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審決分類 審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12N
管理番号 1059513
異議申立番号 異議1997-74476  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1985-04-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 1997-09-26 
確定日 2002-03-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2594533号「変異サブチリシンを製造する方法」の請求項1、4、5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2594533号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2594533号の発明についての出願は、昭和59年6月22日(パリ条約による優先権主張1983年6月24日、1984年5月29日、1984年5月29日、1984年5月29日、1984年5月29日、1984年5月29日、それぞれ米国)に出願され、平成8年12月19日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、ノボ ノルディスク アクティーゼルスカブより、特許異議の申立がなされ、平成9年12月4日付けで取消の理由の通知がなされ、平成9年12月18日に異議申立人より上申書が提出され、取消理由通知の延長された指定期間内である平成10年7月21日に特許権者より意見書が提出され、平成10年8月28日に特許権者より上申書が提出され、平成11年4月6日付けで異議申立人に対し審尋がなされ、平成11年7月27日に異議申立人より回答書が提出され、平成13年3月15日付で再度の取消理由通知がなされ、その延長された指定期間内である平成13年10月1日に訂正請求がなされ、平成14年2月21日付けで再々度の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年3月4日に訂正請求がなされ、先の訂正請求が取り下げられたものである。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
ア.特許請求の範囲の請求項1の「変化した活性を有する変異サブチリシンを製造する方法であって、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)サブチリシンまたはそのプレ酵素あるいはプレプロ酵素のAsn+155、Tyr+104、Met+222、Gly+166、Gly+169、Glu+156、Ser+33、Phe+189、Tyr+217およびAla+152に相当する、サブチリシン酵素、そのプレ酵素またはプレプロ酵素の1またはそれ以上の位置に突然変異をもたらし、その突然変異によって生じる酵素の望ましい活性の変化を調べることからなる方法。」を、「変化した活性を有する変異サブチリシンを製造する方法であって、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)サブチリシンまたはそのプレ酵素あるいはプレプロ酵素のMet+222、Gly+166、またはGly+169に相当する、サブチリシン酵素、そのプレ酵素またはプレプロ酵素の位置に突然変異をもたらし、その突然変異によって生じる酵素の望ましい活性の変化を調べることにより、それぞれSer+222もしくはAla+222に変異させて酸化安定性の増強した変異サブチリシンを製造するか、またはCys+222に変異させて至適pHの変化した変異サブチリシンを製造するか、あるいはAla+166もしくはLys+166に変異させて触媒効率が変化した変異サブチリシンを製造するか、またはAsp+166、Glu+166もしくはAsn+166に変異させて基質特異性が変化した変異サブチリシンを製造するか、あるいはAla+169もしくはSer+169に変異させて触媒効率が変化した変異サブチリシンを製造する方法。」と訂正する。
イ.特許請求の範囲の請求項2〜5を削除する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び独立特許要件
上記アの訂正事項に関連する記載として、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、Met+222に相当する位置をSer+222またはAla+222に変異させると酸化安定性の増強した変異サブチリシンが得られること(特許掲載公報35欄(18頁)41行〜36欄(18頁)15行、実施例17)、Met+222に相当する位置をCys+222に変異させると至適pHの変化した変異サブチリシンが得られること(特許掲載公報37欄(19頁)23〜35行、実施例19)、Gly+166に相当する位置をAlaまたはLys+166に変異させると、触媒効率の向上した変異サブチリシンが得られること(特許掲載公報36欄(18頁)及び37欄(19頁)、実施例18、表D)、Gly+166に相当する位置をAsp、GluまたはAsn+166に変異させると、基質特異性の変化した変異サブチリシンが得られること(特許掲載公報36欄(18頁)及び37欄(19頁)、実施例18、表D)、Gly+169に相当する位置をAla+169またはSer+169に変異させると、触媒効率が向上した変異サブチリシンが得られること(特許掲載公報37欄〜38欄(19頁)、実施例20、表E)が、それぞれ記載されている。そして、訂正前の請求項1は「変化した活性を有する変異サブチリシンを製造する方法」に係るものであり、訂正前の請求項1の末尾は「突然変異によって生じる酵素の望ましい活性の変化を調べることにより、変化した活性を有する変異サブチリシンを製造する方法。」と読み替えることができるから、上記アの訂正は、変化した活性を有する変異サブチリシンを製造するために突然変異をもたらすべき位置を、訂正前の「Asn+155、Tyr+104、Met+222、Gly+166、Gly+169、Glu+156、Ser+33、Phe+189、Tyr+217およびAla+152に相当する、サブチリシン酵素、そのプレ酵素またはプレプロ酵素の1またはそれ以上の位置」から訂正後の「Met+222、Gly+166、またはGly+169に相当する、サブチリシン酵素、そのプレ酵素またはプレプロ酵素の位置」に限定し、また、変化した活性を有する変異サブチリシンを「Ser+222もしくはAla+222に変異させて酸化安定性の増強した変異サブチリシン」、「Cys+222に変異させて至適pHの変化した変異サブチリシン」、「Ala+166もしくはLys+166に変異させて触媒効率が変化した変異サブチリシン」、「Asp+166、Glu+166もしくはAsn+166に変異させて基質特異性が変化した変異サブチリシン」および「Ala+169もしくはSer+169に変異させて触媒効率が変化した変異サブチリシン」に特定するものである。従って、上記アの訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、特許請求の範囲第1項の「突然変異をもたらす」位置を限定し、「変化した活性を有する変異サブチリシン」を特定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項の追加に該当しない。
上記イの訂正は、特許請求の範囲の請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであり、新規事項の追加に該当しない。
そして、上記いずれの訂正も実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、下記「3.異議申立についての判断」の項において詳述するように、訂正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けられるものである。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立についての判断
(1)申立の理由の概要
ア.申立人 ノボ ノルディスク アクティーゼルスカブは、下記の甲第1〜11号証を提出し、訂正前の請求項1に係る発明は、甲2〜7号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、甲2〜7号証に記載された発明、甲1号証及び甲2〜7号証に記載された発明、あるいは甲11号証及び甲1号証及び甲2〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、また、発明の詳細な説明が請求項1、4及び5に係る発明を当業者が容易に実施し得る程度に記載されておらず、請求項1、4及び5の記載が不明瞭であるから、特許法第36条の規定に違反して特許されたものであるため、請求項1、4及び5に係る発明の特許は取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:Handbook of Protein Sequence Analysis ,second Ed.(1980)
甲第2号証:Biochemistry,Vol.11,No.23(1972)p.4293?4303
甲第3号証:Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.Vol.36(1971)p.117?123
甲第4号証:Biochemistry,Vol.11,No.13(1972)p.2439?2449
甲第5号証:Journal of Biological Chemistry Vol.250,No.18(1975)p.7120?7126
甲第6号証:Journal of Biological Chemistry Vol.251,No.4(1975)p.1097?1103
甲第7号証:Carlsberg Res.Commun.Vol.41 No.5(1976)p.239?291
甲第8号証:Science,Vol.219(1983),p.666?671
甲第9号証:Nature No.299,No.21(1982)p.756?758
甲第10号証:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.79(1982)p.6409?6413 .
甲第11号証:Molecular Cloning A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory(1982),p.226?227,312?329
また、異議申立人は、審理の過程で以下の甲第12〜14号証を追加、提出し、当審は、取消理由通知に際し、文献1を追加、引用している。
甲第12号証:Trends in Biotechnology,Vol.1,No.3 p.80?84(1983年8月)
甲第13号証:Nature Vol.307,12,p.187?188(1984年1月)
甲第14号証:Nucleic Acid Research Vol.11,No.10,p.3113?3121(1983年10月)
文献1:Nucleic Acid Research Vol.11,No.22,p.7911?7925
(2)本件発明
訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)の要旨は、平成14年3月4日付けの訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認める。
(3)明細書の記載不備について
異議申立人は、訂正前の請求項1には、変異の部位は記載されているものの、いかなる変異を意図するか、アミノ酸の置換であるとすれば、各置換部位をいかなるアミノ酸により置換するかが記載されておらず、且つ望ましい活性の変化がいかなるものであるかについても記載されていないので、請求項1の記載が不明瞭であると主張し、訂正前の請求項4及び5は、記載事項の技術的意味が不明瞭である等の不備を有する旨を主張している。
これらについては、特許明細書が上述のとおり訂正され、請求項1に、各置換部位を置換するアミノ酸、及び、それにより生じる活性の変化が明記されるとともに、請求項4,5は削除されたので、明細書の記載不備は解消した。
(5)甲各号証及び引用文献1に記載された発明との対比・判断
異議申立人の提出した甲第1号証〜甲第14号証及び当審が引用した文献1のいずれにも、バチルス・アミロリクエファシエンス サブチリシンまたはそのプレ酵素あるいはプレプロ酵素において、Met+222に相当する位置、Gly+166に相当する位置、あるいはGly+166に相当する位置を、本件発明に規定された特定のアミノ酸に変異させた、変異サブチリチンについては記載されていない。そして、本件発明は、上記位置を上記特定のアミノ酸により置換することによって、それぞれ、サブチリチンの酸化安定性が増強され、あるいは至適pHが変化し、あるいは基質特異性が変化し、あるいは触媒効率が向上するという、甲各号証及び文献1の記載から予期しがたい効果を奏するものである。
従って、本件発明は、上記甲第1号証〜甲第14号証、または文献1に記載された発明とは認められず、また、上記甲各号証および文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。
(6)むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠によっては、本件発明を取り消すことはできない。
また、他に本件発明を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
変異サブチリシンを製造する方法
(57)【特許請求の範囲】
1.変化した活性を有する変異サブチリシンを製造する方法であって、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus Amyloliquefaciens)サブチリシンまたはそのプレ酵素あるいはプレプロ酵素のMet+222、Gly+166、またはGly+169に相当する、サブチリシン酵素、そのプレ酵素またはプレプロ酵素の位置に突然変異をもたらし、その突然変異によって生じる酵素の望ましい活性の変化を調べることにより、それぞれ
Ser+222もしくはAla+222に変異させて酸化安定性の増強した変異サブチリシンを製造するか、またはCys+222に変異させて至適pHの変化した変異サブチリシンを製造するか、あるいは
Ala+166もしくはLys+166に変異させて触媒効率が変化した変異サブチリシンを製造するか、またはAsp+166、Glu+166もしくはAsn+166に変異させて基質特異性が変化した変異サブチリシンを製造するか、あるいは
Ala+169もしくはSer+169に変異させて触媒効率が変化した変異サブチリシンを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
本発明は、適当な宿主中での組換え技術を用いた蛋白質の生産およびその処置に関するものである。さらに詳しくは、本発明はサブチリシンおよび中性プロテアーゼのような原核生物の(原核性)プロテアーゼを組換え微生物宿主を用いて生産する方法、微生物宿主により外来性蛋白質を合成させる方法、および酵素類の特性を改良するための、該酵素の方向づけられた変異誘発法に関するものである。
本発明の背景
多くの細菌類は、そのライフサイクルのある時期においてプロテアーゼを分泌することは知られている。桿菌類(Bacillus)は2つの主要な細胞外プロテアーゼ、中性プロテアーゼ(EDTAにより阻止されるメタロ(金属)プロテアーゼ)およびアルカリ性プロテアーゼ(即ちサブチリシン、セリン・エンドプロテアーゼ)を生産する。この両者は、その培養物が指数増殖期を過ぎ、定常期に入って胞子形成を開始すると、最も多量に生産される。これらの2つのプロテアーゼの生理学的役割は明らかでない。それらは、胞子形成において役割を果たしている(J.Hoch,1976,“Adv.Genet.”18:69-98;P.Piggotら1976,“Bact.Rev.”40:908-962;およびF.Priest,1977,“Bact.Rev.”41:711-753)、細胞壁の改変に関与している(L.Jolliffeら1980,“J.Bact.”141:1199-1208)、および捕捉酵素である(Priest,同上)などと推測されてきた。プロテアーゼ遺伝子の発現の調整は複雑である。胞子形成の初期の段階でブロックされたミュータントはアルカリ性および中性プロテアーゼ両者の生産量が少ないので、それらは胞子形成と関連して協調的に調整されていると思われる。さらに、プロテアーゼおよびその他の分泌される遺伝子生産物、例えばアミラーゼおよびレバンサッカラーゼ(priest,前記)の発現レベルに影響を与える多数の多形質発現ミューテーションが存在している。
サブチリシンは工業および商業的な応用範囲が非常に広い(米国特許第3623957およびJ.Millet,1970,“J.Appl.Bact.”33:207)。例えばサブチリシンおよびその他のプロテアーゼは通常洗剤として使用され、蛋白質に基づくしみを除去することができる。これらはまた、食品加工にも使用され、食品材料中に存在する蛋白質用物質を組成物中、所望の形にすることができる。
先行技術
照射および化学物質などの試剤および手段によって細菌を変異誘発させる典型的な方法により、プロテアーゼの分泌が起こる増殖期、そのタイミングおよび分泌されたプロテアーゼの活性レベルについて異なった性質を示す多血症のミュータント株が生産される。しかし、その変異誘発過程が基本的に不規則であり、所望の性質に近づいた微生物を同定するのに必要な選択およびスクリーニング法が冗長であるため、これらの株はその究極的な潜在能力に近づいていない。さらにこれらのミュータントはその親株、即ち野生型株に復帰することができる。このような場合には所望の性質は失われてしまう。不規則な変異誘発によって処理した場合、ミューテーションのタイプや部位は解からないか、あるいはほとんど特性化できないので、復帰の可能性も解からない。このことは酵素合成細菌に基づく工業的生産に著しい不安定を付与することになる。最後に、古典的な変異誘発法は、過度の未熟溶菌のような望ましくない性質を、例えばプロテアーゼレベルの低下のような望ましい表現形質と共に表すことが多い。
桿菌類によって分泌されるプロテアーゼに関しては特別の問題が存在している。その1つは、そのようなプロテアーゼは少なくとも2種存在しているので一方のみの欠落をスクリーニングすることが難しいことである。さらに、胞子形成およびプロテアーゼ生産の両者に影響を与える多数の多形質発現ミューテーションは、真のプロテアーゼミューテーションの分離を困難にする。
中性プロテアーゼ遺伝子の温度感受性ミュータントが通常の変異誘発技術により得られており、Bacillus subtilisのクロモゾーム(染色体)中の調節および構造遺伝子の位置を決めるのに使用されている(H.Ueharaら1979,“J.Bact.”139:583-590)。さらにアルカリ性プロテアーゼ遺伝子の推定のナンセンスミューテーションが報告されている(C.Roitschら1983,“J.Bact.”155:145-152)。
不活性なセリンプロテアーゼまたは非常に減少した濃度のセリンプロテアーゼを生産する桿菌の温度感受性ミュータントが単離されている。しかしこれらのミュータントは無胞子性であり、約10-7〜10-8の野生型への復帰頻度を示す(F.Priest同上719頁)。これらのミュータントは外来性蛋白質の組換体による生産には不適当である。と言うのは、無胞子性ミュータントは胞子形成ミュータントより最少培地中でのその増殖サイクルの初期の段階において溶菌する傾向があり、そのため細胞内容物(細胞内プロテアーゼを含む)が培養上清中に未成熟で放出されるからである。野生型復帰体は培養上清を、それが分泌したプロテアーゼで汚染するので、復帰の可能性を有することも望ましくない。
桿菌類(Bacillus sp.)は外来性蛋白質の発現用として提案されたが、分泌されたプロテアーゼが存在し、所望の生産物がそれによって強力に加水分解されるため、外来性蛋白質発現のための宿主として桿菌類を商業的に受け入れることが遅れてきた。胞子形成をすることができ、増殖期に胞子形成に関連してプロテアーゼを発現しないBacillus megateriumミュータントが報告されている。しかし採用された分析法は他のプロテアーゼ類の存在を除外しなかったし、問題のプロテアーゼは胞子形成期には発現される(C.Loshonら1982,“J.Bact.”150:303-311)。勿論これは、外来性蛋白質が培養中に蓄積し、傷つきやすい時期である。
本発明の目的
本発明の目的は、増殖サイクルのあらゆる時点において細胞外中性およびアルカリ性プロテアーゼを実質的に含んでおらず、実質的に正常な胞子形成特性を示す桿菌株を組立てることである。外来性(ヘテロローガス)または内性(ホモローガス)の蛋白質を発現するためのコピー数の高いプラスミドで形質転換し得る復帰不能の微生物、さもなくば正常なプロテアーゼを含んでいない微生物が要求されている。
入手し得るストックのものとは異なる性質を持った酵素類が要求されている。特に、強力な酸化安定性を有する酵素類は、洗濯物に使用されるプロテアーゼの漂白適合性および貯蔵寿命を延ばすのに有用であろう。同様に、酸化安定性の低いものは、酵素活性の迅速なかつ効率的な消滅を必要とする工業的生産において有用であろう。
酵素のpH活性プロフィルを改良することは、その酵素を各種のプロセスにおいてより有効にするのに役立つであろう。例えばプロテアーゼのpH活性プロフィルを拡げれば、アルカリ性および中性の洗濯物の両者に適した酵素が得られるであろう。このプロフィルを狭くすると、特に修正した基質特異性と一緒にすると、酵素は混合物中でより適合性のあるものとなるであろう(後述)。
原核生物のカルボニル水解酵素(原核性カルボニル水解酵素)(基本的にはプロテアーゼであるがリパーゼも含む)を突然変異させると、多種多様の水解酵素、特にKm、Kcat、Km/Kcat比および基質特異性において改良された特性を持ったものが得られる。これらの酵素は、例えばペプチド製造あるいは洗濯に使用するなどの加水分解工程において存在すると予測される特定の基質用に修正することができる。
酵素の科学的な改変は知られている。例えばI.Scindsen,1976,“Carlsberg Res.Commun.”41(5):237-291参照。しかしこれらの方法は、都合のよいアミノ酸残基が存在していることに依存しており、共通の側鎖を持ったすべての感受性の残渣を改良するという点において非特異的であることが多く、さらに、加工、例えば変性させることなく(これは一般に活性を再設立する上において完全に復帰不能である)、非感受性のアミノ酸残基に達することができないという欠点を有している。このような方法は1つのアミノ酸残基側鎖を他の側鎖または等価の機能体で置き換えることを目的としているので、その限りにおいては変異誘発法がこのような方法にとって代わることができる。
cys残基をセリンに変換することからなる、tRNA合成酵素の予定された、部位指定性の変異誘発法が報告されている(G.Winterら1982,“Nature”)299:756-758;A.Wilkinsonら1984,“Nature”307:187-188)。この方法は大規模な変異誘発には実際的ではない。本発明は飽和変異誘発(saturation mutagenesis)によりDNAを変異させるための簡便、迅速な方法を提供するものである。
本発明の要約
本明細書には、組換え宿主細胞中でサブチリシンおよび中性プロテアーゼのような原核生物のカルボニル水解酵素(カルボニルヒドロラーゼ)を生産する方法が記載されており、この方法はプロ、プレ、またはプレプロ型のこれらの酵素を含む所望のサブチリシンまたは中性プロテアーゼを暗号化している配列を含んだ発現ベクターを使って宿主を形質転換し、その宿主を培養し、所望の酵素を回収するものである。この暗号配列は後に詳述するように、天然のものと正確に対応している場合もあり、生産される蛋白質に望ましい性質を付与する改良部分を含んでいる場合もある。
次いでこの新規な株をこのような操作をしなければその宿主株中で発現されないポリペプチドを暗号化している少なくとも1つのDNA部分で形質転換し、その形質転換された株を培養し、ポリペプチドをその培養物から回収する。このDNA部分は、真核生物(酵母または哺乳動物)の蛋白質を暗号化しているDNAであってもよいが、通常は宿主桿菌遺伝子の方向づけられたミュータントである。この新規な株はまた、その宿主ゲノム以外の起源由来の細菌性遺伝子から発現される蛋白質、あるいはこれらの外来性遺伝子またはその宿主ゲノムからのホモローガス遺伝子を発現するベクターのための宿主としても役立つ。後者の場合、中性プロテアーゼまたはサブチリシンを含んでいないアミラーゼのような酵素が得られる。さらに、酵素的に活性なサブチリシンを含んでいない中性プロテアーゼを培養で得ることができ、またその逆も可能である。
原核生物のカルボニル水解酵素のためのクローンした遺伝子をコピー数の高いプラスミドに結合させ、親細胞に比べてはるかに高い収率でこの酵素を合成することができる。本明細書においてはまた、水解酵素の改変型を開示しており、これにはプロおよびプレプロチモーゲン型の酵素、そのプレ型、および方向づけられたそのミューテーションが含まれている。
蛋白質の暗号領域内のあらゆる部位において多数のミューテーションを迅速かつ効率的に生成させ得る飽和変異誘発のための好適な方法は以下の工程からなる:
(a)前駆体(プレカーサー)蛋白質の少なくとも一部を暗号化しているDNA部分を得、
(b)その部分内の領域を同定し、
(c)その領域内にすでに存在しているヌクレオチドをヌクレオチドで置き換えてその部分に特殊な少なくとも1種の制限酵素部位を作り、これにより、発現されたときにその領域によって暗号化されているアミノ酸を変えることなく、その同定された領域に対する特殊な制限部位を5’および3’に利用できるようにし、
(d)5’および3’末端に工程(c)で導入された制限酵素部位とアニーリングすることができる配列を含んでおり、該DNA部分に結合させた場合、該前駆体蛋白質が、その内部における少なくとも1個のアミノ酸が置換、欠落(切除)および/または挿入された形で発現されるような複数のオリゴヌクレオチドを合成し、
(e)その特異な部位を開裂し得る制限酵素で工程(c)のDNA部分を消化し、そして、
(f)工程(d)のオリゴヌクレオチドのそれぞれを工程(e)の消化した部分に結合させ、複数のミュータントDNA部分を得る。
上記の方法またはその他の既知の方法により、原核生物のカルボニル水解酵素を暗号化している分離したDNAにミューテーションを導入すると、そのDNAを発現した場合、水解酵素の予定された部位に少なくとも1個のアミノ酸の置換、欠落(切除)または挿入が起こる。この方法は野生型蛋白質のミュータントを作成するのに(この場合、「前駆体」蛋白質は野生型である)またはミュータントを野生型に返すのに(この場合「前駆体」はミュータントである)有用である。
前駆体酵素と異なる酸化安定性および/またはpH活性プロフィルを示すミュータント酵素を回収する。このようにして種々のKm、Kcat、Kcat/Km比を持ち、基質特異性を有する原核生物カルボニル水解酵素が得られる。
本発明方法によって得られるミュータント酵素を、常法により界面活性剤や洗浄剤と混合し、洗剤工業あるいはその他の洗浄技術分野において有用な新規な組成物を得ることができる。
図面の説明
第1は機能的B.amyloliquefaciens サブチリシン遺伝子の配列を示す模式図である。
第1図のAにおいてはB.amyloliquefaciens ゲノムの1.5kbフラグメント上に、プロモーターおよびリボソーム結合部位を含んだB.amyloliquefaciensのための全機能配列が存在している。
第1図のBはその暗号鎖のヌクレオチド配列を、蛋白質のアミノ酸配列と関連させて示している。そのDNA配列のプロモーター(p)、リボソーム結合部位(rbs)および終止(term)領域も示されている。
第2図はプール1(パネルA)およびプール2(パネルB)でそれぞれプローブした純化陽性クローンのレプリカ・ニトロセルロース・フィルターの結果を示すグラフである。
第3図はサブチリシン発現プラスミド(pS4)の制限分析を示している。pBS42ベクター配列(4.5kb)は実線で、挿入配列(4.4kb)は点線で示してある。
第4図はpBS42およびpS4で形質転換した培養物からの上清について行ったSDS-PAGEの結果を示すグラフである。
第5図はシャトルベクターpBS42の構成を示している。
第6図はB.subtilisサブチリシン遺伝子を含む配列の制限地図を示す模式図である。
第7図は機能的なB.subtilisサブチリシン遺伝子の配列を示す模式図である。
第8図はB.subtilisサブチリシン遺伝子の欠失ミュータントを得るための組立法を示す模式図である。
第9図はB.subtilis中性プロテアーゼ遺伝子の制限地図を示す模式図である。
第10図はB.subtilis中性プロテアーゼ遺伝子のヌクレオチド配列を示す模式図である。
第11図はB.subtilis中性プロテアーゼ遺伝子を含んでいるベクターの組立を示す模式図である。
第12、13および16図は本発明方法による変異誘発技術の具体例を示す模式図である。第12図中、1は野生型のDNA配列、2はΔp222DNA配列、3はKpnIおよびPstIで切断されたΔp222、4はオリゴヌクレオチドプールと結合した切断Δp222を示す。第13図中、1は野生型DNA配列、2はΔp166、3はSacIおよびXmaIIIで切断したΔp166、4はオリゴヌクレオチドプールに結合させた切断Δp166を示す。第16図はG-169飽和変異誘発を示しており、1は野生型DNA配列、2はΔp169DNA配列、3はKpnIおよびEcoRVで切断したΔp169、4はオリゴヌクレオチドプールに結合させた切断Δp169を示す。
第14図はサブチリシンミュータントの強化された酸化安定性を示すグラフである。図中、AはAla-222ミュータント、CはCys-222ミュータント、●はMet-222(WT)を示す。
第15図は野生型酵素と比較した場合のサブチリシンミュータントのpH活性プロフィルの変化を示すグラフである。○はC-222、●はWTである。
詳細な説明
原核生物のカルボニル水解酵素は、O=C-X結合(Xは酵素または窒素)を含んでいる化合物を加水分解する酵素である。これらには、基本的に加水分解酵素、例えばリパーゼ、およびペプチド加水分解酵素、例えばサブチリシンまたはメタロプロテアーゼなどが含まれる。ペプチド加水分解酵素には、α-アミノアシルペプチドヒドロラーゼ、ペプチジルアミノ酸ヒドロラーゼ、アシルアミノヒドロラーゼ、セリンカルボキシペプチダーゼ、メタロカルボキシペプチダーゼ、チオールプロテイナーゼ、カルボキシルプロテイナーゼおよびメタロプロテイナーゼなどが含まれる。セリン、メタロ、チオールおよび酸プロテアーゼも、エンドおよびエキソプロテアーゼと同様に含まれる。
サブチリシンは通常、蛋白質またはペプチドの内部ペプチド結合を開裂させるセリンプロテイナーゼである。メタロプロテアーゼは活性を現わすのに金属イオンのコファクター(副因子)が必要なエキソまたはエンドプロテアーゼである。
サブチリシンや中性プロテアーゼには多数の天然のミュータントが存在しており、これらは全て出発遺伝子材料のソースとして同等の効果で使用することができる。
これらの酵素およびその遺伝子は多くの原核生物から入手できる。好適な例はグラム陰性の微生物、例えばE.coliまたはシュードモナスおよびグラム陽性菌、例えばマイクロコッカスまたは桿菌(バチルス)である。
カルボニル水解酵素を暗号化している遺伝子は本明細書の一般的な方法に従って得ることができる。実施例から明らかなように、この方法は、問題の水解酵素領域を暗号化している推定配列を持った標識したプローブを合成し、この水解酵素を発現する微生物からゲノムライブラリーを調製し、そしてプローブに対するハイブリダイゼーションにより、問題の遺伝子についてこのライブラリーをスクリーニングすることからなる。次いで陽性のハイブリダイズしたクローンを位置づけ、配列を決定する。クローンした遺伝子を、宿主中での複製に必要な領域を持った発現ベクター(これもクローニングベクターであってよい)に結合させ、そのプラスミドを宿主にトランスフェクトして酵素を合成させ、その組換え宿主細胞を酵素合成に有利な条件下で、通常抗生物質の存在により与えられる選択圧の下で(これに対する耐性はベクターにより暗号化されている)で培養する。このような条件下で培養すると、形質転換されるのが親の微生物であっても、その野生型の親の微生物の酵素合成よりもはるかに高い効率で酵素が生産される。
「発現ベクター」とは、適当な宿主中でDNAを発現させ得る適当なコントロール(調節)配列に機能的に結合している(operably linked)DNA配列を含有しているDNA構成物を意味する。このようなコントロール配列には転写を司るプロモータ、このような転写を調節する、場合により存在するオペレータ配列、適当なmRNAリボソーム結合サイトを暗号化している配列および転写および翻訳の終了を支配する配列などが含まれる。ベクターはプラスミド、ファージ粒子または単に潜在的なゲノム挿入物であってよい。ベクターを適当な宿主に導入すると、このベクターは複製することができ、宿主ゲノムとは独立に機能し、またある場合にはそのゲノム自体に組み込まれることもある。本明細書において「プラスミド」と「ベクター」とは交換可能に使用することがある。それはプラスミドは現在において最も普通に使用されるベクターの形態であるからである。しかし、本発明は同等の機能を営む現在知られている、あるいは将来知られるであろう発現ベクターのあらゆる形をも包含するものである。
「組換え宿主細胞」とは、組換えDNA技術を使って組立てられたベクターで形質転換またはトランスフェクトされた細胞を意味する。本発明においては、組換え宿主細胞は、原核生物のカルボニル水解酵素を暗号化している発現ベクターによって形質転換されたものであるので、その水解酵素を種々の形で生産するものを意味する。この組換え宿主細胞は形質転換前に1つの形のカルボニル水解酵素を生産したものであってもよく、また、生産しなかったものであってもよい。
「機能的に結合」という用語を2つのDNA領域の関係について用いる場合、それらが互いに機能的に関連し合っていることを意味する。例えば1つのプレ配列を、もしそれが信号配列として機能するならば、ペプチドと機能的に結合させると、これは蛋白質の成熟型の分泌に関与しほとんどの場合、信号配列の開裂に関係する。プロモーターを暗号配列に機能的に結合させると、それはその暗号配列の転写を支配する。リボソーム結合サイトは、それを翻訳可能なように位置づけると、それは暗号配列と機能的に結合されたことになる。
「プロヒドロラーゼ」とは、酵素を不活性化する追加のN末端アミノ酸残基を含んでいる水解酵素であって、その残基が除去されたとき酵素となる水解酵素を意味する。多くの蛋白質分解酵素は変換性プロ酵素産物として天然に存在し、ポスト-翻訳産物が存在しないとこの形で発現される。
「プレ配列」とは、水解酵素の分泌に関与する、水解酵素のN末端部分に結合したアミノ酸の信号配列を意味する。プレ配列も、本明細書に記載した同じ方法で改変してもよく、これには予定したミューテーションを導入することが含まれる。水解酵素と結合すると、目的とする蛋白質は「プレヒドロラーゼ」になる。従って、本発明の目的に叶うプレヒドロラーゼはプレサブチリシンおよびプレプロサブチリシンである。プレヒドロラーゼは、プレプロ暗号領域から、「プロ」配列(あるいは酵素を不活性な状態に維持する、そのプロ配列の少なくともその部分)を削除し、次いでそのプレヒドロラーゼを発現させることにより生産される。このようにすると生物はプロ酵素ではなく活性酵素を分泌する。
このクローンしたカルボニルヒドロラーゼを使って、その水解酵素を発現させるために宿主細胞を形質転換する。既述したように、洗濯物におけるサブチリシンのように、水解酵素がその改変されない形で工業的に使用し得る場合には、このことは興味ある事実である。好ましい実施態様では、ヒドロラーゼ遺伝子はコピー数の高いプラスミドに結合させる。このプラスミドは宿主中で、それが以下に述べるようなプラスミドの複製に必要なよく知られた要素を含んでいるという意味において複製される:問題の遺伝子に機能的に結合したプロモーター(これは、もしそれが認識されるならば、すなわち宿主細胞によって転写されるならば、その遺伝子自身のホモローガスプロモーターとして供給されてもよい)、転写終了およびポリアデニル化領域(宿主細胞によって転写されたmRNAの、そのヒドロラーゼ遺伝子に対する安定性のために必要である)(これは外来性であるかまたはそのヒドロラーゼ遺伝子の内性終止領域によって供給される)および望ましくは抗生物質含有培地中で、プラスミドで感染された宿主細胞の増殖を連続的に維持し得る抗生物質耐性遺伝子のような選択遺伝子。コピー数の多いプラスミドは、また宿主のための複製起源を含んでおり、これにより染色体の制限を受けることなく細胞質内で多数のプラスミドが生成する。しかし、ヒドロラーゼ遺伝子の複数のコピーを宿主ゲノムに組込むことも本発明の範囲に含まれる。これはホモローガスな組換えに特に感受性のある細菌株によって促進される。得られた宿主細胞は組換え宿主細胞と呼ばれる。
カルボニルヒドロラーゼ遺伝子をクローンしたら、その遺伝子の用途を野生型または前駆体酵素の合成を凌駕して強化するために種々の改変を行う。前駆体酵素は、本明細書に記載した方法で改変する前の酵素である。通常この前駆体は、この方法に従って改変されたDNAを付与した微生物によって発現される酵素である。本発明でいう「前駆体」とは、前駆体酵素それ自体を操作することにより生成酵素を作る時の前駆体を意味するものではないと解すべきである。
この改変の最初のステップとして、ホモローガス遺伝子を含んでいる組換え陽性(rec+)微生物からその遺伝子を削除してもよい。これはクローンした遺伝子のインビトロ欠失ミューテーションを微生物のゲノムと組換えることにより達成することができる。E.coliや桿菌のように多くの微生物株が組換え可能であることが知られている。必要なのは、候補宿主のホモローガス領域と組換えられる欠失ミュータントからの残りのDNAの領域である。この欠失は暗号領域内であってもよく(酵素的に不活性なポリペプチドを残す)あるいはまたホモローガスな境界領域(例えばプロモーターまたは終止領域)が宿主に存在する限りは全暗号領域を含んでいてもよい。宿主が欠失ミュータントとの組換えを受け入れたかどうかは、形質転換された表現形質の欠失についてスクリーニングすることにより決定される。これは、カルボニルヒドロラーゼの場合には、本来水解酵素によって加水分解される染色体性の基質を開裂する能力を失っているかどうかを宿主培養物について分析することにより容易に達成することができる。
プロテアーゼ欠失ミュータントを含んだ形質転換宿主は、蛋白質分解酵素と適合しない生産物を合成するのに有用である。このような宿主は、ここに記載した欠失プロテアーゼを分泌することはできないが、事実上正常に胞子形成を行う。さらに、この形質転換体のその他の増殖特性は親の微生物と実質的に同じである。このような微生物は、その親細胞よりも外来性蛋白質の不活性化において活性が低く、そしてこれらの宿主は、既知のプロテアーゼ欠失微生物よりも優れた増殖特性をも持っているという点で有用である。しかし、本発明方法に従って中性プロテアーゼおよびサブチリシンを欠失させるということは、桿菌のすべての蛋白質分解活性を除去するということではない。通常細胞外には分泌されない細胞内プロテアーゼは培養の後期には「漏れ」たりまたはその細胞から拡散すると考えられている。これらの分子内プロテアーゼは、それらの酵素がここで定義されているように、サブチリシンまたは中性プロテアーゼであってもよく、そうでないかもしれない。従って本発明の新規な桿菌株は、通常その親株において細胞外に分泌されるサブチリシンおよび/または中性プロテアーゼ酵素を分泌することができない。「できない」とは野生型に復帰しないことを意味する。復帰は従来知られているプロテアーゼを欠落した天然株に関して存在している有限の可能性である。というのは、このような株の表現形質は容易に復帰し得るミューテーション、例えば点変異の関数ではないという保証はないからである。これを本発明で提供する極めて大きな欠失と比較すべきである。
本発明に係る欠失ミュータント-形質転換宿主細胞は、第1図,第7図または第10図に示した遺伝子と実質的に相同であると定義される遺伝子であって、酵素的に活性な中性プロテアーゼまたはサブチリシンを暗号化している遺伝子を含んでいない。「相同」な遺伝子は、第1,7または10図に示した遺伝子と、極めて厳密な条件下でハイブリダイズし得る暗号領域を含んでいる。
カルボニルヒドロラーゼ欠失ミュータントを含んでいる微生物株は2つの基本的なプロセスにおいて有用である。1つの態様では、通常宿主によって発現される、その欠失遺伝子によって暗号化された蛋白質で汚染されていないことが望ましい生産物を発酵生産するのに好都合である。1つの例はアミラーゼの発酵合成であり、この場合不純物としてのプロテアーゼがアミラーゼの工業的使用において各種の妨害をする。本発明に係る新規な株は、このような生産物から夾雑カルボニルヒドロラーゼを除去するという負担を軽減させるものである。
2番目の重要な実施態様では、サブチリシンおよび中性プロテアーゼ欠失-ミュータント株は、本来その株によって暗号化されていない蛋白質を合成するのに有用である。これらの蛋白質は2つのクラスの何れかである。最初のクラスは宿主のそれと実質的な形質転換前の相同性を示さない遺伝子によって暗号化されている蛋白質からなる。これらはその他の原核生物からの蛋白質であってもよいが、しかし通常は、酵母または高等な真核生物、特に哺乳類からの真核性蛋白質である。発現されたホモローガスでない蛋白質を原核生物が分解する可能性が減少するので、本発明に係る新規な株は、そのような蛋白質を暗号化している遺伝子を含有している発現可能なベクターのための有用な宿主として役立つのである。
第2のグループは、宿主のそれと実質的に形質転換前相同性を示すミュータント宿主遺伝子からなる。これには微生物のもの(レンニン、例えばムコール属からのレンニン)と同様、サブチリシンおよび中性プロテアーゼのような原核生物のカルボニルヒドロラーゼのミューテーションが含まれる。これらのミュータントは、工業的に使用するための前駆体酵素の性質を改善するために選択される。
本発明方法はこのようなミュータントの組立ておよび同定を行う新規な方法を提供するものである。まず、ヒドロラーゼを暗号化している遺伝子を得、その全部あるいは一部の配列決定を行う。次いでその配列を精査して、発現される酵素の1もしくはそれ以上のアミノ酸のミューテーション(削除、挿入または置換)を作成するのに望ましい場所を決定する。この点に接している配列に、発現されたときに各種のミュータントをコードすることになるオリゴヌクレオチドプールでその遺伝子の短いセグメント(断片)を置換するための制限サイトが存在しているかどうかを評価する。選択された点から好適な距離(10〜15ヌクレオチド)内の場所に特異な制限部位は通常存在しないので、その遺伝子のヌクレオチドを、最終的な組立て物において解読枠も暗号化されているアミノ酸も変化しないように、置換することによってそのような部位を生成させる。好適な隣接領域の位置づけ、および必要な変化を評価して2つの特異な制限部位配列に到達するための仕事は、遺伝暗号の重剰性、その遺伝子の制限酵素地図および多数の異なった制限酵素によって常法通り行う。もし、偶然に1つの隣接する特異な制限部位が利用できるような場合には、上の方法はその部位を含有してない隣接領域に関してのみ使用する。
その配列を変化させ所望の配列にするための遺伝子のミューテーションは、常套の方法に従ってM13プライマーエクステンション(延長)によって行う。この遺伝子をクローンしたら、それを特異な制限酵素で消化し、多数の最終的な末端相補性オリゴヌクレオチドカセットをその特異な部位に結合させる。オリゴヌクレオチドは全て同じ制限部位を持つように合成することができ、かつ、制限部位を作成するのに合成リンカーが必要でないので、この方法によって変異誘発が極めて単純化される。
問題の遺伝子中に存在していない部位を持った市販の制限酵素の数は非常に多い。適当なDNA配列コンピューターサーチ・プログラムを使用すれば潜在的な5’および3’特異隣接部位を見出すのが簡単になる。基本的な制約は、制限部位の作成で導入されるミューテーションは全て最終的に組立てられたアミノ酸暗号配列に対してサイレントでなければならないということである。標的コドンに対して5’の候補制限部位については、配列は、その候補酵素の切断に対して5’の認識配列中に少なくとも、1つを除く全てのヌクレオチドを含んでいる遺伝子内に存在していなければならない。例えば、もし近くの5’配列がNCC、CNCまたはCCNを含んでいるならば、平滑切断酵素SmaI(CCC/GGG)が5’候補となるだろう。さらに、もしNをCに変えなければならない場合、この変換はアミノ酸暗号配列を無傷にしておかなければならない。制限部位を導入するのに永久的なサイレントミューテーションが必要な場合、滅多に使用しないコドンの導入を避けたいと考えるであろう。SmaIについての同様の状況が、配列NGG、GNG、またはGGNが存在しなければならないことを除いて3’隣接部位に適用される。候補酵素を位置づけるためのこの制限は、平滑切断酵素については最も緩和であり、4塩基突き出し酵素については最も厳格である。一般に多くの候補部位を利用することができる。ここに述べたコドン-222標的については、KpnI部位から1塩基対5’にBalI部位(TGG/CCA)を手術することができた。3’EcoRV部位(GAT/ATC)はPstI部位に向かって11塩基対5’を使用することができた。平滑末端から4塩基突き出しに渡る末端を持ったカセットは容易に機能するであろう。回顧すると、この仮定のEcoRV部位は使用したオリゴヌクレオチドカセットを極めて短くし(9および13塩基対)、かくして純度を上げプールバイアスの問題を低くしたことであろう。オリゴヌクレオチドカセットの結合が一方向に保証され得るように隣接部位はそれ自体が結合できないものを選択すべきである。
ミューテーション自体は予め決定する必要はない。例えばオリゴヌクレオチドカセットまたはフラグメントはニトロソグアニジンあるいはその他の突然変異誘発物質で無秩序に変異誘発させ、それを予め決められた場所でヒドロラーゼ遺伝子に結合させる。
適当な宿主に形質転換することによって発現されたミュータントカルボニルヒドロラーゼは、所望の特性、例えば基質特異性、酸化安定性、pH活性プロフィルなどを示す酵素についてスクリーニング(選択)する。
基質特異性の変化は、前駆体酵素のKcat/Km比とそのミュータントのそれとの違いによって決められる。Kcat/Km比は触媒効率の大きさを現している。Kcat/Km比が増加または減少した真核生物のカルボニルヒドロラーゼについては実施例に記載してある。一般に目的とするところは、与えられた基質に対して大きなKcat/Km比(数字で言えば大きな比)を持ったミュータントを確保することであり、これによって標的基質に対して酵素をより効率よく使用することができるのである。ある基質に対してKcat/Km比が増加すると別の基質に対するKcat/Km比が減少するということがある。これは基質特異性のシフトであり、このようなシフトを示すミュータントは、前駆体が望ましくない場合に利用価値があり、例えば基質混合物中の特定の基質の望ましくない加水分解を防止することができる。
KcatおよびKmは既知の方法あるいは実施例18に記載の方法に従って測定する。
酸化安定性は、実施例に記載したミュータントによって達成されるもう1つの目標である。この安定性は各種の使用目的に応じて強化したり減少したりすることができる。安定性は1もしくはそれ以上のメチオニン、トリプトファン、システインまたはリジン残基を削除し、場合によりメチオニン、トリプトファン、システインまたはリジンの1つではない他のアミノ酸残基で置換えることにより強化される。その反対の置換を行うと酸化安定性が減少する。置換された残基は好ましくはアラニルであるが中性残基も好適である。
改変されたpH活性プロフィルを示すミュータントも得られる。pH活性プロフィルは酵素活性に対するpHのプロットであり、実施例19に例示したように、あるいは既知の方法で作成することができる。より広いプロフィルを持ったミュータント、すなわちあるpHにおいてその前駆体よりも強い活性を有するが、如何なるpHにおいても顕著に強い活性を示さないミュータントあるいはより鋭いプロフィルを持ったミュータント、すなわちある一定のpHではその前駆体と比べて強い活性を有するがその他のpHではより低い活性を持ったミュータントを得るのが好ましい。
上記のミュータントは好ましくはその酵素の活性部位内で調製する。と言うのはこれらのミューテーションは活性に最も影響を与えそうであるからである。しかし酵素の安定性または形態にとって重要なその他の部位でのミュータントも有用である。桿菌のサブチリシンまたはそのプレ、プレプロおよびプロ型の場合、チロシン-1、アスパルテート+32、アスパラギン+155、チロシン+104、メチオニン+222、グリシン+166、ヒスチジン+64、グリシン+169、フェニルアラニン+189、セリン+33、セリン+221、チロシン+217、クルタメート+156および/またはアラニン+152におけるミューテーションによって上記の特性またはその酵素のプロセシングにおいて変化したミュータントが得られる。これらのアミノ酸の位置番号は第7図から明らかなように、B.amyloliquefaciensのサブチリシンに対して決められたものである。削除または挿入を行うと与えられた位置からN末端方向において対応するアミノ酸の位置がシフトし、残部はその元の位置すなわち野生型の位置番号を取らなくなることは理解されるであろう。また、対立遺伝子の違いおよび各種の原核生物種の中での変動によって位置のシフトが起こり、従ってそのようなサブチリシンの位置169はグリシンでは占められなくなるであろう。このような場合グリシンの新しい位置は、グリシン+169という定義で表わされ、その範囲に包含される。グリシン+169に対する新しい位置は第7図のグリシン+169に相同な領域について問題のサブチリシンを精査することにより容易に同定される。
1もしくはそれ以上のアミノ酸残基、通常約10個までのアミノ酸残基を変異させ得る。しかし商業的な実際性を除けばミューテーションの数に制限はない。
本発明の酵素は塩の形で得ることもできる。蛋白質のイオン化状態は、もしそれが溶液中にある場合は、その周囲の媒質のpHに依存し、もしそれが固状の形である場合はそれが調製された溶液のpHに依存することは明らかである。酸性の蛋白質は通常、例えばアンモニウム塩、ナトリウム塩またはカリウム塩として調製され、塩基性蛋白質は塩酸塩、硫酸塩または燐酸塩として調製される。従って、本発明はカルボニルヒドロラーゼの電気的に中性のもの、および塩の形のものの両者を含み、カルボニルヒドロラーゼという用語はイオン化状態に関係なく有機化学の基本的な構造をさすものとする。
本発明のミュータントは特に食品加工および洗浄技術において有用である。ミュータントを包含するこのカルボニルヒドロラーゼは本明細書に記載した発酵法により製造され適当な記述で回収される(例えば、K.Anstrup,1974,Industrial Aspects of Biochemistry,ed.B.Spencer 23-46頁参照)。これらは自体既知の方法で洗剤または他の界面活性剤と共に製剤化され、工業的過程、特に洗剤技術において使用される。後者の場合、この酵素は蛋白質分解酵素の分野でよく知られているように洗剤、ビルダー、漂白剤および/または蛍光漂白剤と混合する。好適な洗剤には直鎖状アルキルベンゼンスルホネート、アルキルエトキシ化サルフェート、硫酸化直鎖状アルコールまたはエトキシ化直鎖状アルコールなどが含まれる。この組成物は粒状または液状に製剤化することができる(例えば米国特許3623957号、4404128号、4381247号、4404115号、4318818号、4261868号、4242219号、4142999号、4111855号、4011169号、4090973号、3985686号、3790482号、3749671号、3560392号、3558498号および3557002号参照)。
以下に本発明の実施態様を記載するが本発明はこれによって限定されるものと解釈してはならない。
実験操作における用語の解説
実施例を簡単にするために、度々使用する方法は簡単な用語によって表わす。
プラスミドは大文字および/または数値を前および/または後に付けた小文字のpで表わす。本発明で使用する出発プラスミドは市販されているか、無制限に利用可能であるか、あるいはそのような入手可能なプラスミドから既知の方法に従って組立てることができる。
「Klenow 処置」とは、2本鎖DNAの凹んだ3’末端を、ヌクレオチドに相補的なデオキシリボヌクレオチドで満たして、そのDNA鎖の突出した5’末端を作成する過程を言う。この方法は通常DNAの制限酵素開裂によって生成した凹んだ末端を満たすのに使われる。これによってその後の結合に必要な平滑末端が作られる。Klenow 処置は、触媒的に活性な量の(通常10単位)E.coli DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメント(「Klenow」)の存在下、満たすべきDNAと適当な相補的デオキシリボヌクレオチドと反応させることにより(通常15℃で15分間)達成される。Klenowおよびその他の必要な試薬は市販されている。この方法については多数の報告がある(例えば、T.Maniatisら1982 Molecular Cloning 107-108頁参照)。
DNAの「消化」とは、そのDNAのある部位だけに作用する酵素によってそのDNAを触媒的に開裂することをいう。このような酵素は制限酵素と呼ばれ、それぞれの酵素に特異な部位を制限部位と呼ぶ。「部分的」消化とは制限酵素による不完全な消化を意味し、DNA基質中の、与えられた制限エンドヌクレアーゼの開裂部位の幾つかが開裂されるが、全てが開裂されないような条件を選んで行われる。本発明で使用した各種の制限酵素は市販されており、その反応条件、コファクターおよびその他の必要な事項は、その酵素の供給者によって確立されたものを使用した。制限酵素は通常、大文字およびそれに続くその他の文字および通常その制限酵素が初めて得られた微生物を表わす番号で構成される略号によって表わされる。通常、約1μgのプラスミドまたはDNAフラグメントは、約20μlの緩衝液中約1単位の酵素と共に使用される。個々の制限酵素に対する適当な緩衝液および基質の量は製造業者によって指示されている。通常インキュベーション時間は37℃で約1時間であるが、製造業者の指示に従いそれを変えることもできる。インキュベーションの後、蛋白質をフェノールおよびクロロホルムによる抽出で除き、消化した核酸をエタノールを用いた沈殿によって水性フラクションから回収する。制限酵素で消化した場合DNAフラグメントの2つの制限開裂末端が「環化」、すなわち閉じた環を形成するのを防ぐために、細菌性アルカリホスファターゼで末端の5’燐酸を加水分解する操作を行う。環化が起こるとその制限部位に別のDNAフラグメントが挿入するのが妨げられる。特に指摘しない限り、プラスミドの消化は5’末端の脱燐酸化を伴っていないと解釈すべきである。脱燐酸化の方法および試薬は通常のものである(T.Mniatisら前記133-134頁参照)。
制限消化物から、DNAのある特定のフラグメントを「回収」または「分離」するとは、消化物を6%のポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、分子量によって所望のフラグメントを同定し(マーカーとして分子量の解かっているDNAフラグメントを使用する)、所望のフラグメントを含んでいるゲル断片を切り取り、DNAからゲルを分離することを言う。この方法は一般に知られている(例えば、R.Lawn ら1981,“Nucleic Acids Res.”9:6103-6114およびD.Goeddelら(1980)“Nucleic Acids Res.”8:4057参照)。
「サザーン分析」とは、消化物またはDNA含有組成物中のDNA配列の存在を、既知の標識化(ラベル)したオリゴヌクレオチドまたはDNAフラグメントとハイブリダイズさせることにより確認する方法を言う。本発明においてはサザーン分析とはG.Wahlら1979,“Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.”76:3683-3687に記載された方法により1%アガロース上で消化物を分離して脱プリン化(depurination)し、E.Southern,1975,“J.Mol.Biol.”98:503-517の方法でニトロセルロースに転移させ、そしてT.Maniatis ら1978,“Cell”15:687-701に記載の方法でハイブリダイゼーションを行うことを意味する。
「形質転換」とは、DNAが染色体外要素または染色体組込体として複製可能なように、DNAを生物に導入することを意味する。特に指摘しない限り、本発明で使用した方法は、E.coli の形質転換についてはMandel ら1970,“J.Mol.Biol.”53:154のCaCl2法であり、桿菌については、Anagnostoplous ら1961,“J.Bact.”81:791-746の方法による。
「結合(ライゲーション)」とは、2本鎖核酸フラグメントの間にホスホジエステル結合を形成させることを言う(T.Maniatis ら前記146頁)。特に指摘しない限り、結合は既知の緩衝液および条件を使って、ほぼ当モル量の結合すべきDNAフラグメント0.5μg当たり10単位のT4DNAリカーゼ(「リカーゼ」)を用いて行う。形質転換体からプラスミドを調製し、制限地図を作成して分析し、そして/またはMessing ら1981,“Nucleic Acids Res.”,9:309の方法により配列決定する。
形質転換体からのDNAの「調製」とは、微生物培養液からプラスミドDNAを分離することを言う。特に指摘しない限りManiatis ら(前記、90頁)のアルカリ/SDS法を使用した。
「オリゴヌクレオチド」とは、Crea らの方法(1980,“Nucleic Acids Res.”8:2331-2348)によって化学的に合成し(但し縮合剤としてメシチレンニトロトリアゾールを使用した)、次いでポリアクリルアミドゲルで精製した短い1本鎖または2本鎖ポリデオキシヌクレオチドを言う。
全ての文献を参考として明細書に記載した。
実施例1 B.amyloliquifaciens からゲノムDNAライブラリーの調製およびサブチリシン遺伝子の分離
細胞外B.amyloliquifaciens の既知のアミノ酸配列により適当なブローブ混合物の組立てが可能である。成熟サブチリシンの配列が第1図に記載されており、これには本発明者らにより見出されたその他の情報も含まれている。117位から121位までのアミノ酸の配列に対する全てのコドンの多義性は以下の配列の8つのオリゴヌクレオチドのプールでカバーされる:

J.Marmur,“J.Mol,Biol.”3:208により記載されているB.amyloliquifaciens (ATCC No.23844)から分離した染色体DNAをSau 3Aで部分消化し、フラグメントを大きさで選択し、脱燐酸化したpBS 42のBamH1部位に結合させた(pBS42は、E.coli および桿菌の両者で機能的な複製起源を含んでいるシャトルベクターである。これは実施例4に記載の方法で調製する)。コンピテント細胞250μl当たり80〜400ng(ナノグラム)のライブラリーDNAを用い、M.Mandel ら1970,“J.Mol.Biol.”53:154の方法に従って、ベクターを含有するこのSau 3AフラグメントをE.coli K12株294(ATCC No.31446)に導入した。
形質転換混合物からの細胞を、LB培地+12.5μg/mlのクロラムフェニコールを含有するプレート150mm当たり1〜5×103形質転換体の密度になるように置き、肉眼で観察できるコロニーが現れるまで37℃で一夜増殖させた。次いでこのプレートを、LB/クロラムフェニコールプレート上に積層したBA85ニトロセルロースフィルター平板反復法でプリントした。この平板反復プレートを37℃で10〜12時間増殖させ、フィルターをLBおよび150μg/mlのスペクチノマイシンを含有している新しいプレートに移し、プラスミドプールを増幅させた。
37℃で一夜インキュベートした後、Grunstein およびHogness の方法(1975,“Proc.Natl.Acad,Sci.(USA)”72:3961)によりフィルターを処理した。成功した形質転換体約20,000の内、陽性コロニーは25個であった。これらの陽性コロニーの内8個を画線し、個々のクローンを純化した。各画線から24のコロニーをマイクロタイターウェル中で増殖させ2枚の反復フィルター上にスタンプし、1個のヌクレオチドだけが異なっている以下のもの:

の何れかを用いて上記した方法でプローブした。
第2図に示したように、プール1はプール2よりもはるかに高い割合で全ての陽性クローンとハイブリダイズし、特異なハイブリダイゼイションを暗示した。
陽性クローンからのミニプラスミド標品(Maniatis ら、前記)5個の内4個は、Sau 3AまたはHincIIで消化すると同一の制限消化物パターンを示した。Maniatis ら(前記)の方法により、これらの4つの同一のコロニーの1つから分離したプラスミドは全て正しい遺伝子配列を持っており、これをpS4と命名した。制限分析により決定したこのプラスミドの特徴を第3図に示す。
実施例2
サブチリシン遺伝子の発現
Bacillus subtilis I-168(カタログNo.1-A1,Bacillus Genetic Stock Center)をpS4で形質転換し、1個のクロラムフェニコール耐性形質転換体を最少培地で増殖させた。24時間後、培養物を遠沈し、上清(10〜200μl)およびペレットを、0.1M燐酸ナトリウム(pH8.0)中25℃で染色体基質サクシニル-L-ala-ala-pro-phe-p-ニトロアニリド(0.2μM)1mlを使って412nmにおける1分当たりの吸収の変化を測定することにより、蛋白質分解活性を分析した。対照(コントロール)として使用したpBS42で形質転換したB.subtilis I-168培養物は、pS4で形質転換した培養物の活性の1/200以下の活性を示した。pS4培養物のプロテアーゼ活性の95%以上が上清に存在しており、これはフェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)で処理すると完全に阻害されたがEDTAでは阻害を受けなかった。
上清の一部をPMSFおよびEDTAで処理し、全てのプロテアーゼ活性を阻害し、Laemmli,U.K.,1970“Nature”,227:680の方法に従って、12%SDS-PAGEにより分析した。この上清を調製するために、16μlの上清を1mM PMSF、10mM EDTAで10分間処理し、4μlの5×濃SDS試料緩衝液マイナスβ-メルカプトエタノールと共に煮沸した。
pS4、pBS42で形質転換した細胞および形質転換しなかったB.amyloliquefaciens の上清を使った泳動上のCoomassie 染色の結果を第4図に示す。レーン3はB.amyloliquefaciens からの標準品としてのサブチリシンを示している。pBS42で形質転換したB.subtilis からの上清である2レーンには、pS4形質転換宿主からのレーン1によって示されるサブチリシンに伴っている31,000MW(分子量)帯(バンド)がなかった。サブチリシンについての約31,000MWのバンドは、一般に既知の分子量27,500のサブチリシン標準品によって示される遅い移動率の特徴である。
実施例3 B.amyloliquefaciensサブチリシン遺伝子の配列決定
pS4のEcoRI-BamHIフラグメント(ここでEcoRI部位はHincII部位の変換により組立てられた)の全配列を、F.Sangerの方法(1977,“Proc.Batl.Acad.Sci(USA)”,74:5463)により決定した。第3図の制限地図を参照すると、BamHI-PvuIIフラグメントはサザーン分析によりプール1のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズすることが解った。このフラグメントの配列決定により得られたデータから残りのフラグメントの配列が決定された(例えばPvuII-HincIIおよびAvaI-AvaI)。この結果を第1図に示す。
この配列を調べることにより、B.amyloliquefaciensによって分泌されたものに相当する成熟サブチリシンのためのコドンが存在することが確認された。
この配列のすぐ上流に-107位のGTG開始コドンから始まる一連の107個のコドンが存在する。-107のコドンから約-75のコドンまでが既知の信号配列のそれに相当する特徴を持ったアミノ酸配列を暗号化している(大部分のこのような信号配列は長さ18〜30のアミノ酸であり、疎水性中心部を持っており、僅かな疎水性アミノ酸で終っている)。従って配列決定のデータの結果は-107から約-75のコドンが信号配列を暗号化しており、-75から-1までの残りの介在コドンはたぶんプロ配列を暗号化していると思われる。
実施例4 pBS42の組立
pBS42は、pUB110、pC194およびpBR322から導かれたフラグメントの三方向ライゲーションにより調製する(第5図)。pUB110からのフラグメントは、1900位のHpaII部位と4500位のBamHI部位との間の約2600塩基対フラグメントであり、Bacillus(桿菌)中で機能する複製起源を含んでいる(T.Grycztanら1978“J.Bacteriol.”,134:318(1978);A.Jalankoら1981“Gene”,14:325)。このBamHI部位はKlenowで試験した。pBR322部分は、2067位のPvuII部位と3223位のSau3A部位との間の1100塩基対のフラグメントであり、E.coli複製起源を含んでいる(F.Bolivarら1977,“Gene”,2:95:J.Sutcliffe,1978Cold Spring Garbor Symposium43:I,77)。pC194フラグメントは973位のHpaII部位と2006位のSau3A部位との間の1200塩基対フラグメントでありE.ColiおよびB.subtilisの両方で発現し得るクロラムフェニコール耐性のための遺伝子を含んでいる(S.Ehrlich,“Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)”,74:1680;S.Horynuchiら1982,“J.Bacteriol.”150:815)。
このようにpBS42はE.coliおよび桿菌の両者で機能する複製起源およびクロラムフェニコール耐性のための発現し得る遺伝子を含んでいる。
実施例5 B.subtilisサブチリシン遺伝子の分離および配列決定
B.subtilis I168染色体DNAをEcoRIで消化し、そのフラグメントをゲル電気泳動にかけた。1個の6kbフラグメントが「α-32p」CTPニック・トランスレーション-上記のpS4のサブチリシン構造遺伝子のC末端から得られた標識フラグメント-にハイブリダイズした。この6kbフラグメントを電気溶出し、EcoRIで消化し細菌性アルカリホスファターゼで処理したpBS42に結合させた。この結合混合物でE.coli ATCC 31446を形質転換し、形質転換体を、12.5μgのクロラムフェニコール/mlを含有しているLB寒天上で増殖させて選択した。5000個の形質転換コロニーのプールした懸濁液からプラスミドDNAを調製した。このDNAを、プロテアーゼ欠落株であるB.subtilis BG84(この調製法は実施例8に記載してある)に導入した。プロテアーゼを生産するコロニーを、LB寒天プラス1.5%(w/w)カーネーション粉末脱脂スキムミルクおよび5μgクロラムフェニコール/ml(以降スキムミルク選択プレートと言う)上に置き、蛋白分解活性を示す澄明な部分を観察することによりスクリーニングした。
プラスミドDNAをプロテアーゼ生産コロニーから調製し、EcoRIで消化し、B.amyloliquefaciensからのサブチリシン構造遺伝子の32p-標識C末端フラグメントにハイブリダイズさせることにより、サザーン分析によって6kbEcoRI挿入体の存在についてしらべた。陽性クローンを同定し、このプラスミドをpS168.1と命名した。pS168.1で形質転換したB.subtilis BG84は、B.subtilis I168によって生産されるものよりも5倍の濃度でセリンプロテアーゼを分泌した。EDTAを上清に加えても分析の結果は変らなかったがPMSF(フェニルメチルスルホニルフルオライド)を上清に加えると、BG84株について実施例8で述べた分析において検出できない濃度まで、プロテアーゼ活性が減少した。
6.5kb EcoRI挿入体の制限地図を第6図に示した。種々の制限酵素消化物をサブクローンし、そしてB.subtilis BG84中でサブチリシンの発現を試験することにより、サブチリシン遺伝子を2.5kb KpnI-EcoRIフラグメントの内部に位置せしめた。B.amyloliquefaciensサブチリシン遺伝子のC末端からの標識フラグメントをプローブとして用いたサザーン分析により、B.subtilis遺伝子のC末端をこのサブクローンの中央の631bp HincIIフラグメントBの内部またはその一部に位置づけた。縦列のHincIIフラグメントB、C、およびD並びにHincII-EcoRIフラグメントE(第6図)をM13ベクター-mp8またはmp9に結合させ、ジデオキシ読み終り法(F.Sangerら1977,“Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.”74:5463-5467)を用いて既知の方法で(J.Messingら1982“Gene”19:209-276)で配列化した。この領域の配列を第7図に示した。最初の23アミノ酸は信号ペプチドであると考えられる。信号配列と成熟暗号配列の間の残りの83アミノ酸は、推定上の「プロ」配列を構成している。この遺伝子の3’末端のオーバーラインドヌクレオチドは転写終了領域であると思われる。成熟開始コドンから上流の2つのShine-Dalgarno配列としての可能性のある配列には下線を付した。
実施例6 B.subtilisサブチリシン遺伝子の不活性化ミューテーションの製造
桿菌の染色体に組込まれる欠落遺伝子を持ったプラスミドを組立てるには、二段階の結合が必要であった(第8図参照)。最初の工程で、実施例5で述べたB.subtilisゲノムライブラリーから回収した6.5kb挿入体を含んでいるpS168.1をEcoRIで消化し、この反応生成物をKlenowで処理し、そのDNAをHincIIで消化し、その一部にB.subtilisサプチリシン遺伝子の5’末端を含んでいる800bpEcoRI-HincIIフラグメントE(第6図参照)を回収した。このフラグメントを、HincIIで消化し細菌性アルカリホスファターゼで処理したpJH101に結合させた(pJH101はJ.Hoch(Scripps)から入手でき、F.A.Ferrariら1983,“J.Bact.”134:318-329に記載されている)。得られたプラスミド、pIDV1は、第8図に示した方向にフラグメントEを含有していた。第2の工程ではpS168.1をHincIIで消化し、サブチリシン遺伝子の3’末端を含んでいる700bp HincIIフラグメントBを回収した。pIDV1をその特異なHincII部位で消化し、フラグメントBをこの線状化したプラスミドに結合させ、E.coli ATCC 31446に形質転換し、そして12.5μgのクロラムフェニコール/mlまたは20μgのアンピシリン/mlを含有しているLBプレート上で選択した。pIDV1.4と命名された1つの得られたプラスミドはフラグメントEに関して正しい方向にフラグメントBを含有していた。第8図に示したこのプラスミドpIDV1.4は、5’および3’隣接配列の部分をも含んでいるサブチリシン遺伝子の欠失誘導体である。
後記実施例8で調製した部分的プロテアーゼ欠落(欠失)ミュータント(Prt+/-)、B.subtilis BG77をpIDV1.4で形質転換した。2つのクラスのクロラムフェニコール耐性(Cmr)形質転換体が得られた。LB寒天プラススキムミルクを含有しているプレート上の相当する位置の澄明さを観察することにより、75%がBG77(Prt+/-)と同じレベルのプロテアーゼ活性を示したが25%はほとんど完全にプロテアーゼを欠失していた(Prt-)。CmrPrt-形質転換体は、そのプラスミドのフラグメントEまたはBのための相同領域における1回の交叉組込みによるものとは考えられない。というのは、このような場合その遺伝子は中断されずそして発現形質はPrt+/-となるであろうから。事実、フラグメントEまたはBのいずれかを独立してpJH101に結合させ、次いでB.subtilis BG77に導入するとプロテアーゼ欠落表現形質は、観察されなかった。CmrPrt- pIDV1.4形質転換体のCmrの表現形質は、CmsPrt-誘導体がCmrPrt-培養物から、抗生物質選択の非存在下に最少培地で10世代増殖させた後、約0.1%の頻度でCmrPrt-培養物から分離することができたという点で不安定であった。このような誘導体の1つを、BG2018と命名した。この欠失を、PBS1形質導入によりIA84(サブチリシン遺伝子に隣接する(両端に位置する)2個の栄養要求ミューテーションを持ったBGSC株)に導入した。この誘導体微生物をBG2019と命名した。
実施例7 B.subtilisからゲノムDNAライブラリーの調製および中性プロテアーゼ遺伝子の分離
B.subtilisの中性プロテアーゼの部分的なアミノ酸配列はP.Levyら1975,“Proc,Nat.Acad.Sci.USA”72:4341-4345に記載されている。発表されているこの配列から、その領域内のアミノ酸に対する潜在的なコドンの重剰性が最も少ない酵素の領域(Asp Gln Met Ile Tyr Gly)を選択した。下に示すように、この潜在的な全ての暗号配列をカバーするのに24の組み合せが必要である。

それぞれ6通りの組み合せを含む4つのプールを実施例1に記載したようにして調製した。このプールを「γ-32p」ATPを用いて燐酸化により標識した。
B.subtilis(1A72、Bacillus Ginetic Stock Center)DNAを各種の制限酵素で消化し、消化物を電気泳動ゲルで分離し、その4つのプローブプールのそれぞれを、ブロットした消化物のそれぞれに、条件を徐々に厳格にしながら1個のバンドがハイブリダイズするのが確認されるまで、ハイブリダイゼイションを行なうことによりB.subtilisゲノム中の特異な配列に最も合致する配列を含んだ標識プールを選択した。徐々に条件を厳格にするということは、ハイブリダイゼーションを起しにくい条件にすることを言い、例えばホルムアミド濃度を増大させること、塩濃度を減少させることおよび温度を上げることである。5×Denhardt’s、5×SSC、50mMNaPO4(pH6.8)および20%ホルムアミドの溶液中、37℃でプール4だけがプロットした消化物とハイブリダイズした。これらを中性プロテアーゼ遺伝子のために使用する適当なハイブリダイゼーション条件として選択し、プール4をプローブとして使用した。
桿菌のゲノムDNAをSau3Aで部分消化し、その部分消化物を電気泳動ゲル上で分子量により分離し、15〜20kbフラグメントを溶出し(R.Lawnら1981,“Nucleic Acids Res.”9:6103-6114)、Promega Biptec.提供のPackageneキットを使って、そのフラグメントを、BamHIで消化したチャロン30ファージに結合させることにより、常法に従ってB.subtilis株BGSC1-A72のラムダーライブラリーを調製した。
チャロンラムダーファージのための全ての既知の宿主を使用することができるが、このファージライブラリーの宿主としてはE.coli DP50supFを使用した。このE.coli宿主をライブラリーファージとともにプレートして培養し、その後プラークを、ニトロセルロースに転移させ、プローブプール4でスクリーニングする(BentonおよびDavis1977,“Science”196:180-182)ことにより中性プロテアーゼ遺伝子の存在について分析した。陽性プラークを、プラーク純化を2回行なって精製し、さらに調査するために2つのプラークを選んだ。これらをλNPRG1およびλNGRG2と命名した。各ファージから制限酵素加水分解および電気泳動ゲル上の分離によりDNAを調製した。分離したフラグメントをプロットし、標識したプール4オリゴヌクレオチドとハイブダイズさせた。これにより、λNPRG1は2400bpHindIIIハイブリダイジングフラグメントを含んでいたが、4300bpEcoRIフラグメントは含んでおらず、一方λNPRG2は4300bpEcoRIフラグメントを含んでいるが、2400bpHindIIIフラグメントは含んでいないことが解った。
この2400bpλNPRG1フラグメントをpJH101のHindIII部位に、以下の方法でサブクローンした。λNPRG1をHindIIIで消化し、消化物を電気泳動により分画し、そして2400bpフラグメントをゲルから回収した。このフラグメントをアルカリホスファターゼで処理したHindIII消化pJH101に結合させ、この結合混合物を使い、V.Hershfieldら1974,“Proc.Nat.Acad.Sci.(U.S.A.)”79:3455-3459の塩化カルシウムショック法によりE.coliATCC 31446を形質転換した。形質転換体を、LB培地プラス12.5μgのクロラムフェニコール/mlを含有しているプレート上での増殖可能なコロニーを選択することにより同定した。
形質転換コロニーから数個のプラスミドを得た。各プラスミド中の2400bpフラグメントの方向性は通常の制限分析により決定した(方向性とは、結合させた発現ベクターの読み取り方向に関して遺伝子フラグメントの読み取り方向または転写方向を意味する)。向い合った2つのプラスミドが得られ、これらをpNPRsubH6およびpNPRsubH1と命名した。
λNPRG2をEcoRIで消化することおよびプラスミドがアルカリホスファターゼで処理したEcoRI消化pBR325であることを除いて、2400bpフラグメントについて上記した方法と同様にしてλNPRG2の4300bpEcoRIフラグメントをpBR325にサブクローンした。pBR325はF.Bolivar.1978,“Gene”4:121-136に記載されている。4300bp挿入体が異なった方法で存在している2つのプラスミドを同定した。これら2つのプラスミドをpNPRsubRIおよびpNPRsubRIbと命名した。
実施例8 B.subtilis中性プロテアーゼ遺伝子の特性化
pNPRsubH1挿入体を種々の制限エンドヌクレアーゼで順次消化し、標識化したプール4とプロットハイブリダイズさせ、その挿入体の制限地図を作成した(一般的な制限地図の作成法についてはT.Maniatisら前記377頁参照)。プローブプール4とハイブリタイズした最も小さなフラグメントは430bp RsaIフラグメントであった。このRsaIフラグメントをM13mp8(M.Messingら1982,“Gene”19:269-276およびM.Messing in Methods in Enzymology,1983,R.WuらEds.,101:20-78)のSmaI部位に結合させ、その配列を読み取り終りジデオキシ法(F.Sangerら1977,“Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.”74:5463-5467)により決定した。pNPRsubH1挿入体からの他の制限フラグメントをM13mp8またはM13mp9ベクターの適当な部位に挿入し、その配列を決定した。必要に応じ、圧縮人造構造(compression artifact)(D.Millsら1979,“Proc.Nat.Acad.Sci.(U.S.A.)”76:2232-2235)を減少させるためにdITPを使用した。pNPRsubH1フラグメントの制限地図を第9図に示す。制限酵素消化物からの種々のフラグメントの配列を比較し、プロテアーゼのアミノ末端およびカルボキシ末端に翻訳されるコドン配列を含んでいるオープンリーディングフレーム(P.Levyら前記)を決定した。オープンリーディングフレームは、既知の1から始まる、リーディングフレーム(全ての3つのヌクレオチド)中に如何なる終止コドンをも内部に含んでいないDNA配列である。このオープンリーディングフレームは、アミノ末端から2400bp HindIIIフラグメントの末端にまで拡がっていた。1300bp BglII-HindIIIフラグメントをpNPRsubRI部位(これはλNPRG2の4300bpEcoRIフラグメントを含んでいた)から調製し、M13mp8にクローンした。pNPRsubH1の2400bpフラグメントによって暗号化されていない中性プロテアーゼリーダー領域の部分を含んでいるこのフラグメントの配列を、HindIII部位から上流へ400ヌクレオチドについて決定した。
この中性プロテアーゼ遺伝子のために決定された、推定上の分泌リーダーおよびプレプロ配列を含む全ヌクレオチド配列を第10図に示す。列の上の数値はアミノ酸番号を示している。第10図において下線を引いたヌクレオチドはリボソーム結合部位(Shine-Dalgarno)を構成していると考えられ、一方上に線を引いたヌクレオチドはターミネーターであると推定される潜在的なヘアピン構造を構成している。最初の27〜28の推定アミノ酸は中性プロテアーゼのための信号であると考えられ、開裂点はala-27またはala-28にある。プロ酵素構造の「プロ」配列は成熟、活性酵素のアミノ末端アミノ酸(ala-222)に至っている。
1900bpを含んでいるpNPRsubR1のBglIIフラグメント(第9図)を1400bpを含んでいるpNPRsubH1のPvuII-HindIIIフラグメントと結合させることにより、全ての中性プロテアーゼ遺伝子を持ったコピー数の高いプラスミドを組立てた(第11図)。実施例4からのpBS42をBamHIで消化し、細菌性アルカリホスファターゼで処理してプラスミドの再環化を防止した。pNPRsubR1をBglIIで消化し、1900bpフラグメントをゲル電気泳動法で分離し、pBS42の開いたBamHI部位に結合させた。この結合させたプラスミドを使ってE.coli ATCC 31446を、塩化カルシウムショック法(V.Hershfieldら前記)により形質転換し、形質転換された細胞を、12.5μg/mlのクロラムフェニコールを含有するLB培地を含んだプレート上で増殖させることにより選択した。第11図に示した方向にBglIIフラグメントを持ったプラスミドを形質転換体から分離し、pNPRsubB1と命名した。pNPRsubB1をEcoRIで消化(線状化)し、Klenow処理により修復して平滑末端とし、次いでHindIIIで消化した。HindIII消化により得られる大きい方のフラグメント(アミノ末端および上流領域を暗号化している配列を含んでいる)を回収した。
この遺伝子のカルボキシ末端領域は、pNPRsubH1をPvuIIおよびHindIIIで消化し1400bpフラグメントを回収することによって得たpNPRsubH1からのフラグメントで供給した。この1400bpフラグメントの平滑末端PvuIIおよびHindIII部位をそれぞれ、pNPRsubB1の平滑なEcoRIおよびHindIII部位と結合させた(第11図参照)。この組立物を、後記の分析法で、本来蛋白分解活性物を分泌しないB.subtilis株BG84に導入した。この形質転換体を、LB培地プラス1.5%カーネーション粉末脱脂ミルクおよび5μg/mlのクロラムフェニコールを含有しているプレート上で選択した。大きなかさ(halo)を清澄にしたコロニーからのプラスミドを分析した。構造遺伝子および中性プロテアーゼ遺伝子の隣接領域を挿入しているプラスミド-pNPR10を制限分析によって知らべたところ第11図に示す構造を持っていた。
Adelbergらの一般的な方法(1965,“Biochem.Biophys.Res.Commun.”18:788-795)に従い、B.subtilis I168のN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)による変異誘発によってB.subtilis株BG84を作った。変異誘発させた株I168をスキムミルクプレート(抗生物質を含まず)においた。小さいかさを形成するコロニーを拾い上げさらに分析した。各コロニーにつきスキムミルクプレート上でプロテアーゼ生産を、デンプンプレート上でアミラー生産を調べた。部分的にプロテアーゼ欠失であり、アミラーゼ陽性であり、そして胞子形成し得る1つの単離物をBG77と命名した。プロテアーゼ欠失ミューテーションはprt-77と命名した。このprt-77対立遺伝子を下に述べる会合によってspoOAバックグラウンドに移動させて、胞子形成欠落株であるBG84株を作った。

BG84はスキムミルクプレート上でプロテアーゼ活性を完全に失っており、0.1Mの燐酸ナトリウム(pH8)中、25℃で0.2μg/mlのサクシニル(-L-ala-L-ala-L-pro-L-phe)P-ニトロアニリド(Vega)とインキュベーションし、1分当りの412mnにおける吸収の変化を測定して分析した結果、検出可能な濃度のサブチリシンも中性プロテアーゼも生産しなかった。BG84は1983年7月21日にATCCに寄託された(寄託番号39382)。サブチリシン分析のための試料は、改良Schaefferの培地(T.Leightonら1971,“J.Biol.Chem.”246:3189-3195)で増殖させた培養の後期対数増殖期の上清から採取した。
実施例9 中性プロテアーゼ遺伝子の発現
pNPR10で形質転換したBG84を、0.1%のカゼイン加水分解物および10μgのクロラムフェニコールを添加した最少培地に接種し、16時間培養した。培養上清0.1mlを採取し、10mMトリス-HCl、100mM NaCl(pH6.8)中に1.4mg/mlのAzocoll蛋白分解基質(Sigma)を入れた懸濁液に加え、攪拌下にインキュベートした。消化されなかった基質を遠心分離により除き、505nmにおける光学密度を測定した。Azocoll基質懸濁液のバックグラウンド値を減じた。標準的なプロテアーゼ発現株であるBG16によって分泌されるプロテアーゼの量を任意に100と定めた。BG16、および対照並びに中性プロテアーゼ遺伝子含有プラスミドで形質転換したBG84についての結果を後記実施例12の表Bに示す。分泌されるプロテアーゼ-欠落B.subtilis株BG84を形質転換したものは、野生株であるBG16よりも遥かに高い濃度でプロテアーゼ活性体を分泌することが解る。
実施例10 中性プロテアーゼ遺伝子の不活性化ミューテーションの製造
pNPRsubH1の2400bp挿入体の2つのRsaIに囲まれた領域、全527bp、を削除し、不完全な構造遺伝子を作ることができる。この遺伝子の翻訳産物は酵素的に不活性である。この欠失のあるプラスミドを以下の如くして組立てた。pJH101をHindIIIで消化して開裂させ、細菌性アルカリホスファターゼで処理した。線状化したpJH101に挿入すべき中性プロテアーゼ遺伝子のフラグメントは、pNPRsubH1をHindIIIおよびRsaIで消化しゲル電気泳動によって1200bpのHindIII-RsaIおよび680bpのRsaI-HindIIIフラグメントを回収することにより得た。これらのフラグメントを線状化したpJH101に結合させ、E.coli ATCC31446の形質転換に使用した。形質転換体をLB培地および20μgのアンピシリン/ml含有プレート上で選択した。この形質転換体からプラスミドを回収し、制限酵素分析によって分析し、pNPRsubH1出発プラスミドと同じ方向性に2つのフラグメントを持ったプラスミドを同定した。内部のRsaIフラグメントを失ったこのプラスミドをpNPRsubH1Δと命名した。
実施例11 中性プロテアーゼ遺伝子の欠失ミュータントによる置換
プラスミドpNPRsubH1ΔをB.subtilis株BG2019(実施例6のサブチリシン欠除ミュータント)に導入し、染色体組込み体をスキムミルクプレート上で選択した。コロニーの周囲に親株と同レベルの蛋白分解を示すものと、蛋白分解ゾーンのほとんどないものとの2つのタイプのCmr形質転換体が観察された。蛋白分解ゾーンのないものを選択し、再画線して個々のコロニーを純化し、それらのプロテアーゼ欠失特性をスキムミルクプレート上で確認した。Cmrである蛋白分解欠失コロニーの1つを選んでこれをさらに研究した(このコロニーをBG2034と命名した)。BG2034の偶発Cms復帰突然変異体を、Cm含有LB培地で一夜増殖させて分離し、個々のコロニーをプレートし、Cmを含んだ、および含まない培地上に反復プレートした。3個のCms復帰突然変異体を分離したところ、その内の2つはプロテアーゼ能があり、残りの1はプロテアーゼ能がなかった(これをBG2036と命名した)。BG2036のハイブリダイゼーション分析の結果、このプラスミドは、たぶん組換えによって、この株から欠落し、サブチリシンおよび中性プロテアーゼの欠失フラグメントだけが残ったことを確認した。
実施例12 機能的サブチリシンおよび中性プロテアーゼを欠く株の表現形質
中性またはアルカリ性のプロテアーゼあるいはその両者の機能的遺伝子を欠く株についてその増殖、胞子形成およびプロテアーゼの発現について試験した。プロテアーゼの発現はスキムミルクプレート上のコロニーの周りの澄明化バンドおよび液体培養上清中のプロテアーゼ濃度の測定によって調べた(表B)。サブチリシン遺伝子欠失株(BG2035)はプロテアーゼ活性の30%の減少およびミルクプレート上の正常なかさ(halo)を示した。削除された中性プロテアーゼ遺伝子および活性サブチリシン遺伝子を持ち、BG2036(実施例11)のDNAでBG16(実施例8)を形質転換することにより組立てられたBG2043株は、プロテアーゼ活性の80%の減少およびミルクプレート上の小さいかさを示した。上記の両遺伝子における削除を有する点でBG2036(実施例11)と等価であると考えられるBG2054株は、検出可能なプロテアーゼ活性を示さず、ミルクプレート上の検出し得るかさも示さなかった。
プロテアーゼ遺伝子群の片方または両方を削除しても増殖または胞子形成に明らかな影響を与えなかった。これらの削除(欠失)を有する株は最少グルコース培地およびLB培地の両者において正常な増殖速度を示した。これらの株は親株BG16に匹敵する頻度の胞子形成を示した。これらの株を形態学的に調べたところ欠失を含まない株と明らかな違いを示さなかった。

1プロテアーゼ表現形質に関連する座だけを示した。
2プロテアーゼ活性はBG16を100とする任意の単位で表してある。NDはプロテアーゼ活性が検出されなかったことを示す。
実施例13 222位におけるB.Amyloliquefaciensサブチリシン遺伝子の部位特異性飽和変異誘発、カセット挿入のための遺伝子の調製
Wellらの方法(Nucleic Acids Res.1983,11:7911-7924)に従って調製したpS4の誘導体であるpS4-5をEcoRIおよびBamHIで消化し、1.5kbEcoRI-BamHIフラグメントを回収した。このフラグメントをEcoRIおよびBamHIで消化した複製型のM-13mp9に結合させた(Sangerら,1980“J.Mol.Biol.”143,161-178;Messingら,1981,“Nucleic Acids Research”9,304-321;Messing,J.およびVieira,J.(1982)Gene 19,269-276)。M-13mp9SUBTと命名したこのM-13mp9ファージ結合体をつかってE.coli株JM101を形質転換し、2mlの終夜培養物から1本鎖ファージDNAを調製した。以下の配列を持ったオリゴヌクレオチドプライマーを合成した:
5’-GTACAACGGTACCTCAC-GCACGCTGCAGGAGCGGCTGC-3’
このプライマーは222-225位のアミノ酸に対する10bpのコドンが削除されており、met-222コドンにKpnI部位(5’)を、met+222コドンにPstI部位(3’)を導入するためにアミノ酸220、227および228に対するコドンが変異されていることを除けば、アミノ酸216-232を暗号化しているサブチリス遺伝子フラグメントの配列に符合している(第12図参照)。置換したヌクレオチドは星印で示してあり、ライン2の下線を引いたコドンは新しい制限部位を示しており、ライン4の線を引いた部分は挿入されたオリゴヌクレオチドを表わしている。このプライマー(約15μM)を以下の如くして「32p」でラベルした:「r32p」-ATP(20μlの反応液中10μl)(Amersham5000Ci/mmol,10218)およびT4ポリヌクレオチドキナーゼ(10単位)、次いで非放射性ATP(100μM)とともにインキュベートしこの変異誘発プライマーを完全に燐酸化した。この燐酸化混合物を68℃で15分間加熱してキナーゼを不活性化した。
Norrisらの改良法(1983,“Nucleic Acids Res.”11,5103-5112)に従い、5μlのラベルした変異誘発プライマー(〜3μM)、約1μgM-13mp9SUBT鋳型、1μlの1μM M-13塩基配列プライマー(17-mer)および2.5μlの緩衝液(0.3Mトリス(pH8)、40mM MgCl2,12mMEDTA,10mM DTT,0.5mg/ml BSA)を混合することにより、このプライマーをM-13mp9SUBTにハイブリダイズした。この混合物を68℃で10分間加熱し、室温で10分間冷却した。このアニリング混合物に3.6μlの0.25mM dGTP,dCTP,dATPおよびdTTP、1.25μlの10mM ATP、1μlのリガーゼ(4単位)および1μlのKlenow(5単位)を添加した。このプライマーの延長およびライゲーション反応(全量25μl)は14℃で2時間行なった。68℃で20分間加熱してKlenowおよびリガーゼを不活性化した。この加熱した反応混合物をBamHIおよびEcoRIで消化し、その消化物の一部を6%ポリアクリルアミドゲルに適用し、放射活性フラグメントをオートラジオグラフィーにより検出した。その結果「32p」変異誘発プライマーが、今や変異したサブチリシン遺伝子を含んでいるEcoRI-BamHIフラグメントに挿入されたことが解った。
消化した反応混合物の残りを、1mM EDTAを含有する10mMトリス(pH8)で200μlに希釈し、フェノール/クロロホルム混合物(1:1(v:v))で1回、次いでクロロホルムで1回抽出し、水相を回収した。5M酢酸アンモニウム(pH8)15μlを2倍容量のエタノールとともに加え、水相からDNAを沈澱させた。マイクロフュージ中、5分間遠心分離してDNAをペレット化し、上清を捨てた。70%エタノール300μlを加えてDNAペレットを洗浄し、洗液を捨てペレットを凍結乾燥した。
実施例4のpBS42をBamHIおよびEcoRIで消化し、アクリルアミドゲル上で精製してベクターを回収した。この消化したベクター0.5μg、50μM ATPおよび6単位のリガーゼをライゲーション緩衝液20μlに溶解した。ライゲーション(結合)を14℃で終夜行なった。このDNAをE.coli294 rec+に導入し、形質転換体を12.5μg/mlのクロラムフェニコール含有LB培地4ml中で増殖させた。この培養物からプラスミドDNAを調製し、KpnI、EcoRIおよびBamHIで消化した。この制限フラグメントを分析した結果、分子の30〜50%が変異誘発プライマーによってプログラムされた所望のKpnI部位を含んでいることが解った。KpnI部位を含んでいないプラスミドは、変異誘発部位の細菌による修復前にM-13複製により生成したと思われ、このようにして、ある形質転換体において、KpnI+およびKpnI-プラスミドのヘテロジーナス体が生成したと考えられる。KpnI+プラスミドの純粋な培養を得るために、このDNAをもう1度E.coliに導入し、新しいKpnI部位を含有するプラスミドをクローンした。このような形質転換体16個からDNAを調製し、その内6個が予想したKpnI部位を含んでいることが解った。
これらの6個の形質転換体の内の1つ(pΔ222と命名)からプレパラティブな量のDNAを作り、制限分析により予想されたKpnIおよびPstI部位が存在すること、およびその位置を確認した。40μgのpΔ222を300μlのKpnI緩衝液プラス30μlのKpnI(300単位)中37℃で1.5時間消化した。DNAをエタノール沈澱させ、70%エタノールで洗浄し凍結乾燥した。DNAペレットを200μlのHindIII緩衝液にとり、20μl(500単位)のPstIで37℃で1.5時間消化した。水相をフェノール/CHCl3で抽出し、DNAをエタノール沈澱させた。このDNAを水に溶解し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により精製した。ベクターバンド(帯)を電気溶出(120v、2時間、0℃、0.1倍のTBE(Maniatisら、前記)中)した後、DNAをフェノール/CHCl3抽出により精製し、エタノール沈澱し、エタノールで洗浄した。
PΔ222はKnpIまたはPstIによりそれぞれ別々に完全に消化することができたが(>98%)、徹底的な二重消化は不完全であった(<<50%)。これらの部位が非常に近くにあるため(10bp)、KnpIによる消化によってそのPstI部位の近くのDNAが「ブリージング」、すなわち鎖の分離、すなわちほつれを起したために、このような結果になったものと考えられる。PstIは2本鎖DNAだけを開裂させるので鎖の分離によってその後のPstIの消化が阻害されるのであろう。
実施例14 オリゴヌクレオチドカセットのサブチリシン遺伝子への結合
5’が燐酸化されていない4つの相補性オリゴヌクレオチドプール(A-D、表1参照)10μMを、20μlのリガーゼ緩衝液中で5分間68℃で加熱し、次いで室温で15分間冷却することによりアニーリングした。各アニーリングしたオリゴヌクレオチドプール1μM、〜0.2μgのKpnIおよびPstIで消化した実施例13で得たpΔ222、0.5mM ATP、リガーゼ緩衝液および6単位のT4DNAリガーゼ、の全量20μlを14℃で終夜反応させ、プールしたカセットをベクターに結合させた。大過剰のカセット(pΔ222末端を越えること〜300×)をこの結合に使用して分子内KpnI-KpnI結合を防止した。1mM EDTAを含有している10mMトリス(pH8)25μlを加えて反応物を希釈した。この混合物を68℃で5分間加熱し、室温で15分間冷却することにより再びアニーリングしてカセットのコンカテマー(concatemer)形成を防止した。各プールからのこの結合混合物を別々にE.coli294rec+細胞に形質転換した。各形質転換混合物の一部をプレートし、それぞれの形質転換体の数を測定した。多数の形質転換体が多変異誘発性の高い可能性を示した。形質転換体の残り(〜200-400形質転換体)をLB培地プラス12.5μgのクロラムフェニコール/mlの4ml中で培養した。各形質転換プール(A-D)からDNAを分離した。このDNAをKpnIで消化し、その〜0.1μgを使って再びE.coli rec+を形質転換し、その混合物をプレートして各プールから個々のコロニーを分離した。遺伝子へのカセットの結合および形質転換時の細菌性修復によりKpnIおよびPstI部位が破壊された。このようにして形質転換体DNAをKpnIで消化したときpΔ222だけが切断された。この切断プラスミドはE.coliを形質転換しないであろう。個々の形質転換体を培養して増殖させ、直接的なプラスミドの塩基配列決定のためにプール当り24〜26の形質転換体からDNAを調製した。5’-GAGCTTGATGTCATGGC-3’の配列を持った合成オリゴヌクレオチドプライマーを使ってジデオキシ配列決定反応をプライムした。得られたミュータントを以下の表Cに示す。
記載したスクリーニングの後2個のコドン+222ミュータント(すなわちglnおよびile)は見出されなかった。これらを得る目的で、第12図の上のオリゴヌクレオチド鎖に相当する各ミュータントのための1本鎖25mer(25量体)オリゴヌクレオチドを構成した。それぞれを燐酸化し、そのそれぞれの非燐酸化オリゴヌクレオチドプール(すなわちglnに対してはプールA、ileに対してはプールD)の下の鎖にアニーリングした。これをKpnIおよびPstI消化pΔ222に結合させ、もとのオリゴヌクレオチドプールについて記載したようにプロセッシングした。このようにして得られたシングルミュータントの出現率はglnに対して2/8、ileに対しては0/7であった。この明らかなかたよりを避けるため、上の鎖を燐酸化し、その非燐酸化相補性プールにアニーリングした。ヘテロ燐酸化カセットを切断pΔ222に結合させ、前と同様にしてプロセシングした。glnおよびileミュータントの出現率はそれぞれ7/7および7/7となった。
表Cのデータはこのプールから得られたミュータントの出現におけるかたよりを表わしている。これは、プールにおいてオリゴヌクレオチドを等価に表わしていないことから起ったものと考えられる。これは特定のポリマーがプールの変異誘発コドンを越えて非等価にカップリングすることにより惹起されたものかもしれない。このようなかたよりの問題は、合成中にトリマーレベルの適当な調節により(同じ反応を行なう)なおすことができた。いずれの場合も、第1次スクリーニングで単離されなかったミュータントは所望のミューテーションを表わしている1本鎖オリゴヌクレオチドを合成し、両末端を燐酸化し、非燐酸化相補鎖のプールにアニーリングし、カセット部位に結合させることにより得ることができた。完全に非燐酸化したカセットについて観察されたかたよったヘテロデュプレックス修復は、222位は下の鎖の5’末端よりも上の鎖5’末端により近いという事実から起ったものと思われる(第12図参照)。非燐酸化5’末端にはギャップが存在し、2本鎖DNAにはミスマッチバブル(bubble)が222位にあるので、上の鎖のギャップの切除修復はより容易に複製可能な環状にハイブリダイズしたデュプレックスを維持することになる。上の鎖は選択的5’燐酸化により完全に保持し得るという事実はこの仮説に合致している。この場合、下の鎖だけが切除修復を促進し得る5’ギャップを含んでいる。この方法は、変異誘発オリゴヌクレオチドカセットを使った場合、合成オリゴヌクレオチド鎖のかたよった挿入を方向づけるのに有用である。
実施例15 166位におけるサブチリシン遺伝子の部位特異性変異誘発
変異誘発プライマーが異なっていること(第13図の37merを使用した)、2つの制限酵素がPstIおよびKpnIではなくてSacIおよびXmaIIIであること、および得られた組立て物が異なっていることを除けば実施例13〜14に示した操作を忠実に繰返した(第13図参照)。
166位のミュータントサブチリシンを分泌する桿菌株を後記実施例16に記載した方法で得た。野生型残基のala、asp、gln、phe、his、lys、asn、argおよびvalが置換されているミュータントサブチリシンを回収した。
実施例16 ミュータントサブチリシン酵素の調製
実施例11の方法で得たB.subtilis株BG2036を実施例14,15または20のプラスミドおよび対照としてpS4-5により形質転換した。形質転換体をプレートまたは振盪フラスコ中16〜48時間37℃でLB培地プラス12.5μg/mlのクロラムフェニコール中で培養した。酵素的に活性なミュータントサブチリシンを、細胞ブロスをpH6.2の0.01M燐酸ナトリウムに対して透析することにより回収した。透析したブロスを1N HClでpH6.2に調節し、CMセルロース(CM-52ワットマン)の2.5×2cmのカラムに充填した。0.01M燐酸ナトリウム(pH6.2)で洗浄した後、サブチリシン(+222におけるミュータントを除く)をNaClについて0.08Nとして同じ緩衝液で溶出した。+222のミュータントサブチリシンは0.1M燐酸ナトリウム(pH7.0)で溶出した。この精製したミュータントおよび野性型酵素を使って酸化安定性、Km、Kcat、Kcat/Km比、至適pHおよび基質特異性における変化を調べた。


1コドンは、クローンしたサブチリシン塩基配列の多使用性に基づいて選んだ(Wellsら1983、前記)
2頻度は、直接プラスミド塩基配列決定によりシングルトラック分析から決定した。
3予想外ミュータントは、一般に222の隣のコドンまたは結合点、において変化しているダブルミュータントからなっていた。これらは、オリゴヌクレオチドプールにおける不純物/またはギャップ末端の誤った修復の結果得られたものと考えられる。
実施例17 改良された酸化安定性を示すミュータントサブチリシン
野生型のメチオニンの代りに、222において置換したシステインおよびアラニンを有するサブチリシン(実施例16)を各種の濃度の次亜鉛素酸ナトリウム(Clorox Bleach)とともにインキュベートすることにより酸化に対する抵抗性を分析した。
全量400μlの0.1M NaPO4緩衝液(pH7、第14図に示した濃度の上記の漂白剤含有)400μlに、終濃度が0.016mg/ml(酵素)となるように充分な酵素を加えた。この溶液を25℃で10分間インキュベートし、以下の如くし酵素活性を分析した:120μlのala+222または野生型、あるいは100μlのcys+222インキュベーション混合物を890μlの0.1Mトリス緩衝液(pH8.6)および10μlのsAAPF pN(実施例18)基質溶液(20mg/ml、DMSO中)と混合した。p-ニトロアニリンの遊離に基づく410nmにおける吸光度の増加率をモニターした(Del Mar,E.G.ら1979“Anal.Biochem.”99,316-320)。この結果を第14図に示す。メチオニンの代りに不安定なシステイン残基が置換したミュータントあるいは野生型酵素の何れと比較しても、より安定な酵素をアラニン置換体が生産した。驚くべきことに、このアラニン置換は、アッセイ基質に対する酵素活性を実質的に阻害することなく、かつ、この酵素にかなりの酸化安定性を付与した。セリン+222ミュータントも改良された酸化安定性を示した。
実施例18 改良された動力学および基質特異性を示すミュータントサブチリシン
グリシン+166の各種のミュータントを、改良されたKcat、KmおよびKcat/Km比についてスクリーニングした。速度的パラメータは反応の進行カーブを分析することにより得た。反応速度は基質濃度の関数として計算した。データはMarquardtの非線形回帰アルゴリズム(Marquardt,D.W.1963“J.Soc.Ind.Appl.Mats.”11,431-41)を使って、Michaelis-Mentonの方程式に合わせて分析した。すべての反応は、初期濃度0.0025M〜0.00026M(問題の酵素のKm比に依存する。濃度は各測定毎にKm比を越えるように調節した。)のべンゾイル-L-バリル(Valyl)-グリシル(Glycyl)-L-アルギニル(Arginyl)-p-ニトロアニリド(BVGR pN;Vega Biochemicals)を含有しているか、または初期濃度0.0010M〜0.00028M(BVGR pNについての場合と同様に変化する)のサクシニル-L-アラニル(Alanyl)-L-アラニル(Alanyl)-L-プロリル(Prolyl)-L-フェニルアラニル(Phenylalanyl)-p-ニトロアニリド(sAAPF pN;Vega Biochemicals)を含有させ0.1Mトリス緩衝液(pH8.6)中、25℃で行なった。
これらの実験の結果を以下に示す。


各ミュータントのKcat/Km比は野生型酵素のものと異なっていた。触媒効率の測定の結果、これらの比率は、本発明方法に従って、与えられた基質に対して遥かに高い活性を有する酵素を容易に設計することができ、かつスクリーニングによって選択することができるということを示している。例えばA166は、sAAPF pNにおける野生型の活性の2倍以上の活性を示す。
このデータはまた、野生型酵素のミューテーションによる基質特異性の変化をも示している。例えばD166およびE166ミュータントのkcat/Km比は、BVG pN基質に対しては野生型より高いが、sAAPF pNについては質的に逆の結果が得られている。従ってD166およびE166ミュータントは、sAAPF pNよりもBVGR pNに対してより特異性がある。
実施例19 改良されたpH活性プロフィルを示すミュータントサブチリシン
実施例16で得られたCys+222ミュータントのpHプロフィルを野生型酵素のそれと比較した。DMSO中の10μlの60mg/ml sAAPF pN、10μlのCys+222(0.18mg/ml)か野生型(0.5mg/ml)および980μlの緩衝液(pH6.6、7.0および7.6の場合の測定については0.1M NaPO4緩衝液;pH8.2、8.6および9.2の場合は0.1Mトリス緩衝液;およびpH9.6および10.0の場合は0.1Mグリシン緩衝液)を混合した後、1分当りの410nmにおける吸光度の初期変化率を各pHについて測定し、そのデータを第15図に示した。Cys+222ミュータントは野生型酵素よりも狭い至適pHを示した。
実施例20 169位におけるサブチリシン遺伝子の部位特異性変異誘発
変異誘発プライマーが異なっていること(第16図に示したプライマーを使用)、2つの制限酵素がPstIおよびKpnIの代りにKpnIとEcoRVであること、および得られた組立物が異なっていること(第16図に示した)を除けば実施例13〜14と同じ操作を行なった。
169位におけるミュータントサブチリシンを分泌する桿菌株は実施例16に記載したようにして得た。野生型の残基の代りにalaおよびserの置換を示すミュータントサブチリシンを回収し、速度諭的特徴の変化を調べるために分析した。この分析にはpH8.6でSAAPF pNを実施例18に示したものと同様にして使用した。結果を以下に示す。

実施例21 蛋白質基質に対する特異活性の変化
実施例15および16で得た166位のミュータントを、天然の蛋白質基質に対する特異活性の変化について分析した。これらのミュータントプロテアーゼは、変化した比活性とともに変化した特異性をも示すことがあるので、1つのタイプの特異性を持ったプロテアーゼの方向に分析がかたよらないために、基質は十分な量の種々の開裂部位、すなわち酸性、塩基性、中性および疎水性の部位を含んでいなければならない。基質はある配列部位をマスキングすることになるデリビタイズド残基を含んでいてはならない。ヘモグロビン、アゾコローゲン(azocollogen)、アゾカゼイン、ジメチルカゼインなどの広く用いられている基質は、この理由で使用できない。牛カゼイン、αおよびα2カゼインが好適な基質として選ばれた。
100mMトリス緩衝液(pH8.0)、10mM EDTA中で1%カゼイン溶液(w/v)を調製した。分析のプロトコールは次の通りである:
790μlの50mMトリス(pH8.2)
100μlの1%カゼイン(Sigma)溶液
10μlの試験酵素(10-200μg)。
このアッセイ混合物を混合し、室温で20分間インキュベートした。100μlの100%トリクロロ酢酸を添加し、次いで室温で15分間インキュベートすることにより反応を終結させた。沈澱した蛋白質を遠心分離によりペレット化し、上清の280nmにおける光学密度を分光光度計を用いて測定した。光学密度は、反応混合物中の沈澱しなかった、すなわち加水分解されたカゼインの量を表わしている。それぞれのミュータントプロテアーゼによって加水分解されたカゼインの量を、種々の量の野生型プロテアーゼを含んでいる一連の標準物と比較し、その活性を野生型の活性に対するパーセンテージで表わした。酵素活性を、分析に使用した酵素溶液の280nmにおける吸光度でカゼイン加水分解活性を割ることにより比活性に変換した。
Asn+166を除き、分析した全てのミュータントは野生型のものよりカゼインに対する比活性が低かった。Asn+166は野生型よりカゼインに対する活性が26%高かった。最も低い比活性を示したミュータントはile+166であり、野生型の活性の0.184であった。
【図面の簡単な説明】
第1図Aは機能的B.amyloliquefaciensサブチリシン遺伝子の配列を示す模式図、第1図Bはその暗号鎖のヌクレオチド配列を、蛋白質のアミノ酸配列と関連させて示している模式図、第2図はプール1(パネルA)およびプール2(パネルB)でそれぞれプローブした純化陽性クローンのレプリカ・ニトロセルロース・フィルターの結果を示すグラフ、第3図はサブチリシン発現プラスミド(pS4)の制限分析を示す模式図、第4図はpBS42およびpS4で形質転換した培養物からの上清について行なったSDS-PAGEの結果を示すグラフ、第5図はシャトルベクターpBS42の構成を示す模式図、第6図はB.subtilisサブチリシン遺伝子を含む配列の制限地図を示す模式図、第7図は機能的なB.subtilisサブチリシン遺伝子の配列を示す模式図、第8図はB.subtilisサブチリシン遺伝子の欠失ミュータントを得るための組立法を示す模式図、第9図はB.subtilis中性プロテアーゼ遺伝子の制限地図を示す模式図、第10図はB.subtilis中性プロテアーゼ遺伝子のヌクレオチド配列を示す模式図、第11図はB.subtilis中性プロテアーゼ遺伝子を含んでいるベクターの組立を示す模式図、第12,13および16図は本発明方法による変異誘発技術の具体例を示す模式図、第14図はサブチリシンミュータントの強化された酸化安定性を示すグラフ、第15図は野生型酵素と比較した場合のサブチリシンミュータントのpH活性プロフィルの変化を示すグラフである。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.特許請求の範囲の請求項1を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「変化した活性を有する変異サブチリシンを製造する方法であって、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)サブチリシンまたはそのプレ酵素あるいはプレプロ酵素のMet+222、Gly+166、またはGly+169に相当する、サブチリシン酵素、そのプレ酵素またはプレプロ酵素の位置に突然変異をもたらし、その突然変異によって生じる酵素の望ましい活性の変化を調べることにより、それぞれSer+222もしくはAla+222に変異させて酸化安定性の増強した変異サブチリシンを製造するか、またはCys+222に変異させて至適pHの変化した変異サブチリシンを製造するか、あるいはAla+166もしくはLys+166に変異させて触媒効率が変化した変異サブチリシンを製造するか、またはAsp+166、Glu+166もしくはAsn+166に変異させて基質特異性が変化した変異サブチリシンを製造するか、あるいはAla+169もしくはSer+169に変異させて触媒効率が変化した変異サブチリシンを製造する方法。」と訂正する。
2.特許請求の範囲の請求項2〜5を、特許請求の範囲の減縮を目的として、削除する。
異議決定日 2002-03-07 
出願番号 特願昭59-129928
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C12N)
P 1 651・ 531- YA (C12N)
P 1 651・ 113- YA (C12N)
P 1 651・ 532- YA (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨永 みどり芦原 ゆりか  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 佐伯 裕子
斎藤 真由美
登録日 1996-12-19 
登録番号 特許第2594533号(P2594533)
権利者 ジェネンコア・インターナショナル,インコーポレイテッド
発明の名称 変異サブチリシンを製造する方法  
代理人 青山 葆  
代理人 戸田 利雄  
代理人 青山 葆  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  
代理人 福本 積  
代理人 田村 恭生  
代理人 田村 恭生  

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