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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05K
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H05K
管理番号 1053303
異議申立番号 異議2001-72709  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-03-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-10-03 
確定日 2002-01-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第3152344号「セラミック回路基板」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3152344号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3152344号の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成8年8月22日になされ、それら発明について特許の設定登録が平成13年1月26日になされ、その後、高橋喜美夫より、その請求項1、2に係る発明の特許について、特許異議の申立てがなされたものである。

2.申立て理由の概要
特許異議申立人高橋喜美夫は、それぞれ本件出願の出願前に頒布された刊行物である
甲第1号証 : 刊行物「特開平8-83867号公報」、
甲第2号証 : 刊行物「特開平3-125463号公報」、
甲第3号証 : 刊行物「特開平6-216481号公報」、及び
参考資料1 : 刊行物「日本工業規格「アルミニウム合金ろう及びブレージングシート」平成4年7月31日財団法人日本規格協会発行」
を提出するとともに、本件出願の出願後に頒布された刊行物である
参考資料2 : 刊行物「特開平9-69590号公報」
を提出して、概略以下の2-1,2の主張をなしている。

2-1 本件明細書の記載に係る主張
本件特許の請求項1の記載は、「93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成されたAl-Si系ろう材」を用いて、「Si3N4により形成されたセラミック基板の両面に第1及び第2アルミニウム板を積層接着したセラミック回路基板」である旨発明を特定する記載となっている。
しかしながら、「Al-Si系ろう材」の構成成分の組成(合金組成)にしては、本件明細書の【発明の詳細な説明】には、「Al-7.5重量%Si合金」の例示と、「Al-Si系ろう材は93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとの合金により形成される」との記載のみであり、各成分の組成比についての技術的意義は示されていないため、どのような観点から「6.5〜8.5重量%のSiを含むAl-Si合金」を用いているのかを記載するものではなく、Al-Si系ろう材の合金組成は構成が不明瞭である。
さらに、本件明細書の実施例1〜3及び比較例は、「Al-7.5重量%Si合金」からなるAl-Si系ろう材を用いたセラミック回路基板しか記載されていないため、「Al-7.5重量%Si合金」比以外のAl-Si系ろう材が同等の作用・効果を示すかどうかについては不明であり、本件請求項1に係る発明の構成について、本件明細書の【発明の詳細な説明】欄中に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項の規定を満たしておらず、あるいはそのような発明の詳細な説明の記載に基づく本件請求項1および請求項2に係る発明は特許法第36条第6項の規定を満たしていないものである。
また、比較例は、実施例1〜3とアルミニウム板のAl純度が異なるのであるから、Al純度が99.98重量%以上のアルミニウム板が必須の構成となるべきところ、本件請求項1には「第1及び第2アルミニウム板」としか記載されていないので、本件請求項1には、発明を特定するために必要と認められる事項の全てが記載されているとは認められず、あるいは、本件請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められない。
したがって、本件請求項1に係る発明は特許法第36条第5項および第6項の規定を満たしていない。

2-2 本件各請求項に係る発明の進歩性に係る主張
異議申立人は、本件各請求項の記載を
【請求項1】
A.Si3N4により形成されたセラミック基板と、
B.前記セラミック基板の両面にAl-Si系ろう材を介して
C.それぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板とを備えたセラミック回路基板であって、
D.前記Al-Si系ろう材が93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成された
ことを特徴とするセラミック回路基板。
【請求項2】
C′.第1及び第2アルミニウム板のAlの純度が99.98重量%以上である 請求項1記載のセラミック回路基板。
とおり分節し、概略以下の主張をなしている。
甲第1号証には、
「基板両面に第1アルミニウム板及び第2アルミニウム板をそれぞれAl-Si系ろう材により接着した放熱用セラミック基板が前記第1アルミニウム板を介してセラミック多層配線基板の片面にAl-Si系ろう材により接着され、前記セラミック基板(13)と前記セラミック多層配線基板(11)とが同種又は互いに異種のセラミックスにより構成され、前記セラミックスがアルミナ、ガラスセラミックス、窒化アルミニウム、ムライト又は炭化珪素のいずれかである高放熱性セラミックパッケージ」(請求項1)と、
「図1〜図4に示すように、・・・基板両面に第1アルミニウム板31及び第2アルミニウム板32又は72をそれぞれ接着した放熱用セラミック基板13・・・」(段落番号【0007】)と、
「本発明で接着材として用いられるAl-Si系ろう材には、Al-7.5%Si箔(重量%)・・・等が例示される・・・(段落番号【0014】)と
記載され、更に、実施例として、
「・・・図1に示すように、セラミックパッケージ30は基板両面にアルミニウム板31及び32を接着した放熱用セラミック基板13と、セラミック多層配線基板11と、複数のI/Oピン18とを同時に接着して作られる・・・」(段落番号【0017】)と
「アルミニウム板31及び32はこれらのアルミニウム板と同形同大の厚さ30μmのAl-7.5%Si箔を介してセラミック基板13の両面に配置して重ね合わせた後、これらに2kgf/cm2の荷重を加えて真空炉中で630℃、30分間加熱することにより接着される・・・」(段落番号【00l9】)と、
甲第1号証に記載されている。

次に、甲第2号証には、
「(1)絶縁板材が、・・・表面酸化層を有する窒化アルミニウム系焼結板材・・・からなり、かつ、上記絶縁板材の一方面にはAlまたはAl合金からなるヒートシンク板材が、また上記絶縁板材の他方面には同じくAlまたはAl合金からなる回路形成用薄板材が、それぞれAl-Si系合金・・・からなるろう材にて積層接合され、・・・ことを特徴とする半導体装置用軽量基板」(特許請求の範囲第1項)と
記載され、実施例として、
「ヒートシンク板材として、いずれも幅:50mm×厚さ:3mm×長さ:75mmの寸法を有し、また薄板材として、いずれも幅:45mm×厚さ:1mm×長さ:70mmを有し、かつ(a)純Al、・・・(e)Al-0.005%B合金、以上の(a)〜(e)のうちのいずれかからなる板材を用意し、またろう材として、厚さ:50μmを有し、かつ・・・(b)Al-7.5%Si合金、・・・以上の(a)〜(c)のうちのいずれかからなる箔材を用意し、・・・ついでこれらの構成部材を・・・第1図に示される状態に積み重ね、この状態で・・・ろう付けして積層接合体とし、・・・本発明基板1〜22をそれぞれ製造した」(第4頁右下欄第12行〜第5頁右下欄第9行)と、
「一方、比較の目的で、第2図に示されるように、・・・Al203焼結体からなる絶縁板材を用い、これの両側から・・・無酸素銅薄板材(2枚)ではさんだ状態で重ね合わせ、この状態で・・・接合・・・」(第5頁右下欄第l0〜19行)と
記載され、これらの基板の繰り返し加熱試験の結果が第6頁の第2表に、例えば「絶縁板材:AlN系焼結板材A,薄板材:純Al,ろう材:Al-7.5%Si合金」の構成を有する本発明基板1は「200サイクル後も割れなし」であり、従来基板は「割れ発生までのサイクル数=20」であるとして記載されている。

したがって、本件請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証には、両面に「第1アルミニウム板及び第2アルミニウム板」をそれぞれ「Al-Si系ろう材」により接着した「放熱用セラミック基板」が記載されているから、甲第1号証に記載の発明は、本件請求項1に記載の構成B.C.を具備し、さらに、甲第1号証には「Al-Si系ろう材」として「Al-7.5%Si箔(重量%)」が例示されているので、本件請求項1に係る発明の構成要件D.も具備している。
なお、甲第1号証は「6.5〜8.5重量%のSiを含むAl-Si合金」の組成範囲を明確には示していないものの「Al-7.5%Si箔(重量%)」が記載され、参考資料1にあるように、アルミニウム合金ろうのJIS規格にある「合金番号4343」として「Si6.8〜8.2重量%、残部Al」からなるアルミニウム合金ろうが記載されているように、構成D.は、JIS規格のアルミニウム合金ろうと同等の組成を規定しているにすぎず、2-1に述したように本件明細書には、Al-Si系ろう材の各成分量の技術的意義を記載していないのであるから、本件特許発明におけるAl-Si系ろう材の組成範囲は単なる設計事項にすぎなものである。
また、甲第1号証にはセラミックス基板の構成材料として「アルミナ、ガラスセラミックス、窒化アルミニウム、ムライト又は炭化珪素」としか記載されておらず、本件請求項1の構成Aで規定する「Si3N4」は示されていないものの、構成Aにおける「セラミック基板」については満足するものであり、甲第1号証記載の「セラミック基板」は、本件請求項1の構成Aで規定する基板構成材料(Si3N4)を除いて、広義の意味で構成Aに該当している。
よって、本件請求項1に係る発明と甲第1号証記載の発明とは、「セラミック基板の材質」のみが相違し、残余の点で両発明は一致している。

また、甲第2号証には前述したように、「窒化アルミニウム系焼結板材からなる絶縁板材の一方面にはAlまたはAl合金からなるヒートシンク板材が、また絶縁板材の他方面には同じくAlまたはAl合金からなる回路形成用薄板材が、それそれAl-Si系合金からなるろう材にて積層接合された半導体装置用軽量基板」が記載されており、この半導体装置用軽量基板は甲第1号証と同様に、本件請求項1に係る発明の構成B.C.を具備しており、甲第2号証には「Al-Si系合金からなるろう材」として「Al-7.5%Si合金」が例示されいるから、本件請求項1に係る発明の構成D.を具備している。
加えて、甲第2号証ではヒートシンク板材や回路形成用薄板材として「AlまたはAl合金」が用いられており、このAlの材質について、「純AlやAl-0.005%B合金」などが示されているので、甲第2号証には「Al純度が99.98重量%以上のアルミニウム板」、すなわち本件請求項2に係る発明の構成C′.を満足するアルミニウム板が示されている。
このように、本件請求項1および請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載の発明とセラミック基板(絶縁板材)の材質のみで相違し、残余の点では一致している。
よって、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載の発明のセラミック基板(絶縁板材)の材質を「Si3N4」に変更したにすぎないものであり、本件請求項2に係る発明の構成C′については、甲第2号証に明確に記載されているため、本件請求項2に係る発明も甲第2号証記載の発明のセラミック基板(絶縁板材)の材質を「Si3N4」に変更したにすぎないものである。
さらに、甲第3号証には、
「熱伝導率が60〜180W/m・Kである窒化けい素基板表面に、活性金属を含有する接合材を介して、銅回路板を一体に接合したことを特徴とするセラミックス銅回路基板」(請求項1)と
記載されるとともに、従来のセラミックス銅回路基板における問題点として、
「AlN基板を使用した場合には、熱伝導率が高く充分な放熱性が得られるが、AlN基板自体の強度が低いため、繰り返して作用する熱負荷によってクラックが生じ易く、いわゆる耐熱サイクル性が小さいという問題点があった」(段落番号【0007】)」と
記載した上で、
「・・・特に優れた放熱性・耐熱サイクル性および接合強度を有し、半導体パワーモジュール用部品として好適なセラミックス銅回路基板を提供することを目的とする」(段落番号【0009】)と
記載し、実施例及び比較例として
「・・・窒化けい素基板上に銅回路板を一体に接合して実施例1〜5に係る窒化けい素銅回路基板をそれぞれ製造した(段落番号【0039】)」と、
「セラミックス基板として、実施例1〜5と同一寸法のAl203焼結体基板(比較例1用)、AlN焼結体基板(比較例2用)およびBeO焼結体基板(比較例3用)をそれぞれ使用し、・・・それぞれ比較例1〜3に係る各種セラミックス銅回路基板を多数調製した」(段落番号【0040】)」と、
「こうして調製した実施例1〜5および比較例1〜3に係る各セラミックス銅回路基板について、室温(25°C)における熱伝導率、3点曲げ強度、銅回路板の接合強度、撓み量等の特性値を計測した。・・・また実施例1〜5および比較例1〜3に係るセラミックス銅回路基板について上記熱衝撃試験を500回(サイクル)繰り返し、各l00回終了毎に銅回路板のビール強度の経時変化を測定し、基板の耐熱サイクル性を評価した。また500回の熱衝撃試験終了後において、・・・セラミックス基板に微小クラックが発生した割合を計測した」(段落番号【0041】、【0042】)と
記載されており、さらに以上の測定結果は段落番号【0044】の表1および図1に示されており、
「表1および図1に示す結果から明らかなように、実施例1〜5に係る窒化けい素銅回路基板によれば、活性金属を含有する接合材を介して銅回路板を高熱伝導性窒化けい素基板表面に強固に接合しているため、ヒートサイクル試験後においても銅回路板の接合強度の経時的な低下が少なく、耐久性(耐熱サイクル性)および放熱性に優れた窒化けい素銅回路基板が得られた。特に実施例1〜5に係る窒化けい素銅回路基板においては、500回の熱衝撃試験終了後においても、窒化けい素基板自体に割れが発生することもなく、いずれも優れた耐熱サイクル性を示すことが確認された」(段落番号【0045】)」と
記載されている。
したがって、甲第3号証には「熱伝導率が60〜180W/m・Kである窒化けい素基板の表面に活性金属を含有する接合材を介して銅回路板を一体に接合したセラミックス回路基板」が記載されており、「従来のセラミックス銅回路基板にAlN基板にかわる「放熱性・耐熱サイクル性および接合強度に優れるセラミックス回路基板」として、「熱伝導率が60〜180W/m・Kである窒化けい素基板」を記載している。
一方、本件特許発明は、熱サイクルを繰返し付加してもセラミック基板にクラックが発生しないセラミック回路基板を提供することを目的として成されたものであり、甲第3号証と同様に耐熱サイクル性の向上を目的として成されたものであるから、甲第1、2号証記載のにおけるセラミック基板の材質として、本件特許発明と同様の目的を達成している甲第3号証記載のセラミックス基板の代替技術に基づいて、「窒化けい索(Si3N4)」に変更する程度のことは、当業者が容易に成し得たものである。
したがって、本件特許の請求項1および請求項2に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証および甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に成し得た発明であるため、特許法第29条第2項の規定ににより、特許を受けることができないものである。

3.異議申立の判断
3-1 本件明細書の記載及び本件各請求項に係る発明
3-1-1 本件明細書の記載について
本件特許明細書の請求項1には、「Si3N4により形成されたセラミック基板(13)と、前記セラミック基板(13)の両面にAl-Si系ろう材を介してそれぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板(11,12)とを備えたセラミック回路基板であって、前記Al-Si系ろう材が93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成されたことを特徴とするセラミック回路基板。」と記載されており、同記載は、発明を、セラミック基板がSi3N4により形成されること、セラミック基板の両面にAl-Si系ろう材を介してそれぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板とを備えること、及び、Al-Si系ろう材が93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成されることを少なくとも併せ持つことにより特定している。
そして、Al-Si系ろう材に関しては、93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含むと明確に記載している。
また、これらを併せ持つ発明に関して、発明の詳細な説明の欄中の段落番号【0005】には、「【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明は、図1に示すように、Si3N4により形成されたセラミック基板13と、セラミック基板13の両面にAl-Si系ろう材を介してそれぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板11,12とを備えたセラミック回路基板であって、Al-Si系ろう材が93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成されたことを特徴とする。・・」と、段落番号【0007】に、「【発明の実施の形態】・・図1に示すように、セラミック回路基板10はSi3N4により形成されたセラミック基板13と、このセラミック基板13の両面にAl-Si系ろう材(図示せず)を介してそれぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板11,12とを備える。第1及び第2アルミニウム板11,12はAlの純度が99.98重量%以上の高純度のAl合金により形成され、Al-Si系ろう材は93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとの合金により形成される。」と、段落番号【0009】に、「【実施例】・・<実施例1>図1に示すように、・・Si3N4により形成されたセラミック基板13と、・・Al-Si系ろう材とを用意した。第1及び第2アルミニウム板11,12のAlの純度はともに99.999重量%であり、Al-Si系ろう材はAl-7.5重量%Si合金であった。また第1及び第2アルミニウム板はAlの他に・・とを含んでいた。第1アルミニウム板11の上にAl-Si系ろう材、セラミック基板13、Al-Si系ろう材及び第2アルミニウム板12を重ねた状態で、これらに荷重5kgf/cm2を加え、真空中で630℃に加熱することにより、セラミック基板13の両面に第1及び第2アルミニウム板11,12を積層接着した。積層接着後、第2アルミニウム板12をエッチング法により所定のパターンの回路として、セラミック回路基板10を得た。」と記載されていることから、93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金は、実施例のAl-7.5重量%Si合金により裏付けられており、その全体として奏する作用・効果として、段落番号【0015】に、「表1から明らかなように、実施例1〜3ではセラミック基板に全くクラックが発生しなかったのに対し、比較例1〜6では温度サイクル700回後、400回後及び200回後にセラミック基板にそれぞれクラックが発生していた。この結果、第1及び第2アルミニウム板のAlの純度が99.98重量%以上であれば、セラミック基板にクラックが発生しないことが判った。またセラミック基板の両面に第1及び第2銅板を積層接着した比較例4の回路基板では、温度サイクル100回後にセラミック基板にクラックが既に発生していた。」と記載されるとともに、段落番号【0016】に、「【発明の効果】・・セラミック基板をSi3N4により形成し、このセラミック基板の両面にAl-Si系ろう材を介して第1及び第2アルミニウム板をそれぞれ積層接着し、更にAl-Si系ろう材を93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成したので、この回路基板に熱サイクルを付加しても、セラミック基板と第1及び第2アルミニウム板との熱膨張係数の差による歪みが従来のCuやCu合金等にて形成された金属部材と比べて変形抵抗の小さい第1及び第2アルミニウム板の弾性変形により吸収される。またこのときのセラミック基板に作用する熱応力は小さいので、セラミック基板にクラックが発生することはない。また第1及び第2アルミニウム板のAlの純度が99.98重量%以上であれば、第1及び第2アルミニウム板の0.2%耐力が29MPaと小さくなる。この結果、第1及び第2アルミニウム板の変形抵抗が小さくなるので、回路基板に熱サイクルを付加しても、セラミック基板に作用する熱応力はこのセラミック基板にクラックが発生しない範囲となる。」とそれぞれ記載されている。
このように、前記の各構成を併せ持つものの作用効果が明らかである以上、その一部の数値の上下限の意味が記載されていないことのみをもって、当業者が実施をすることができないとすることはできないとともに、請求項1、2に記載された発明が発明の詳細な説明の欄中に記載されたものではないとすることもできない。
また、上記段落番号【0015】に、比較例4が、セラミック基板の両面に第1及び第2銅板を積層接着したものであると記載され、表1をみれば、Alを用いたものと銅を用いるものとの比較がなされているのであるから、Al純度が99.98重量%以上のアルミニウム板が必須の構成であるとする異議申立人の主張は採用できない。
以上の通り、本件明細書の記載には、特許異議申立人の主張する不備は認められない。

3-1-2 本件請求項1、2に係る発明
3-1-1に述べたように、本件明細書には、特段の不備は認められず、請求項1、2に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1、2に記載された以下の事項により、それぞれ特定されるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 Si3N4により形成されたセラミック基板(13)と、前記セラミック基板(13)の両面にAl-Si系ろう材を介してそれぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板(11,12)とを備えたセラミック回路基板であって、前記Al-Si系ろう材が93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成されたことを特徴とするセラミック回路基板。
【請求項2】 第1及び第2アルミニウム板(11,12)のAlの純度が99.98重量%以上である請求項1記載のセラミック回路基板。

3-2 甲各号証の刊行物に記載された発明
特許異議申立人が提出した甲第1、2号証の刊行物には、2-2に述べた記載があり、甲第1、2号証に記載のAl-Si系ろう材は、Al-7.5%Si箔(重量%)が例示されることより、同ろう材は、93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金と特段の差異はなく、
甲第1号証には、
アルミナ、ガラスセラミックス、窒化アルミニウム、ムライト又は炭化珪素のいずれかで形成されたセラミック基板と、前記セラミック基板の両面にAl-Si系ろう材を介してそれぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板とを備えたセラミック回路基板であって、前記Al-Si系ろう材が93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成されたセラミック基板。
の発明が記載され、甲第2号証には、
窒化アルミニウム系焼結板材で形成されたセラミックの基板である絶縁板材と、前記絶縁板材の両面にAl-Si系ろう材を介してそれぞれ積層接着された、Al純度が99.98重量%以上のアルミニウムの板とを備えたセラミックの回路基板であって、前記Al-Si系ろう材が93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成されたセラミックの回路基板である半導体装置用軽量基板。
の発明が記載されるものと認める。
また、甲第3号証の刊行物には、2-2に述べた記載があるので、
AlN焼結体基板の問題点を改良するものとして、窒化けい素基板表面に、活性金属を含有する接合材を介して、銅回路板を一体に接合したセラミックス銅回路基板
の発明が記載されるものと認める。

3-3対比・判断
3-3-1 本件請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明は、上記の通り特定されるものであるから、少なくとも、
Si3N4により形成されたセラミック基板(以下、「構成A」という。)
をその構成の一部とするものである。
同構成は、3-1-1に述べたように、セラミック基板の両面にAl-Si系ろう材を介してそれぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板とを備えること、及び、Al-Si系ろう材が93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成されることとともにその発明の構成の一部をなすものである。
これに対して、上記甲第1号証には、3-2に述べたように、
アルミナ、ガラスセラミックス、窒化アルミニウム、ムライト又は炭化珪素のいずれかで形成されたセラミック基板と、前記セラミック基板の両面にAl-Si系ろう材を介してそれぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板とを備えたセラミック回路基板であって、前記Al-Si系ろう材が93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成されたセラミック基板。
の発明が記載されるものと認められ、特許異議申立人も認めるようにセラミック基板を用いるものの、Si3N4により形成されたセラミック基板を用いるものではない。
したがって、本件請求項1に係る発明と上記甲第1号証に記載の発明とを比較すると、本件請求項1に係る発明が、上記の構成Aを有するものであるのに対して、甲第1号証のものは、その点を開示していない点で少なくとも相違している。
特許異議申立人は、この点は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえた事項である旨主張しているので、以下、甲第3号証の開示について検討する。
3-2に記載するように、甲第3号証には、
AlN焼結体基板の問題点を改良するものとして、窒化けい素基板表面に、活性金属を含有する接合材を介して、銅回路板を一体に接合したセラミックス銅回路基板
の発明が記載されるものの、甲第3号証に示される技術は、窒化けい素基板と銅回路板とを組合せることを開示するものであるのに対して、本件請求項1に係る発明を特定する構成Aは、セラミック基板の両面にAl-Si系ろう材を介してそれぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板とを備えること、及び、Al-Si系ろう材が93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成されることと一体をなすものであり、換言すれば、Si3N4により形成されたセラミック基板と、その両面に積層接着されるアルミニウム板との組合せを前提として、Al-Si系ろう材が93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成されたことを特定するものである。
これに対して、甲第3号証に記載される窒化けい素により形成された基板は、その両面に積層接着されるアルミニウム板との組合せとして用いることを開示又は示唆するものではなく、甲第1号証に記載されるもののAl-Si系ろう材の採用も、Si3N4により形成されたセラミック基板とアルミニウム板との組合せを前提とするものではなく、それを示唆するものでもないので、上記構成Aを甲第1,3号証に記載された発明に基づいて、容易になしえたとすることはできない。
また、本件請求項1係る発明と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、甲第2号証のものも、上記構成Aを開示するものではなく、本件請求項1に係る発明が、上記の構成Aを有するものであるのに対して、甲第2号証のものは、その点を開示していない点で少なくとも相違している。
そして、甲第3号証の開示は、上述のとおりであり、甲第2号証のものは、Si3N4により形成されたセラミック基板とアルミニウム板との組合せを前提とするものではなく、それを示唆するものでもないので、上記構成Aを甲第2,3号証に記載された発明に基づいて、容易になしえたとすることはできない。
また、各参考資料も、上記構成Aを、セラミック基板の両面にAl-Si系ろう材を介してそれぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板とを備えること、及び、Al-Si系ろう材が93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成することを前提に採用することを開示又は示唆をなすものではない。
しかも、本件請求項1に係る発明は、セラミック基板の両面にAl-Si系ろう材を介してそれぞれ積層接着された第1及び第2アルミニウム板とを備えること、及び、Al-Si系ろう材が93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成することを前提として、構成Aを有することにより、特許明細書の段落番号【0016】に記載された、「【発明の効果】・・セラミック基板をSi3N4により形成し、このセラミック基板の両面にAl-Si系ろう材を介して第1及び第2アルミニウム板をそれぞれ積層接着し、更にAl-Si系ろう材を93.5〜91.5重量%のAlと6.5〜8.5重量%のSiとを含む合金により形成したので、この回路基板に熱サイクルを付加しても、セラミック基板と第1及び第2アルミニウム板との熱膨張係数の差による歪みが従来のCuやCu合金等にて形成された金属部材と比べて変形抵抗の小さい第1及び第2アルミニウム板の弾性変形により吸収される。またこのときのセラミック基板に作用する熱応力は小さいので、セラミック基板にクラックが発生することはない。また第1及び第2アルミニウム板のAlの純度が99.98重量%以上であれば、第1及び第2アルミニウム板の0.2%耐力が29MPaと小さくなる。この結果、第1及び第2アルミニウム板の変形抵抗が小さくなるので、回路基板に熱サイクルを付加しても、セラミック基板に作用する熱応力はこのセラミック基板にクラックが発生しない範囲となる。」という効果を奏するものであるから、構成Aを設計上の事項に属するとすることはできない。
よって、本件請求項1に係る発明を、その構成の一部を開示も示唆もしない甲第1〜3号証の刊行物に記載された発明とすることはできないとともに、それらの刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

3-3-2 本件請求項2に係る発明について
本件請求項2に係る発明は、上記請求項1に係る発明を、引用することにより、構成Aをそれらの発明の構成の一部とするものであるから、3-3-1に述べたように、それら発明を、その構成の一部を開示も示唆もしない上記甲第1〜3号証の刊行物に記載された発明とすることはできないとともに、それらの刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

4.むすび
以上説示の通り、各特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1、2に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-12-12 
出願番号 特願平8-221478
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H05K)
P 1 651・ 121- Y (H05K)
P 1 651・ 536- Y (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 林 茂樹  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 鈴木 久雄
井口 嘉和
登録日 2001-01-26 
登録番号 特許第3152344号(P3152344)
権利者 三菱マテリアル株式会社
発明の名称 セラミック回路基板  

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