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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C07D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07D
審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  C07D
管理番号 1048324
異議申立番号 異議1999-70188  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-04-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-01-22 
確定日 2000-12-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2779955号「エチレンオキシドを製造する方法」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2779955号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2779955号発明は、平成1年7月24日に特許出願(優先権主張1988年7月25日(2件)、米国)され、平成10年5月15日にその特許権の設定登録がなされ、その後、藤上絢子より特許異議の申し立てがなされ、当審により取り消し理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年8月9日に訂正請求(後日取下げ)がなされた後、再度の取り消し理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年11月15日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のaのとおりである。
a.特許請求の範囲の請求項1
「アルミナ上に担持された銀からなる触媒であってアルカリ金属及びレニウムによって促進された触媒の固定床にエチレン、酸素及びクロロ炭化水素調節剤からなるガスを通すことによりエチレンオキシドを製造する方法において、正常な操作状態下で、触媒に通すガス中のクロロ炭化水素調節剤の濃度を触媒の操作中増大させる、ことを特徴とする上記方法。」を
「アルミナ上に担持された銀からなる触媒であってアルカリ金属及びレニウムによって促進された触媒の固定床にエチレン、酸素及びクロロ炭化水素調節剤からなるガスを通すことによりエチレンオキシドを製造する方法において、触媒に通すガス中のクロロ炭化水素調節剤の濃度を触媒の操作期間にわたって増大させる、ことを特徴とする上記方法。」と訂正する。
イ.訂正の適否、新規事項の有無及び拡張・ 変更の存否
上記の訂正事項aは、不明りょうな記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記の訂正事項は、特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
4.特許異議の申立てについての判断
ア.本件発明
訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は上記2aに記載のとおりのものであり、請求項2ないし12は以下に記載のとおりのものである。
「(2)調節剤の平均増大速度が1ケ月当たり少なくとも0.5パーセントである、請求項1記載の方法。
(3)調節剤の平均増大速度が1ケ月当たり少なくとも5パーセントである、請求項1記載の方法。
(4)エチレンオキシドに対する最大の選択性をもたらすのに充分なクロロ炭化水素調節剤のレベルで操作の最初の期間中操作し、そしてその後の操作上の問題を起こすのに充分な程触媒の活性が低下した後は操作の第2期間においてクロロ炭化水素調節剤のレベルをエチレンオキシドに対する触媒の選択性の有意的低下及び触媒の活性の相当する増大を起こすのに充分な量だけ増大させる、請求項1記載の方法。
(5)操作の第2期間中調節剤のレベルを、エチレンオキシドに対する選択性が少なくとも0.5パーセント低下するのに充分な程度増大させる、請求項4記載の方法。
(6)操作の第2期間中調節剤のレベルを、エチレンオキシドに対する選択性が少なくとも2.0パーセント低下するのに充分な程度増大させる、請求項4記載の方法。
(7)触媒が更にサルフェート助促進剤により促進されている、請求項1〜6記載のいずれか一つの項記載の方法。
(8)触媒が、アルファ-アルミナ上に担持された銀からなりかつセシウム及びレニウムにより促進されている、請求項1記載の方法。
(9)触媒が、アルファ-アルミナ上に担持された銀からなりかつセシウム、リチウム及びレニウムにより促進されている、請求項8記載の方法。
(10)調節剤がC1〜C8クロロ炭化水素である、請求項1〜9のいずれか一つの項記載の方法。
(11)調節剤がC1又はC2のクロロ炭化水素である、請求項10記載の方法。
(12)調節剤がメチルクロライド、エチルクロライド、エチレンジクロライド、ビニルクロライド又はそれらの混合物である、請求項11記載の方法。」
イ.申立ての理由の概要
特許異議申立人藤上絢子は、甲第1号証(特開昭63-126552号公報)及び甲第2号証(特開昭52-151690号公報)を提出し、訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜12に係る発明は、上記甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また本件特許明細書はその記載に不備があるため、本件特許は特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満足していない出願に対してなされたものであるから、訂正前の請求項1〜12に係る発明の特許は、特許法第113条第1項第2号又は4号の規定に該当し、取り消されるべきものであると主張する。
ウ.甲号各証に記載された発明
甲第1号証には、銀とアルカリ金属促進剤及びレニウム促進剤が支持体に担持された触媒を使用してエチレンと酸素からエチレンオキシドを製造する方法が記載されており、その好適な支持体はアルファ-アルミナであり、さらにこの酸化反応の触媒作用を調節するための緩和剤、例えば塩化ビニル等の存在下で反応を実施することが記載され、また実施例1中に「全試験期間(始動を含む)に触媒床を通過したガス混合物(1回通過の操作)は、30%のエチレンと8.5%の酸素と7%の二酸化炭素と54.5%の窒素と4.4〜5.6ppmvの塩化ビニルとで構成された。」(同号証第17頁左上 欄第16行〜20行)ことが記載されており、甲第2号証には、アルミナ支持体上に銀及びアルカリ金属促進剤を担持した触媒に、エチレン、酸素及び塩素化アルケンなどの反応調節剤を含有するプロセスガスを流通させて、エチレンオキシドを製造する方法が記載され、反応調節剤の濃度及び種類を変えて試験した結果が示されている(同号証第10頁、第6表)。
エ.判断
(特許法第29条第2項について)
本件請求項1に記載された発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、前者においては触媒に通すガス中のクロロ炭化水素調節剤の濃度を触媒の操作期間にわたって増大させるのに対して、後者においては一定の反応条件下で混合ガス中の緩和剤の量が4.4〜5.6ppmvという範囲内で変動することが記載されているものの、積極的に変動させること及びその変動の方向性、すなわち増大させることについては記載されていない点で相違し、その他の点で一致する。
そこで、この相違点について検討する。
特許異議申立人は、この相違点について、甲第2号証の上記第6表のデータをみれば、調節剤の濃度が高濃度ほど経時的な酸素転化率の低下、つまり活性低下が少ないことが示されている、として、この知見によれば、甲第1号証における調節剤の濃度を経時的に増大させることを想到することは当業者が容易になし得るものである、と主張するが、用いる触媒系が甲第1号証に記載された反応系におけるレニウムを含む触媒と、甲第2号証に記載された反応系におけるレニウムを含まない触媒では異なるものであるから、一方で得られた知見を他方に適用することは困難であるうえ、そもそも第6表に示された実験結果から特許異議申立人がいうような知見を見いだすことは困難であるから、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が本件請求項1に係る発明を容易に想到し得たものとする特許異議申立人の主張は妥当でない。
また、本件請求項2〜12に係る発明は、本件請求項1に係る発明をさらに技術的に限定するものであるから、上記と同様の理由により特許異議申立人の主張は妥当でない。
(特許法第36条第4項及び第5項について)
本件特許明細書の記載は、請求項1については上記aの訂正により明確となったから、また、請求項2及び3については、上限値が示されていないことによって請求項2及び3に係る発明の構成が不明りょうになるわけではないから、本件請求項1〜3項に係る特許は、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるとすることができない。
したがって、この点についての特許異議申立人の主張も妥当でない。
エ.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び提出した証拠によっては、本件請求項1〜12に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜12に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エチレンオキシドを製造する方法
(57)【特許請求の範囲】
(1) アルミナ上に担持された銀からなる触媒であってアルカリ金属及びレニウムによって促進された触媒の固定床にエチレン、酸素及びクロロ炭化水素調節剤からなるガスを通すことによりエチレンオキシドを製造する方法において、触媒に通すガス中のクロロ炭化水素調節剤の濃度を触媒の操作期間にわたって増大させる、ことを特徴とする上記方法。
(2) 調節剤の平均増大速度が1ケ月当たり少なくとも0.5パーセントである、請求項1記載の方法。
(3) 調節剤の平均増大速度が1ケ月当たり少なくとも5パーセントである、請求項1記載の方法。
(4) エチレンオキシドに対する最大の選択性をもたらすのに充分なクロロ炭化水素調節剤のレベルで操作の最初の期間中操作し、そしてその後の操作上の問題を起こすのに充分な程触媒の活性が低下した後は操作の第2期間においてクロロ炭化水素調節剤のレベルをエチレンオキシドに対する触媒の選択性の有意的低下及び触媒の活性の相当する増大を起こすのに充分な量だけ増大させる、請求項1記載の方法。
(5) 操作の第2期間中調節剤のレベルを、エチレンオキシドに対する選択性が少なくとも0.5パーセント低下するのに充分な程度増大させる、請求項4記載の方法。
(6) 操作の第2期間中調節剤のレベルを、エチレンオキシドに対する選択性が少なくとも2.0パーセント低下するのに充分な程度増大させる、請求項4記載の方法。
(7) 触媒が更にサルフェート助促進剤により促進されている、請求項1〜6記載のいずれか一つの項記載の方法。
(8) 触媒が、アルファ-アルミナ上に担持された銀からなりかつセシウム及びレニウムにより促進されている。請求項1記載の方法。
(9) 触媒が、アルファ-アルミナ上に担持された銀からなりかつセシウム、リチウム及びレニウムにより促進されている、請求項8記載の方法。
(10) 調節剤がC1〜C8クロロ炭化水素である、請求項1〜9のいずれか一つの項記載の方法。
(11) 調節剤がC1又はC2のクロロ炭化水素である、請求項10記載の方法。
(12) 調節剤がメチルクロライド、エチルクロライド、エチレンジクロライド、ビニルクロライド又はそれらの混合物である、請求項11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野
本発明は、アルミナ上に担持された銀からなる触媒であってアルカリ金属及びレニウムによって促進された触媒の固定床にエチレン、酸素及びクロロ炭化水素調節剤からなるガスを通すことによりエチレンオキシドを製造する方法に関する。
従来の技術
エチレンオキシドは慣用的に、気相で存在するクロロ炭化水素調節剤の存在下でエチレン及び酸素を担持銀触媒と接触させることにより製造させる。該調節剤はガス供給物の流れに添加され、そしてその機能は反応の選択性を増大させること(即ち、消費されたエチレン100モル当たり生成されるエチレンオキシドのモル数を増大させること)である。選択性を増大させる主な機能は、エチレンが酸素とともに燃焼されて二酸化炭素及び水を生成する副反応が調節剤により抑制されることである、と信じられている。現在の商業的固定床型エチレンオキシド用反応器のたいていの反応器において用いられている触媒は、アルカリ金属で促進された担持銀触媒である。
発明が解決しようとする課題
このタイプの触媒に関する一つの問題は、調節剤のレベルを最適なレベル以上に増大させることは触媒の活性に悪影響があり、即ち調節剤のレベルが増大されるにつれて活性が低下することである。活性の低下は、触媒の操作温度が上げられることを意味する。このことは、触媒の寿命に悪影響を及ぼし得る。銀が焼結することが慣用のアルカリ金属で促進された担持銀触媒の活性低下の主な原因である、と信じられている。銀粒子が凝集するにつれて、銀の表面積は低減し、このことにより反応のために利用され得る活性部位の数は低減し、活性の損失の原因となる。選択性の低下及び活性の低下の両方とも、操作温度が高くなるにつれて速く起こる。銀の焼結もまた、操作温度が高くなるにつれて速く起こる。かくして、慣用のアルカリ金属で促進された担持銀触媒を用いて操作する場合、選択性を最適化しながらかつ触媒の操作温度を最低にすることが望ましい。かくして、調節剤のレベルは、比較的高い選択性を達成するのに充分高く維持されるが、触媒の活性低下を最小にするために比較的低く保たれる。一般に、慣用のアルカリ金属で促進された担持銀触媒を用いて操作する場合、触媒に通すガス中における調節剤の効果的レベルは、触媒の操作期間にわたって実質的に一定に維持される。
課題を解決するための手段
アルミナ上に担持された銀からなりかつアルカリ金属及びレニウムによって促進された新たに開発された触媒は、83〜86パーセント程度の非常に高い選択性を有する。
アルミナ支持体上に担持された銀、アルカリ金属促進剤及びレニウム促進剤からなる新たに開発された商業的触媒を用いて操作する場合、クロロ炭化水素調節剤のレベルを触媒の操作期間にわたって増大させる場合は一層長い触媒寿命が得られる、ということがわかった。
本発明は、アルミナ上に担持された銀からなる触媒であってアルカリ金属及びレニウムによって促進された触媒の固定床にエチレン、酸素及びクロロ炭化水素調節剤からなるガスを通すことによりエチレンオキシドを製造する方法において、正常な操作状態下で、触媒に通すガス中のクロロ炭化水素調節剤の濃度を触媒の操作中増大させる、ことを特徴とする上記方法に関する。
作用効果
調節剤のレベルのかかる増大は、触媒の操作期間にわたって触媒の寿命即ち安定性に有益な効果がある。
本発明は更に、エチレンオキシドを製造するための該方法において、エチレンオキシドに対する最大の選択性をもたらすのに充分なクロロ炭化水素調節剤のレベルで操作の最初の期間中操作し、そしてその後の操作上の問題を起こすのに充分な程触媒の活性が低下した後は操作の第2期間においてクロロ炭化水素調節剤のレベルをエチレンオキシドに対する触媒の選択性の有意的低下及び触媒の活性の相当する増大を起こすのに充分な量だけ増大させる上記方法に関する。選択性の該有意的低下は、予定の百分率例えば0.5パーセントより大1パーセントより大あるいは2パーセントより大であり得る。調節剤のレベルの第2の調整により、触媒は一層長期間操作され得るようになり、かくして取り替えられる前の所要期間が延ばされる。
商業的操作において、エチレン及び酸素はエチレンオキシド用反応器中に収容された触媒を用いてエチレンオキシドに変換され、しかして該反応器は典型的には触媒で満たされた数千個の管を含有する大きな固定管シート型熱交換器である。冷却剤は、反応熱を除去するために反応器の胴(shell)側で用いられる。アルカリ金属及びレニウムによって促進された担持銀触媒の存在下でエチレンの酸化反応を行うための条件は広範には、先行技術に記載されている条件からなる。このことは、例えば適当な温度、圧力、滞留時間、希釈物質(例えば、窒素、二酸化炭素、水蒸気、アルゴン、メタン又は他の飽和炭化水素)、エチレンオキシドの収率を増大させるために再循環操作を用いるかあるいは逐次的変換及び異なる反応器を適用するかについての所望性、並びにエチレンオキシドを製造する方法において選択され得るいかなる他の特別な条件にも当てはまる。大気圧から35バールの範囲の圧力が一般に用いられる。しかしながら、一層高い圧力も決して排除されない。反応体として用いられる分子状酸素は、慣用の供給源から得られ得る。典型的には、所要酸素は空気の分離プラントから通常供給される。適当な酸素装填物は、比較的純粋な酸素、空気、あるいは多量の酸素及び少量の1種又はそれ以上の希釈剤(例えば、ヘリウム、窒素、アルゴン、二酸化炭素及び/又は低級パラフィン(例えばメタン))からなる濃厚な酸素流からなり得る。例示するためのみの目的で、現在の商業的エチレンオキシド用反応装置にしばしば用いられる条件の範囲を次表に示す。
表 I
GHSV* 1550〜10,000
入口の圧力 10〜30バール(ゲージ)
入口の供給物
エチレン 1〜40%
O2 3〜12%
CO2 2〜40%
エタン 0〜 3%
アルゴン及び/メタン及び/又は窒素希釈剤
クロロ炭化水素調節剤 0.3〜20ppmv総量
冷却剤の温度 180〜315℃
触媒の温度 180〜325℃
O2の変換レベル 10〜60%
EOの生成(加工率) 33〜260gのEO/1lの触媒/hr
*1時間当たり1リットルの充填触媒に通されるガスの標準
温度及び圧力におけるリットル数
クロロ炭化水素調節剤は、エチレンオキシド用触媒に通されるエチレン及び酸素を含有するガス流に添加される。この調節剤は、典型的にはC1〜C8クロロ炭化水素(即ち、水素、炭素及び塩素からなる化合物)である。クロロ炭化水素調節剤は、随意にフッ素で置換されていてもよい。一層好ましくは、調節剤はC1ないし約C4のクロロ炭化水素である。更に一層好ましくは、調節剤はC1又はC2のクロロ炭化水素である。最も好ましい態様では、調節剤はメチルクロライド、エチルクロライド、エチレンジクロライド、ビニルクロライド又はそれらの混合物である。好ましい調節剤はエチルクロライド、ビニルクロライド及びエチレンジクロライドである。エチルクロライドが特に好ましい。
本発明の方法に用いられる触媒は、アルミナ支持体上に担持された触媒効果量の銀からなりかつアルカリ金属により促進されしかも更にレニウムにより促進されている。好ましい態様では、アルカリ金属促進剤は、カリウム、ルビジウム、セシウムまたはそれらの混合物である高アルカリ金属(higher alkali metal)である。特に好ましい態様では、高アルカリ金属促進剤はセシウムである。セシウムとリチウムの組み合わせも利点をもたらす。更に好ましい態様では、硫黄、モリブデン、タングステン、クロム及びそれらの混合物から選ばれるレニウム用助促進剤の促進量も触媒上に存在する。特に好ましい態様では触媒はアルファ-アルミナ上に担持された銀からなりかつセシウム、リチウム及びレニウムにより促進されており、そして一層特に好ましい態様ではサルフェートもレニウム用助促進剤として触媒上に存在する。
触媒上に好ましく存在するアルカリ金属促進剤の量は、一般に総触媒百万重量部当たり10〜3000重量部好ましくは5〜2000重量部一層好ましくは20〜1500重量部(金属を基準として)である。触媒上に好ましくは存在するレニウム促進剤の量は、一般に総触媒1キログラム当たり0.1〜10ミリモル一層好ましくは0.2〜5ミリモル(金属を基準として)である。レニウム用助促進剤が存在する場合、レニウム用助促進剤は、好ましくは総触媒1キログラム当たり0.1〜10ミリモル一層好ましくは0.2〜5ミリモル(金属を基準として)の量にて触媒上に存在する。
一般に、本方法は最初、触媒に適当な供給ガスを通しかつ触媒に通される該ガスに充分なクロロ炭化水素調節剤を与えてエチレンオキシド用反応器を最適な選択性が得られる操作状態にすることにより行われる。しかしながら、最適な選択性が得られるのに必要な量を実質的に越える過度のクロロ炭化水素調節剤を与えないように注意が払われる。触媒が“ライン・アウト(line‐out)”しそして正常な操作状態が達せられた後、触媒の操作中1ケ月当たり少なくとも1/2%の平均増大速度一層好ましくは1ケ月当たり少なくとも1%の平均増大速度更に一層好ましくは1ケ月当たり少なくとも3%の平均増大速度なお更に一層好ましくは1ケ月当たり少なくとも5%平均増大速度にてクロロ炭化水素調節剤を操作期間にわたってゆっくり増大させながら触媒は操作される。始動及びライン・アウト処理操作が完了した後、触媒に通される流れ中のクロロ炭化水素調節剤は、典型的にはガス流の約1ppmないし約20〜25ppm (モル基準)の範囲にある。用語“平均増大速度”の使用に関して、該増大は円滑に増大する関数あるいは段階的に増大する関数のどちらでもあり得る、と理解される。実際のプラントの実施において、後者は、クロロ炭化水素調節剤のレベルが都合のよい時間間隔にて設定量に上げられる場合が一層適当である。
実施例
本発明を次の例で例示する。
例1
この例において、アルファ-アルミナ支持体上に担持された銀からなる触媒であってセシウム、リチウム、レニウム及びサルフェートで促進された触媒を、次の条件下でパイロットプラントで試験した:15バール(ゲージ),GHSV3300,40%酸素変換度,30%エチレン、8%酸素、5%二酸化炭素及び残部の窒素の供給ガス混合物。充分なビニルクロライドとエチルクロライド(50/50混合物)を、ビニルクロライドとエチルクロライドの混合物として測定して3ppmの調節剤のレベルを維持するように与えた。選択性及び活性(冷却剤の温度)を測定した。所与の間隔で一連の調節剤の応答曲線が調べられ、即ち調節剤のレベルを変えそして選択性及び活性を測定した。これらの結果を次の表2に示す。

調節剤の応答曲線から、時間に対する最適な選択性及び対応する冷却剤の温度の上昇(活性損失)が算出された。これらの活性損失は、第1図に曲線Bとしてプロットされている。3ppmの調節剤のレベルの場合の活性損失は、第1図に曲線Aとしてプロットされている。第2表及び第1図からわかるように、調節剤のレベルを3ppmに維持すると、活性は時間の関数として実質的に線状的な損失となるが、最適な選択性を与えるためにこの期間中調節剤のレベルが増大されるならば、活性損失は一定の調節剤のレベルの場合と比べてはるかに小さい。
例2
この例は、商業的エチレンオキシド法での本発明の方法を例示する。この方法において、アルファ-アルミナ支持体上に担持された銀からなる触媒であってセシウム、リチウム、レニウム及びサルフェ-トにより促進された触媒を用いた。触媒が始動されそしてライン・アウトされた後の反応器への供給物は、平均して次の濃度に維持した:0.2%エタン、6%アルゴン、30%エチレン、8%酸素、3.5%二酸化炭素、50%メタン及び2%窒素。エチルクロライドを、調節剤として該反応に供給した。
初期のライン・アウトが完了した後、クロロ炭化水素調節剤の濃度は約4ppmであった。第2図に、この商業的操作についてppmでの調節剤の(おおよその)レベルの増大が時間の関数として示されている。
第3図、第4図、第5図及び第6図について以下に詳述する。
エチレンオキシド用の商業的アルミナ担持銀触媒であってセシウムで促進された触媒(触媒B)に関して並びにアルミナ担持銀触媒であってセシウム、リチウム、レニウム及びサルフェートで促進された触媒(触媒A)に関して一定の酸素変換レベルにて、選択性及び活性(反応器の冷却剤の温度として測定)の一連の測定を、調節剤としてのエチルクロライドとビニルクロライドのモノマーの50:50混合物の種々のレベルの関数として行った。試験条件は次の通りであった。3300の気体時間空間速度、15バール(ゲージ)の圧力、30%エチレン、8%酸素、5%二酸化炭素、残りの窒素。これらの結果を一般化した要約が、第3図及び第4図に概略的に示されている。これらの結果は際立った最適な選択性がレニウムで促進された触媒を用いて得られること、並びにレニウム含有触媒の場合調節剤のレベルを増大させることによりその活性が増大する(冷却剤の温度が低下する)ことになることを示している。
本発明の方法に従って操作される触媒であってアルミナに担持されかつセシウム、リチウム、レニウム及びサルフェートによって促進された銀触媒の場合の時間の関数としての選択性及び活性が、第5図及び第6図に示されている。これらの図面に示されている点AからBの期間、触媒は、最適な選択性を与えるべき調節剤のレベルにて操作される。或る期間Bにおいて、触媒の活性は非常に低くなって冷却剤の温度は非常に高くなり、そのため触媒の実施可能な操作はもはや可能でない。この時点で、クロロ炭化水素調節剤の有意的な増大がなされ、これにより触媒の選択性が有意的に低下するとともに活性が増大する。この活性の増大により、触媒ははるかに長い期間操作され得るようになる。しかしながら、その代わり選択性は低減され、エチレンオキシドの生成が損失することになる。しかし、多くの場合、触媒の寿命が増大すること及び速やかな触媒の取り替えが必要でないことは、このことを補って余りある。
【図面の簡単な説明】
第1図は、アルカリ金属、レニウム及びサルフェートによって促進された担持銀触媒の活性損失を調節剤の一定レベル(曲線A)及び調節剤の増大的レベル(曲線B)について時間の関数として表す。
第2図は、クロロ炭化水素調節剤のレベルを、本発明の方法に従って操作された商業的操作に用いられるアルカリ金属、レニウム及びサルフェートによって促進された担持銀触媒について時間の関数として表す。
第3図は、一定の酸素変換レベルかつ所与の反応条件において慣用のエチレンオキシド用触媒(触媒B)及びレニウムで促進されたエチレンオキシド用触媒(触媒A)の選択性を調節剤のレベルの関数として概略的に表す。
第4図は、一定の酸素変換レベルかつ所与の反応条件において反応器の温度を慣用エチレンオキシド用触媒(触媒B)及びレニウムで促進されたエチレンオキシド用触媒(触媒A)について調節剤のレベルの関数として概略的に表す。
第5図は、一定の酸素変換レベルかつ所与の反応条件において選択性を、本発明の方法に従って操作されたレニウムで促進された触媒について時間の関数として概略的に表し、そして
第6図は、一定の酸素変換レベルかつ所与の反応条件において対応する冷却剤の温度を、本発明の方法に従って操作された同じ触媒について時間の関数として表す。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
a.特許請求の範囲の請求項1
「アルミナ上に担持された銀からなる触媒であってアルカリ金属及びレニウムによって促進された触媒の固定床にエチレン、酸素及びクロロ炭化水素調節剤からなるガスを通すことによりエチレンオキシドを製造する方法において、正常な操作状態下で、触媒に通すガス中のクロロ炭化水素調節剤の濃度を触媒の操作中増大させる、ことを特徴とする上記方法。」を
「アルミナ上に担持された銀からなる触媒であってアルカリ金属及びレニウムによって促進された触媒の固定床にエチレン、酸素及びクロロ炭化水素調節剤からなるガスを通すことによりエチレンオキシドを製造する方法において、触媒に通すガス中のクロロ炭化水素調節剤の濃度を触媒の操作期間にわたって増大させる、ことを特徴とする上記方法。」と訂正する。
異議決定日 2000-12-05 
出願番号 特願平1-189021
審決分類 P 1 651・ 531- YA (C07D)
P 1 651・ 121- YA (C07D)
P 1 651・ 532- YA (C07D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 後藤 圭次  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 宮本 和子
深津 弘
登録日 1998-05-15 
登録番号 特許第2779955号(P2779955)
権利者 シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
発明の名称 エチレンオキシドを製造する方法  
代理人 川原田 一穂  
代理人 川原田 一穂  

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