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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A63B
管理番号 1058067
異議申立番号 異議2001-70644  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-07-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-02-28 
確定日 2002-02-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3081577号「ゴルフクラブおよびそのヘッド」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3081577号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許3081577号の請求項1〜3に係る発明は、平成9年12月19日に特許出願され、平成12年6月23日にその特許の設定登録がなされ、その後、「ブリヂストンスポーツ株式会社」より特許異議の申立がなされ、取消理由を通知したところ、その指定期間内の平成13年8月28日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否の判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のa〜gである。
(i)特許請求の範囲の訂正
a.請求項1、2、6を削除する。
b.請求項3の、
「【請求項3】 前記ヘッド幅が40mm以上52mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載のゴルフクラブ。」を、
「【請求項1】シャフトと、その先端に取り付けられたヘッドとを具備し、前記ヘッドのヘッド幅が40mm以上52mm以下の範囲に、フェースプログレッションが7mm以上20mm以下の範囲に、ロフト角が19°以下にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され、前記ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、前記シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有していることを特徴とするゴルフクラブ。」と訂正する。
c.請求項4の、
「【請求項4】 前記ヘッド幅が56mm以上60mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載のゴルフクラブ。」を、
「【請求項2】シャフトと、その先端に取り付けられたヘッドとを具備し、前記ヘッドのヘッド幅が56mm以上60mm以下の範囲に、フェースプログレッションが7mm以上20mm以下の範囲に、ロフト角が25°以上にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され、前記ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、前記シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有していることを特徴とするゴルフクラブ。」と訂正する。
d.請求項5の、
「【請求項5】 前記ヘッドのソール幅が30mm以上40mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のゴルフクラブ。」を、
「【請求項3】前記ヘッドのソール幅が30mm以上40mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載のゴルフクラブ。」と訂正する。
(ii)発明の詳細な説明の訂正
e.段落【0007】の、
「【0007】請求項1の発明は、シャフト(2)と、その先端に取り付けられたヘッド(3)とを具備し、ヘッド(3)のヘッド幅(A)が40mm以上60mm以下の範囲に、フェースプログレッション(B)が7mm以上20mm以下の範囲にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であるゴルフクラブ(1)により、上述した課題を解決する。」を、
「【0007】請求項1の発明は、シャフト(2)と、その先端に取り付けられたヘッド(3)とを具備し、前記ヘッド(3)のヘッド幅(A)が40mm以上52mm以下の範囲に、フェースプログレッション(B)が7mm以上20mm以下の範囲に、ロフト角が19° 以下にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッション(B)は前記ヘッド幅(A)に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され、前記ヘッド(3)の上端には、ホーゼル(4)の直径とほぼ同一の幅のクラウン(8)が設けられ、このクラウン(8)は、前記シャフト(2)の軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線(8a,8b)を有していることを特徴とするゴルフクラブにより、上述した課題を解決する。」と訂正する。
f.段落【0008】の、
「【0008】請求項2の発明は、請求項1記載のゴルフクラブにおいて、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定されていることを特徴とする。」を、
「【0008】請求項2の発明は、シャフト(2)と、その先端に取り付けられたヘッド(3)とを具備し、前記ヘッド(3)のヘッド幅(A)が56mm以上60mm以下の範囲に、フェースプログレッション(B)が7mm以上20mm以下の範囲に、ロフト角が25°以上にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッション(B)は前記ヘッド幅(A)に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され、前記ヘッド(3)の上端には、ホーゼル(4)の直径とほぼ同一の幅のクラウン(8)が設けられ、このクラウン(8)は、前記シャフト(2)の軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線(8a,8b)を有していることを特徴とするゴルフクラブにより、上述した課題を解決する。」と訂正する。
g.段落【0009】の、
「【0009】請求項3の発明は、請求項1または2記載のゴルフクラブにおいて、ヘッド幅(A)が40mm以上52mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする。」を、
「【0009】請求項3の発明は、請求項1または2記載のゴルフクラブにおいて、前記ヘッド(3)のソール幅(C)が30mm以上40mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする。」と訂正する。
h.段落【0010】〜【0012】を削除する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正aは、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
上記訂正bは、
訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2を更に引用する訂正前の請求項3において、訂正前の請求項1〜3の記載をあわせた上で請求項の繰り上げを行っているため、明瞭でない記載の釈明であり、更に、繰り上げた請求項1において、数値範囲「ロフト角が19°以下」を追加し、また構成要件「前記ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、前記シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有している」を追加しようとするものであり、いずれもゴルフクラブの構成を限定しており、特許請求の範囲の減縮に該当する。
上記訂正cは、
訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2を更に引用する訂正前の請求項4において、訂正前の請求項1,2,4の記載をあわせた上で請求項の繰り上げを行っているため、明瞭でない記載の釈明であり、更に、繰り上げた請求項2において、数値範囲「ロフト角が25°以上」を追加し、また構成要件「前記ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、前記シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有している」を追加しようとするものであり、いずれもゴルフクラブの構成を限定しており、特許請求の範囲の減縮に該当する。
上記訂正dは、訂正前の請求項1及び2を削除したことに伴う訂正であり、明りょうでない記載の釈明に該当する。
上記訂正e〜hは、上記特許請求の範囲の訂正に対応させるために発明の詳細な説明の欄を訂正または削除するものであり、明りょうでない記載の釈明に該当する。
上記訂正a〜hはいずれも特許明細書に記載された「【0018】本発明の範囲において、特に飛距離を優先したクラブを必要とするならば、ヘッド幅Aを40mm以上52mm以下の範囲に設定し、その範囲でロフト角θおよびフェースプログレッションBを小さく設定することが望ましい。この場合、ロフト角θは19°以下、フェースプログレッションBは16mm以下が好適である。一方、方向性を優先したクラブを必要とするならばヘッド幅Aを56mm以上60mm以下の範囲に設定し、その範囲でロフト角θおよびフェースプログレッションBを大きく設定することが望ましい。この場合、ロフト角θは25°以上、フェースプログレッションBは19.5mm以上が好適である。」、「【0021】ヘッド3の上端には、ホーゼル4の直径Dとほぼ同一の幅(例えば直径Dに対して-1.0〜+1.0mmの範囲)のクラウン8が設けられる。このクラウン8は、アドレス時にプレイヤーがヘッド3を眺めたとき、シャフト軸線CLとほぼ平行に延びる一対の稜線8a,8bを有している(図4参照)。」の記載に基づくものであるから、上記訂正a〜hは新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項および同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)異議申立ての理由の概要
特許異議申立人ブリヂストンスポーツ株式会社は、本件特許出願前に公然実施された
検甲第1号証(リョービ株式会社製の「ビガロスメディア」、5番ゴルフクラブ:以下、「検甲第1号証の発明」という)、
同じく検甲第2号証(リョービ株式会社製の「ビガロスメディア」、6番ゴルフクラブ:以下、「検甲第2号証の発明」という)、
同じく検甲第3号証(ブリジストンスポーツ株式会社製の「オールターゲットカーボン」、7番ゴルフクラブ:以下、「検甲第3号証の発明」という)、
同じく検甲第4号証(マルマンゴルフ株式会社製の「シャトル ワン(SHUTLE-ONE)」、5番ゴルフクラブ:以下、「検甲第4号証の発明」という)、
及び同じく検甲第5号証(マルマンゴルフ株式会社製の「シャトル ワン(SHUTLE-ONE)」、6番ゴルフクラブ:以下、「検甲第5号証の発明」という)
にかかる証拠である
甲第1号証 検甲第1号証を撮影した写真
甲第2号証 検甲第2号証を撮影した写真
甲第3号証 梶田良太氏によるゴルフクラブの「測定結果報告書」
甲第4号証 雑誌「月刊ゴルフ用品界(9月号)」
甲第5号証 雑誌「週間グリーン通信(通巻82号)」
甲第6号証 雑誌「週間グリーン通信(通巻83号)」
甲第7号証 雑誌「パーゴルフPARGOLF(第29巻第12号)」
甲第8号証 雑誌「月刊ゴルフ用品界(10月号)」
甲第9号証 雑誌「アールエムモデルズ11月号増刊(ゴルフギア・ベストセレクション2)」
甲第10号証 雑誌「パーゴルフPARGOLF(第29巻第11号)」
甲第11号証 検甲第3号証を撮影した写真
甲第12号証 検甲第4号証を撮影した写真
甲第13号証 検甲第5号証を撮影した写真
甲第14号証 江崎裕志氏による「オールターゲットカーボン」ゴルフクラブの「販売に関する報告書」
甲第15号証 江崎裕志氏による「オールターゲットカーボン」ゴルフクラブの同一性報告書21)
甲第16号証 清水哲雄氏による「シャトルワン(SHUTLE-ONE)」の「販売に関する報告書」
甲第17号証 清水哲雄氏による「シャトルワン、SHUTLE-ONE)」5番ゴルフクラブの同一性報告書
甲第18号証 清水哲雄氏による「シャトルワン(SHUTLE-ONE)」6番ゴルフクラブの同一性報告書
甲第19号証 特開昭62-34583号公報
甲第20号証 特開昭63一305884号公報
を提出し、本件発明に係る特許は次の理由により取り消すべきである旨主張している。
(i)本件の訂正前の請求項1,2,5,6に係る発明は、特許出願前に日本国内において公然実施をされた検甲第1号証の発明及び検甲第2号証の発明であり、
本件の訂正前の請求項1,3,5,6に係る発明は、特許出願前に日本国内において公然実施をされた検甲第3号証の発明であり、
本件の訂正前の請求項1,4,6に係る発明は、特許出願前に日本国内において公然実施をされた検甲第4号証の発明であり、
本件の訂正前の請求項1,3,5,6に係る発明は、特許出願前に日本国内において公然実施をされた検甲第5号証の発明であり、
本件の訂正前の請求項1乃至6に係る発明は、特許法第29条第1項第2号の発明に該当するから、この特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(ii)本件の訂正前の請求項1、6に係る発明は、甲第19号証に記載の発明及び甲第20号証に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、この特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(iii)本件発明の技術的課題は、一組のクラブセットにおけるウッド系クラブとアイアン系クラブとの間の飛距離の不連続性の解消であるから、本件特許の請求項には、少なくとも、「飛距離に連続性のない一組のクラブセットにおけるウッド系クラブとアイアン系クラブ」が、前提要件、すなわち、構成要件として記載されなければならない筈である。
にもかかわらず、実際には、いずれの請求項にも、そのような飛距離に連続性のない一組のクラブセットに関する要件は全く記載されていない。
したがって、本件特許の明細書は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された技術的課題を解決することができるように記載されていないので、本件特許は、特許法第36条第4項の規定に違反してなされた瑕疵がある。
(2)本件発明
本件特許の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1〜3」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載されたとおりのものである。(上記2.(1)(i) 訂正b〜d参照)
(3)検甲各号証の発明
(i)検甲第1号証の発明は、甲第1,3,4〜10号証を参照すると、以下のようなものである。
「シャフトと、その先端に取り付けられたヘッドとを具備し、前記ヘッドのヘッド幅が54.9mmに、フェースプログレッションが15.9mmに、ロフト角が19°にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して29.0%であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分268サイクルに設定され、前記ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、前記シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有しているゴルフクラブ。」
(ii)検甲第2号証の発明は、甲第2、3,4〜10号証を参照すると、以下のようなものである。
「シャフトと、その先端に取り付けられたヘッドとを具備し、前記ヘッドのヘッド幅が54.8mmに、フェースプログレッションが17.3mmに、ロフト角が22°にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して31.6%であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分278サイクルに設定され、前記ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、前記シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有しているゴルフクラブ。」
(iii)検甲第3号証の発明は、甲第11,3,14、15号証を参照すると、以下のようなものである。
「シャフトと、その先端に取り付けられたヘッドとを具備し、前記ヘッドのヘッド幅が47.03mmに、フェースプログレッションが12.72mmにそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して27.0%であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分309サイクルに設定され、前記ヘッドの上端にはクラウンが設けられ、このクラウンは、前記シャフトの軸線とほぼ平行に延びる稜線を有しているゴルフクラブ。」
(iv)検甲第4号証の発明は、甲第12、3,16、17号証を参照すると、以下のようなものである。
「シャフトと、その先端に取り付けられたヘッドとを具備し、前記ヘッドのヘッド幅が56.35mmに、フェースプログレッションが13.54mmに、ロフト角が26°にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して24.0%であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分292サイクルに設定され、前記ヘッドの上端にはクラウンが設けられ、このクラウンは、前記シャフトの軸線とほぼ平行に延びる稜線を有しているゴルフクラブ。」
(v)検甲第5号証の発明は、甲第13、3,16、18号証を参照すると、以下のようなものである。
「シャフトと、その先端に取り付けられたヘッドとを具備し、前記ヘッドのヘッド幅が49.13mmに、フェースプログレッションが11.6mmにそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して23.6%であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分304サイクルに設定され、前記ヘッドの上端にはクラウンが設けられ、このクラウンは、前記シャフトの軸線とほぼ平行に延びる稜線を有しているゴルフクラブ。」
(4)対比・判断
本件発明は、上記2.(1)(i)訂正b〜dの訂正が認められ、訂正前の請求項1,2,6が削除され、訂正前の請求項3が本件発明1に、訂正前の請求項4が本件発明2に、訂正前の請求項5が本件発明3に訂正され、また、本件発明3は2.(1)dの訂正により、削除された訂正前の請求項1,2を引用する発明ではなくなり、かつ、訂正前の請求項3または4が検甲第1号証または検甲第2号証の発明であるとの異議申立人の主張もないため、本件発明1と検甲第3,5号証の発明、本件発明2と検甲第4号証の発明、および、本件発明3と検甲第3,5号証の発明を対比・判断する。
(A)本件発明1について
(i)本件発明1と上記検甲第3号証の発明とを対比すると、
検甲第3号証の発明における「ヘッドのヘッド幅が47.03mm」は本件発明における「ヘッドのヘッド幅が40mm以上52mm以下の範囲」に包含され、
検甲第3号証の発明における「フェースプログレッションが12.72mm」は本件発明における「フェースプログレッションが7mm以上20mm以下の範囲」に包含され、
検甲第3号証の発明における「フェースプログレッションはヘッド幅に対して27.0%」は本件発明における「フェースプログレッションはヘッド幅に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内」に包含されるが、
本件発明1が「ロフト角が19°以下に設定されて」いるのに対して、検甲第3号証の発明はロフト角について不明である点、本件発明1が「レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され」ているのに対して、検甲第3号証の発明は「レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分309サイクルに設定され」ている点、および、本件発明1が「ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有している」のに対して、検甲第3号証の発明は「ヘッドの上端にはクラウンが設けられ、このクラウンは、シャフトの軸線とほぼ平行に延びる稜線を有している」点で相違する。
(ii)本件発明1と上記検甲第5号証の発明とを対比すると、
検甲第5号証の発明における「ヘッドのヘッド幅が49.13mm」は本件発明における「ヘッドのヘッド幅が40mm以上52mm以下の範囲」に包含され、
検甲第5号証の発明における「フェースプログレッションが11.6mm」は本件発明における「フェースプログレッションが7mm以上20mm以下の範囲」に包含され、
検甲第5号証の発明における「フェースプログレッションはヘッド幅に対して23.6%」は本件発明における「フェースプログレッションはヘッド幅に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内」に包含されるが、
本件発明1が「ロフト角が19°以下に設定されて」いるのに対して、検甲第5号証の発明はロフト角について不明である点、本件発明1が「レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され」ているのに対して、検甲第5号証の発明は「レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分304サイクルに設定され」ている点、および、本件発明1が「ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有している」のに対して、検甲第5号証の発明は「ヘッドの上端にはクラウンが設けられ、このクラウンは、シャフトの軸線とほぼ平行に延びる稜線を有している」点で相違する。
(iii)本件発明1と検甲第3,5号証の発明の相違点について検討する。
本件発明1では、ウッド系とアイアン系との間の不連続性を解消したゴルフクラブを提供することを目的として、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数の範囲を、ウッド系のクラブの固有振動数が最大でも毎分260サイクル、アイアン系のクラブの固有振動数が最小でも毎分290サイクルであることに基づいて、両系統のクラブの中間である固有振動数を与えることにより、ウッド系とアイアン系との中間的性質を持つヘッドと相俟って、ウッド系のクラブとアイアン系のクラブとの間の不連続性を埋めるような使用感を持つクラブをプレイヤーに提供するものであり、本件発明1が「レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され」ている点は単なる選択行為ではなく、「レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分309サイクルに設定され」ている検甲第3号証の発明、および、「レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分304サイクルに設定され」ている検甲第5号証の発明を本件発明1のように「レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定」することが選択的事項であったとは認められない。
さらに、本件発明1はウッド系とアイアン系との中間的性質を持つヘッドをプレイヤーに提供するという目的を達成するために「ロフト角が19°以下に設定され」、「ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有している」のに対して、検甲第3号証および検甲第5号証の発明はこのように構成されていない点でも相違する。
したがって、本件発明1は検甲第3号証または検甲第5号証の発明であるとはいえない。
(B)本件発明2について
(i)本件発明2と上記検甲第4号証の発明とを対比すると、
検甲第4号証の発明における「ヘッドのヘッド幅が56.35mm」は本件発明における「ヘッドのヘッド幅が56mm以上60mm以下の範囲」に包含され、
検甲第4号証の発明における「フェースプログレッションが13.54mm」は本件発明における「フェースプログレッションが7mm以上20mm以下の範囲」に包含され、
検甲第4号証の発明における「ロフト角が26°」は本件発明における「ロフト角が25°以上にそれぞれ設定され」に包含され、
検甲第4号証の発明における「フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して24.0%」は本件発明における「フェースプログレッションはヘッド幅に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内」に包含されるが、
本件発明1が「レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され」ているのに対して、検甲第4号証の発明は「レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分292サイクルに設定され」ている点、および、本件発明1が「ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有している」のに対して、検甲第4号証の発明は「ヘッドの上端にはクラウンが設けられ、このクラウンは、シャフトの軸線とほぼ平行に延びる稜線を有している」点で相違する。
(ii)本件発明2と検甲第4号証の発明の相違点について検討する。
本件発明2では、ウッド系とアイアン系との間の不連続性を解消したゴルフクラブを提供することを目的として、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数の範囲を、ウッド系のクラブの固有振動数が最大でも毎分260サイクル、アイアン系のクラブの固有振動数が最小でも毎分290サイクルであることに基づいて、両系統のクラブの中間である固有振動数を与えることにより、ウッド系とアイアン系との中間的性質を持つヘッドと相俟って、ウッド系のクラブとアイアン系のクラブとの間の不連続性を埋めるような使用感を持つクラブをプレイヤーに提供するものであり、本件発明2が「レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され」ている点は単なる選択行為ではなく、「レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分292サイクルに設定され」ている検甲第4号証の発明を本件発明2のように「レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定」することが選択的事項であったとは認められない。
さらに、本件発明1はウッド系とアイアン系との中間的性質を持つヘッドをプレイヤーに提供するという目的を達成するために「ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有している」のに対して、検甲第4号証の発明はこのように構成されていない点でも相違する。
したがって、本件発明2は検甲第4号証の発明であるとはいえない。
(C)本件発明3について
(i)本件発明3と検甲第3,5号証の発明を比較すると、本件発明3は本件発明1を引用する発明であって、上記3.(4)(A)に記載した理由により本件発明1が検甲第3号証または検甲第5号証の発明であるとはいえないため、同じ理由により、本件発明3は検甲第3号証または検甲第5号証の発明であるとはいえない。
(5)異議申立の理由(ii)について
異議申立人は、本件の訂正前の請求項1、6に記載の発明は、甲第19号証に記載の発明及び甲第20号証に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、この特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであると主張しているが、上記2.(1)(i)訂正aにより訂正前の請求項1、6は削除されたため、異議申立の理由(ii)は解消された。
(6)異議申立の理由(iii)について
本件発明の技術的課題は、一組のクラブセットにおけるウッド系クラブとアイアン系クラブとの間の飛距離の不連続性の解消であるから、本件特許の請求項には、少なくとも、「飛距離に連続性のない一組のクラブセットにおけるウッド系クラブとアイアン系クラブ」が、前提要件ではあるが、本件発明1〜3の発明は、その一組のクラブセットの中の特にウッド系とアイアン系との中間的性質を持つヘッドに係る発明であり、一組のクラブセットとするには、本件発明のゴルフクラブと従来周知のウッド系クラブとアイアン系クラブをセットにすればよく、本件発明1〜3自体も、ゴルフクラブの発明であって、ゴルフクラブセットの発明ではないため、本件発明1〜3に直接関わらない、従来周知のウッド系クラブとアイアン系クラブに関する構成要件は記載する必要はなく、本件発明のようなウッド系とアイアン系との中間的性質を持つヘッドが提供できれば、当然、従来周知のウッド系クラブとアイアン系クラブと組み合わせて飛距離に連続性のある一組のクラブセットが得られるのであり、
いずれの請求項にも、そのような飛距離に連続性のない一組のクラブセットに関する要件は記載されていなくとも、本件特許の明細書は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された技術的課題を解決することができるように記載されていると認められるので、本件発明1〜3は、特許法第36条第4項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ゴルフクラブ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 シャフトと、その先端に取り付けられたヘッドとを具備し、前記ヘッドのヘッド幅が40mm以上52mm以下の範囲に、フェースプログレッションが7mm以上20mm以下の範囲に、ロフト角が19°以下にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され、前記ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、前記シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有していることを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】 シャフトと、その先端に取り付けられたヘッドとを具備し、前記ヘッドのヘッド幅が56mm以上60mm以下の範囲に、フェースプログレッションが7mm以上20mm以下の範囲に、ロフト角が25°以上にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され、前記ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、前記シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有していることを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項3】 前記ヘッドのソール幅が30mm以上40mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載のゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はゴルフクラブに関する。
【0002】
【従来の技術】
ゴルフクラブには、周知の通り飛距離を伸ばすためのウッド系と、正確性を重視した打球を打つためのアイアン系とが存在する。各系統では、クラブを特徴付ける長さや硬さ、ロフト角、ヘッド重量等の物理量を徐々に変化させて複数の番手が設けられており、プレイヤーは必要な飛距離等に応じて番手を選択している。図6は一般的なゴルフクラブセットにおいて使用される番手とそれらを特徴付ける物理量との関係を概念的に示した図であり、縦軸が物理量を、横軸が番手をそれぞれ表している。横軸のWnはウッドのn番、Inはアイアンのn番をそれぞれ意味する。この図から明らかなように、ウッド系のW1〜W5では物理量が連続的に変化し、アイアン系のI3〜I9、ピッチングウエッジPW,アプローチウエッジAW,サンドウエッジSWの間で物理量が連続的に変化する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ウッド系とアイアン系とは従来より別々に研究開発が行われている。そのため、図6からも明らかなように、一つの系統内では番手の変化につれてクラブの性能がほぼ連続的に変化するが、両系統の間では連続性が確保されず、いずれの系統のクラブを選択すべきかプレイヤーを悩ませることがある。具体的には、距離にして150〜210ヤード(約137〜192m)の範囲でボールを打ち上げる必要があるとき、従来のクラブセットではフェアウェイウッドかロングアイアンかで選択に迷うことが多い。
【0004】
ウッド系とアイアン系との間の上述した不連続性については、特開昭61-149179号公報においても飛距離の不連続性の問題として指摘されている。しかし、当該公報の発明は、クラブの長さ、ロフト角、ライ角、ヘッドのソール幅を変化させて連続性を確保しようと試みたものであり、それ以外の物理量については特に考慮されていない。
【0005】
本発明は、従来とは異なる観点からウッド系とアイアン系との間の不連続性を解消したゴルフクラブを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0007】
請求項1の発明は、シャフト(2)と、その先端に取り付けられたヘッド(3)とを具備し、前記ヘッド(3)のヘッド幅(A)が40mm以上52mm以下の範囲に、フェースプログレッション(B)が7mm以上20mm以下の範囲に、ロフト角が19°以下にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッション(B)は前記ヘッド幅(A)に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され、前記ヘッド(3)の上端には、ホーゼル(4)の直径とほぼ同一の幅のクラウン(8)が設けられ、このクラウン(8)は、前記シャフト(2)の軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線(8a,8b)を有していることを特徴とするゴルフクラブにより、上述した課題を解決する。
【0008】
請求項2の発明は、シャフト(2)と、その先端に取り付けられたヘッド(3)とを具備し、前記ヘッド(3)のヘッド幅(A)が56mm以上60mm以下の範囲に、フェースプログレッション(B)が7mm以上20mm以下の範囲に、ロフト角が25°以上にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッション(B)は前記ヘッド幅(A)に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され、前記ヘッド(3)の上端には、ホーゼル(4)の直径とほぼ同一の幅のクラウン(8)が設けられ、このクラウン(8)は、前記シャフト(2)の軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線(8a,8b)を有していることを特徴とするゴルフクラブにより、上述した課題を解決する。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2記載のゴルフクラブにおいて、前記ヘッド(3)のソール幅(C)が30mm以上40mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0010】 削除
【0011】 削除
【0012】 削除
【0013】
【発明の実施の形態】
図1は本発明が適用されたゴルフクラブのヘッドを中心とした側面図、図2はその正面図である。このゴルフクラブ1は、周知の通り、シャフト2とその一端に取り付けられるヘッド3とを備えている。シャフト2の他端には不図示のグリップが装着される。
【0014】
図3からも明らかなように、ヘッド3はメタルウッドと同様に金属材料を用いた中空構造である。ヘッド幅Aは40mm以上60mm以下の範囲に設定され、フェースプログレッションBは7mm以上20mm以下の範囲に設定されている。フェースプログレッションBはシャフト2(またはホーゼル4)の軸線CLからフェース5のリーディングエッジ5aまでの距離である。
【0015】
上記のフェースプログレッションBの範囲はアイアン系のクラブの0〜6.5mmと比べて大きい。従って、アイアン系のクラブとロフト角θを同一に設定した場合でも打球の飛び出し角度が大きくなり、例えばロフト角θをアイアン系における小さい値の19°や22°に設定しても打球が上がり易くなる。
【0016】
また、上記のヘッド幅Aの範囲はアイアン系のヘッド幅15〜25mmよりも大きい。このため、アイアン系よりも大きなフェースプログレッションBが与えられていても、重心Gの深さ、すなわち重心Gがフェース5の後方(図1の左方)に離れている量が大きく確保され、スイートスポットが狭くならずアイアン系のそれと同様に方向の正確な打球を打ち易い。その一方、ヘッド幅Aがウッド系のヘッド幅70〜90mmよりも小さいため、ヘッド3がコンパクトに構成され、それに伴ってヘッド3の素材に比重の大きい材料、例えばマルエージ鋼(比重8.0)を利用しで慣性モーメントを大きくできる。この点、ウッド系のクラブでは、ヘッドの大型化に向けて、ヘッドを軽量化してヘッドスピードを確保することとの兼ね合いから、チタン(比重4.5)のように比重が小さい材料を利用するようになっている。この結果、ゴルフヘッドの肉厚が薄くなって強度上不安があると共に、衝撃力も弱くなり、ボールの初速が低くなる。
【0017】
なお、本発明の範囲でロフト角θの異なる複数のクラブを設ける場合、ロフト角θが大きいほどフェースプログレッションBを大きく設定するとよい。しかも、ヘッド幅AとフェースプログレッションBとは、一方を大きくすれば他方も大きくするという関係で変化させることが望ましい。ちなみに、ヘッド幅Aが最小値40mmのときフェースプログレッションBが最小値7mm、ヘッド幅Aが最大値60mmのときにフェースプログレッションBが最大値20mmとなるように両者の関係を調整した場合、フェースプログレッションBはヘッド幅Aに対して17.5%以上33.3%以内の範囲で変化することになる。
【0018】
本発明の範囲において、特に飛距離を優先したクラブを必要とするならば、ヘッド幅Aを40mm以上52mm以下の範囲に設定し、その範囲でロフト角θおよびフェースプログレッションBを小さく設定することが望ましい。この場合、ロフト角θは19°以下、フェースプログレッションBは16mm以下が好適である。一方、方向性を優先したクラブを必要とするならばヘッド幅Aを56mm以上60mm以下の範囲に設定し、その範囲でロフト角θおよびフェースプログレッションBを大きく設定することが望ましい。この場合、ロフト角θは25°以上、フェースプログレッションBは19.5mm以上が好適である。
【0019】
以上のヘッド3において、ソール幅C、すなわちフェース5のリーディングエッジ5aからソール6の後端のエッジ6aまでの距離を30mm以上40mm以内に設定した場合には、ヘッド3を容易に振り抜くことができ、これによりヘッド幅AおよびフェースプログレッションBを上記のように設定した効果を確実に発揮させることができる。
【0020】
ソール6の後方にはヘッド3の素材よりも比重の大きい素材、例えばタングステン(比重14.0)にて構成されたウエイト7が取り付けられる。これにより重心Gがより深くかつ低く設定される。
【0021】
ヘッド3の上端には、ホーゼル4の直径Dとほぼ同一の幅(例えば直径Dに対して-1.0〜+1.0mmの範囲)のクラウン8が設けられる。このクラウン8は、アドレス時にプレイヤーがヘッド3を眺めたとき、シャフト軸線CLとほぼ平行に延びる一対の稜線8a,8bを有している(図4参照)。
【0022】
フェース5には打球に回転を与えるためのスコアライン溝9…が設けられるが、それらの端部9a、9bとフェース5のエッジ5b,5cとの距離は、フェース5の中央部から下端へ向かうほど徐々に増加する。この構成は、プレイヤーからの視点において、アドレス時にフェース5を小さく見せる効果がある。
【0023】
図5は上記の範囲に設定したヘッド3を従来のウッド系のヘッド100(破線)、およびアイアン系のヘッド101(想像線)と同一縮尺で重ね合わせて示したものである。この図から明らかなように、本実施形態のヘッド3はウッド系のヘッド100に比してコンパクトであり、アイアン系のヘッド101に比してはヘッド幅およびフェースプログレッションが大きい特徴を有しており、いわばウッド系とアイアン系の中間的性質を備えている。
【0024】
本実施形態において、シャフト2は通例に従ってカーボン繊維等で補強された合成樹脂等で構成してよいが、特にクラブ1全体のレギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲となるようにシャフト2の材質や形状寸法(例えば厚さ)を設定することが望ましい。このレギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数の範囲は、ウッド系のクラブの固有振動数が最大でも毎分260サイクル、アイアン系のクラブの固有振動数が最小でも毎分290サイクルであることと比較すれば、両系統のクラブの中間である。このような固有振動数を与えることにより、ウッド系とアイアン系との中間的性質を持つヘッド3と相俟って、ウッド系のクラブとアイアン系のクラブとの間の不連続性を埋めるような使用感を持つクラブをプレイヤーに提供できる。すなわち、図6に破線で示したように、ウッド系とアイアン系との不連続性を埋める新規な系統のクラブを提供できる。
【0025】
なお、上述した各種の値以外にもクラブを特徴付ける物理量が種々存在するが、それらは必要に応じて適宜設定してよい。一例として、クラブの全長は39インチ〜41インチ(約990mm〜1040mm)、ライ角は57°〜59°、フェース5の肉厚は33mm〜35.5mm、ヘッド3の体積は110cc〜120cc、クラブ総重量は320g〜335gの範囲が使用される。勿論、これらの範囲外の値を使用してもよい。
【0026】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明ではヘッドのフェースプログレッションとヘッド幅との関係に着目し、これらの物理量を従来のウッド系およびアイアン系のクラブでは存在しない組み合せの範囲に設定したので、ウッド系とアイアン系との間の不連続性を解消した新規なゴルフクラブを提供することができる。さらに、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数を従来のウッド系とアイアン系の中間の値に設定することにより、ウッド系とアイアン系の中間的性質を有するヘッドの特徴をさらに有効に引き出してプレイヤーのクラブ選択の余地を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明のゴルフクラブのヘッド部分を中心とした側面図。
【図2】
本発明のゴルフクラブのヘッド部分を中心とした正面図。
【図3】
図2のIII-III線に沿った断面図。
【図4】
本発明のゴルフクラブのヘッドの平面図。
【図5】
本発明のゴルフクラブヘッドとウッド系およびアイアン系のヘッドとを重ね合わせた比較図。
【図6】
ゴルフクラブセットで使用される番手とそれらを特徴付ける物理量との関係を概念的に示した図。
【符号の説明】
1 ゴルフクラブ
2 シャフト
3 ヘッド
4 ホーゼル
5 フェース
6 ソール
7 ウエイト
8 クラウン
9 スコアライン溝
A ヘッド幅
B フェースプログレッション
C ソール幅
D ホーゼル直径
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第3081577号発明明細書中の特許請求の範囲
特許請求の範囲の減縮を目的として請求項1,2、6を削除。
「【請求項3】前記ヘッド幅が40mm以上52mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載のゴルフクラブ。」
をとあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、下記のように訂正し、繰り上げて請求項1とする。
「【請求項1】シャフトと、その先端に取り付けられたヘッドとを具備し、前記ヘッドのヘッド幅が40mm以上52mm以下の範囲に、フェースプログレッションが7mm以上20mm以下の範囲に、ロフト角が19°以下にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され、前記ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、前記シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有していることを特徴とするゴルフクラブ。」と訂正する。
「【請求項4】 前記ヘッド幅が56mm以上60mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載のゴルフクラブ。」
をとあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項4を下記のように訂正し、繰り上げて請求項2とする。
「【請求項2】シャフトと、その先端に取り付けられたヘッドとを具備し、前記ヘッドのヘッド幅が56mm以上60mm以下の範囲に、フェースプログレッションが7mm以上20mm以下の範囲に、ロフト角が25°以上にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され、前記ヘッドの上端には、ホーゼルの直径とほぼ同一の幅のクラウンが設けられ、このクラウンは、前記シャフトの軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線を有していることを特徴とするゴルフクラブ。」と訂正する。
「【請求項5】 前記ヘッドのソール幅が30mm以上40mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のゴルフクラブ。」
をとあるのを、訂正前の請求項1及び2を削除したことに伴い、明りょうでない記載の釈明を目的として、請求項5を下記のように訂正し、繰り上げて請求項3とする。
「【請求項3】前記ヘッドのソール幅が30mm以上40mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載のゴルフクラブ。」と訂正する。
特許第3081577号発明の明細書の記載を平成13年8月28日付訂正明細書のとおり、すなわち、明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書原本における、段落【0007】を下記のとおりに訂正。
「【0007】請求項1の発明は、シャフト(2)と、その先端に取り付けられたヘッド(3)とを具備し、ヘッド(3)のヘッド幅(A)が40mm以上60mm以下の範囲に、フェースプログレッション(B)が7mm以上20mm以下の範囲にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッションは前記ヘッド幅に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であるゴルフクラブ(1)により、上述した課題を解決する。」を、
「【0007】請求項1の発明は、シャフト(2)と、その先端に取り付けられたヘッド(3)とを具備し、前記ヘッド(3)のヘッド幅(A)が40mm以上52mm以下の範囲に、フェースプログレッション(B)が7mm以上20mm以下の範囲に、ロフト角が19°以下にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッション(B)は前記ヘッド幅(A)に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され、前記ヘッド(3)の上端には、ホーゼル(4)の直径とほぼ同一の幅のクラウン(8)が設けられ、このクラウン(8)は、前記シャフト(2)の軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線(8a,8b)を有していることを特徴とするゴルフクラブにより、上述した課題を解決する。」と訂正。
特許第3081577号発明の明細書の記載を平成13年8月28日付訂正明細書のとおり、すなわち、明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書原本における、段落【0008】を下記のとおりに訂正。
「【0008】請求項2の発明は、請求項1記載のゴルフクラブにおいて、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定されていることを特徴とする。」を、
「【0008】請求項2の発明は、シャフト(2)と、その先端に取り付けられたヘッド(3)とを具備し、前記ヘッド(3)のヘッド幅(A)が56mm以上60mm以下の範囲に、フェースプログレッション(B)が7mm以上20mm以下の範囲に、ロフト角が25°以上にそれぞれ設定されており、前記フェースプログレッション(B)は前記ヘッド幅(A)に対して17.5%以上33.3%以内の範囲内であり、レギュラークラスのシャフトにおけるゴルフクラブの固有振動数が毎分265サイクル以上285サイクル以下の範囲に設定され、前記ヘッド(3)の上端には、ホーゼル(4)の直径とほぼ同一の幅のクラウン(8)が設けられ、このクラウン(8)は、前記シャフト(2)の軸線とほぼ平行に延びる一対の稜線(8a,8b)を有していることを特徴とするゴルフクラブにより、上述した課題を解決する。」と訂正。
特許第3081577号発明の明細書の記載を平成13年8月28日付訂正明細書のとおり、すなわち、明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書原本における、段落【0009】を下記のとおりに訂正。
「【0009】請求項3の発明は、請求項1または2記載のゴルフクラブにおいて、ヘッド幅(A)が40mm以上52mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする。」を、
「【0009】請求項3の発明は、請求項1または2記載のゴルフクラブにおいて、前記ヘッド(3)のソール幅(C)が30mm以上40mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする。」と訂正。
特許第3081577号発明の明細書の記載を平成13年8月28日付訂正明細書のとおり、すなわち、明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書原本における、段落【0010】〜【0012】を削除。
異議決定日 2002-01-31 
出願番号 特願平9-351659
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A63B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀬津 太朗  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 渡部 葉子
松川 直樹
登録日 2000-06-23 
登録番号 特許第3081577号(P3081577)
権利者 リョービ株式会社
発明の名称 ゴルフクラブおよびそのヘッド  
代理人 松下 満  
代理人 石川 泰男  
代理人 竹内 英人  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 箱田 篤  
代理人 大塚 文昭  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 今城 俊夫  
代理人 中村 稔  
代理人 西島 孝喜  
代理人 小川 信夫  
代理人 石川 泰男  
代理人 村社 厚夫  

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