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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G09F
管理番号 1053273
異議申立番号 異議1999-71419  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-06-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-04-15 
確定日 2001-09-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第2873825号「磁気ディスプレーシステム」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2873825号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許第2873825号の請求項1乃至4に係る発明は、昭和63年11月28日の出願であって、平成11年1月14日に設定登録され、その後、申立人ケミテック株式会社及び小椋厚よりそれぞれ特許異議の申立てがなされ、取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成12年2月15日に訂正請求がなされたものである。

(2)訂正の適否
ア.訂正明細書の請求項1乃至3に係る発明
訂正明細書の請求項1乃至3に係る発明(以下、「訂正発明1乃至3」という。)は、その特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「(1)少なくとも一枚が透明な二枚の非磁性体基板間に、油状液体中に分散した、光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉とを封入したマイクロカプセル層を塗設してディスプレーとし、該ディスプレーのうち透明な基板側を表面とし、他の基板側を裏面とし、該裏面から局部的または全面的に磁場を印加することによって、前記マイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ、前記ディスプレーの裏面側に吸引移動させ、その移動に対応して、前記マイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を前記ディスプレーの表面側に移動させて、前記ディスプレーの表面が光反射性非磁性粉の反射色を示し、文字や像の形成は、表面から局部的に磁場を印加することによって、その印加部分のマイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ、前記ディスプレーの表面側に吸引移動させ、その移動に対応して、その同じマイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を、前記ディスプレーの裏面側に移動させて、前記ディスプレー表面に光の吸収・反射のコントラストを与え、文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステム。
(2)前記基板間に塗設するマイクロカプセルが、光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉を分散した油状液体を、それと相溶性のない水性媒体の連続相中に懸濁して生じる前記油状液体の液滴界面上に、水性媒体の連続相に添加したポリマー水溶液よりポリマー濃厚相を析出・吸着させて実質的に透明な壁膜を形成するマイクロカプセルである請求項(1)記載の磁気ディスプレーシステム。
(3)前記ディスプレーの表面または裏面より磁場を印加してマイクロカプセル内の光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉のそれぞれの位置を相互に移動させる手段として永久磁石を用いる請求項(1)記載の磁気ディスプレーシステム。」
イ.引用刊行物記載の発明
これに対し、当審が訂正拒絶理由において引用した、刊行物1(特開昭60-107689号公報)には、磁石反転表示磁気パネルに関するものであって、「本発明の目的は、・・・常に鮮明な表示を与えることができ、また、任意の形状としうる磁石反転表示磁気パネルを提供することである。」(第2頁左上段第11行〜第14行)、「第1図は、本発明の一実施例としての磁石反転表示磁気パネルを示す部分概略断面図である。第1図に示すように、この磁石反転表示磁気パネルは、紙およびプラスチック類、金属類等で形成される基体1と、表裏方向にN-S極が着磁され且つN極とS極とで色が異なる微小磁石粉2を封入した複数のマイクロカプセル3を基体1上にマトリクス状に配列してなるマイクロカプセル配列体4とを備えている。マイクロカプセル配列体4は、バインダー樹脂5等を用いて基体1上に固着されている。」(第2頁右上欄第5行〜第15行)、「第2図は、マイクロカプセル3内に封入される微小磁石粉2の1粒子を拡大して斜視図にて示している。この実施例の微小磁石粉2は、微小平板状の形状を有しており、表側2Aと裏側2Bとの色が異なっており、表裏方向にN-S極が着磁されている。この例では、表側2Aが白色層で、裏側2Bが黒色の磁性層とされている。」(第2頁右上欄第16行〜同頁左下欄第2行)、「前述したのと同様な方法により微小磁石粉を作製した。すなわち、エポキシ樹脂のメチルエチルケトン溶液に白色顔料を分散させ白色塗料を調製し、一方、同様なメチルエチルケトン溶液にバリウムフェライト粉およびカーボンブラックを分散させ、黒色磁性塗料を調製した。この2種の塗料をポリエチレンフィルムに2層に塗布し、乾燥後黒色側をN極、白色側をS極に着磁し、ポリエチレンフィルムから剥離し、粉砕して微小磁石粉を得た。この微小磁石粉を流動パラフィン中に分散した液を作製し、この液をゼラチン水溶液中に乳化分散させ、この乳化物をアラビアゴム水溶液に分散して攪拌しながらホルマリンを加えることにより流動パラフィン中に分散した微小磁石粉を芯にもつマイクロカプセルが生成する。このマイクロカプセルを乾燥し、水性樹脂塗料に分散させ、基体としての紙の表面上に塗布して、磁石反転表示磁気パネルを作った。」(第3頁左上欄第6行〜同頁右上欄第4行)、「尚、前述の実施例では、基体として紙を使用したのであるが、基体としてプラスチックフィルム等の可撓性のあるものにマイクロカプセルを固定することにより磁石反転表示磁気パネルを作製するならば」(第3頁右上欄第17行〜同頁左下欄第1行)と記載されている。
同じく引用した刊行物2(特開昭50-160046号公報)には、磁気応答性ディスプレーに関するものであって、「本発明は、磁気粒子を有する塗装の中に色材を用いる事により、反射型及び透過型間のコントラストを高めたシャッターディスプレーを供する事により磁気応答性ディスプレーを大きく改良したものである。」(第3頁左下欄第7行〜第11行)、「本発明の物品は可逆性及び明確な、可変の表示ができる実質上二次元シャッターである。該物品は磁気的に操作でき、液体媒体中に色材と磁気物質の分散物を含むマイクロカプセルを多量に包含したバインダーから成る。該磁気物質は一般的にフレーク状の形で、可動性でマイクロカプセル中の液体媒体中で自由に動く。カプセルのフィルムの近くの磁場が磁気フレークを配列する。粒子の配列が起る面は、該フレークがフィルムの面と平行になった時投射光を反射し、該フレークがフィルム面と垂直になった時投射光を透過する。」(第4頁左上欄第5行〜第15行)、「該マイクロカプセルは一般的に実質上球状で、平均直径約5から約1000ミクロン(又はやや大きい)までの大きさの範囲である。」(第4頁右上欄第10行〜第12行)、「凝集力のある効果的なシャッターを作る為に、該カプセルは重合体バインダー物質で形成したフィルム中に保持される。該バインダー物質はカプセル間の光の透過を妨害せず、又、該カプセルと該基体との接着剤となる。」(第5頁右下欄第6行〜第10行)、「該シャッターフィルムは、バインダー物質の液体溶液中の該カプセルの分散液で、基体表面(規則的であっても不規則であっても)に塗装する事により形成可能である。該塗装した分散液を次に乾燥し、バインダー物質に包まれたカプセルの薄いフィルムを作り、基体表面に順応させ、接着させる。規則的基体表面の例はポリエチレンテレフタレートのプラスチックフィルムである。」(第6頁左下欄第8行〜第16行)、「実施例1の組成物をポリスチレン又はポリエチレンテレフタレートの様な重合体物質の透明なシート上に塗装し、乾燥した時、該組成物を赤いエナメルの不透明な基体層でおおう。」(第9頁左下欄第10行〜第13行)、「透明シートを通して見ると、この最初の例示用シャッターは透過型の時、明るい赤色を示し、反射型の時、深い黄-金色を示した。」(第9頁右下欄第4行〜第6行)と記載されている。
同じく引用した刊行物3(特開昭48-56393号公報)には、磁気力を利用した表示方法に関するものであって、「本発明は、・・・着色分散媒中に、分散媒とは色の異る磁性粉を分散させた分散系に磁界を作用させたとき磁気力により磁性粉を泳動させることができることを利用し磁性粉が分散媒にいんぺいされる程度を変化させ従って分散系の色を変化させようとするものである。すなわち第1図において磁性粉(6)が着色液体分散媒(5)の中に分散された分散系(4)が互に向い合った基板(2),(3)及び側壁(7)の中に封入されている。基板(2)はたとえばプラスチックやガラスなどの薄い透明シートより成る。基板(3)はプラスチック,ガラス,金属板などの透明あるいは不透明な板より成る。・・・分散系(4)がたとえば水,アルコール,有機溶媒などの透明液体中に2酸化チタン(TiO2)などの白色顔料を分散して白色に着色した分散媒(5)の中に2酸化クロム(CrO2)などの黒色磁性粉が分散された分散系であるとすれば、白及び黒の粒子が一様に分散した状態で照明光下で分散系(4)をみれば灰色にみえる。今ペン先が磁石であるような磁性ペン(8)で基板(2)の上から模様を描けば分散系(4)中の磁性粉(6)は磁極に吸引されて基板(2)の方に泳動する。」(第1頁右下欄第1行〜第2頁左上欄第3行)、「上の例では灰色の背景に黒又は白の模様となりコントラストがさえない。白又は黒地の背景に黒又は白の模様の表示されることが望ましい。そのためには、あらかじめ基板(3)の側に磁性粉(6)を引きつける磁界を一様に作用させて、磁性粉(6)を基板(3)の表面に吸着させておけばよい。このとき基板(2)を通して分散系(4)をみると、黒色磁性粉(6)が白色分散媒(5)の背後にかくされるため、分散系(4)は前面白色にみえる。ついで上にのべたような方法で基板(2)の側から分散系(4)に磁性粉(6)を吸引する磁界を作用させると、このときの磁気吸引力が基板(3)に吸着した磁性粉(6)の吸着力に打ち勝てば、磁性粉(6)は模様状に基板(3)の側に集まり、コントラストのすぐれた模様が表示できる。」(第2頁左上欄第14行〜同頁右上欄第7行)と記載されている。
同じく引用した刊行物4(特開昭55-29880号公報)には、磁気シートに関するものであって、「本発明は、・・・磁性体を直接シートに封じ込めるようにしたシートを用いることにより、シートに印字印画を記録したり、消去したりすることを可能とし、しかも直接肉眼で観察することができ、紙と同様に取り扱いが簡単で必要に応じてハードコピーもとれる磁気シート及びその操作法を提供するものである。」(第1頁右下欄第8行〜第15行)、「第4図の例は、磁力により磁性体粒3がマイクロカプセル1中で偏在することを利用した印刷方式を示している。この場合マイクロカプセル中の液体2は透明であるより、むしろ隠ぺい力の強い、場合によってはルチル等の白色顔料をサスペンドしている流体が好ましい。こうすれば印字のコントラストを向上させることが出来る。」(第3頁左上欄第9行〜第15行)と記載されている。
ウ.対比・判断
(i)訂正発明1について
訂正発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「基体」、「塗布」、「表示磁気パネル」が、それぞれ前者の「非磁性体基板」、「塗設」、「ディスプレー」に相当する。
また、後者の磁石反転表示磁気パネルも、磁場を印加することによって、該パネル表面に白色と黒色によるコントラスト、即ち、光の吸収・反射のコントラストを生じさせ、文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステムであることは明らかである。
したがって、両者は、「非磁性体基板に、マイクロカプセル層を塗設してディスプレーとし、磁場を印加することによって、前記ディスプレー表面に光の吸収・反射のコントラストを与え、文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステム。」である点で一致し、次の点で相違する。
a)前者が、「少なくとも一枚が透明な二枚の非磁性体基板間に」マイクロカプセル層を塗設し、「ディスプレーのうち透明な基板側を表面とし、他の基板側を裏面とし」たのに対し、後者は、単に一枚の非磁性体基板上にマイクロカプセル層を塗設したディスプレーである点(以下、「相違点a」という。)。
b)前者が、「油状液体中に分散した、光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉とを封入した」マイクロカプセルを使用し、「マイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ、ディスプレーの裏面側に吸引移動させ、その移動に対応して、前記マイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を前記ディスプレーの表面側に移動させ」、「(磁場の)印加部分のマイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ、前記ディスプレーの表面側に吸引移動させ、その移動に対応して、その同じマイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を、前記ディスプレーの裏面側に移動させ」るものであるのに対し、後者は、黒色磁性塗料と白色非磁性塗料とを二層に塗布し・乾燥した後に着磁・粉砕した微小磁石粉を油状液体(「流動パラフィン」が相当)中に分散したマイクロカプセルを使用し、磁場の印加により、微小磁性粉を、単に反転移動させるものである点(以下、「相違点b」という。)。
c)前者が、まず、「裏面から局部的または全面的に磁場を印加することによって、」「ディスプレーの表面が光反射性非磁性粉の反射色を示し」、次に、「文字や像の形成は、表面から局部的に磁場を印加することによって」行うものであるのに対し、後者は、磁場の印加の手法について具体的に言及されていない点(以下、「相違点c」という。)。
以下、相違点について検討する。
相違点aについて
刊行物2には、磁気ディスプレーにおいて、マイクロカプセルを含有する組成物を透明なシート上に塗装し、乾燥した時、該組成物を赤いエナメルの不透明な基体層でおおい、透明シートを通して見るようにした構成が開示されている。
即ち、少なくとも一枚が透明な二枚の非磁性体基板間にマイクロカプセル層を塗設し、透明な基板側を表面とし、他の基板側を裏面とする構成は周知であり(他に特開昭63-153197号公報参照)、かかる周知技術を刊行物1記載の磁気ディスプレーに適用することは、当業者が容易になしうるところである。
相違点bについて
マイクロカプセル内の内容物及び挙動の相違は、マイクロカプセルの種類に基づく相違、即ち、磁気泳動タイプか磁気反転タイプかの違いに基づくものである。
しかして、磁気泳動タイプのマイクロカプセル自体は、刊行物4に開示されているように周知であり、かかるタイプのマイクロカプセルで刊行物1記載の磁気ディスプレーのマイクロカプセルを置換することは、格別な技術的困難性を伴うことなく当業者が容易になしうることである。
相違点cについて
磁気ディスプレーにおける磁場の印加手法として、まず、裏面から一様に(全面的に)磁場を印加することによって、ディスプレーの表面を白色となし、次に、表面から局部的に磁場を印加することによって文字や像を形成することは、刊行物3に開示されているように磁気泳動タイプの磁気ディスプレーにおける周知の手法であり、かかる磁場の印加手法は、刊行物1記載の磁気ディスプレーを磁気泳動タイプとすることに伴い当然に採用されるべき手法である。
そして、訂正発明1によって奏される「文字、画像を形成する粒径が数10〜数100ミクロンのオーダーであるためシャープな文字、画像を表示できる」という効果は、マイクロカプセルを採用した上記刊行物1、2及び4に記載のものが既に有する効果にすぎない。
したがって、訂正発明1は、上記刊行物1乃至4に記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ii)訂正発明2について
訂正発明2は、訂正発明1に、「光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉を分散した油状液体を、それと相溶性のない水性媒体の連続相中に懸濁して生じる前記油状液体の液滴界面上に、水性媒体の連続相に添加したポリマー水溶液よりポリマー濃厚相を析出・吸着させて実質的に透明な壁膜を形成する」というマイクロカプセルの壁膜の形成方法をさらに限定したものであるが、刊行物1にも「この微小磁石粉を流動パラフィン中に分散した液を作製し、この液をゼラチン水溶液中に乳化分散させ、この乳化物をアラビアゴム水溶液に分散して攪拌しながらホルマリンを加えることにより流動パラフィン中に分散した微小磁石粉を芯にもつマイクロカプセルが生成する。」として実質的に同様の形成方法が開示されている以上、上記限定された形成方法自体に格別のものを見出すことはできない。
(iii)訂正発明3について
訂正発明3は、訂正発明1に、磁場を印加する手段として永久磁石を用いる点をさらに限定したものであるが、かかる技術は刊行物3に見られるように磁気ディスプレーにおける周知慣用手段にすぎない。
エ.むすび
以上のとおりであるから、訂正発明1乃至3は、上記刊行物1乃至4記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、この訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

(3)特許異議の申立てについて
ア.本件発明
特許第2873825号の請求項1乃至4に係る発明(以下、「本件発明1乃至4」という。)は、特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「(1)少なくとも一枚が透明な二枚の非磁性体基板間に、油状液体中に分散した、光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉を封入したマイクロカプセル層を塗設してディスプレーとし、透明な基板側を表面とするディスプレーの表面または裏面の一方から局部的または全面的に磁場を印加することによって前記マイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ、ディスプレーの面の磁場を印加した側に吸引移動させ、またその移動に対応して、その同じマイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を磁場を印加したディスプレーの面の反対側に移動させて、ディスプレー面に光の吸収・反射のコントラストを与えて文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステム。
(2)前記基板間に塗設するマイクロカプセル内に封入する光吸収性磁性粉として、外部よりの磁場印加によって容易に磁化できる透磁率が大きく、また外部よりの磁場印加を取除いたときの残留磁化の小さい特徴をもつ黒色酸化鉄粉の複数粒子を用いる請求項(1)記載の磁気ディスプレーシステム。
(3)前記基板間に塗設するマイクロカプセルが、光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉を分散した油状液体を、それと相溶性のない水性媒体の連続相中に懸濁して生じる前記油状液体の液滴界面上に、水性媒体の連続相に添加したポリマー水溶液よりポリマー濃厚相を析出・吸着させて実質的に透明な壁膜を形成するマイクロカプセルである請求項(1)記載の磁気ディスプレーシステム。
(4)前記ディスプレーの表面または裏面より磁場を印加してマイクロカプセル内の光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉のそれぞれの位置を相互に移動させる手段として永久磁石を用いる請求項(1)記載の磁気ディスプレーシステム。」
イ.引用刊行物
当審が通知した取消理由に引用した特開昭60-107689号公報(以下、「刊行物1」という。)、特開昭50-160046号公報(以下、「刊行物2」という。)、特開昭48-56393号公報以下、「刊行物3」という。)、特開昭55-29880号公報(以下、「刊行物4」という。)には、上記(2)イ.において指摘した事項がそれぞれ記載されている。
つぎに、同じく引用した特開昭63-153197号公報(以下、「刊行物5」という。)には、「本発明は、磁気記録材料とくに磁気情報を目視可能とする磁気記録材料に関するものである。」(第1頁右下欄第5行〜第6行)、「このようにして得られた磁気カプセルはバインダーと混合して塗液とし基材上に塗設して目視可能像を形成する磁気記録層とし、必要に応じて磁気記録層表面に保護膜を設けて磁気記録材料とする。」(第4頁左上欄第6行〜第10行)、「磁気記録層の上に設ける保護フィルムは透明で、傷つき難く、変形し難いものであれば材質は限定されない。」(第4頁右上欄第8行〜第10行)と記載されている。
また、同じく引用した特公昭38-14898号公報(以下、「刊行物6」という。)には、「本発明は磁気的方法によるプリントに利用しうる顕微鏡的磁気カプセルに関する。」(第1頁左欄第5行〜第6行)、「磁気物質は任意のものでよい。例えばこれ等は黒色又は赤色の磁気酸化鉄、カルボニル鉄、フェロ磁気合金、又はこれ等の混合物、等でありうる。」(第1頁左欄第24行〜第26行)、「本発明カプセルの好ましい製造方法に於て磁気物質20〜25は黒色磁気酸化鉄でありこれを磁力下に置くと鎖を形成し個々の磁気物質粒子の実際寸法は1μ程度の直径をとる。」(第1頁右欄第2行〜第5行)と記載されている。
さらに、同じく引用した特公昭40-19226号公報(以下、「刊行物7」という。)には、「本発明は、大雑把に言って磁気記録法に使用する箔に関するもので、もっと詳細に言うと、磁気記録媒体の特定の部分に磁場を作用させてこの特定の部分に目に見える記録を作り出すことによる、磁場に感応性のある記録体上に種々の情報を目に見える形で記録する方法に使用する箔に関するものである。」(第1頁左欄下から第7行〜同第2行)、「第1図を参照しながら説明すると、記録媒体は10で表わされているが、これは紙、プラスチック、または非磁性の箔のような基材11と、その基材の一方の表面に設けられた離れ離れになった液体包蔵体あるいはカプセル13よりなる被覆あるいは被覆層12とから成立つものである。この液体包蔵体13はその内に液体べヒクル14中に懸濁させられた多量の磁性材料の微小粒子15を有しており、この粒子は基材11に関してでたらめに配向されたものとして示されている。」(第2頁右欄第32行〜同第40行)、「磁性材料15は、所望される材料であればどのようなものであってもよい。磁性材料のいくつかの具体例としては、鉄片、黒色または赤色磁性酸化鉄、・・・もしくは前記した磁性材料のいずれかの混合物などが挙げられる。」(第3頁右欄第46行〜同最下行)と記載されている。
ウ.対比・判断
(i)本件発明1について
本件発明1と刊行物1に記載の発明とを対比すると、上記(2)ウ.(i)で検討した事項を踏まえ、更に、後者は、ディスプレーの表面または裏面の一方から局部的または全面的に磁場を印加することを前提としたものであると認められることから、両者は、「非磁性体基板に、マイクロカプセル層を塗設してディスプレーとし、ディスプレーの表面または裏面の一方から局部的または全面的に磁場を印加することによって、ディスプレー面に光の吸収・反射のコントラストを与えて文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステム。」において一致し、次の点で相違する。
a)前者が、「少なくとも一枚が透明な二枚の非磁性体基板間に」マイクロカプセル層を塗設し、「透明な基板側を表面とするディスプレー」としたのに対し、後者は、単に一枚の非磁性体基板上にマイクロカプセル層を塗設したディスプレーである点(以下、「相違点a」という。)。
b)前者が、「油状液体中に分散した、光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉を封入した」マイクロカプセルを使用し、「マイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ、ディスプレーの面の磁場を印加した側に吸引移動させ、またその移動に対応して、その同じマイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を磁場を印加したディスプレーの面の反対側に移動させ」るものであるのに対し、後者は、黒色磁性塗料と白色非磁性塗料とを二層に塗布し・乾燥した後に着磁・粉砕した微小磁石粉を油状液体(「流動パラフィン」が相当)中に分散したマイクロカプセルを使用し、磁場の印加により、微小磁性粉を、単に反転移動させるものである点(以下、「相違点b」という。)。
以下、相違点について検討する。
相違点aについて
刊行物2には、磁気ディスプレーにおいて、マイクロカプセルを含有する組成物を透明なシート上に塗装し、乾燥した時、該組成物を赤いエナメルの不透明な基体層でおおい、透明シートを通して見るようにした構成が開示されている。
また、刊行物5には、磁気情報を目視可能とする磁気記録材料において、磁気カプセルを基材上に塗設して磁気記録層とし、磁気記録層表面に透明で、傷つき難く、変形し難い保護フィルムを設けた構成が開示されている。
即ち、少なくとも一枚が透明な二枚の非磁性体基板間にマイクロカプセル層を塗設し、透明な基板側を表面とし、他の基板側を裏面とする構成は周知であり、かかる周知技術を刊行物1記載の磁気ディスプレーに適用することは、当業者が容易になしうるところである。
相違点bについて
マイクロカプセル内の内容物及び挙動の相違は、マイクロカプセルの種類に基づく相違、即ち、磁気泳動タイプか磁気反転タイプかの違いに基づくものである。
しかして、磁気泳動タイプのマイクロカプセル自体は、刊行物4に開示されているように周知であり、かかるタイプのマイクロカプセルで刊行物1記載の磁気ディスプレーのマイクロカプセルを置換することは、格別な技術的困難性を伴うことなく当業者が容易になしうることである。
したがって、本件発明1は、刊行物1、2、4及び5に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ii)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に、「マイクロカプセル内に封入する光吸収性磁性粉として、外部よりの磁場印加によって容易に磁化できる透磁率が大きく、また外部よりの磁場印加を取除いたときの残留磁化の小さい特徴をもつ黒色酸化鉄粉の複数粒子を用いる」点をさらに限定したものであるが、マイクロカプセル内に封入する光吸収性磁性粉として、複数の微粒子状の黒色酸化鉄粉を用いることは、刊行物6及び7に見られるように周知であり、また、これらの黒色酸化鉄が、磁気によって文字や像の形成及び消去を行う手段として使用されている事実からみて「外部よりの磁場印加によって容易に磁化できる透磁率が大きく、また外部よりの磁場印加を取除いたときの残留磁化の小さい」特性を有することは当然想定されるべき事項にすぎない。
したがって、光吸収性磁性粉を上記のように限定した点に、格別の発明力を要したものとは認められない。
(iii)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1に、「光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉を分散した油状液体を、それと相溶性のない水性媒体の連続相中に懸濁して生じる前記油状液体の液滴界面上に、水性媒体の連続相に添加したポリマー水溶液よりポリマー濃厚相を析出・吸着させて実質的に透明な壁膜を形成する」というマイクロカプセルの壁膜の形成方法をさらに限定したものであるが、刊行物1にも「この微小磁石粉を流動パラフィン中に分散した液を作製し、この液をゼラチン水溶液中に乳化分散させ、この乳化物をアラビアゴム水溶液に分散して攪拌しながらホルマリンを加えることにより流動パラフィン中に分散した微小磁石粉を芯にもつマイクロカプセルが生成する。」として実質的に同様の形成方法が開示されている以上、上記限定された形成方法自体に格別のものを見出すことはできない。
(iv)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1に磁場を印加する手段として永久磁石を用いる点をさらに限定したものであるが、かかる技術は刊行物3に見られるように磁気ディスプレーにおける周知慣用手段にすぎない。
エ.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1乃至4は、上記各刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1乃至4についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
したがって、本件発明1乃至4についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-06-21 
出願番号 特願昭63-300346
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (G09F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 辻 徹二川嵜 健  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 和泉 等
藤本 信男
登録日 1999-01-14 
登録番号 特許第2873825号(P2873825)
権利者 株式会社日本カプセルプロダクツ 株式会社トミー
発明の名称 磁気ディスプレーシステム  
代理人 市之瀬 宮夫  
代理人 大場 正成  
代理人 大場 正成  
代理人 橋本 傳一  
代理人 谷 義一  
代理人 中島 幹雄  
代理人 市之瀬 宮夫  
代理人 加藤 信之  
代理人 橋本 傳一  
代理人 谷 義一  
代理人 加藤 信之  

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