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審決分類 審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12N
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C12N
管理番号 1056619
異議申立番号 異議2000-72150  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-03-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-05-22 
確定日 2002-01-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2980888号「肝実質細胞増殖因子をコードする遺伝子」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2980888号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第2980888号の請求項1及び2に係る発明は、平成1年8月11日に出願した特願平1-209449号の一部を新たな特許出願とした特願平8-71911号の一部をさらに新たな特許出願として出願され、平成11年9月17日にその特許権の設定登録がなされ、その後、武山真理により特許異議の申立てがなされ、取消理由の通知がされ、その指定期間内である平成13年3月13日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
a.請求項1を削除し、「【請求項2】請求項1記載のアミノ酸配列で表されるシグナル配列を含む肝実質細胞増殖因子において、32番目のグルタミンから728番目のセリンまでの配列で表されることを特徴とするシグナル配列を含まない肝実質細胞増殖因子をコードする遺伝子。」とあるのを、
「【請求項1】下記のアミノ酸配列:(アミノ酸配列は略)で表されるシグナル配列を含む肝実質細胞増殖因子において、32番目のグルタミンから728番目のセリンまでの配列で表されることを特徴とするシグナル配列を含まない肝実質細胞増殖因子をコードする遺伝子。」に訂正する。
b.請求項3を削除し、「【請求項4】請求項3に記載の塩基配列のうち94番目のシトシンから2187番目のグアニンまでの配列で表される請求項1に記載の遺伝子。」とあるのを、
「【請求項2】下記の塩基配列(塩基配列は略)のうち94番目のシトシンから2187番目のグアニンまでの配列で表される請求項1に記載の遺伝子。」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、請求項1を削除し、それに伴い請求項1を引用していた記載に代えて、具体的なアミノ酸配列を記載したものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。また、上記訂正事項bは、請求項3を削除し、それに伴い請求項3を引用していた記載に代えて、具体的な塩基配列を記載したものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、訂正後の請求項1は訂正前の請求項2と同一の内容であり、訂正後の請求項2は訂正前の請求項4と同一の内容であり、また、上記訂正事項a及びbについては、願書に添付した明細書の段落【0007】に「・・細胞から分泌される場合にはシグナル配列が切断され、30番目のグルタミン酸残基(Glu)または32番目のグルタミン残基(Gln)以後のアミノ酸配列を有するhHGFが産生される。」と記載されているから、この訂正は願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについて
(1)本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりの次のものである。
「【請求項1】下記のアミノ酸配列:(アミノ酸配列は略)で表されるシグナル配列を含む肝実質細胞増殖因子において、32番目のグルタミンから728番目のセリンまでの配列で表されることを特徴とするシグナル配列を含まない肝実質細胞増殖因子をコードする遺伝子。
【請求項2】下記の塩基配列(塩基配列は略)のうち94番目のシトシンから2187番目のグアニンまでの配列で表される請求項1に記載の遺伝子。」
(2)異議申立ての理由の概要
異議申立人 武山真理は、a.本件特許の明細書及び特許請求の範囲の記載には不備があり、特許法第36条第3項及び第4項に規定される要件を満たしておらず、また、b.請求項2及び4に係る発明は、甲1号証に記載された発明であるので特許法第29条第1項第3号に規定される発明に該当するから、本件特許は取り消されるべきものであると、主張している。
(3)刊行物(甲第1号証)記載の発明
当審で通知した取消理由で引用した刊行物1(甲第1号証)の第1図には、ヒト肝実質細胞増殖因子をコードする遺伝子の1〜2187の塩基配列が、第2図にはヒト肝実質細胞増殖因子の1〜728のアミノ酸配列が記載されており、「配列中、第1番目〜第31番目(-)はシグナルペプチドを表わし、Zは修飾される前がG1nを表わし、修飾された後はピログルタミン酸を表わす。」(第10頁右上欄18行〜左下欄1行)との記載がある。
(4)判断
(a)異議申立人の上記3.(2)a.の主張について
特許異議申立人は、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たさない理由として、(ア)「シグナル配列を含まないHGF」のN末端が、本件発明1に記載された1〜728のアミノ酸配列の32番目であるといえる根拠は明細書中に何ら記載されていないこと(特許異議申立書第9頁22〜25行)、(イ)本願明細書には有用性についての記載が見あたらないこと(同申立書第11頁5〜6行)、即ち「成熟hHGFの活性発現のために必要なアミノ酸配列を供給する」という有用性については、本願明細書には何ら記載がないこと(同申立書第11頁27〜29行)、及び(ウ)訂正前の請求項1記載の発明と請求項2記載の発明ではシグナル配列が異なることになり、矛盾しているため、用語の統一性に欠けること(同申立書第12頁13〜19行)を、主張している。
そこで、上記主張について検討するに、本件発明は、そもそも、ヒト肝細胞増殖因子(以下、hHGFとも称する)を組換えDNA技術により大量に取得する手段を提供することを目的とするものであり、この目的に有用なhHGFをコードする遺伝子を初めてクローニングすることに成功したことにより(段落【0005】)、本件発明1に記載のとおり、hHGFの1〜728番目までのアミノ酸配列を同定することができ、またその構造の解析が可能となったものであることは、本件明細書の段落【0006】〜【0008】等の記載から明らかである。
先ず、上記(ア)の点について検討すると、本件明細書中には、シグナル配列を有するヒト肝実質細胞増殖因子をコードする遺伝子の全長アミノ酸配列、即ち遺伝子の全体構造が開示され、また、劇症肝炎患者血漿より精製され、このためシグナルペプチドを有しないhHGFを還元条件下で処理するとジスルフィド結合が切断され2本のポリペプチドに分かれること(段落【0008】)が記載されており、具体的には、実施例1において、(1)プラークハイブリダイゼーション及び(2)cDNA断片のサブクローニング及び塩基配列決定の実施により、hHGFをコードする遺伝子を含むcDNAの全塩基配列を決定したことが記載されている。さらに、本件明細書の段落【0007】には、「この時、hHGFをコードするmRNAから翻訳される蛋白はシグナル配列を含んでいるが、細胞から分泌される場合にはシグナル配列が切断され、30番目のグルタミン酸残基(Glu)または32番目のグルタミン残基(Gln)以後のアミノ酸配列を有するhHGFが産生される。また、宿主細胞内にシグナル配列のない成熟hHGFを発現させる場合は、hHGFをコードする遺伝子として図3ないし5に示す塩基配列のうち88番目のGまたは94番目のCから以後の塩基配列を有する遺伝子を、ベクターのATGコドンにつなげて使用すればよい。」と記載されている。
このような、hHGFの精製・取得及びその構造決定の技術的過程について配慮しつつ、本件特許出願時のシグナルペプチドの解明に係る技術的手段及び技術常識を考慮すると、本願明細書中に記載された32番目のグルタミン残基(Gln)以後のアミノ酸配列がシグナル配列を有しないHGFであることは、当業者が確認可能で蓋然性の高い知見であるといえる。
したがって、N-末端であることに関する根拠についての異議申立人の主張は全く理解し得ないことであるとはいえないものの、異議申立人の主張するように、本件発明1について明細書の記載が不備であるとまではいうことができない。
同様に、本件発明2についても明細書の記載が不備であるとすることはできない。
次に、上記(イ)の点について検討すると、本件発明1及び2は、特定部位のアミノ酸配列あるいは塩基配列で表される「遺伝子」に係る発明であり、かかる遺伝子に関する事項として、本件明細書の段落【0007】には、「以下に本発明を説明するに、本発明のhHGFをコードする遺伝子(cDNA)は例えば図3ないし5に示すような塩基配列を有する。なお、塩基配列は他の相補的な塩基配列を省略し1本鎖のみを記載した。この遺伝子より組換えDNA技術により例えば図1及び2に示すアミノ酸配列を有するhHGFを発現させることができる。」との記載があり、この記載に引き続いて、上記(ア)で摘記した段落【0007】の記載がある。
さらに、明細書の段落【0013】には、「しかしながら、天然のhHGFは糖蛋白であることを考慮すると、宿主としては動物細胞が望ましい。また、動物細胞を宿主とする場合はシグナル配列に相当する部分を含むhHGF遺伝子を導入することにより、シグナル配列が除かれたhHGFが分泌生産されるという利点が期待される。シグナル配列としてはhHGFの本来のシグナル配列以外にもヒト血清アルブミン、インターフェロン、ヒト・アミラーゼ等のシグナル配列を利用してもよく、その場合は本来のシグナル配列をコードするDNA断片にかえて、それらのシグナル配列に相当する塩基配列の DNA断片を5’側に置換すればよい。」と記載されており、hHGFのシグナル配列以外の他のタンパク質のシグナル配列を利用し得ることも記載されている。
このように、本件発明の「シグナル配列を含まないhHGFをコードする遺伝子」は、hHGFのシグナル配列以外の他の蛋白質のシグナル配列と結合させて用いることが可能であり、また、宿主細胞内にシグナル配列のない成熟hHGFを発現させる場合には94番目以降の塩基配列をベクターのATGコドンにつなげて使用され得るから、本件発明の「遺伝子」が有用であることも明らかである。
したがって、本件発明の遺伝子について有用性の記載がないということはできない。
最後に、上記(ウ)の点について検討すると、N末端を30番目であるとする訂正前の請求項1及び3は削除されたから、記載が矛盾するという点は解消された。
以上のとおりであるから、本件発明1および2に係る特許が、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるとすることはできない。
(b)異議申立人の上記3.(2)b.の主張について
異議申立人は、本件発明は、平成11年7月12日付け手続補正書により補正されているところ、右補正は本願明細書の要旨を変更するものであるから、本件出願は上記の日に出願されたとみなされるべきであり、又、本件発明は実質的に甲第1号証に記載された発明であると主張している。
しかしながら、上記(ア)の点において述べたとおり、シグナル配列の全長を含まないHGFの開始アミノ酸は32番目からであるということは明細書に開示されているといえるから、上記補正が明細書の要旨を変更するものであるということはできない。
このため、本件出願の出願日は原出願の出願日である平成1年8月11日まで遡るから、甲第1号証は本件出願前に頒布された刊行物には該当しない。
したがって、本件発明1及び2が刊行物1に記載された発明であるか否かを判断するまでもなく、同発明が特許法第29条第1項第3号に規定する発明であるということはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び提出した証拠によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
肝実質細胞増殖因子をコードする遺伝子
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記のアミノ酸配列:




で表されるシグナル配列を含む肝実質細胞増殖因子において、32番目のグルタミンから728番目のセリンまでの配列で表されることを特徴とするシグナル配列を含まない肝実質細胞増殖因子をコードする遺伝子。
【請求項2】 下記の塩基配列


のうち94番目のシトシンから2187番目のグアニンまでの配列で表される請求項1に記載の遺伝子。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、肝実質細胞増殖因子をコードする遺伝子に関する。
【0002】
【従来の技術】
肝臓は、生体中で最も高度に分化の進んだ最大の器官である。これは主に各種栄養素(糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、ホルモン等)の処理(代謝)、貯蔵、解毒、分解、排せつ等の重要な多種の機能を兼ね備えており、なかでも生体内中間代謝の中心的な役割を果たすことが知られている。これらの機能を担っている肝実質細胞は生体内において各種のホルモンによる制御下に置かれ、ある場合にはきわめて旺盛な増殖を示す。例えば、ラットの肝臓のほぼ2/3を切除しても、約10日後には元の大きさに戻ることが知られており、ヒトでも肝癌患者等において、部分肝切除とその後の再生による治療法が行われている。肝実質細胞の増殖による肝再生の機構については従来より数多くの研究が行われ、肝実質細胞増殖因子の存在が報告されてきた。とりわけ、本発明者らの一部は、ヒト劇症肝炎患者血漿中には、肝実質細胞増殖活性が極めて高いことを見いだし(Biomed.Res.,6,231(1985)及びExp.Cell.Res.166,139(1986))、その活性を有する因子を世界で初めて単一のタンパク質として精製することに成功した(特開昭63-22526号公報及びJ.Clin.Invest.,81,414(1988))。
【0003】
このヒト肝細胞増殖因子(以下「hHGF」と略す)は非還元条件下のSDS-PAGEによる推定分子量が約76000-92000であり、還元条件下のSDS-PAGEでは分子量56000-65000及び32000-35000の2つのバンドに分かれた。中村らは、ラット血小板由来の同様な活性を有する因子を報告しており(Biochem.Biophys.Res.Commun.,122,1450(1984))、SDS-PAGEにより、その推定分子量は約27000であるとしていたが(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83,6489(1986))、その後、単一のタンパク質として精製し、分子量69000と34000との2つのポリペプチドからなる分子量82000のタンパク質であると報告された(FEBS Letters,224,311(1987))。これらhHGF及びラットHGF以外には単一のタンパク質として精製された肝細胞増殖因子は今までに報告されていないし、hHGF及びラットHGFに関しても、その一次構造及び該当するcDNAの塩基配列については、なんの報告もなされていない。
【0004】
【発明の解決すべき課題】
hHGFの生体における詳細な機能あるいは肝障害時における肝再生に対する効果等を生体外で調べるには、多量のhHGFを必要とするが、劇症肝炎患者血漿から多量のhHGFを精製することは人的、時間的、経費的に必ずしも容易ではなく、また感染源の存在する血漿中からhHGFのみを安定に取り出すことは困難を極める。かかる理由からhHGFの劇症肝炎患者血漿からの安定かつ大量の精製は行われていなかった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、hHGFを組換えDNA技術により大量に取得するべく種々検討した結果、かかる目的に有用なhHGFをコードする遺伝子を初めてクローニングすることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、図1及び2に示すアミノ酸配列で表される、シグナル配列を含むhHGF、図1及び2に示すアミノ酸配列で表されるアミノ酸配列のうち30番目のグルタミン酸残基(Glu)から最後のセリン残基(Ser)までの配列で表されるhHGF、図1及び2に示すアミノ酸配列のうち32番目のグルタミン(Gln)から最後のセリン残基(Ser)までの配列で表されるhHGF、及びこれらをコードする遺伝子に存する。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を説明するに、本発明のhHGFをコードする遺伝子(cDNA)は例えば図3ないし5に示すような塩基配列を有する。なお、塩基配列は他の相補的な塩基配列を省略し1本鎖のみを記載した。この遺伝子より組換えDNA技術により例えば図1及び2に示すアミノ酸配列を有するhHGFを発現させることができる。この時、hHGFをコードするmRNAから翻訳される蛋白はシグナル配列を含んでいるが、細胞から分泌される場合にはシグナル配列が切断され、30番目のグルタミン酸残基(Glu)または32番目のグルタミン残基(Gln)以後のアミノ酸配列を有するhHGFが産生される。シグナル配列として、他の蛋白のシグナル配列を利用する事もできる。また、宿主細胞内にシグナル配列のない成熟hHGFを発現させる場合は、hHGFをコードする遺伝子として図3ないし5に示す塩基配列のうち88番目のGまたは94番目のCから以後の塩基配列を有する遺伝子を、ベクターのATGコドンにつなげて使用すればよい。さらに、本発明においては、肝実質細胞増殖促進活性を損なわない範囲内で、一部のアミノ酸または核酸を除去、変更あるいは追加する等の改変を行ったものも本発明に含まれる。
【0008】
本発明のhHGFをコードする遺伝子のDNA断片は例えば次の様な方法によって得られる。劇症肝炎患者血漿より、例えばJ.Clin.Invest,81,414(1988)に記載された方法によって精製されたhHGFは、還元条件下では、ジスルフィド結合が切断されて2本のポリペプチドに分かれる。分子量56000-65000ポリペプチドをH鎖、分子量32000-35000のポリペプチドをL鎖とする。hHGFを還元処理し生成したシステイン残基のチオール基をカルボキシメチル化したのち、逆相高速液体クロマトグラフィーでH鎖とL鎖を分離するか、あるいはhHGFを還元条件下で電気泳動し、そのゲルからH鎖、L鎖のそれぞれを抽出したのち、例えばアプライド・バイオシステムズ社製気相プロテインシーケンサーで分析することにより、両鎖のアミノ末端アミノ酸配列を調べることができる。さらに、hHGF自体を、またはH鎖、L鎖分離後に、適切な蛋白分解酵素例えばアクロモバクタープロテアーゼI(リジルエンドペプチダーゼ)で分解し、生成するペプチド断片を例えば逆相高速液体クロマトグラフィーで分離したのち、各ペプチドを上記と同様にしてアミノ酸配列分析すればポリペプチド内部のアミノ酸配列を知ることができる。これらのアミノ酸配列からDNA塩基配列を推定しオリゴヌクレオチドを作成しやすい配列を選定して、そのオリゴヌクレオチド、例えば、後述の実施例に示すようなオリゴヌクレオチドを合成してプローブとして使用する。
【0009】
hHGFをコードする遺伝子をスクリーニングするcDNAライブラリーとしては、人由来の肝臓cDNAライブラリー、脾臓cDNAライブラリー、胎盤cDNAライブラリー、等が利用できる。これらのライブラリーはクローンテック社より販売されている。特に胎盤cDNAライブラリーが望ましい。その他hHGFを発現している細胞株、及び組織材料から常法に従ってcDNAライブラリーを作成してもよい。このようなcDNAが組み込まれたλファージをManiatisらの方法(「モレキュラークローニング」、コールドスプリングハーバーラボラトリー、56頁-73頁(1982))により大腸菌に感染させ培養する。形成されたプラークをhHGFの一部のアミノ酸配列から推定される塩基配列から作成したオリゴヌクレオチドをプローブとしてプラークハイブリダイゼーション法(「モレキュラークローニング」、コールドスプリングハーバーラボラトリー、320頁-328頁(1982))に従って選択することにより、容易に目的とするhHGFのアミノ酸配列の一部と同じアミノ酸配列を有しなおかつhHGFのアミノ酸配列のプローブ以外の領域に相当する塩基配列をも有する、異なるλファージクローンをいくつか得ることができる。
【0010】
さらに上記スクリーニング陽性のプラークからManiatisらの方法(「モレキュラークローニング」、コールドスプリングハーバーラボラトリー、76頁-79頁(1982))によりファージを増殖させ、そのものからグリセロールグラヂエント法にしたがってDNAを精製し適切な制限酵素例えばEcoRI等で切断後、pUC18、pUC 19等のプラスミドベクターあるいはM 13 mp 18、M 13 mp 19などの一本鎖ファージベクターにcDNAをサブクローニングし、Sangerらのジデオキシ法(プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・ユー・エス・エー(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)74,5463(1977))に従って目的cDNAセグメントの塩基配列を決定することができる。得られたクローンの塩基配列を解析しそれらを統合することにより、hHGFの一部をコードするcDNAクローン群によって、図1及び2に示すhHGFの全アミノ酸配列の全てに対応する遺伝子を得ることができる。
【0011】
かくして得られるcDNAの発現は、例えば、該DNA群をその塩基配列の順番がhHGFのアミノ酸配列に従う形でつないでそれらhHGFの全領域を含むDNA断片としこれをpCDL-SRα296等のプラスミドのプロモーターの下流に翻訳開始コドンATGとフェーズを合わせて接続して蛋白質発現用プラスミドを形成し、該プラスミドで形質転換された動物細胞の宿主内等で行うことができる。次いで、常法に従い発現された蛋白質を回収することにより本発明のHGFを得ることができる。
【0012】
上記発現用プラスミドとしては、工業的生産のためには、安定した宿主-ベクター系を構築することが望ましい。例えば、特願平1-115831号に記載されているようなものが挙げられる。具体的には、大腸菌、枯草菌等の微生物を宿主とするときは、プロモーター、リボゾーム結合配列、hHGF遺伝子、転写終結因子、及びプロモーターを制御する遺伝子より成ることが好ましい。プロモーターとしては、例えばトリプトファン合成酵素オペロン(trp)、ラクトースオペロン(lac)、リポプロテインのプロモーター(lpp)等が挙げられ、また、tac(trp:lac)、trc(trp:lac)、pac(ファージ:大腸菌)等のハイブリッドプロモーターでもよい。hHGF遺伝子としてはシグナル配列に相当する部分を除去したものが好ましいが、シグナル配列に相当する部分を含むものでも産生されるプレ体からシグナル配列を除くことによってhHGFを得ることが出来る。使用するプラスミドとしては、大腸菌や枯草菌で多コピー数になるプラスミド、例えばpBR322系プラスミド、pUB 110系プラスミド等が望ましい。通常の方法により形質転換された大腸菌、枯草菌などは、通常の培地を用いて15-42℃で培養すればよい。酵母を宿主とする場合は、酵母由来のプロモーター、例えばピルビン酸キナーゼ(pYK)、ホスホグリセロキナーゼ(pGK)等の配列の支配下にhHGF遺伝子を接続し、酵母内に導入して30℃前後で培養すればよい。
【0013】
しかしながら、天然のhHGFは糖蛋白であることを考慮すると、宿主としては動物細胞が望ましい。また、動物細胞を宿主とする場合はシグナル配列に相当する部分を含むhHGF遺伝子を導入することにより、シグナル配列が除かれたhHGFが分泌生産されるという利点が期待される。シグナル配列としてはhHGFの本来のシグナル配列以外にもヒト血清アルブミン、インターフェロン、ヒト・アミラーゼ等のシグナル配列を利用してもよく、その場合は本来のシグナル配列をコードするDNA断片にかえて、それらのシグナル配列に相当する塩基配列のDNA断片を5’側に置換すればよい。動物細胞を宿主とする場合、プロモーターとしては、SV40後期プロモーター、アポリポプロテインE遺伝子のプロモーター、アポリポプロテインA1遺伝子のプロモーター、熱ショック蛋白遺伝子のプロモーター、メタロチオネイン遺伝子のプロモーター、HSVTKプロモーター、アデノウイルスのプロモーター、レトロウイルスのLTR等が挙げられるが、SV40プロモーター及びメタロチオネイン遺伝子のプロモーターが好ましい。発現ベクターには、hHGF遺伝子の下流にポリアデニル化部位が含まれる。ポリアデニル化部位の具体例としては、SV40 DNA、β-グロビン遺伝子またはメタロチオネイン遺伝子に由来するものが挙げられる。
【0014】
また、β-グロビン遺伝子のポリアデニル化部位及びSV40 DNAのポリアデニル化部位が連結したものであってもよい。発現ベクターは、形質転換体の選択マーカーを有していてもよい。発現ベクター中に選択マーカーがなくても、二重形質転換により、形質転換された動物細胞を選択できる。このような選択マーカーとしては、メトトレキセート耐性を与えるDHFR遺伝子、HAT培地中での形質転換tk株の選択を可能とするヘルペス・シンプレックスウイルス(HSV)のtk-遺伝子、3’-デオキシストレプタミン抗生物質G418に対する耐性を付与する大腸菌のトランスポゾンTn 5からのアミノグリコシド3’-ホスホトランスフェラーゼ遺伝子、重層増殖によるウシパピローマウイルス遺伝子、aprt遺伝子等が挙げられる。また、二重形質転換法により、発現ベクターで形質転換した動物細胞を選択するには、上記した選択マーカーとなる遺伝子を含有するプラスミドその他のDNAを発現ベクターと一緒に形質転換し、選択マーカーの発現による上記した表現形質により、形質転換細胞を選択出来る。
【0015】
発現ベクターは、大腸菌等の細菌由来の複製開始点を有するプラスミド断片を有すると、細菌中でのクローニングも可能となり有利である。このようなプラスミド断片としてはpBR 322、pBR 327、PML等のプラスミド断片が挙げられる。発現ベクターに使用されるプラスミドベクターの具体例としては、SV40初期プロモーター、ウサギのβ-グロビン遺伝子に由来するスプライス配列DNA、ウサギのβ-グロビン遺伝子からのポリアデニル化部位、SV40初期領域からのポリアデニル化部位並びにpBR 322からの複製開始点及びアンピシリン耐性遺伝子を含有するpKCR、pKCRのpBR 322部分をpBR 327で置換し、ウサギβ-グロビン遺伝子のエクソン3中に存在するEco R1部位をHind III部位に変えたpKCR H2、BPV遺伝子及びメタロチオネイン遺伝子を含有するpBPV MT1等が挙げられる。
【0016】
発現ベクターで形質転換される動物細胞としては、CHO細胞、COS細胞、マウスL細胞、マウスC127細胞、マウスFM3A細胞等が挙げられる。発現ベクターの動物細胞への移入はトランスフェクション法、マイクロインジェクション法等により行われるが、その中では、リン酸カルシウム法が最も一般的である。移入により形質転換された動物細胞の培養は、常法により浮遊培養または付着培養で行うことができる。培地としては、MEM、RPMI 1640などが一般的である。
【0017】
産生されたhHGFの分離精製は、劇症肝炎患者血漿からの精製と同様に、ヘパリン・セファローズやハイドロキシアパタイト等を用いたカラムクロマトグラフィーにより行うことが出来る。
【0018】
【発明の効果】
本発明に係わるhHGFをコードする遺伝子は常法により発現ベクターに導入することによって、これを鋳型とする発現によりhHGFまたはhHGF様物質あるいはこれを含む融合蛋白を得ることができる。得られる組換えhHGF,hHGF様物質あるいはhHGFを含む融合蛋白は肝再生促進剤、肝機能改善剤、肝炎治療剤あるいは肝硬変抑制剤等肝疾患の治療薬となる可能性がある。
【0019】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
[1]hHGFの部分アミノ酸配列決定及びプローブの作製
劇症肝炎患者血漿より、J.Clin.Invest.,81,414(1988)に記載された方法に従ってhHGFを精製した。これをSDS-PAGEにかけたところ、非還元条件下では、分子量76000-92000の位置にややブロードな単一バンドが現れ、還元条件下では、分子量56000-65000のややブロードなバンドと分子量32000-35000のバンドの2つのバンドが現れた。この精製hHGF50μgを5モル濃度の尿素を含有するpH 9の50ミリモル濃度のトリス塩酸緩衝液100μlに溶解し、これに、hHGFに対しモル比で1/200に相当するアクロモバクタープロテアーゼIを加えて37℃で6時間反応させた。生成したペプチド混合物は常法により還元カルボキシメチル化したのち、J.T.Baker社製Bakerbond WP Octyl Columnを用いた逆相高速液体クロマトグラフィーにより分離して、各ペプチドを分取した。
【0020】
6つのペプチドについて気相プロテインシーケンサー(Applied Biosystems社Model 470A)を用いてアミノ酸配列分析を行ったところ、表1に示すような配列が見いだされた。
【表1】

【0021】
[2]hHGFの一部をコードするcDNAのスクリーニング
(1)プラークハイブリダイゼーション
スクリーニングを行うλファージcDNAライブラリーとして34週齢のヒト胎盤由来のcDNA(クローンテック社)のスクリーニングを説明書に従って行った。100万クローンのファージを大腸菌Y-1090株に感染させ24.5cm×24.5cmのシャーレ中のNZY軟寒天培地[NZY培地;1% NZ-アミン、0.5%イーストイクストラクト、0.5%塩化ナトリウム、pH7.5に調整し0.25%塩化マグネシウムを加えたもの、NZY軟寒天培地;NZY培地に0.7%になるように寒天沫を加えオートクレイブしたもの]中で1枚あたり20万クローンの割合で5枚分を42℃で一晩培養した。
【0022】
次に培地中のλファージクローンを市販のナイロン膜であるジーンスクリーニングプラス(デュポン社)上に移し取り、以下に説明するプラークハイブリダイゼーションを行った。即ち、1枚のシャーレあたりナイロン膜2枚の割合でファージ粒子を移し取り、その様にしてできたナイロン膜を0.1M水酸化ナトリウム-1.5M塩化ナトリウムが染み込んだろ紙上に2分間静置し別に用意した乾いたろ紙上で水分を除いた後、次に、同様に2×SSCP(2倍の濃度のSSCP溶液のこと、以下同様の表記方法をとる。10×SSCP;1.2M塩化ナトリウム、150mMクエン酸ナトリウム、130mM燐酸二水素カリウム、1mM EDTA pH 7.2)-0.2Mトリス-塩酸(pH7.4)を染み込ませたろ紙上でこのナイロン膜を静置し乾いたろ紙上で風乾した後、同じ操作を再び繰り返した。こうして処理したナイロン膜は、3×SSC(20倍の濃度のSSC溶液;3M塩化ナトリウム、0.3Mクエン酸ナトリウム)-0.1%SDSで60℃15分間2回洗浄し、次にナイロン膜1枚当り5mlのプレハイブリダイゼーション液[3×SSC、0.1%SDS、10×Denhardt’s(50倍の濃度のDenhardt’s溶液;1%BSA(牛血清アルブミン)1%ポリビニルピロリドン、及び1%フィコール400)、20μg/ml鮭精子DNA]に65℃3時間浸した。
【0023】
次に、表1のペプチド4、すなわちAsn-Met-Glu-Asp-Leu-His-Arg-His-Ile-Phe-Trp-Glu-Pro-Asp-Ala-Ser-LysのうちのAsn-Met-Glu-Asp-Leu-HisおよびHis-Ile-Phe-Trp-Glu-Proを基に合成オリゴヌクレオチドを作成した。即ち、前述のアミノ酸配列の順に17塩基64種類のTH 23(5’-T-G-T/C/A/G-A-A/G-A/G-T-C-T/C-T-C-C-A-T-A/G-T-T-3’)、17塩基24種類のTH 24(5’-G-G-T/C-T-C-C-C-A-A/G-A-A-A/G/T-A-T-A/G-T-G-3’)を作成した。これらを常法に従いポリヌクレオチドキナーゼによりその5’末端を反応液[50 mM トリス-塩酸 pH7.6、10mM塩化マグネシウム、10mMメルカプトエタノール、100μM(γ32P)ATP、基質DNA]中で32P標識した後、常法に従いDEAEセルロースカラムをかけて余分なモノヌクレオチドを除いた。こうしてできあがった32P標識合成オリゴヌクレオチドプローブを含むハイブリダイゼーション液[3×SSC、10×Denhardt’s、50μg/ml鮭精子DNA、1M塩化ナトリウム、1% SDS、250μg/ml鮭精子DNA、合成プローブ1種類当り10万c.p.m./ml32P標識プローブDNA]中で前述のフィルターをプローブに応じAまたはTを2℃に、GまたはCを4℃に置き換えて全ての塩基を合計した温度、実際はプローブにより42℃(TH23)46℃(TH24)で36時間保温した。その後、ナイロン膜を取り出し、4×SSC溶液中で室温で30分間2回洗い、4×SSC溶液でハイブリダイゼーションの時と同じ温度で30分間2回洗った後2×SSC溶液で室温で15分間2回洗い、オートラジオグラフィーをとった。
【0024】
2枚1組のナイロン膜のオートラジオグラフィー上のシグナルが一致したものは6個あった。得られたシグナルに相当するクローンを単離するために、これらシグナルと一致する軟寒天培地上のプラークをガラス管で打ち抜き50μlのクロロフォルム存在下1mlのTMG緩衝液[50mMトリス-塩酸pH7.5、100mM塩化ナトリウム、10mM塩化マグネシウム及び0.01% ゼラチン]中でファージ粒子を一晩抽出し再び大腸菌Y-1090株に感染させ9cmシャーレ中で適当量培養し前述の方法でプラークハイブリダイゼーションを行った。この一連の操作を繰り返すことによりシグナルに相当するクローンを各々単離することができた。その結果独立した6個のクローンを得た。そのうち2個のクローン、すなわちλ hHGF 21とλ hHGF 502について、含まれるcDNAの塩基配列を解析した。
【0025】
(2)cDNA断片のサブクローニング及び塩基配列の決定
これらのλファージクローンから以下のようにDNAを抽出しプラスミドベクターpUC18、pUC19及び一本鎖ファージベクターM13mp18、M13mp19にサブクローニングをおこなった。即ち、500ml三角フラスコ中の200mlのNZY培地中において、200μlのTMG溶液に懸濁してあるλファージクローン2×107p.f.u.(p.f.u.;プラーク形成単位)と40μlの大腸菌Y-1090株2×108を37℃15分置くことにより感染させた。15分後さらに1mlの1M塩化カルシウムを加え一晩、概ね14時間ほど培養した。次に、2mlのクロロフォルムを加え10分ほど置き、15.8gの塩化ナトリウムを加え溶かし、それらを4℃において日立冷却遠心機SCR20BBで、ローターRPR 9-2を用いて6000回転20分間遠心した上清に20gのポリエチレングリコール6000を加えて十分に溶解した後に氷中で1時間静置した。
【0026】
これを日立冷却遠心機SCR 20BBで、ローターRPR 9-2において6000回転20分間遠心し沈澱を6mlのA緩衝液[0.5% NP 40、36mM塩化カルシウム、30mMトリス-塩酸pH7.5 50mM塩化マグネシウム、125mM塩化カリウム、0.5mM EDTA、0.25%デオキシコール酸、0.6mMメルカプトエタノール]に懸濁しここに100μlの10mg/mlのデオキシリボヌクレアーゼIと10μlの10mg/mlのリボヌクレアーゼAを加え30℃で30分間保温することにより大腸菌由来の核酸を分解した。その後上記反応液に等量のクロロフォルムを加え良く攪はんしたのちにトミー遠心機LC-06、ローターTS-7で3000回転10分間遠心し上清を得た。一方予め日立超遠心機ローターRPS 40T用遠心管に40%グリセロール溶液[0.5% NP 40、30mMトリス-塩酸pH7.5、125mM塩化カリウム、0.5mM EDTA、0.6mM メルカプトエタノール、10%グリセロール]を1ml入れておきその上に3mlの10%グリセロール溶液[0.5% NP 40、30mMトリス-塩酸pH7.5、125mM塩化カリウム、0.5mM EDTA、0.6mM メルカプトエタノール、40%グリセロール]を重層して準備しておいた上に先ほどのヌクレアーゼ処理をしたファージ懸濁液を重層し、日立超遠心機70 P 72、ローターRPS 40Tで35000回転1時間遠心した。
【0027】
遠心後沈澱として落ちてきたファージ粒子を0.4mlの40mMトリス-塩酸 pH7.5、10mM EDTA、2% SDSに懸濁し4μLの10mg/mlのプロテナーゼKを加えて55℃1時間保温を行った。その後溶液をエッペンドルフチューブに移し等量のフェノール/クロロフォルムにてファージDNAを抽出しエタノール沈澱を行うことにより目的とするファージDNAを200μg得ることが出来た。このファージDNAを制限酵素EcoRIで常法に従い切断しアガロース電気泳動法にて解析した。その結果クローンλ hHGF 21から0.2kbと0.85kbと0.72kbの3本のEcoRI断片を得た。一方アガロースゲルから該インサートcDNA断片を常法に従い回収することにより目的とするcDNA断片を得ることが出来た。これらcDNA断片100ngを予め常法に従い制限酵素EcoRIによって切断しておいたプラスミドベクターpUC18、pUC19及び一本鎖ファージベクター M3mp18、M13mp19 200ngと10μlの反応液[66mM トリス-塩酸 pH7.6、6.6mM塩化マグネシウム、10mMジチオスレイトール、66μM ATP、基質DNA]中でユニットのT4 DNAリガーゼにより結合しそれぞれのベクターに見合った宿主の大腸菌を常法に従い形質転換することによりEcoRI挿入部位にHGF蛋白質の部分配列を持つサブクローンを得た。
【0028】
得られたcDNAサブクローンの塩基配列の決定は、Sangerらのジデオキシ法によって行った。プライマーは市販のM13ファージベクターに対応するものを使用した。その結果、最も長いcDNAを持つクローンλ hHGF 21の塩基配列をアミノ酸に翻訳すると図1及び2に示すようにすでに明らかにされているアミノ酸配列のうちプローブの設計に使用したアミノ酸配列とは異なる領域のアミノ酸配列のうちのいくつかを含んでいることが判明し、このクローンがhHGFの少なくとも一部分の領域を含むcDNAであることが判明した。また、λ hHGF 21にはないcDNA断片を含むクローンλ hHGF 502のcDNAの塩基配列をSanger法に従い解析した結果、クローンλ hHGF 502はクローンλ hHGF 21と同じ塩基配列を図3ないし5で示す制限酵素切断部位NcoIの近傍から5’上流から数えて三番目のEcoRI切断部位の近傍までの0.8kbの長さで共有し3’側にλ hHGF 21にはない0.7kbの塩基配列をもつことがわかった。λ hHGF 502の塩基配列のうちλ hHGF21の有しない塩基配列のなかには既に解析されているアミノ酸配列に相当する塩基配列があることが判明した。これら2つのクローンの塩基配列を一部が重複する形でつなぎあわせるとhHGFのアミノ酸配列の全てをカバーすることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のhHGFの全アミノ酸配列のうち第1番目のアミノ酸(Met)から第360番目のアミノ酸(Ser)までの配列を表す図である。図中下線はすでに明らかにされていたアミノ酸配列を示す。
【図2】 本発明のhHGFの全アミノ酸配列のうち第361番目のアミノ酸(Glu)から第728番目のアミノ酸(Ser)までの配列を表す図である。図中の下線は図1と同じである。
【図3】 実施例1で得られた本発明のhHGFをコードする遺伝子を含むcDNAの全塩基配列のうち、第1番目の塩基から第780番目の塩基までの配列を示す図である。図中に主な制限酵素の認識部位を併記した。また下線はすでに明かにされていたアミノ酸配列に対応する部分を示す。
【図4】 実施例1で得られた本発明のhHGFをコードする遺伝子を含むcDNAの全塩基配列のうち、第781番目の塩基から第1620番目の塩基までの配列を示す図である。図中に主な制限酵素の認識部位を併記した。図中の下線は図3と同じであり、二重下線は最初のクローンを得る際に使用したプローブに対応する塩基配列を表す。
【図5】 実施例1で得られた本発明のhHGFをコードする遺伝子を含むcDNAの全塩基配列のうち、第1621番目の塩基から第2187番目の塩基までの配列を示す図である。図中に主な制限酵素の認識部位を併記した。また下線は図3と同じである。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
a.特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項1を削除し、「【請求項2】請求項1記載のアミノ酸配列で表されるシグナル配列を含む肝実質細胞増殖因子において、32番目のグルタミンから728番目のセリンまでの配列で表されることを特徴とするシグナル配列を含まない肝実質細胞増殖因子をコードする遺伝子。」とあるのを、
「【請求項1】下記のアミノ酸配列:(アミノ酸配列は略)で表されるシグナル配列を含む肝実質細胞増殖因子において、32番目のグルタミンから728番目のセリンまでの配列で表されることを特徴とするシグナル配列を含まない肝実質細胞増殖因子をコードする遺伝子。」に訂正する。
b.特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項3を削除し、「【請求項4】請求項3に記載の塩基配列のうち94番目のシトシンから2187番目のグアニンまでの配列で表される請求項1に記載の遺伝子。」とあるのを、
「【請求項2】下記の塩基配列(塩基配列は略)のうち94番目のシトシンから2187番目のグアニンまでの配列で表される請求項2に記載の遺伝子。」に訂正する。
異議決定日 2001-12-18 
出願番号 特願平10-194596
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C12N)
P 1 651・ 532- YA (C12N)
P 1 651・ 531- YA (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鵜飼 健高堀 栄二  
特許庁審判長 眞壽田 順啓
特許庁審判官 佐伯 裕子
大久保 元浩
登録日 1999-09-17 
登録番号 特許第2980888号(P2980888)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 肝実質細胞増殖因子をコードする遺伝子  
代理人 釜田 淳爾  
代理人 藍原 誠  
代理人 釜田 淳爾  
代理人 今村 正純  
代理人 藍原 誠  
代理人 塩澤 寿夫  
代理人 今村 正純  
代理人 塩澤 寿夫  

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