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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01G
管理番号 1049931
異議申立番号 異議2000-72662  
総通号数 25 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-07-10 
確定日 2001-07-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2999821号「ペロブスカイト型化合物微粉体の製造方法」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2999821号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.本件の経緯
本件特許第2999821号は、平成1年8月21日に出願した特願平1-215198号に基づく優先権を主張して、平成2年8月13日に国際出願し、平成11年11月5日に設定登録され、平成12年1月17日に特許公報に掲載されたところ、同年7月10日に金田嘉郎から、同年7月17日に戸田工業株式会社から、同年7月17日に堺化学工業株式会社から特許異議の申立を受けたものであって、その後取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年3月9日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否
(1)訂正の内容
(a-1)特許請求の範囲の請求項1を、「水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させ、得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体を1000〜1100℃でか焼し、得られたか焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除くことを特徴とする平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体の製造方法。」と訂正する。
(なお、「か焼」の「か」は実際には漢字であり、便宜上ひらがなで表現している。以下においても同様。)
(a-2)特許請求の範囲の請求項2〜11を削除する。
(b)発明の名称を、「正方晶チタン酸バリウム微粉体の製造方法。」と訂正する。
(c-1)本件明細書第1頁4〜5行(本件特許公報第3欄23〜24行)の「ペロブスカイト型化合物」を、「平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-2)本件明細書第3頁25〜26行、27行、第4頁3行(本件特許公報第4欄47〜48行、49行、第5欄3行)の「ペロブスカイト型化合物」を、「チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-3)本件明細書第4頁6〜15行(本件特許公報第5欄6〜15行)の「A群元素の化合物とB群元素の化合物の混合水溶液をA群元素過剰のA/B原子比で湿式反応させたA群元素過剰のペロブスカイト型化合物粉体が、A/B原子比が1付近のペロブスカイト型化合物粉体に比べて、か焼時の粒成長が高温で起こること、そして上記A群元素過剰のペロブスカイト型化合物粉体を粒成長の起こる前の温度でか焼し、得られたか焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のA群元素を取り除くことにより、反応が充分に進行し、かつ結晶性が良好なペロブスカイト型化合物」を、「水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させたバリウム過剰のチタン酸バリウムが、Ba/Ti原子比が1のチタン酸バリウム粉体に比べて、か焼時の粒成長が高温で起こること、そして上記バリウム過剰のチタン酸バリウム粉体を粒成長の起こる前の1000〜1100℃でか焼し、得られたか焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除くことにより、反応が充分に進行し、かつ結晶性が良好な正方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-4)本件明細書第4頁17行から第5頁2行(本件特許公報第5欄17〜29行)の「Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属元素および(または)Pbなどの2価金属元素よりなるA群元素の化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物と、Ti、Zr、Hf、Snなどの4価金属元素および(または)Zn、Ni、Co、Mg、Fe、Sbなどの2価もしくは3価金属元素とNb、Sbなどの5価金属元素との複合金属元素よりなるB群元素の化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物とのA/B原子比がA群元素過剰の混合物水溶液を湿式反応させ、得られたA/B原子比がA群元素過剰の反応生成物粉体を粒子の成長が起こる前の温度でか焼し、得られたか焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のA群元素を取り除くことを特徴とする平均粒径0.3μm以下のペロブスカイト型化合物」を、「水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させ、得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体を1000〜1100℃でか焼し、得られたか焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除くことを特徴とする平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-5)本件明細書第5頁4〜9行(本件特許公報第5欄31〜36行)の「本発明の・・・塩などがあげられる。」を削除する。
(c-6)本件明細書第5頁10〜11行(本件特許公報第5欄37〜38行)の「A群元素の化合物とB群元素の化合物との反応にあたり,A群元素の化合物やB群元素の化合物」を、「水酸化バリウムと含水酸化チタンとの反応にあたり、水酸化バリウムや含水酸化チタン」と訂正する。
(c-7)本件明細書第5頁14〜15行(本件特許公報第5欄41〜42行)の「B群元素の化合物としてB群元素の水酸化物または酸化物を用いる場合は、それら」を、「含水酸化チタンは、そ」と訂正する。
(c-8)本件明細書第5頁18〜20行(本件特許公報第5欄45〜47行)の「A群元素の化合物、B群元素の化合物とも、反応時に溶解するものを除いては、得ようとするペロブスカイト型化合物」を、「水酸化バリウムは反応時に溶解するので粒径に関して制約されることはないが、含水酸化チタンは、得ようとする正方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-9)本件明細書第5頁22〜26行(本件特許公報第5欄49行から第6欄3行)の「A群元素の化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物とB群元素の化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物は、A群元素過剰のA/B原子比に混合される。本発明において、上記A/B原子比とはA群元素とB群元素との原子比をいう。」を、「水酸化バリウムと含水酸化チタンは、Ba/Ti原子比が1.01〜1.40になるように混合される。本発明において、上記Ba/Ti原子比とはBaとTiとの原子比をいう。」と訂正する。
(c-10)本件明細書第5頁28行から第6頁1行(本件特許公報第6欄5〜6行)の「湿式反応としては、共沈法、加水分解法、水熱合成法、常圧加熱反応法などが採用される。」を、「反応方法としては、常圧加熱反応法が採用される。」と訂正する。
(c-11)本件明細書第6頁2〜16行(本件特許公報第6欄7〜21行)の「共沈法は、A群・・・度で反応させる方法である。」を削除する。
(c-12)本件明細書第6頁17行(本件特許公報第6欄22行)の「アルカリ性」を、「水酸化バリウムと含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の」と訂正する。
(c-13)本件明細書第6頁19〜22行(本件特許公報第6欄24〜27行)の「本発明では・・・使い分ければよい。」を削除する。
(c-14)本件明細書第6頁23行から第7頁3行(本件特許公報第6欄28〜36行)の「湿式法によって得られた反応生成物、すなわち、ペロブスカイト型化合物、あるいは共沈水酸化物混合物、有機酸複合塩などは、必要に応じて、水洗、濾過される。これは、ペロブスカイト型化合物成分以外の化合物を湿式反応させるために使用した場合に、か焼後も残る元素を除去するためである。たとえば、強アルカリ中で反応させた場合には、Na、Kなどを除去する必要があるが、これらの場合は、炭酸または酢酸などで中和し、水洗、濾過すればよい。」を、「常圧加熱反応法によって得られた反応生成物、すなわち、チタン酸バリウムは、必要に応じて、水洗、濾過される。」と訂正する。
(c-15)本件明細書第7頁5行、8行、13〜14行、第8頁4行、14行、21行、第9頁5行、11〜12行、15行、25行(本件特許公報第6欄38行、41行、46〜47行、第7欄14〜15行、25行、32行、44〜45行、50行、第8欄4行、14行)の「A群元素」を、「バリウム」と訂正する。
(c-16)本件明細書第7頁11〜12行(本件特許公報第6欄44〜45行)の「A/B原子比がA群元素過剰の反応生成物粉体は、粒子の成長が起こる前の温度」を、「Ba/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体は、1000〜1100℃」と訂正する。
(c-17)本件明細書第7頁13行、第8頁4行、6行、14行、15行、17行、19行、23行、第9頁10行、11行、12行(本件特許公報第6欄46行、第7欄15行、17行、25行、26行、28行、30行、34行、49行、50行、第8欄1行)の「A/B原子比」を、「Ba/Ti原子比」と訂正する。
(c-18)本件明細書第7頁16〜22行(本件特許公報第6欄49行から第7欄6行)の「湿式法で得られる反応生成物は、反応生成物がペロブスカイト型化合物の場合、その種類によって多少異なるが、通常は平均粒径が0.3μm以下で、ほとんどが0.05〜0.15μmの粉体である。反応生成物が共沈水酸化物混合物や有機酸複合塩の場合は、500〜900℃で熱処理すると、平均粒径が0.3μm以下で、ほとんどが0.05〜0.15μmのペロブスカイト型化合物粉体が得られる。そして、これら」を、「常圧加熱反応法で得られる反応生成物は、通常は平均粒径が0.3μm以下で、ほとんどが0.05〜0.15μmの粉体である。こ」と訂正する。
(c-19)本件明細書第8頁1〜3行(本件特許公報第7欄12〜14行)の「ペロブスカイト型化合物の種類によって異なるが、同一のペロブスカイト型化合物の場合は、A/B原子比によって変わり、A/B原子比」を、「チタン酸バリウムの場合、Ba/Ti原子比によって変わり、Ba/Ti原子比」と訂正する。
(c-20)本件明細書第8頁7〜13行(本件特許公報第7欄18〜24行)の「通常、粒子成長の起こる温度より低く、かつA/B=1.0のばあいに粒子成長が起こる温度より高い温度でか焼される。好ましくは、(粒子成長発生温度-20℃)以下、なかんずく(粒子成長発生温度-50℃)以下で、(粒子成長発生温度-300℃)以上、なかんづく(粒子成長発生温度-200℃)以上の温度でか焼される。」を、「粒子成長の起こる温度より低く、かつBa/Ti=1.0の場合に粒子成長が起こる温度より高い温度の1000〜1100℃でか焼される。」と訂正する。
(c-21)本件明細書第8頁15〜17行(本件特許公報第7欄26〜28行)の「1.01〜1.40の範囲、好ましくは1.01〜1.10の範囲のものである。すなわち、ベロブスカイト型化合物の種類によっても異なるが、」を、「1.01〜1.40の範囲のものである。すなわち、」と訂正する。
(c-22)本件明細書第8頁20行(本件特許公報第7欄30〜31行)の「ベロブスカイト型化合物」を、「チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-23)本件明細書第8頁24行(本件特許公報第7欄35行)の「湿式」を、「常圧加熱反応」と訂正する。
(c-24)本件明細書第9頁6行(本件特許公報第7欄45行)の「温度」を、「温度である1000〜1100℃」と訂正する。
(c-25)明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書第9頁23行(本件特許公報第8欄12〜13行)の「ベロブスカイト型化合物の種類や」を削除する。
(c-26)本件明細書第10頁7〜11行(本件特許公報第8欄24〜28行)の「平均粒径0.3μm以下のベロブスカイト型化合物微粉体(ベロブスカイト型化合物の種類によって多少異なるが、ほとんどが平均粒径0.1μm前後である)は、従来の湿式法によるベロブスカイト型化合物」を、「平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体(ほとんどが平均粒径が0.1μm前後である)は、従来の湿式法によるチタン酸バリウム」と訂正する。
(c-27)本件明細書第10頁18行(本件特許公報第8欄35行)の「0.3μm以下」を、「0.05〜0.3μm」と訂正する。
(c-28)本件明細書第11頁11行(本件特許公報第9欄6行)の「新規な」を削除する。
(c-29)本件明細書第11頁12行(本件特許公報第9欄7行)の「ベロブスカイト型化合物」を、「平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-30)本件明細書第13頁21行(本件特許公報第10欄22行)の「以下の各実施例など」を、「次に示す比較例1」と訂正する。
(c-31)本件明細書第13頁23行から第23頁24行(本件特許公報第10欄24行から第16欄9行)の「実施例2・・・チタン・ニオブ鉄酸バリウム化合物微粉体を得た。」を削除する。
(c-32)本件明細書第24頁13行(本件特許公報第16欄26行)の「〜実施例5」を削除する。
(c-33)本件明細書第24頁18行(本件特許公報第16欄31行)の「実施例14」を、「実施例2」と訂正する。
(c-34)明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書第27頁下から2行(本件特許公報第19欄42行)の「チタン酸バリウム」を、「正方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-35)本件明細書第27頁末行(本件特許公報第19欄43行)の「チタン酸バリウム」を、「擬似立方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-36)明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書第28頁3〜4行(本件特許公報第19欄46〜47行)の「チタン酸バリウム」を、「正方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-37)本件明細書第28頁4行(本件特許公報第19欄47行)の「チタン酸バリウム」を、「擬似立方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-38)本件明細書第28頁7〜8行(本件特許公報第19欄50行から第20欄42行)の「チタン酸バリウムが比較例1のチタン酸バリウム」を、「正方晶チタン酸バリウムが比較例1の擬似立方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-39)本件明細書第28頁10〜11行(本件特許公報第20欄44〜45行)の「チタン酸バリウム」を、「正方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-40)本件明細書第28頁11行(本件特許公報第20欄45行)の「チタン酸バリウム」を、「疑似立方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-41)本件明細書第28頁15行(本件特許公報第20欄49行)の「チタン酸バリウムが比較例1のチタン酸バリウム」を、「正方晶チタン酸バリウムが比較例1の疑似立方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(2)訂正の目的
(a-1)及び(a-2)の訂正について
上記(a-1)の訂正は、訂正前の請求項1に請求項7の内容を取り込んで、A群元素がBa、B群元素がTiの場合に限定して、Baの化合物が水酸化バリウムで、Tiの化合物が含水酸化チタンであり、平均粒径0.3μ以下のペロブスカイト型化合物微粉体が平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体であることを規定し、それに加えてさらに、「A群元素過剰の混合物水溶液」を「Ba/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液」、「湿式反応」を「常圧加熱反応」、「得られたA/B原子比がA群元素過剰の反応生成物粉体」を「得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体」、「粒子の成長が起こる前の温度」を「1000〜1100℃」に限定したものである。
そして、訂正後の請求項1では「ペロブスカイト型化合物」という語句は使われていないが、正方晶チタン酸バリウムは、ペロブスカイト型化合物の1種であるから、上記(a-1)の訂正は、「ペロブスカイト型化合物」を「正方晶チタン酸バリウム」に限定しているものである。
したがって、上記(a-1)の訂正は、特許請求の範囲を減縮を目的とするものである。
また、上記(a-2)の訂正は、特許請求の範囲の請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮を目的とするものである。
(b)の訂正について
上記(b)の訂正は、本件明細書の発明の名称を、訂正後の請求項1に記載の発明に合わせて、「正方晶チタン酸バリウム微粉体の製造方法」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮に伴って生じた明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(c-1)〜(c-41)の訂正について
上記(c-1)〜(c-41)の訂正は、上記(a-1)、(a-2)の訂正に伴い、発明の詳細な説明中の本件発明に関する説明を、訂正後の請求項1のみに絞って整理し直し、また、訂正後の請求項1を外れる実施例を削除しただけのものであるから、特許請求の範囲の減縮に伴って生じた明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(3).新規事項の有無
上記(a-1)の訂正は、訂正前の請求項1および請求項7、本件明細書第8頁14〜16行、第9頁10〜13行、第5頁28行から第6頁1行、第9頁3〜5行(本件特許公報第7欄25〜27行、第7欄49行から第8欄2行、第6欄5〜6行、第7欄42〜44行)等の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものである。また、その他の訂正事項である、上記特許請求の範囲の訂正に伴ないそれと整合させようとする訂正や削除等の訂正が願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
(4)拡張・変更の存否
上記(a-1)、(a-2)、(b)および(c-1)〜(c-41)の訂正は、その内容からみて、実質上特許請求の範囲を拡張したり、変更したりするものでないことは明らかである。
(5)訂正の認否
上記の項で検討したように、上記訂正は、特許法第120条の4の第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書および第2項の規定に適合するから、上記訂正は認める。
3.特許異議申立についての判断
(1)本件訂正発明
本件訂正発明は、上記訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲に記載された次のものである。
「[請求項1]水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させ、得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体を1000〜1100℃でか焼し、得られたか焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除くことを特徴とする平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体の製造方法。」
(2)特許異議申立人の主張
(2-1)金田嘉郎の主張
特許異議申立人金田嘉郎は、甲第1〜2号証および参考資料1を提出して次の主張をしている。
(a)本件請求項1,2,6,7に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
(b)本件請求項9,10,11に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
(2-2)戸田工業株式会社の主張
特許異議申立人戸田工業株式会社は、甲第1〜2号証および参考資料を提出して次の主張をしている。
(c)本件請求項9,10,11に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証または甲第2号証に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
(2-3)堺化学工業株式会社の主張
特許異議申立人堺化学工業株式会社は、甲第1〜9号証を提出して次の主張をしている。
(d)本件請求項9および10に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜6号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
(e)本件請求項9〜11に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(f)本件請求項1〜8に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜4号証および甲第6〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)検討・判断
上記(a)の主張について
特許異議申立人金田嘉郎の提出した甲第1号証(特開昭61-146713号公報)には、「含水酸化チタンと、水酸化ストロンチウムおよび水酸化バリウムまたは水酸化バリウムと、アルカリ金属水酸化物とを、チタン換算で120〜10,000倍モルの水の存在下60℃〜110℃で反応させることを特徴とするチタン酸バリウム・ストロンチウム固溶体またはチタン酸バリウムの製造方法。」(特許請求の範囲第1項)および「含水酸化チタンに対する水酸化ストロンチウムおよび水酸化バリウムの混合物または水酸化バリウムのモル比を1.0〜1.6の範囲とすることを特徴とする特許請求の範囲第1,2または3項いずれかに記載の製造法。」(特許請求の範囲第4項)等が記載されているものの、その方法で得られるチタン酸バリウムは立方晶(実施例2,3および比較例1を参照)であるから、甲第1号証に記載された発明は、正方晶チタン酸バリウム微粉体の製造方法である訂正後の本件請求項1に係る発明と相違していることは明らかである。
なお、特許異議申立人金田嘉郎は、参考資料1(「チタバリ系半導体」、(株)技献、1977年3月10日初版発行、第79-84頁 )の「仮焼(一次焼成)」の仮焼温度の記載を指摘しているが、その項の冒頭に「仮焼はBaCO3とTiO2→BaTiO3の固相反応が行われる工程である。」と記載されているように、それは、BaCO3とTiO2とからBaTiO3を得る固相反応について述べているものであるから、水の存在下60℃〜110℃で反応させてチタン酸バリウム・ストロンチウム固溶体またはチタン酸バリウムを製造する方法である甲第1号証の発明や、水酸化バリウムと含水酸化チタンとを常圧加熱反応させてチタン酸バリウムを製造する方法である訂正後の本件請求項1に係る発明と特に関係がない。
したがって、上記(a)の主張は理由がない。
上記(f)の主張について
特許異議申立人堺化学工業株式会社の提出した甲第1号証(「工業化学雑誌」、第71巻、第1号、1968、p.114-118)には、「チタン酸バリウム(BaTiO3)の湿式合成法」と題した久保輝一郎 外2名の研究報告が掲載されており、その「3 生成したBaTiO3の構造と性状」の項や図5〜9には、含水酸化チタンと水酸化バリウムから湿式で合成したBaTiO3を熱処理すると、1200℃以上で正方晶に変化し、粒径が増大すること等が記載されており、また、上記申立人が提出した甲第4号証(「セラミックス」、5[11]1970、第68-76頁)には、「エレクトロセラミック用粉末の化学的合成法」と題した佐々木宏の技術紹介記事が掲載されており、その「4.4湿式合成法」の項や図17や18には、ゲル状TiO2(水酸化チタン)とBa(OH)2より低温で得られたBaTiO3は立方晶系であるが、加熱と共に粒成長し、1000〜1100℃の処理で正方晶系になること等が記載されているものの、甲第1号証および甲第4号証には、得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物(チタン酸バリウム)粉体を1000〜1100℃でか焼し、得られたか焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除くことについて記載するところはない。
上記申立人が提出した甲第2号証(「日本化学会誌」、1975、No.6、p.985-990)には、「水熱反応による微粒チタン酸バリウムの合成」と題した金子正治 外1名の研究報告が掲載されており、その「3実験結果ならびに考察」の項には、オートクレーブ中で水酸化バリウムと含水酸化チタンを反応させチタン酸バリウムを合成する際の圧力、温度、時間ならびにBaO/TiO2比(B/T比)の影響についての実験報告が記載されており、生成物は、B/T比が小さいと立方晶ペロブスカイト構造で、B/T比が大きいと正方晶ペロブスカイト構造となること(「3.2X線回折」の項を参照)等が示されており、また、上記申立人が提出した甲第8号証(特開昭61-31345号公報)には、「(a)Mg、Ca、Sr、Ba及びPbよりなるA群元素から選ばれる少なくとも一種の水酸化物と、Ti、Zr、Hf及びSnよりなるB群元素から選ばれる少なくとも一種の水酸化物との水酸化物混合物を得る第一工程、(b)この水酸化物混合物を水熱反応させる第二工程、(c)次いで、水性媒体中に溶存し、及び/又は添加したA群元素を不溶化させる第三工程、とからなることを特徴とするペロブスカイト型化合物を含有する組成物の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)等が記載されており、実施例1等にはオートクレーブ中で水熱処理することによりチタン酸バリウム等を製造することが記載されているものの、甲第2号証および甲第8号証に記載された方法は、オートクレーブ中での水熱反応であり、「常圧加熱反応」ではない。
上記申立人が提出した甲第6号証(“Journal of The American Society”、Vol.49,No.6、1966年6月21日、p.291-295)には、「超微細粒径の強誘電体:I,超微細粒径のチタン酸塩粉末の合成」と題したKLARA KISS 外3名の研究報告が掲載されており、そのIIIの(1)アルカリ土類チタニル蓚酸塩の熱分解の項やTable Iには、バリウムチタニル蓚酸塩を975℃や1150℃で1時間熱分解すると正方晶系のチタン酸バリウムが得られる旨が示されており、また、上記申立人が提出した甲第7号証(「エレクトロニク・セラミクス’82 夏号 新海外セラミックス事情」、p.57-62)には、「高純度チタン酸バリウムの合成原料」と題した久高克也の研究報告が掲載されており、その「5.BaTiO(C2O4)2・4H2Oの熱分解」の項や図4には、シュウ酸塩の分解温度のBaTiO3粒径に及ぼす影響等が示されているが、それらは、蓚酸塩の熱分解によるものにすぎない。
上記申立人が提出した甲第3号証(特開昭59-39726号公報)には、「チタン化合物の加水分解生成物と水溶性バリウム塩とを強アルカリ水溶液中で反応させてチタン酸バリウム微粒子を生成するチタン酸バリウム微粒子の製造方法。」(特許請求の範囲)が記載されており、また、上記申立人が提出した甲第9号証(特開昭63-236713号公報)には、「Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属およびPbよりなるA群元素化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物と、Ti、Zr、HfおよびSnよりなるB群元素化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物との所定のA/Bモル比混合物水溶液を調製し、該混合物水溶液を常圧加熱反応あるいは水熱反応させた後、反応混合物を噴霧乾燥し、必要に応じてカ焼することを特徴とするペロブスカイト型化合物の無機微粉体の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)等が記載されているものの、甲第3号証の第2頁左下欄15〜16行や実施例1〜5、および、甲第9号証の実施例1〜4に示されているように、それらの方法で得られるチタン酸バリウム微粒子は立方晶系のものにすぎない。
そうすると、甲第1〜4号証および甲第6〜9号証には、訂正後の本件請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項であるところの「水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させ、得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体を1000〜1100℃でか焼し、得られたか焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除いて、平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体を製造する」という点は示されていない。
そして、訂正後の本件明細書の実施例2(訂正前の実施例14と同じ)の記載からみて、水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.30のスラリーを沸騰温度で3時間常圧加熱反応させ、得られたBa/Ti原子比1.031の反応生成物粉体(擬似立方晶のチタン酸バリウム微粉体)を1000℃で3時間か焼し、得られたか焼物を酢酸水溶液でPH調整(酢酸で洗浄しているの同じ)し、水洗、濾過して得られた実施例1の平均粒径0.2μmの正方晶のチタン酸バリウム微粉体と、実施例1と同様に反応を行った後、水洗、濾過し、得られたチタン酸バリウムケーキを再スラリー化し、酢酸でPH調製(酢酸で洗浄しているのと同じで過剰なBaを除去している)し、水洗、濾過して、得られたBa/Ti原子比1.001の擬似立方晶のチタン酸バリウム微粉体を900℃で3時間か焼した比較例1の平均粒径0.14μmの擬似立方晶のチタン酸バリウム微粉体をグリーンシートに加工した際、諸特性において前者が後者より優れていることは明らかである。このように、訂正後の本件請求項1に係る発明は、「水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させ、得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体を1000〜1100℃でか焼し、得られたか焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除いて、平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体を製造する」という上記の点を構成要件とすることにより格別の効果を奏するものといえる。
してみると、甲第1〜4号証および甲第6〜9号証の記載を総合したところで、訂正後の本件請求項1に係る発明は、それらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
したがって、上記(f)の主張は理由がない。
上記(b)の主張について
特許異議申立人金田嘉郎の提出した甲第2号証(特開昭61-91015号公報)には、「チタン酸性水溶液の加水分解生成物に水溶性バリウム塩を添加し、次いで水溶性炭酸塩にて中和して得た水和酸化チタンと炭酸バリウムの共沈殿物を濾過、洗浄し、しかるのち焼成することを特徴とするチタン酸バリウムの製造方法。」(特許請求の範囲第1項)等が記載されており、その実施例1等には正方晶系BaTiO3が得られたことが記載されているが、その方法は、水和酸化チタンと炭酸バリウムの共沈殿物を焼成するものにすぎず、甲第2号証には、訂正後の本件請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項であるところの「水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させ、得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体を1000〜1100℃でか焼し、得られたか焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除いて、平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体を製造する」という点は示されていない。
そして、上記(b)の主張は訂正前の請求項9,10,11についてされたものであり、上記訂正により訂正前の請求項9,10,11は削除されているから、上記(2)の主張における理由は、上記訂正により解消した。
上記(c)の主張について
特許異議申立人戸田工業株式会社の提出した甲第1号証(「工業化学雑誌」、第71巻、第1号、1968、p.114-118)は、特許異議申立人堺化学工業株式会社の提出した甲第1号証と同じであり、また、甲第2号証(“Helvetica Physica Acta 第27巻(1954年)、第99頁、第111頁)には、粒子サイズDの関数としてプロットされた自然正方晶系歪みのグラフ(Fig.8)等が示されており、第99頁や参考資料1(J.Mater.Educ.,Vol.13,1991、第180頁、第227頁)等の記載からみて、これはチタン酸バリウムについてのものと解されるが、甲第2号証には、訂正後の本件請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項であるところの「水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させ、得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体を1000〜1100℃でか焼し、得られたか焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除いて、平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体を製造する」という点について示すところはない。
そして、上記(c)の主張は、訂正前の請求項9,10,11についてされたものであり、上記訂正により訂正前の請求項9,10,11は削除されているから、上記(c)の主張における理由は、上記訂正により解消した。
上記(d)および(e)の主張について
特許異議申立人堺化学工業株式会社の提出した甲第1〜4号証および甲第6号証については、既に検討したところであり、それらには、訂正後の本件請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項であるところの「水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させ、得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体を1000〜1100℃でか焼し、得られたか焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除いて、平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体を製造する」という点は示されていない。
また、上記申立人が提出した甲第5号証(特開昭57-196722号公報)には、チタン酸塩の製造方法に関する発明が記載されており、その実施例3では正方晶のBaTiO3の粒径0.2μの微粒子が凝集した1〜2μの凝集体が得られているが、その方法は、アルコキシドを使用(特許請求の範囲の第1項や実施例3を参照)するものにすぎず、訂正後の本件請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項であるところの前記の点は示されていない。
そして、上記(d)の主張は訂正前の請求項9,10について、上記(e)の主張は訂正前の請求項9〜11についてされたものであり、上記訂正により訂正前の請求項9,10,11は削除されているから、上記主張における理由は、上記訂正により解消した。
4.むすび
そして、特許異議の申立の理由および証拠によっては、訂正後の本件請求項1に係る特許は取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
正方晶チタン酸バリウム微粉体の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させ、得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体を1000〜1100℃で▲か▼焼し、得られた▲か▼焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除くことを特徴とする平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、セラミックスの原料として使用される平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体の製造方法に関する。
背景技術
近年、電子デバイスの小型軽量高性能化に伴い、そのコンデンサーやサーミスターなどに使用されるペロブスカイト型化合物系のセラミックスも薄膜化、小型化が要求され、セラミックス化する際の配合、成形、焼結などの技術面で薄膜化、小型化の検討が行われてきた。
しかしながら、その原料として使用されているペロブスカイト型化合物は、固相反応で得られたものであり、平均粒径が0.8μm以上あって、いかにセラミックス化時の技術を駆使しようとも、得られるセラミックスは、達成し得る小型化、薄膜化に限界があって、その目的を充分に達成することができなかった。
すなわち、従来使用のペロブスカイト型化合物は、Mg、Ca、Sr、Ba、Pbなどの金属元素(以下、A群元素という)から選ばれる少なくとも1種の炭酸塩または酸化物と、Ti、Zn、Hf、Snなどの金属元素(以下、B群元素という)から選ばれる少なくとも1種の酸化物とを混合し、これを1000℃以上の高温で熱処理してペロブスカイト型化合物にした後、ボールミルなどで機械的に粉砕して製造されるものであるため、平均粒径が0.8μm以上のものしか得られず、そのため、前述したように、それを原料に用いて成形したセラミックスは、小型化、薄膜化が充分に達成できないという問題があった。
そこで、そのような問題を解決するため、特開昭59-39726号公報、特開昭61-91016号公報、特開昭60-90825号公報、特開昭61-31345号公報などには、湿式法で平均粒径0.2μm以下の微粒子ペロブスカイト型化合物を製造する方法が提案されている。
しかし、湿式法では、微粒子のペロブスカイト型化合物を得ることができるものの、得られるペロブスカイト型化合物は、固相反応で得られるペロブスカイト型化合物に比べて、反応が充分に進行しておらず、また結晶構造上、構造水を多量に含んでいて、結晶性の悪いものしか得られないという欠点があった。
したがって、湿式法によって得られた微粒子ペロブスカイト型化合物は、粒成長の起こらない温度で▲か▼焼して、薄膜セラミックス原料として使用するときに、水系で分散、バインダーなどの配合を行うと、水可溶性成分が、成形乾燥工程で析出し、得られるセラミックスは、組成が不均一なものになり、物理的特性や電気的特性のバラツキが多いという欠点があった。
また、上記湿式法で得られた微粒子ペロブスカイト型化合物を油系で分散、配合することも可能であるが、該ペロブスカイト型化合物の反応進行度が低く、また結晶性が不充分なため、焼成後のセラミックスは、前記水系分散したものと同様に、物理的特性や電気的特性にバラツキが生じる。
上記欠点を解消するために、▲か▼焼温度を上げて反応を充分に進行させ、かつ結晶性を良好にすることも可能であるが、▲か▼焼温度を上げると、粒子の成長が起こり、微粒子としての特性が失われて、固相反応で得られたペロブスカイト型化合物と同様のものになり、セラミックスの薄膜化、小型化が充分に達成できなくなる。
また、固相反応によってえられる平均粒径の大きなペロブスカイト型化合物を機械的粉砕で微粒子化する場合には、どうしても粉砕媒体からの不純物の混入を避けることができず、この混入物は分離不可能なためセラミックス薄膜の形成に際して障害になるという問題がある。
ペロブスカイト型化合物の中でも特にチタン酸バリウムがセラミックスの原料としてよく用いられている。前記固相反応によってえられるチタン酸バリウムは正方晶であり、前記湿式法でえられるものは立方晶である。高性能のセラミックス薄膜をうるには、緻密化の達成できる正方晶のチタン酸バリウムであって平均粒径の小さなものが好ましい。しかしながら、湿式法によれば平均粒径の小さなチタン酸バリウムがえられるが、このものは前述のごとき欠点を有しており、一方固相反応によってえられるチタン酸バリウムは、正方晶であるが平均粒径が大きく粉砕しなければならないという欠点を有している。しかも粉砕してえられるチタン酸バリウムは、粒度分布幅の広いものであり、粒径の均一なものはえられない。
上述したように、固相反応では微粒子のチタン酸バリウムを得ることができず、また従来の湿式法では反応進行度や結晶性が不充分なチタン酸バリウムしか得られないため、特性の良好なセラミックスを得ることができないといった問題があった。
したがって、本発明は、反応が充分に進行し、かつ結晶性が良好な微粒子のチタン酸バリウムを容易に製造し得る方法を提供することを目的とする。
発明の開示
本発明者らは、水酸化バリウムと含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させたバリウム過剰のチタン酸バリウムが、Ba/Ti原子比が1のチタン酸バリウム粉体に比べて、▲か▼焼時の粒成長が高温で起こること、そして上記バリウム過剰のチタン酸バリウム粉体を粒成長の起こる前の1000〜1100℃で▲か▼焼し、得られた▲か▼焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除くことにより、反応が充分に進行し、かつ結晶性が良好な正方晶チタン酸バリウム微粉体が容易に得られることを見出し、本発明を完成するにいたった。
本発明は、水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させ、得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体を1000〜1100℃で▲か▼焼し、得られた▲か▼焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除くことを特徴とする平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体の製造方法を提供するものである。
そして、上記水酸化バリウムと含水酸化チタンとの反応にあたり、水酸化バリウムや含水酸化チタンは、市販品をそのまま使用してもよいし、また、合成したものを用いてもよい。
含水酸化チタンは、その粒径が平均粒径で0.3μm以下、好ましくは0.1μm以下のものが適しており、0.3μmより大きくなると反応が困難になる。
また、反応に際して、水酸化バリウムは反応時に溶解するので粒径に関して制約されることはないが、含水酸化チタンは、得ようとする正方晶チタン酸バリウム微粉体の粒径以下のものを用いることが必要である。
反応にあたり、水酸化バリウムと含水酸化チタンは、Ba/Ti原子比が1.01〜1.40になるように混合される。本発明において、上記Ba/Ti原子比とはBaとTiとの原子比をいう。そして、上記の混合は通常の混合方法によって行えばよい。
本発明において、反応方法としては、常圧加熱反応法が採用される。
常圧加熱反応法は、上記の水酸化バリウムと含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧下で沸騰させて反応させる方法である。
常圧加熱反応法によって得られた反応生成物、すなわち、チタン酸バリウムは、必要に応じて、水洗、濾過される。
本発明において、乾燥は通常の乾燥方法で行えばよいが、過剰に使用した未反応のバリウムと反応生成物とが均一な粉体で得られるようにするのが好ましい。このような乾燥方法としては、たとえば、噴霧乾燥を採用することができるし、また、未反応のバリウムを炭酸イオン、シュウ酸イオンなどで不溶化してから通常の濾過、乾燥を行ってもよい。
上記のようにして得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体は、1000〜1100℃で▲か▼焼される。ここで、本発明におけるBa/Ti原子比がバリウム過剰の反応生成物粉体の▲か▼焼について詳述すると次のとおりである。
常圧加熱反応法で得られる反応生成物は、通常は平均粒径が0.3μm以下で、ほとんどが0.05〜0.15μmの粉体である。この反応生成物は、通常、付着水、構造水の除去や、結晶化度の向上、未反応成分の反応の促進などの目的で▲か▼焼される。
▲か▼焼温度を高温にするほど、上記の目的は達成されることになるが、その反面、粒子の成長が起こる。そのため、通常は粒子の成長が起こる前の温度で▲か▼焼される。粒子の成長が起こる温度は、チタン酸バリウムの場合、Ba/Ti原子比によって変わり、Ba/Ti原子比がバリウム過剰の場合、Ba/Ti原子比が1のものより、粒子の成長が起こる温度が100〜300℃高温になる。したがって、本発明では、従来のBa/Ti原子比が1のものより高温で▲か▼焼することができ、粒子成長の起こる温度より低く、かつBa/Ti=1.0の場合に粒子成長が起こる温度より高い温度の1000〜1100℃で▲か▼焼される。
本発明において、Ba/Ti原子比がバリウム過剰のものとは、Ba/Ti原子比が1.01〜1.40の範囲のものである。すなわち、Ba/Ti原子比が1.01より小さい場合は、粒子の成長が起こる温度を高くする効果が小さく、またBa/Ti原子比が1.40を超えると、チタン酸バリウム以外の結晶化合物の生成が生じたり、また後工程の酸処理によるバリウム過剰分の除去を考えると不経済であるからである。
Ba/Ti原子比と粒子の成長が起こる温度との関係を、具体的に常圧加熱反応法で製造した平均粒子径0.1μmの疑似立方晶チタン酸バリウムを例にとって説明すると、Ba/Ti原子比が1のものは800℃まで粒成長が起こらず、X線回折にも、構造水の離脱のために生じる格子定数の収縮が起こった疑似立方晶で推移する。そして、900℃以上で▲か▼焼すると、粒子の成長がみられ、1000℃の▲か▼焼では平均粒径0.5μm以上の正方晶チタン酸バリウムになる。一方、Ba/Ti原子比がBa過剰の場合は、1000℃から1100℃の▲か▼焼において、0.1〜0.2μmの粒成長で正方晶のチタン酸バリウムが得られる。本発明においては、バリウム過剰の反応生成物粉体を粒子の成長が起こる前の温度である1000〜1100℃で▲か▼焼することを要件としているが、この粒子の成長が起こる前の温度とは、粒子が平均粒径で0.3μmより大きな粒子に成長を起こす前の温度という意味である。
なお、反応生成物のBa/Ti原子比が1.01〜1.40の範囲になるようにするには、反応前のBa/Ti原子比がバリウム過剰の混合物水溶液においても、Ba/Ti原子比を1.01〜1.40に調整することが必要である。
▲か▼焼後は、得られた▲か▼焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して、過剰のバリウムを取り除く。この際に使用する酸は、水可溶性の酸であればいずれも使用可能であり、たとえば酢酸などの有機酸や、塩酸、硝酸、フッ酸などの無機酸が使用できる。ただし、塩として沈殿するものは使用することができない。
酸溶液での▲か▼焼物の洗浄は、通常の方法で行えばよく、たとえば、▲か▼焼物をスラリー化し、必要に応じて加熱し、酸をその中に滴下し、pHを調整する方法を採用できる。pHの調整範囲は、使用する酸によって多少異なるが、通常、pH5〜10の範囲である。また、▲か▼焼物のバリウムの過剰度合が多い場合は、はじめに塩酸などの強酸でpHを10近くまで落とし、ついで酢酸などの弱酸で所望のpHに調整するのが効果的である。
酸溶液で洗浄後は、常法により、デカンテーションを繰り返し、ヌッチェなどで水洗、濾過し、乾燥すればよい。この酸洗浄後の水洗、濾過は、必ずしも、水洗、濾過の順序で行うことを要求されるものではなく、濾過が水洗より先になってもよいし、また、水洗や濾過をくり返してもよい。
本発明によって得られる平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体(ほとんどが平均粒径0.1μm前後である)は、従来の湿式法によるチタン酸バリウムの微粉体に比べて、反応が充分に進行していて未反応物が少なく、また結晶性が良好で結晶化度の高いものであり、物理的特性および電気的特性が良好で、かつ、それらのバラツキが少ない、品質の安定したセラミックスの成形を可能にする。特に薄膜セラミックスを成形する場合においてその効果が顕著に発揮される。
特に、本発明の方法によってえられるチタン酸バリウムは、平均粒径が0.05〜0.3μm、なかんづく0.05〜0.25μmの範囲内にあって、粒度分布幅が非常に狭くて粒径の均一な正方晶の結晶粒子であるため、セラミックス材料としてきわめて有用である。すなわち、正方晶のチタン酸バリウムは立方晶のものよりも結晶が緻密であり、また化学的に安定していて他の配合成分と反応しにくいため高性能のセラミックスがえられやすいという長所を有している。また、粒径が小さくて均一であるので、セラミックス薄膜の形成に適しており、たとえば薄くて高容量のコンデンサーをうることができる。
本発明の方法によってえられるチタン酸バリウムの粒度分布曲線は極めてシャープであり、全粒子数の60%以上、なかんづく70%以上が平均粒径の±0.05μmの範囲内に存在する。しかも、0.3μm以上の粒径を有する粒子は非常に少なく、平均粒径が0.25μm以下のばあい、全粒子数の5%以下であり、平均粒径が0.15μm以下のばあいには、粒径0.3μm以上の粒子はほとんど存在しない。たとえば、平均粒径0.2μmのばあい、全粒子の90%以上、なかんづく95%以上が0.1〜0.3μmの範囲内に存在する。このような平均粒径が小さくて粒径の均一な正方晶のチタン酸バリウムは、公知の方法では全くえることのできなかったものである。
本発明による平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体からえられるセラミックスは、その優れた電気的特性、つまり、優れた誘電性、圧電性、半導性などを利用して、エレクトロニクス分野のコンデンサ、電波フィルター、着火素子、サーミスタなどに好適に使用される。
発明を実施するための最良の形態
つぎに実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
大阪チタニウム(株)製の四塩化チタン水溶液(Ti=16.5重量%)200gを蒸留水1800mlに攪拌しながら加え、希薄四塩化チタン水溶液にした後、5重量%アンモニア水(林純薬工業(株)製、試薬特級)700mlを約1時間かけて添加して、含水酸化チタンスラリーにし、ヌッチェで水洗、濾過を行い、含水酸化チタンケーキにした。この含水酸化チタンケーキは、TiO2の定量をICPで行ったところ、11.46重量%であった。
つぎに、上記含水酸化チタンケーキ240.02g(Ti:0.345モル)に蒸留水を加え、TiO2が60g/lのスラリーに調整した後、反応系を窒素雰囲気にし、Ba(OH)2・8H2O(林純薬工業(株)製、試薬特級)を141.2g(Ba:0.448モル)加え、さらに蒸留水を加えて、0.7モル/l(BaTiO3換算)、Ba/Ti原子比1.30のスラリーに調整した。該スラリーを沸騰温度まで約1時間かけて昇温し、沸騰温度で約3時間反応を行った。室温まで自然冷却した後、デカンテーションを繰り返し、ヌッチェで水洗、濾過を行った。得られたケーキに蒸留水を加えて0.9モル/l(BaTiO3換算)に再スラリー化し、大川原化工機(株)製スプレードライヤーを用いて、入口温度250℃、出口温度120℃、アトマイザー回転数25000rpmで噴霧乾燥してチタン酸バリウム微粉体を得た。
得られたチタン酸バリウム微粉体は、ICPおよび蛍光X線分析でBa/Ti原子比を測定し、電子顕微鏡写真で粒径を測定し、X線回折で結晶形を調べたところ、Ba/Ti原子比1.031、平均粒径0.08μmで疑似立方晶であることが判明した。
上記チタン酸バリウム微粉体を電気炉中、1000℃で3時間▲か▼焼し、自然冷却した後、得られた▲か▼焼物に蒸留水を加え、約0.7モル/l(BaTiO3換算)のスラリーに調整した。該スラリーを加温して60℃にし、10重量%酢酸水溶液を滴下して、pHを8.0に調整し、約1時間保持した後、ヌッチェで水洗、濾過を行い、乾燥してチタン酸バリウム微粉体を得た。
得られたチタン酸バリウム微粉体は、ICPおよび蛍光X線分析でBa/Ti原子比を測定し、電子顕微鏡写真およびX線回折分析により結晶形を調べたところ、Ba/Ti原子比は1.002であり、結晶形は湿式法で製造された正方晶チタン酸バリウム(BaTiO3)とピーク位置が一致し、また電子顕微鏡観察において四角い形状で結晶エッジが見られることから正方晶であることが判明した。
さらに、えられたチタン酸バリウム微粉体の電子顕微鏡写真から平均粒径および粒度分布を測定した。測定は、電子顕微鏡写真に一定間隔で横線を引き、線上の粒子3000個の径を測定して行なった。粒子形状が直方体であるので、一辺の長さを粒子径とした。粒度分布(全粒子数に対する割合)および平均粒径の測定結果を以下に示す。
(粒度分布)
0.3μm以上 4%
0.25〜0.3μm 11%
0.2〜0.25μm 36%
0.15〜0.2μm 34%
0.1〜0.15μm 12%
0.1μm以下 3%
平均粒径:0.2μm
なお、次に示す比較例1においても、生成物の分析、測定手段は、この実施例1の場合と同様である。
比較例1
実施例1と同様に反応を行った後、水洗、濾過し、得られたチタン酸バリウムケーキを0.6モル/lに再スラリー化し、酢酸でpH8に調整した。ヌッチェで水洗、濾過し、乾燥をしてBa/Ti原子比1.001、平均粒径0.08μmの疑似立方晶チタン酸バリウム微粉体を得た。
上記チタン酸バリウム微粉体を▲か▼焼温度を変えて3時間▲か▼焼した。得られたチタン酸バリウムの平均粒径と結晶系との関係は次のとおりである。

上記の▲か▼焼温度と平均粒径、結晶形の関係から、実施例1で得たチタン酸バリウムと同じ粒径の微粉体を得る場合、Ba/Ti原子比を1に制御した従来の湿式法によるチタン酸バリウムは、900℃以下で▲か▼焼しなければならないことがわかる。したがって、結晶形も疑似立方晶のものしか得られない。
実施例2
実施例1で得た正方晶チタン酸バリウム微粉体を850℃で3時間▲か▼焼し、五十嵐機械(株)製の「ウルトラビスコミルVVM-2L」で湿式粉砕、分散をおこなった。その後、樹脂性ボール・ポットを用いて12時間ボールミル粉砕をした。
ポリエチレングリコール、ブチルベンジルフタレート、非イオンオクチルフェノキシエタノール、アクリル樹脂系エマルジョン、ワックス系エマルジョンをそれぞれチタン酸バリウムに対して固形分換算で3重量%、2重量%、0.2重量%、8重量%、0.1重量%添加し、さらに24時間ボールミル混合をした。
得られたスラリーを攪拌しながら、真空脱泡し、粘度を10000cpsに調整した後、ドクターブレードで、薄膜成形してグリーンシートを得た。
上記グリーンシートを700kg/cm2圧で、5枚重ねた後、200℃から500℃まで20℃/hrでゆっくり昇温し、脱脂した後、1150℃で2時間焼成して、チタン酸バリウム薄膜焼結体を得た。
比較品として、比較例1で得たチタン酸バリウム(ただし、900℃で▲か▼焼したもの)を前記と同様に成形、焼成した。
上記薄膜焼結体を作製するにあたって原料として使用した実施例1および比較例1のチタン酸バリウムを、ボールミルで12時間粉砕した後、その水可溶性成分をICPで分析した結果を表1に示す。
また、薄膜成形して得られたグリーンシートの厚みのバラツキを表2に示す。
得られた焼結体の焼成線収縮率のバラツキ(試料各10点)を表3に示す。
得られた焼結体各10点ずつについて電気的特性(20℃での誘電率および誘電損失)を横河ヒューレットパッカード社製LCRメーター4272Aで測定した結果を表4に示す。




表1に示すように、実施例1の正方晶チタン酸バリウムは、従来の湿式法に相当する比較例1の疑似立方晶チタン酸バリウムに比べて、水可溶性成分が少なく、反応が充分に進行していることを示していた。
また、表2〜3に示すように、実施例1の正方晶チタン酸バリウムを用いた場合には、比較例1の疑似立方晶チタン酸バリウムを用いた場合に比べて、グリーンシートの厚さのバラツキおよび焼成線収縮率のバラツキが少ない。これは、実施例1の正方晶チタン酸バリウムが比較例1の疑似立方晶チタン酸バリウムに比べて、反応が充分に進行していて組成が均質であり、かつ分散が良好であることを示している。
さらに、表4に示すように、実施例1の正方晶チタン酸バリウムを用いた焼結体は、比較例1の疑似立方晶チタン酸バリウムを用いた焼結体に比べて、電気的特性が良好で、かつそのバラツキも少ない。つまり、誘電率が大きく、誘電損失が小さく、かつ、そのバラツキが少ない。これは、実施例1の正方晶チタン酸バリウムが比較例1の疑似立方晶チタン酸バリウムに比べて、反応が充分に進行した組成が均質なもので、かつ、その結晶性が良好であって、高密度に焼結できることを示している。
 
訂正の要旨 特許第2999821号の明細書中、特許請求の範囲の減縮を目的として、
(a-1)特許請求の範囲の請求項1を、「水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させ、得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体を1000〜1100℃で▲か▼焼し、得られた▲か▼焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除くことを特徴とする平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体の製造方法。」と訂正し、
(a-2)特許請求の範囲の請求項2〜11を削除し、
明りょうでない記載の釈明を目的として、
(b)発明の名称を、「正方晶チタン酸バリウム微粉体の製造方法。」と訂正し、
(c-1)本件明細書第1頁4〜5行(本件特許公報第3欄23〜24行)の「ペロブスカイト型化合物を、「平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム」と訂正し、
(c-2)本件明細書第3頁25〜26行、27行、第4頁3行(本件特許公報第4欄47〜48行、49行、第5欄3行)の「ペロブスカイト型化合物」を、「チタン酸バリウム」と訂正し、
(c-3)本件明細書第4頁6〜15行(本件特許公報第5欄6〜15行)の「A群元素の化合物とB群元素の化合物の混合水溶液をA群元素過剰のA/B原子比で湿式反応させたA群元素過剰のペロブスカイト型化合物粉体が、A/B原子比が1付近のペロブスカイト型化合物粉体に比べて、▲か▼焼時の粒成長が高温で起こること、そして上記A群元素過剰のペロブスカイト型化合物粉体を粒成長の起こる前の温度で▲か▼焼し、得られた▲か▼焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のA群元素を取り除くことにより、反応が充分に進行し、かつ結晶性が良好なペロブスカイト型化合物」を、「水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させたバリウム過剰のチタン酸バリウムが、Ba/Ti原子比が1のチタン酸バリウム粉体に比べて、▲か▼焼時の粒成長が高温で起こること、そして上記バリウム過剰のチタン酸バリウム粉体を粒成長の起こる前の1000〜1100℃で▲か▼焼し、得られた▲か▼焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除くことにより、反応が充分に進行し、かつ結晶性が良好な正方晶チタン酸バリウム」と訂正し、
(c-4)本件明細書第4頁17行から第5頁2行(本件特許公報第5欄17〜29行)の「Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類元素および(または)Pbなどの2価金属元素よりなるA群元素の化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物と、Ti、Zr、Hf、Snなどの4価金属元素および(または)Zn、Ni、Co、Mg、Fe、Sbなどの2価もしくは3価金属元素とNb、Sbなどの5価金属元素との複合金属元素よりなるB群元素の化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物とのA/B原子比がA群元素過剰の混合物水溶液を湿式反応させ、得られたA/B原子比がA群元素過剰の反応生成物粉体を粒子の成長が起こる前の温度で▲か▼焼し、得られた▲か▼焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のA群元素を取り除くことを特徴とする平均粒径0.3m以下のペロブスカイト型化合物」を、「水酸化バリウムと、含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の混合物水溶液を常圧加熱反応させ、得られたBa/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体を1000〜1100℃で▲か▼焼し、得られた▲か▼焼物を酸溶液で洗浄し、水洗、濾過して過剰のバリウムを取り除くことを特徴とする平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム」と訂正し、
(c-5)本件明細書第5頁4〜9行(本件特許公報第5欄31〜36行)の「本発明の・・・塩などがあげられる。」を削除し、
(c-6)本件明細書第5頁10〜11行(本件特許公報第5欄37〜38行)の「A群元素の化合物とB群元素の化合物との反応にあたり,A群元素の化合物やB群元素の化合物」を、「水酸化バリウムと含水酸化チタンとの反応にあたり、水酸化バリウムや含水酸化チタン」と訂正し、
(c-7)本件明細書第5頁14〜15行(本件特許公報第5欄41〜42行)の「B群元素の化合物としてB群元素の水酸化物または酸化物を用いる場合は、それら」を、「含水酸化チタンは、そ」と訂正し、
(c-8)本件明細書第5頁18〜20行(本件特許公報第5欄45〜47行)の「A群元素の化合物、B群元素の化合物とも、反応時に溶解するものを除いては、得ようとするペロブスカイト型化合物」を、「水酸化バリウムは反応時に溶解するので粒径に関して制約されることはないが、含水酸化チタンは、得ようとする正方晶チタン酸バリウム」と訂正し、
(c-9)本件明細書第5頁22〜26行(本件特許公報第5欄49行から第6欄3行)の「A群元素の化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物とB群元素の化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物は、A群元素過剰のA/B原子比に混合される。本発明において、上記A/B原子比とはA群元素とB群元素との原子比をいう。」を、「水酸化バリウムと含水酸化チタンとは、Ba/Ti原子比が1.01〜1.40になるように混合される。本発明において、上記Ba/Ti原子比とはBaとTiとの原子比をいう。」と訂正し、
(c-10)本件明細書第5頁28行から第6頁1行(本件特許公報第6欄5〜6行)の「湿式反応としては、共沈法、加水分解法、水熱合成法、常圧加熱反応法などが採用される。」を、「反応方法としては、常圧加熱反応法が採用される。」と訂正し、
(c-11)本件明細書第6頁2〜16行(本件特許公報第6欄7〜21行)の「共沈法は、A群・・・度で反応させる方法である。」を削除し、
(c-12)本件明細書第6頁17行(本件特許公報第6欄22行)の「アルカリ性」を、「水酸化バリウムと含水酸化チタンとのBa/Ti原子比が1.01〜1.40の」と訂正し、
(c-13)本件明細書第6頁19〜22行(本件特許公報第6欄24〜27行)の「本発明では・・・使い分ければよい。」を削除し、
(c-14)本件明細書第6頁23行から第7頁3行(本件特許公報第6欄28〜36行)の「湿式法によって得られた反応生成物、すなわち、ペロブスカイト型化合物、あるいは共沈水酸化物混合物、有機酸複合塩などは、必要に応じて、水洗、濾過される。これは、ペロブスカイト型化合物成分以外の化合物を湿式反応させるために使用した場合に、▲か▼焼後も残る元素を除去するためである。たとえば、強アルカリ中で反応させた場合には、Na、Kなどを除去する必要があるが、これらの場合は、炭酸または酢酸などで中和し、水洗、濾過すればよい。」を、「常圧加熱反応法によって得られた反応生成物、すなわち、チタン酸バリウムは、必要に応じて、水洗、濾過される。」と訂正し、
(c-15)本件明細書第7頁5行、8行、13〜14行、第8頁4行、14行、21行、第9頁5行、11〜12行、15行、25行(本件特許公報第6欄38行、41行、46〜47行、第7欄14〜15行、25行、32行、44〜45行、50行、第8欄4行、14行)の「A群元素」を、「バリウム」と訂正し、
(c-16)本件明細書第7頁11〜12行(本件特許公報第6欄44〜45行)の「A/B原子比がA群元素過剰の反応生成物粉体は、粒子の成長が起こる前の温度を」を、「Ba/Ti原子比が1.01〜1.40の反応生成物粉体は、1000〜1100℃」と訂正し、
(c-17)本件明細書第7頁13行、第8頁4行、6行、14行、15行、17行、19行、23行、第9頁10行、11行、12行(本件特許公報第6欄46行、第7欄15行、17行、25行、26行、28行、30行、34行、49行、50行、第8欄1行)の「A/B原子比」を、「Ba/Ti原子比」と訂正し、
(c-18)本件明細書第7頁16〜22行(本件特許公報第6欄49行から第7欄6行)の「湿式法で得られる反応生成物は、反応生成物がペロブスカイト型化合物の場合、その種類によって多少異なるが、通常は平均粒径が0.3μm以下で、ほとんどが0.05〜0.15μmの粉体である。反応生成物が共沈水酸化物混合物や有機酸複合塩の場合は、500〜900℃で熱処理すると、平均粒径が0.3μm以下で、ほとんどが0.05〜0.15μmのべロブスカイト型化合物粉体が得られる。そして、これら」を、「常圧加熱反応法で得られる反応生成物は、通常は平均粒径が0.3μm以下で、ほとんどが0.05〜0.15μmの粉体である。こ」と訂正し、
(c-19)本件明細書第8頁1〜3行(本件特許公報第7欄12〜14行)の「ペロブスカイト型化合物の種類によって異なるが、同一のペロブスカイト型化合物の場合は、A/B原子比によって変わり、A/B原子比」を、「チタン酸バリウムの場合、Ba/Ti原子比によって変わり、Ba/Ti原子比」と訂正し、
(c-20)本件明細書第8頁7〜13行(本件特許公報第7欄18〜24行)の「通常、粒子成長の起こる温度より低く、かつA/B=1.0のばあいに粒子成長が起こる温度より高い温度で▲か▼焼される。好ましくは、(粒子成長発生温度-20℃)以下、なかんずく(粒子成長発生温度-50℃)以下で、(粒子成長発生温度-300℃)以上、なかんづく(粒子成長発生温度-200℃)以上の温度で▲か▼焼される。」を、「粒子成長の起こる温度より低く、かつBa/Ti=1.0の場合に粒子成長が起こる温度より高い温度の1000〜1100℃で▲か▼焼される。」と訂正し、
(c-21)本件明細書第8頁15〜17行(本件特許公報第7欄26〜28行)の「1.01〜1.40の範囲、好ましくは1.01〜1.10の範囲のものである。すなわち、ベロブスカイト型化合物の種類によっても異なるが、」を、「1.01〜1.40の範囲のものである。すなわち、」と訂正し、
(c-22)本件明細書第8頁20行(本件特許公報第7欄30〜31行)の「ベロブスカイト型化合物」を、「チタン酸バリウム」と訂正し、
(c-23)本件明細書第8頁24行(本件特許公報第7欄35行)の「湿式」を、「常圧加熱反応」と訂正し、
(c-24)本件明細書第9頁6行(本件特許公報第7欄45行)の「温度」を、「温度である1000〜1100℃」と訂正し、
(c-25)明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書第9頁23行(本件特許公報第8欄12〜13行)の「ベロブスカイト型化合物の種類や」を削除し、
(c-26)本件明細書第10頁7〜11行(本件特許公報第8欄24〜28行)の「平均粒径0.3μm以下のベロブスカイト型化合物微粉体(ベロブスカイト型化合物の種類によって多少異なるが、ほとんどが平均粒径0.1μm前後である)は、従来の湿式法によるべロブスカイト型化合物」を、「平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム微粉体(ほとんどが平均粒径が0.1μm前後である)は、従来の湿式法によるチタン酸バリウム」と訂正し、
(c-27)本件明細書第10頁18行(本件特許公報第8欄35行)の「0.3μm以下」を、0.05〜0.3μm」と訂正し、
(c-28)本件明細書第11頁11行(本件特許公報第9欄6行)の「新規な」を削除し、
(c-29)本件明細書第11頁12行(本件特許公報第9欄7行)の「ベロブスカイト型化合物」を、「平均粒径0.05〜0.3μmの正方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
(c-30)本件明細書第13頁21行(本件特許公報第10欄22行)の「以下の各実施例など」を、「次に示す比較例1」と訂正し、
(c-31)本件明細書第13頁23行から第23頁24行(本件特許公報第10欄24行から第16欄9行)の「実施例2・・・チタン・ニオブ鉄酸バリウム化合物微粉体を得た。」を削除し、
(c-32)本件明細書第24頁13行(本件特許公報第16欄26行)の「〜実施例5」を削除し、
(c-33)本件明細書第24頁18行(本件特許公報第16欄31行)の「実施例14」を、「実施例2」と訂正し、
(c-34)明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書第27頁下から2行(本件特許公報第19欄42行)の「チタン酸バリウム」を、「正方晶チタン酸バリウム」と訂正し、
(c-35)本件明細書第27頁末行(本件特許公報第19欄43行)の「チタン酸バリウム」を、「擬似立方晶チタン酸バリウム」と訂正し、
(c-36)明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書第28頁3〜4行(本件特許公報第19欄46〜47行)の「チタン酸バリウム」を、「正方晶チタン酸バリウム」と訂正し、
(c-37)本件明細書第28頁4行(本件特許公報第19欄47行)の「チタン酸バリウム」を、「擬似立方晶チタン酸バリウム」と訂正し、
(c-38)本件明細書第28頁7〜8行(本件特許公報第19欄50行から第20欄42行)の「チタン酸バリウムが比較例1のチタン酸バリウム」を、「正方晶チタン酸バリウムが比較例1の擬似立方晶チタン酸バリウム」と訂正し、
(c-39)本件明細書第28頁10〜11行(本件特許公報第20欄44〜45行)の「チタン酸バリウム」を、「正方晶チタン酸バリウム」と訂正し、
(c-40)本件明細書第28頁11行(本件特許公報第20欄45行)の「チタン酸バリウム」を、「擬似立方晶チタン酸バリウム」と訂正し、
(c-41)本件明細書第28頁15行(本件特許公報第20欄49行)の「チタン酸バリウムが比較例1のチタン酸バリウム」を、「正方晶チタン酸バリウムが比較例1の擬似立方晶チタン酸バリウム」と訂正する。
異議決定日 2001-06-28 
出願番号 特願平2-511240
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C01G)
P 1 651・ 121- YA (C01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平田 和男  
特許庁審判長 加藤 孔一
特許庁審判官 唐戸 光雄
野田 直人
登録日 1999-11-05 
登録番号 特許第2999821号(P2999821)
権利者 テイカ株式会社
発明の名称 正方晶チタン酸バリウム微粉体の製造方法  
代理人 三輪 鐵雄  
代理人 牧野 逸郎  
代理人 三輪 鐵雄  

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