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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
管理番号 1054892
異議申立番号 異議2001-70193  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-09-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-01-16 
確定日 2001-11-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3066576号「膨張黒鉛製成形体及びその製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3066576号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 〔一〕 本件特許は、平成9年3月7日に出願され(特願平9-53350号)、平成12年5月19日に特許権の設定の登録がされ(特許番号 特許第3066576号。請求項数 5)、平成12年7月17日にその特許掲載公報が発行されたものである。
これに対して、平成13年1月16日付けで、本件特許は、請求項1の構成の発明(以下では、本件特許発明という。)について、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同発明について特許を取り消すべきであるとの、特許異議の申立てがされた。
当審は、本件特許は、本件特許発明について、特許法第29条第1項にあげる発明に該当し、同条同項の規定に違反して、また、特許法第29条第2項の規定に違反して、特許されたものであるから、本件特許は、同発明について、取り消すべきであるとの取消理由を通知した(発送日 平成13年5月15日)。
本件特許権者は、平成13年7月16日付けで、訂正請求書を提出して、本件特許の願書に添付した明細書(以下では、本件特許明細書という。)を訂正するとともに特許異議意見書を提出した。

〔二〕 特許明細書の記載
なお、下記摘示中、「・・・」の部分は、当審が転記を省略した部分である。
(イ) 特許請求の範囲
「【請求項1】 厚みが10%以上異なる凹凸部分を有する膨張黒鉛製の成形体であって、
厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満になるように成形されていることを特徴とする膨張黒鉛製成形体。
【請求項2】 成形体の形態が、シート状、板状もしくはブロック状のいずれかである請求項1に記載の膨張黒鉛製成形体。
【請求項3】 厚みが均一な膨張黒鉛シートの表層部の所定形状部分を除去して該膨張黒鉛シートの表面に凹凸を形成した後、
その凹凸形状部分に相当する凹凸形状を有する押し型を用いて全体を加圧して所定の形態に成形することを特徴とする膨張黒鉛製成形体の製造方法。
【請求項4】 最終成形体の凸部となる部分の形状に打ち抜き加工した少なくとも1枚の膨張黒鉛シートの両面及び打ち抜き加工を施さず上記膨張黒鉛シートと同一密度を有する膨張黒鉛シートの少なくとも片面表層部を除去した後、
それら膨張黒鉛シートをその中間部にこれら膨張黒鉛シートの密度よりも低い密度の膨張黒鉛粉体を介在させた状態で積層し、かつ、加圧して一体化することを特徴とする膨張黒鉛製成形体の製造方法。
【請求項5】 上記表層部の除去手段としてブラスト加工を使用する請求項3または4に記載の膨張黒鉛製成形体の製造方法」
(ロ) 段落【0002】、【従来の技術】
「この種の膨張黒鉛製成形体として、従来から知られているものは、(a)膨張黒鉛シートをエンボス(型押し)ロールにより加圧して表面に浮彫り加工を施したもの、(b)膨張処理した黒鉛あるいは一度加圧処理して密度アップや造粒した膨張黒鉛を金型内で加圧成形したもの、(c)膨張黒鉛テープを渦巻き状に巻き重ねた後、金型内でリング状に加圧成形したもの、などがある。特に、面状ヒーターや面状クーラー用の発熱体のように、表面に凹凸部分を有する膨張黒鉛製の成形体においては、最終成形体の凹部に相当する高さ及びパターンの凸部を有する押し型を使用して膨張黒鉛シートを直接に加圧成形していた。」
(ハ) 段落【0003】、【発明が解決しようとする課題】の一部
「上記した従来の膨張黒鉛製成形体においては、最終成形体の全体形状が平坦なシート状や板状のものでない限り各部の密度差が大きく、このような密度差の存在に起因して各部の熱伝導特性、電気特性、機械的特性にばらつきが生じるだけでなく、成形後の復元性にもばらつきがあって、成形体製品の寸法精度が悪いものとなる。したがって、複雑形状や大型サイズ、角形の成形体(製品)については、膨張黒鉛本来の諸特性や寸法精度をばらつき少なく成形することが非常に困難であった。特に、面状ヒーター用発熱体などのように、表面に凹凸部分を有する膨張黒鉛製成形体の場合は、凹部の角部表面に割れやフクレなどの異常や欠陥を発生しやすいとともに、凹凸部分間での密度差が非常に大きくなり、膨張黒鉛の熱伝導特性による発熱作用が不均一になるという問題があった。」
(ニ) 段落【0004】、【発明が解決しようとする課題】の一部
「本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、厚みの異なる部分間での密度差に起因する熱伝導特性、電気特性、機械的特性などのばらつきを少なくして複雑形状や大形サイズ、角形製品であっても、膨張黒鉛本来の諸特性及び寸法精度に優れたものとすることができ、特に面状ヒーターやクーラー用発熱体として均一な加熱、冷却性能を発揮させることができる膨張黒鉛製成形体及びその製造方法を提供することを目的としている。」
(ホ) 段落【0007】、【課題を解決するための手段】の一部
「ここで、上記成形体の形態としては、請求項2に記載のように、シート状、板状もしくはブロック状のいずれであってもよい。」
(ヘ) 【0011】、特に、3頁5欄、4〜9行
「上記請求項4に記載の発明によれば、・・・、従来のように、最終成形体の凹凸に相当する凹凸部を有する押し型を使用して膨張黒鉛シートを直接に加圧成形する場合に比べて、凹部の角部表面に割れやフクレなどの異常や欠陥を発生しないですみ、所定の寸法、形状の成形体を精度よく製造することが可能であるとともに、・・・。」
(ト) 【0015】、【実験例】の一部、3頁6欄、1〜5行
「実施例1:図3に示すような市販されている膨張黒鉛シート2(・・・)を使用して、その片側表面に・・・のジグザグ状の溝パターンPをマイクロブラスト加工にて除去して形成し、その後、・・・」
(チ) 【0016】、【実験例】の一部、3頁6欄、15〜27行
「実施例2:最終成形体において凸部となる部分の形状に打ち抜いた厚み・・・の膨張黒鉛シート2Aの3枚と、打ち抜き加工が施されてなく、上記膨張黒鉛シート2Aと同一厚み・・・の膨張黒鉛シート2Bの1枚とを準備し、・・・4枚の膨張黒鉛シート2A、2Bを積層し、かつ、加圧成形して接着剤無しで互いに一体化することにより、・・・。」
(リ) 【0017】、【実験例】の一部、3頁6欄、40〜44行
「この膨張黒鉛シート2を、最終成形体に必要な深さ・・・のジグザグ状溝部のパターンに相当する凸部を有する押し型を使用して加圧成形して最終成形体である図6に示すような面状ヒーター用発熱体1を成形した。」

〔三〕 訂正請求の成否
(1) 訂正事項
(イ) 訂正事項a
本件特許の特許請求の範囲の請求項1を下記のとおり訂正する。
「厚みが10%以上異なる凹凸部分を有する膨張黒鉛シート製の成形体であって、厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満になるように成形されていることを特徴とする膨張黒鉛シート製成形体。」
(ロ) 訂正事項b
本件特許の特許請求の範囲の請求項2を下記のとおり訂正する。
「厚みが10%以上異なる凹凸部分を有する膨張黒鉛製成形体であって、成形体の形態が、シート状、板状もしくはブロック状のいずれかであり、厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満になるように成形されていることを特徴とする膨張黒鉛製成形体。」
(ハ) 訂正事項c
明細書第2頁第1行(特許掲載公報第2頁第3欄第6行)及び明細書第2頁第29行〜第3頁1行(特許掲載公報第2頁第3欄第43〜44行)の「膨張黒鉛製成形体及びその製造方法」を「膨張黒鉛シート製成形体及び膨張黒鉛製成形体並びにその製造方法」と訂正する。
(ニ) 訂正事項d
明細書第3頁第4行、同第5行、同第9行(特許掲載公報第2頁第3欄第48行、第49行、同第4欄第3〜4行)及び同第8頁第18(特許掲載公報第4頁第8欄第11行)行の「膨張黒鉛製」を「膨張黒鉛シート製」と訂正する。
(ホ) 訂正事項e
明細書第3頁第18行〜第19行(特許掲載公報第2頁第4欄第15〜17行)の「ここで、上記成形体の形態としては、請求項2に記載のように、シート状、板状もしくはブロック状のいずれであってもよい。」を下記のとおり訂正する。
「請求項2に記載の発明に係る膨張黒鉛製成形体は、厚みが10%以上異なる凹凸部分を有する膨張黒鉛製成形体であって、成形体の形態が、シート状、板状もしくはブロック状のいずれかであり、厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満になるように成形されていることを特徴とするものである。」

(2) 訂正請求の適法性
(2-1) 訂正事項a
(i) 訂正事項a
(イ) 本件訂正請求は、訂正事項aは、膨張黒鉛製の成形体を膨張黒鉛シート製の成形体とするものであるから、本件訂正請求は、特許請求の範囲を減縮することを目的としている。
(ロ) 本件特許明細書には、その特許請求の範囲の請求項3及び請求項4に記載された製造方法によって、膨張黒鉛のシートから膨張黒鉛成形体を成型する方法が記載されているから、上記製造方法では、膨張黒鉛のシートを予備的に加工しておく必要があるとはいえ{上記〔二〕参照}、本件特許明細書には、膨張黒鉛シート製成形体が記載されていたと認められる。
そうすると、本件訂正請求は、訂正事項aの点で、本件特許明細書に記載された事項の範囲内で訂正するものである。
(ハ) 本件訂正請求は、訂正事項aの点で、特許請求の範囲を実質的に拡張するものではなく、変更するものでもない。

(2-2) 訂正事項bについて
(i) 本件訂正請求は、訂正事項bの点で、特許請求の範囲の請求項2が請求項1を引用した記載であったものを、請求項1の訂正に伴い、請求項1を引用しない記載に改めるものであるから、明りょうでない記載を釈明することを目的としている。
(ii) 本件訂正請求は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でする訂正するものであり、特許請求の範囲を実質的に拡張するものでもなく、変更するものでもない。

(2-3) 訂正事項c〜同eについて
本件訂正請求は、訂正事項c、同d及び訂正事項eの点で、いずれも、明りょうでない記載を釈明することを目的とし、本件特許明細書の記載事項の範囲内でする訂正するものであり、特許請求の範囲を実質的に拡張するものでもなく、変更するものでもない。

(2-4) 以上によれば、本件訂正請求は、適法な訂正を請求するものであって、認めるべきものである。
以下では、本件訂正請求明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成の発明を本件特許発明という。

〔四〕 特許の要件(新規性、容易性)
なお、下記摘示中、「・・・」の部分は、当審が転記を省略した部分である。
〔四-1〕 引例の記載
(1) 特開昭63-282151号公報(本件特許異議申立人が提示した甲第1号証。以下では、引例1という。)
(イ) 特許請求の範囲
「1. ハニカム状の模様を連接してなる膨張黒鉛シート」
(ロ) 1頁、左下欄、下から3行〜同右下欄、10行、
(発明が解決しようとする問題点)
「 膨張黒鉛シートは嵩密度が0.8〜1.7g/cm3に圧縮成形されたものでガスケットやパッキンの素材となるが、ジョイントシートなどのシール素材に比べ脆いため、取り扱いが不便で、また打ち抜く際や引張られた場合に破断する危険性があった。そのため強度を必要とする条件で使われる場合はフックを有する金属板などに膨張黒鉛シートをラミネートし、補強して使用していたが、これらの加工は面倒であり、また素材が黒鉛単体でないため、黒鉛の有する耐食性等の特性を十分生かしきれなくなってしまう欠点がある。本発明は前記した補強材を用いずに強度の向上した膨張黒鉛シートを提供することを目的とする。」
(ハ) 1頁、右下欄12行〜2頁、左上欄13行、(問題点を解決するための手段)
「 本発明はハニカム状の模様を連接してなる膨張黒鉛シートに関する。
本発明の膨張黒鉛シートは膨張黒鉛粒子を二段階成形することによって達成される。第1段目の成形は、例えば圧縮プレスに装着された雌型に膨張黒鉛粒子を入れハニカム状の凹凸を有する雄型で圧縮成形し、第2図に示すようなハニカム状の凸部1を有する成形体を得る。このハニカム状の凸部は反対側の面の同じ位置に形成してもよい。次にこの成形体を今度は加圧面が平面の雄型で圧縮成形する。ロールで圧延する等の手段により第1図に示すような平板の面にハニカム状の模様を有する膨張黒鉛シートを得る。これによりハニカム状の部分が高密度となり、シートの強度が向上する。使用する膨張黒鉛の粒子は特に制限はない。ハニカム状の模様の大きさは、例えば第3図及び第4図に示すように、使用するガスケットの最小寸法の部分に1つ以上のハニカム状の模様を含むように設定することが好ましい。またハニカム部以外の部分の嵩密度は0.6〜1.4g/cm3程度、ハニカム部の嵩密度は更にその5〜20%増とすることが好ましい。」
(ニ) 2頁、左上欄、下から3行〜同右上欄6行
「第2図に示すように基材部2の厚さが0.7mm、ハニカム状の凸部1を含む全体の厚さが0.85mm、嵩密度が0.7g/cm3の成形体を得た。次にこの成形体をロール掛けにして厚さが0.5±0.05mm、幅10mm、長さ90mmの第1図に示す膨張黒鉛シートを得た。このシートのハニカム部3の幅aは1.5mm、ピッチbは4mmで、嵩密度(g/cm3)はハニカム部3が1.2、ハニカム部以外の部分4が1.0、引張強さが48kg/cm2であった。」

(2) 特開昭61-7571号公報(本件特許異議申立人が提示した甲第2号証。以下では、引例2という。)
(イ) 特許請求の範囲
「1.膨張倍率の異なる膨張黒鉛をそれぞれ加圧成形して得られた膨張黒鉛シートを組合せて積重ね、加圧成形することを特徴とする燃料電池用溝付きセパレータの製造法。」
以下では、上記構成の発明を引例2発明という。
(ロ) 1頁、右下欄7〜9行、(従来技術)の一部
「平板電極の場合は、セパレータに複数の溝を設けて燃料、空気等を通すようにしている。」
(ハ) 1頁、右下欄、下から2行〜2頁、左上欄3行、(従来技術)の一部
「一方板の加圧成形に使用するシートに低倍率の膨張黒鉛を単独で用いると流れ性が改善され、リブの部分への充填度は上がるが膨張倍率が小さい為に緻密度が低下して不浸透性に支障をきたす。」
(ニ) 2頁、左上欄、下から4〜2行、(発明の構成)の一部
「本発明において溝付きセパレータとは、膨張黒鉛からなる板に複数の溝を設けたものである。溝と溝との間の凸部をリブと呼ぶ。」
(ホ) 2頁、右上欄、下から2行〜同左下欄、1行、(発明の構成)の一部
「セパレータの加圧成形に使用する膨張黒鉛シートの組合せは、高倍率膨張黒鉛シートの上下に低倍率膨張黒鉛シートを配してもよく、・・・。又高倍率膨張黒鉛シート、低倍率膨張黒鉛シートは一枚でなく複数のものを重ね合わせてもよい。」
(ヘ) 2頁、左下欄7〜10行、(発明の構成)の一部
「 本発明の溝付きセパレータは、上記膨張黒鉛シートを組合せてダイスに入れ複数の溝を有するパンチで通常150〜600kg/cm2の面圧で、加圧成形して得られる。」
(ト) 実施例1(2頁、左下欄〜右下欄)
「実施例1
膨張倍率200倍の高倍率の膨張黒鉛(・・・)を加圧ロールで連続的に加圧成形して厚さ1.8mm、密度0.5g/cm3の高倍率膨張黒鉛シート1を得た。一方膨張倍率50倍の低倍率の膨張黒鉛(・・・)を同様に加圧ロールで連続的に加圧成形して厚さ2mm、密度1g/cm3の低倍率膨張黒鉛シート2を得た。第1図に示すように高倍率膨張黒鉛シート1の上下に低倍率膨張黒鉛シート2を配してダイス中に入れ、各内側面に複数の溝部を有する上下パンチにより、上パンチの溝部と下パンチの溝部とが互いに直交するようににして200kg/cm2の圧力で加圧成形し、板厚5mm、溝深さ1.5mm、密度1.4g/cm3の溝付きセパレータ3を得た。」
(チ) 2頁、右下欄、下から1行〜3頁、左上欄6行
比較例1
「 実施例1で使用したものと同一の低倍率膨張黒鉛を加圧ロールで連続的に成形して板厚2mm、密度0.5g/cm3の低倍率膨張黒鉛シートを得、これを5枚積重ねてダイス中に入れ、以下実施例1と同一の条件で加圧成形し、板厚5mm、密度1.43g/cm3の溝付きセパレータを得た。」
(リ) 2頁、左上欄8〜14行、比較例2の一部
「 実施例2における高倍率膨張黒鉛シートを10枚重ねてダイス中に入れ、実施例1と同様にして200kg/cm2及び400kg/cm2の圧力で加圧成形したが200kg/cm2で加圧成形したものはリブの部分がくずれ易く、400kg/cm2で加圧成形したものはリブが破壊するものが発生していずれも満足な溝付きセパレータが得られなかった。」

〔四-2〕 対比、判断
(1) 引例発明の認定
引例1には、膨張黒鉛シート製造用中間体として、「第1段目の成形は、例えば圧縮プレスに装着された雌型に膨張黒鉛粒子を入れハニカム状の凹凸を有する雄型で圧縮成形し、第2図に示すようなハニカム状の凸部1を有する成形体を得る」{〔四-1〕(ハ)参照}、また、「第2図に示すように基材部2の厚さが0.7mm、ハニカム状の凸部1を含む全体の厚さが0.85mm、嵩密度が0.7g/cm3の成形体を得た」{〔四-1〕(1)(ニ)参照}と記載されている。
そうすると、引例1には、「ハニカム状の膨張黒鉛粒子製中間成形体」の発明が記載されていると認められる。
以下では、この発明を引例1発明という。
(2) 本件特許発明と引例1発明との相違点
(イ) 上記(1)によれば、引例1発明の膨張黒鉛粒子製中間成形体の中間成形体は、例えば、凹凸を有する雄型を使用して、雌型内に0.85mm以上の高さに充填された膨張黒鉛粒子の堆積体を0.15mmの深さの凹部を有するように圧縮成形しているので、(α)「厚みが10%以上異なる凹凸部分を有」し、かつ、(β)技術常識上、「厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差」がほぼ30%未満であると推定することができる。
そうすると、本件特許発明の膨張黒鉛シート製成形体と引例1発明の膨張黒鉛粒子製中間成形体とは、凹凸部分の厚み差及び密度差のいずれの点でも、相違していない。
(ロ) 本件特許発明の膨張黒鉛シート製成形体は、膨張黒鉛シート製の成形体であるのに対して、引例1発明の膨張黒鉛粒子製中間成形体は、膨張黒鉛粒子製の成形体である点で相違している。
以下では、上記相違点を相違点1という。
(ハ) 本件特許発明は、膨張黒鉛シート製成形体であるのに対して、引例1発明の膨張黒鉛粒子製中間成形体は、中間体である点で、相違している。
以下では、上記相違点を相違点2という。
(ニ) そして、相違点1及び相違点2以外には、本件特許発明は、引例1発明と相違していない。

(2) 相違点の検討
(2-1) 特許法第29条第1項第3号該当性
以下では、相違点1及び相違点2は、実質上関連しているので、同時に併せ検討する。
(イ) 本件特許発明の膨張黒鉛シート製成形体がシートから製造したというだけで、ただちには、製造された成形体自体が引例1発明の膨張黒鉛粒子製中間成形体と異なるとはいえない。
そして、引例1には、引例1発明の膨張黒鉛粒子製中間成形体がシート状であることは明確に記載されていないが、上記〔四-1〕(1)(ニ)に記載された膨張黒鉛粒子の圧縮成形条件によれば、膨張黒鉛粒子製中間成形体を圧縮成形により製造するときに、その後最終製品とする際に再度圧縮成形する必要があるとはいえ、それ自体はシート化している場合があると認められるから、シート製の成形体と明確に区別できない可能性がある。
しかしながら、本件特許発明の膨張黒鉛シート製成形体を構成する黒鉛材質(本件特許明細書には、密度が1.5g/cm3の場合が例示されている。)がシート(例えば、市販の黒鉛シートが有する一体性。本件特許明細書に示された実施例では、シートの密度は、1.0g/cm3である。)を製造原材料として使用した場合に特有の一体性を有しているのに対して、引例1発明の膨張黒鉛粒子製成形体は、膨張黒鉛粒子から製造した中間体にすぎないから、全体形状としてはシート化しているとしても、その黒鉛材質は粒子が原形を保ったまま、単にシート状に結合しているにすぎないと考えるのが妥当である{引例1の唯一の実施例によれば、嵩密度は0.7g/cm3にすぎないし、また、もし、完全にシート化しているとすると、引例1発明の膨張黒鉛粒子製中間成形体の凹凸部にわたって均質でなくなっているとするのが妥当である。この点については、引例2の記載、例えば、上記〔四-1〕(2)(リ)参照}。
(ロ) そして、本件特許発明の膨張黒鉛シート製成形体は、最終製品であると認められる{ことに、上記〔二〕(ハ)及び(ニ)参照。また、平成13年7月16日付け特許異議意見書の4頁の(4)の項中、下から8〜6行の記載をも参照。}から、この最終製品の原材料であるシート自体は、当然、再度圧縮成形を必要としない高い嵩密度を有しており、引例1発明の膨張黒鉛粒子製成形体より密度が高い製品であるとするの妥当である。
(ハ) したがって、本件特許発明は、引例1発明と異なる発明であり、引例1に記載された発明ではないとするほかはない。

(3-2) 特許法第29条第2項の要件
(1) 引例2発明{燃料電池用溝付きセパレータの製造法の発明である。上記〔四-1〕(2)(イ)参照。}との相違点の認定
本件特許発明は、膨張黒鉛シート製成形体の発明である点では、引例2発明の製造法の目的物であるセパレータと同一であるが、本件特許発明は、膨張黒鉛シート製成形体が厚みが10%以上異なる凹凸部分間の密度差を30%未満としている点で、少なくとも発明の構成上、引例2発明と相違している。

(2) 判断
(イ) 特に必要がない限り、凹凸を部分を有する成形体で凹凸部間で密度差がないことが望ましいことは、技術常識であると認められるから、凹凸部分を有する膨張黒鉛シート製の成形体であって、凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満(理想的には、0%)になるようにするという技術的課題自体は、格別のものであるとは認められない。
(ロ) そして、引例2には、高倍率膨張黒鉛シートを単に加圧成形してリブを有する成形体とすると、リブの部分がくずれやすいことが記載され{上記〔四〕〔四-1〕(2)(リ)参照}、リブ成形時に膨張黒鉛シートに不均等な力がかかっていることが示されているものの、同時に、低倍率膨張黒鉛シートは流れ性がよいことが記載されている{上記〔四〕〔四-1〕(2)(ハ)参照}から、当審は、引例2発明の方法によって、凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満の膨張黒鉛シート製の成形体を製造できる可能性を完全に否定することはできない。
(ハ) しかしながら、引例1及び引例2を併せ検討しても、従来の膨張黒鉛の成形方法(単にシートを圧縮成形する方法)によっては、「厚みが10%以上異なる凹凸部分を有」し、かつ、「凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満」である膨張黒鉛シート製成形体を製造できることを明確に示唆していると認めるに足る記載はみあたらない。本件特許権者は、平成13年7月16日付け特許異議意見書で、引例2発明の製品は、「凹凸部間での密度差が30%を越えるものとな」ると明言している。
(ニ) そして、本件特許発明は、本件特許明細書記載の効果を奏したものであると認められる。
(ホ) そうすると、引例1及び引例2の記載(引例2発明の膨張黒鉛成形体の製造方法をふくむ。)に基づいては、本件特許発明の膨張黒鉛シート製成形体が得られることを予想できたとすることはできない。
(ヘ) なお、本件特許異議申立人は、引例1発明と引例2発明とを組み合わせると、本件特許発明は、当業者が容易に発明できる発明であると主張しているが、引例1発明は、膨張黒鉛粒子を原材料として製造しているから、他に格別の理由がなければ、両発明を組み合わせることはできない。、
(ト) したがって、本件特許発明は、当業者が容易に発明できた発明であるとは認められない。

〔五〕 むすび
当審は、他に、本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり、決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
膨張黒鉛製成形体及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 厚みが10%以上異なる凹凸部分を有する膨張黒鉛シート製の成形体であって、
厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満になるように成形されていることを特徴とする膨張黒鉛シート製成形体。
【請求項2】 厚みが10%以上異なる凹凸部分を有する膨張黒鉛製成形体であって、
成形体の形態が、シート状、板状もしくはブロック状のいずれかであり、
厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満になるように成形されていることを特徴とする膨張黒鉛製成形体。
【請求項3】 厚みが均一な膨張黒鉛シートの表層部の所定形状部分を除去して該膨張黒鉛シートの表面に凹凸を形成した後、
その凹凸形状部分に相当する凹凸形状を有する押し型を用いて全体を加圧して所定の形態に成形することを特徴とする膨張黒鉛製成形体の製造方法。
【請求項4】 最終成形体の凸部となる部分の形状に打ち抜き加工した少なくとも1枚の膨張黒鉛シートの両面及び打ち抜き加工を施さず上記膨張黒鉛シートと同一密度を有する膨張黒鉛シートの少なくとも片面表層部を除去した後、
それら膨張黒鉛シートをその中間部にこれら膨張黒鉛シートの密度よりも低い密度の膨張黒鉛粉体を介在させた状態で積層し、かつ、加圧して一体化することを特徴とする膨張黒鉛製成形体の製造方法。
【請求項5】 上記表層部の除去手段としてブラスト加工を使用する請求項3または4に記載の膨張黒鉛製成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば断熱材、シール材、緩衝材、防音材、電極、鋳型などのように膨張黒鉛が本来有する耐熱性、耐食性、電気特性、熱伝導特性などを有効に活用すべく各種用途に供される膨張黒鉛製成形体で、特に熱伝導特性を利用して加熱あるいは冷却性能を発揮する面状ヒーターや面状クーラー用の発熱体として好適な膨張黒鉛シート製成形体及び膨張黒鉛製成形体並びにその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の膨張黒鉛製成形体として、従来から知られているものは、(a)膨張黒鉛シートをエンボス(型押し)ロールにより加圧して表面に浮彫り加工を施したもの、(b)膨張処理した黒鉛あるいは一度加圧処理して密度アップや造粒した膨張黒鉛を金型内で加圧成形したもの、(c)膨張黒鉛テープを渦巻き状に巻き重ねた後、金型内でリング状に加圧成形したもの、などがある。特に、面状ヒーターや面状クーラー用の発熱体のように、表面に凹凸部分を有する膨張黒鉛製の成形体においては、最終成形体の凹部に相当する高さ及びパターンの凸部を有する押し型を使用して膨張黒鉛シートを直接に加圧成形していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記した従来の膨張黒鉛製成形体においては、最終成形体の全体形状が平坦なシート状や板状のものでない限り各部の密度差が大きく、このような密度差の存在に起因して各部の熱伝導特性、電気特性、機械的特性にばらつきが生じるだけでなく、成形後の復元性にもばらつきがあって、成形体製品の寸法精度が悪いものとなる。したがって、複雑形状や大形サイズ、角形の成形体(製品)については、膨張黒鉛本来の諸特性や寸法精度をばらつき少なく成形することが非常に困難であった。特に、面状ヒーター用発熱体などのように、表面に凹凸部分を有する膨張黒鉛製成形体の場合は、凹部の角部表面に割れやフクレなどの異常や欠陥を発生しやすいとともに、凹凸部分間での密度差が非常に大きくなり、膨張黒鉛の熱伝導特性による発熱作用が不均一になるという問題があった。
【0004】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、厚みの異なる部分間での密度差に起因する熱伝導特性、電気特性、機械的特性などのばらつきを少なくして複雑形状や大形サイズ、角形製品であっても、膨張黒鉛本来の諸特性及び寸法精度に優れたものとすることができ、特に面状ヒーターやクーラー用発熱体として均一な加熱、冷却性能を発揮させることができる膨張黒鉛シート製成形体及び膨張黒鉛製成形体並びにその製造方法を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明に係る膨張黒鉛シート製成形体は、厚みが10%以上異なる凹凸部分を有する膨張黒鉛シート製の成形体であって、厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満になるように成形されていることを特徴とするものである。
【0006】
上記構成の請求項1に記載の発明の膨張黒鉛シート製成形体によれば、厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満であるから、密度差に起因する凹凸部分間での熱伝導特性、電気特性、機械的特性などのばらつきが少なくなり、複雑形状品や大形サイズ品、角形品のいずれであっても、その製品全体に亘って膨張黒鉛が本来有する諸特性を十分に発揮させることが可能となる。特に、面状ヒーターや面状クーラー用発熱体として使用する時、その発熱体の全域に亘って優れた熱伝導特性を保持することが可能であり、これによって、発熱体の全域で均一な加熱、冷却性能を発揮させることができる。
【0007】
請求項2に記載の発明に係る膨張黒鉛製成形体は、厚みが10%以上異なる凹凸部分を有する膨張黒鉛製成形体であって、成形体の形態が、シート状、板状もしくはブロック状のいずれかであり、厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満になるように成形されていることを特徴とするものである。
【0008】
また、請求項3に記載の発明に係る膨張黒鉛製成形体の製造方法は、厚みが均一な膨張黒鉛シートの表層部の所定形状部分を除去して該膨張黒鉛シートの表面に凹凸を形成した後、その凹凸形状部分に相当する凹凸形状を有する押し型を用いて全体を加圧して所定の形態に成形することを特徴とするものである。
【0009】
上記請求項3に記載の発明によれば、最終成形体の凹部となる膨張黒鉛シートの表層部を予め除去して表面に凹凸を形成した後、押し型を使用して全体を加圧して所定形態に成形するものであるから、従来のように、最終成形体の凹凸に相当する凹凸部を有する押し型を使用して膨張黒鉛シートを直接に加圧成形する場合に比べて、凹部の角部表面に割れやフクレなどの異常や欠陥を発生しないですみ、所定の寸法、形状の成形体を精度よく製造することが可能であるとともに、凹凸部分間での密度差も非常に小さくして、密度差に起因する凹凸部分間での熱伝導特性、電気特性、機械的特性などのばらつきを小さくすることができる。
【0010】
さらに、請求項4に記載の発明に係る膨張黒鉛製成形体の製造方法は、最終成形体の凸部となる部分の形状に打ち抜き加工した少なくとも1枚の膨張黒鉛シートの両面及び打ち抜き加工を施さず上記膨張黒鉛シートと同一密度を有する膨張黒鉛シートの少なくとも片面表層部を除去した後、それら膨張黒鉛シートをその中間部にこれら膨張黒鉛シートの密度よりも低い密度の膨張黒鉛粉体を介在させた状態で積層し、かつ、加圧して一体化することを特徴とするものである。
【0011】
上記請求項4に記載の発明によれば、最終成形体の凸部となる部分の形状に打ち抜き加工され、その両面が除去された膨張黒鉛シートと打ち抜き加工を施さず少なくともその片面表層部が除去された同一密度の膨張黒鉛シートとをそれらの中間部に低密度の膨張黒鉛粉体を介在させた状態で積層し、かつ、加圧して一体化するものであって、最終成形体の凹部となる部分が他の部分に比べてより強く加圧されることで、その部分の密度が局部的に大きくなることのないように成形するものであるから、従来のように、最終成形体の凹凸に相当する凹凸部を有する押し型を使用して膨張黒鉛シートを直接に加圧成形する場合に比べて、凹部の角部表面に割れやフクレなどの異常や欠陥を発生しないですみ、所定の寸法、形状の成形体を精度よく製造することが可能であるとともに、両シートを接着剤無しで積層一体化することが可能となり、凹凸部分間での密度差及び厚み方向での密度差ともに非常に小さくして、密度差に起因する凹凸部分間及び厚み方向での熱伝導特性、電気特性、機械的特性などのばらつきを小さくすることができる。
【0012】
なお、上記請求項3または4に記載の膨張黒鉛製成形体の製造方法における膨張黒鉛シートの表層部の除去手段として、請求項5に記載のように、ブラスト加工を使用するときは、所定形状部分を正確に形成することが可能であり、特に請求項4に記載の製造方法の場合は、表層部へのブラスト加工に伴って高密度で高配向された膨張黒鉛粒子の一部を除去すると同時に、その折り畳み層を起立状態に拡開させて両膨張黒鉛シート同士を接着剤無しでも強力に接合一体化することが可能となり、全体厚みの大きい成形体であっても、その厚み方向での密度差が非常に少ない製品を容易かつ安価に製造することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。
図1は本発明に係る膨張黒鉛製成形体の一例となる面状ヒーター用発熱体の外観斜視図、図2は図1のA-A線に沿った縦断面図であり、この面状ヒーター用発熱体1は、全体が矩形状で厚みが均一な図3に示すような膨張黒鉛シート2の表層部分2aのうちヒーター線(図示省略)をジグザグ状に挿嵌予定の部分にマイクロブラスト加工を施してその部分を除去することにより、全体の厚みTに対して10%以上の深さdを有するジグザグ状溝部3を形成した後、上記表層部分2a及びジグザグ状溝部3からなる凹凸部分に相当する凹凸形状を有する押し型4を用いて全体を均等に加圧して凹凸部分間の密度差が30%未満、好ましくは10%未満になるように所定の形態に成形してなるものである。
【0014】
上記構成の面状ヒーター用発熱体1においては、ジグザグ状溝部3内に挿嵌配置したニクロム線などのヒーター線に通電して該ヒーター線を加熱し赤熱化することにより、その熱を密度差の小さい膨張黒鉛シート2の熱伝導特性を利用して発熱体1の全域にほぼ均等に伝導し、該発熱体1の全体からの熱放射により均一な加熱性能を発揮させることが可能である。
【0015】
【実験例】
実施例1:
図3に示すような市販されている膨張黒鉛シート2(厚みT1=1.5mm、密度1.0g/cm3)を使用して、その片側表面に深さd1=0.5mm、幅w=5mmのジグザグ状の溝パターンPをマイクロブラスト加工にて除去して形成し、その後、上記溝パターンPに相当する凸部を有する押し型を使用して全体をプレス加圧することで、図1及び図2に示すように、全体の厚みT=1.13mmで、深さd=0.33mmのジグザグ状溝部3を有する面状ヒーター用発熱体1を成形した。この実施例1の面状ヒーター用発熱体1では、ジグザグ状溝部3とそれ以外の部分との密度差が±10%以内となり、また、正確なパターンのジグザグ状溝部3を形成することが可能で、全面に亘って均一な加熱性能を発揮させることができる。
【0016】
実施例2:
最終成形体において凸部となる部分の形状に打ち抜いた厚みt0.38mm、密度1.0g/cm3の膨張黒鉛シート2Aの3枚と、打ち抜き加工が施されてなく、上記膨張黒鉛シート2Aと同一厚み(t=0.38mm)、同一密度(1.0g/cm3)の膨張黒鉛シート2Bの1枚とを準備し、これら4枚の各シート2A,2Bの表裏両面をマイクロブラスト加工して3重量%を除去した後、各シート2A,2Bの中間部にそれぞれこれら膨張黒鉛シート2A,2Bの密度よりも低い密度(0.01g/cm3)の膨張黒鉛粒体を介在させた状態で4枚の膨張黒鉛シート2A,2Bを積層し、かつ、加圧成形して接着剤無しで互いに一体化することにより、図4に示すように、全体の厚みT=1.0mmで、深さd=0.75mmのジグザグ状溝部3を有し、密度1.5g/cm3の面状ヒーター用発熱体1を成形した。この実施例2の面状ヒーター用発熱体1では、ジグザグ状溝部3とそれ以外の部分との密度差が±8%以内となり、全面に亘って均一な加熱性能を発揮させることができるとともに、溝部3の角部表面に割れやフクレなどの異常や欠陥は全く観察されず、所定の寸法、形状の発熱体1を精度よく製造することが可能である。
【0017】
従来品1:
厚みt0.38mm、密度1.0g/cm3の膨張黒鉛シート2Aの4枚を接着剤7を使用して接着一体化して図5に示すような厚み1.52mmの膨張黒鉛シート2を作製し、この膨張黒鉛シート2を、最終成形体に必要な深さd=0.75mmのジグザグ状溝部のパターンに相当する凸部を有する押し型を使用して加圧成形して最終成形体である図6に示すような面状ヒーター用発熱体1を成形した。この従来品1の成形方法では、ジグザグ状溝部3として、0.5mm以上の深さに形成することが困難であるばかりでなく、深さが0.5mm未満であっても、ジグザグ状溝3の角部表面には割れやフクレ等の異常や欠陥xが多く発生するとともに、ジグザグ状溝部3とそれ以外の部分との密度差が30%を越えるものとなり、全面に亘っての発熱作用が不均一なものとなった。
【0018】
従来品2:
厚み0.38mm、密度1.0g/cm3、幅4mmの膨張黒鉛テープを渦巻き状に巻き重ねた後、端面に高さ0.7mmの凸部を有する押し型を使用して密度1.5g/cm3、内径r1が32mm、外径r2が48mm、高さhが2mmの図7に示すようなシール材としてのリング状成形体5を金型成形した。この従来品2の成形方法では、表面側に高さh1が1.0mmの凸部6の成形は可能であったが、凸部6とそれ以外の部分との密度差は40%以上となり、耐熱性、耐食性、機械的特性に大きなばらつきが生じて所定のシール性能が発揮されなかった。
【0019】
なお、上記実施例1及び実施例2は、共に成形体の形態がシート状のものである場合について説明したが、この他に厚さの大きい板状やブロック状形態の成形体に適用しても同様な効果を奏するものである。
【0020】
また、上記実施例2においては、膨張黒鉛シート2A,2Bの積層一体化を接着剤無しで行なっているが、フェノール系やエポキシ系等の接着剤を併用してもよいこともちろんである。
【0021】
【発明の効果】
以上のように、請求項1及び2に記載の発明によれば、厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差を30%未満としているので、密度差に起因する凹凸部分間での熱伝導特性、電気特性、機械的特性などのばらつきを非常に少なくすることが可能となり、複雑形状品や大形サイズ品、角形品のいずれであっても、その製品全体に亘って膨張黒鉛が本来有する諸特性を十分に発揮させることができるとともに、寸法精度の向上を図ることができる。特に、面状ヒーターや面状クーラー用発熱体として使用する時、その発熱体の全域に亘って優れた熱伝導特性を保持させ、発熱体の全域で均一な加熱、冷却性能を発揮させることができるという効果を奏する。
【0022】
また、請求項3〜5に記載の発明によれば、凹部の角部表面に割れやフクレなどの異常や欠陥を発生することなく、所定の寸法、形状の成形体を精度よく製造することができるとともに、凹凸部分間での密度差も非常に小さくして、密度差に起因する凹凸部分間での熱伝導特性、電気特性、機械的特性などのばらつきが小さく、膨張黒鉛の持つ諸特性を十分に活用できる成形体を容易に製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係る膨張黒鉛シート製成形体の一例で、実施例1の相当品である面状ヒーター用発熱体の外観斜視図である。
【図2】
図1のA-A線に沿った縦断面図である。
【図3】
図1,図2の発熱体の基材として用いられる膨張黒鉛シートの斜視図である。
【図4】
実施例2の相当品である面状ヒーター用発熱体の外観斜視図である。
【図5】
従来品1の相当品である面状ヒーター用発熱体の基材として用いられる膨張黒鉛シートの縦断面図である。
【図6】
図5の膨張黒鉛シート基材を用いて成形された従来品1の相当品である面状ヒーター用発熱体の外観斜視図である。
【図7】
従来品2の相当品であるシール材の外観斜視図である。
【符号の説明】
1 面状ヒーター用発熱体(膨張黒鉛製成形体の一例)
2,2A,2B 膨張黒鉛シート
2a 表層部(凸部分の例)
3 凹溝(凹部分の例)
4 押し型
 
訂正の要旨 (訂正の要旨)
(イ) 訂正事項a
本件特許の特許請求の範囲の請求項1を下記のとおり訂正する。
「厚みが10%以上異なる凹凸部分を有する膨張黒鉛シート製の成形体であって、厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満になるように成形されていることを特徴とする膨張黒鉛シート製成形体。」
(ロ) 訂正事項b
本件特許の特許請求の範囲の請求項2を下記のとおり訂正する。
「厚みが10%以上異なる凹凸部分を有する膨張黒鉛製成形体であって、成形体の形態が、シート状、板状もしくはブロック状のいずれかであり、厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満になるように成形されていることを特徴とする膨張黒鉛製成形体。」
(ハ) 訂正事項c
明細書第2頁第1行及び明細書第2頁第29行〜第3頁1行の「膨張黒鉛製成形体及びその製造方法」を「膨張黒鉛シート製成形体及び膨張黒鉛製成形体並びにその製造方法」と訂正する。
(ニ) 訂正事項d
明細書第3頁第4行、同第5行、同第9行及び同第8頁第18行の「膨張黒鉛製」を「膨張黒鉛シート製」と訂正する。
(ホ) 訂正事項e
明細書第3頁第18行〜第19行の「ここで、上記成形体の形態としては、請求項2に記載のように、シート状、板状もしくはブロック状のいずれであってもよい。」を下記のとおり訂正する。
「請求項2に記載の発明に係る膨張黒鉛製成形体は、厚みが10%以上異なる凹凸部分を有する膨張黒鉛製成形体であって、成形体の形態が、シート状、板状もしくはブロック状のいずれかであり、厚みの異なる凹凸部分間での膨張黒鉛の密度差が30%未満になるように成形されていることを特徴とするものである。」
異議決定日 2001-10-24 
出願番号 特願平9-53350
審決分類 P 1 652・ 113- YA (C01B)
P 1 652・ 121- YA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安齋 美佐子  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
登録日 2000-05-19 
登録番号 特許第3066576号(P3066576)
権利者 日本ピラー工業株式会社
発明の名称 膨張黒鉛製成形体及びその製造方法  
代理人 鈴江 正二  
代理人 鈴江 孝一  
代理人 鈴江 孝一  
代理人 野口 賢照  
代理人 鈴江 正二  
代理人 小川 信一  
代理人 斎下 和彦  

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