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審決分類 審判 一部申し立て 対象物  C03B
管理番号 1048474
異議申立番号 異議2000-71090  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-05-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-16 
確定日 2001-07-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2952185号「ガラス光学素子の成形方法」の請求項1、2、10、12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 本件特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2952185号の請求項1〜32に係る発明は,平成7年10月5日(国内優先権主張 平成6年10月7日、平成7年8月18日)に出願され、平成11年7月9日にその特許の設定登録がなされたところ,特許異議の申立があり,その後,取消理由が通知され,その指定期間内である平成12年6月26日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の可否についての判断
(1)訂正の内容
a,特許請求の範囲の請求項1、2、10及び12を削除する。
b,特許請求の範囲の請求項3の「前記ガラスプリフォームの押圧成形を3秒間以上行う請求項1または2に記載の成形方法。」を「加熱軟化したガラスプリフォームを、予熱した成形型て押圧成形することによりガラス光学素子を成形する方法であって、前記ガラスプリフォームの加熱の温度を前記ガラスの粘度が109ポアズ未満に相当する温度とし.成形型の予熱の温度を前記ガラスの粘度が109〜1012ボアズに相当する温度とし、前記加熱軟化したガラスプリフォームを前記予熱した成形型で押圧成形し、前記成形面近傍の温度が前記ガラスプリフォームの粘度が1012ポアズに相当する温度以下になった後に成形型からガラス成形体を離型することを特徴とするガラス光学素子の成形方法であって、前記ガラスプリフォームの押圧成形を3秒間以上行う成形方法。」に訂正する。
c、特許請求の範囲の請求項4の「前記ガラスプリフォームの押圧成形を3秒間以上行う請求項1または2に記載の成形方法。」を「加熱軟化したガラスプリフォームを、予熱した成形型て押圧成形することによりガラス光学素子を成形する方法であって、前記ガラスプリフォームの加熱の温度を前記ガラスの粘度が109ポアズ未満に相当する温度とし.成形型の予熱の温度を前記ガラスの粘度が109〜1012ボアズに相当する温度とし、前記加熱軟化したガラスプリフォームを前記予熱した成形型で押圧成形し、前記成形面近傍の温度が前記ガラスプリフォームの粘度が1012ポアズに相当する温度以下になった後に成形型からガラス成形体を離型することを特徴とするガラス光学素子の成形方法であって、前記押圧成形は、初期加圧と2次加圧からなり、前記初期加圧を3秒間以上行う成形方法。」に訂正する。
d、特許請求の範囲の請求項11の「成形型の成形面が非晶質及び/又は結晶質のグラファイト及び/又はダイヤモンドの単一成分層又は混合層からなる炭素膜で構成されている請求項1〜10のいずれか1項に記載の成形方法。」を「加熱軟化したガラスプリフォームを、予熱した成形型で押圧成形することによりガラス光学素子を成形する方法であって、前記ガラスプリフォームの加熱の温度を前記ガラスの粘度が109ポアズ未満に相当する温度とし.成形型の予熱の温度を前記ガラスの粘度が109〜1012ボアズに相当する温度とし、前記加熱軟化したガラスプリフォームを前記予熱した成形型で押圧成形し、前記成形面近傍の温度が前記ガラスプリフォームの粘度が1012ポアズに相当する温度以下になった後に成形型からガラス成形体を離型することを特徴とするガラス光学素子の成形方法であって、前記成形型の成形面が非晶質及び/又は結晶質のグラファイト及び/又はダイヤモンドの単一成分層又は混合層からなる炭素膜で構成されている成形方法。」に訂正する。
e,特許請求の範囲の請求項13における「・・・請求項1〜12のいずれか1項に記載の成形方法」を「・・・請求項3〜9及び11のいずれか1項に記載の成形方法」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否,新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正aは,特許請求の範囲における請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、訂正b〜dは、上記訂正aにより引用請求項が削除され、不明りょうな記載となるところを、引用請求項の内容を取り入れて、独立形式の請求項として記載し直したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるし、訂正eは、上記訂正aにより引用請求項が削除されたところ、その削除された請求項を引用している記載を除外するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記訂正a〜eは、特許請求の範囲の記載を削除、整理するものにとどまり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであるし,実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないことは明らかである。
なお、上記訂正b〜eは、特許異議の申立がされていない請求項の訂正であるが、いずれも明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許法第120条の4第2項ただし書きに規定された場合でないし、また、これらが独立特許要件を満たしていないとする点を発見しない。
したがって,上記訂正請求は,特許法第120条の4第2項及び第3項において準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので,当該訂正請求を認める。
3.特許異議の申立てについての判断
特許異議申立人相原光政は本件特許に係る請求項1、2,10及び12に対して特許異議の申立をし、特許異議申立人溝呂木寛は本件特許に係る請求項1,2に対して特許異議の申立をしているが、請求項1,2,10及び12に係る発明は上記訂正の結果削除され、特許異議の申立の対象が存在しないものとなったので、上記特許異議申立は、いずれも不適法な申立であって、その補正をすることができないものである。
したがって、本件特許異議の申立は、特許法第120条の6第1項で準用する特許法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ガラス光学素子の成形方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 削除
【請求項2】 削除
【請求項3】 加熱軟化したガラスプリフォームを、予熱した成形型で押圧成形することによりガラス光学素子を成形する方法であって、
前記ガラスプリフォームの加熱の温度を前記ガラスの粘度が109ポアズ未満に相当する温度とし、
成形型の予熱の温度を前記ガラスの粘度が109〜1012ポアズに相当する温度とし、
前記加熱軟化したガラスプリフォームを前記予熱した成形型で押圧成形し、
前記成形面近傍の温度が前記ガラスプリフォームの粘度が1012ポアズに相当する温度以下になった後に成形型からガラス成形体を離型する
ことを特徴とするガラス光学素子の成形方法
であって、前記ガラスプリフォームの押圧成形を3秒間以上行う成形方法。
【請求項4】 加熱軟化したガラスプリフォームを、予熱した成形型で押圧成形することによりガラス光学素子を成形する方法であって、
前記ガラスプリフォームの加熱の温度を前記ガラスの粘度が109ポアズ未満に相当する温度とし、
成形型の予熱の温度を前記ガラスの粘度が109〜1012ポアズに相当する温度とし、
前記加熱軟化したガラスプリフォームを前記予熱した成形型で押圧成形し、
前記成形面近傍の温度が前記ガラスプリフォームの粘度が1012ポアズに相当する温度以下になった後に成形型からガラス成形体を離型する
ことを特徴とするガラス光学素子の成形方法
であって、前記押圧成形は、初期加圧と2次加圧からなり、前記初期加圧を3秒間以上行う成形方法。
【請求項5】 前記2次加圧は、初期加圧の5〜70%の圧力で行う請求4に記載の成形方法。
【請求項6】 加熱軟化したガラスプリフォームの中心肉厚を、最終製品の中心肉厚より0.03mm小さく、0.15mm大きい範囲内になるように初期加圧し、次いで2次加圧する請求項5に記載の成形方法。
【請求項7】 加熱軟化したガラスプリフォームの初期加圧を、所望の中心肉厚で加圧が停止する手段により停止し、さらに初期加圧停止前又は停止と同時に2次加圧を開始することにより最終製品の中心肉厚を得る請求項6に記載の成形方法。
【請求項8】 前記初期加圧開始と同時に、または前記初期加圧の途中で、または前記初期加圧の終了後、前記成形型の成形面近傍を冷却する請求項4〜7のいずれか1項に記載の成形方法。
【請求項9】 前記成形型の成形面近傍を20℃/分以上の速度で冷却する請求項8に記載の成形方法。
【請求項10】 削除
【請求項11】 加熱軟化したガラスプリフォームを、予熱した成形型で押圧成形することによりガラス光学素子を成形する方法であって、
前記ガラスプリフォームの加熱の温度を前記ガラスの粘度が109ポアズ未満に相当する温度とし、
成形型の予熱の温度を前記ガラスの粘度が109〜1012ポアズに相当する温度とし、
前記加熱軟化したガラスプリフォームを前記予熱した成形型で押圧成形し、
前記成形面近傍の温度が前記ガラスプリフォームの粘度が1012ポアズに相当する温度以下になった後に成形型からガラス成形体を離型する
ことを特徴とするガラス光学素子の成形方法
であって、前記成形型の成形面が非晶質及び/又は結晶質のグラファイト及び/又はダイヤモンドの単一成分層又は混合層からなる炭素膜で構成されている成形方法。
【請求項12】 削除
【請求項13】 ガラスプリフォームを気流により浮上させながら加熱することにより軟化させる請求項3〜9及び11のいずれか1項に記載の成形方法。
【請求項14】 加熱軟化したガラスプリフォームの予熱した成形型への移送を、前記ガラスプリフォームを吸引保持することにより、または落下させることにより行う請求項13記載の成形方法。
【請求項15】 加熱軟化したガラスプリフォームの落下を、ガラスプリフォームを加熱するために用いる浮上治具が2つ以上に分割移動することにより行う請求項14記載の成形方法。
【請求項16】 加熱軟化したガラスプリフォームを一定方向に落下させるためのガイド手段を用いる請求項15記載の成形方法。
【請求項17】 加熱軟化した被成形ガラス素材を、予熱した成形型で押圧成形することによりガラス光学素子を成形する方法であって、
前記ガラス素材の加熱軟化は、該ガラス素材を気流により浮上させながら該ガラス素材の粘度が109ポアズ未満に相当する温度となるように行い、
前記加熱軟化したガラス素材を前記ガラス素材の粘度が109〜1012ポアズに相当する温度に予熱した成形型で押圧成形することを特徴とするガラス光学素子の成形方法。
【請求項18】 前記ガラス素材の加熱の温度を前記ガラスの粘度が105.5〜107.6ポアズに相当する温度とする請求項17に記載の成形方法。
【請求項19】 前記ガラス素材の押圧成形を3秒間以上行う請求項17または18に記載の成形方法。
【請求項20】 前記押圧成形は、初期加圧と2次加圧からなり、前記初期加圧を3秒間以上行う請求項17または18に記載の成形方法。
【請求項21】 前記2次加圧は初期加圧の5〜70%の圧力で行う請求項20に記載の成形方法。
【請求項22】 加熱軟化したガラス素材の中心肉厚を、最終製品の中心肉厚より0.03mm小さく、0.15mm大きい範囲内になるように初期加圧し、次いで2次加圧する請求項21に記載の成形方法。
【請求項23】 加熱軟化したガラス素材の初期加圧を、所望の中心肉厚で加圧が停止する手段により停止し、さらに初期加圧停止前又は停止と同時に2次加圧を開始することにより最終製品の中心肉厚を得る請求項22に記載の成形方法。
【請求項24】 前記初期加圧開始と同時に、または前記初期加圧の途中で、または前記初期加圧の終了後、前記成形型の成形面近傍を冷却する請求項20〜23のいずれか1項に記載の成形方法。
【請求項25】 前記成形型の成形面近傍を20℃/分以上の速度で冷却する請求項24に記載の成形方法。
【請求項26】 成形型の成形面が非晶質及び/又は結晶質のグラファイト及び/又はダイヤモンドの単一成分層又は混合層からなる炭素膜で構成されている請求項17〜25のいずれか1項に記載の成形方法。
【請求項27】 ガラス成形体の離型を、前記成形面近傍の温度が前記ガラス素材の粘度が1012〜1014.5ポアズに相当する温度で行う請求項17〜26のいずれか1項に記載の成形方法。
【請求項28】 被成形ガラス素材がガラスプリフォーム又はガラスゴブである請求項17〜27のいずれか1項に記載の成形方法。
【請求項29】 前記ガラスプリフォームが球状またはマーブル状のプリフォームである請求項28に記載の成形方法。
【請求項30】 加熱軟化した被成形ガラス素材の予熱した成形型への移送を、前記被成形ガラス素材を吸引保持することにより、または落下させることにより行う請求項17〜29のいずれか1項に記載の成形方法。
【請求項31】 加熱軟化した被成形ガラス素材の落下を、ガラス素材を加熱するために用いる浮上治具が2つ以上に分割移動することにより行う請求項30記載の成形方法。
【請求項32】 加熱軟化した被成形ガラス素材を一定方向に落下させるためのガイド手段を用いる請求項31記載の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プレス成形後に研削研磨が不要なガラスレンズなどのガラス光学素子の成形方法に関する。特に、本発明は、良好な光学特性を有するガラス光学素子を、プレス成形に要するサイクル時間を大幅に短縮して、比較的速い生産スピードで得ることが可能な成形方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
被成形ガラス素材であるガラスプリフォームを、ガラス成形体面に必要な面精度及び面粗度が確保された成形型でプレス成形し、プレス成形後の研削研磨を不要とできるガラス光学素子の製造方法が従来より種々知られている。
例えば、特開昭64-72929号公報あるいは特公平2-16251号公報に記載の方法は、成形型とガラスプリフォームとを一緒に加熱する方式の方法である。即ち、上型と下型とこれらをガイドする案内型からなる成形型内にガラスプリフォームを挿入し、プリフォームが十分軟化する温度まで成形型と共に加熱した後に押圧成形する。次に、成形後のガラス成形体の面精度が損なわれない程度の冷却速度をもってガラス転移点付近まで冷却し(あるいはその後ある時間を要して室温付近まで冷却し)た後、成形型内からガラス成形体が取り出される。
【0003】
成形型内にガラスプリフォームが保持された状態で、プリフォームが成形型と共に加熱、成形、冷却される方法では、ガラスと成形型の温度が常にほぼ等しくプレス工程が進むことによって、ガラスの表面と内部の温度差がなくなり、このためヒケが発生し難く安定した面精度が得られる。しかし、プレスを開始するまでの昇温時間と、プレス後の取り出しまでに要する冷却時間が必要であるために、全工程に要するサイクル時間が著しく長くなるという欠点を有している。更に、加熱からプレスの工程におけるガラスと成形型面の接触時間が長いために、ガラスと成形型面との間で反応を起こし易く、型寿命が短くなるという欠点も有している。
【0004】
一方、あらかじめ軟化させたガラスプリフォームを、これとは別に加熱した成形型内へ挿入して、プレス成形後の研削研磨を不要とできるガラス光学素子の成形方法も知られている〔特開昭61-251529号、同61-286232号、同62-27334号、同63-45134号〕。そして、この方法でも、前述のように、ガラス成形体面に必要な面精度及び面粗度が確保された成形型を用いる。ところが、これらの方法では、ガラス素材を大きく変形させる必要がある場合には、所望の形状にまで成形することができない場合があり、またヒケや形状歪みが発生し易く、面精度が出にくいという欠点があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
予熱した成形型において、加熱軟化したガラスプリフォームをプレス成形する方法では、プレス時間が短時間に済むという利点がある。さらに、成形型の温度を比較的低くでき、プレス後のガラス温度の冷却にある程度の時間を置けば離型が可能であることから、サイクル時間が大幅に短縮できる。
しかし、前述のような方法では、所望の肉厚までプレス成形する前にガラスが冷めて固化してしまい安定して成形品、特にコバ厚の薄い(約1.0〜1.3mm)両凸レンズやメニスカスレンズ等のガラス成形体が得られないという問題や形状転写性が不十分であるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、プレス成形に要するサイクル時間を大幅に短縮できる、加熱軟化したガラスプリフォーム等のガラス素材を予熱した成形型で押圧成形することによりガラス光学素子を製造する方法であって、コバ厚の薄いレンズ等でも安定して得られ、形状転写性が良好であるガラス光学素子の成形方法を提供することにある。
さらに本発明は、ヒケや面形状の歪み等の表面欠陥がなく高い面精度を有するガラス光学素子の成形方法を提供することにある。
さらに本発明は、ヒケや面形状の歪み等の表面欠陥がなく高い面精度を有し、中心肉厚が許容公差内にあるガラス光学素子を製造できるガラス光学素子の成形方法を提供することにある。
【0007】
さらに、加熱軟化したガラスプリフォーム等のガラス素材を予熱した成形型で押圧成形する方法においては、成形面に対してガラスが融着(固着)するという問題もある。
そこで本発明の別の発明は、加熱軟化したガラスプリフォーム等のガラス素材を、予熱した成形型で押圧成形することによりガラス光学素子を製造する方法であって、成形面に対するガラス融着(固着)を防止でき、形状転写性も良好であり、プレス成形に要するサイクル時間を大幅に短縮できるガラス光学素子の成形方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、加熱軟化した被成形ガラス素材を、予熱した成形型で押圧成形することによりガラス光学素子を成形する方法であって、前記ガラス素材の加熱の温度を該ガラス素材の粘度が109ポアズ未満に相当する温度とし、成形型の予熱の温度を前記ガラス素材の粘度が109〜1012ポアズに相当する温度とし、前記加熱軟化したガラス素材を前記予熱した成形型内で3〜60秒間初期加圧し、前記初期加圧開始と同時に、または前記初期加圧の途中で、または前記初期加圧の終了後、前記成形型の成形面近傍を20℃/分以上の速度で冷却し、前記成形面近傍の温度が前記ガラス素材の粘度が1012ポアズに相当する温度以下になった後に成形型からガラス成形体を離型することを特徴とするガラス光学素子の成形方法に関する。
【0009】
さらに本発明は、前記ガラス光学素子の成形方法において、さらに、前記成形型の成形面が非晶質及び/又は結晶質の、グラファイト及び/又はダイヤモンドの、単一成分層又は混合層からなる炭素膜で構成されている、ガラス光学素子の成形方法に関する。
以下本発明について説明する。
【0010】
本発明は、加熱軟化した被成形ガラス素材を、予熱した成形型で押圧成形することによりガラス光学素子を成形する方法である。ガラス素材を構成するガラスの種類及び形状等は、従来から公知のものである。ガラス素材は、例えば、ガラスプリフォームやガラスゴブであることができる。ガラスプリフォームとは、ガラス光学素子を成形する際に前駆体として用いる所定形状に成形した成形品をいう。ガラスプリフォームは、冷間成形又は溶融ガラスを熱間成形により成形したもの、さらには、これらを鏡面研磨等したものであることかできる。さらに表面は鏡面でなく粗面であることもでき、例えば#800のダイヤモンドで研削した研削品をガラスプリフォームとして用いることもできる。
【0011】
ガラスプリフォームの形状は、製品であるガラス光学素子の大きさ及び容量、成形時の変化量等を考慮して決定される。さらに、成形の際、ガストラップが生じないようにするため、成形品の中心がプリフォームの被成形面と最初に接触するような形状とすることが好ましい。ガラスプリフォームの形状は、例えば、球状、マーブル状、円板状、球面状等であることができる。
一方、ガラスゴブは、溶融ガラスを所定容量に分割したガラス片であって、通常シワなどの不規則な形状を有するものである。前記ガラスプリフォームは、このガラスゴブをさらに所定形状に成形したものである。
尚、プリフォーム又はゴブの容量は最終製品の容量よりわずかに大きくし、後工程で芯取りすることにより、最終外径を決めることもできる。
【0012】
本発明の成形方法では、前記ガラス素材を該ガラス素材の粘度が109ポアズ未満に相当する温度に加熱して軟化させる。ガラス素材の粘度が109ポアズ未満であることで、109ポアズ以上の粘度に相当する温度に予熱した成形型でガラス素材を十分に変形させて成形することが可能である。成形型の温度を比較的低温にして成形するには、ガラス素材は、好ましくは105.5〜107.6ポアズに相当する温度に加熱して軟化させることが適当である。
成形型の予熱の温度は、前記ガラス素材の粘度が109〜1012ポアズに相当する温度とする。粘度が1012ポアズに相当する温度未満では、ガラス素材を大きく伸ばして、コバ厚の薄いガラス成形体を得ることが難しくなり、また、高面精度が得にくく、粘度が109ポアズに相当する温度を超える温度では、成形のサイクルタイムが必要以上に長くなり、また、成形型の寿命が短くなる。
【0013】
本発明に用いる成形型は、従来から公知の成形型をそのまま用いることができる。但し、成形型の成形面が非晶質及び/又は結晶質の、グラファイト及び/又はダイヤモンドの、単一成分層又は混合層からなる炭素膜で構成されているものを用いることが好ましい。上記のような炭素膜で構成されている成形面を有する成形型では、成形型の温度が、ガラス素材のガラス転移点以上であっても、ガラスの融着(固着)が生じることはない。
上記の炭素膜は、スパッタリング法、プラズマCVD法、CVD法、イオンプレーティング法等の手段で成膜されるものである。スパッタリング法で成膜する場合には、基盤温度250〜600℃、RFパワー密度5〜15W/cm2、スパッタリング時真空度5×10-4〜5×10-1torrの範囲でスパッタガスとしてArの如き不活性ガスを、スパッタターゲットとしてグラファイトを用いてスパッタリングするのが好ましい。
マイクロ波プラズマCVD法により成膜する場合には、基盤温度650〜1000℃、マイクロ波電力200W〜1kW、ガス圧力10-2〜600torrの条件下に、原料ガスとしてメタンガスと水素ガスを用いて成膜するのが好ましい。
イオンプレーティング法により形成する場合には、基盤温度を200〜450℃とし、ベンゼンガスをイオン化するのが好ましい。
これらの炭素膜はC-H結合を有するものを含む。
【0014】
本発明の成形方法においては、前記加熱軟化したガラス素材を前記予熱した成形型内で3〜60秒間初期加圧する。この初期加圧が3秒未満ではガラスの伸びが不十分であり、所望の形状のガラス光学素子を得ることはできない。また、初期加圧は、長くなればそれだけ面精度等は向上するが、長すぎるとサイクル時間が短縮できず、また、成形型の寿命にも悪影響を及ぼすことがあり、上限は60秒である。また、成形圧力は、ガラス素材の温度及び成形型の温度等を考慮して適宜決定することができ、通常30〜300kg/cm2の範囲の圧力とすることが適当である。
【0015】
前記初期加圧開始と同時に、または前記初期加圧の途中で、または前記初期加圧の終了後に、前記成形型の成形面近傍を20℃/分以上の速度で冷却する。冷却速度を20℃/分より遅くしてもかまわないが、不必要に成形のサイクルタイムが長くなるだけである。ガラス成形体の大きさ、形状によって異なるが、高面精度を得るという観点から、成形面近傍は20〜180℃/分の速度で冷却することが好ましい。
【0016】
また、初期加圧後、初期加圧の5〜70%の一定圧力で2次加圧し、この圧力を維持しながら成形面近傍を冷却することが、ひけや面形状に歪みが生じることなく良好な面精度が得られ、かつ中心肉厚も許容公差内に保てるという観点から好ましい。より好ましくは、2次加圧は初期加圧の20〜50%とすることが適当である。
さらに、加熱軟化したガラス素材の中心肉厚を、最終製品の中心肉厚より0.03mm小さく、0.15mm大きい範囲内になるように初期加圧し、次いで2次加圧することが、最終製品の中心肉厚の許容公差内に保つという観点から好ましい。即ち、2次加圧においては一気に減圧され、かつ、ガラスは高粘度となっているため、中心肉厚を0.001〜0.12mm程度しか加圧変形させることができないので、最終的な中心肉厚を公差±0.03mmの範囲に入れることが容易である。
【0017】
上記初期加圧及び2次加圧は、加熱軟化したガラス素材の初期加圧を、最終製品の中心肉厚より0.03mm小さく、0.15mm大きい範囲内の所望の中心肉厚になるように加圧が停止する手段により停止し、さらに初期加圧停止前又は停止と同時に2次加圧を開始することにより行うことで、最終製品の中心肉厚が得られ、かつ、初期加圧と2次加圧の間で、加圧が連続しているため、面精度が損なわれることがない等という観点から好ましい。外部ストッパー機構等により所望の中心肉厚を得て、さらに2次加圧する場合は、加圧が一瞬間断ずるため、良好な面精度が得にくい傾向がある。上記初期加圧及び2次加圧は、2重シリンダー機構により行うことが好ましい。2重シリンダー機構については、後述の実施例においてさらに説明する。
【0018】
上記のように加圧成形され、次いで冷却されたガラス成形品は、成形面近傍の温度が前記ガラス素材の粘度が1012ポアズに相当する温度以下になった後に成形型から離型される。ガラス粘度が1012ポアズを超えれば、短時間では粘性流動が起こることがなく、ほぼガラスは固結したとみなしてよい。その結果、離型後にガラス成形体に変形等が生じることがなく、良好な面精度が得られる。ガラス成形体の離型は、前記成形面近傍の温度が前記ガラス素材の粘度が1012〜1014.5ポアズに相当する温度で行うことが特に好ましい。
【0019】
本発明の成形方法に用いる成形型には、成形面を除き特に制限はない。さらに、型の加熱には、抵抗加熱ヒーター、高周波加熱ヒーター、赤外線ランプヒーター等を用いることもできる。特に、成形型温度の回復時間が短いという観点からは、高周波加熱ヒーター、赤外線ランプヒーターが好ましい。さらに、成形型の冷却は、断電冷却や成形型内部を流通する冷却ガス等により行うことができる。
【0020】
本発明に用いる成形型は、例えば、図5に示すような上型35、下型34及び案内型36から構成される成形型39を用いることができる。但し、これらに限定されるものではない。また、成形型として炭化ケイ素、ケイ素、窒化ケイ素、炭化タングステン、酸化アルミニウムと炭化チタンのサーメットや、これらの表面にダイヤモンド、耐熱金属、貴金属合金、炭化物、窒化物、硼化物、酸化物などのセラミックスなどを被覆したものを使用することができる。特に、炭化ケイ素焼結体上にCVD法により炭化ケイ素膜を形成して、仕上がり形状に加工した後、イオンプレーティング法等によりi-カーボン膜等の非晶質及び/又は結晶質のグラファイト及び/又はダイヤモンドの単一成分層又は混合層からなる炭素膜を形成したものが好ましい。その理由は、成形型温度を比較的高温にして成形しても、融着が起こらないこと及び、離型性がよいため比較的高温で容易に離型できることによる。
【0021】
本発明の成形方法において、前記ガラス素材の加熱軟化は、該ガラス素材体を気流により浮上させながら行うことができ、加熱軟化したガラス素材は前記予熱した成形型に移送される。
ガラス素材が、その自重によって変形する程の低粘性域においては、加熱の際にガラス素材を保持する治具とガラスの融着を防止するのは非常に困難である。それに対して、治具の内部よりガスを噴出することにより、ガラス素材を気流により浮上させることで、治具面とガラス両面にガスのレイヤーを形成し、その結果、治具とガラスが反応することなく、加熱軟化することが可能である。更にガラス素材がプリフォームの場合、プリフォームの形状を維持しつつ加熱軟化することができる。また、ガラス素材がガラスゴブであり、不規則な形状で表面にシワ等の表面欠陥がある場合でも、加熱軟化しながら気流により浮上させることで、形状を整え、表面欠陥を消去することも可能である。
【0022】
本発明においてガラス素材の浮上のために用いる気流となるガスとしては、特に制限はない。但し、加熱したガラス素材が治具と反応しないこと、さらに、加熱した治具の酸化による劣化を防止するという観点から、非酸化性ガスであることが好ましく、例えば、窒素等であることが適当である。また、還元性のガス、例えば水素ガス等を添加することもできる。
気流の流量は、気流を吹き出す口の形状やガラス素材の形状及び重量等を考慮して適宜変更できる。通常の場合、ガス流量は0.005〜20リットル/分の範囲がガラス素材の浮上に適している。但し、ガス流量が0.005リットル/分未満であると、ガラス素材の重量が300mg以上の場合、ガラス素材を十分に浮上させることができない場合がある。また、ガス流量が20リットル/分を超えると、ガラス重量が2000mg以上の場合でも、浮上治具上のガラスが大きく揺れて、加熱の際にガラス素材がプリフォームの場合、その形状が変化することがあるからである。
【0023】
ガラス素材の気流による浮上は、例えば、ガラス素材の径より小さい開口径を有する上方開口部から上方に流出する気流により行うことができる。図2に示すように、浮上治具支持体13に支持された浮上治具10の上方開口部11は、ガラス素材1の径より小さく、浮上治具10の上方開口部11の底12から上方に流出する気流により、ガラス素材1は上方開口部11上で浮上して、浮上治具10に接触しないように保持される。尚、ガラス素材1は、周囲に設けられたガラス軟化用ヒーター14により加熱される。また、浮上治具10は、図6に示すように2つに分割可能な構造(各部分を10a、10bで示す)を有することもできる。
【0024】
また、ガラス素材の気流による浮上は、ガラス素材の外径の曲率に近似する球面又は平面を有する多孔質面から流出する気流により行うこともできる。特に、ガラス素材がプリフォームである場合に、プリフォームの形状の維持が極めて容易であることから有効である。さらに、ガラス素材がガラスゴブの場合、多孔質面からの気流により浮上させながら加熱することで、ガラスゴブの表面欠陥を除去することもできる。例えば、図3に示すように、浮上治具支持体19に支持された、ガラス素材1の曲率に近似する球面を有する多孔質面18を有する浮上治具17上に、多孔質面18から流出する気流によって、ガラス素材1が浮上した状態で保持される。尚、浮上治具支持体14及び浮上治具15は、図6の場合と同様に、分割可能な構造を有することもできる。
【0025】
さらに、ガラス素材の加熱は、常温から所定温度に加熱する場合、ある程度の温度のガラス素材を用いさらに加熱する場合、さらに所定温度に既に加熱されているガラス素材を用いる場合を含む。例えば、ガラス素材がガラスゴブの場合、溶融ガラスから作製されたガラスゴブを冷却することなく用いることもできる。
【0026】
本発明では、加熱軟化したガラス素材の予熱した成形型への移送は、例えば、前記被成形ガラス素材を吸引保持することにより、または軟化したガラス素材を落下させることにより行うことができる。
ガラス素材の吸引保持は、例えば、図2に示す移動可能な下方開口部16を有する吸引保持装置15により行うことができる。下方開口部16は内部に吸引する、例えば減圧ポンプや真空ポンプ等に連絡しており、下方開口部16にガラス素材を吸引保持することができる。浮上治具10の上で加熱されて軟化したガラス素材1は、移動可能な吸引保持装置15の下方開口部16に吸引保持され、図4に示すように成形型の下型34の成形面40上に移送する。次いで図5に示すように軟化したガラス素材1を前記下型34の成形面40と上型35の成形面41とで押圧成形することでガラス成形体2を得ることができる。
【0027】
加熱軟化したガラス素材の移送は、該ガラス素材を落下させることにより行うこともできる。ガラス素材の落下は、例えば、ガラス素材を加熱するために用いる浮上治具が2つ以上に分割移動して、下方が開口することにより行うことができる。例えば、図6に示すように、浮上治具10上でガラス素材1を加熱してガラス素材1が軟化したら、図7に示すように浮上治具10が水平に2つの部分10aと10bに分かれて、相互に反対方向(図中では左右)に移動することで、ガラス素材1は落下する。その際、落下するガラス素材1の受けとして成形型の下型34を設置しておくことで、下型34の成形面40上にガラス素材1を移送することができる。
【0028】
さらに、本発明では、加熱軟化したガラス素材を所定の成形面上に落下移動させる目的で、ガイド手段を用いることができる。例えば、図6、7に示すように、浮上治具10の上部に、ガラス素材1の最外径と適度なクリアランスが保てる内径寸法を有する筒形のガイド手段50(分割可能な部分50a、50bからなる)を設けることで、成形型の中心にガラス素材1を落下させることができる。但し、ガイド手段は、浮上治具の分割移動の際に生じるガラス素材のずれを防止できるものであれば、構造等に特に制限はない。例えば、筒形に限らず、格子状に配置された複数のパイプや対向する2枚以上の板であることもできる。また、ガイド手段は、成形の際に上型がガラス素材を保持した下型の上に移動して押圧成形することを考慮して、分割移動可能な構造とすることもできる。
【0029】
ガラス素材を加熱するために用いる浮上治具の分割移動の方式には特に制限はない。例えば、上記のように水平に浮上治具が移動する場合、浮上治具は3つ又は4つに分割し、3方向(120°づつ異なる方向)又は4方向(90°づつ異なる方向)に移動して、ガラス素材を落下させることもできる。加熱軟化したガラス素材を落下移動させることで、ガラス素材を短時間で成形型内に移送することが可能である。
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、プレス成形に要するサイクル時間を大幅に短縮できる、加熱軟化したガラスプリフォーム等のガラス素材を予熱した成形型で押圧成形することによりガラス光学素子を製造する方法であって、コバ厚の薄いレンズ等でも安定して得られ、形状転写性も良好であるガラス光学素子の成形方法を提供することができる。
さらに本発明によれば、ヒケや面形状の歪み等の表面欠陥がなく高い面精度を有するガラス光学素子の成形方法を提供することができる。
さらに本発明によれば、ヒケや面形状の歪み等の表面欠陥がなく高い面精度を有し、中心肉厚が許容公差内にあるガラス光学素子を製造できるガラス光学素子の成形方法を提供することができる。
即ち、本発明によれば、成形型とガラスプリフォームを一緒に加熱する方式の従来技術(5〜20分/サイクル)に比べれば、プレス成形に要するサイクル時間を大幅に短縮して、かつ表面欠陥がなく高い面精度のガラス光学素子を製造することができる。
また、本発明によれば、成形面に対するガラス融着(固着)を完全に防止しつつガラス光学素子の成形方法を提供することができる。
【0031】
【実施例】
次に実施例により本発明を説明する。
実施例1-1〜1-5
プレス成形用型
プレス成形用型は、図1に示すように、基盤材料として炭化ケイ素(SiC)焼結体31を用い、研削によりプレス成形型形状に加工後、更に成形面側にCVD法により炭化ケイ素膜32を形成して、更に研削研磨して製造されるべきガラス成形体に対応する形状に鏡面仕上げして成形型基盤を得た。更に成形型基盤の炭化ケイ素膜32上に、i-カーボン(ダイヤモンドライクカーボン)膜33をイオンプレーティング法により500Å成膜して成形面40を有する、φ18mm(芯取後φ15mm)両凸ガラスレンズ用の下型34を得た。
図5に示す上型35も、上記下型34と同様の方法によって得られた。上型35及び下型34は、図5に示すように、同軸上にセットされ、プレス成形の際には、上型35と下型34とこれをガイドする案内型36から成形型39が構成されている。さらに上型35の上面の上には、2次加圧用の押し棒45が設けられている。
下型34及び上型35の加熱は、胴型37外周に取り付けた成形型ヒーター44で行い、成形型支持台38の下部より下型34内に挿入した型測温用熱電対42にて制御される。更に胴型37の温度は、胴型37内に挿入した胴型測温用熱電対43にて測温される。
【0032】
浮上治具及び移送手段
上述の成形型加熱機構を有する同一密閉チャンバー(図示せず)内には、図2に示す浮上治具及び移送手段も設けられている。
まず、ガラス素材(プリフォーム)1を加熱軟化するガラス軟化ヒーター14が設けられ、このガラス軟化ヒーター14内には浮上治具支持台13にセットされたグラッシーカーボン浮上治具10(以下、GC浮上治具と呼ぶ)が配置されている。さらに、ガラス素材1は、浮上治具支持台13の内部からGC浮上治具10下部へと供給される表1に示される流量の98%N2+2%H2ガス(例1-1〜1-3)又はN2ガス(例1-4〜1-5)の噴出によって、浮上保持される。
また、ガラス軟化ヒーター14外には、垂直及び水平方向に移動可能なグラッシーカーボンバキュームパッド15(以下、GCバキュームパッドと呼ぶ)があり、通常は、GC浮上治具10上方で待機している。
【0033】
予備加熱及びプレス工程
上述のプレス成形機構及びガラス加熱機構が収められた成形機の密閉チャンバー(図示せず)内を真空排気した後、前記98%N2+2%H2ガス又はN2ガスを導入し、密閉チャンバー内を同ガス雰囲気とした。
次に、バリウム硼珪酸塩光学ガラスからなるプリフォーム1(表面欠陥のない鏡面を有するマーブル形状の熱間成形品、重量1000mg、転移点534℃、屈伏点576℃)を用いた例を示す。成形型ヒーター44にて、型測温用熱電対43で測温した上型35及び下型34の温度(成形型温度)が、表1に示すガラスの粘度に相当する温度になるまで加熱し同温度で保持した。尚、ガラスの粘度と温度との関係は以下のとおりである。
ガラスの粘度 温度
109 ポアズ 614℃
1010 ポアズ 592℃
1011 ポアズ 572℃
1012 ポアズ 554℃
1012.7ポアズ 543℃
1013.4ポアズ 534℃
1014.5ポアズ 518℃
【0034】
一方、ガラス軟化ヒーター14にて、GC浮上治具10上のガラスプリフォーム9の温度を、ガラスの粘度が表1に示す粘度に相当する温度まで加熱し、浮上軟化させる。尚、ガラスの粘度と温度との関係は以下のとおりである。
ガラスの粘度 温度
105.5 ポアズ 718℃
106.4 ポアズ 686℃
107.3 ポアズ 658℃
108.2 ポアズ 634℃
108.8 ポアズ 619℃
そして、浮上軟化したプリフォーム1を、ガラス軟化ヒーター14外のGC浮上治具10上方で待機していたGCバキュームパッド15が、プリフォーム1のところまで下降し吸引保持する。この際、GCバキュームパッドの温度は、ガラス軟化ヒーター14からの輻射熱によって、300〜400℃に加熱されているが、低温であるためガラスが融着することはない。
【0035】
次に、図4に示すように、プリフォーム1を保持したGCバキュームパッド15は、下型34上方まで速やかに移動し、再び下型34の成形面40近傍まで下降すると同時に吸引を停止して、下型34の成形面40上にプリフォーム1を載せる。その後、GCバキュームパッド15は下型34上方より退き、元の待機位置まで戻るので下型34上部には何ら障害物がなくなり、瞬時に成形型支持台38が下型34を、下型34の同軸上方に成形型支持台38ごと固定セットしてある上型35まで上昇させる。図5に示すように、上型35と下型34及びこれをガイドする案内型36で構成される成形型39内で、プリフォーム1を10秒間100kg/cm2の圧力にて加圧成形して、下型34のフランジ部と案内型36の底面が接触したところをもって最終製品の肉厚よりも30μm大きい肉厚とする。その一方で、第1のシリンダーにて加圧開始した5秒後から第1のシリンダーの内側にある第2のシリンダーに接続された押し棒45にて上型35の裏面に20kg/cm2(1-1〜1-5)の圧力でガラス成形体2及び成形型39を加圧保持する。次いで、成形型ヒーター44を断電することで放冷して、表1に成形時間(初期加圧時間(10秒間)+2次加圧時間)として示す時間の経過後に、型測温用熱電対42で測温した上型35及び下型34の温度が表1に離型時型温度として示す温度になり、ガラス成形体2が所定の肉厚になったところで、成形型39からガラス成形体2を離型し取り出した。尚、ガラスの粘度と温度との関係は前記のとおりである。
【0036】
このようにして得られたガラス成形体2(外径φ18mm、肉厚2.9mm、コバ厚1.0mmの両凸レンズ)のアニール後の性能を、干渉計による面精度と、目視外観及び実体顕微鏡による表面状態について評価し、結果を表1に1-1〜1-5として示す。評価は、同一方法で得られた5個のレンズについて行った(以下の実施例でも同様である)。その結果、いずれのレンズも良好なものであった。
【0037】
実施例2-1〜2-5
プレス成形用型
プレス成形用型は、押し棒45を有さない以外実施例1と同様の図8に示すものを用いた。
浮上治具
上述の成形型加熱機構を有する同一密閉チャンバー(図示せず)内には、図6に示す浮上治具10(10a、10b)、ガイド手段50(50a、50b)、ガラス素材を加熱軟化するガラス軟化ヒーター(図示せず))が設けられている。浮上治具10は、グラッシーカーボンからなる分割浮上治具(以下、GC分割浮上治具と呼ぶ)であり、ガイド手段50も同材質による分割円筒形ガイド(以下GC分割円筒形ガイドと呼ぶ)である。さらに、ガラス素材1は、GC分割浮上治具内部から供給される表1に示す流量の98%N2+2%H2ガスの噴出によって、浮上保持される。
【0038】
加熱軟化及びプレス工程
上述のプレス成形機構及びガラス加熱機構が収められた成形機の密閉チャンバー内を真空排気した後、98%N2+2%H2ガスを導入し、密閉チャンバー内を同ガス雰囲気とした。
次に、図8に示す成形型ヒーター44にて、型測温用熱電対43で測温した上型35及び下型34の温度が、実施例1と同様のガラス素材1の粘度が1011ポアズに相当する572℃(例2-1〜2-3、2-5)又は1012ポアズに相当する554℃(例2-4)になるまで加熱し同温度で保持した。尚、このときは、上型と下型は別の位置でそれぞれ加熱され、成形の際に図8に示すように、一体の成形型として組み立てられる。
一方、ガラス軟化ヒーターにて、GC分割浮上治具10上のガラス素材1の温度を、表1に示すように、ガラスの粘度105.5ポアズに相当する温度である718℃まで加熱保持する。
【0039】
次に、加熱軟化したガラス素材1を浮上保持したGC分割浮上治具10は下型34直上まで速やかに移動し、次いで、図7に示す如く、GC分割浮上治具10aとGC分割浮上治具10bがそれぞれ左右水平方向へ瞬時に移動して開口することで、下型34の成形面40にガラス素材1を落下させて載せる。この時、GC分割浮上治具10の直上には、ガラス素材1の最外径に対して適度なクリアランスを保つような内径寸法を有するGC分割円筒形ガイド50が設置されており、GC分割浮上治具10が開口してガラス素材1が落下する際に、ガラス素材1と下型34とのセッティングズレ量が最小限となるようなガイドの役目を果たす。
【0040】
ガラス落下後は、GC分割円筒形ガイド50aともう一方の50bがそれぞれ左右水平方向へ移動して開口する。そのため、下型34上部には何ら障害物がなくなり、瞬時に成形型支持台38が下型34を、下型34の同軸上法に成形型支持台38ごと固定セットしてある上型35まで上昇させ、図8に示すように上型35と下型34をガイドする案内型36で構成される成形型内で、ガラス素材1を10秒間100kg/cm2の圧力にて加圧成形して所定の肉厚とした後、圧力を一気に50kg/cm2とすると同時に、この圧力で保持したガラス成形体2及び成形型を、成形型ヒーター14を断電することで放冷して、表1に成形時間(初期加圧時間(10秒間)+2次加圧時間)として示す時間経過秒後に型測温用熱電対43で測温した上型35及び下型34の温度が、表1に離型時型温度として示す粘度に相当する温度になったところで、成形型からガラス成形体2を離型し取り出した。
【0041】
このようにして得られたガラス成形体2(外径φ18mm、肉厚2.9mm、コバ厚1.0mmの両凸レンズ)のアニール後の性能を、干渉計による面精度と、目視外観及び実体顕微鏡による表面状態について評価し、結果を表1に示す。評価は、同一方法で得られた5個のレンズについて行った。
表1には、軟化したガラス素材1の温度、ガラス素材1の形状、GC分割浮上治具から流出するガス流量、成形型温度、離型温度を変化させて得られたガラス成形体の評価結果を示す。その結果、いずれの成形体(レンズ)も良好なものであった。
【0042】
実施例3-1〜3-3
初期加圧時間を5秒(例3-1)、30秒(例3-2)又は55秒(例3-3)とした以外は、実施例1-1と同様にしてガラス成形体(外径φ18mm、肉厚2.9mm、コバ厚1.0mmの両凸レンズ)を得た。アニール後のガラス成形体の性能を、干渉計による面精度と、目視外観及び実体顕微鏡による表面状態について評価した。結果を表1に示す。
【0043】
実施例4-1〜4-2
成形型39の放冷を初期加圧(100kg/cm2の圧力での加圧)と同時(例4-1)または初期加圧開始5秒後(例4-2)に開始した以外は実施例1-1と同様に操作してガラス成形体(外径φ18mm、肉厚2.9mm、コバ厚1.0mmの両凸レンズ)を得た。アニール後のガラス成形体の性能を、干渉計による面精度と、目視外観及び実体顕微鏡による表面状態について評価した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
ガラス成形体の評価は、以下のように行った。
面精度
○:アス、くせ 0.5本以下
◎:アス、くせ 0.2本以下
表面状態
◎:良好
【0046】
上記実施例1〜4においてサイクルタイムは成形時間と型温度の回復時間(離型時の温度から成形開始時温度までの昇温時間)との合計である。本実施例では成形型の加熱に抵抗加熱を用いたため、上記回復時間は約35秒であった。従って、サイクルタイムは約85〜165秒間であった。
尚、成形型の加熱を高周波加熱や赤外線加熱を用いることにより、上記回復時間は約10秒にすることができ、サイクルタイムをその分短縮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明で用いた成形型の下型の概略説明図である。
【図2】 本発明で用いた浮上治具上でのガラスプリフォームの浮上軟化及び移送方法の概略説明図である。
【図3】 本発明で用いた浮上治具上でのガラスプリフォームの浮上軟化方法の概略説明図である。
【図4】 軟化したガラスプリフォームの成形型への移送方法の概略説明図である。
【図5】 本発明で用いた成形型での押圧成形の概略説明図である。
【図6】 軟化したガラスプリフォームの成形型への移送方法の概略説明図である。
【図7】 軟化したガラスプリフォームの成形型への移送方法の概略説明図である。
【図8】 成形型での押圧成形の概略説明図である。
【符号の説明】
1 ・・・ ガラス素材
2 ・・・ ガラス成形体
10、17 ・・・ 浮上治具
10a、10b ・・・ 分割浮上治具
11 ・・・ 浮上治具の上方開口部
12 ・・・ 浮上治具の上方開口部の底
13、19 ・・・ 浮上治具支持体
14 ・・・ ガラス軟化用ヒーター
15 ・・・ 吸引保持装置
16 ・・・ 下方開口部
18 ・・・ 多孔質面
34 ・・・ 下型
35 ・・・ 上型
36 ・・・ 案内型
37 ・・・ 胴型
40、41 ・・・ 成形面
45 ・・・ 押し棒
50a、50b ・・・ ガイド手段
 
訂正の要旨 特許第2952185号の明細書中、特許請求の範囲の減縮を目的として、
a,特許請求の範囲の請求項1、2、10及び12を削除し、
明りょうでない記載の釈明を目的として、
b,特許請求の範囲の請求項3の「前記ガラスプリフォームの押圧成形を3秒間以上行う請求項1または2に記載の成形方法。」を「加熱軟化したガラスプリフォームを、予熱した成形型て押圧成形することによりガラス光学素子を成形する方法であって、前記ガラスプリフォームの加熱の温度を前記ガラスの粘度が109ポアズ未満に相当する温度とし.成形型の予熱の温度を前記ガラスの粘度が109〜1012ボアズに相当する温度とし、前記加熱軟化したガラスプリフォームを前記予熱した成形型で押圧成形し、前記成形面近傍の温度が前記ガラスプリフォームの粘度が1012ポアズに相当する温度以下になった後に成形型からガラス成形体を離型することを特徴とするガラス光学素子の成形方法であって、前記ガラスプリフォームの押圧成形を3秒間以上行う成形方法。」に訂正し、
c、特許請求の範囲の請求項4の「前記ガラスプリフォームの押圧成形を3秒間以上行う請求項1または2に記載の成形方法。」を「加熱軟化したガラスプリフォームを、予熱した成形型て押圧成形することによりガラス光学素子を成形する方法であって、前記ガラスプリフォームの加熱の温度を前記ガラスの粘度が109ポアズ未満に相当する温度とし.成形型の予熱の温度を前記ガラスの粘度が109〜1012ボアズに相当する温度とし、前記加熱軟化したガラスプリフォームを前記予熱した成形型で押圧成形し、前記成形面近傍の温度が前記ガラスプリフォームの粘度が1012ポアズに相当する温度以下になった後に成形型からガラス成形体を離型することを特徴とするガラス光学素子の成形方法であって、前記押圧成形は、初期加圧と2次加圧からなり、前記初期加圧を3秒間以上行う成形方法。」に訂正し、
d、特許請求の範囲の請求項11の「成形型の成形面が非晶質及び/又は結晶質のグラファイト及び/又はダイヤモンドの単一成分層又は混合層からなる炭素膜で構成されている請求項1〜10のいずれか1項に記載の成形方法。」を「加熱軟化したガラスプリフォームを、予熱した成形型で押圧成形することによりガラス光学素子を成形する方法であって、前記ガラスプリフォームの加熱の温度を前記ガラスの粘度が109ポアズ未満に相当する温度とし.成形型の予熱の温度を前記ガラスの粘度が109〜1012ボアズに相当する温度とし、前記加熱軟化したガラスプリフォームを前記予熱した成形型で押圧成形し、前記成形面近傍の温度が前記ガラスプリフォームの粘度が1012ポアズに相当する温度以下になった後に成形型からガラス成形体を離型することを特徴とするガラス光学素子の成形方法であって、前記成形型の成形面が非晶質及び/又は結晶質のグラファイト及び/又はダイヤモンドの単一成分層又は混合層からなる炭素膜で構成されている成形方法。」に訂正し、
e,特許請求の範囲の請求項13における「・・・請求項1〜12のいずれか1項に記載の成形方法」を「・・・請求項3〜9及び11のいずれか1項に記載の成形方法」に訂正する。
異議決定日 2001-06-27 
出願番号 特願平7-259015
審決分類 P 1 652・ 04- XA (C03B)
最終処分 決定却下  
前審関与審査官 山田 勇毅  
特許庁審判長 加藤 孔一
特許庁審判官 西村 和美
野田 直人
登録日 1999-07-09 
登録番号 特許第2952185号(P2952185)
権利者 ホーヤ株式会社
発明の名称 ガラス光学素子の成形方法  
代理人 釜田 淳爾  
代理人 釜田 淳爾  
代理人 塩澤 寿夫  
代理人 今村 正純  
代理人 今村 正純  
代理人 塩澤 寿夫  

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