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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02F
管理番号 1058195
異議申立番号 異議2001-73112  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-01-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-11-19 
確定日 2002-05-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3168390号「液晶素子及びこれを用いた液晶装置」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3168390号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3168390号の請求項1乃至9に係る発明は、平成7年4月18日に特願平6-101717号を基礎として特許出願(優先日平成6年4月18日)され、平成13年3月16日にその設定登録がなされ、その後、千野 肇より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年3月20日に特許異議意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許第3168390号の請求項1乃至9に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された、次のとおりのものである。
「 【請求項1】 電極の形成された一対の平行基板間に液晶を挟持してなる液晶素子において、少なくとも一方の基板に有機配向膜を形成し、且つ該有機配向膜が下記一般式(I)で示される繰り返し単位を有する平均分子量30000以下のポリイミドを少なくとも一種と平均分子量30000を超える重合体を少なくとも一種含有することを特徴とする液晶素子。
【化1】


〔上記一般式(I)中、Aは4価の有機残基を示し、R1、R2は炭素数1〜10のアルキル基、フルオロアルキル基を示す。但し、R1、R2は同じでも異なっていても良い〕
【請求項2】 有機配向膜に少なくとも一種含有されるポリイミドの平均分子量が10000以下であることを特徴とする請求項1記載の液晶素子。
【請求項3】 有機配向膜に少なくとも1種含有されるポリイミドの平均分子量が8000以下であることを特徴とする請求項1記載の液晶素子。
【請求項4】 前記液晶がカイラルスメクティック相を示す液晶であることを特徴とする請求項1記載の液晶素子。
【請求項5】 前記液晶がネマティック液晶であることを特徴とする請求項1記載の液晶素子。
【請求項6】 前記液晶が強誘電性液晶であることを特徴とする請求項1記載の液晶素子。
【請求項7】 前記有機配向膜が一軸配向処理されたものであることを特徴とする請求項1記載の液晶素子。
【請求項8】 請求項1〜7のいずれかに記載の液晶素子を備えたことを特徴とする液晶装置。
【請求項9】 表示装置であることを特徴とする請求項8記載の液晶装置。」(以下、「本件発明1」〜「本件発明9」という。)

3.特許異議申立理由について
3.1 特許異議申立人の主張
これに対して、特許異議申立人千野 肇は、甲第1号証として特開平5-281550号公報、甲第2号証として特開平5-216040号公報を提出し、本件の請求項1乃至9に係る発明は、甲第1号証或いは甲第2号証に記載された発明であるか、又は、甲第1号証或いは甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号、又は、同法第29条第2項の規定する要件を欠くものであり、さらに、本件特許明細書には記載不備があるから、当業者が容易に本件特許発明の実施をすることができず、本件出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、旨主張している。

3.2 甲各号証記載の発明
特許異議申立人の提出した甲第1号証(特開平5-281550号公報:以下、「刊行物1」という。)には、
「電極の形成された一対の平行基板間に液晶を挟持してなる液晶素子において、一対の基板のそれぞれに有機配向膜を形成し、且つ該有機配向膜が1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸無水物と2,2-ビス(p-(4-アミノフェノキシ)フェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンとから得られるポリアミド酸を加熱焼成して得られる、弗素原子を含有するポリイミド[1]一種と、ピロメリット酸二無水物と1,4-ビス(3-アミノプロポキシ)ブタンとから得られるポリアミド酸を加熱焼成して得られる、ポリイミド[2]一種とを含有することを特徴とし、大きい見かけのチルト角と高いコントラストを得ることができる液晶素子。」について記載されている(刊行物1の【請求項1】、【実施例3】、【表2】及び【0097】)。
ここで、「弗素原子を含有するポリイミド[1]」は、本件発明1の「一般式(I)で示される繰り返し単位を有するポリイミド」に包含されるものであり、「ポリイミド[2]」は、本件発明1の「重合体」に包含されるものであるから、刊行物1には、「電極の形成された一対の平行基板間に液晶を挟持してなる液晶素子において、一対の基板のそれぞれに有機配向膜を形成し、且つ該有機配向膜が一般式(I)で示される繰り返し単位を有するポリイミド一種と、重合体を一種含有することを特徴とする液晶素子。」が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。

同じく、甲第2号証(特開平5-216040号公報:以下、「刊行物2」という。)には、「電極の形成された一対の平行基板間に液晶を挟持してなる液晶素子において、一対の基板のそれぞれに有機配向膜を形成し、且つ該有機配向膜が【化4】の構造式(A)で示される繰り返し単位を有するポリアミド酸を加熱焼成して得られるポリイミド一種と、【化4】の構造式(B)で示される繰り返し単位を有するポリアミド酸を加熱焼成して得られるポリイミド一種と、を含有することを特徴し、大きなチルト角を生じ、高コントラストで、且つ残像を生じないディスプレイを達成できる液晶素子。」について記載されている(刊行物2の【請求項1】、【0015】、【実施例】及び【0063】)。
ここで、「構造式(A)のポリアミド酸を加熱焼成して得られるポリイミド」及び「構造式(B)のポリアミド酸を加熱焼成して得られるポリイミド」は、何れも本件発明1の「一般式(I)で示される繰り返し単位を有するポリイミド」に包含されるものであり、加えて、本件発明1において、当該ポリイミドと併用される「重合体」は、前記「一般式(I)で示される繰り返し単位を有するポリイミド」を除外していないことからみて、刊行物2には、「電極の形成された一対の平行基板間に液晶を挟持してなる液晶素子において、一対の基板のそれぞれに有機配向膜を形成し、且つ該有機配向膜が一般式(I)で示される繰り返し単位を有するポリイミド一種と、重合体を一種含有することを特徴とする液晶素子。」が記載されている(以下、「引用発明2」という。)。

3.3 対比・判断
3.3.1 特許法第29条に規定する要件について
(1)本件発明1について
本件発明1と引用発明1、2とを対比すると、両者は、「電極の形成された一対の平行基板間に液晶を挟持してなる液晶素子において、一対の基板のそれぞれに有機配向膜を形成し、且つ該有機配向膜が一般式(I)で示される繰り返し単位を有するポリイミド一種と、重合体を一種含有することを特徴とする液晶素子。」の点で一致するが、本件発明1では、「一般式(I)で示される繰り返し単位を有するポリイミド」については「平均分子量30000以下」と規定し、ポリイミドと併用される「重合体」については「平均分子量が30000を超える」と規定しているのに対して、引用発明1、2では、「一般式(I)に包含される繰り返し単位を有するポリイミド」及び ポリイミドと併用される「重合体」の各平均分子量については、格別規定していない点、で相違する。
この点について特許異議申立人は、本件特許明細書の記載からは「平均分子量が30000を超える重合体」を併用することにより、塗布性改善や一軸配向性調整に臨界的な効果があることは確認できないから、「平均分子量が30000を超える」の点に格別意味はなく、一方、引用発明1、2に係る配向膜は、本件発明1と同様、大きいプレチルト角および高いコントラスト比が達成できるのであるから、その「ポリイミド」と「重合体」の各平均分子量についても、本件発明1のそれと同じものが、刊行物1及び2に実質的に開示されていることになる、と主張する(特許異議申立書第8頁第8行〜第19行、第11頁第17行〜第12頁第2行)。
しかしながら、プレチルト角は、ラビング処理の強度等によっても変化するものであるから、引用発明1、2の配向膜が大きいプレチルト角および高コントラスト比を達成できるからといって、そのポリイミド配向膜の分子量が、本件発明1と同じである、とすることは無理がある。
他方、本件特許明細書の比較実験例の記載(【0029】及び【表3】)に徴すれば、「一般式(I)の平均分子量30000以下のポリイミド」を配向膜成分として使用することにより、長期保存における配向状態の劣化を防止できるという格別な効果が奏されていると認められる。
したがって、本件発明1が、刊行物1或いは刊行物2に記載された発明であるとすることができず、又は、刊行物1或いは刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

(2)本件発明2〜9に係る発明について
本件発明2〜9に係る発明は、本件発明1に係る発明を引用し、さらに構成要件を付加したものであるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1或いは刊行物2に記載された発明であるとすることができず、又は、刊行物1或いは刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

3.3.2 特許法第36条に規定する要件について
(1)特許異議申立人の特許法第36条違反の理由は、
「(a)本件特許明細書には平均分子量の測定法が具体的に記載されていないから、本件特許発明を容易に実施することができない。
(b)本件特許明細書の実施例13、14では、ポリアミック酸の分子量が記載されているだけで、それから得られるポリイミドの平均分子量は記載されていないから、実施例13、14が本件特許発明の実施例に相当するものか否か不明であり、当業者が容易に実施することができない。
(c)本件特許発明におけるポリイミドは溶媒に不溶であると思われるので、当業者が本件特許発明のポリイミドの平均分子量を測定することができず、したがって、本件発明を容易に実施することができない。」というものである。

(2)上記(a)について
本件特許明細書によれば、その「平均分子量」はゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)により求めた「数平均分子量」であることが明示され、実施例にはGPCの測定条件が具体的に説明されている(【0023】、【0041】及び【0082】〜【0087】)。

(3)上記(b)について
ポリイミドは、ポリアミック酸の加熱焼成による脱水閉環によって得られるため、ポリイミドの分子量は、前駆体であるポリアミック酸の分子量で示すことができる。したがって、実施例13、14の配向膜で用いられたポリイミドの平均分子量は、【表7】の実施例13、14の欄に記載されたポリアミック酸の分子量で示されている。

(4)上記(c)について
上述したように、ポリイミドの分子量は、前駆体であるポリアミック酸の分子量で示すことができ、該ポリアミック酸は溶媒(N-メチルピロリドン)に溶解してGPC測定用試料に供することができる。

(5)まとめ
したがって、本件特許明細書は上記(a)〜(c)の点で記載不備があるから当業者が容易に本件特許発明の実施をすることができない旨の特許異議申立人の主張は、その理由がない。

3.4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1〜9に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件の請求項1〜9に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-04-16 
出願番号 特願平7-115318
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G02F)
P 1 651・ 113- Y (G02F)
P 1 651・ 531- Y (G02F)
最終処分 維持  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 町田 光信
吉田 禎治
登録日 2001-03-16 
登録番号 特許第3168390号(P3168390)
権利者 キヤノン株式会社
発明の名称 液晶素子及びこれを用いた液晶装置  
代理人 山口 芳広  
代理人 豊田 善雄  
代理人 渡邉 敬介  

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