.005〜0.03wt%、Ti:0.005〜0.020wt%、REM:0.001〜0.01wt%、Al:0.05wt%以下、N:0.006wt%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる低降伏比耐火鋼である点で形式的に一致し、また、本件発明2と刊行物2に記載された発明とを対比すると、鋼材としての組成に関し、両者は、C:0.04〜0.12wt%、Si:0.02〜0.6wt%、Mn:0.5〜1.0wt%、Mo:0.2〜0.38wt%、Nb:0.005〜0.03wt%、Ti:0.005〜0.02wt%、REM:0.001〜0.01wt%、Al:0.05wt%以下、N:0.006wt%以下を含有し、かつ、Cr:0.05〜0.40wt%、V:0.005〜0.10wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる低降伏比耐火鋼である点で形式的に一致するが、TiとREMの含有に関し、本件発明1及び2はこれらを必須成分とするのに対し、刊行物2に記載された発明においては、これらは選択可能な成分として記載されている点で相違し、さらに、本件発明1及び2においては「母材靱性に優れる」との限定があるのに対し、刊行物2に記載された発明にはかかる限定事項がない点で両者は異なる。
また、刊行物2に実施例として記載された鋼4、7及び22は、組成に関して、TiとREM の含有量が本件発明1及び2として規定された組成範囲と一致するが、いずれも、Mo含有量が本件発明の組成範囲を超過しており、さらに本件発明1及び2における必須の成分であるNbが添加されていない点で相違する。
また、刊行物2に実施例として記載された鋼16、20、23及び24は、組成に関して、本件発明の組成範囲に入る量のMoを含有しているものの、Ti、REMのうちの少なくとも1つが添加されていない点で本件発明1及び2と相違する。

そこで、これらの相違点について検討する。
TiとREMの含有に関して、本件発明1及び2においては、TiとREMとを複合添加することによって、熱間圧延の際に高い加熱温度を必要とするMo含有耐火H形鋼におけるγ粒の粗大化を効果的に抑制することを図っている(特許公報段落【0005】〜【007】及び【0016】〜【0017】)が、刊行物2には、TiとREMとは選択可能な成分元素として記載されているのみで、前記複合添加の技術的思想が記載されていない。
このTiとREMの複合添加の技術的思想に関しては、刊行物3ないし5の記載があるが、前記(4)-1-1のとおり、TiとREMとの同時添加により1150℃以下の温度範囲での加熱時のオーステナイト粒の異常粒成長を防止できるという技術的事項が刊行物3に記載されているからといって、これをもって、熱間圧延の際に1200〜1350℃の高い加熱温度を必要とするH形鋼におけるオーステナイト粒の粗大化を効果的に抑制することを図るという本件発明1ないし2を当業者が容易に想到し得た根拠とすることはできないし、また、TiとREMを必須成分とすることにより溶接熱サイクル時のオーステナイト粒の粗大化防止に寄与し得るという技術的事項が刊行物4ないし5に記載されているからといって、これをもって、高い加熱温度を必要とするH形鋼におけるオーステナイト粒の粗大化を効果的に抑制し母材靱性に優れた形鋼を得ることを図るという本件発明1ないし2を当業者が容易に想到し得た根拠とすることもできない。

次に、「母材靱性に優れる」との限定に関し、製造方法の相違も含めて検討すると、刊行物2に記載された低降伏比耐火鋼は「鋼片を1100〜1300℃の温度域で加熱し、熱間圧延を800〜1000℃の温度範囲で終了した後、鋼板をAr3-20℃〜Ar3-100℃まで空冷し、続いてこの温度から3〜40℃/秒の冷却速度で550℃以下の任意の温度まで水冷し、その後放冷する」方法によって製造されるものであるのに対し、本件発明1及び2は、このような製造方法によるものではない。
そして、製造方法による限定及び母材靱性による限定に関して、刊行物2には「本発明の特徴は、低C-低Mn鋼にMoを添加した成分組成の鋼片を、高温で加熱したのち、比較的高温で圧延を終了し、その後空冷過程でオーステナイトからフェライトへの変態途中であるフェライ分率20〜50%(Ar3-20℃〜Ar3-100℃の温度範囲)まで空冷し、この温度域から550℃以下の任意の温度(550℃から室温までの温度範囲)まで水冷して、その後、放冷する方法」と記載されている(刊行物2第3頁右下欄第9行目〜第17行目)ことから、同刊行物2に記載された発明は熱間圧延後に制御冷却を行う工程を必須にするものと認められる。また、靱性に関して、刊行物2には、成分限定理由についての説明において「さらにC量が多過ぎるとHAZの低温靱性に悪影響をおよぼすだけでなく、母材靱性、溶接性をも劣化させるので、0.15%が上限となる。」(同第4頁右上欄第11行目〜第14行目)、「つぎに、Mnは強度、靱性を確保する上で不可欠の元素であり、その下限は0.5%である。」(同左下欄第1行目〜第2行目)、「一般に靱性、板厚方向強度などに関する鋼の特性は、P、S量が少ないほど向上する。」(同第18行目〜第20行目)、「さらに以下に述べる元素即ちNb、Ti、Zr、V、Ni、Cr、B、REMを選択的に添加すると強度、靱性の向上について、さらに好ましい結果が得られる。」(同右下欄第3行目〜第6行目)と言及されている。 そして、同刊行物2に記載された実施例をみても、Mo、Nb、Ti、REMの含有量が本件発明1及び2の条件を満たすものはない。
これに対して、本件発明1及び2は、その目的が「圧延制御などを行う必要なしに、γ粒の有利な微細化を図り、もって常温における降伏比が低く、かつ高温強度の高い耐火H形鋼を得るところにある」ものであり(段落【0005】)、組成上の目的達成手段として、「TiとREMを複合添加すること」を採用して「熱間圧延の際に高い加熱温度を必要とするH形鋼においても、γ粒の粗大化を効果的に抑制」しており(段落【0006】)、さらなる手段として、「Moを適正量添加した上でMnの添加量を制限すること」を採用し、「高温における耐力の低下を抑制」することを図り、「NbやVの添加を微量として炭素当量の増大を抑えること」を採用して、「常温強度を確保」することを図ったものである(段落【0007】及び段落【0015】〜【0018】)。
したがって、本件発明1及び2は、刊行物2に記載された発明とは質的に異なる技術的思想を有するものであると認められる。

以上のとおりであるから、刊行物3ないし5をもって、刊行物2と相互補完的に組み合わせたとしても、本件発明1ないし2を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。


(4)-1-3 本件発明3及び4と刊行物1ないし5
本件発明3及び4と刊行物1ないし5に記載された発明とを対比すると、両者は、組成に関しては、前記(4)-1-1及び(4)-1-2に記述した、刊行物3ないし5をもって、刊行物1ないし2と相互補完的に組み合わせたとしても、本件発明3及び4を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
なお、熱間圧延後の工程に関して、刊行物2に記載された発明においては、熱間圧延を終了した後、鋼板をAr3-20℃〜Ar3-100℃まで空冷し、続いてこの温度から3〜40℃/秒の冷却速度で550℃以下の任意の温度まで水冷し、その後放冷することを必須の工程とするのに対し、本件発明3〜4においては、特に限定されていない点で両者は相違する。
この点については、本件発明3及び4は、「圧延温度、圧下率をコントロールした圧延制御により、・・・する必要があった。しかしながら、このようなプロセスでは、生産性の著しい低下を招くところに問題を残していた。本発明の目的は、上記したような圧延制御などを行う必要なしに、・・・耐火H形鋼を得るところにある。」(特許公報段落【0004】〜【0005】)との認識の下で発明された方法であることから、同刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるとする根拠とはすることができない。
また、熱間圧延条件に関して、刊行物3に記載された発明においては「(Ac3-30℃)の温度から1150℃を越えない温度範囲に加熱して熱間圧延する」と規定されているのに対し、本件発明3及び4においては「1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了する」と規定されている点で両者は相違する。
この点については、前記(4)-1-1及び(4)-1-2に記述したとおり、本件発明3及び4に共通する技術的思想の根幹に係る工程上の相違であり、刊行物1〜5を組み合わせても補完し得ないところである。


以上のとおりであるから、本件発明1ないし4が上記刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。


(4)-2 特許法第29条第1項第3号の適用(取消理由通知の取消理由1)について
本件発明1ないし4と上記刊行物1ないし2に記載された発明とは、それぞれ、前記(4)-1で述べたとおりの相違点を有する。
したがって、本件発明1ないし4が上記刊行物1、2に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるとはいえない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
母材靱性に優れる低降伏比耐火H形鋼及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下、
N:0.012wt%以下
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材靱性に優れる低降伏比耐火H形鋼。
【請求項2】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下、
N:0.012wt%以下
を含有し、かつ
Cr:0.05〜0.40wt%、 V:0.005〜0.10wt%
のうちから選んだ1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材靱性に優れる低降伏比耐火H形鋼。
【請求項3】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下、
N:0.012wt%以下
を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することを特徴とする母材靱性に優れる低降伏比耐火H形鋼の製造方法。
【請求項4】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下、
N:0.012wt%以下
を含有し、かつ
Cr:0.05〜0.40wt%、 V:0.005〜0.10wt%
のうちから選んだ1種又は2種以上を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することを特徴とする母材靱性に優れる低降伏比耐火H形鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、建築構造物としての用途に供して好適なH形鋼とその製造方法に関し、とくに常温では75%以下の低降伏比を有する一方、高温では高い耐力の維持を図ろうとするものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、建築構造用鋼材としては、JIS G 3106に規定されている「溶接構造用圧延鋼材」などが使用されてきたが、この種鋼材は350℃以上の温度になると耐力が著しく低下するため、建築物に火災が発生しても鋼材の温度が350℃を超えないように耐火被覆を施すことが義務づけられている。
しかしこのような耐火被覆の実施は、施工コストを上昇させるだけでなく、支柱などの占有面積の増大を招き、居住空間の有効利用を阻害している。
【0003】
そこで、このような耐火被覆処理の軽減又は削減を可能にするため、高温においても高い耐力を有する鋼材の使用が種々検討されている。
しかしながら、従来の1/2Mo鋼や1Cr-1/2Mo鋼などの高温用鋼では、常温強度が高すぎて加工性に難点があり、溶接性もSM490などの構造用鋼に比べて大幅に劣ることから、建築構造用鋼としては使用できない。
【0004】
ところで建築鋼材として多用されるH形鋼を熱間圧延で製造する場合、その複雑な形状と寸法を確保するためには多くの圧延回数を必要とするが、熱間圧延の経済性を活かすには1回の加熱処理で製品にしなければならず、高い加熱温度を必要とすることから、γ粒が粗大化する。
ここに上記のH形鋼に耐火性を付与するためには、Moの添加を必須とするが、かかる成分系ではγ粒が粗大化すると焼き入れ性の上昇程度が著しく、ベイナイト組織を形成し易くなる。そのため圧延温度、圧下率をコントロールした圧延制御により、γ粒の微細化を行ってベイナイト組織の形成を抑制し、フェライト組織の形成を促進する必要があった。
しかしながらこのようなプロセスでは、生産性の著しい低下を招くところに問題を残していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記したような圧延制御などを行う必要なしに、γ粒の有利な微細化を図り、もって常温における降伏比が低く、かつ高温強度の高い耐火H形鋼を得るところにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
さて本発明者らは、上記の課題を達成するため、鋼材の化学組成及び圧延条件について鋭意研究を行った。その結果、TiとREMを複合添加することによって、熱間圧延の際に高い加熱温度を必要とするH形鋼においても、γ粒の粗大化を効果的に抑制できることを見出した。
【0007】
また、併せて
1)Moを適正量添加した上でMnの添加量を制限することによって、高温における耐力の低下を抑制できること、
2)NbやVの添加を微量として炭素当量の増大を抑えることによって、常温強度を確保できること
の知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0008】
すなわち本発明は、
C:0.03〜0.12wt%(以下単に%で示す)、Si:0.02〜0.80%、Mn:0.40〜1.00%、Mo:0.20〜0.38%、Nb:0.005〜0.030%、Ti:0.005〜0.020%、REM:0.001〜0.010%、Al:0.05%以下、N:0.012%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材靱性に優れる低降伏比耐火H形鋼(第1発明)である。
【0009】
また本発明は、第1発明にさらに、
Cr:0.05〜0.40%、V:0.005〜0.10%のうちから選んだ1種又は2種を含有させた母材靱性に優れる低降伏比耐火H形鋼(第2発明)である。
【0010】
そして、本発明にかかる第1発明鋼は、
C:0.03〜0.12%、Si:0.02〜0.80%、Mn:0.40〜1.00%、Mo:0.20〜0.38%、Nb:0.005〜0.030%、Ti:0.005〜0.020%、REM:0.001〜0.010%、Al:0.05%以下、N:0.012%以下を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することによって製造する(第3発明)。
【0011】
さらに、本発明にかかる第2発明鋼は、C:0.03〜0.12%、Si:0.02〜0.80%、Mn:0.40〜1.00%、Mo:0.20〜0.38%、Nb:0.005〜0.030%、Ti:0.005〜0.020%、REM:0.001〜0.010%、Al:0.05%以下、N:0.012%以下を含有し、かつCr:0.05〜0.40%、V:0.005〜0.10%のうちから選んだ1種又は2種以上を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することによって製造する(第4発明)。
【0012】
【作用】
まず本発明において、鋼材の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0.03〜0.12%
Cは、所定の強度を確保するためには少なくとも0.03%を必要とするが、あまりに多量に含有されると溶接性及び靭性の劣化を招くことから、上限を0.12%とした。
【0013】
Si:0.02〜0.80%
Siは、脱酸元素及び強度を向上させる元素として0.02%以上を必要とするが、0.80%を超えると母材の靭性を損なうので、0.02〜0.80%の範囲で含有させるものとした。
【0014】
Mn:0.40〜1.00%
Mnは、常温強度を確保するために必要な元素であり、そのためには少なくとも0.40%を必要とするが、1.00%を超えると高温の耐力を低下させるので、0.40〜1.00%の範囲に限定した。
【0015】
Mo:0.20〜0.38%
Moは、高温強度を向上させる元素として0.20%以上を必要とするが、0.38%を超えると溶接性、靭性を損なうと共に経済的にも不利となるので、0.20〜0.38%の範囲で含有させるものとした。
【0016】
Nb:0.005〜0.030%
Nbは、常温強度及び高温強度の改善のみならず、細粒化効果によって靭性を向上させる有用元素である。しかし0.005%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.030%を超えると靭性、溶接性を劣化させるので、0.005〜0.030%の範囲で含有させるものとした。
【0017】
Ti:0.005〜0.020%
Tiは、細粒化効果により靭性を向上させる元素として0.005%以上を含有させるが、0.020%を超えるとかえって靭性を損なうので0.005〜0.020%の範囲に限定した。
【0018】
REM:0.001〜0.010%
REMは、本発明においてとくに重要な元素で、Tiとの共存下に圧延素材加熱時におけるγ粒の粗大化を抑制するのに有効に寄与する。しかし含有量が0.001%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.010%を超えると母材の靭性を劣化させるので、0.001〜0.010%の範囲で含有させるものとした。
【0019】
Al:0.05%以下
Alは、脱酸剤として添加するが、0.05%を超えるとかえって靭性を劣化させるので、0.05%以下で含有させるものとした。
【0020】
N:0.012%以下
Nは、Nb、Vと窒化物を生成し、強度を向上させる有用元素であるが、0.012%を超えると靭性を損なうので0.012%以下の範囲で含有させるものとした。
【0021】
以上、基本成分について説明したが、本発明では強度改善成分として、Cr及びVを以下の範囲で添加することができる。
Cr:0.05〜0.40%
Crは、固溶強化作用によって母材の強度を上昇させる有用元素であるが、0.05%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.40%を超えると溶接性を損なうので、0.05〜0.40%の範囲に限定した。
【0022】
V:0.005〜0.10%
Vは、析出強化作用によって母材の強度を上昇させる有用元素であるが、0.05%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.10%を超えると靭性の劣化を招くので、0.005〜0.10%の範囲に限定した。
【0023】
次に、本発明法に従う製造方法について説明する。
上記の好適成分範囲に調整した溶鋼を、連続鋳造法又は造塊-分塊法によって鋼片としたのち、加熱処理を施す。ここに加熱温度は、経済性の面から1回の加熱で製品にする必要があるが、形状確保のため多回数の圧延になるので1200℃以上とする必要がある。しかし1350℃を超える加熱は、経済面での有意性を損なうので1350℃を上限とした。
【0024】
ついで熱間圧延を施して所定の形状に成形するが、このとき熱間圧延は、圧延終了温度:Ar3点以上の条件下に行うことが肝要である。
というのは圧延終了温度は、低い降伏比を得るためには特に重要で、フェライト・ベイナイト(パーライト)組織となるこの種鋼材において低降伏比とするには、歪のないフェライトとする必要があるが、そのためには仕上げ圧延をAr3点以上にする必要があるからである。
【0025】
【実施例】
表1に示す化学組成の溶鋼から、連続鋳造法でビームブランクを製造した後、1250℃に加熱し、ついで種々の仕上げ温度になる形鋼圧延により500×200×10×16mmのH形鋼とした。
かくして得られたH形鋼(フランジ部)の常温および600℃における引張特性および衝撃値について調べた結果を、表2に示す。
なお表1,2中、記号A〜Jは本発明鋼、一方K,Lは比較鋼であり、特にKはREM無添加鋼、Lは通常のSM41である。
この表2に示す結果から明らかなように、No.1〜No.7およびNo.11〜No.13の適合例は、すべて良好な常温特性および高温特性を有している。しかしながら、No.8〜No.10およびNo.14は、本発明の条件範囲を外れた例であり、例えばNo.8,No.14は、仕上げ温度を下回った例では、常温引張強さがSM41級,SM50級を満足していない。また、No.9,No.10は、化学組成範囲を外れた例であるが、No.9では常温引張強さが、そしてNo.10では高温耐力が不足していることが判る。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【発明の効果】
かくしてこの発明によれば、圧延制御など煩雑な処理を必要とすることなく、常温特性が従来材と同等で、かつ従来に比べ高温における耐力が格段に高いH形鋼を経済的に得ることができる。
 
訂正の要旨 特許第2944806号に関する訂正の要旨
本件訂正請求は、次のA及びBの訂正事項をその内容とするものである。
A.特許請求の範囲の減縮を目的として、Mo:0.40wt%→0.38wt%とする下記事項。
訂正事項a-1
特許請求の範囲の請求項1の記載について、
「【請求項1】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.40wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼。」とあるのを、
「【請求項1】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼。」と訂正する。
訂正事項a-2
特許請求の範囲の請求項2の記載について、
「【請求項2】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.40wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012w t%以下
を含有し、かつ
Cr:0.05〜0.40wt%、 V:0.005〜0.10wt%
のうちから選んだ1種又は2種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼。」とあるのを、
「【請求項2】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有し、かつ
Cr:0.05〜0.40wt%、 V:0.005〜0.10wt%
のうちから選んだ1種又は2種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼。」と訂正する。
訂正事項a-3
特許請求の範囲の請求項3の記載について、
「【請求項3】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.40wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼の製造方法。」とあるのを、
「【請求項3】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼の製造方法。」と訂正する。
訂正事項a-4
特許請求の範囲の請求項4の記載について、
「【請求項4】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.40wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有し、かつ
Cr:0.05〜0.40wt%、 V:0.005〜0.10wt%
のうちから選んだ1種又は2種を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼の製造方法。」とあるのを、
「【請求項4】
C:0.03〜0.12wt%、 Si:0.02〜0.80wt%、
Mn:0.40〜1.00wt%、 Mo:0.20〜0.38wt%、
Nb:0.005〜0.030wt%、 Ti:0.005〜0.020wt%、
REM:0.001〜0.010wt%、 Al:0.05wt%以下
N:0.012wt%以下
を含有し、かつ
Cr:0.05〜0.40wt%、 V:0.005〜0.10wt%
のうちから選んだ1種又は2種を含有する組成になる鋼片を、1200〜1350℃の温度範囲に加熱した後、Ar3以上の温度で熱間圧延を終了することを特徴とする母材靭性に優れる低降伏比耐火H形鋼の製造方法。」と訂正する。
B.訂正事項Aに整合させるべく、明りょうでない記載の釈明を目的とする下記事項。
訂正事項b-1
明細書の段落【0008】第3行目(特許公報第4欄第33行目)、段落【0010】第2行目(特許公報第4欄第44行目)及び並びに段落【0011】第2行目(特許公報第5欄第2行目)の記載について、「Mo:0.20〜0.40%」とあるのを、「Mo:0.20〜0.38%」と訂正する。
訂正事項b-2
明細書の段落【0015】(特許公報第5欄第26〜30行目)の記載について、
「Mo:0.20〜0.40%
Moは、高温強度を向上させる元素として0.20%以上を必要とするが、0.40%を超えると溶接性、靭性を損なうと共に経済的にも不利となるので、0.20〜0.40%の範囲で含有させるものとした。」とあるのを、
「Mo:0.20〜0.38%
Moは、高温強度を向上させる元素として0.20%以上を必要とするが、0.38%を超えると溶接性、靭性を損なうと共に経済的にも不利となるので、0.20〜0.38%の範囲で含有させるものとした。」と訂正する。
異議決定日 2001-05-15 
出願番号 特願平3-319273
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長者 義久  
特許庁審判長 三浦 悟
特許庁審判官 板谷 一弘
能美 知康
登録日 1999-06-25 
登録番号 特許第2944806号(P2944806)
権利者 川崎製鉄株式会社
発明の名称 母材靱性に優れる低降伏比耐火H形鋼及びその製造方法  
代理人 小川 順三  
代理人 中村 盛夫  
代理人 鶴田 準一  
代理人 小川 順三  
代理人 西山 雅也  
代理人 石田 敬  
代理人 亀松 宏  
代理人 中村 盛夫  
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