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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
管理番号 1051602
異議申立番号 異議2001-72425  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-12-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-09-07 
確定日 2001-12-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第3142270号「プリント配線板の製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3142270号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3142270号の請求項1〜4に係る発明についての出願は、平成11年3月18日になされ、平成12年12月22日に、それら発明について特許の設定登録がなされ、その後、古河サーキットフォイル株式会社より、その請求項1〜4に係る発明の特許について、特許異議の申立てがなされたものである。

2.申立て理由の概要
特許異議申立人古河サーキットフォイル株式会社は、それぞれ本件出願の出願前に頒布された刊行物である
甲第1号証の刊行物「特開平6-112649号公報」、
甲第2号証の刊行物「特開平9-107168号公報」、
甲第3号証の刊行物「特開平3-50890号公報」、
甲第4号証の刊行物「特開平3-57585号公報」、
甲第5号証の刊行物「特公昭53-18329号公報」、及び、
甲第6号証の刊行物「特公平8-18401号公報」
を提出して、概略以下の主張をなしている。

甲第1号証には、
段落番号【0001】に、「【産業上の利用分野】本発明は、多層印刷配線板(多層プリント板)の製造方法に関し、特に、超高密度の多層プリント板を製造するに好適な方法に関するものである。」と、
【特許請求の範囲】に、「【請求項1】 多層プリント板の製造工程において、少なくとも最外層の回路とすべき銅はく層と、内層回路が形成された銅はく層間を、半硬化性樹脂フィルムを用いて接着硬化されている構成の多層化したプリント板材料において、該最外層用銅はく層と内層回路用銅はく層間を、スルーホール導通させる工程で、最外層の回路とすべき銅はく層の厚さを10μm以下とし、最外層銅はくをスルーホールにより導通させるべき内層回路銅はくの厚さを15μm以上とし、導通孔形成部を、最外層銅はくの外部よりエクシマレーザーを照射し、最外層銅はくと樹脂フィルムとさらに内層銅はくの1部を孔あけし、次いで、少なくとも無電解めっき又は導電性塗料で、2つの銅はく層を導通させる事を特徴とする、多層プリント板の層間接続の製造方法」と、
段落番号【0014】に、「次いで内層両面回路板の表裏面に、半硬化樹脂フィルムを置き、さらに、厚さ10μ以下好ましくは6μ以下の極薄銅はくをおき、・・」と、
段落番号【0021】に、「本発明は、銅はく厚さが10μm以下、好ましくは6μm以下にする事により、絶縁樹脂層をレーザー孔あけすると同一のエクシマレーザーエネルギーで外層銅はく層で、絶縁樹脂層及び内層銅はくの一部を孔あけする事が特徴である。」と、
段落番号【0015】に、「10μm以下の厚さの極薄銅はくとは、公知のプラスチックフィルムやアルミはくに厚さ10μm以下に銅めっきをして作られたアルミはくやフィルムで保護一体化された銅はくや、ステンレス板等の担体に厚さ10μm以下の銅めっきをして作られた、ステンレス板を担体とする銅はく、又は、アルミはくやプラスチックフィルムと接着された、厚さ10μm以下の銅はくである。」と、
記載され、段落番号【0029】〜【0031】には、実施例として、内装回路としての35μm銅箔を張ったガラスエポキシ積層板に対し、樹脂フィルムを上下に1枚づつ配置し、更にその外側上下に5μm銅箔(アルミキャリヤー付)を配置して、キャリヤーアルミ箔を除去した後、エクシマレーザーを照射し表層から第2層の内層銅間までの孔あけを行なう旨記載されているから、
甲第1号証には、
内層回路付基板に、有機絶縁樹脂層を介して、厚みが6μ以下である極薄銅箔をアルミ箔支持体と共に積層した後、該アルミ箔支持体を剥離して極薄外層銅箔層を有する積層板を形成し、次いで該アルミ箔支持体が剥離された極薄外層銅箔層表面から積層板にエクシマレーザーを照射して該極薄外層銅箔と有機絶縁樹脂層とを同時に穴開けしてブラインドバイアホールを有する穴開き積層板を形成し、次いで該穴開き積層板に外層銅層を形成した後、該内層回路と接続された外層回路を形成する工程を含むことを特徴とする多層プリント配線板の製造方法。
が記載されており、しかも、本件特許にいう極薄銅箔が4μm以下でかつ前記内層回路の銅箔厚みに対して4/18(=1/4.5)以下であることと、甲第1号証にいう極薄銅はくの厚みが、6μ以下であることとの間には、実質的な差異がなく、さらに、多層プリント配線板の製造方法における構成としては、アルミ箔支持体と銅箔支持体との間にも実質的な構成の差異はない。
しかも、甲第2号証には、
【請求項14】に、「 レーザビームを用いて基材表面に金属層が形成された配線基板にスルーホールやブラインドバイアホールの穴あけや溝加工、外形カット等を行う配線基板のレーザ加工方法において、前記金属層を溶融、除去しうる強度を有するレーザビームをパルス照射することで前記金属層を部分的に除去して所望の形状を有する前記金属層を形成し、前記金属層を溶融させない強度及び10μsから200μsのビーム照射時間を有し且つ15ms以上のビーム照射休止時間の間隔で連なる複数のパルスのレーザビームを前記金属層の除去された部分を介して前記配線基板の被加工部にさらに照射することを特徴とする配線基板のレーザ加工方法。」と、
【請求項19】に、「レーザビームの光源として炭酸ガスレーザを用いることを特徴とする請求項1から請求項18のうちのいずれか1項記載の配線基板のレーザ加工方法。」と
記載され、段落番号【0006】〜【0012】に、機械加工によるプリント基板の加工方法に代わる方法として、エキシマレーザや炭酸ガスレーザ等のレーザビームを応用する方法が注目されているが、プリント基板にスルーホール、インナーバイアホールを加工すると穴内壁が極めて粗雑な穴となり、穴内壁を導体化するためのめっきが付きにくくなり、炭酸ガスレーザを用いると、加工部にレーザ光が照射される時間が長くなるため加工部周辺の温度勾配がなだらかになる等の問題がある旨記載されており、さらに、
段落番号【0090】に、「・・この実施の形態9では、プリント基板1Eとして厚さ200μmの3層の両面銅箔張りのガラスエポキシプリント基板(FR-4)を用いる。導体層2,3,4としての銅箔の厚さは18μmであり、表面の導体層2にはエッチングによる銅箔除去部は設けられていない。」と、
段落番号【0091】に、「・・プリント基板1Eにパルスエネルギ400mJ、パルス幅100μsの炭酸ガスレーザから放射されたレーザビーム27を被加工部表面でそのスポット径が最小となるジャストフォーカス位置となるように、ZnSeレンズ9でレーザビーム27を集光して1パルス照射し、その後50msのビーム照射休止時間毎にパルスエネルギ150mJ、パルス幅100μsのレーザビーム27を10パルス照射する。・・」と、
段落番号【0092】に、「・・表層の導体層2では、直径200μmのほぼ真円の銅箔が、周辺への熱影響をほとんど呈すること無く除去され、それより下方ではガラスクロス29の突出の少ないほぼストレートな穴が最下層の銅箔までにわたり加工される。・・」と
【0093】に、「以上のように、予めエッチング等の別工程により銅箔を除去しなくても、・・周辺に熱影響をほとんど及ぼすことなく表層の銅箔を微細に除去でき、その後ビーム照射休止時間を大きく取りながらパルスエネルギの小さいレーザビーム27を複数回照射することにより炭化層の無いスルーホールを加工することができる。これにより従来法では不可欠であった前工程のエッチング処理が省略でき製造工程の簡素化が可能となる。・・」と
記載されているから、甲第2号証には、
エキシマレーザ等の課題を認識した上で、炭酸ガスレーザによる加工の最適化を行い、表面銅箔が18μmのものにおいてさえ、表面導体層にエッチングによる銅箔の除去を行うことなく、炭酸ガスレーザを照射することにより、内壁のなめらかなスルーホールを得ること
が記載されている。
さらに、甲第3号証には、
特許請求の範囲に、「(1)絶縁材料の両側面に銅箔を積層してなるプリント基板をレーザを用いて孔明け・・」と、
第2頁左下欄第9〜11行に、「本発明のレーザとしては、熱分解反応を伴う方法として、CO2レーザ、YAGレーザ、エキシマレーザ等が使用できる」と、
第3頁左上欄第1〜9行「炭酸ガスレーザ(波長10.6μm、シングルモード)を・・パルスONタイム0.1mSec・・径約200μmのスルーホール用孔を形成した」と
記載されている。
また、甲第4号証に記載のものは、レーザー等のエネルギービームを用いたプリント基板の孔明け方法及びその装置に関する(第1頁右下欄第3〜5行)ものであり、甲第4号証には、
特許請求の範囲に、「(1)プリント配線板にレーザー等のエネルギービームを用いて孔明けするに際し、孔明けの進行にともない前記ビームの焦点位置を移動させること」と、
第2頁左下欄第9〜12行に、「本実施例では、炭酸ガスレーザー(入=10.6μm)又は、エキシマレーザー(KrF:λ=248nm)によるパルス発振を用いてある・・」と、
の記載があり、さらに、プリント配線板は、絶縁材料の両側面に銅箔を積層したものとして、第4頁第1図(C))の図示がある。
よって、炭酸ガスレーザを用いて、銅箔にエッチングを施すことなく穴あけ加工を行うことは、当該分野における周知の技術というべきものである。
したがって、甲第1号証に記載される発明のレーザとして炭酸ガスレーザを用いることは甲第2号証の記載に基づいて、当業者が容易になしえたものというべき事項である。
また、甲第5号証に記載されたものは、支持つきの極めて薄い銅箔、これから銅被覆積層体を作る方法、並びにこうして作られた積層体に関する(第1頁左下最下行〜右欄2行)ものであり、甲第5号証には、
特許請求の範囲に、「1 電着により製造した銅支持層と、自己支持ではない厚さの電着により製造した第2の銅層と、前記銅支持層及び第2の銅層の間にある離型剤の薄層とから成る複合箔。」と
記載されている。
甲第6号証に記載されたものは、複合箔とその製法に関し、より詳細には銅箔担体の粗面側にクロメート被膜の離型層を有し、銅-ニッケル合金層及び極薄銅箔層が順次設けられ、特に極薄銅箔の厚みが9μm以下であって、しかも該銅-ニッケル層と銅箔担体との剥離強度を安定させた複合箔とその製法に関する(第2頁左欄第17〜22行)ものであり、甲第6号証には、
特許請求の範囲に、「【請求項1】粗面を有する銅箔担体の粗面側にクロメート被覆の離型層、銅-ニッケル合金層及び極薄銅箔層が順次設けられ、プレス積層後銅箔担体及びクロメート被覆が剥離されることを特徴とする複合箔。」と
記載されているのであるから、本件請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明との間の銅箔の支持体に係る差異は、格別の構成とされるべきものではなく、本件請求項1に係る発明は、甲第1,2号証の刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本件請求項1を引用する本件請求項2〜4に係る発明も、甲第1,2号証の刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

よって、本件請求項1〜4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それら発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

3.異議申立の判断
3-1 本件請求項1〜4に係る発明
異議申立の対象となる本件の請求項1〜4に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された以下の事項により、それぞれ特定されるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 内層回路付基板に、有機絶縁樹脂層を介して、厚みが4μm以下でかつ前記内層回路の銅箔厚みに対して4/18(=1/4.5)以下である極薄銅箔を銅箔支持体と共に積層した後、該銅箔支持体を剥離して極薄外層銅箔層を有する積層板(a)を形成し、次いで該銅箔支持体が剥離された極薄外層銅箔層表面から積層板(a)に炭酸ガスレーザを照射して該極薄外層銅箔と有機絶縁樹脂層とを同時に穴開けしてブラインドバイアホールを有する穴開き積層板(b)を形成し、次いで該穴開き積層板(b)に外層銅層を形成した後、該内層回路と接続された外層回路を形成する工程を含むことを特徴とする多層プリント配線板の製造方法。
【請求項2】 上記銅箔支持体を有する極薄銅箔の該極薄銅箔表面に熱硬化性樹脂を塗布し、該熱硬化性樹脂を加熱により半硬化にして複合銅箔を形成し、該複合銅箔の樹脂面を接着面として、片面または両面に内層回路を有する内層回路付基材の片面または両面に該複合銅箔を配置した後加熱成形して積層板(a)を製造することを特徴とする請求項1に記載の多層プリント配線板の製造方法。
【請求項3】 前記穴開き積層板(b)上に外層銅層を形成し、次いで該外層銅層にレジストを塗布し、レジストパターンを形成した後、酸エッチングし、外層銅層および外層銅箔の一部を除去して、内層回路と接続された外層回路を形成することを特徴とする請求項1に記載の多層プリント配線板の製造方法。
【請求項4】 前記穴開き外層板(b)の極薄外層銅箔上に塗布されたレジストによりレジストパターンを形成した後、該形成されたレジストパターン間および穴開けした樹脂表面に銅層を形成し、次いでレジストパターンを除去して露出した極薄外層銅箔を酸エッチングで除去して、内層回路と接続された外層回路を形成することを特徴とする請求項1に記載の多層プリント配線板の製造方法。

3-2 甲各号証の刊行物に記載された発明
特許異議申立人古河サーキットフォイル株式会社が提出した甲第1号証の刊行物には、2.に述べた記載があり、
内装回路である15μm以上の厚さの回路銅はく2が付いた基板であるガラスエポキシ積層板1に、有機絶縁樹脂の層である樹脂フィルム3を介して、厚みが6μm以下である極薄銅はく5をそれを支持するアルミはく等の箔の層と共に積層した後、該アルミはく等の支持をする箔の層を剥離して外層にある極薄銅はくの層を有する積層した板を形成し、次いで該アルミはくが剥離された極薄銅はくの層の表面から積層した板にエクシマレーザーを照射して該極薄銅はくと樹脂フィルムとを同時に穴開けしてブラインドバイアホールを有する穴開きの積層した板を形成し、次いで該穴開きされた積層した板に外層の銅層を形成した後、該内層の回路銅はくと接続された外層の回路を形成する工程を含む多層プリント板の配線である層間接属の製造方法
の発明が記載されるものと認められるとともに、甲第1号証には、2.に指摘した他に、
段落番号【0010】に、「・・スルーホール導通させる工程で、最外層の回路とすべき銅はく層の厚さを10μm以下とし、最外層銅はくをスルーホールにより導通させるべき内層回路銅はくの厚さを15μm以上とし、・・」、
段落番号【0029】に、「【実施例】・・絶縁層厚0.6mmの両面に35μm銅箔を張ったガラスエポキシ積層板をエッチングして回路を形成し、・・」、
段落番号【0036】に、「実施例2・・6層の多層板を製造した。4層板の成形までは4層板の外層銅箔として35μm履くを用いる事以外は実施例1と同様とした。・・」、及び、
段落番号【0034】「比較例
2多層化成形時に5μm銅箔の代りに18μm銅箔を用いた以外はすべて実施例1と同様にした。エクシマレーザー照射にて銅箔が加熱され表層銅のはくりを生じてしまった。」
との記載がある。
また、甲第2号証には、2.に述べた記載があるとともに、
段落番号【0015】に、「また、この発明は、配線基板のレーザ加工方法に最適なパルス幅を持つレーザビームの出力が可能な配線基板加工用の炭酸ガスレーザ発振器を得ることを目的とする。」
段落番号【0016】に、「【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明に係る配線基板のレーザ加工方法は、レーザビームを10μsから200μsの範囲のビーム照射時間で、エネルギ密度を20J/cm2以上としてパルス的に配線基板の被加工部に照射するものである。」
との記載があり、
表面銅箔が18μmのものにおいて、表面導体層にエッチングによる銅箔の除去を行うことなく、炭酸酸ガスレーザのレーザビームを10〜200μsの範囲の照射時間で、エネルギー密度を20J/cm2以上としてパルス的に照射することにより、内壁のなめらかなスルーホールを得る配線基板のレーザ加工方法
の発明が記載されるものと認める。

さらに、甲第3,4号証には、2.に述べた記載があり、ともに、
炭酸ガスレーザを用いて、銅箔にエッチングを施すことなく配線基板に穴あけ加工を行うこと
が記載されるものと認められるとともに、甲第5,6号証には、2.に述べた記載があり、ともに、
極薄銅箔を銅箔支持体と共に用い、銅箔支持体を剥離すること
が記載されるものと認める。

3-3対比・判断
3-3-1 本件請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明は、上記の通り特定されるものであるから、少なくとも、
内層回路付基板に、有機絶縁樹脂層を介して、厚みが4μm以下でかつ前記内層回路の銅箔厚みに対して4/18(=1/4.5)以下である極薄銅箔を銅箔支持体と共に積層したこと、及び、炭酸ガスレーザを用いること(以下、「構成A」という。)
をその構成の一部とするものである。
構成Aは、特許明細書の段落番号【0015】に、「・・本発明の多層プリント配線板の製造方法では、外層銅箔の厚さは、4μm以下であって、かつ内層回路付基材の内層回路の厚さの1/4.5以下でなければならない。外層銅箔の銅箔の厚さが内層回路厚みの1/4.5を超えると、炭酸ガスレーザで外層銅箔ごと穴開けを行う際に、有機絶縁樹脂層だけでなく内層回路に損傷を与えてしまう。また、銅箔の厚さが4μmを超えると、炭酸ガスレーザ照射後の外層銅箔のバリが多く発生し、穴形状が不安定となる。」、及び、段落番号【0016】に、「この場合、穴開けする外層銅箔の厚さが厚くなると、穴開けするためのレーザのエネルギーを高める必要があるが、エネルギーを高めるほど発熱量が増えるため、外層銅箔と内層回路の間の樹脂の損傷が大きくなる。内層回路の厚みを増して熱拡散を図ることはできるが、外層銅箔の厚さが4μmを超えると35μmを超える厚い内層回路を使用しても、樹脂に与えるエネルギーが大きすぎて、バイアホールの周囲に膨れが発生する。この膨れは樹脂の溶融及び熱分解によるものであり、プリント配線板としては特性上の欠陥となり好ましくない。このため、外層銅箔の厚みは4μm以下とする必要がある。」と記載されるように、炭酸ガスレーザを使用して、極薄外層銅箔と同銅箔及び内装回路間の有機絶縁樹脂層とを同時に穴開するにあたり、内層回路に損傷を与えることなく、樹脂の溶融及び熱分解によりバイアホールの周囲に膨れが発生することを防止するための、炭酸レーザにより加工される積層板としての構成である。
これに対して、上記甲第1号証には、3-2に述べたように、
内装回路である15μm以上の厚さの回路銅はく2が付いた基板であるガラスエポキシ積層板1に、有機絶縁樹脂の層である樹脂フィルム3を介して、厚みが6μm以下である極薄銅はく5をそれを支持するアルミはく等の箔の層と共に積層した後、該アルミはく等の支持をする箔の層を剥離して外層にある極薄銅はくの層を有する積層した板を形成し、次いで該アルミはくが剥離された極薄銅はくの層の表面から積層した板にエクシマレーザーを照射して該極薄銅はくと樹脂フィルムとを同時に穴開けしてブラインドバイアホールを有する穴開きの積層した板を形成し、次いで該穴開きされた積層した板に外層の銅層を形成した後、該内層の回路銅はくと接続された外層の回路を形成する工程を含む多層プリント板の配線である層間接属の製造方法
の発明が記載されるものと認められるものの、特許異議申立人も認めるように炭酸ガスレーザを用いるものではない。また、外層の銅箔の絶対的厚さに関しては、「5μm」の例示とともに、「10μm以下」なる記載があり、併せて、段落番号【0034】の記載を参酌すれば、ごく薄くすることが開示されていることから、それらが、「4μm以下」を記載又は示唆するか否かはさておき、これとともに用いられる「内装回路銅はく」は、「厚さを15μm以上」、「35μm」とされるのみで、「極薄銅はく」との相対的厚さの関係を何等記載するものではないとともに、それを示唆する記載はない。まして、外層の銅箔の絶対的厚さを「4μm」に特定した上で、炭酸レーザの使用の前提下に、内層回路の銅はく厚さと外層の「極薄銅はく」との相対的厚さの関係を定めることを開示又は示唆するものでもない。
したがって、本件請求項1に係る発明と上記甲第1号証に記載の発明とを比較すると、本件請求項1に係る発明が、上記の構成Aを有するものであるのに対して、甲第1号証のものは、その点を開示していない点で少なくとも相違している。

特許異議申立人は、この構成Aは、厚さの限定が格別の限定ではない旨主張するとともに、甲第2号証に記載された炭酸ガスレーザを用いる発明に基づいて、当業者が容易になしえた事項である旨、主張しているので、以下、甲第2号証の開示について検討する。
3-2に記載するように、甲第2号証には、
表面銅箔が18μmのものにおいて、表面導体層にエッチングによる銅箔の除去を行うことなく、炭酸酸ガスレーザのレーザビームを10〜200μsの範囲の照射時間で、エネルギー密度を20J/cm2以上としてパルス的に照射することにより、内壁のなめらかなスルーホールを得る配線基板のレーザ加工方法
が記載されるものと認めらる。
18μmの銅箔に穴あけ加工を行えることが、それより薄い銅箔に適用できるか否かは、内層基板への影響をさらに検討することが必要であるが、特許異議申立人が主張するように、より薄いもののへの適用が可能であるとしても、甲第2号証に示される技術は、上記構成A中の炭酸ガスレーザを用いることのみであり、そのための、炭酸ガスレーザの照射条件等に係る開示は認められるものの、構成Aにいう、被加工物である積層板の構成を開示又は示唆するものではないから、極薄銅箔の厚さとして、内層回路の銅箔厚みに対して4/18(=1/4.5)以下であることを何等開示も示唆もなすものではない。
したがって、上記構成Aを甲第2号証に開示又は示唆されるとすることはできない。
さらに、甲第3,4号証に炭酸レーザの照射により、積層基板に穴あけ加工を施すことが記載されるものの、外層の銅箔と内層回路の銅箔との厚さに係る特段の開示はなく、甲第5,6号証には、極薄銅箔を銅箔支持体と共に用い、銅箔支持体を剥離しすることが記載されるものの、外層の銅箔と内層回路の銅箔との厚さに係る特段の開示はなく、上記構成Aを開示する客観的証拠は何等認められない。
しかも、本件請求項1に係る発明は、構成Aを有することにより、
特許明細書の段落番号【0015】に記載の「・・本発明の多層プリント配線板の製造方法では、外層銅箔の厚さは、4μm以下であって、かつ内層回路付基材の内層回路の厚さの1/4.5以下でなければならない。外層銅箔の銅箔の厚さが内層回路厚みの1/4.5を超えると、炭酸ガスレーザで外層銅箔ごと穴開けを行う際に、有機絶縁樹脂層だけでなく内層回路に損傷を与えてしまう。・・」との作用を前提として、同段落番号【0038】に記載の「【発明の効果】上記実施例および比較例の結果から明らかなように、本発明の多層プリント配線板の製造によれば、銅箔面にレーザ透過用の穴を予め形成することなく銅箔及び絶縁樹脂層に直接バイアホールを形成することができ、生産効率を著しく高めることができる。」という効果を奏するものであるから、構成Aを設計上の事項に属するとすることはできない。
よって、本件請求項1に係る発明を、その構成の一部を開示も示唆もしない甲第1〜6号証の刊行物に記載された発明とすることはできないとともに、それらの刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
なお、特許権者は、構成Aとの関係で、平成12年2月10日付け意見書においても、「即ち、多層プリント回路基板の表面に4μm以下の極薄銅箔を貼着し、この極薄銅箔の表面から炭酸ガスレーザを照射すると、この形成された極薄外層銅箔と有機絶縁樹脂層とを一体としてブラインドバイアホールを穿設することができると共に、外層に貼着される極薄銅箔の厚さを内層回路を形成する銅箔の厚さに対して1/4.5以下とすることにより、極薄外層銅箔を穿孔した炭酸ガスレーザが内層回路を形成する銅箔に損傷を与えることなく非常に効率よくブラインドバイアホールを形成することができるのである。」と主張しており、構成Aは、甲第1号証に記載されるものと格別の差異のを構成しないことを、特許権者は認めている旨の異議申立人の主張は採用できないとともに、上記特許権者の主張を否定する客観的論拠を発見しない。

3-3-2 残余の請求項に係る発明について
請求項2〜4に係る発明は、上記請求項1に係る発明を、引用することにより、構成Aをそれらの発明の構成の一部とするものであるから、3-3-1に述べたように、それら発明を、その構成の一部を開示も示唆もしない上記甲第1〜6号証の刊行物に記載された発明とすることはできないとともに、それらの刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

4.むすび
以上説示の通り、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1〜4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜4に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-12-05 
出願番号 特願平11-73033
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中川 隆司  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 鈴木 久雄
井口 嘉和
登録日 2000-12-22 
登録番号 特許第3142270号(P3142270)
権利者 三井金属鉱業株式会社
発明の名称 プリント配線板の製造方法  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 鈴木 亨  
代理人 篠田 文雄  
代理人 牧村 浩次  
代理人 束田 幸四郎  
代理人 高畑 ちより  
代理人 津国 肇  

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