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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A47K
管理番号 1054946
異議申立番号 異議2000-74362  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-12-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-12-05 
確定日 2001-12-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3048413号「便座」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3048413号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許3048413号は、平成3年6月12日に特許出願され、平成12年3月24日にその特許権の設定の登録がなされ、その後、東陶機器株式会社より特許請求の範囲請求項1に係る発明の特許について特許異議の申立がなされ、平成13年5月29日付けで請求項1に係る発明の特許について取消理由通知がなされたところ、その指定期間内である平成13年8月8日に意見書とともに訂正請求書が提出されたものである。

第2 訂正の適否について

1.訂正の内容
上記訂正請求書によって、特許権者が求める訂正の内容は、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の減縮を目的として、明細書の特許請求の範囲の請求項1の「上記カバープレートを抗菌剤を混合した合成樹脂」を、「上記カバープレートを銀錯体からなる抗菌剤を混合した合成樹脂」に訂正する。
(2)訂正事項2
明りょうでない記載の釈明を目的として、段落番号【0005】第8行における「上記カバープレートを抗菌剤を混合した合成樹脂」を、「上記カバープレートを銀錯体からなる抗菌剤を混合した合成樹脂」に訂正する。
(3)訂正事項3
明りょうでない記載の釈明を目的として、段落番号【0006】第7行、第18行における「抗菌剤」を、「銀錯体からなる抗菌剤」に訂正する。
(4)訂正事項4
明りょうでない記載の釈明を目的として、訂正前の明細書の段落番号【0009】の「本実施例では抗菌剤として銀錯体を用いているが、抗菌剤としては有機系抗菌剤を用いても同様な効果を得ることができる。」の記載を削除する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否
(1)上記訂正事項1の特許請求の範囲の請求項1の訂正は、「抗菌剤」の構成を「銀錯体からなる抗菌剤」と限定するものであり、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
また、「銀錯体からなる抗菌剤」については、訂正前の特許明細書の段落番号0008において、「本実施例のカバープレート1aは、抗菌剤である銀錯体5を混合した合成樹脂4(例えばABS樹脂)で成形したものである」と記載されており、願書に添付した明細書に記載されている事項の範囲内の訂正である。
さらに、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)上記訂正事項2〜4の訂正は、特許請求の範囲の請求項1の訂正に伴って、それとの整合を図るために発明の詳細な説明を訂正したもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
3.むすび
以上のとおりであるから、平成13年8月8日付け訂正請求は、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び同条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議申立てについて

1.本件発明
上記「第2」に記載したように、平成13年8月8日付けの訂正が認められるから、訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、本件発明という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】保温用電熱線を内蔵した洋式便器の合成樹脂製便座において、ベースプレート上にカバープレートを取付けて上記便座を構成し、上記ベースプレートとカバープレートとの間の空間に上記保温用電熱線を配設し、上記カバープレートを銀錯体からなる抗菌剤を混合した合成樹脂によって成形した合成樹脂製便座」

2.取消理由通知の概要
平成13年5月29日付けの取消理由通知において引用した刊行物は次のものである。
刊行物1(特開昭62-87118号公報(異議申立人の提出した甲第4号証))
刊行物2(実願昭58-125357号(実開昭60-31900号)のマイクロフィルム(異議申立人の提出した甲第1号証))
刊行物3(実願昭52-145354号(実開昭54-70244号)のマイクロフィルム)
刊行物4(実願昭60-47375号(実開昭61-163592号)のマイクロフィルム(異議申立人の提出した甲第3号証))
そして、上記取消理由通知において、訂正前の請求項1に係る発明は、刊行物1〜4に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項に違反してなされたものであるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、取り消されるべきものである旨通知した。

3.刊行物に記載された発明
(1)上記取消理由通知において引用した前記刊行物1には、洋式便器用便座に関する発明が記載されており、
(ア)特許請求の範囲の1には、「便座表面における、少なくとも着座者の皮膚と接触しうる部位を、殺菌性を有する金属面で形成したことを特徴とする洋式便器用便座」と記載され、
(イ)明細書第2頁右上欄第5行〜第20行には、実施例1について第1図及び第2図に基づいて、「便器本体1は通常の合成樹脂製からなり、この便座本体1の上部表面に、薄い金属板2が被着された構造をなしている。・・・上記の金属板2は・・・著しい殺菌効果を併有していることが判明した。」と記載され、
(ウ)明細書第3頁右上欄第3行〜第7行には、実施例2について第3図を基に、「本実施例は、第3図に示したように、合成樹脂製の便座本体1が中空形状をなし、この便座本体1の上部表面に、実施例1と同様に金属板2を被着するとともに、前記便座本体1の内部に電気ヒータ3を備えた構造の便座である。」と記載され、
(エ)第3図には、便座の断面図が記載されており、それによれば便座本体1は、ベースプレートとカバープレートとが一体の中空状であって、中空状の上部内面には電気ヒータ3が設けられ、便座本体1の外側には図面上左側面から上面を経て右側の端部にわたって金属板2が被着されている。ここで、金属板2は殺菌性を有するものであることは明らかである。
そうすると、刊行物1の第3図には、保温用電熱線を内蔵した洋式便器の合成樹脂製便座において、便座を、ベースプレートとカバープレートとが一体の中空形状とし、中空とした空間に上記保温用電熱線を配設し、便座の上側の皮膚と接触する部分に抗菌性を有する金属板を被着した合成樹脂製便座が記載されているといえる。
(2)同じく前記刊行物2には、暖房便座に関する考案が記載されており、従来の技術に関する第2図について、明細書第2頁第18行〜第3頁第2行において、「便座本体1は合成樹脂製の上面板1aおよび下面板1bが接着剤で結合され、シェル構造をなす。6は上面板1aの下面に配設されたチュービングヒータで、バックシート7と共に接着剤で固定されている。」と記載されている。
(3)同じく前記刊行物3には、便座に関する考案が記載されており、その実施例を示す第3図に関し、明細書第3頁第1行〜第10行には、「表面板(1)及び裏面板(6)は通常合成樹脂で成型される。・・・ヒーター線(4)の配列は凹溝(2)内への嵌挿で容易におこなえる。・・・ヒーター線(4)は・・・表面板(1)と裏面板(6)の接合部より水が侵入しても防水性は良好である。」と記載されている。
(4)同じく前記刊行物4には、抗菌性便座に関する考案が記載されており、
(ア)実用新案登録請求の範囲には、「(1)抗菌性物質を坦持した坦体を樹脂と混合し形成して成る抗菌性便座。(後略)」と記載され、
(イ)明細書第4頁第3行〜第8行には、「抗菌性物質としては、・・・銀及び銅が好適であるが、・・・その他、亜鉛、ニッケル、コバルト等の金属をも用い得る。」と記載され、
(ウ)明細書第4頁第17行〜第20行には、樹脂として、ABS樹脂の他、各種の熱可塑性樹脂が例示されている。

4.対比・判断
(1)本件発明と刊行物1の特に第3図に記載されたものとを比較すると、刊行物1に記載されたものの便座は、ベースプレートとカバープレートとが一体で中空となっていることから、両者は、
「保温用電熱線を内蔵した洋式便器の合成樹脂製便座において、ベースプレートとカバープレートで上記便座を構成し、上記ベースプレートとカバープレートとの間の空間に上記保温用電熱線を配設した合成樹脂製便座」
という点で一致し、次の点で相違していると認められる。
相違点1:本件発明の合成樹脂製便座は、ベースプレート上にカバープレートを取り付けた便座であるのに対し、刊行物1に記載されたものの便座はベースプレートとカバープレートとが一体である点。
相違点2:本件発明は、カバープレートを銀錯体からなる抗菌剤を混合した合成樹脂によって成形したのに対し、刊行物1に記載されたもののカバープレートは抗菌性を有する金属板が被着されている点。
(2)そこで、上記相違点について、以下検討する。
(ア)相違点1について
保温用ヒーターを有する合成樹脂製の便座において、ベースプレート上にカバープレートを取り付けることは、刊行物2、3に記載されているように、本件特許出願前に周知の技術的事項にすぎず、この点に技術的意義があるとは考えられない。
(イ)相違点2について
刊行物1に記載された便座において、本件発明のカバープレートに相当する部分は、本体となる部分が合成樹脂製であり、該カバープレート上側の皮膚と接触する部分のみに抗菌性を有する金属板を被着したものであり、一方、刊行物4には、銀を含んだ抗菌剤を混合した合成樹脂によって成形した便座が記載されているから、両者がともに便座に関する技術分野に属することを考慮すると、刊行物1に記載された抗菌性を有する金属板が被着されたカバープレートに換えて、刊行物4に記載された技術的事項である抗菌剤を混合した合成樹脂を適用することは、当業者が容易に想到できた事項にすぎない。
ここで、刊行物4に記載されたものは、銀等の抗菌性物質を用いているものであるが、本件特許出願時において、銀とともに銀錯体が抗菌作用を有すること、及び、銀錯体を合成樹脂とともに用いて抗菌性を有する成型品とすることは、周知の技術的事項(もし、必要ならば、特開昭59-222405号公報、特開平1-283204号公報、特開平3-81369号公報を参照のこと)であったことから、本件発明の相違点2に係る構成のように、「カバープレートを銀錯体からなる抗菌剤を混合した合成樹脂によって成形」することは、当業者が容易に想到できたことにすぎない。
(ウ)特許権者は、平成13年8月8日付けの意見書において、本件発明は、ベースプレート上にカバープレートを取付け(接合ではない)て便座を構成したものあって、当該構成は刊行物2、3には記載されておらず、本件発明は、上記構成としたことによって、ベースプレートとカバープレートとの取付面の微少間隙から汚水が染み込んでも雑菌の繁殖を効果的に抑制できるという格別の作用効果を生じる旨主張するが、上記刊行物3に記載された便座は、「表面板(1)と裏面板(6)の接合部より水が侵入しても防水性は良好である。」(3頁8〜10行)と記載されており、表面板(1)と裏面板(6)との取付けは、その接合部より水が侵入することもある取付構造であって、その場合には、両者の取付面には汚水が染み込む微少間隙が存在すると考えられ、特許権者主張の「取付け」構成は刊行物3に記載されているといえる。
また特許権者主張の作用効果は、刊行物1〜4に記載されたもの及び本件特許出願時に周知の技術的事項から当業者が容易に予測できた作用効果にすぎない。
(3)したがって、本件発明は、刊行物1〜4に記載されたもの及び本件特許出願時に周知の技術的事項から当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項に該当する。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116条)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
便座
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】保温用電熱線を内蔵した洋式便器の合成樹脂製便座において、
ベースプレート上にカバープレートを取付けて上記便座を構成し、
上記ベースプレートとカバープレートとの間の空間に上記保温用電熱線を配設し、
上記カバープレートを銀錯体からなる抗菌剤を混合した合成樹脂によって成形した合成樹脂製便座。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、洋式便器の合成樹脂製の便座、殊に保温用電熱線を内蔵した便座に関するものであり、抗菌便座の耐久性の向上を図りつつ、その製造コストを可及的に抑制し、また便座表面の雑菌の繁殖を抑えるとともに、便座内部での雑菌の繁殖を抑えて異臭の発生を効果的に抑制することができるものである。
【0002】
【従来の技術】
便座は洋式便器の上面に配置されるものであり、便器内を流れる汚水やトイレ室内を清掃するための洗剤等が飛散して付着する恐れがある。例えば、汚水が便座に付着した場合は、便座に腰掛けた人の脚部や大腿部が汚水中に含まれる大腸菌、ブドウ球菌等の細菌に触れる可能性があるので衛生的でない。
【0003】
そこで、便座表面を清潔に保つための手段として、抗菌性便座シート10で便座をカバーすることが知られており(実開平2-13487号公報)、また、ABS(アクリルニトリルブタジエンスチレン)に抗菌剤を担持させた担持体(例えば、ゼオライト活性炭、シリカゲル等)を合成樹脂に混合させ、この合成樹脂で便座それ自体を成形して、便座に抗菌性を付与したものも知られている(実開昭61-163592号公報)。抗菌性便座シート10で便座をカバーするものは、図4に示すように便座11に筒状抗菌性便座シート10を通したものであり、この便座シート10は、抗菌層の両側に抗菌剤入りの樹脂をエクストルージヨンコートし、抗菌性フイルムを積層させる等して構成したものであり、これによって人体が触れる部分である便座11の上面を抗菌作用により清潔に保つものである。このものは、便座表面の雑菌の繁殖を抑制するという点では効果的であるが、便座シートを便座に装着するのに手間がかかり、貼り替え時のメンテナンスが必要となる。また、抗菌性便座シート10に亀裂、損傷を生じて、ここから汚水が入り込むと、これが蒸発し難いためにいつまでも汚水が残存することになり、清掃してこれを除去することはほとんどできないためにかえって不潔になりかねない。殊に保温便座においては、便座表面の温度が雑菌の繁殖に適した温度であるために表面での雑菌の繁殖が促進されるので、この傾向が一層著しい。
また、抗菌剤の担持体を合成樹脂に混合させてこの樹脂で便座自体を成形する後者のものにおいては、前者についての上記のような問題はないが、抗菌剤の使用量が極めて多く、その製造コストがかさむため実用性に乏しい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、抗菌剤の担持体を混合した樹脂で便座全体を成形するとコスト高になるのであるから、便座を積層構造にして、その表面層を抗菌剤の担持体を混合した樹脂で成形すればコストが低減され、それだけ実用性が高くなることは容易に推測されることである(しかし、このようにすることは公知ではない)。ところが、単純に積層構造にすると、積層面に汚水が染み込むことが避けられず、この積層面が雑菌の繁殖場となる。その結果、この積層面の汚染は通常の掃除では清掃されないので、使用期間の経過につれて徐々に異臭を放つようになる。この傾向は保温便座において一層顕著になる。
そこで、本発明は抗菌剤の使用量を節減してそのコストを低減するために便座を積層構造の便座(以下これを「複合便座」という)にするについて、積層面への汚水の侵入による異臭の発生を確実に防止できるように、複合便座の構造を工夫することをその課題とするものである。
【0005】
【課題を解決するために講じた手段】
上記課題を解決するために講じた手段は、保温用電熱線を内蔵した洋式便器の合成樹脂製便座を前提として、次の要素(イ)(ロ)及び(ハ)によって構成されるものである。
(イ)ベースプレート上にカバープレートを取付けて上記便座を構成したこと、
(ロ)上記ベースプレートとカバープレートとの間の空間に保温用電熱線を配設したこと、
(ハ)上記カバープレートを銀錯体からなる抗菌剤を混合した合成樹脂によって成形したこと。
【0006】
【作用】
ベースプレートとカバープレートとを別体で成形して、ベースプレート上にカバープレートを取付けて便座を構成する構造を採用したことによって、両プレートの間の空間に保温用電熱線を簡単、容易に組み込んで配設することができる。
また、ベースプレートとカバープレートとの合わせ面(積層面)に汚水が染み込み、これが繰り返され、合わせ面に汚水に含まれている有機物が徐々に蓄積しても、カバープレート側の合わせ面には銀錯体からなる抗菌剤が介在するので雑菌の繁殖を抑制できるとともに、両プレートの合わせ面の微小間隙及び両プレートの間空間の内面は、上記空間に配置した電熱線によって加熱されて比較的高温に保たれ、かつ乾燥状態に保たれるから、上記合わせ面及び上記空間内面での雑菌の繁殖が抑制される。また、カバープレートの合わせ面が乾燥状態に維持されることによって、当該面の抗菌作用の活性が維持される。
それゆえ、上記電熱線による合わせ面及び両プレート間空間の内面の加熱、乾燥と、カバープレートの合わせ面の抗菌作用の活性維持とによって、ベースプレートとカバープレートとの合わせ面及び両プレート間空間の内面における雑菌の繁殖が長期間にわたって極めて効果的に抑制される。
以上のとおり、ベースプレートとカバープレートとを組み合わせた複合便座とし、銀錯体からなる抗菌剤を混合した合成樹脂によって成形する部分をカバープレートのみとすることと、ベースプレートとカバープレートとの間の空間に保温用電熱線を配設したこととの組み合わせで、ベースプレートとカバープレートとの合わせ面及び両プレート間空間の内面における雑菌の繁殖を長期間にわたって極めて効果的に抑制することができ、したがって、本発明の課題、すなわち、「抗菌便座の抗菌剤の使用量を節減するために便座を複層構造の便座とするについて、積層面への汚水の侵入による異臭の発生を確実に防止する」という課題を十分解決でき、〔発明の効果〕の項に記載したとおりの本発明特有の格別顕著な効果を生じることができる。
【0007】
【実施例】
本発明の実施例を図1乃至図3を参照しつつ説明する。
便座1の全体構造は従来のものと特に違いはなく、その上面に枢支部3,3があって、この枢支部3,3に便蓋2が回動可能に枢支されている。
便座1は便器の上面に当接する合成樹脂製のベースプレート1bとカバープレート1aとによって構成されたものであり、ベースプレート1bの上にカバープレート1aが取付けられている。この取付手段はプラスチックプレートを互いに固着するための極一般的な手段でよく、特別な取付手段である必要はない。
ベースプレートにカバープレートを取付ける際に、その間の空間に保温用に電熱線が簡単容易に組み込まれる。カバープレート1aの外表面は人体が直接触れるところであり、特に清潔さが要求される部分である。
【0008】
本実施例のカバープレート1aは、抗菌剤である銀錯体5を混合した合成樹脂樹脂4(例えばABS樹脂)で成形したものである(図3参照)。このように成形したカバープレート1aは、その全表面に抗菌剤である銀錯体5が露出しているので、外表面、内表面を問わず、その全表面が抗菌性を持つことになる。すなわち、カバープレート1aの上面に汚水等が付着しても、銀錯体5により発生した活性化酸素が大腸菌、ブドウ球菌等の細菌を死滅させるため、カバープレート1aの外側表面は清潔に保たれる。また、カバープレート1aの内側表面、すなわちベースプレート1bとの合わせ面及び両プレート間の空間に面した内面についても同様に滅菌作用を奏する。
また、カバープレート1aとベースプレート1b間の空間に保温用の電熱線を配設したことによって、上記合わせ面及び上記空間が当該電熱線によって比較的高温に加熱され、かつ乾燥状態に保持される。したがって、この合わせ面あるいは上記空間内に汚水が染み込んでも、そこで雑菌が繁殖して異臭を発することはない。
【0009】
【発明の効果】
以上のとおり、合成樹脂製の便座をベースプレートにカバープレートを取付けた複合構造にし、カバープレートを抗菌剤を混合させた合成樹脂で成形したことにより、外側表面を抗菌面とした便座を低コストで製作することができる。
また、便座をベースプレートにカバープレートを取付けた複合構造にすることにより、ベースプレートとカバープレートの間の空間に保温用の電熱線を簡単容易に組み込むことができ、上記空間に電熱線を組み込んだことによって、上記合わせ面及び上記空間内面が比較的高温に加熱されて乾燥状態に維持されるので、この合わせ面間あるいは上記空間に汚水が染み込んでも、当該合わせ面及び上記空間内面での雑菌の繁殖が抑制され、さらに、カバープレートの内面が乾燥されて湿潤することがないのでカバープレートの内面の抗菌作用の活性が長期間維持され、上記合わせ面及び上記空間内面での雑菌の繁殖が効果的に抑制される。したがって、両プレートの合わせ面、あるいは上記空間に染み込んだ汚水による異臭の発生を長期間にわたって確実に防止することができる。
また、本願に対する先願の明細書に、抗菌剤を含有するプラスチックシート、あるいは合成樹脂製の一体成形品でプラスチック製の便座の外側表面を被覆して、当該外側表面、すなわち人が触れる表面での雑菌の繁殖を抑制して不衛生になることを防止する発明が記載されており(実開平4-81600号マイクロフィルム)、他の先願の明細書に、抗菌剤を含有するホスファゼン系硬化性樹脂で合成樹脂製便座の外側表面をコーティングして外側表面に抗菌被膜を形成することにより便座の外側表面が不衛生になり、また外側表面に付着した汚水が分解されて異臭を発することを防止する発明が記載されている(特開平4-352922号公報)。これらは、合成樹脂性便座の外側表面を抗菌性被膜で被覆するものであるから、便座の抗菌処置のためにコストを低減できるが、コーティング層の耐久性、抗菌作用の長期保全性において劣ることは否めない(抗菌被膜のクラックの発生、損傷が避けられないため)。これに対して、本発明は、便座をベースプレートとカバープレートとからなる複合構造にしたことによって、コストを可及的に抑制しつつその抗菌層の耐久性を恒久的なものとし、また、保温用の電熱線の発熱を、複合便座におけるベースプレートとカバープレートとの合わせ面あるいは両プレート間空間の内面からの異臭抑制に活用してこれを効果的に抑制することができるものである。これらの点が、本発明の上記先願の明細書に記載された発明に対する大きな利点である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の便座の斜視図である。
【図2】図1のA-A断面図である。
【図3】抗菌剤が混合された樹脂の拡大断面である。
【図4】従未の抗菌性便座シートが配設された便座の斜視図である。
【符号の説明】
1:便座
1a:カバープレート
1b:ベースプレート
4:樹脂
5:銀錯体(抗菌剤)
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の減縮を目的として、明細書の特許請求の範囲の請求項1の「上記カバープレートを抗菌剤を混合した合成樹脂」を、「上記カバープレートを銀錯体からなる抗菌剤を混合した合成樹脂」に訂正する。
(2)訂正事項2
明りょうでない記載の釈明を目的として、段落番号【0005】第8行における「上記カバープレートを抗菌剤を混合した合成樹脂」を、「上記カバープレートを銀錯体からなる抗菌剤を混合した合成樹脂」に訂正する。
(3)訂正事項3
明りょうでない記載の釈明を目的として、段落番号【0006】第7行、第18行における「抗菌剤」を、「銀錯体からなる抗菌剤」に訂正する。
(4)訂正事項4
明りょうでない記載の釈明を目的として、訂正前の明細書の段落番号【0009】の「本実施例では抗菌剤として銀錯体を用いているが、抗菌剤としては有機系抗菌剤を用いても同様な効果を得ることができる。」の記載を削除する。
異議決定日 2001-10-23 
出願番号 特願平3-140430
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (A47K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 三輪 学  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 鈴木 公子
藤枝 洋
登録日 2000-03-24 
登録番号 特許第3048413号(P3048413)
権利者 アイシン精機株式会社
発明の名称 便座  
代理人 園田 敏雄  
代理人 園田 敏雄  
代理人 松尾 憲一郎  

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