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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F22G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F22G
管理番号 1053236
異議申立番号 異議1999-74779  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-04-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-12-21 
確定日 2001-10-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2908085号「排熱回収ボイラ」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2908085号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2908085号の発明についての出願は、平成3年10月17日に出願され、平成11年4月2日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、異議申立人 和田清淳により特許異議申立がなされ、平成12年9月29日付け取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年12月11日に特許異議意見書および訂正請求書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、上記訂正請求書に添付された全文訂正明細書に記載された、以下のa〜cである。
a.請求項1に記載された
「管群の一部を設置した」を、
「管群の一部を設置し、前記過熱器入口における排ガス温度の上昇率を緩和する」に訂正する。

b.明細書の段落【0006】に記載された
「高圧給水間17」を、
「高圧給水管17」に訂正する。

c.明細書の段落【0011】に記載された
「管群の一部を設置した」を、
「管群の一部を設置し、前記過熱器入口における排ガス温度の上昇率を緩和する」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
《上記aの訂正について》
上記aの訂正では、請求項1に記載された
「管群の一部を設置した」を
「管群の一部を設置し、前記過熱器入口における排ガス温度の上昇率を緩和する」に訂正している。
この訂正は、特許請求の範囲の請求項1に「前記過熱器入口における排ガス温度の上昇率を緩和する」を附加して構成を限定し、同請求項を減縮したものである。
そして、このaの訂正で追加された記載は、特許明細書の段落【0012】,【0016】に示されており、上記aの訂正は、特許明細書及び図面に記載された事項の範囲内において、訂正したものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

《上記bの訂正について》
上記bの訂正は、誤記の訂正に相当する。そして、この訂正は、特許明細書に記載した事項の範囲内であり、又、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない

《上記cの訂正について》
上記cの訂正は、上記aの訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と整合させるために発明の詳細な説明の記載を訂正をするものであり、明瞭でない記載の釈明に相当する。そして、この訂正は特許明細書に記載した事項の範囲内であり、又、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(3)独立特許要件
a.訂正後の請求項1に係る発明
訂正後の請求項1に係る発明は、上記訂正請求書に添付された全文訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)の、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 熱源として導かれる排ガスの流動方向に沿って順次設けられた少なくとも1組の過熱器、蒸発器および節炭器を有し、各伝熱面で排ガスと隔てられた給水が前記節炭器を経て加熱された後に、蒸気ドラムに回収され、そこから前記蒸発器を通して加熱され、さらに得られた蒸気が前記過熱器を経て過熱させられるようにした排熱回収ボイラにおいて、前記過熱器の排ガス上流側経路に当該過熱器よりも低温側に位置する過熱器あるいは蒸発器あるいは節炭器の管群の一部を設置し、前記過熱器入口における排ガス温度の上昇率を緩和することを特徴とする排熱回収ボイラ。」

b.引用文献
当審が、平成12年9月29日付け取消理由通知で引用した刊行物は、次のものである。
刊行物1:ASME論文、69ーGT-32、1969年3月発表、P1 〜9
・この刊行物1第4ページFig6中の「ARRANGEMENT D(和訳:装置D)」あるいは「ARRANGEMENT E(和訳:装置E)」の欄には、
「GAS PATH(和訳:ガス流路)」に沿って上流から、「SUPERHEATER(和訳:過熱器)」、「EVAPORATOR 2(和訳:蒸発器2)」および「ECONOMIZER(和訳:節炭器)」を順次設け、「ECONOMIZER(和訳:節炭器)」に「FEED(和訳:供給)」され、同「ECONOMIZER(和訳:節炭器)」を経て加熱された水が「DRUM(和訳:ドラム)」に回収され、そこから「EVAPORATOR 2(和訳:蒸発器2)」に通して加熱・蒸発され、さらに「SUPERHEATER(和訳:過熱器)」を経て過熱され、「STEAM(和訳:蒸気)」として供給される「heat recovery steam generator(和訳:熱回収蒸気発生機)」であって、
「SUPERHEATER(和訳:過熱器)」の「GAS PATH(和訳:ガス流路)」上流側に、「BURNER(和訳:バーナ)」を設置し、さらに上流に「EVAPORATOR 1(和訳:蒸発器1)」を設置した「heat recovery steam generator(和訳:熱回収蒸気発生機)」
が開示されている。

・刊行物1第4ページ右欄15,16行には「Fig.6 shows six possible groupings of heat recovery steam generator components.」と記載されている。
(和訳:第6図には、実現可能な6つにグループ分けされた熱回収蒸気発生機の部分構造が示されている。)

・刊行物1第5ページ左欄8〜18行には「Arrangement D, with two evaporator
sections, provides further increases in flow capability without increasing maximum firing tem-perature and decreasing superheat temperature as firing subsides.
Arrangement E provides for two firings of the gas turbine exhaust stream. This arrangeme-nt permits about a 70 percent increase in flow capabirity without increasing maximum firing
temperature. The important factor of this arrangement is ability to maintain a constant superh-eat temperature over the entire range of supplementary firing.」と記載されている。
(和訳:装置Dでは、2つの蒸発器があり、(バーナの)燃焼温度の最大値を上げることなく、そして、燃焼が低下した時でも過熱温度を低下させることなく、蒸気供給能力をさらに増やすことができる。 装置Eは、ガスタービンの排気ガス流路に2つの燃焼装置を備えている。この装置は、(バーナの)燃焼温度の最大値を上げることなく、蒸気供給能力を約70%増やすことができる。この装置の重要な点は、補助的加熱の全体の範囲において、一定の過熱温度を維持できることである。)

c.対比・判断
(対比)
刊行物1第4ページFig6中の「ARRANGEMENT D(和訳:装置D)」あるいは「ARRANGEMENT E(和訳:装置E)」の欄に記載された「GAS PATH(和訳:ガス流路)」中の「GAS 」が排ガスを意味していることは、上記引用箇所、「刊行物1第5ページ左欄8〜18行」中の「the gas turbine exhaust stream(和訳:ガスタービンの排気ガス流路)」という記載から明らかである。
また、この「ARRANGEMENT D(和訳:装置D)」あるいは「ARRANGEMENT E(和訳:装置E)」の欄には「FEED(和訳:供給)」と記載されているが、この「FEED(和訳:供給)」されるものが水であることは自明である。
そこで、訂正明細書の請求項1に係る発明と、刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1に記載された発明における「GAS PATH(和訳:ガス流路)」、「SUPERHEATER(和訳:過熱器)」、「EVAPORATOR 2(和訳:蒸発器2)」、「ECONOMIZER(和訳:節炭器)」、「FEED(和訳:供給)」、「DRUM(和訳:ドラム)」、「heat recovery steam generator(和訳:熱回収蒸気発生機)」および「EVAPORATOR 1(和訳:蒸発器1)」は、請求項1に係る発明の「熱源として導かれる排ガス」、「過熱器」、「蒸発器」、「節炭器」、「給水」、「蒸気ドラム」、「排熱回収ボイラ」および「過熱器あるいは蒸発器あるいは節炭器の管群の一部」にそれぞれ相当する。

(一致点)
したがって、両発明は、
「熱源として導かれる排ガスの流動方向に沿って順次設けられた少なくとも1組の過熱器、蒸発器および節炭器を有し、各伝熱面で排ガスと隔てられた給水が前記節炭器を経て加熱された後に、蒸気ドラムに回収され、そこから前記蒸発器を通して加熱され、さらに得られた蒸気が前記過熱器を経て過熱させられるようにした排熱回収ボイラにおいて、前記過熱器の排ガス上流側経路に当該過熱器よりも低温側に位置する過熱器あるいは蒸発器あるいは節炭器の管群の一部を設置したことを特徴とする排熱回収ボイラ。」
で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
訂正明細書の請求項1には、「前記過熱器入口における排ガス温度の上昇率を緩和する」と記載されているが、刊行物1には、このような記載がない点。

(判断)
刊行物1第4ページFig6中の「ARRANGEMENT D(和訳:装置D)」あるいは「ARRANGEMENT E(和訳:装置E)」の欄には、「SUPERHEATER(和訳:過熱器)」の「GAS PATH(和訳:ガス流路)」上流側に「EVAPORATOR 1(和訳:蒸発器1)」を設置した「heat recovery steam generator(和訳:熱回収蒸気発生機)」
が開示されている。
この「EVAPORATOR 1(和訳:蒸発器1)」は、請求項1に記載された「過熱器あるいは蒸発器あるいは節炭器の管群の一部」に相当するので、上記刊行物1Fig6中の欄には、訂正明細書の請求項1に係る発明の「前記過熱器の排ガス上流側経路に当該過熱器よりも低温側に位置する過熱器あるいは蒸発器あるいは節炭器の管群の一部を設置し、」に相当するものは開示されている。
しかし、上記刊行物1Fig6中の欄の記載によれば、「EVAPORATOR 1(和訳:蒸発器1)」の下流に「BURNER(和訳:バーナ)」が設置され、その下流に「SUPERHEATER(和訳:過熱器)」が設置されているので、「GAS PATH(和訳:ガス流路)」を流れる排気ガスが「EVAPORATOR 1(和訳:蒸発器1)」で冷却されるとしても再び「BURNER(和訳:バーナ)」で加熱されてしまい、「SUPERHEATER(和訳:過熱器)」入口における排気ガス温度の上昇率を緩和するという機能は期待できない。
したがって、訂正明細書の請求項1に記載された「過熱器入口における排ガス温度の上昇率を緩和する」という構成は、刊行物1の記載から自明なもであるとは言えず、訂正明細書の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明とは異なったものである。
また、訂正明細書の請求項1に係る発明は、この構成を具備することにより、同明細書【0022】段落に記載されている「排熱回収ボイラの耐圧部や蒸気タービンのロータ等に発生する熱応力を低減することが可能である。」という発明の効果を達成できると認められる。このような格別の効果を達成できる以上、訂正明細書の請求項1に係る発明は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、訂正明細書の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとは言えない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号、以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項および第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


3.特許異議申立てについて
(1)本件発明
本件の請求項1に係る発明は、上記訂正明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。(以下、「本件請求項1に係る発明」という。前記「2.(3)a.」参照。)

(2)申し立て理由の概要
特許異議申立人 和田清淳 は、
甲第1号証:ASME論文、69ーGT-32、1969年3月発表、P1 〜9
を提出して、本件請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明と同一、又は同号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定に該当し、特許を受けることができないものである。したがって、この発明の特許は特許法第113条第1項第2号の規定に該当するので取り消されるべきものである旨主張している。

(3)判断
本件請求項1に係る発明は、上記2.(3)c.で示したように、取消理由通知で示した刊行物1(甲第1号証と同じ。)に記載された発明とは異なったものであり、また、同刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。したがって、本件請求項1に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
排熱回収ボイラ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱源として導かれる排ガスの流動方向に沿って順次設けられた少なくとも1組の過熱器、蒸発器および節炭器を有し、各伝熱面で排ガスと隔てられた給水が前記節炭器を経て加熱された後に、蒸気ドラムに回収され、そこから前記蒸発器を通して加熱され、さらに得られた蒸気が前記過熱器を経て過熱させられるようにした排熱回収ボイラにおいて、前記過熱器の排ガス上流側経路に当該過熱器よりも低温側に位置する過熱器あるいは蒸発器あるいは節炭器の管群の一部を設置し、前記過熱器入口における排ガス温度の上昇率を緩和することを特徴とする排熱回収ボイラ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、たとえばガスタービンからの排ガスを熱源として蒸気を発生する排熱回収ボイラにおいて、ガスタービンの起動特性を阻害することなく起動することのできる排熱回収ボイラに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、コンバインドサイクルプラントは、高効率化および大容量化等の対応から、ガスタービン入口ガス温度が高温化され、これに伴って排熱回収ボイラへ流入する排気温度も高温化してきている。この排気の高温化により排熱回収ボイラの出口蒸気温度(主蒸気温度)も高くなる傾向にある。しかし、排熱回収ボイラで発生した蒸気が供給される蒸気タービンは、高圧の蒸気を使用するためケーシングが厚肉であること、ロータも高温蒸気に曝されることなどの条件から出力に応じて最適な蒸気条件が存在する。現状、蒸気タービン入口における主蒸気温度の最高値は538〜566℃程度である。したがって、主蒸気温度がこの値を越えるような運転状態が発生する場合には、負荷に関係なく、排熱回収ボイラの発生蒸気温度の上限値を設定して、この温度以下に蒸気温度を制御しているのが一般的である。従来技術について、図6を参照して説明する。図6は複圧式排熱回収ボイラの構成を示した図である。
【0003】
図6において、ガスタービン(図示せず)からの排ガスは排熱回収ボイラ1内に配置された高圧第2過熱器2、高圧第1過熱器3、高圧蒸発器4、高圧節炭器5、低圧過熱器6、低圧蒸発器7、低圧節炭器8を順次経て熱交換した後に煙突(図示せず)より大気に放出される。また、排熱回収ボイラ1の内部の適切な温度域には排ガス中に含まれる有害な窒素酸化物を除去するための脱硝装置9が設けられている。
【0004】
一方、蒸気タービン(図示せず)で仕事をした蒸気は復水器(図示せず)で冷却されて復水となり、復水器ホットウエル(図示せず)に貯えられる。ホットウェルに溜まった復水は復水ポンプ(図示せず)で抽出され、低圧給水管10を介して低圧節炭器8に供給される。低圧節炭器8では既に他の熱交換器での熱交換で低温になった排ガスとの熱交換で給水を加熱する。低圧節炭器8で加熱された給水は低圧連絡管11および低圧給水調節弁12を介して低圧蒸気ドラム13へ供給される。低圧蒸気ドラム13に供給された給水は缶水と共に低圧蒸発器7に導入され、ここで排気ガスとの熱交換を行い、蒸気を発生した後に低圧蒸気ドラム13に戻る。ここで発生した蒸気は低圧蒸気ドラム13で湿分を除去された後、低圧蒸気連絡管14を介して低圧過熱器6に導かれ、排ガスと熱交換して過熱蒸気となって蒸気タービン(図示せず)の低圧段落へ供給される。
【0005】
また、低圧節炭器8出口において給水の一部は低圧連絡管11から分岐した高圧給水ポンプ吸込管15を介して高圧給水ポンプ16に導かれ、ここで昇圧された後、高圧給水管17を介して高圧節炭器5へ供給される。高圧節炭器5で排ガスと熱交換し、昇温した給水は高圧連絡管18および高圧給水調節弁19を介して高圧蒸気ドラム20に供給される。高圧蒸気ドラム20に供給された給水は缶水と共に高圧蒸発器4に導入され、排ガスとの熱交換を行い、蒸気を発生した後に高圧蒸気ドラム20に戻る。ここで発生した蒸気は高圧蒸気ドラム20で湿分を除去された後、高圧蒸気連絡管21を介して高圧第1過熱器3に供給され、排気ガスと熱交換して過熱蒸気となる。高圧第1過熱器3を出た蒸気は減温器22を通った後に高圧第2過熱器2に入り、さらに過熱された後、蒸気タービン(図示せず)の高圧段落へ供給される。
【0006】
一般に、排熱回収ボイラで発生する蒸気の温度は入口排ガス温度、排ガス量、蒸気量、伝熱面積等の特性決定条件により定まる。一方、蒸気タービンへ供給される主蒸気の温度は蒸気タービンの材料等によって許容温度が存在する。このため、高圧第2過熱器2出口における蒸気温度は運転状態に拘らず、この許容温度以下に制御しなければならない。この蒸気温度制御方法としては過熱器伝熱面を分割し、分割された伝熱面間を接続する連絡管に減温器22を設け、高圧第2過熱器2出口における蒸気温度に応じて減温器22へ注入されるスプレー水の流量を蒸気温度調節弁24で調節して給水するものが一般的である。また、スプレー水の水源としては蒸気圧力より高い圧力を有し、スプレー水量の変化に十分に対応できなければならない。図6の例では高圧給水管17から分岐して減温水供給管23を介して減温器22ヘスプレー水を供給する方法を示してある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術による主蒸気温度制御は、たとえば特開昭63-183304号公報に示されるように、負荷に関係なく設定温度を一定にしておく一定値制御を採用している。
【0008】
一方、昨今のガスタービンの大容量化および環境対策を考慮した運転方法の採用により、ガスタービンの排ガス温度が高くなると共に温度上昇率も高くなる傾向にある。特に、助燃装置を設置していない排熱回収ボイラにあっては入口排ガス温度、排ガス量、蒸気量、伝熱面積等の特性決定条件により過熱器出口における蒸気温度が定まる。安定した負荷状態では従来技術の一定値制御でも蒸気温度制御は可能である。しかし、起動時のように排ガス流量が少なく、かつ、排ガス温度の上昇率が大きい場合には蒸気発生量が少ないために過熱器出口の蒸気温度の上昇率も排ガス温度のそれに近くなるが、一定値制御では蒸気温度上昇率を制限することができない。このため、特に過熱器出口管寄せ等の厚肉の耐圧部においては厚さ方向に大きな温度差が生じ、大きな熱応力が発生する。さらに蒸気タービンでの温度上昇率も大きくなるために蒸気タービンのロータ等で発生する熱応力が異常に大きくなり、寿命に影響を及ぼすような不都合が生じる。このような不都合は今後予想されるコンバインドサイクルプラントの大容量化およびプラント効率の向上を狙った蒸気系の高圧力化が進むにつれてプラントの急速起動や柔軟な負荷追従性を実現する上でのより大きな障害になると考えられる。
【0009】
このような不都合を解消するにはある定められた温度上昇率で過熱器出口蒸気温度の設定値を変化させ、蒸気温度を制御する方法がある。しかし、この温度制御をスプレー水量の調節のみで行う場合はスプレー水が水滴の状態で過熱器内に流入しないよう、減温器出口における蒸気の過熱度を30〜50℃以上に保つ必要がある。この減温器出口における蒸気過熱度の制限から、主蒸気温度を設定値に制御するのに必要なスプレー水流量を減温器22にて噴射できない場合があり、結果として主蒸気温度が設定値を越え、また、温度上昇率も初期の目標より高くなってしまうことになる。
【0010】
本発明の目的はガスタービンの起動特性、負荷追従性を阻害せずに主蒸気温度および温度上昇率を排熱回収ボイラや蒸気タービンの許容範囲内に収められるようにした排熱回収ボイラを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明は、熱源として導かれる排ガスの流動方向に沿って順次設けられた少なくとも1組の過熱器、蒸発器および節炭器を有し、各伝熱面で排ガスと隔てられた給水が節炭器を経て加熱された後に、蒸気ドラムに回収され、そこから蒸発器を通して加熱され、さらに得られた蒸気が過熱器を経て過熱させられるようにした排熱回収ボイラにおいて、過熱器の排ガス上流側経路に当該過熱器よりも低温側に位置する過熱器あるいは蒸発器あるいは節炭器の管群の一部を設置し、前記過熱器入口における排ガス温度の上昇率を緩和することを特徴とするものである。
【0012】
【作用】
排ガスを熱源として蒸気を発生する排熱回収ボイラにおいて、過熱器の排ガス上流側にガス冷却器となる蒸発器や節炭器などの伝熱管群を設置することにより、起動時等における過熱器入口での排ガス温度の上昇率を緩和することができ、排熱回収ボイラで発生する蒸気の温度上昇率を緩和できるため、排熱回収ボイラの耐圧部や蒸気タービンのロータ等に発生する熱応力を低減することが可能である。
【0013】
【実施例】
以下、図1に基づいて本発明の一実施例について説明する。なお、図6に示される構成要素と同じものについては同一の符号を付し、説明を省略する。
【0014】
本実施例による排熱回収ボイラ1では排ガス流の上流側からプレ蒸発器25、高圧第2過熱器2、高圧第1過熱器3、高圧蒸発器4、高圧節炭器5、低圧過熱器6、低圧蒸発器7、低圧節炭器8の順に伝熱管群が設けられている。すなわち、本実施例ではガス冷却器としてプレ蒸発器25を設置している。また、高圧第2過熱器2と高圧第1過熱器3を接続する連絡管上には減温器22が設置され、高圧給水ポンプ16の吐出側より抽出したスプレー水を使用して高圧第2過熱器2の出口の蒸気温度を制御するようになっている。一方、排熱回収ボイラ1の排ガス上流側に設置されたプレ蒸発器25は高圧蒸気ドラム20と連通しており、高圧蒸気ドラム20へ供給される給水の一部はプレ蒸発器25で排ガスとの熱交換により蒸気となった後に高圧蒸気ドラム20に戻る系統となっている。すなわち、高圧節炭器5より高圧蒸気ドラム20へ供給された給水は2つに分岐して各々プレ蒸発器25と高圧蒸発器4に供給され、ここで蒸発した後に高圧蒸気ドラム20に戻って再び合流することになる。
【0015】
本実施例における排熱回収ボイラ1において、ガスタービン起動時の排ガス温度および高圧第2過熱器2出口での主蒸気温度の変化について図2および図3を参照して説明する。なお、図2には本実施例の場合を、図3には図6に示した従来技術の場合を示し、いずれもホットスタート時の変化を示す。ガスタービン起動時、排熱回収ボイラ1入口における排ガス温度は、たとえば毎分25℃程度の割合で上昇していく。この排ガス温度の変化に対して、従来技術ではこの排ガス温度がすなわち高圧第2過熱器2の入口温度であり、また、起動時は排ガス流量および蒸気流量も少ないことから高圧第2過熱器2出口における主蒸気温度は毎分約18℃という、排ガス温度の上昇率よりは小さいものの、かなり大きな温度上昇率をもって上昇していく。したがって、この蒸気に曝される高圧第2過熱器2の耐圧部、特に出口管寄せや蒸気タービンのロータ等は厚さ方向に大きな温度差が生じ、その結果として過大な熱応力が発生してしまう。また、図3の例では主蒸気温度に対して一定値制御を行っているが、温度上昇率が大きいことや減温器22の出口での蒸気の過熱度が30〜50℃以上にしなければならないこと等から、蒸気温度を設定値以下に抑えきれない場合が出てくる。
【0016】
一方、本実施例の場合、排熱回収ボイラ1の入口、すなわち、プレ蒸発器25入口の排ガス温度は前述の場合と同じく、毎分25℃程度で上昇していく。しかし、主蒸気温度に大きく影響する高圧第2過熱器2入口における排ガス温度は、図2に示すようにかなり緩やかなものになり、この結果、主蒸気温度の上昇率も緩和され、また、主蒸気温度そのものも許容範囲内に抑えることができる。このようにプレ蒸発器25を高圧第2過熱器2の排ガス上流側に設置することにより主蒸気温度の上昇率を大幅に緩和できる理由について次に述べる。
【0017】
上述したようにプレ蒸発器25は高圧蒸気ドラム20の缶水部と連通しており、ガスタービン起動時、プレ蒸発器25の管内は水で満たされている。ガスタービンが起動して高温の排ガスがプレ蒸発器25に流入すると、排ガスと管内の水との間の熱交換が起こり、その分、プレ蒸発器25の出口、すなわち、高圧第2過熱器2の入口ガス温度は低下する。この時、プレ蒸発器25の伝熱管内では蒸発現象が起きているが、蒸発に必要な気化潜熱は蒸気の顕熱と比べて極めて大きく、したがってプレ蒸発器25はかなり大きな熱容量を有していることになる。さらに、プレ蒸発器25には連続的に高圧蒸気ドラム20から缶水が送られるためにこの熱容量は一時的なものではなく、継続的なものである。以上のことから起動時、プレ蒸発器25入口における排ガス温度が急激に上昇する場合でも大きな熱容量を有するプレ蒸発器25によってこの温度上昇のかなりの部分が吸収されるためにプレ蒸発器25の出口、すなわち高圧第2過熱器2入口のガス温度変化は緩和されるのである。
【0018】
以上述べたように本実施例による排熱回収ボイラによれば高圧第2過熱器2の排ガス上流側にプレ蒸発器25を配置することにより、ガスタービンの起動特性を阻害することなく、高圧第2過熱器2で発生する主蒸気温度および温度上昇率を許容範囲内に抑えることができ、高圧第2過熱器2の耐圧部や蒸気タービンのロータにおける過大な熱応力の発生を防止することが可能である。
【0019】
また、本実施例による排熱回収ボイラにおいてはプレ蒸発器25が排ガス流の最上流側に配置されているため、プレ蒸発器25、高圧蒸発器4および高圧蒸気ドラム20より構成される高圧蒸発系の圧力の上昇が従来技術に比べて早くなる。この結果、高圧蒸発器4の出口のガス温度の上昇も早くなるため、高圧蒸発器3より下流側に設置されている脱硝装置9や低圧系へ流れる熱量が従来技術と比べて起動過程のより早い時点で大きくなり、脱硝装置9の運転開始時期や低圧系の起動を早めることができるという副次的な効果も有する。
【0020】
本発明の他の実施例を図4および図5を参照しながら説明する。なお、図1あるいは図6と同一な構成要素については同一の符号を付し、説明を省略する。図4はガス冷却器として高圧節炭器の一部の伝熱管群5aを高圧第2過熱器2の排ガス上流側に配置し、高圧第2過熱器2入口の排ガス温度ならびに主蒸気温度および温度上昇率を許容範囲内に収めるように図ったものである。なお、この例では高圧節炭器5および伝熱管群5aの伝熱管内部における蒸気の発生を抑制するために給水ブロー管26を用いて高圧節炭器5の出口から給水の一部を復水器(図示せず)ヘブローし、充分な管内流量を確保する。
【0021】
一方、図5は高圧第1過熱器3の一部の伝熱管群3aを高圧第2過熱器2の排ガス流上流側に配置し、高圧第2過熱器2入口の排ガス温度ならびに主蒸気温度およびその変化を許容範囲内に収めるように図ったものである。
【0022】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように本発明は過熱器の排ガス上流側経路にガス冷却器を設けているので、起動時等における過熱器入口での排ガス温度の上昇率を緩和することができ、排熱回収ボイラで発生する蒸気の温度上昇率を緩和できるため、排熱回収ボイラの耐圧部や蒸気タービンのロータ等に発生する熱応力を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係る排熱回収ボイラの一実施例を示す構成図。
【図2】
図1に示された排熱回収ボイラにおけるガスタービン起動時の排ガス温度および主蒸気温度の変化を示す図。
【図3】
図6に示された排熱回収ボイラにおけるガスタービン起動時の排ガス温度および主蒸気温度の変化を示す図。
【図4】
本発明の他の実施例を示す構成図。
【図5】
本発明の他の実施例を示す構成図。
【図6】
従来技術による排熱回収ボイラの一例を構成図。
【符号の説明】
1…排熱回収ボイラ、2…高圧第2過熱器、3、3a…高圧第1過熱器、4…高圧蒸発器、5、5a…高圧節炭器、6…低圧過熱器、7…低圧蒸発器8…低圧節炭器、20…高圧蒸気ドラム、22…減温器、23…減温水供給管、24…蒸気温度調節弁、25…プレ蒸発器、26…給水ブロー管
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許権者が求めている訂正の要旨は、上記訂正請求書に添付された全文訂正明細書に記載された、以下のa〜cである。
a.請求項1に記載された
「管群の一部を設置した」を、
「管群の一部を設置し、前記過熱器入口における排ガス温度の上昇率を緩和する」に訂正する。
b.明細書の段落【0006】に記載された
「高圧給水間17」を、
「高圧給水管17」に訂正する。
c.明細書の段落【0011】に記載された
「管群の一部を設置した」を、
「管群の一部を設置し、前記過熱器入口における排ガス温度の上昇率を緩和する」に訂正する。
異議決定日 2001-10-12 
出願番号 特願平3-269153
審決分類 P 1 651・ 113- YA (F22G)
P 1 651・ 121- YA (F22G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小菅 一弘  
特許庁審判長 大槻 清寿
特許庁審判官 会田 博行
櫻井 康平
登録日 1999-04-02 
登録番号 特許第2908085号(P2908085)
権利者 株式会社東芝
発明の名称 排熱回収ボイラ  
代理人 須山 佐一  
代理人 鶴田 準一  
代理人 石田 敬  
代理人 須山 佐一  
代理人 篠崎 正海  
代理人 西山 雅也  
代理人 樋口 外治  

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