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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1046760
異議申立番号 異議2000-70543  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-11-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-02-09 
確定日 2001-06-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2932297号「強誘電体磁器組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2932297号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.本件特許発明
本件特許第2932297号は、平成2年3月2日に特許出願され、平成11年5月28日にその特許の設定登録がなされ、特許異議の申立てがあり、その後、取消理由が通知されたところ、その指定期間内に訂正請求がなされた後、平成13年5月24日付けの手続補正書で補正されたものである。
2.訂正の可否についての判断
(1)補正の適否
補正の内容は、訂正請求書では「焦電素子に用いる」と訂正すると記載しているのに、全文訂正明細書では「焦電素子に用いる用」と記載した箇所が存在し、両者の内容が一致していないところを「焦電素子に用いる」と一致するように補正するものであるから、この補正は訂正の要旨を変更するものではなく、特許法第120条の4第3項で準用する特許法第131条第2項の規定に適合する。
(2)訂正請求の内容
a,特許請求の範囲の請求項1における「・・・基本成分とする強誘電体磁器組成物であって・・・」を「・・・基本成分とする焦電素子に用いる強誘電体磁器組成物であって・・・」と訂正し、「・・・特徴とする強誘電体磁器組成物。」を「・・・特徴とする焦電素子に用いる強誘電体磁器組成物。」と訂正する。
b、本件明細書第1頁17〜20行(本件特許公報第1頁第1欄15行〜第2欄2行)の「強誘電体磁器組成物に関し、さらに詳しくは、焦電素子、セラミックフィルタ、セラミック共振子などに用いる」を「焦電素子に用いる」と訂正する。
c、本件明細書第5頁4〜6行(本件特許公報第2頁第3欄45〜47行)の「焦電素子、セラミックフィルタ、セラミック共振子などの圧電素子」を「焦電素子」と訂正する。
d、本件明細書第5頁9〜10行(本件特許公報第2頁第3欄50行〜第4欄1行)、本件明細書第5頁12行(本件特許公報第2頁第4欄2〜3行)の「強誘電体磁器組成物」を「焦電素子に用いる強誘電体磁器組成物」と訂正する。
e,本件明細書第14頁5〜6行(本件特許公報第5頁第10欄1〜2行)の「焦電素子、セラミックフィルタ、セラミック共振子など」を「焦電素子」と訂正する。
(3)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正aは、強誘電体磁器組成物の用途を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正b〜eは、上記訂正aで特許請求の範囲における強誘電体磁器組成物の用途を限定したことに伴い、発明の詳細な説明の記載を整合させようとするものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記訂正a〜eが、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する平成6年改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の規定に適合するので、当該訂正請求を認める。
3.特許異議の申立てについての判断
(1)訂正後の請求項1に係る発明
訂正後の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明」という。)は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「請求項1 チタン酸鉛、チタン酸カルシウム及びチタン酸アンチモンを基本成分とする焦電素子に用いる強誘電体磁器組成物であって、基本組成が化学式、
(1-x-y)PbTiO3-xCaTiO3-ySb2/3TiO3 但しxは1.0〜35mol%、yは1.0〜30mol%、で表わされ、上記化学式のTiは、Mnで0.5〜5mol%置換され、Sb2/3の添加量y(%)は、Mnの添加量m(%)の2倍以上であることを特徴とする焦電素子に用いる強誘電体磁器組成物。」
(2)特許異議申立人・株式会社村田製作所の主張
特許異議申立人は、甲第1号証(特開昭57-101498号公報)を提出して、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に成しえたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、と主張する。
(3)検討・判断
(i)、甲第1号証の記載内容
甲第1号証には、「Pb1-xCaxTi1-y(Mn1/3Sb2/3)yO3で表され、x、yの値がkt/kp≧13[ただしktは厚み縦振動の電気機械結合係数、kpは径方向振動の電気機械結合係数]なる領域にあることを特徴とする圧電性磁器。」(特許請求の範囲)、に関する発明が記載され、発明の詳細な説明には、「通常圧電磁器材料としては電気機械結合係数の大きいジルコン・チタン酸鉛系圧電磁器板が用いられている。しかしこの材料では厚み縦振動の電気機械結合係数ktと径方向振動の電気機械結合係数kpとが同程度の大きさを有するために、厚み縦振動子は厚み縦振動と同時に圧電横効果による多数の強勢な振動も励振されることになる。例えば超音波イメージング用トランスデューサでは指向性副極の小さいことが望まれるが、・・・指向性副極が厚み縦振動以外の周波数で大きくなる欠点があった。この欠点を除去する方法として圧電板に面と垂直方向に多数の深い切り込みを入れる方法が提案されている・・・しかし振動子に切り込みを入れることは・・・生産工程が複雑・・・振動子を取り扱う工程で破損する危険率が高い。・・・また、超音波診断装置用トランスデューサでも圧電横効果振動の共振周波数が使用する厚み縦振動の共振周波数に接近しないように寸法形状を選ばねばならず、・・・その他の用途に対しても同様の理由により厚み縦振動子の寸法形状は大きな制約を受けている。・・・これに対して、チタン酸鉛系圧電磁器材料は・・・kt/kpの値が13程度になるものも報告されている。このような材料を用いれば厚み縦振動子に対する寸法形状への制約がかなり緩和されるが、まだ充分とは言えない。・・・本発明の目的はkt/kpの値をできるだけ大きくすることにあり、圧電横効果の影響を避けるための寸法形状的制約を受けない厚み縦振動子用圧電磁器材料を提供することにある。」(第1頁下左欄下4行〜第2頁上右欄4行)と記載され、実施例には、「本発明の材料を得る出発原料は酸化鉛(PbO)、酸化チタン(TiO2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸マンガン(MnCO3)、酸化アンチモン(Sb2O3)の各粉末を用いた。」(第2頁上右欄下2行〜下左欄2行)と記載され、また、第3頁の第2図にはkt/kp≧13になるようなCaおよび(Mn1/3Sb2/3)の置換量を示したものが記載され、xが約0.05〜0.30、yが約0.02〜0.17の範囲を採り得ることが示されている。
(ii)、対比・判断
そこで、本件訂正発明と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
まず、両者の組成について検討すると、甲第1号証に記載の発明における一般式中のx及びyは、甲第1号証に記載された第3図の記載からみて、xが0.2、yが0.04である場合及びその近傍の組合せを採り得ることは明らかであり、この場合の上記一般式は、Pb0.8Ca0.2Ti0.96(Mn1/3Sb2/3)0.04O3であり、これは、本件訂正発明における化学式中のxが20mol%、yが4mol%、TiはMnで約1.3mol%(4mol%の1/3)置換され、Sbの添加量はMnの添加量の3倍となる。してみると、両者の組成は、Sbが、本件訂正発明ではチタン酸塩として表され、甲第1号証ではTiに置換したものとして表されている点を除いて一致しており、また、そのSbは本件訂正明細書及び甲第1号証では原料として酸化アンチモンを使用し、同様の製法で強誘電体磁器組成物を得ているから、表現上は相違していても実質的に区別できない組成であるというべきである。 結局、両者は、強誘電体磁器組成物の用途として、本件訂正発明では焦電素子に用いることを特定しているのに対して、甲第1号証では圧電性材料に使用するものである点で相違している。
上記相違点について検討すると、本件訂正発明は、上記一般式で表わされるチタン酸鉛系組成物を使用することにより、強誘電体磁器材料一般の特性としてキュリー点、焼結性等が優れているばかりでなく、「Sb2/3の添加量y(%)は、Mnの添加量m(%)の2倍以上である」の特定により、本件訂正明細書の実施例及び比較例33等の記載に示されているように、優れた焦電特性を発揮できるものである。
これに対して、甲第1号証には、上記組成により、圧電横効果の影響を避けるための寸法形状的制約を受けない厚み縦振動子用圧電磁器材料を提供することを目的としたものであって、焦電特性については何ら記載されていないし、焦電素子の技術分野で、アンチモンをマンガンに対して上記割合で含有させると、強誘電体磁器材料の焦電特性が向上することは知られていないから、甲第1号証の記載をみても、その強誘電体磁器組成物が焦電特性が良好であることは当業者が容易に理解できたものではない。
結局、甲第1号証に記載された強誘電体磁器組成物を焦電素子に用いることは、当業者が容易に想到し得るものではなく、本件訂正発明が甲第1号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことができない。
また、請求項1に係る特許について、他に取消理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
強誘電体磁器組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 チタン酸鉛,チタン酸カルシウム及びチタン酸アンチモンを基本成分とする焦電素子に用いる強誘電体磁器組成物であって、
基本組成が化学式、
(1-x-y)PbTiO3-xCaTiO3-ySb2/3TiO3
但しxは1.0〜35mol%,yは1.0〜30mol%,で表わされ、
上記化学式のTiは、Mnで0.5〜5mol%置換され、
Sb2/3の添加量y(%)は、Mnの添加量m(%)の2倍以上であることを特徴とする焦電素子に用いる強誘電体磁器組成物。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、チタン酸鉛,チタン酸カルシウム,チタン酸アンチモンを基本構成成分とする焦電素子に用いる強誘電体磁器組成物に関するものである。
〔従来の技術〕
近年、圧電素子は、例えばセラミックフィルタ,セラミック共振子,焦電素子,弾性表面波素子など広い分野で利用されており、その用途はますます拡大している。
このような用途拡大に伴って圧電素子に要求される特性も多岐にわたり、しかも要求される特性はますます厳しくなっており、さらに優れた特性を有する圧電材料の開発が望まれている。
圧電素子として、例えば、硫酸グリシン,ニオブ酸リチウム,タンタル酸リチウムなどの単結晶や、チタン酸ジルコン酸鉛,チタン酸鉛系磁器材料が知られている。
焦電素子としては、温度変化に対応する自発分極の変化が大きい程、焦電係数(dPs/dT)が大きく、比誘電率が小さい程優れたものであって、キュリー点Tcの高い安定なものが安価に提供されることが、実用上望ましい。
高周波フィルタ用圧電素子としては、誘電率,tanδが小さく、共振周波数の温度係数の小さい材料が望ましい。
〔発明が解決しようとする課題〕
ところが、硫酸グリシンは水溶性の結晶であるため、温度に弱くもろく加工がむずかしいうえ、キュリー点が49℃と著しく低いため、焦電素子としても高周波フィルタ用圧電素子としても使用温度範囲が著しく限定され、好ましくない。
ニオブ酸リチウムは加工性は良好であるが焦電係数が小さく高価であり、タンタル酸リチウムは加工性は良く焦電係数も比較的大きく、切断方位により零温度係数を持ち、圧電素子としても優れているが、何分単結晶のため高価で工業上の利用に不利である。
チタン酸ジルコン酸鉛系磁器は加工性が良く、焦電係数も組成により大きいものを選ぶことができ、圧電材料としてその特性を組成により制御できることから、この材料系の開発が積極的に行われてきた。
このチタン酸ジルコン酸鉛系材料はPb(Zr/Ti)O3を主体としたものであって、さらにMn,Cr,Nb,Co,Feなどの金属酸化物を添加するか、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3などの複合酸化物を固溶させるなどの改良が圧電材料分野において広く行われている。
しかしながら、このようなチタン酸ジルコン酸鉛系磁器では一般に温度特性の良い組成では、誘電率は500〜1200程度と高く、焦電材料や高周波圧電材料としては適していない。そのため、誘電率の小さい材料が検討されているが、実効的誘電率を350より小さくすることは困難である。
さらにチタン酸鉛系磁器は、焦電係数が大きく比誘電率も比較的小さいが、これは焼結しにくく、鉛が焼成中蒸発して均一な組成で安定した圧電特性を持つ磁器が得られ難い欠点がある。しかもこの磁器は分極にかなり高電圧が必要である。一方これらの欠点を改善するために希土類、その他金属酸化物を同時添加又は置換したチタン酸鉛系磁器が知られている。この材料は誘電率が150〜300程度とジルコンチタン酸鉛に比べて低く、圧電特性も良好であるが、焼結性にやや難点があり、大型磁器が得られにくいことや、分極条件が厳しいため、工業化における歩留りを高めにくいなどの欠点があり、高価な希土類の添加物を用いるなど商品化に難点がある。
本発明の目的はこのような問題点を解決し、焦電素子に有用な強誘電体磁器組成物を提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕
上記目的を達成するため、本発明による焦電素子に用いる強誘電体磁器組成物においては、チタン酸鉛,チタン酸カルシウム及びチタン酸アンチモンを基本成分とする焦電素子に用いる強誘電体磁器組成物であって、基本組成が化学式、(1-x-y)PbTiO3-xCaTiO3-ySb2/3TiO3但しxは1.0〜35mol%,yは1.0〜30mol%,で表わされ、上記化学式のTiは、Mnで0.5〜5mol%置換され、Sb2/3の添加量y(%)は、Mnの添加量m(%)の2倍以上である。
〔作用〕
発明者らは焦電素子として優れた素子を提供すべく鋭意研究を重ねた結果、チタン酸鉛,チタン酸カルシウム,チタン酸アンチモンを基本成分とする特定の組成物からなり、かつTiがMnにより特定の割合で置換されたものが、誘電特性,圧電特性,焦電特性及びその温度特性に優れており、その上良好な焼結性を有し、かつ分極条件が穏かであることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
本発明の強誘電体磁器組成物は、基本組成が、化学式:(1-x-y)PbTiO3-xCaTiO3-ySb2/3TiO3で表わされるチタン酸鉛,チタン酸カルシウム,チタン酸アンチモンを基本構成成分とする組成物からなるもので、この組成物のチタン酸カルシウムの含有割合については上記化学式のxが1.0〜35mol%の範囲であることが必要である。このxの値が1.0mol%未満であると圧電特性とその温度特性とがともに劣化し焦電係数も小さく、焦電素子としても不適合である。また35mol%を超えると誘電率が300を超え、焦電用としても高周波用としても適さなくなる。一方、チタン酸アンチモンの含有割合は、yが1.0〜30mol%の範囲であることが必要である。
このyの値が1.0mol%未満では該磁器の焼結性が劣り、素体の変形が著しいし、また30mol%を超えると粒界に異相が析出し、圧電特性が劣化し、焦電材料として使用できない。
また本発明の磁器組成物においては、上記化学式におけるTiがMnで0.5〜5mol%置換されることが必要である。この割合が、0.5mol%未満では分極中絶縁破壊を起こしやすく、製造上好ましくない傾向を示し、また5mol%を超えると焼結性が悪くなり、かつ電気的特性が著しく減少して分極不能となり焦電素子として、あるいは圧電素子としては使用できない。
本発明の磁器は次に示すような通常の窯業的手法によって容易に製造することができる。
例えばPbO,TiO2,CaCO3,Sb2O3,MnO2又は焼成により酸化物に変換し得る、それぞれに対応する水酸化物,炭酸塩,蓚酸塩,硝酸塩などを出発原料として、これら原料粉末を所定の割合で配合し、ボールミルなどを用いて十分混合し、この混合物を700〜900℃の温度範囲で仮焼し、さらにボールミルなどにより粉砕する。次いで、このようにして得られた仮焼粉末に水又はポリビニールアルコールなどのバインダーを少量添加して0.5〜2ton/cm2の圧力で加圧成形した後、この成形体を1150℃〜1250℃の温度範囲で2〜4時間焼成することにより本発明の磁器が得られる。
本発明による磁器は、通常の空気中の焼成においても緻密なものが得られるが、酸素雰囲気焼成やホットプレス法,熱間静水圧プレス法などを用いることにより一層緻密なものが得られる。
本発明の磁器における組成図を第1図に示す。
第1図は、Pb(Ti1-mMnm)O3,Ca(Ti1-mMnm)O3,Sb2/3(Ti1-mMnm)O3を頂点とする三角座標で示されたものであり、MnはMnO2で0.5〜5mol%である。
本発明の強誘電体磁器組成物は広い領域にわたって、誘電率(▲εT33▼)は100〜260,電気機械結合係数(kt)は35〜50%と高い値を示し、焦電素子や高周波用フィルタ素子として圧電特性,誘電特性,焦電特性を維持しながら広い組成範囲にわたって焼結性が良く、かつ緻密で、大型の磁器が容易に得られ、分極処理が80〜120℃,40KV/cm〜60KV/cmと容易であること、希土類元素は使用しないため比較的安価であることなどの点から極めて工業的価値の高いものである。
〔実施例〕
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
化学式:(1-x-y)Pb(Ti1-mMnm)O3-xCa(Ti1-mMnm)-ySb2/3(Ti1-mMnm)O3におけるx,y,mの値を変化させ、それぞれの組成の試料No.1〜No.30における圧電磁器の諸特性を第1表に示す。
なお、圧電磁器の各特性を次の方法で求めた。
(1)誘電特性および圧電特性直径20mm,厚さ1mmの円板磁器を作成し、この円板磁器の両面にAg電極を焼付け80〜120℃,40〜60KV/cmの条件で分極処理を行い、24時間放置後1KHzで誘電率(▲εT33▼),tanδを測定し、また、IREの標準回路の方法に従って厚み方向の電気機械結合係数を求めた。また共振周波数の温度係数frTcも求めた。
(2)焦電特性直径20mm,厚み1mmの磁器円板を作成し(1)の方法で分極処理を施した後、焦電特性の測定を行った。
〔比較例〕
出発原料としてPbO,TiO2,Sb2O3,CaCO3,MnO2の各粉末を用い、これらの粉末を所定の割合で配合し、この混合物を900℃で2時間仮焼して得られた仮焼物を、ボールミルで粉砕した。次いで、バインダーとポリビニールアルコールを少量添加し、2ton/cm2の圧力で加圧成形した後、この成形体を1150℃〜1220℃の温度で3時間焼成して圧電磁器を作成した。このようにして得られた圧電磁器の各性能を組成とともに第2表に示す。
誘電率(▲εT33▼)は、小さい方が焦電素子の感度が向上する。高周波フィルタとしても小さい方がインピーダンスのマッチングがとれ易くフィルター特性が良くなる。第1表により、本発明によれば100〜260の範囲の値が得られている。誘電損失(tanδ)は、小さい方がよい。焦電素子としても小さい方がノイズが少ない。高周波フィルタとしても、伝送特性が改善される。本発明では0.5〜1.9%以下の値が得られている。
キュリー点(Tc)は、強誘電特性が消失する温度で、なるべく高い方が、焦電特性,フィルタ特性共に安定である。本発明では、200℃以上の値が得られている。結合係数(kt)は、大きい方が良い。焦電素子では、感度が向上し、フィルタでは帯域幅が大きくなりフィルタの設計が楽になる。本発明によれば35%〜50%である。
焦電係数(dPs/dT)は、大きい程焦電素子の感度は向上する。本発明によれば、4.0×10-8coul/cm2K以上である。
共振周波数の温度係数(frTc)は、小さい程フィルタの伝送特性が安定で温度変化に対して中心周波数がずれない。本発明によれば±50ppm/℃以下である。なお、第2表における比較例としての試料No.31はxが1.0mol%未満のものであり、焦電係数が小さい。試料No.32はxが35mol%を超えるものであり、焦電係数が小さく誘電率も300をはるかに超え、焦電用,高周波用いずれも適さない。
試料No.33はyが1.0mol%未満のもので焼結性が劣り素体の変形が著しい。試料No.34はyが30mol%を超えるもので粒界に異相が析出して圧電特性が著しく劣化する。
試料No.35は、Mnが0.5mol%未満のものであり、分極中素体が割れ易く絶縁破壊を起こし易い。No.36は、Mnが5mol%を超えるもので、素体の電気抵抗が低くなり分極中に電流が流れすぎて分極が困難であった。なお、Sb2/3の添加量y(%)が1.0mol%未満のものでは焼結性に劣り、素体の変形が著しい。Sb2/3の添加量y(%)は、Mnの添加量m(%)の2倍以上添加しなければ、低レベルの電気的特性しか得ることができない。


〔発明の効果〕
以上のように本発明によれば、広い領域にわたって誘電率,電気機械結合係数が高く、圧電特性,誘電特性,焦電特性を維持しながら広い組成範囲にわたって焼結性に優れ、誘電率、誘電損失、キュリー点、結合係数、焦電係数、共振周波数の温度係数は、共に規格値を満足し、焦電素子の磁器材料に用いて優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の磁器における組成図である。
 
訂正の要旨 特許第2932297号の明細書中、特許請求の範囲の減縮を目的として、
a,特許請求の範囲の請求項1における「・・・基本成分とする強誘電体磁器組成物であって・・・」を「・・・基本成分とする焦電素子に用いる強誘電体磁器組成物であって・・・」と訂正し、「・・・特徴とする強誘電体磁器組成物。」を「・・・特徴とする焦電素子に用いる強誘電体磁器組成物。」と訂正し、
明りょうでない記載の釈明を目的として、
b、本件明細書第1頁17〜20行(本件特許公報第1頁第1欄15行〜第2欄2行)の「強誘電体磁器組成物に関し、さらに詳しくは、焦電素子、セラミックフィルタ、セラミック共振子などに用いる」を「焦電素子に用いる」と訂正し、
c、本件明細書第5頁4〜6行(本件特許公報第2頁第3欄45〜47行)の「焦電素子、セラミックフィルタ、セラミック共振子などの圧電素子」を「焦電素子」と訂正し、
d、本件明細書第5頁9〜10行(本件特許公報第2頁第3欄50行〜第4欄1行)、本件明細書第5頁12行(本件特許公報第2頁第4欄2〜3行)の「強誘電体磁器組成物」を「焦電素子に用いる強誘電体磁器組成物と訂正し、
e,本件明細書第14頁5〜6行(本件特許公報第5頁第10欄1〜2行)の「焦電素子、セラミックフィルタ、セラミック共振子など」を「焦電素子」と訂正する。
異議決定日 2001-05-28 
出願番号 特願平2-51413
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三崎 仁八原 由美子  
特許庁審判長 加藤 孔一
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
登録日 1999-05-28 
登録番号 特許第2932297号(P2932297)
権利者 北陸電気工業株式会社
発明の名称 強誘電体磁器組成物  
代理人 西浦 ▲嗣▼晴  
代理人 西浦 ▲嗣▼晴  

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