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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B44C
管理番号 1053040
審判番号 不服2001-9733  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-06-11 
確定日 2002-02-25 
事件の表示 平成 3年特許願第507194号「積層構造体のための着色された熱可塑性複合体シート材料の製法」拒絶査定に対する審判事件〔平成 4年10月 1日国際公開、WO92/16369、平成 6年 8月25日国内公表、特表平 6-507352、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成3年3月14日を国際出願日とする出願であって、平成5年11月18日付けの補正書で明細書の浄書が提出され、平成11年2月25日付けで拒絶の理由が通知され、平成11年6月8日付けで明細書の補正がなされ、平成11年10月19日付け、及び平成12年7月21日付けで拒絶の理由が通知され、平成13年3月5日付けで拒絶の査定がなされた。
次いで、審判請求がなされ、平成13年7月11日付けで明細書の補正がなされたものであり、本願出願の発明は、該補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたとおりのものである。
「【請求項1】 a)キャリアーフィルム上に非着色バインダー樹脂の層をコーティングし、
b)溶剤含有バインダー樹脂中に分散された微細な固体結晶性顔料粒子を含むインクを上記コーティングされたキャリアーフィルム上にコーティングし、
c)このコーティングを乾燥して溶剤を除去し、溶剤を含まないコーティングを調製し、
d)上記コーティングされたキャリアーフィルムと熱可塑性シート材料とをニップロールを通過させることによって、工程c)の溶剤を含まない複合コーティングを熱可塑性シート材料の粗面化表面と接触させ、
e)このシート材料の粗面化表面を保持しながらキャリアーフィルムから複合コーティングを剥離させるのに十分な熱および圧力をかけて、該キャリアーフィルムと該熱可塑性シート材料とが上記ニップロールを出るにつれて該複合コーティングを該熱可塑性シート材料の表面に転写させる、
工程からなる、積層構造体に用いるための粗面化表面を有する着色熱可塑性シート材料の連続的な製造方法。
【請求項2】 複合コーティングとキャリアーフィルムとの間の表面張力が10〜60ダイン/センチである請求項1記載の方法。
【請求項3】 顔料粒子が25〜600平方メートル/グラムの比表面積を有する請求項1記載の方法。
【請求項4】 バインダー樹脂がポリビニルアルコールとして計算して10〜35重量%のヒドロキシル含量を有するポリビニルブチラール樹脂を包含する請求項1記載の方法。
【請求項5】 複合コーティングの表面を非着色の溶剤含有バインダー樹脂の層でコーティングし、ついでこのコーティングを乾燥し、その後にこの複合コーティングを熱可塑性シート材料の表面に転写する請求項1記載の方法。
【請求項6】 上記したインクがコーティング中の顔料の全重量を基準にして少なくとも10%の量のカーボンブラックを含有する請求項1記載の方法。
【請求項7】 工程b)のコーティングが勾配つき帯体によって施される請求項1記載の方法。
【請求項8】 請求項1記載の方法により製造される熱可塑性複合シート。」

2.拒絶査定の理由
平成13年3月5日付けの拒絶査定における拒絶の理由は、本願請求項1ないし8に係る発明は、その出願前日本国内で頒布された下記の刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。


刊行物1:特開昭48-66175号公報
刊行物2:特開昭63-299997号公報
刊行物3:特開平2-212140号公報

3.対比判断
3.1 刊行物の記載
刊行物1には、
(1a)「ポリプロピレン等のベースフイルムに染料で連続ボカシ模様を印刷形成した転写フイルムにより、エンボス形状を有する可塑化されたポリビニルブチラールフイルムに該連続ボカシ模様を転写した後に熱拡散させて得られた模様付ポリビニルブチラールフイルムを中間層としてガラス板等の透明板を積層してなる連続ボカシ模様付積層板の製造方法。」(特許請求の範囲)
(1b)「次にこの発明を一実施例について説明すると、第1図に示すように転写フイルム(1)はポリプロピレンフイルム等のベースフイルム(2)の上にポリビニルブチラール樹脂を含有する透明下引きインキでアンダーコート層(3)を設け、その上に熱拡散性のよい染料(例えばSumiplast染料-住友化学製)ポリビニルブチラール樹脂および溶剤等から成るインキにより連続ボカシ模様(4)を静電グラビア印刷により形成する。該転写フイルム(1)を微細な凹凸のエンボス形状を有する可塑化されたポリビニルブチラールフイルム(5)と重ね合わせて例えば温度50℃、圧力17kg/cm2、30秒間平圧プレスにより転写フイルム(1)の連続ボカシ模様(4)およびアンダーコート層(3)を該ポリビニルブチラールフイルム(5)に転写した後に例えば40℃の温度で50日間放置し連続ボカシ模様(4)の染料をポリビニルブチラールフイルム中に熱拡散させる。次に連続ボカシ模様を有する該ポリビニルブチラールフイルム(5)を中間層としてガラス板等の透明板(6)を重ね合わせ、例えば130℃、15kg/cm2の温度と圧力で20分間加熱加圧して第2図に示すように積層する方法である。」(第2頁右上欄第7行〜左下欄第8行)
(1c)「加熱加圧転写の際にポリビルブチラールフイルム(5)の表面の微細なエンボス形状をつぶすことなく転写することができ、」(第2頁左下欄第13〜16行)
と記載されている。

刊行物2には、
(2a)「(1)基体シート11、剥離剤層12、絵柄層13および接着剤層14からなり、射出成形またはホットスタンプによる絵付成形品の製造に使用する転写シート1Aにおいて、剥離剤層12が熱可塑性エラストマーを含有することを特徴とする転写シート1A。」(特許請求の範囲第1項)
(2b)「転写シート1Aは、次のようにして、製造することができる。すなわち、まず基体シートの片側表面に、熱可塑性エラストマーを含有するコーティング剤を塗布し、加熱乾燥するか、または硬化性の成分を含んでいる場合は、電離放射性により硬化させて剥離剤層を形成する。次に、上記のように形成した剥離剤層の表面に、着色剤を含有するコーティング剤を塗布し、乾燥して絵柄層を形成する。最後に、第二の工程で形成した絵柄層の上に、全体または一部分を被覆するように接着剤層を設ける。
絵柄層は、全面に形成した無地のものであってもよいし、部分的にインキ抜けのあるものであってもよい。場合によっては、蒸着金属層やホログラムであってもよい。
以上の工程における乾燥は、指触乾燥状態以上まで行なうことが必要である。」(第2頁右上欄第8行〜左下欄第4行)
(2c)「【実施例】
厚さ38μのポリエステルフィルム「ミラー」(東レ)を基体シートとし、このシートの片面に、下記の組成を持つコーティング剤A1、A2、またはA3を、リバースコーターで全面に塗布し、A1は紫外線、A2は電子線を照射して、またA3は加熱して、それぞれキュアーした。(「部」はいズレも重量部。)
(コーティング剤A1)
熱可塑性エラストマー
(ウレタンアクリレート) 80部
アクリル樹脂 5部
ベンゾイン 3部
合計88部
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
得られた各剥離剤その表面に、下記の組成をもつコーティング剤Bを、網点グラビア版で柄印刷し、80℃の乾燥フードに通して溶剤を揮発させ、指触乾燥して絵柄層を形成した。
(コーティング剤B)
酢酸ビニル-アクリル樹脂共重合体 50部
セピア顔料 20部
メチルエチルケトン 30部
トルエン 30部
合計130部
ついで、前記絵柄層の上に、下記の組成を持つコーティング剤Cを、版深60μのグラビアベタ版で全面に塗布し、80℃の乾燥フードに通して溶剤を揮発させ、接着剤層を形成した。
(コーティング剤C)
アクリル樹脂 20部
トリメチロールプロパントリアクリレート 20部
セピア顔料 30部
メチルエチルケトン 30部
合計100部
以上の工程は、インラインで30m/minの印字速度で行ない、得られた転写シートを巻取った。
各転写シートを、射出成型機の金型を利用して予備成形したのち、アクリル樹脂を射出成形した。」(第3頁左下欄第17行〜第4頁右上欄第4行)
刊行物3には積層安全ガラス及びこれに使用するポリマー積層物に関し、種々の物性を特定した可塑化ポリビニルブチラールを使用することが記載されている。(特許請求の範囲参照)

3.2 判断
3.2.1 請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)
本願発明1は、熱可塑性シート材料と、色又はパターンを含む薄いフィルムとからなる複合体を製造するための溶剤なしの転移方法を提供すること、均一で安定な着色が積層構造体の物理的性質を損なうことなく得ることができる着色熱可塑性シートの製造方法を提供すること、及び、加速された速度で実行することのできる熱可塑性シート材料の製造方法を提供すること、さらには、改良された破砕性能を示す積層構造体を提供することを目的とするものである。(平成5年11月18日付けの手続補正書第3頁第14〜22行参照)
そして、本願発明1に係る構成を採用することにより、インクコーティングを熱可塑性シート材料に転写させるにあたり、転写温度を著しく低下させ、製造した着色熱可塑性シート材料を用いた積層構造体は圧縮剪断強さが増大し(実施例1〜3参照)、転写後の溶媒を有しない着色熱可塑性シート材料の表面は転写前の表面粗さを維持し(実施例4〜6参照)、微細な固体結晶性顔料粒子を含むインクの使用により打撃接着強さが大となり優れた破砕特性を示す積層構造体を製造することができる(実施例17〜26参照)等の効果を奏するは、本願明細書の実施例の記載から明らかである。
これに対し、刊行物1には、上記摘記事項(1b)から明らかなように、熱拡散性のよい染料、ポリビニルブチラール樹脂及び溶剤等を含有するインキで連続ボカシ模様を印刷形成した転写フィルムを用い、該模様を、エンボス形状を有する可塑化されたポリビニルブチラールフィルムに平圧プレスにより転写したした後、例えば40℃の温度で50日間放置し該模様の染料をポリビニルブチラールフィルム中に熱拡散させることが記載されており、該ポリビニルフィルムが、本願発明1の粗面化表面を有する着色熱可塑性シート材料に対応するものである。
そこで、本願発明1と、刊行物1に記載された発明とを対比すると、着色は、本願発明1では、微細な固体結晶顔料粒子を含むインキで行うのに対し、刊行物1記載の発明では、熱拡散性のよい染料を含むインキで行い、転写後長時間の拡散工程を必要とするものであり、「微細な固体結晶顔料粒子」を用いることに点については記載も示唆もない。(以下、相違点1とする。)
また、本願発明1では、転写層であるコーティングを乾燥して溶剤を含まないコーティングとした後に、転写するものであるのに対し、刊行物1には、転写前に乾燥して溶剤を含まないコーティングとする旨の記載はない。(以下、相違点2とする。)
さらに、転写に際して、本願発明1では、ニップロールを使用し、連続的に転写させるものであるのに対して、刊行物1記載の発明では、平圧プレスを用いるものであって、ニップロールの使用については記載も示唆もない。(以下、相違点3とする)
そこで、これらの相違点について検討する。
刊行物2には、基材シート、剥離剤層、絵柄層及び接着剤層からなる転写シートを用いて、射出成形またはホットスタンプによる絵付成形品の製造に関し、絵柄層及び接着剤層には、それぞれ樹脂、セピア顔料及び溶剤からなるコーティングを用いること(摘記事項(2c)参照)、絵柄層及び接着剤層は溶剤を乾燥させて指触乾燥状態以上まで行うこと(摘記事項(2b)(2c)参照)、が記載されてはいるものの、セピア顔料が「微細な固体結晶顔料粒子」であることについては明記がない。
そして、刊行物2記載の発明では、絵柄層の上にさらに接着剤層を設けることを必須とするものであり、本願発明1及び刊行物1記載の発明のように、連続ぼかし模様(絵柄層)を直接フィルムに転写させるものではない点で相違しており、さらに、刊行物2記載の転写シートは、射出成形またはホットスタンプによる絵付成形品の製造に用いるものであって、刊行物1記載の発明のように平圧プレスを用いるものではなく、また、本願発明1のように、ニップロールを使用して連続的に転写せしめるものでもない。
すなわち、刊行物1記載の発明と刊行物2に記載された発明とは、転写の方法が全く異なる以上、刊行物2に記載された発明を、刊行物1に記載された発明に適用することが容易であるとすることができないばかりでなく、例え、適用することができたとしても、刊行物2には、相違点1及び相違点3に関する記載がない以上、本願発明1の構成を導き出すことはできない。
また、刊行物3には、可塑化ポリビニルブチラール樹脂が透明なポリマーフィルム又はコーティングからなる層と向き合って接触している積層体について記載されているだけで、上記相違点1ないし3については、記載又は示唆する記載はない。
そして、本願発明は上記相違点1ないし3に係る構成を採用することにより、前述の作用効果を奏するものである。
よって、本願発明1が、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

3.2.2 請求項2ないし8(以下、「本願発明2ないし8」という。)に係る発明について
本願発明2ないし8は、本願発明1の構成要件を全て引用するものであるから、上記本願発明1で述べたと同様の理由により刊行物1ないし3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4.むすび
以上のとおり、本願請求項1ないし8に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、他に本願請求項1ないし8に係る発明を拒絶する理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2002-01-30 
出願番号 特願平3-507194
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B44C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 丸山 英行木村 史郎赤木 啓二  
特許庁審判長 江藤 保子
特許庁審判官 六車 江一
植野 浩志
発明の名称 積層構造体のための着色された熱可塑性複合体シート材料の製法  
代理人 高木 千嘉  
代理人 西村 公佑  

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