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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A47G
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A47G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A47G
審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  A47G
管理番号 1051544
異議申立番号 異議2000-73400  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-02-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-04 
確定日 2001-12-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第3020960号「ぬぐい布」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3020960号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 〔1〕手続の経緯
特許第3020960号の請求項1〜5に係る発明についての出願は、平成1年4月7日(パリ条約による優先権主張1988年4月8日、米国)に特許出願され、平成12年1月14日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、異議申立人鈴木節子より特許異議の申立てがされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年6月15日に意見書が提出され、異議申立人に対して審尋がされ、その指定期間内の平成13年11月6日に回答書が提出されたものである。

〔2〕特許異議申立てについて
(1)本件発明
特許第3020960号の請求項1〜5に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】クリーンルーム等の制御された環境に用いられるぬぐい布であって、該ぬぐい布は熱可塑性フィラメントからなる編み材料から構成され、該フィラメントは弛緩時のループ長さLに編まれ、不定形のシートから単位のぬぐい布となる周縁部に沿って切断することにより形成され、該ぬぐい布のその周縁は融合され、ぬぐい布のその周縁に沿った融合端縁は、ぬぐい布の使用中にこのぬぐい布の周縁部から通常釈放される熱可塑性材料の断片を端縁内部に保持するのに十分な面積及び引き裂き強さを与えるのに十分なだけ大きいが、ぬぐい処理のために前記ぬぐい布に撓み性及び吸収力を保持するのに十分なだけ小さい距離にわたり内方にに延び、前記融合端縁の長さDは、前記フィラメントの弛緩時のループ長さLの約7倍の距離だけ内方に延びていることを特徴とするぬぐい布。
【請求項2】クリーンルーム等の制御された環境に用いられるぬぐい布であって、該ぬぐい布は熱可塑性フィラメントからなる編み材料から構成され、該フィラメントは弛緩時のループ長さLに編まれ、不定形のシートから単位のぬぐい布となる周縁部に沿って切断することにより形成され、該ぬぐい布のその周縁は融合され、編まれた熱可塑性材料からぬぐい布が切断されるそれぞれの周縁部におけるフィラメントが互いに融合される端縁を有し、該融合端縁は周縁部からぬぐい布の内方に前記長さLの倍数だけ延びており、融合端縁が十分な引き裂き強度を有すると共に、融合端縁内に前記フィラメントの切断された部分を保持して、その結果、周縁部に沿って切断することから、制御された環境内に切断されたフィラメント断片の釈放を防止することができ、前記融合端縁は、前記ぬぐい布の内方に、距離約7Lだけ延びていることを特徴とするぬぐい布。
【請求項3】前記ぬぐい布の複数が、単層の編み材料のシートから切断されて作られることを特徴とする請求項1又は2に記載のぬぐい布。
【請求項4】前記ループ長さLは、約0.75mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のぬぐい布。
【請求項5】クリーンルーム等の制御された環境に用いられるぬぐい布の製造方法であって、該ぬぐい布は熱可塑性フィラメントからなる編み材料から構成され、該フィラメントは弛緩時のループ長さLに編まれ、不定形のシートから単位のぬぐい布となる周縁部に沿って、融合パターンを形成すると共に、該パターン内の切断線に沿って切断して、該切断線から該フィラメントのループ長さLの約7倍の距離Dの融合端縁を形成することを特徴とするぬぐい布の製造方法。」

(2)申立ての理由の概要
特許異議申立人鈴木節子は、本願発明は、その明細書の詳細な説明の記載において、「ループ長さL」および第2図の「L」は、不明瞭であり、明細書の発明の詳細な説明(特許公報第5欄第3〜7行)の記載は不明瞭であるから、特許法第36条第4項及び第6項の規定を満たしていないものであり(以下、「取消事由1」という。)、又は本件発明1〜3、5は、甲第4号証(実願昭60-173955号(実開昭62-83359号)のマイクロフィルム)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けられないものであり(以下、「取消事由2」という。)、又は本件発明1〜5は、甲第1号証(繊維用語(メリヤス部門)、JIS L0211-1986)、甲第2号証(ニットファブリック、株式会社センイ・ジヤァナル、昭和47年12月15日発行)、甲第4号証、甲第5号証(メリヤス技術必携(よこ編篇)、日本繊維機械学会、昭和55年6月30日発行)、甲第6号証(繊維ハンドブック、1988年日本化学繊維協会発行)、甲第7号証(特開昭60-246725号公報)、甲第8号証(特開昭62-127028号公報)、甲第9号証(JIS用語辞典4繊維編、1978年11月1日財団法人日本規格協会発行)記載の発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けられないものである(以下、「取消事由3」という。)、と主張している。

(3)取消事由1について
ア.異議申立人は、日本で通常使う「ループ長(loop length)」は、「1ループを編むために必要な糸の長さ。」であり(JIS L0211)、本件発明の「ループ長さL(loop length)」は、特許公報第5欄第3行及び第2図にLが記載されているもので、内容が異なり不明瞭である、と主張している。
しかしながら、本件発明は、本件明細書においては一切JIS L0211の「ループ長」の意味でLを使っていないのであって、用語が似ているからとか、英訳名がたまたま同じであるからまぎわらしいからといって、本件明細書が不明瞭であるとするには当たらない。
イ.異議申立人は、特許公報第5欄第3〜7行の記載「各ループ14は弛緩時のループ長さLを持つ。長さLは極めて短く約0.75mmの程度にするのがよい。又複数の小繊維から成るフィラメント12は約0.25mmの直径を持ちぬぐい布10に所要のたわみ性及び吸収力を備えるようにするのがよい。」は、不明瞭である、すなわち、異議申立書第6頁に記載の図及び甲第5号証からみても、ループ長さLは、糸の直径dの少なくとも4倍必要であるのに対し、上記特許公報には、3倍の例が示されているから論理的に合致せず、不明瞭である、と主張している。
しかしながら、明細書の一部に論理矛盾があるとしても、それがために発明が実施できないとか、当業者が理解できないといった重大な論理矛盾を含む場合はともかく、本件発明の場合は、全体からみて十分理解できるし、実施できる程度のものと認められ、一部記載が不明瞭な部分はあるとしても、それがために本件発明1〜5が実施できないものとはいえない。
ウ.異議申立人は、融合端縁の長さDとループ長さLとは技術的に無関係と主張している。
しかしながら、特許公報第5欄第8行〜第6欄第6行の記載及び第3、4図からみて、融合端縁の長さDとループ長さLとは、無関係とは認められない。
確かに、異議申立人の主張するように、ぬぐい布の一辺の長さはある程度埃を取る吸収力に影響することは認められるが、本件発明は編み物であり、編み目の大きさ(すなわちループ長さL)と融着部の長さ(融合端縁の長さD)は、それを切断した場合、断片26はループ長さLと関係があり、無関係とする主張は、採用できない。
エ.異議申立人は、「約7L」には臨界的意義は存在しないと主張する。
しかしながら、特許権者がその意志で定めた「約7L」には実施できない等の特段の理由はなく、しかも特許法は臨界的意義まで記載することは要求していない。
したがって、「約7L」に臨界的意義は存在しないとしても、これをもって、本件明細書は不明瞭であるから、特許法第36条に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
オ.異議申立人は、請求項2において、「融合端縁は周縁部からぬぐい布の内方に前記長さLの倍数だけ延びており、」の記載および「前記ぬぐい布の内方に、距離約7Lだけ延びている」の記載において、一方は「倍数」で、他方が「約7L」であり、前記記載は、不明瞭であると主張する。
しかしながら、「約」があるかないかをもって、実施できない程度の記載不備があるものではなく、明細書の記載が不明瞭であるから、特許法第36条に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

(4)取消事由2について
ア.甲第4号証に記載された考案
甲第4号証には、ワイピングクロス用布帛に関して、第1〜3図とともに、以下の事項が記載されている。
1)「熱可塑性合成繊維が10重量%以上含有されたフィラメント布帛からなり、該布帛面に格子状に形成された切断用熱融着部分を有することを特徴とするワイピングクロス用布帛。」(実用新案登録請求の範囲)
2)「最近の電子関連分野の急速な発展に伴い、これら関連商品の製造に係る精度の高い無塵室、無塵衣ならびにリントフリーな副資材の開発が強く要望されており、リントフリーな副資材の中、特にワイピングクロスの開発が強く要望されている。」(明細書第1頁第15〜20行)
3)「布帛の種類は特に限定されず、通常の方法により得られる不織布、織物、編物等がそのまま用いられる。」(明細書第3頁第19行〜第4頁第1行)
4)「布帛面に格子状の熱融着部分を設ける理由は熱融着部分の一部または全部を鋏等による切断個所とすると同時に、切断によるリントの発生を抑えるためである。従って、熱融着部分の巾は切断時に切断面が熱融着部分よりはみ出さない程度の巾が必要であり、通常3〜10mmの巾が好ましい。また、熱融着部分は布帛の面に5〜50cmの間隙をおいて格子状に設けるのが好ましい。熱融着部分設置の間隙が5cm未満の場合には布帛が硬くなり、ワイピングクロスとして好ましくない。」(明細書第4頁第13行〜第5頁第3行)
5)「第1図は本考案のワイピングクロス用布帛の1例を示す平面図であり、ポリエステル繊維フィラメント(75d/72f)を用いて作成したタテ編物精練布(1)を高周波加熱装置を用い編物の緯方向と径方向にそれぞれ10cmの間隙をおいて巾5mmの連続した熱融着部分(2)を設けたものである。第2図は第1図で示したワイピングクロス用布帛の熱融着部分を鋏を用いて切断して作成したワイピングクロスの一例を示しており、タテ編物(1)は熱融着部分(2)に沿って切断され周辺に切断端部(3)を形成し、中央部に熱融着部分(2)を内在したワイピングクロスとなっている。第3図は第2図のワイピングクロスのA-A'における横断面を示したものであり、熱融着部分を切断個所としているため切断によるリントの発生は完全に抑えられ、リントフリーなワイピングクロスとなっている。」(明細書第5頁第7行〜第6頁第5行)

イ.本件発明1〜3、5と甲第4号証の対比・判断
1)本件発明1と甲第4号証に記載されたものを対比すると、甲第4号証に記載されたものの「リントフリーなワイピングクロス」は、本件発明1の「クリーンルーム等の制御された環境に用いられるぬぐい布」に相当し、以下それぞれ「ポリエステル繊維フィラメント」が「熱可塑性フィラメント」に、「編物」が「編まれ」に、「熱融着部分」が「融合端縁」に相当するものと認められる。
また、甲第4号証に記載のものも明細書全体からみて「ぬぐい布のその周縁に沿った融合端縁は、ぬぐい布の使用中にこのぬぐい布の周縁部から通常釈放される熱可塑性材料の断片を端縁内部に保持するのに十分な面積及び引き裂き強さを与えるのに十分なだけ大きいが、ぬぐい処理のために前記ぬぐい布に撓み性及び吸収力を保持するのに十分なだけ小さい距離にわたり内方にに延びている」ものと認められるから、
両者は、
「クリーンルーム等の制御された環境に用いられるぬぐい布であって、該ぬぐい布は熱可塑性フィラメントからなる編み材料から構成され、該フィラメントは弛緩時のループ長さLに編まれ、不定形のシートから単位のぬぐい布となる周縁部に沿って切断することにより形成され、該ぬぐい布のその周縁は融合され、ぬぐい布のその周縁に沿った融合端縁は、ぬぐい布の使用中にこのぬぐい布の周縁部から通常釈放される熱可塑性材料の断片を端縁内部に保持するのに十分な面積及び引き裂き強さを与えるのに十分なだけ大きいが、ぬぐい処理のために前記ぬぐい布に撓み性及び吸収力を保持するのに十分なだけ小さい距離にわたり内方にに延びていることを特徴とするぬぐい布。」で一致しており、
本件発明1は、「融合端縁の長さDは、フィラメントの弛緩時のループ長さLの約7倍の距離だけ内方に延びている」のに対して、甲第4号証に記載されたものは、75デニールのポリエステル繊維フィラメントのタテ編物を5mmの連続した熱融着部分を設けた点で相違する。
異議申立人の主張では、甲第5号証に記載の計算式を用いて、甲第4号証に記載のものを計算すると甲第4号証に記載のものも「融合端縁の長さDは、フィラメントの弛緩時のループ長さLの約7倍の距離だけ内方に延びている」ことになり、実質的に本件発明1は、甲第4号証に記載されていることになると主張する。
しかしながら、甲第4号証に記載のものはタテ編物であり、計算式の根拠となった甲第5号証は、ヨコ編物であるから、甲第5号証のものを甲第4号証のものに適用できないことはいうまでもない。
異議申立人は、「甲第4号証に開示されているワイピングクロス用布帛がたて編物に限定されないことは当業者にとって極めて明白」、「75デニールのフィラメント糸をたて編でなく、よこ編にして甲第4号証のワイピングクロス用布帛とすることは当業者にとり極めて容易になし得る」等平成13年11月6日付け回答書で主張しているが、たて編とよこ編では、本質的に編み方が異なるものであるから、よこ編の計算式をたて編の計算式に適用することは、技術的に意味のないことであって、特許異議申立人の主張は失当である。
したがって、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明とは認められない。

2)本件発明2と甲第4号証に記載されたものを対比すると、甲第4号証に記載されたものの「リントフリーなワイピングクロス」は、本件発明2の「クリーンルーム等の制御された環境に用いられるぬぐい布」に相当し、以下それぞれ「ポリエステル繊維フィラメント」が「熱可塑性フィラメント」に、「編物」が「編まれ」に、「熱融着部分」が「融合端縁」に相当するものと認められる。
また、甲第4号証に記載のものも明細書全体からみて「編まれた熱可塑性材料からぬぐい布が切断されるそれぞれの周縁部におけるフィラメントが互いに融合される端縁を有し、該融合端縁は周縁部からぬぐい布の内方に前記長さLの倍数だけ延びており、融合端縁が十分な引き裂き強度を有すると共に、融合端縁内に前記フィラメントの切断された部分を保持して、その結果、周縁部に沿って切断することから、制御された環境内に切断されたフィラメント断片の釈放を防止することができている」ものと認められるから、
両者は、
「クリーンルーム等の制御された環境に用いられるぬぐい布であって、該ぬぐい布は熱可塑性フィラメントからなる編み材料から構成され、該フィラメントは弛緩時のループ長さLに編まれ、不定形のシートから単位のぬぐい布となる周縁部に沿って切断することにより形成され、該ぬぐい布のその周縁は融合され、編まれた熱可塑性材料からぬぐい布が切断されるそれぞれの周縁部におけるフィラメントが互いに融合される端縁を有し、該融合端縁は周縁部からぬぐい布の内方に前記長さLの倍数だけ延びており、融合端縁が十分な引き裂き強度を有すると共に、融合端縁内に前記フィラメントの切断された部分を保持して、その結果、周縁部に沿って切断することから、制御された環境内に切断されたフィラメント断片の釈放を防止することができていることを特徴とするぬぐい布。」の点で一致しており、
本件発明2は、「融合端縁は、前記ぬぐい布の内方に、距離約7Lだけ延びている」のに対し、甲第4号証のものは、75デニールのポリエステル繊維フィラメントのタテ編物を5mmの連続した熱融着部分を設けた点で相違する。
異議申立人の主張では、甲第5号証に記載の計算式を用いて、甲第4号証に記載のものを計算すると甲第4号証に記載のものも「融合端縁は、前記ぬぐい布の内方に、距離約7Lだけ延びている」ことになり、実質的に本件発明2は、甲第4号証に記載されていることになると主張する。
しかしながら、上記〔2〕(4)イ.1)と同様の理由により、本件発明2は、甲第4号証に記載された発明とすることはできない。

3)本件発明3は、本件発明1又は本件発明2に新たに構成要件を追加して減縮するものであるから、本件発明1又は本件発明2が甲第4号証に記載されたものでない以上、本件発明3は、甲第4号証に記載された発明とは認められない。

4)本件発明5と甲第4号証に記載されたものを対比すると、甲第4号証に記載されたものの「リントフリーなワイピングクロス」は、本件発明5の「クリーンルーム等の制御された環境に用いられるぬぐい布」に相当し、以下それぞれ「ポリエステル繊維フィラメント」が「熱可塑性フィラメント」に、「編物」が「編まれ」に、「熱融着部分」が「融合端縁」に相当するものと認められる。
また、甲第4号証に記載のものも明細書全体からみて「不定形のシートから単位のぬぐい布となる周縁部に沿って、融合パターンを形成すると共に、該パターン内の切断線に沿って切断」するものと認められるから、
両者は、
「クリーンルーム等の制御された環境に用いられるぬぐい布であって、該ぬぐい布は熱可塑性フィラメントからなる編み材料から構成され、該フィラメントは弛緩時のループ長さLに編まれ、不定形のシートから単位のぬぐい布となる周縁部に沿って、融合パターンを形成すると共に、該パターン内の切断線に沿って切断して形成することを特徴とするぬぐい布。」の点で一致しており、
本件発明5が「切断線からフィラメントのループ長さLの約7倍の距離Dの融合端縁を形成」したのに対し、甲第4号証のものは、75デニールのポリエステル繊維フィラメントのタテ編物を5mmの連続した熱融着部分を設けた点で相違する。
異議申立人の主張では、甲第5号証に記載の計算式を用いて、甲第4号証に記載のものを計算すると甲第4号証に記載のものも「切断線からフィラメントのループ長さLの約7倍の距離Dの融合端縁を形成」することになり、実質的に本件発明5は、甲第4号証に記載されていることになると主張する。
しかしながら、上記〔2〕(4)イ.1)と同様の理由により、本件発明5は、甲第4号証に記載された発明とすることはできない。

(5)取消事由3について
ア.甲第1、2、4〜9号証に記載された発明
甲第1号証には、「ループ長」として「1ループを編むために必要な糸の長さ。編目長ともいう。」とあり、対応英語として「loop length ,
stitch length」ということが記載されている。
甲第2号証には、編目長が図4・38に図示されている。
甲第4号証には、上記〔2〕(4)のア.のとおりのことが記載されている。
甲第5号証には、よこ編のループ長の計算式が記載されている。
甲第6号証には、ポリエステルの比重が記載されている。
甲第7号証には、清掃用織・編物に関して、第1〜3表及び第1〜9図とともに、以下の事項が記載されている。
1)「本発明の目的は、人造繊維連続フィラメントから容易に製造することが出来、且つすぐれた清掃力を有する新しい清掃用織・編物を提供するにある。」(第2頁右上欄第4〜7行)
甲第8号証には、ワイピング材に関し、第1表とともに以下の事項が記載されている。
2)「マルチフィラメント糸(75デニール/20フィラメント)を用いて、32ゲージの丸編機により、変形クロスミスインターロック編地を編成した。」(第3頁左下欄第3〜6行)
甲第9号証には、「デニール」として「繊度を表す恒長式の単位で、長サ9000m当たりの重サをグラム数で表したもの」とあり、対応英語として「denier」ということが記載されている。

イ.対比・判断
1)本件発明1と甲第4号証に記載されたものを対比すると、上記〔2〕(4)イ.1)で検討したように、
両者は、
「クリーンルーム等の制御された環境に用いられるぬぐい布であって、該ぬぐい布は熱可塑性フィラメントからなる編み材料から構成され、該フィラメントは弛緩時のループ長さLに編まれ、不定形のシートから単位のぬぐい布となる周縁部に沿って切断することにより形成され、該ぬぐい布のその周縁は融合され、ぬぐい布のその周縁に沿った融合端縁は、ぬぐい布の使用中にこのぬぐい布の周縁部から通常釈放される熱可塑性材料の断片を端縁内部に保持するのに十分な面積及び引き裂き強さを与えるのに十分なだけ大きいが、ぬぐい処理のために前記ぬぐい布に撓み性及び吸収力を保持するのに十分なだけ小さい距離にわたり内方にに延びていることを特徴とするぬぐい布。」で一致しており、
本件発明1は、「融合端縁の長さDは、フィラメントの弛緩時のループ長さLの約7倍の距離だけ内方に延びている」のに対して、甲第4号証に記載されたものは、75デニールのポリエステル繊維フィラメントのタテ編物を5mmの連続した熱融着部分を設けた点で相違する。
異議申立人の主張では、甲第5号証に記載の計算式を用いて、甲第4号証に記載のものを計算すると甲第4号証に記載のものも「融合端縁の長さDは、フィラメントの弛緩時のループ長さLの約7倍の距離だけ内方に延びている」ことになり、実質的に本件発明1は、甲第4号証に容易に発明をすることができたものと主張する。
しかしながら、甲第4号証に記載のものはタテ編物であり、計算式の根拠となった甲第5号証は、ヨコ編物であるから、甲第5号証のものを甲第4号証のものに適用できないことはいうまでもない。
異議申立人は、「甲第4号証に開示されているワイピングクロス用布帛がたて編物に限定されないことは当業者にとって極めて明白」、「75デニールのフィラメント糸をたて編でなく、よこ編にして甲第4号証のワイピングクロス用布帛とすることは当業者にとり極めて容易になし得る」等平成13年11月6日付け回答書で主張しているが、たて編とよこ編では、本質的に編み方が異なり、よこ編の計算式をたて編の計算式に適用することは、技術的に意味のないことであって、当業者にとって容易にできることとも認められない。
また、甲第7号証には、繊度31〜154デニールのポリエステルが記載されており、甲第8号証には、マルチフィラメント糸75デニールを用いて丸編機により編成したものが記載されているが、本件発明1の「融合端縁の長さDは、フィラメントの弛緩時のループ長さLの約7倍の距離だけ内方に延びている」点は、記載されていない。
そして、本件発明1は、「一般的に利用できる材料を利用することにより製造及び使用を経済的にすると共に前記したような微粒子汚染の源をなくし、製造、検査及び保守の広範囲の種類の手順に受入れられる強く耐久性があり、これと共に美的に快適なぬぐい布を提供し、一定した高い品質で多量に経済的に容易に作ることができることである。」という明細書に記載の作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は、甲第1〜9号証に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

2)本件発明2と甲第4号証に記載されたものを対比すると、上記〔2〕(4)イ.2)で検討したように、
両者は、
「クリーンルーム等の制御された環境に用いられるぬぐい布であって、該ぬぐい布は熱可塑性フィラメントからなる編み材料から構成され、該フィラメントは弛緩時のループ長さLに編まれ、不定形のシートから単位のぬぐい布となる周縁部に沿って切断することにより形成され、該ぬぐい布のその周縁は融合され、編まれた熱可塑性材料からぬぐい布が切断されるそれぞれの周縁部におけるフィラメントが互いに融合される端縁を有し、該融合端縁は周縁部からぬぐい布の内方に前記長さLの倍数だけ延びており、融合端縁が十分な引き裂き強度を有すると共に、融合端縁内に前記フィラメントの切断された部分を保持して、その結果、周縁部に沿って切断することから、制御された環境内に切断されたフィラメント断片の釈放を防止することができていることを特徴とするぬぐい布。」の点で一致しており、
本件発明2は、「融合端縁は、ぬぐい布の内方に、距離約7Lだけ延びている」のに対し、甲第4号証のものは、75デニールのポリエステル繊維フィラメントのタテ編物を5mmの連続した熱融着部分を設けた点で相違する。
異議申立人の主張では、甲第5号証に記載の計算式を用いて、甲第4号証に記載のものを計算すると甲第4号証に記載のものも「融合端縁は、ぬぐい布の内方に、距離約7Lだけ延びている」ことになり、実質的に本件発明2は、甲第4号証に記載されているものから当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。
しかしながら、上記〔2〕(5)イ.1)と同様の理由により、本件発明2は、甲第4号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、甲第7号証には、繊度31〜154デニールのポリエステルが記載されており、甲第8号証には、マルチフィラメント糸75デニールを用いて丸編機により編成したものが記載されているが、本件発明2の「融合端縁は、前記ぬぐい布の内方に、距離約7Lだけ延びている」点は、記載されていない。
そして、本件発明2は、「一般的に利用できる材料を利用することにより製造及び使用を経済的にすると共に前記したような微粒子汚染の源をなくし、製造、検査及び保守の広範囲の種類の手順に受入れられる強く耐久性があり、これと共に美的に快適なぬぐい布を提供し、一定した高い品質で多量に経済的に容易に作ることができることである。」という明細書に記載の作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明2は、甲第1〜9号証に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

3)本件発明3、4は、本件発明1又は本件発明2に新たに構成要件を追加して減縮するものであるから、本件発明1又は本件発明2が甲第1〜9号証に記載されたものに基づいて容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明3、4は、甲第1〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

4)本件発明5と甲第4号証に記載されたものを対比すると、上記〔2〕(4)イ.4)で検討したように、
両者は、
「クリーンルーム等の制御された環境に用いられるぬぐい布であって、該ぬぐい布は熱可塑性フィラメントからなる編み材料から構成され、該フィラメントは弛緩時のループ長さLに編まれ、不定形のシートから単位のぬぐい布となる周縁部に沿って、融合パターンを形成すると共に、該パターン内の切断線に沿って切断して形成することを特徴とするぬぐい布。」の点で一致しており、
本件発明5が「切断線からフィラメントのループ長さLの約7倍の距離Dの融合端縁を形成」したのに対し、甲第4号証のものは、75デニールのポリエステル繊維フィラメントのタテ編物を5mmの連続した熱融着部分を設けた点で相違する。
異議申立人の主張では、甲第5号証に記載の計算式を用いて、甲第4号証に記載のものを計算すると甲第4号証に記載のものも「切断線からフィラメントのループ長さLの約7倍の距離Dの融合端縁を形成」ことになり、実質的に本件発明5は、甲第4号証に記載されているものから容易に発明をすることができたものであると主張する。
しかしながら、上記〔2〕(5)イ.1)と同様の理由により、本件発明5は、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、甲第7号証には、繊度31〜154デニールのポリエステルが記載されており、甲第8号証には、マルチフィラメント糸75デニールを用いて丸編機により編成したものが記載されているが、本件発明5の「切断線からフィラメントのループ長さLの約7倍の距離Dの融合端縁を形成」点は、記載されていない。
そして、本件発明5は、「一般的に利用できる材料を利用することにより製造及び使用を経済的にすると共に前記したような微粒子汚染の源をなくし、製造、検査及び保守の広範囲の種類の手順に受入れられる強く耐久性があり、これと共に美的に快適なぬぐい布を提供し、一定した高い品質で多量に経済的に容易に作ることができることである。」という明細書に記載の作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明5は、甲第1〜9号証に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

〔3〕むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-12-03 
出願番号 特願平1-87115
審決分類 P 1 651・ 532- Y (A47G)
P 1 651・ 531- Y (A47G)
P 1 651・ 121- Y (A47G)
P 1 651・ 113- Y (A47G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 塩澤 克利金丸 治之  
特許庁審判長 佐藤 洋
特許庁審判官 和泉 等
岩崎 晋
登録日 2000-01-14 
登録番号 特許第3020960号(P3020960)
権利者 ザ、テクスワイプ、カムパニ
発明の名称 ぬぐい布  
代理人 渡邊 勇  
代理人 大畑 進  
代理人 三中 菊枝  
代理人 三中 英治  
代理人 堀田 信太郎  

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