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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B 審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) C01B |
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管理番号 | 1046751 |
異議申立番号 | 異議2000-72276 |
総通号数 | 23 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-12-02 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-05-30 |
確定日 | 2001-05-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2990655号「複合炭化物粉末及びその製造方法」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2990655号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.本件の経緯 本件特許第2990655号は、平成8年5月21日に出願し、平成11年10月15日に設定登録され、同年12月13日に特許公報に掲載されたところ、平成12年5月30日に三菱マテリアル株式会社から特許異議の申立を受けたものであって、その後平成12年10月11日付で取消理由通知(平成12年10月27日発送)がなされ、その指定期間内である平成12年12月26日に訂正請求がなされたものである。 2.設定登録時の本件発明 設定登録時の本件発明は、本件特許公報に記載されたとおりの次のものである。 [請求項1]炭化タングステン微細一次結晶粒子からなる炭化タングステン粉末を主成分とし、この主成分に、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、及び炭化ジルコニウムの内の炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種を複合した複合炭化物粉末であって、前記炭化タングステン粉末のX線回折によるWC結晶の(211)(JCPDSカード25-1047、d=0.9020)の半価幅をY、FSSS法により測定した粒度測定値をXとした場合、Y>0.61-0.33log(X)の関係式を満たすことを特徴とする複合炭化物粉末。 [請求項2]請求項1記載の複合炭化物粉末において、前記粒度測定値Xが1.0μm以上であることを特徴とする複合炭化物粉末。 [請求項3]請求項1又は2記載の複合炭化物粉末において、前記炭化タングステン微粒一次結晶粒子は、炭化クロムを0.2〜2.5重量%の範囲内で含有することを特徴とする複合炭化物粉末。 [請求項4]請求項1又は2記載の複合炭化物粉末において、前記炭化タングステン微粒一次結晶粒子は、炭化クロムを0.2〜2.5重量%と、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、及び炭化ジルコニウムの内の少なくとも一種を0.1〜3.0重量%の範囲内で含有することを特徴とする複合炭化物粉末。 [請求項5]請求項1乃至3の内のいずれかに記載の複合炭化物粉末を製造する方法であって、原料粉末として1.0〜7.0μmの平均粒径を有するW粉末と、C粉末と、金属クロム、酸化クロム、クロムを含有する無機又は有機化合物、及び炭化クロムの内のいずれか一種とを、当該複合炭化物粉末においてクロムの含有量が炭化クロムに換算して0.2〜2.5重量%となるように、配合、混合し、次にこれらの混合粉末を水素雰囲気中、窒素又はアルゴンの不活性雰囲気中、及び真空中の内のいずれかの雰囲気で、所定の保持温度まで3〜100℃/分の加熱速度で昇温し、その後1200〜1700℃で10〜300分間保持し炭化を行う加熱によって、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子を得ることを特徴とする複合炭化物粉末の製造方法。 [請求項6]請求項1、2、及び4の内のいずれかに記載の複合炭化物粉末を製造する方法であって、原料粉末として1.0〜7.0μmの平均粒径を有するW粉末と、C粉末と、金属クロム、酸化クロム、クロムを含有する無機又は有機化合物、及び炭化クロムの内のいずれか一種と、バナジウムの酸化物、金属、及び炭化物のいずれかの粉末と、Ta、Mo、Nb、Zrの酸化物、金属、及び炭化物の内から選択された少なくとも1種の粉末とを、当該複合炭化物粉末中のクロムの含有量が炭化クロムに換算して0.2〜2.5重量%となるように、配合、混合し、次にこれらの混合粉末を水素雰囲気中、窒素又はアルゴンの不活性雰囲気中、及び真空中の内のいずれかの雰囲気中で、所定の保持温度まで3〜100℃/分の加熱速度で昇温し、その後1200〜1700℃で10〜300分間保持し炭化を行う加熱によって、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子を得ることを特徴とする複合炭化物粉末の製造方法。 3.特許異議申立人の主張 特許異議申立人三菱マテリアル株式会社は、甲第1〜2号証を提出して、次のような主旨の主張をしている。 「本件請求項1〜6に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。」 4.訂正の要旨 平成12年12月26日付の訂正請求における訂正の要旨は次のとおりである。 (a-1)特許請求の範囲の請求項1の「複合した複合炭化物粉末であって、前記炭化タングステン粉末の」を、「複合し、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成させることによって微細一次結晶粒子が生成した複合炭化物粉末であって、前記複合炭化物粉末中の炭化タングステン粉末の」と訂正する。 (a-2)特許請求の範囲の請求項1の「・・・炭化ジルコニウムの内の炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種」を、「・・・炭化ジルコニウムの内の前記炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種の炭化物」と訂正する。 (b)特許請求の範囲の請求項3および4の「炭化タングステン微粒一次結晶粒子」を、「炭化タングステン微細一次結晶粒子」と訂正する。 (c)特許請求の範囲の請求項5の「加熱によって、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子を得る」を、「加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得る」と訂正する。 (d)特許請求の範囲の請求項6の「加熱によって、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子を得る」を、「加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得る」と訂正する。 (e-1)本件明細書の[0011]段落の「複合した複合炭化物粉末であって、前記炭化タングステン粉末の」を、「複合し、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成させることによって、微細一次結晶粒子が生成した複合炭化物粉末であって、前記複合炭化物粉末中の炭化タングステン粉末の」と訂正する。 (e-2)本件明細書の[0011]段落の「・・・炭化ジルコニウムの内の炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種」を、「・・・炭化ジルコニウムの内の前記炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種の炭化物」と訂正する。 (f)本件明細書の[0013]段落および[0014]段落の「炭化タングステン微粒一次結晶粒子」を、「炭化タングステン微細一次結晶粒子」と訂正する。 (g)本件明細書の[0015]段落の「加熱によって、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子を得る」を、「加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得る」と訂正する。 (h)本件明細書の[0016]段落の「加熱によって、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子を得る」を、「加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得る」と訂正する。 5.訂正の適否についての検討 5-1.訂正の目的 上記(a-1)の訂正は、特許請求の範囲の請求項1における「炭化タングステン微細一次結晶粒子からなる炭化タングステン粉末を主成分とし、この主成分に、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、及び炭化ジルコニウムの内の炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種を複合した複合炭化物粉末」の「複合炭化物粉末」が、「炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成させることによって微細一次結晶粒子が生成した複合炭化物粉末」であることを規定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に相当する。 上記(a-2)の訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「・・・炭化ジルコニウムの内の炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種」を、「・・・炭化ジルコニウムの内の前記炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種の炭化物」とより明瞭に表現し直したものであるから、明瞭でない記載の釈明に当たる。 上記(b)の訂正は、請求項1を引用している特許請求の範囲の請求項3および4における「炭化タングステン微粒一次結晶粒子」を、請求項1の記載に合わせて、「炭化タングステン微細一次結晶粒子」と訂正するものであるから、誤記の訂正に相当する。 上記(c)および(d)の訂正は、特許請求の範囲の請求項5および6における「加熱によって、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子を得る」を、「加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得る」とより詳しく規定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に相当する。 上記(e-1)、(g)および(h)の訂正は、本件明細書の発明の詳細な説明中の特許請求の範囲の請求項1,5および6に対応する記載を、上記(a-1)、(c)および(d)の訂正に伴い、それに合わせて訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮に伴って生じた明瞭でない記載の釈明に当たる。 上記(e-2)の訂正は、上記(a-2)の訂正と同趣旨のものであるから、明瞭でない記載の釈明に当たる。 上記(f)の訂正は、上記(b)と同趣旨のものであるから、誤記の訂正に相当する。 5-2.新規事項 上記(a-1)、(c)、(d)、(e-1)、(g)および(h)の訂正は、本件明細書の[0010]〜[0016]、[0019]〜[0021]等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものである。 上記(b)および(f)の訂正は、誤記を訂正しただけのものであり、また、上記(a-2)および(e-2)の訂正は、表現をより明瞭にしただけものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。 5-3.拡張・変更 上記(a-1)、(a-2)、(b)、(c)、(d)、(e-1)、(e-2)、(f)、(g)、(h)の訂正は、その内容からみて、実質上特許請求の範囲を拡張したり、変更したりするものないことは明らかである。 5-4.訂正の認否 上記5-1、5-2および5-3の項で検討したように、上記訂正は、特許法第120条の4の第2項の第1号、第2号および第3号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同条第3項で準用する同法第126条第2項および第3項の規定に適合するものであるから、上記訂正は認める。 6.訂正後の本件発明 訂正後の本件発明は、上記訂正請求書に添付された全文訂正明細書に記載された次のものである。 [請求項1]炭化タングステン微細一次結晶粒子からなる炭化タングステン粉末を主成分とし、この主成分に炭化クロム、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、及び炭化ジルコニウムの内の前記炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種の炭化物を複合し、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成させることによって微細一次結晶粒子が生成した複合炭化物粉末であって、前記複合炭化物粉末中の炭化タングステン粉末のX線回折によるWC結晶の(211)(JCPDSカード25-1047、d=0.9020)の半価幅をY、FSSS法により測定した粒度測定値をXとした場合、Y>0.61-0.33log(X)の関係式を満たすことを特徴とする複合炭化物粉末。 [請求項2]請求項1記載の複合炭化物粉末において、前記粒度測定値Xが1.0μm以上であることを特徴とする複合炭化物粉末。 [請求項3]請求項1又は2記載の複合炭化物粉末において、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子は、炭化クロムを0.2〜2.5重量%の範囲内で含有することを特徴とする複合炭化物粉末。 [請求項4]請求項1又は2記載の複合炭化物粉末において、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子は、炭化クロムを0.2〜2.5重量%と、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、及び炭化ジルコニウムの内の少なくとも一種を0.1〜3.0重量%の範囲内で含有することを特徴とする複合炭化物粉末。 [請求項5]請求項1乃至3の内のいずれかに記載の複合炭化物粉末を製造する方法であって、原料粉末として1.0〜7.0μmの平均粒径を有するW粉末と、C粉末と、金属クロム、酸化クロム、クロムを含有する無機又は有機化合物、及び炭化クロムの内のいずれか一種とを、当該複合炭化物粉末においてクロムの含有量が炭化クロムに換算して0.2〜2.5重量%となるように、配合、混合し、次にこれらの混合粉末を水素雰囲気中、窒素又はアルゴンの不活性雰囲気中、及び真空中の内のいずれかの雰囲気で、所定の保持温度まで3〜100℃/分の加熱速度で昇温し、その後1200〜1700℃で10〜300分間保持し炭化を行う加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得ることを特徴とする複合炭化物粉末の製造方法。 [請求項6]請求項1、2、及び4の内のいずれかに記載の複合炭化物粉末を製造する方法であって、原料粉末として1.0〜7.0μmの平均粒径を有するW粉末と、C粉末と、金属クロム、酸化クロム、クロムを含有する無機又は有機化合物、及び炭化クロムの内のいずれか一種と、バナジウムの酸化物、金属、及び炭化物のいずれかの粉末と、Ta、Mo、Nb、Zrの酸化物、金属、及び炭化物の内から選択された少なくとも1種の粉末とを、当該複合炭化物粉末中のクロムの含有量が炭化クロムに換算して0.2〜2.5重量%となるように、配合、混合し、次にこれらの混合粉末を水素雰囲気中、窒素又はアルゴンの不活性雰囲気中、及び真空中の内のいずれかの雰囲気中で、所定の保持温度まで3〜100℃/分の加熱速度で昇温し、その後1200〜1700℃で10〜300分間保持し炭化を行う加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得ることを特徴とする複合炭化物粉末の製造方法。 7.特許異議申立人の主張についての検討 特許異議申立人は、本件請求項5及び6の製造方法が甲第1号証記載の製造方法と実質的に相違しないとし、これを前提として、本件請求項1〜4の複合炭化物粉末が甲第1号証に記載の複合炭化物粉末と実質的に相違しないと主張しているので、先ず、本件請求項5及び6に係る発明について検討する。 7-1.本件請求項5および6に係る発明について 甲第1号証(米国特許第3,480,410号明細書)には、WC-CrC-Co焼結複合物に関する発明が記載されており、その第1欄70行から第2欄13行には、「さらに、この発明は、上記の緻密な焼結体の製造に有用な炭化タングステン-炭化クロム粉末複合物の製造方法に関し、該方法は、0.2〜6.0ミクロン(好ましくは0.5ミクロンから1.5ミクロン、さらに好ましくは1.0ミクロンから1.5ミクロン)のフィッシャーサブシーブ粒子径を有する微細に分割されたタングステン粉末を、微細に分割されたクロム酸化物、または、900℃に加熱された時に分解して、微細に分割されたクロム酸化物となるクロム化合物の群から選択される材料(a)と、微細に分割されたカーボン粉末を混合する(1)の段階と、その混合物を、1450℃から1600℃の範囲の温度で加熱して、そこで、炭素がタングステンと反応して炭化タングステンが生成し、またクロム酸化物と反応して、およそ0.1から0.2ミクロンのコロイド的な粒径の炭化クロムが生成する(2)の段階からなる。」と記載されており、また、その第2欄34〜39行には、「この発明の特徴の一つは、炭化クロム粒子が、好ましくは、0.2ミクロンより小さい径の範囲にコントロールされていることである。これが、上述の最終複合物の靱性と硬さに重要な貢献をしていると考えられる。」と記載されている。 さらに、甲第1号証の第2欄41行から第3欄43行には、「最終製品を作り上げていくための各成分の取り扱い方法が、各成分の独特な結合に由来することが見出されている諸特性を達成するのに重要な要素の一つであると考えられる。また、成分の選択も重要である。この発明の方法で使用するタングステンは、平均的に0.2ミクロンから約6ミクロンの平均フィッシャーサブシーブ粒子径を有する市販の純粋なタングステンである。微細な粒状材料を製造することに関連して、0.2から1.5ミクロンのフィッシャーサブシーブ粒子径を有するタングステン、好ましくは、1.0から1.3ミクロンのタングステンを選択するのが最も良い。また、市販されていて入手可能な99.9%の純粋なタングステン粉末を選ぶのが好ましい。炭化タングステンに加えて、炭化チタン、炭化タンタル、炭化ニオブ、および炭化バナジウムを用いることも可能である。これらの炭化物は、既知の炭化物化合物の炭化タングステンへの添加物あるいは代替物として用いられてきた。これらの添加は、市販されていて入手可能な粉末として使用されるか、または、ここで発表する方法に従って製造される。その方法における炭化クロム源としては、クロム酸化物あるいは、約900℃で加熱された時に酸化クロムCr2O3に分解するクロム塩の溶液を含むクロム含有合成物として出発するのが好ましい。酸化クロムの粒子径は0.1から0.5ミクロンの粒径の範囲内であるべきである。この発明の複合物に普通用いられる炭化クロムの量は、好ましくは2.5%より少ない。だから、酸化クロムの相応の量が、この発明の生産物中に普通に用いられ、炭化クロムの含量は、0.1から2.5%の範囲である。上記のパーセントは重量パーセントである。 上述の成分の取り扱いにおいて、炭化クロムは現場で形成されるのが好ましい。これは、入手可能な市販の粉末よりもっと微細に分割された炭化クロムの反応生成物を得ることを可能にする。複合物における炭化タングステンの存在は、炭化クロムの粒成長を抑制すると考えられ、またこれは、炭化クロムは炭化タングステンの粒成長を抑制することにおける相互作用である。市販され入手可能な炭化クロムまたは金属クロム粉末は、普通1ミクロン以上の粒子径の範囲にあり、この粒子径の範囲は、この発明の複合物においては効果がないことが指摘されるかもしれない。だから、望ましい結果を達成するためには、炭化タングステン生成物の存在下で炭化クロムを生成することが最適であることが分かった。 タングステンとクロムの炭化物の製造方法に使用される炭素は、ランプブラック、カーボンブラックあるいはグラファイトが望ましく、これらの材料は、今日市販されている炭化タングステンやその他の金属炭化物の合成に普通使用されている。この発明の製造において使用される炭素の量は、タングステンをタングステンモノカーバイド(WC)に完全に変換し、また、酸化クロムを炭化クロムに変換するのに丁度充分であるように、好ましくは注意深く制御される。この方法を行うには、複合粉末、すなわち、タングステン、酸化クロムおよび炭素が、緊密に混ぜ合わされることが重要である。これは、湿式・乾式のボールミル、ミュラーミキシング、補助棒を用いたコーンブレンドのような既知の混合技術で達成され得る。混合時間は、粉末の凝集物が一様に崩壊するのに十分な長さであるべきである。最終粉末の最終特性は、混合物中の酸化クロムの完全な分散にかかっている。 粉末の反応物質が混合されたら、その混合物は、グラファイト容器に移され、水素のような非酸化雰囲気中で、または真空下で、その反応を完了させるのに充分な時間、より明確には30分程度、1450℃から1600℃の温度で焼成される。」と記載されており、また、その第3欄57〜64行には、「焼成反応の間に形成された粉末の化学組成は、タングステンモノカーバイド(WC)と炭化クロムであり、そのような粉末は大気中に出された時に、化学的に痕跡量の酸素を吸着するが、しかし、これらの汚染物を別として、その粉末は、極端に小さな相互に関連する粒子径であるということを除けば、実質上タングステンとクロムの炭化物である。」と記載されている。 そこで検討すると、甲第1号証には、緻密な(炭化タングステン-炭化クロム-コバルト)焼結体の製造に有用な炭化タングステン-炭化クロム粉末複合物の製造法に関して、原料粉末として0.2〜約6μmのタングステン粉末と、炭素(C)粉末と、炭化クロムが0.1〜2.5%になるような量のクロム原料を混合し、混合粉末を、水素のような非酸化性雰囲気中や真空下で1450〜1600℃で30分程度焼成することが記載されており、また、炭化タングステンに加えて、炭化チタン、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化バナジウムの使用も可能であることが示されているといえるものの、甲第1号証では、一貫して、焼成反応後の粉末複合物は、炭化タングステンと炭化クロムであるとしており、炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成させること意図していないことは、第2欄9〜14行の「そこで、炭素がタングステンと反応してWCが生成し、またクロム酸化物と反応して、およそ0.1から0.2ミクロンのコロイド的な粒径の炭化クロムが生成する(2)の段階」の記載や、第3欄57〜59行の「焼成反応の間に形成された粉末の化学組成は、タングステンモノカーバイド(WC)と炭化クロムであり」等の記載からみて明らかである。 また、甲第1号証には、その粉末複合物のX線回折によるWC結晶の半価幅について記載するところはないし、さらに、その粉末複合物を焼成する際の加熱速度に関する記載もない。 この加熱速度について、特許異議申立人三菱マテリアル株式会社は、特許異議申立書第10頁3〜11行で、「本件発明の請求項5,6の製造方法と甲第1号証記載の製造方法とを比較するに、前者の製造方法では炭化加熱温度への昇温速度を3〜100℃/分とするのに対して、後者ではこれの具体的記載がない点で形式上相違するが、例えば甲第2号証の第65頁の図1に、「炭化加熱温度への昇温速度を「10℃/分」とした記載がなされているように、本件発明の製造方法における3〜100℃/分の昇温速度は、通常の炭化加熱炉で一般に適用されている昇温速度にすぎないものであるから、本件発明の製造方法と甲第1号証記載の製造方法との間には構成上実質的相違は存在しない旨を主張している。 しかしながら、甲第2号証(「不二越技報」、Vol.27,No.3(1971)、p.63-80)には、「炭化焼結法に関する研究(第1報)」-(W-C-Co混合粉末の水素ふん(雰)囲気における炭化過程について)-と題した蜂須賀武治の研究報告が掲載されているが、その第64頁左欄下から4行から同頁右上欄4行に、「本報ではW-C-Co混合粉末からWC-Co系合金を製造する方法を検討するための基礎研究として、W-C-Co混合粉末の水素ふん囲気における炭化過程を追究し、コバルト含有量、炭素添加量およびタングステン粒度の影響を調べた結果について報告する。なお、本研究におけるW-C-Co混合粉末から直接WC-Co系合金を製造する方法を「炭化焼結法」と呼ぶこととする。」と記載されているように、それは、W-C-Co混合粉末から直接WC-Co系合金を製造する方法であって、炭化タングステン-炭化クロム粉末複合物を製造する甲第1号証に記載された発明とは製造する対象物が相違するものであるから、甲第1号証に記載された発明において、甲第2号証に記載されている昇温速度が採用されているとする理由は存在しない。 そして、本件明細書の表1および表2には、加熱速度(℃/分)が訂正後の本件請求項5および6でいう3〜100℃/分を外れる従来法の試料番号1および3がその条件を満たす本発明法の試料番号1〜13より、半価幅が小さく、WCの平均粒径が大きいことが示されているから、訂正後の本件請求項5および6でいう「所定の保持温度まで3〜100℃/分の加熱速度で昇温し」という事項は、製造された複合炭化物粉末の物性に影響を及ぼしていることは明らかである。 結局、甲第1号証には、訂正後の本件請求項5および6でいう「炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得る」という事項が記載されているとは認められないし、また、訂正後の本件請求項5および6で引用している請求項1でいうX線回折によるWC結晶の半価幅も示されていないし、さらに、甲第2号証を参酌しても、甲第1号証に記載された発明において、「所定の保持温度まで3〜100℃/分の加熱速度で昇温し」という条件が採用されているとする理由は存在しないから、訂正後の本件請求項5および6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であるとすることはできない。 7-2.本件請求項1〜4に係る発明について 甲第1号証については、上記7-1の項で既に検討したところであり、甲第1号証には、緻密な(炭化タングステン-炭化クロム-コバルト)焼結体の製造に有用な炭化タングステン-炭化クロム粉末複合物の製造法に関して、原料粉末として0.2〜約6μmのタングステン粉末と、炭素(C)粉末と、炭化クロムが0.1〜2.5%になるような量のクロム原料を混合し、混合粉末を、水素のような非酸化性雰囲気中や真空下で1450〜1600℃で30分程度焼成することが記載されており、また、炭化タングステンに加えて、炭化チタン、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化バナジウムの使用も可能であることが示されているものの、甲第1号証では、一貫して、焼成反応後の粉末複合物は、炭化タングステンと炭化クロムであるとしており、炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成させること意図していないことは明らかであり、また、甲第1号証には、その粉末複合物のX線回折によるWC結晶の半価幅やその粉末複合物を焼成する際の加熱速度に関する記載がないことは既に述べたところである。 そして、特許異議申立人三菱マテリアル株式会社は、特許異議申立書第10頁12〜22行で、本件発明の請求項1〜4の複合炭化物粉末と甲第1号証の複合炭化物粉末を比較すると、前者では、炭化タングステン粉末のX線回折による半価幅と粒度測定値の関係式が示されているのに対し、後者ではこれの記載がない点で同じく形式的上相違するが、上記の通り本件発明の製造法と甲第1号証記載の製造方法との間に構成上実質的相違が存在しない以上、これら両方法によって製造された複合炭化物粉末は相互に同じ特性をもったものになることは明らかであり、したがって上記甲第1号証記載の方法で製造された複合炭化物粉末の炭化タングステン粉末も本件発明の方法で製造された複合炭化物粉末の炭化タングステン粉末と同じX線回折による半価幅と粒度測定値の関係式を示すことは容易に理解されるところであるから、これら両者に実質的相違は存在しない旨を主張する。 しかし、上記7-1の項で述べたように、訂正後の本件請求項5および6に係る発明の複合炭化物粉末の製造方法は、甲第1号証に記載された発明の製造方法と同一であるとすることはできないから、このような論法はその前提において既に理由がない。 ところで、当審は、平成12年10月11日付取消理由通知において、本件各発明の、「炭化タングステン粉末のX線回折によるWC結晶の(211)(JCPDSカード25-1047、d=0.9020)の半価幅をY、FSSS法により測定した粒度測定値をXとした場合、Y>0.61-0.33log(X)の関係式を満たす」という規定の意義は不明であり、また、その規定と発明の効果の関係も不明であるということを指摘したが、平成12年12月26日付意見書を参照しても特許権者からは明確な回答がない。 そこで、当審において、この関係式(不等式)の意義について、考察してみると、要するにこの式は、半価幅Yを縦軸とし、log(X)を横軸として(Yはμm、Xは度)、本件明細書の表2の本発明法の試料番号1〜13および従来法の試料番号1〜4をプロットしてみて、本発明法の試料番号1〜13の分布と従来法の試料番号1〜4の分布を単に直線によって便宜的に分けただけのものであって、log(X)を用いたのは、横軸をコンパクトにするだけ、log(X)の一次関数(直線式)を用いたのは、直線の方が線を引き易いためだけ、0.61という定数および0.33という係数を用いたのは、本件明細書の表2の本発明法の試料番号1〜13および従来法の試料番号1〜4をプロットして、本発明法の試料番号1〜13の分布と従来法の試料番号1〜4の分布を直線によって適当に分ける際に自ら選んだ直線の定数および係数を示しただけのことであって、Y>0.61-0.33log(X)の関係式にはそれ以上の意味はないと解される。 なお、特許権者は、上記意見書第7頁28行から第8頁5行で、乙第1号証(B.D.CULLITY著、松浦源太郎訳、「X線回折要論」、昭和40年4月1日第4版、株式会社アクネ 発行、p.262-271)の第263頁の(3-13)式、すなわち、B=0.9λ/tcosθ、(但し、Bは半価幅、tは結晶の粒子の直径)という式を指摘して説明しているが、この式においては、半価幅Bと結晶の粒子の直径tは、反比例の関係にあるから、Y>0.61-0.33log(X)というlog(X)の一次関数(直線式)を採用したことに理論的な意味がないことは明らかである。 しかしながら、上記のY>0.61-0.33log(X)という式は、便宜的ではあるものの、本件明細書の表2の本発明法の試料番号1〜13の分布と従来法の試料番号1〜4の分布を一応簡明に分けている点では、技術的には一応の意味があるものと認められ、これに対して、甲第1号証には、炭化タングステン粉末のX線回折によるWC結晶の(211)(JCPDSカード25-1047、d=0.9020)の半価幅Y、FSSS法により測定した粒度測定値Xについて記載するところはなく、また、特許異議申立人三菱マテリアル株式会社は、甲第1号証に記載された方法によって製造された炭化タングステン-炭化クロム粉末複合物の炭化タングステン粉末のX線回折によるWC結晶の(211)(JCPDSカード25-1047、d=0.9020)の半価幅Y、FSSS法により測定した粒度測定値Xが、Y>0.61-0.33log(X)の関係式を満たすということを説明できていない。 してみると、甲第1号証には、訂正後の本件請求項1でいう「炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成させることによって微細一次結晶粒子が生成した」という事項が記載されているとは認められないし、また、甲第1号証に記載された炭化タングステン-炭化クロム粉末複合物の炭化タングステン粉末のX線回折によるWC結晶の(211)(JCPDSカード25-1047、d=0.9020)の半価幅をY、FSSS法により測定した粒度測定値をXとした場合、Y>0.61-0.33log(X)の関係式を満たすとは認められないから、訂正後の本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとすることはできないし、また、請求項1を引用している訂正後の本件請求項2〜4に係る発明も、甲第1号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。 8.むすび 訂正後の本件請求項1〜6に係る特許は、特許異議の申立の理由および証拠によっては、取り消すことができない。 また、他に訂正後の本件請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 複合炭化物粉末及びその製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 炭化タングステン微細一次結晶粒子からなる炭化タングステン粉末を主成分とし、この主成分に炭化クロム、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、及び炭化ジルコニウムの内の前記炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種の炭化物を複合し、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成させることによって微細一次結晶粒子が生成した複合炭化物粉末であって、前記複合炭化物粉末中の炭化タングステン粉末のX線回折によるWC結晶の(211)(JCPDSカード25-1047、d=0.9020)の半価幅をY、FSSS法により測定した粒度測定値をXとした場合、Y>0.61-0.33log(x)の関係式を満たすことを特徴とする複合炭化物粉末。 【請求項2】 請求項1記載の複合炭化物粉末において、前記粒度測定値Xが1.0μm以上であることを特徴とする複合炭化物粉末。 【請求項3】 請求項1又は2記載の複合炭化物粉末において、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子は、炭化クロムを0.2〜2.5重量%の範囲内で含有することを特徴とする複合炭化物粉末。 【請求項4】 請求項1又は2記載の複合炭化物粉末において、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子は、炭化クロムを0.2〜2.5重量%と、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、及び炭化ジルコニウムの内の少なくとも一種を0.1〜3.0重量%の範囲内で含有することを特徴とする複合炭化物粉末。 【請求項5】 請求項1乃至3の内のいずれかに記載の複合炭化物粉末を製造する方法であって、原料粉末として1.0〜7.0μmの平均粒径を有するW粉末と、C粉末と、金属クロム、酸化クロム、クロムを含有する無機又は有機化合物、及び炭化クロムの内のいずれか一種とを、当該複合炭化物粉末においてクロムの含有量が炭化クロムに換算して0.2〜2.5重量%となるように、配合、混合し、次にこれらの混合粉末を水素雰囲気中、窒素又はアルゴンの不活性雰囲気中、及び真空中の内のいずれかの雰囲気で、所定の保持温度まで3〜100℃/分の加熱速度で昇温し、その後1200〜1700℃で10〜300分間保持し炭化を行う加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得ることを特徴とする複合炭化物粉末の製造方法。 【請求項6】 請求項1、2、及び4の内のいずれかに記載の複合炭化物粉末を製造する方法であって、原料粉末として、1.0〜7.0μmの平均粒径を有するW粉末と、C粉末と、金属クロム、酸化クロム、クロムを含有する無機又は有機化合物、及び炭化クロムの内のいずれか一種と、バナジウムの酸化物、金属、及び炭化物のいずれかの粉末と、Ta、Mo、Nb、Zrの酸化物、金属、及び炭化物の内から選択された少なくとも1種の粉末とを、当該複合炭化物粉末中のクロムの含有量が炭化クロムに換算して0.2〜2.5重量%となるように、配合、混合し、次にこれらの混合粉末を水素雰囲気中、窒素又はアルゴンの不活性雰囲気中、及び真空中の内のいずれかの雰囲気中で、所定の保持温度まで3〜100℃/分の加熱速度で昇温し、その後1200〜1700℃で10〜300分間保持し炭化を行う加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得ることを特徴とする複合炭化物粉末の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 この発明は超硬合金の原料となる微細一次結晶粒子を有する粉末冶金用WC系複合炭化物粉末及びその製造方法とそれらの原料からなる、高硬度でかつ高強度を有するWC-Co基超硬合金に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 従来、たとえば特開平3-208811号公報(以下、従来技術1と呼ぶ)、特開平5-147916号公報(以下、従来技術2と呼ぶ)に記載されているごとく、0.5μm以下の平均粒径を有したWC粉末を原料とし、Vを0.1〜2重量%、Crを0.1〜2重量%、Taを0.2〜3重量%などの粒成長抑制剤、Co又はNiを5〜30%、WCおよび不可避不純物からなる組成で0.8μm以下のWC相の組織を有するWC-Co基超硬合金が、エンドミル、リーマ、各種の剪断刃などの切削工具用に製造されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】 近年、前述の切削および切断加工に対する自動化が強く要求され、これらの加工に用いられる工具は苛酷な条件下で使用される傾向にある。 【0004】 これら工具の特性を満足させるためには、微粒超硬合金が必要不可欠である。 【0005】 しかし、これらの微粒WC粉末は、1300℃以下の低い温度で炭化されたものが多いため、不安定で粒成長しやすく、超硬合金中のWC相の組織がW粉末の粒度分布に影響される。 【0006】 そのため粗大粒子を混在しやすく、これらが原因で超硬合金の強度を低下させる欠陥となり、これらの工具に求められる要求を満足するものではなかった。 【0007】 また、微粒超硬合金に用いる1μm以下のWC粉末を製造するには、同様に1μm以下の微粒タングステン粉末が必要で、1μm以上のタングステン粉末に比較して、非常に高価である。 【0008】 そのため微粒WC粉末は、コスト高になり微粒超硬合金は価格の面でも十分満足するものではなかった。 【0009】 そこで、本発明の技術的課題は、切削及び切断加工に使用される切削工具に用いることができる微粒超硬合金を安価でかつ容易に作製できる複合炭化物粉末及びその製造方法を提供することにある。 【0010】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、均一な組織を有するWC-Co基超硬合金を製造する研究を行った。その結果、原料粉末として1.0〜7.0μmの平均粒径を有するW粉末と、C粉末と、さらに金属クロム又は酸化クロム又はクロムを含有する無機或るいは有機化合物又は炭化クロムのいずれかと、さらに必要な場合、Vの酸化物又は金属又は炭化物粉末と、Ta、Mo、Nb、及びZrの内の1種又は2種以上の酸化物又は金属又は炭化物粉末とを配合、混合し、次にこれらの混合粉末を水素気流中又は窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気中又は真空中で3〜100℃/分の加熱速度で1200〜1700℃で10〜300分(望ましくは200分以下)保持して炭化を行い、WC粒子にCr、Ta、Mo、Nb、ZrそしてV等の拡散相を形成せしめた。その結果、炭化タングステン粉末のX線回折によるWC結晶の(211)(JCPDSカード25-1047、d=0.9020)の半価幅をY、FSSS法による測定粒度をXとした場合、Y>0.36-0.24log(x)である炭化タングステン微細一次結晶粒子からなる複合炭化物粉末が得られた。得られた複合炭化物粉末は、微粒の超硬合金を製造するにあたり、FSSS法による測定粒度の値が1μm以下の微細なWC粉末を使用することなく、より均一な粒径の微粒超硬合金の製造が可能になった。また、粗いWから炭化タングステン微細一次結晶粒子が得られることからコストが低減できた。以上から、本発明を為すに至ったものである。 【0011】 即ち、本発明によれば、炭化タングステン微細一次結晶粒子からなる炭化タングステン粉末を主成分とし、この主成分に炭化クロム、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、及び炭化ジルコニウムの内の前記炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種の炭化物を複合し、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成させることによって、微細一次結晶粒子が生成した複合炭化物粉末であって、前記複合炭化物粉末中の炭化タングステン粉末のX線回折によるWC結晶の(211)(JCPDSカード25-1047、d=0.9020)の半価幅をY、FSSS法により測定した粒度測定値をXとした場合、Y>0.61-0.33log(x)の関係式を満たすことを特徴徴とする複合炭化物粉末が得られる。 【0012】 また、本発明によれば、前記複合炭化物粉末において、前記粒度測定値Xが1.0μm以上であることを特徴とする複合炭化物粉末が得られる。 【0013】 また、本発明によれば、前記いずれかの複合炭化物粉末において、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子は、炭化クロムを0.2〜2.5重量%の範囲内で含有することを特徴とする複合炭化物粉末が得られる。 【0014】 また、本発明によれば、前記いずれかの複合炭化物粉末において、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子は、炭化クロムを0.2〜2.5重量%(望ましくは、0.4〜2.5重量%)と、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、及び炭化ジルコニウムの内の少なくとも一種を0.1〜3.0重量%の範囲内で含有することを特徴とする複合炭化物粉末が得られる。 【0015】 また、本発明によれば、前記いずれかの複合炭化物粉末を製造する方法であって、原料粉末として1.0〜7.0μmの平均粒径を有するW粉末と、C粉末と、金属クロム、酸化クロム、クロムを含有する無機又は有機化合物、及び炭化クロムの内のいずれか一種とを、当該複合炭化物粉末においてクロムの含有量が炭化クロムに換算して0.2〜2.5重量%となるように、配合、混合し、次にこれらの混合粉末を水素雰囲気中、窒素又はアルゴンの不活性雰囲気中、及び真空中の内のいずれかの雰囲気で、所定の保持温度まで3〜100℃/分の加熱速度で昇温し、その後1200〜1700℃で10〜300分間保持し炭化を行う加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得ることを特徴とする複合炭化物粉末の製造方法が得られる。 【0016】 また、本発明によれば、前記いずれかの複合炭化物粉末を製造する方法であって、原料粉末として、1.0〜7.0μmの平均粒径を有するW粉末と、C粉末と、金属クロム、酸化クロム、クロムを含有する無機又は有機化合物、及び炭化クロムの内のいずれか一種と、バナジウムの酸化物、金属、及び炭化物のいずれかの粉末と、Ta、Mo、Nb、Zrの酸化物、金属、及び炭化物の内から選択された少なくとも1種の粉末とを、当該複合炭化物粉末中のクロムの含有量が炭化クロムに換算して0.2〜2.5重量%となるように、配合、混合し、次にこれらの混合粉末を水素雰囲気中、窒素又はアルゴンの不活性雰囲気中、及び真空中の内のいずれかの雰囲気中で、所定の保持温度まで3〜100℃/分の加熱速度で昇温し、その後1200〜1700℃で10〜300分間保持し炭化を行う加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得ることを特徴とする複合炭化物粉末の製造方法が得られる。 【0017】 【0018】 次に、本発明における炭化タングステン微細一次結晶粒子の粒度、原料粉末の粒度、組成、及び各条件の限定理由について具体的に説明する。 【0019】 本発明において、原料W粉末の平均粒径を1.0〜7.0μmに限定したのは、原料W粉末の平均粒径が1.0μm未満になると微細すぎて、個々のW粒子内へのクロムの拡散が不均一になり、W粒子同士の合体焼結による異常成長を起こしやすいからであり7μmを越える場合は、W粒子中心部までクロムが拡散しないため不均一組織の超硬合金となることからである。 【0020】 また、本発明において、加熱速度を3℃/分以上、100℃/分以下と限定したのは、炭化タングステンに炭化クロムは固溶しないことが一般的に知られており、W粉末とC粉末の反応が速く起こる場合はW粒子内における微細一次WC粒子の生成が不十分になるため100℃/分以下とし、加熱速度が遅い場合はW粒子の成長が起こるため3℃/分以上とした。 【0021】 また、本発明において、炭化クロムの含有量を0.2重量%以上、2.5重量%以下と限定したのは、炭化クロムの含有量は多いほど微細一次WC粒子を生成しやすいが、2.5重量%を越えると超硬合金の結合相中への固溶限界を越えて、強度の低下を招く第三相が析出するため、脆くなるからであり、一方、0.2重量%よりも炭化クロムの含有量の少ない場合は微細一次WC粒子の生成が不十分となるからである。 【0022】 また、本発明において、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化モリブデン、炭化ニオブ、炭化ジルコニウムの含有量を0.1%以上と限定したのは、0.1%未満では超硬合金の焼結中におこる粒成を抑制してWC相を微細化する効果が期待出来ないからである。一方3.0%を越えると結合相中又はWC相への固溶限界を越えて、強度の低下を招く第三相が析出し靭性が低下するからである。 【0023】 さらに、本発明においてX線回折による半価幅とFSSS粒度について、炭化タングステン粉末のX線回折によるWC結晶の(211)(JCPDSカード25-1047、d=0.9020)の半価幅をY、FSSS法による測定粒度をXとした場合のYの値を、Y>0.61-0.33 log(x)と限定したのは、炭化タングステン粉末のX線回折によるWC結晶(211)(JCPDSカード25-1047、d=0.9020)の半価幅をY、FSSS法による測定粒度をXとした場合のYの値が、Y<0.61-0.33 log(x)場合、FSSS粒度に対する半価幅の値が小さく、そのため微粒で均一な粒径の超硬合金の製造が不可能になるからである。 【0024】 【発明の実施の形態】 次に、本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施の形態においては、炭化タングステン微細一次結晶粒子を形成せしめた粉末冶金用WC系複合炭化物粉末について説明する。 【0025】 下記表1に示す原料粉末としてのW粉末、C粉末、金属クロム又は酸化クロム又はクロムを含有する無機或るいは有機化合物、Ta、V、Mo、Nb、Zrの酸化物又は金属又は炭化物粉末を下記表1に示した組成に配合し、ヘンシェルミキサーで30分混合した。 【0026】 【表1】 【0027】 次に、同じく上記表1に示した条件で炭化を実施して下記表2に示した。特性のWC粉末を得た。これらのWC粉末に10重量%のCoの粉末と、焼結後の合金が健全な炭素含有量になるように過不足のW粉末又はC粉末をアトライターを用いて10時間湿式混合した。 【0028】 乾燥した混合粉末を1トン/cm2の圧力でプレス成形し、成形体を真空中で1400℃で1時間焼結し、引き続き焼結体を1350℃のAr中、1000気圧でHIP処理した。 【0029】 これらのHIP材について、走査型電子顕微鏡を用い、10000倍で組織観察した時のWC相の粒径及び抗折力、硬度について下記表2に示す。 【0030】 また、比較の為に、従来法によるWC粉末をW粉末、C粉末又は酸化クロム粉末を上記表1に示した組成に配合し、ヘンシェルミキサーで30分混合した。 【0031】 その後、本発明の実施の形態による方法と同様の方法で調整した従来法によって得られたこれらのHIP材の特性を下記表2に示す。 【0032】 【表2】 【0033】 上記表2に示される結果から、本発明の実施の形態による複合炭化物は、WC粒子にCr、V、Ta、Mo、Nb、Zrを拡散せしめ、微細一次WC結晶粒子を有することによって、炭化タングステン粉末のX線回折によるWC結晶の(211)(JCPDSカード25-1047、d=0.9020)の半価幅をY、FSSS法による測定粒度をXとした場合のYの値を、Y>0.61-0.33 log(x)の特性を具備するようになるのに対して、従来法の1〜4は微細一次WC結晶粒子を有することがなく、X線回折によるWC結晶の211面の半価幅が小さく、Y<0.61-0.33 log(x)になる。 【0034】 そのため、従来法の複合炭化物を用いた場合、超硬合金中のWC相の粒径が大きく硬度が低くなってしまう。 【0035】 上述のように、本発明の実施の形態による複合炭化物は、炭化タングステン粉末のX線回折によるWC結晶の(211)(JCPDSカード25-1047、d=0.9020)の半価幅をY、FSSS法による測定粒度をXとした場合、Y>0.61-0.33 log(x)を満たす特性を具備する事により、超硬合金において、均粒で、高硬度、高強度を有する超硬合金を提供する。 【0036】 【発明の効果】 以上説明したように、本発明によれば、均粒で、高硬度、高強度を有する超硬合金を安価でかつ容易に作製することができる複合炭化物粉末とその製造方法とを提供することができる。 |
訂正の要旨 |
特許第2990655号の明細書中、特許請求の範囲の減縮を目的として、 (a-1)特許請求の範囲の請求項1の「複合した複合炭化物粉末であって、前記炭化タングステン粉末の」を、「複合し、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成させることによって微細一次結晶粒子が生成した複合炭化物粉末であって、前記複合炭化物粉末中の炭化タングステン粉末の」と訂正し、 明りょうでない記載の釈明を目的として、 (a-2)特許請求の範囲の請求項1の「・・・炭化ジルコニウムの内の炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種」を、「・・・炭化ジルコニウムの内の前記炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種の炭化物」と訂正し、 誤記の訂正を目的として、 (b)特許請求の範囲の請求項3および4の「炭化タングステン微粒一次結晶粒子」を、「炭化タングステン微細一次結晶粒子」と訂正し、 特許請求の範囲の減縮を目的として、 (c)特許請求の範囲の請求項5の「加熱によって、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子を得る」を、「加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得る」と訂正し、 (d)特許請求の範囲の請求項6の「加熱によって、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子を得る」を、「加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得る」と訂正し、 明りょうでない記載の釈明を目的として、 (e-1)本件明細書の[0011]段落の「複合した複合炭化物粉末であって、前記炭化タングステン粉末の」を、「複合し、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成させることによって、微細一次結晶粒子が生成した複合炭化物粉末であって、前記複合炭化物粉末中の炭化タングステン粉末の」と訂正し、 (e-2)本件明細書の[0011]段落の「・・・炭化ジルコニウムの内の炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種」を、「・・・炭化ジルコニウムの内の前記炭化クロムを必須成分とする少なくとも一種の炭化物」と訂正し、 誤記の訂正を目的として、 (f)本件明細書の[0013]段落および[0014]段落の「炭化タングステン微粒一次結晶粒子」を、「炭化タングステン微細一次結晶粒子」と訂正する。 明りょうでない記載の釈明を目的として、 (g)本件明細書の[0015]段落の「加熱によって、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子を得る」を、「加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得る」と訂正し、 (h)本件明細書の[0016]段落の「加熱によって、前記炭化タングステン微細一次結晶粒子を得る」を、「加熱によって、前記炭化タングステン粉末の粒子内部にクロムを含む拡散相を形成せしめることによって前記炭化タングステン粒子内部に微細一次結晶粒子を得る」と訂正する。 |
異議決定日 | 2001-05-10 |
出願番号 | 特願平8-125537 |
審決分類 |
P
1
651・
832-
YA
(C01B)
P 1 651・ 113- YA (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 安齋 美佐子 |
特許庁審判長 |
加藤 孔一 |
特許庁審判官 |
唐戸 光雄 野田 直人 |
登録日 | 1999-10-15 |
登録番号 | 特許第2990655号(P2990655) |
権利者 | 株式会社アライドマテリアル |
発明の名称 | 複合炭化物粉末及びその製造方法 |
代理人 | 後藤 洋介 |
代理人 | 池田 憲保 |
代理人 | 富田 和夫 |
代理人 | 後藤 洋介 |
代理人 | 池田 憲保 |
代理人 | 鴨井 久太郎 |