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審決分類 審判 審判種別コード:11 1項2号公然実施  B29C
管理番号 1057503
審判番号 審判1993-18041  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1987-01-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 1993-09-14 
確定日 2002-02-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第1735179号「6本ロールカレンダーの構造及び使用方法」の特許無効審判事件についてされた平成7年12月22日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成08年(行ケ)第0019号 平成9年11月19日判決言渡)があり、この判決に対し最高裁判所において上告棄却の決定(平成10年(行ツ)第81号 平成11年4月22日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.本件の経緯および本件発明
本件特許第1735179号は、昭和60年7月5日に出願し、平成5年2月17日に設定登録されたものであって、その後、平成8年11月13日に願書に添付した明細書および図面の訂正を求める審判請求(平成8年審判第19266号)がなされ、平成9年1月8日にそれを容認する審決(平成9年2月26日に確定)がなされたものであり、したがって、本件発明の要旨は、訂正された明細書と図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項、第2項および第3項に記載された次のとおりのものと認める。
(1)ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールR1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側または上側に第三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1方向と略直交状に配置し、該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側位置に第四ロールR4を第三ロールR3と略水平でかつ第二ロールR2方向と略直交状に並置し、この第四ロールR4の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール軸交叉装置を備えた第五ロールR5を第四ロールR4と略平行でかつ第三ロールR3方向と略直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール間隙調整装置を有する第六ロールR6を第四ロールR4及び第五ロールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置し、各ロール周速を第一ロールR1から順次後方に行くに従って速くしたことを特徴とする6本ロールカレンダーの構造。
(2)ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールR1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側または上側に第三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1方向と略直交状に配置し、該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側位置に第四ロールR4を第三ロールR3と略水平でかつ第二ロールR2方向と略直交状に並置し、この第四ロールR4の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール軸交叉装置を備えた第五ロールR5を第四ロールR4と略平行でかつ第三ロールR3方向と略直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール間隙調整装置を有する第六ロールR6を第四ロールR4及び第五ロールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置し、各ロール周速を第一ロールR1から順次後方に行くに従って速くした6本ロールカレンダーの構造において、第一ロールR1と第二ロールR2との間に高分子材料を投入して両ロール間で圧延し、これを第二ロールR2のロール表面に沿って後方に送り、次に第二ロールR2と第三ロールR3との間で圧延して、順次第三ロールR3と第四ロールR4との間で圧延し、更に第四ロールR4と第五ロールR5との間で圧延して、最後に第五ロールR5と第六ロールR6との間で圧延する各ロール間でバンクの回転が順次反対方向となることを特徴とする6本ロールカレンダーの使用方法。
(3)ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールR1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側または上側に第三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1方向と略直交状に配置し、該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側位置に第四ロールR4を第三ロールR3と略水平でかつ第二ロールR2方向と略直交状に並置し、この第四ロールR4の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール軸交叉装置を備えた第五ロールR5を第四ロールR4と略平行でかつ第三ロールR3方向と略直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール間隙調整装置を有する第六ロールR6を第四ロールR4及び第五ロールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置し、各ロール周速を第一ロールR1から順次後方に行くに従って速くした6本ロールカレンダーの構造において、第二ロールR2を上側または下側に移動して第二ロールR2と第三ロールR3との間隔をとり、第一ロールR1と第二ロールR2とで圧延された材料を均一なシート状に剥がして第三ロールR3と第四ロールR4間のバンクに送り、第三ロールR3と第四ロールR4との間で圧延し、順次第四ロールR4と第五ロールR5との間で圧延して最後に第五ロールR5と第六ロールR6との間で圧延することを特徴とする6本ロールカレンダーの使用方法。
2.請求人の主張
請求人は、甲第1〜20号証及び甲第22〜27号証を提出して次のような主旨の主張をしている。
(2-1)本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件第1発明」という。)は、甲第1〜10号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(2-2)本件特許の請求項2に係る発明(以下「本件第2発明」という。)は、本件第1発明を普通に使用する方法にすぎないものであって、上記(2-1)の主張の理由によって当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(2-3)被請求人は、昭和56年9月以降本件出願日までの間に、本件特許発明を記載した図面を守秘義務を負わせることなく日本国内の顧客に対して提示していたことにより、本件特許発明は日本国内において公然知られたものとなったから、特許法第29条第1項第1号の規定に違反して特許されたものである。
(2-4)被請求人は、遅くとも、本件出願前に本件特許発明を台湾の葉琳義氏に提示したが、その際、秘密保持義務を負わせることはなかった。そして、同氏は昭和60年2月8日までに、日本国内で本件請求人に対して本件特許発明を開示し、請求人は同氏の開示に基いて図面を作成した。この事実から、本件特許発明は本出願前日本国内において公然知られたものとなったものであるから、特許法第29条第1項第1号の規定に違反して特許されたものである。
3.請求人の主張についての検討
3-1.上記(2-1)の主張について
甲第1号証(「PLASTICS AGE」、第20巻、8月号、(株)プラスチックスエージ、昭和49年8月1日発行、p.93-98)には、Z形4本ロールカレンダ(3.4の項)や傾斜Z形およびS形4本ロールカレンダ(3.5の項)や5本ロールカレンダ(3.6の項)等について記載されており、その第94頁の第11図の中央には、シーテイング用のM形5本ロールの配置が示されており、また、その第95頁左欄6行から中央欄6行には、「わが国ではZ形にロールを1本追加したM形5本ロールカレンダ(写真11、図11中)が採用されている。この形式はバンクと次のバンクとの距離がすべて1/4円周づつで最も短いので、無可塑塩化ビニル樹脂の透明度のよいフィルムや厚いシート類の高速生産には最適である。」と記載されている。
甲第2号証(「PLASTICS AGE」、第20巻、6月号、(株)プラスチックスエージ、昭和49年6月1日発行、p.101-106)には、「カレンダの歴史と進歩」について記載されており、その第101頁の図1には、カレンダ変遷の歴史として、ロール数が2本や3本や4本や5本の多数のカレンダ方式の例が示されており、5本ロールのM形の例も示されている。
しかし、このM形5本ロールの構造は、本件特許の第12図にも示されている従来のカレンダー型式のものにすぎず、本件第1発明の6本カレンダーの構造と、甲第1号証や甲第2号証に示されるM形5本ロールの構造とを対比すると、請求人が審判請求書第11頁9行から末行でいうように、両者は、ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールと第二ロールとを略水平に並列し、該第二ロールの下側に第三ロールを第二ロールと平行に配置し、該第三ロールの横側で第一ロールと反対側位置に第四ロールを第三ロールと略水平に並置し、この第四ロールの下側で前記第二ロールと反対側位置に第五ロールを配置したカレンダーの構造である点で一致しており、(1)前者は、第五ロールの下側に第六ロールを設けているのに対し、後者は、第五ロールの下に第六ロールを設けていない点、(2)前者は、第五ロールにロール軸交叉装置を備えると共に、第六ロールにロール間隙調整装置を備えているのに対し、甲第1号証や甲第2号証には、第五ロールにロール軸交叉装置を設けることが記載されておらず、また、後者はロール間隙調整装置を備えている第六ロールを設けていない点、(3)前者は、各ロール周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くしているのに対して、甲第1号証や甲第2号証には各ロールの周速については記載されていない点で相違している。
そして、請求人は、上記相違点(1)について、
「(A-1)甲第1号証には、これから先、目的によってはさらに6本、7本とロールを増して、マルチロールカレンダ化が考えられることが記載されており、(A-2)更に甲第2号証には、3本から4本、5本とロールを増すと、希望の厚さのものを製造することができ、その精度が高く、表面がきれいになり、また気泡の混入がなくなることが記載されており、(A-3)また甲第3号証(特公昭49-44586号公報)には品質、外観等の改善のためにロール数を増やしてバンク数を増やすことが記載されており、(A-4)甲第4号証(特開昭51-144459号公報)にはロールを増して6本、7本としたマルチロールカレンダが、甲第5号証(特開昭51-41761号公報)には逆L-L型6本カレンダが、甲第6号証(特公昭57ー27821号公報)にはL型6本ロールカレンダが、第7号証('Modern Plastics International'第4巻第1号(1974)p.18〜21)にはバーシュトルフ社が6本ロールカレンダを建造中であると記載されているので、(A-5)ロール数を増やしてバンク数を増やすことによって、シート・フィルムなどの製品の品質、外観をよくするため、甲第1号証記載の発明のM形の5本ロールカレンダの最終ロールに1本を加えて6本ロールカレンダとすることは当業者が必要に応じて容易になし得ることである。
さらに、前記事項が当業者が容易に想到できることは、請求人の出願に係る甲第11〜15号証及び当該出願の拒絶査定謄本である甲第16号証を参考にすれば、自明ということができる。
(B-1)次に、M形の5本ロールカレンダに1本のロールを加える場合のロールの位置を検討すると、比較的好ましい位置として、第五ロールの水平右側か第五ロールの垂直下側が考えられる。(B-2)甲第7号証に6本の主ロール及び4本のニーダーロールを含むカレンダの6本の主ロールのうち後半の3本の主ロールは垂直に配列されたものが記載されており、これより第五ロールの垂直下側に第六ロールを付加して、第四ロールないし第六ロールを直列的に配列することが示唆されているといえる。(B-3)また、M型第五ロールカレンダの場合、第五ロールにロール軸交叉装置を設ける必要があるが、この場合第五ロールに後続するテイクオフロールとの間の平行度が崩れ、フィルムまたはシート厚みに誤差が生じる欠点がある。この欠点は、最終ロール以前の3本以上のロールが直線上になるようにロールを配置した逆L型四本ロールカレンダにはない(甲第8〜10号証など参照)ので、第五ロールの下に第六ロールを配置することで最終ロール以前の3本以上のロールが直線上になるように配置すればこの欠点を取り除けることは、当業者が容易に予測できることに過ぎない。(B-4)したがって、第六ロールを第五ロールの下側で、第四ロール及び第五ロールと平行に設けることは当業者が必要に応じて容易になし得ることである。」と主張し、
また、上記相違点(2)について、
「(C-1)第五ロールの下に第六ロールを設ける場合、第五ロールと第六ロールの間で最後の圧延をすることになるので、ロールの撓みによりシートの両端部より中央部が厚くなる誤差を補正するため、第五ロールと第六ロールの何れか一方のロールにロール軸交叉装置を設ける必要があり、また間隙を調整する必要があるため、何れか一方のロールに間隙調整装置を設ける必要がある。(C-2)これらのロールのうちの第五ロールは中間に配置されているので、間隙調整装置を設けることは不可能ではないが困難であり、また、上記相違点(1)で述べたように第六ロールにロール軸交叉装置を設けることは適当でない。(C-3)そうすると、第五ロールにロール軸交叉装置を備え、第六ロールに間隙調整装置を備えることになり、他に選択の余地がない。このことは、甲第8,9号証の逆L型4本ロールにおける最終3本ロールの第3ロールで軸交叉を行い、第4ロールで間隙調整を行うことからも、当業者にとって周知である。(C-4)したがって、第五ロールにロール軸交叉装置をを備えるとともに第六ロールにロール間隙調整装置を備えることは、第五ロールの下に第六ロールを設ける場合に当業者が、必要に応じて容易になし得ることである。」と主張し、
さらに、上記相違点(3)について、
「(D-1)甲第1号証には、理想的な回転バンクを形成するには、前のロールより次のロールの周速を速くするとよいことが記載されており、(D-2)上記M形に1本加えた6本カレンダーにおいて、第一ロールから順次後方のロールに巻き付けて成形する場合、各ロール周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くすることは当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。」と主張している。
しかしながら、上記(A-1)で指摘している甲第1号証には、「これから先、目的によってはさらに6本、7本とロールを増して、前述のようなマルチロールカレンダ化も考えられる…」(甲第1号証第95頁右欄11〜13行)と記載されているだけであって、6本、7本のロール構造について具体的に示すところはなく、M形5本ロールにロールを追加することを具体的に示しているわけではないし、また、上記(A-2)で指摘している甲第2号証には、「初期の直立2本ロールカレンダでは、その前工程のミクシングミルで混練・予熱された配合ゴム材料をバンクに供給して、1パスでシート化することをねらったが、材料の種類や製品の程度によっては必ずしもすべての目的を達しなかった。すなわち、希望の厚さやその精度・表面のきれいさ・気泡の混入・材料の温度ムラなどの点で2本ロール1パスの限界を知った。これを改善する方向として、一つには金属圧延機のように2本ロール機を1ラインに2台ないし数台直列に並べて順次圧延してゆく〈タンデムカレンダ〉と、もう一方ではロールの本数を3本から4本5本と増してゆく〈多数ロールカレンダ方式〉とにここで分かれた(図1参照)。」(甲第2号証の101頁左欄下から5行から中央欄11行)と記載されているにすぎず、希望の厚さやその精度・表面のきれいさ・気泡の混入・材料の温度ムラなどの点に関する2本ロール1パスの欠点を改善する方向の一つとしての、ロールの本数を3本から4本5本と増してゆく、甲第2号証の第101頁の図1に示されているところの〈多数ロールカレンダ方式〉を紹介しているにすぎないし、上記(A-3)で指摘している甲第3号証のロール数は4または5個に止まるものであるし、さらに上記(A-4)で指摘している甲第4号証には、多ロールカレンダの構造高さおよび構造幅を低減することを課題(第2頁右上欄17〜19行を参照)としている「ゴム或いは合成樹脂用多ロールカレンダ」に関する発明が記載されており、その第2図にはL型6本ロールカレンダ、第4図にはL型7本ロールカレンダの例が示されているだけであるし、甲第5号証には逆L型4本カレンダに間隙を設けてさらに2本のロールを平行に並べたものが、甲第6号証にはL型6本ロールカレンダが示されているだけであり、M型5本ロールにロールを追加しているものではないから、上記(A-1)ないし(A-4)で指摘した事項から、上記(A-5)の結論が導かれるものではない。
そして、(B-1)は、上記(A-5)のM型5本ロールに、さらにロールを1本追加することが容易であるとの結論の上での議論であるから、上記の如く(A-5)の結論が導かれるものではない以上、(B-1)のようにいうことはできない。また、(B-2)で指摘している甲第7号証は、本件第1発明とせいぜい、6本ロールからゴム又はプラスチックのシートを製造するものである点で一致している位で、後者は、上の2本のロールがロールミルであり、下の4本のロールがカレンダーを構成するものであり、上の傾斜した2本のロールのそれぞれの下に2本一対のニーダーロールを設けている等本件第1発明とその構造において大きく異なるものであり、また(B-3)で指摘している甲第8〜10号証は逆L型4本ロールに関するものであるから、上記(B-1)、(B-2)及び(B-3)から、(B-4)の結論が導かれるものでない。
したがって、結局、上記(A-1)〜(A-4)及び(B-1)〜(B-3)から、第六ロールを第五ロールの下側で、第四ロール及び第五ロールと平行に設けることは当業者が必要に応じて容易になし得ることであるという上記(B-4)の結論が導き出せるものではない。
また、上記(C-1)〜(C-3)は上記第六ロールの配置場所を第五ロールの下とすることを前提としたうえでの議論であるし、また(C-3)で指摘する甲第8又は9号証は逆L型4本ロールに関するものであるから、上記のとおり第六ロールを第五ロールの下側で、第四ロール及び第五ロールと平行に設けることが当業者にとって容易想到といえない以上、上記(C-4)の「第五ロールにロール軸交叉装置を備えるとともに第六ロールにロール間隙調整装置を備えることは、第五ロールの下に第六ロールを設ける場合に当業者が当然行うことである」という結論が導き出せるものでない。
さらに、上記(D-1)で指摘している甲第1号証の第96頁左欄下から12行から7行に「理想的な回転バンクを形成するには、古くから経験的に言われているように、前のロールより次のロールのほうが、(1)周速が速く、(2)ロール温度が高く、(3)ロール表面が粗く、しかも(4)配合的にはロール表面への付着力の大きい材料のほうがよいわけである。」と記載されているものの、甲第1号証の96頁中央欄5〜10行に、「ところが、プラスチックシーテイング用の傾斜Z形カレンダ(図12)では、最終のNo.4ロール表面にはフィルムを巻きつけず、No.3ロール側へ引き取るために、一般に機械はNo.3ロールの周速の方がほうがNo.4ロールより速くつくられている。」と記載されており、また甲第1号証や甲第2号証に記載されたM型5本ロールではシートは第四ロールの方に巻き付いているから、そのM型5本ロールでは第五ロールより第四ロールの方が周速が速いはずである。
してみると、カレンダ構造において、必ず各ロールの周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くしているといえるわけではないので、上記(D-2)でいう「上記M型(甲第1号証や甲第2号証に記載されたM型5本ロールのこと)に一本加えた6本カレンダーにおいて、第一ロールから順次後方のロールに巻き付けて成形する場合、各ロールの周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くすることは当業者が容易になし得ることである。」という結論を導くことはできない。
そして、本件第1発明は上記相違点(1)〜(3)をその構成の1部に備えることによって、従来のM型5本ロールに比べて材料転換が行われるバンクが1ヶ所増加するばかりでなく、ロール間隔調整装置を設けたロールからシートを剥がせるようになるという上記甲第1〜10号証からは予測できない効果を奏するものであるから、本件第1発明が甲第1〜10号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする上記(2-1)の主張は理由がない。
なお、請求人は上記(2-1)に関する相違点(1)に関する主張の中で、本件請求人の出願に係る甲第11〜16号証を提出して、その容易性は自明であるというが、前記各甲号証のものは別件の出願に係るもので、かつ本件第1発明とは異なる構造のロールカレンダに係るものであるから、これをもって本件第1発明が容易であるという請求人の主張は根拠がないものである。さらに、甲第19〜21号証は単に請求人に係る会社内の資料にすぎず、上記請求人の特許法第29条第2項の証拠とはなり得ない。
3-2.上記(2-2)の主張について
本件第2発明は、請求人がいうように、本件第1発明を使用する方法であるから、上記(2-1)の主張についての項で述べた理由と同様の理由により、上記(2-2)の主張も理由がない。
3-3.上記(2-3)の主張について
請求人は、56年9月の日付のあるM-6298という図番の日本ロール製造株式会社の6本ロールカレンダの計画図を甲第22号証とし、56年9月の日付のあるM-6299という図番の日本ロール製造株式会社の6本ロールカレンダの計画図を甲第23号証として提出し、これらの図面番号は被請求人の図面台帳記録(甲第24号証)に記載されているところ、この台帳は表紙に「承認図、見積図」「見積図 M番」と記されているとおり顧客に提出した図面を記録する台帳と認められ、さらに別件の平成10年審判第35126号の証人尋問における証人町田春生氏や箱崎健吉氏の証言(甲第26号証)によれば、日本ロール製造株式会社は、見積図を顧客に提出するにあたって守秘義務を課していなかったことが明らかであるから、上記図面及びその後作成された本件特許発明を記載した図面が被請求人の顧客に提供されたことによって、本件第1発明及び本件第2発明は日本国内において公然知られたものとなった旨主張している。
そして、請求人は、前記甲第24号証に係る「承認図、見積図」「見積図 M番」台帳の顧客名簿を消去していないものを見れば、当該図面及び被請求人がその後に作成した本件特許発明を記載した図面が顧客に提出されていたことが容易に証明されるから、被請求人は顧客名を消去していない前記台帳を証拠として提出すべきであるとして、証拠提出命令の申立てを行った。
そこで、前記主張について検討すると、甲第26号証の上記別件の審判事件の証人尋問調書(日本ロール株式会社の、町田春男氏の証言及び箱崎健吉氏の証言参照)から、前記甲第22及び23号証は昭和59年9月に被請求人によって、顧客からの要望に基いて、その要望を満たすためのアイデア確認のために設計、図面化されたものであるということは認められるが、これを顧客に提出したかどうかについては不明である。さらに、同調書から本数の多いロールの引き合いに対して6本ロールの提案をしたことは認められるものの、当該図面を顧客に提出したかどうかは不明である。
また、甲第22及び23号証に係る図面は、6本ロールの配置の基本構造において本件第1及び第2発明と同一といえるものが記載されているものの、本件第1又は第2発明の構成である第5ロールに軸交叉装置を、第6ロールにロール間隙調整装置を備えること及び各ロールの周速を第1ロールから順次後方に行くに従って早くすることも示されていないから、これらの図面に記載されたものは、本件第1及び第2発明と同一とはいえない。
請求人は、これらの図面を顧客に提出したことは、「承認図、見積図(見積図 M番)」のM6262からM6563の6本ロールカレンダ関係の箇所に記載されている顧客名から証明できるというが、そもそも、一般的に技術開発がらみの引き合いにおける相談において、当事者双方は、互いに秘密保持について特段の要請をしていなくとも、その引き合いの具体的内容を当事者以外の他人に漏らすことは、社会通念上信義に反することであるうえに、甲第26号証には、日本ロール株式会社の証人町田春生氏や箱崎健吉氏が、それらの図面を見せたり説明をしたりした引き合いの相手に守秘義務がない旨を告げたことを証言したとも記載されていないから、請求人の申立てた「承認図、見積図(見積図 M番)」のM6262からM6563の本件特許発明に係る6本ロールカレンダに関する箇所に、たとえ複数の顧客名が記載されていたとしても、これのみではその技術内容が公然知られたものとすることはできない。
なお、当審合議体は念のため平成12年6月20日に、当庁において、請求人の申立てた「承認図、見積図(見積図 M番)」のM6262からM6563について検証を行ったが、本件特許発明の6本ロールカレンダに関するものと推定される図面番号の顧客名をみても、被請求人の会社と直接取引のあった富順公司以外の不特定多数の顧客名は見あたらないので、前記証拠提出命令申立書において申請された証拠は提出する必要がないと判断した。
3-4.上記(2-4)の主張について
請求人は、甲第27号証を提示し、「被請求人は昭和59年12月に本件特許発明を記載した甲第27号証に係る図面を作成し、昭和60年1月に台湾において葉琳義氏に渡しているが、この際被請求人は葉氏に対し守秘義務を課していない。そして、同じ頃請求人は葉氏より前記本件特許と同一内容のカレンダー構造の説明を受け、昭和60年2月8日に甲第20号証として提出した図面を作成した。したがって、請求人は本件特許発明を本件出願前の昭和60年2月までに日本国内において請求人が知ったことにより公然知られたものとなった。」と主張する。
甲第26号証によれば、被請求人が昭和59年12月に本件特許発明を記載した甲第27号証に係る図面を作成し、昭和60年1月に台湾において葉琳義氏(富順公司関係者)に渡していること、及び同じ頃請求人は葉氏より前記カレンダー構造についての説明を受け、昭和60年2月8日に甲第20号証として提出した図面を作成したことは認められる。
しかしながら、請求人が当該技術内容を元に作成したという図面には、6本ロールの配置の基本構造において本件第1及び第2発明と同一といえるものが記載されているものの、本件第1又は第2発明の構成である第5ロールに軸交叉装置を、第6ロールにロール間隙調整装置を備えること及び各ロールの周速を第1ロールから順次後方に行くに従って早くすることも示されていないから、葉氏が請求人に開示した発明は本件第1及び第2発明と同一とはいえない。
したがって、甲第20号証の図面に係る技術内容を請求人が葉氏の説明によって知ったとしても、これをもって、本件第1及び第2発明が公然知られた状態に至ったという請求人の主張は採用できない。
また、本件審判請求書における甲第17及び18号証に係る証人尋問は取り下げられた。
なお、請求人は本件特許について、平成8年審判第19266号に係る訂正審判の請求によって認められた訂正は、特許法第126条の規定に違反してなされたものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第8号の規定に該当し無効であると主張するが、本件無効審判は平成5年に請求されたものであって、平成5年改正法(平成6年1月1日施行)以前の特許法が適用され、訂正が適法でないことは無効理由とはなっていないので、本件無効審判において前記主張をすることはできない。
4.結び
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由および提出した証拠方法によっては、本件発明に係る特許を無効にすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1995-11-28 
結審通知日 1995-12-08 
審決日 1995-12-22 
出願番号 特願昭60-146690
審決分類 P 1 11・ 112- Y (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野村 康秀綿谷 晶廣  
特許庁審判長 石橋 和美
特許庁審判官 仁木 由美子
石井 克彦
登録日 1993-02-17 
登録番号 特許第1735179号(P1735179)
発明の名称 6本ロールカレンダーの構造及び使用方法  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 大場 正成  
代理人 細井 貞行  
代理人 早川 政名  
代理人 長南 満輝男  
代理人 増井 忠弐  
代理人 石渡 英房  

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