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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G01N 審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 G01N 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 G01N |
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管理番号 | 1055083 |
異議申立番号 | 異議2001-73240 |
総通号数 | 28 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-01-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-12-04 |
確定日 | 2002-03-11 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3171731号「香りの嗜好度の測定法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3171731号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
I. 手続の経緯 特許第3171731号の請求項1ないし3に係る発明についての出願は、特許法第30条(新規性喪失の例外)第1項の規定の適用を申請して、平成5年(1993年)6月30日に出願された。この新規性喪失の例外の規定の適用申請の証明書には、下記の刊行物が添付されている。 (A) フレグランスジャーナル 第21巻第5号(1993年5月)通巻146号 (B) 静岡新聞 平成5年4月27日付 (C) 日経産業新聞 平成5年4月14日付 (D) ホームセールス 平成5年4月21日付 (E) 香料産業新聞 平成5年5月15日付 そして、平成13年3月23日にその発明について、設定登録され、その後、申立人押谷泰紀より特許異議の申立てがなされたものである。 II. 特許異議申立について 1. 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、「本件特許発明3」という。)。 「【請求項1】 試料の匂いを嗅いだ測定者から唾液を採取し、その唾液中の免疫グロブリンの濃度を測定することにより、香りの嗜好度を測定する方法。 【請求項2】 前記免疫グロブリンが免疫グロブリンAである、請求項1記載の香りの嗜好度を測定する方法。 【請求項3】 前記免疫グロブリンAが分泌型免疫グロブリンAである、請求項2記載の香りの嗜好度を測定する方法。」 2.申立ての理由の概要 特許異議申立人は、申立理由として下記の理由を挙げている。 2-1. 理由1 <引用刊行物> 甲第1号証:日経産業新聞 平成5年4月14日発行 甲第2号証:フレグランスジャーナル1989-9、20〜27頁(1989年発行) 甲第3号証:INT’L.J.PSYCHIATRY IN MEDICINE,Vol.15(1),1985-86、13〜18頁( 1985年発行) 甲第4号証:Biofeedback and Self‐Regulation,Vol.15,NO.4,1990、317 〜331 頁( 1990年発行) 甲第5号証:香料No.168、平成2年(1990年)12月、43〜62頁( 1990年発行) 甲第6号証:ホームセールス 平成5年4月21日発行No.652、3頁7行〜9行 本件出願の新規性喪失の例外の規定の適用申請の証明書に添付された刊行物(C)(甲第1号証)に記載された発明は、本件特許発明1と同一のものでないから、この刊行物(C)(甲第1号証)に記載された発明について、本件特許発明1は、この適用を受けることができない。 上記甲第6号証は、新規性喪失の例外の規定の適用申請の刊行物(D)の一部であるが、その3頁7行〜9行の部分は、本件特許発明1と異なる発明が記載されている部分であり、したがって、上記甲第6号証は、公知文献である。 本件特許発明1〜3は、甲第1号証〜甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 2-2.理由2 本件特許の出願は、下記の点で特許法36条4項又は5項に規定する要件を備えていない。 (イ)本件明細書の発明の詳細な説明の項には、香りを表現する単位について何ら説明がない。「香りの嗜好度を測定」することについて、どのように操作を行うのか、あるいはどのような指標の下に作業や計算等を行うのか、説明されてない。 (ロ)「免疫グロブリンの濃度」と「香りの嗜好度」との間に定量的関係があるとする根拠が発明の詳細な説明に記載されていない。 本件明細書の段落【0018】には「香りの嗜好度と免疫グロブリン濃度とは定量的な関係があることも明らかである。」と記述されているが、その関係を示す根拠が十分に立証されていない。 段落【0019】〜【0020】の試験例2では、被験者10名にラバンジンの匂いについて、その嗜好度を5段階評価したことについて記載されているが、具体的な生データの開示がなく、また僅か一回の試験結果をもって、香りの嗜好度と免疫グロブリン濃度とに定量的関係があると断ずるのは、いかにも拙速であると言わざるを得ない。被験者の選定や香りの種類の選定等を、統計学的に適正に行うと共に、数多くの試験を繰り返し行うことが、客観性のある信頼性の高い結論を得る上で不可欠である。特に、香りの嗜好度という、極め.て主観的で、その実体の不明確な対象を、僅か一回の試験で免疫グロブリンAの濃度と定量的関係があるとすることは、いかにも合理性,客観性に欠けるものであって、到底容認することはできない。 さらに実施例1,2を見ても、香りの嗜好度と免疫グロブリン濃度とに定量的関係があるか否かは、依然不明である。 (ハ)本件発明請求項1〜3の発明は、「香りの嗜好度を測定」する工程については、具体的操作などの実体がないため、外延が不明である。 この工程は、「唾液中の免疫グロブリンの濃度を測定」した工程の後の工程であるが、「香りの嗜好度を測定」する工程として、いかなる操作あるいは作業をしたときに、本件発明を実施したことになるのか不明である。 3.甲号証刊行物の記載事項 (1) 甲第1号証 甲第1号証の記事は、「ラベンダーは健康のもと?」という標題の新聞記事であり、次の事項が記載されている。 (1a) 花の香り、免疫力 「ポーラ化粧品本舗はラベンダーなどある種の花の香りに、体内の免疫抗体濃度を高める作用があることを発見した。人間がラベンダーの香りを吸い込むと、微生物やウィルスが体に侵入してくるのを防ぐ体内の免疫抗体、分泌型イムノグロブリンAが増加、免疫力が高まるという。今後香りの効用について研究を進め、香水の商品化に生かしていく。」 (1b) 実験 「実験は10人に花の香りを15分間かがせ、その前後に唾液に含まれるイムノグロブリンAの濃度を測定、比較した。その結果ラベンダーでは濃度が平均29.5%高まり、ポーラがラベンダーに改良を加えた、セビリアンブルーと呼ぶ花では同34.9%高くなったという。」 (1c) 笑い、 免疫力 「テレビの娯楽番組や寄席の演芸を見て笑うと、イムノグロブリンAが増加することはすでに実証されている。香りについては種類によって鎮静、または覚せい効果があることは分かっているが、免疫力と相関関係があるという説は初めて。」 (2) 甲第2号証 「香料が脳機能に与える影響」と題する論文である甲第2号証には、「香料がヒトに快、不快をはじめとする種々の感情や情緒的反応を引き起こすことはよく知られており、最近ではストレスを緩和する手法としてアロマテラピーが導入され、ある程度の評価を得ることができるようになっている。」と、その冒頭部分に記載されている(20頁左欄)。 (3) 甲第3号証 また、「前向きの感動状態及び免疫系の強化」と題する論文である刊行物3には、「唾液の免疫グロブリンA(IgA)濃度は、被験者がユーモア性ビデオテープを見た後は有意的に増加したが、教訓的ビデオテープを見た後は有意的変化は無かった。対処技としてのユーモアの感知的使用を評価する調査表の評点は、初期IgA濃度と肯定的関係にあったが、被験者がユーモア性ビデオテープを見た後のIgA濃度変化とは反対の関係にあった。この事は上限効果を暗示するものである。免疫系の強化は、個人の前向きの感動状態と治療との相関関係の事例的主張を関係づける因子であろう。」と、記載されている(13頁のABSTRACT)。 (4) 甲第4号証 「分泌性IgAに及ぼす免疫系イメージの影響」と題する論文である甲第4号証の317頁には、「本研究は、生理学的指向の精神的イメージが免疫機能に及ぼす影響の調査である。通常の医学的経験を有する学生を無作為に選んで3グループに分割した。グループ1の被験者は唾液の免疫グロブリンAの生産に関する短期教育的訓練に参加し、イメージの強化用に計画された特別構成の背景同調音楽を伴うイメージ教育のテープの17分傾聴の前後に、唾液の免疫グロブリンA、皮膚温度及び気分状況特性(POMS)に関する試験を受けた。グループ2の被験者(疑似対照)は,同一音楽に傾聴したが、免疫系に関する公式の訓練を受けなかった。グループ3の被験者(対照)は17分間の無処理の前後に、試験を受けた。処理グループは、6週間一日置きに家庭においてそのテープに傾聴した。全グループは3週間後と6週間後に再試験を受けた。分泌性IgAの分析は、標準放射免疫拡散法を用いて行った。・・・3件の全試行について試験前と試験後の間に、有意の総合的増加( p<0.05)が見られた。3件の全試行についてグループ1,2(処理グループ)共、グループ3(対照)よりも有意的に多くのIgA増加を生じた。試行2と3に関してはグループ1(イメージ)はグループ2(音楽)よりも有意的に多量の抗体を生産した。被験者により記録された3週間、6週間後の総合的症候は、3症候(急速鼓動、呼吸困難及び顎硬直)共、両処理グループは、対照グループよりも有意的に少なかった。」と、記載されている。 (5) 甲第5号証 「見直されつつあるにおいの機能-においの心理、生理学的効果、アロマコロジィ-」と題する論文である甲第5号証には、におい刺激がストレスによる免疫機能の低下を修復させる効果のあることが記載されている(61頁左欄図29の下2行〜4行)。 (6) 甲第6号証 甲第6号証にも、「最近、s‐IgA(分泌型イムノグロブリンA)が抗原による刺激を受けない場合でも、精神や心理的な情動変化(例:テレビや寄席での大笑いなど)によって増加し、免疫力の向上に何らかの関係があることが明らかになってきている」ことが記載されている(第5頁)。 4. 本件明細書の記載事項の概要 一方、本件明細書には、下記の事項が記載されている。 (1) 香りを表現する因子と香りの嗜好度(【0002】〜【0003】) 「【0002】香りを表現する因子は多数あり、香りの嗜好度はそれらと複雑に絡み合っている。例えば、被験者が「この香りは薔薇を思わせる強い香りである。」といった場合、この被験者はこの香りを好んでいるのか、好んでいないのかは知ることが出来ない。 【0003】また、香りの鎮静効果や覚醒効果は脳波を指標にして測定し得ることは知られているが、脳波と嗜好度には定性的な因果関係は知られているものの、定量的な因果関係は見いだされておらず、従って、嗜好度を客観的に、且つ、定量的に測定する手段が無いため、例えば、「甘い」、「花のような」、「グリーン調の」、「強い」、「弱い」、「ムスク調の」、「華やかな」、「シトラスの」、「オリエンタル調の」といった、香りを表現する因子と香りの嗜好度の因果関係を解き明かすことは、大変困難であった。」 (2) 課題を解決するための手段(【0005】) 「本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、香りに対する嗜好度が高ければ高いほど、唾液中の免疫グロブリン(主として分泌型免疫グロブリンA)の濃度が高まるのを見いだして、発明を完成させた。即ち、本発明は、試料の匂いを嗅いだ測定者から唾液を採取し、その唾液中の免疫グロブリンの濃度を測定することにより、香りの嗜好度を測定する方法である。」 (3) 用語(【0006】) 「尚、本明細書において、「香り」とは好ましく感ずる匂いをいい、「香りの嗜好度」とは、香りを好ましいと感ずる度合いをいう。また、香りの嗜好に対する定性を「香りの嗜好性」ということがある。」 (4) 香りと生体免疫系との関わり(【0006】〜【0007】) 「古来、植物の香りと人間の健康との関わりは、アロマテラピーや森林浴に代表されるように、極めて密接なものであった。・・・香りと生体免疫系との関わりについて研究を重ねた。 【0007】その結果、多くの人々が好む花の香りを嗅ぐことにより、唾液中に於ける免疫グロブリン、特に分泌型免疫グロブリンAの濃度が増すことを見いだした。更に検討を重ねた結果、スカトールのような、誰もが好ましく感じない匂いを嗅いでも、免疫グロブリンAの唾液中の濃度は増加しないことを見いだし、香りの嗜好度と唾液中の免疫グロブリンAの濃度との間に相関関係があることを見いだし、今まで定量的、且つ、客観的な測定法のなかった、香りの嗜好度の測定への応用を考えた。」 (5) 免疫グロブリンを定量する方法(【0008】) 「本発明において、免疫グロブリンを定量する方法は特に制限がなく、従来免疫グロブリンの測定に用いられている方法が適用できる。」 (6) 香りの嗜好度の判定(【0010】) 「本発明においては、測定者が測定試料の匂いを嗅ぐ前後に唾液を採取し、免疫グロブリン、特に分泌型免疫グロブリンAを定量し、試料の匂いを嗅いだ後にこれらの唾液中の濃度が増加していれば、香りの嗜好度が高いと判定でき、増加量の大小によって嗜好度の高低が測定できる。また、この嗜好度測定法は、複数の測定者によって測定されても、再現性があり、確実な結果が得られる点で好ましい。」 (7) <試験例1>(【0011】、【0017】〜【0018】) 「唾液中の分泌型免疫グロブリンAの濃度に香りが及ぼす影響 10名の被験者を用いて、ラベンダー、ラベンダーとスパイクラベンダーとの掛け合わせによる改良種、スカトール、純水の匂いを嗅ぐ前と嗅いだ後で、唾液を採取し、唾液中の分泌型免疫グロブリンAの濃度の変化を測定した。」 「【0017】標準溶液と試験液の比より唾液中の分泌型免疫グロブリンAの濃度を定量した。試料の匂いを嗅いだ後の分泌型免疫グロブリンAの濃度を、試料の匂いを嗅ぐ前の濃度に対する百分率として、10人についての平均値を表1に示す。」 (8) 表1と相関関係(【0018】) 「【表1】 (表の枠線省略) 試料 唾液中の分泌型免疫グロブリンAの増加率 ラベンダー 29.5% ラベンダー改良種 34.9% スカトール 0.4% 純水 0.0% この結果から、多くの人が好ましい香りを発すると感ずるラベンダーやラベンダー改良種では、分泌型免疫グロブリンAの濃度が増加し、好ましくない匂いを発するスカトールでは、分泌型免疫グロブリンAの濃度は増加せず、唾液中の分泌型免疫グロブリンAの分泌と香りの嗜好度とは、定性的な相関関係があることがわかる。さらに、ラベンダーよりも香りの強いラベンダー改良種では、免疫グロブリン濃度の増加率が高いことから、香りの嗜好度と免疫グロブリン濃度とは定量的な関係があることも明らかである。」 (9) <試験例2>(【0019】) 「香りの嗜好度と分泌型免疫グロブリンAの関係について 試験例1より、香りの嗜好性と分泌型免疫グロブリンAの濃度との相関関係があることが判ったので、その相関性について検討した。 被験者10名にラベンダーの公知の自然交雑種であるラバンジンの匂いを嗅がせ、その前後に於ける唾液中の分泌型免疫グロブリンAの濃度を測定し、香りを嗅ぐことによる分泌型免疫グロブリンの濃度の変化率を求めた。また同時に、この香りに対する嗜好度を、非常に好き(5点)、やや好き(4点)、どちらでもない(3点)、やや嫌い(2点)、嫌い(1点)の5段階で評価してもらった。評点と唾液中の分泌型免疫グロブリンAの濃度の変化率について回帰分析したところ、相関係数0.934で直線回帰した。」 (10) 【実施例1】(【0022】) 「27才の女性にラベンダーの香りを嗅がせ、その前後の唾液中の分泌型免疫グロブリンAの濃度の変化量を求めたところ112%の増加を見た。この人に匂いの好みを聞いたところ、この香りを大変気に入っているという答であった。香りの嗜好度と分泌型免疫グロブリンAの濃度の増加量には因果関係が明らかに認められた。」 (11) 【実施例2】(【0023】) 「37才女性にラバンジンの匂いを嗅がせ、その前後に唾液中の分泌型免疫グロブリンAの濃度を測定し、変化量を求めたところ、4.9%の減少であった。この人の、この匂いに対する好みを聞いたところ、嫌いとのことであった。この結果と、実施例1及び前記試験例の結果から、香りの嗜好性と分泌型免疫グロブリンAの分泌とは因果関係があることが明らかである。」 (12) 発明の効果(【0024】) 「本発明によれば、客観的かつ定量的に香りの嗜好度を測定することができる。」 5. 本件申立理由1について (1)本件特許発明1について 本件特許発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証には、花の香りを嗅いだ測定者から唾液を採取し、その唾液中の免疫グロブリンの濃度を測定することが記載され、花の香りにより免疫力を強化する方法が記載され、また花の香りと唾液中の免疫グロブリンの濃度との間に相関関係があることが記載されているということができるが、その免疫グロブリンの濃度測定結果から「香りの嗜好度を測定する」ことは記載されていないし、香りの嗜好度と唾液中の免疫グロブリンの濃度との間に相関関係にあることを示唆する記載はない。 そうすると、申立人の主張するように、本件特許発明1が、甲第1号証に発表することにより、特許法29条1項各号の一つに該当するに至ったものということはできない。 しかしながら、本件特許発明1は、香りに対する嗜好度が高ければ高いほど、唾液中の免疫グロブリン(主として分泌型免疫グロブリンA)の濃度が高まるという関係があるのを見いだしたことにより、完成された発明である(前記4.(2)参照)。 そして、甲第2号証〜甲第6号証にも、香りやユーモアと免疫力の向上との関係についての記載はあっても、唾液中の免疫グロブリンの濃度測定結果から「香りの嗜好度を測定する」ことについては、何ら記載されておらず、甲第1号証にもこのような関係を示唆する記載もない以上、本件特許発明1は、甲第1号証〜甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。 (2) 本件特許発明2,3について 請求項2〜請求項3は、請求項1をさらに限定するものである。 そうすると、本件特許発明2,3は、本件特許発明1と同様に、甲第1号証〜甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。 6. 本件申立の理由2について 本件申立の理由2について、以下検討する。 (1) 「香りの嗜好度を測定」することについて 本件特許発明における「香りの嗜好度」とは、香りを好ましいと感ずる度合いをいうものであり(前記4.(3)参照)、「香り」が感覚的要素である以上、「香り」そのものを「表現する単位」について説明がないことが、香りの嗜好度を測定する方法についての本件特許明細書において、明細書の記載に不備があるということはならない。また、香りに対する嗜好度を、非常に好き(5点)、やや好き(4点)、どちらでもない(3点)、やや嫌い(2点)、嫌い(1点)の5段階で評価可能であることも、本件明細書に記載されており(4.(9)参照)、「香りの嗜好度」とは、香りを好ましいと感ずる度合いをいうものであるから、そのような段階的評価により「好ましいと感ずる度合い」は評価、測定されている。 また、本件明細書には、「香りの嗜好度を測定」することについて、測定試料の匂いを嗅ぐ前後に唾液を採取し、免疫グロブリンを定量し、試料の匂いを嗅いだ後にこれらの唾液中の濃度が増加していれば、香りの嗜好度が高いと判定でき、増加量の大小によって嗜好度の高低が測定できる、ということが記載されている(前記4.(6)参照)。 (2) 定量的関係にあることの根拠について 「免疫グロブリンの濃度」と「香りの嗜好度」との間に定量的関係があることは、表1を根拠にして説明されている(前記4.(8)参照)。さらに、試験例2の結果において、相関係数0.934で直線回帰したということで、この定量的関係にあることが裏打ちされているということができる(前記4.(9)参照)。 確かに、試験例2の結果の記載は、具体的なデータが示されていない点で、実験結果報告としてはもの足らないものであるが、実施例1〜実施例2に準じて、当業者が本件発明を実施することが可能であり(前記4.(10)〜(11)参照)、このデータの欠如により、本件特許発明を実施しようとする際に格別の支障が生じるということもできない。 (3) 「香りの嗜好度を測定」について 本件発明において、「香りの嗜好度」は、唾液中の免疫グロブリンの濃度を測定した結果、その濃度増加量により判定できるものであって(前記4.(4)、(6)参照)、「唾液中の免疫グロブリンの濃度を測定」した工程の後に、さらに別個の「香りの嗜好度を測定」する工程を要するものではない。 異議申立人の主張は、本件発明が、「唾液中の免疫グロブリンの濃度を測定」した工程の後に「香りの嗜好度を測定」する工程があるという誤解に基づく主張であり、妥当でない。 (4) 検討結果 以上検討したところによれば、本件特許の出願は、平成6年法改正前の特許法第36条第4項又は第5項に規定する要件を備えていない、ということはできない。 III. むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すことができない。 また、他に請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-02-20 |
出願番号 | 特願平5-186725 |
審決分類 |
P
1
651・
532-
Y
(G01N)
P 1 651・ 531- Y (G01N) P 1 651・ 121- Y (G01N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 加々美 一恵 |
特許庁審判長 |
後藤 千恵子 |
特許庁審判官 |
渡部 利行 植野 浩志 |
登録日 | 2001-03-23 |
登録番号 | 特許第3171731号(P3171731) |
権利者 | ポーラ化成工業株式会社 |
発明の名称 | 香りの嗜好度の測定法 |
代理人 | 遠山 勉 |
代理人 | 川口 嘉之 |
代理人 | 松倉 秀実 |