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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A63B
管理番号 1059637
異議申立番号 異議2000-71267  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-12-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-27 
確定日 2002-05-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第2954526号「ソリッドゴルフボール」の請求項1及び請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2954526号の請求項1及び請求項2に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯
特許第2954526号の請求項1及び請求項2に係る発明についての出願は、平成8年3月19日に特許出願され、平成11年7月16日にその特許権の設定登録がなされ、その後、須田 武 より特許異議の申立がなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年10月12日に意見書の提出がなされたものである。
2.特許異議の申立てについての判断
(1)申立ての理由の概要
特許異議申立人 須田 武 は、
甲第1号証:特開平7-24085号公報
甲第2号証:特開平6-343718号公報
甲第3号証:特公平5-15476号公報
甲第4号証:特開平7-194736号公報
参考資料1:財団法人化学品検査協会によるJIS-C硬度とショアーD硬度との関係を示す資料
参考資料2:JIS-C硬度とショアーD硬度との関係を示すグラフ
参考資料3:ハイミランのカタログ
参考図1:曲げ弾性率とショアーD硬度との関係を示すグラフ
を提出して、
A.特許第2954526号の請求項1に係る発明は、
ア.甲第1号証に記載された発明であるから、
イ.甲第1号証に記載された発明に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、
ウ.甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、
エ.甲第4号証に係る特許出願の発明と同一の発明であるから、
B.特許第2954526号の請求項2に係る発明は、
ア.甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、
本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、又は特許法第39条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、特許を取り消すべき旨主張している。
(2)請求項1及び請求項2に係る発明
本件特許第2954526号の請求項1及び請求項2に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
【請求項1】
コアとカバーを有するソリッドゴルフボールにおいて、上記コアは、直径が32.7〜38.4mmであり、かつ該コアに初期荷重10kgをかけたときから終荷重130kgをかけたときまでの変形量が3.5〜6.5mmであり、上記カバーは、曲げ弾性率が3500〜6000kgf/cm2の樹脂組成物からなる内層カバーと、曲げ弾性率が2300〜5500kgf/cm2で、かつ内層カバーより曲げ弾性率が500kgf/cm2以上低い樹脂組成物からなる外層カバーとの2層からなり、内層カバーの厚みが1.1〜2.5mmで、外層カバーの厚みが1.1〜2.5mmであって、かつ内層カバー、外層カバーともアイオノマー樹脂を主成分とする樹脂組成物からなることを特徴とするソリッドゴルフボール。
【請求項2】
コアの内部硬度が、JIS-C型硬度計で測定した硬度で、中心部分の硬度と中心以外の部分の硬度との差が5%以下であることを特徴とする請求項1記載のソリッドゴルフボール。
(3)特許法第29条の規定の適用の時について
本件特許第2954526号に係る特許出願は、平成7年特許願第94335号(出願日:平成7年3月27日)の特許出願を先の出願として優先権を主張するものであるが、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、その外層カバーの曲げ弾性率の数値範囲が、先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されたものではないから、これらの発明についての特許法第29条の規定の適用の時は、本件特許に係る現実の特許出願の日、平成8年3月19日(1996年3月19日)となる。
(4)刊行物に記載の事項
当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物2(甲第4号証)には、
2-ア.「コアと該コアを被覆するゴルフボールにおいて、上記カバーが内層カバーと外層カバーとの2層からなり、内層カバーの曲げ剛性率が3000〜5500kg/cm2で、外層カバーの曲げ剛性率が1000〜2500kg/cm2であり、内層カバーの厚みが0.5〜2.5mmで、外層カバーの厚みが0.5〜2.5mmで、内層カバーと外層カバーとの総厚が1.0〜4.5mmであり、かつ内層カバーの基材樹脂が亜鉛イオン中和タイプのアイオノマーを5〜100重量%含有していることを特徴とするゴルフボール。」(特許請求の範囲。)
2-イ「従来、ゴルフボールのカバーとしてはバラタカバーが使用されていたが、バラタカバーは耐久性、耐カット性が悪いことから、最近では、耐久性、耐カット性の優れたアイオノマーがカバーの基材樹脂として使用されるようになり、このアイオノマーカバーは、ソリッドゴルフボールのみならず、糸巻きゴルフボールのカバーとしても使用され、一般ゴルファー向けのゴルフボールにおいては、主流を占めている。
そして、このアイオノマーカバーでは、反撥性能を高めて飛距離を大きくする目的で、高剛性で高硬度のアイオノマーが使用されている。
しかしながら、上記のような高剛性で高硬度なアイオノマーをカバーの基材樹脂として用いたゴルフボールは、確かに大きな飛距離を有するものの、次に示すような重大な欠点があり、その改善が望まれる。
(1)高剛性、高硬度のカバーのため、打球時の感触が硬く、打球感(フィーリング)が悪い。
(2)カバーが高剛性、高硬度であるため、アイアンショット時にフェース面でスベリ(滑り)が生じ、スピン量のバラツキが大きく、飛距離が不安定で、かつコントロール性が悪い。」(【0002】〜【0006】。)
2-ウ.「上記のように、従来のゴルフボールでは、飛距離、アイアンショットの安定性、打球感において、それらのすべてを同時に満足する性能を有するものは見当たらない。
したがって、本発明は、従来のゴルフボールが達成し得なかった飛距離とアイアンショットの安定性と打球感を同時に満足するゴルフボールを提供することを目的とする。」(【0011】、【0012】。)
2-エ.「コアの直径は、ボール外径を42.7mmにする関係でカバーの厚みに応じて、35.7mmから38.3mmの範囲で種々のサイズを採用している。」(【0042】。)
2-オ.「コアAは実施例1〜10、実施例13、比較例1〜4および比較例7〜14に使用し、コアBは実施例11〜12に、コアCは比較例5〜6に使用する。」(【0045】。)
2-カ.「つぎに、実施例および比較例で用いる内層カバー用組成物および外層カバー用組成物を表2および表3に示す配合組成で調整した。表2および表3に示す配合量は重量部によるものであり、」(【0046】。)
2-キ.「A(ブタジエンゴム:100、アクリル酸亜鉛:30、酸化亜鉛:22、老化防止剤:0.5、ジクミルパーオキサイド:2.5)」(【表1】。)
2-ク.「A(ハイミラン♯1706:50、ハイミラン♯1605:35、ハイミラン♯1707:15、曲げ剛性率(kg/cm2):3500、亜鉛イオン中和タイプのアイオノマーの含有率(重量%):50)」(【表2】。)
2-ケ.「H(ハイミラン♯1706:25、ハイミラン♯1855:25、ハイミラン♯1605:25、ハイミラン♯1555:20、ハイミラン♯1856:15、曲げ剛性率(kg/cm2):2500、亜鉛イオン中和タイプのアイオノマーの含有率(重量%):50)」(【表3】。)
2-コ.「実施例6(内層カバー:(カバー用組成物:A、曲げ剛性率(kg/cm2 ):3500、Zn率(重量%):50、厚み(mm):1.5)、外層カバー:(カバー用組成物:H、曲げ剛性率(kg/cm2 ):2500、厚み(mm):0.7)、ボール特性:(カバーの総厚(mm):2.2、コンプレッション:99.5、耐久性:98、低温耐久性:○)、飛行性能:(ウッド♯1:(ボール初速(m/s):66.0、キャリー(ヤード):234.5)、アイアン♯9:(スピン(rpm):8100、キャリー(ヤード):136.0、ラン(ヤード):0.5、 トータル(ヤード):136.5))、アイアンでのコントロール性:○、打球感:○)」(【表6】、【表7】。)
2-サ.「まず、比較の対象とするゴルフボールについて説明すると、上記比較例のうち、比較例10は従来の代表的ツーピースソリッドゴルフボールであり、この比較例10は、表15に示すように、飛距離が大きいが、アイアンショットでのコントロール性が悪く、かつ打球感が硬くて悪い。
また、比較例12は市販のバラタカバー糸巻きゴルフボールであり、この比較例12は、表14および表15に示すように、アイアンでのコントロール性は良く、打球感もソフトなフィーリングであるが、耐久性が悪く、また飛距離もツーピースソリッドゴルフボールである比較例10に比べて小さい。
そこで、本発明の実施例1〜13の特性をこれらの代表的ツーピースソリッドゴルフボールである比較例10や市販のバラタ糸巻きゴルフボールである比較例12と比較しつつ説明すると、本発明の実施例1〜13は、表1〜表9に示すように、従来の代表的なツーピースソリッドゴルフボールである比較例10とほぼ同等の大きな飛距離を示し、また耐久性も比較例10より優れている。
また、本発明の実施例1〜13は、アイアンショットでのコントロール性が良好であり、打球感も良好であって、むしろ市販のバラタカバー糸巻きゴルフボールである比較例12より良好である。
すなわち、本発明の実施例1〜13は、飛距離が大きく、アイアンショットの安定性が優れ、、かつ打球感が良好である。」(【0078】〜【0082】。)
当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物3(甲第3号証)には、
3-ア.「耐クラック性を向上するためには、ソリッドゴルフボールまたはソリッド内核の任意の位置での硬度のバラツキ幅は5以下、特に好ましくは3以下にしなければならない。硬度のバラツキ幅が5より大きいと、加硫中に内部歪が残り、耐クラック性が良くない。」(第4欄第2〜7行。)
3-イ.「実施例1:(内核硬度分布(JCタイプ):(表面:81、中へ5mm:81、中へ10mm:81、中へ15mm:80、中心部:79))」(表-1。)
3-ウ.「実施例2:(内核硬度分布(JCタイプ):(表面:78、中へ5mm:79、中へ10mm:79、中へ15mm:78、中心部:76))」(表-1。)
3-エ.「実施例1は比較例1〜6に比べて、硬度分布が均一である。これは、配合に適した加硫速度にて加硫しているためで、耐クラック性、反撥係数も他と比べて最も高いものであった。」(第9欄第1〜4行。)
3-オ.「実施例2は、実施例1とは異なった配合の組成を用いて、均一加硫を行なった例である。
比較例7は実施例2と同じ処方で調整したものであるが、実施例2に比べ耐クラック性、反撥弾性共に劣っている。」(第9欄第20〜24行。)
(5)請求項1及び請求項2に係る発明の課題及び効果と刊行物2記載のゴルフボールの課題及び効果について
ゴルフボールには、大きく分けて、高反撥性能で飛行性能が優れかつ耐久性が優れたソリッドゴルフボールと、コントロール性と打球感(打球時のフィーリング)が優れた糸巻きゴルフボールとがある。そして、従来のコアとカバーとからなるツーピースソリッドゴルフボールは飛行性能と耐久性が優れているものの、糸巻きゴルフボールに比べてコントロール性と打球感が悪いという欠点があった。また、ツーピースソリッドゴルフボールのコントロール性を改善するために提案されたカバーを2層にしたソリッドゴルフボールは、ツーピースソリッドゴルフボールに比べて耐久性が悪いという欠点があった。(【0001】〜【0005】参照。)
本件特許第2954526号の請求項1及び請求項2に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された構成を採用することにより、高反撥性能で飛行性能が優れ、かつ耐久性、コントロール性及び打球感が優れたソリッドゴルフボールを提供することができたものである。(【0068】参照。)
一方、刊行物2記載のゴルフボールも、アイオノマーを基材樹脂としたカバーは、耐久性、耐カット性に優れ、特に高剛性、高硬度のアイオノマーをカバーの基材樹脂として用いたゴルフボールは、大きな飛距離を有するものの、打球感(フィーリング)が悪く、アイアンショットでのコントロール性が悪かった(摘記事項の2-イ参照。)ことに対処して、大きな飛距離を示し、耐久性も優れていて、アイアンショットでのコントロール性が良好であり、打球感も良好である(摘記事項の2-サ参照。)ものとして得たものであるから、両者の課題及び効果は共通している。(本件特許に係る明細書では、「コントロール性」を「スピン量」で評価し(【0055】参照。)、「スピン量」は「ピッチングウェッジ」で打球した場合(【0047】参照。)を測定しているから、本件特許に係る明細書の「コントロール性」と刊行物2記載の「アイアンショットでのコントロール性」とは同じ内容を表現したものである。)
(6)請求項1に係る発明について
刊行物2の摘記事項の2-エ〜2-コから判断して、実施例6の内容は以下の通りである。
コア(ブタジエンゴム:100、アクリル酸亜鉛:30、酸化亜鉛:22、老化防止剤:0.5、ジクミルパーオキサイド:2.5、直径mm:38.3)。
内層カバー(ハイミラン#1706:50、ハイミラン#1605:35、ハイミラン#1707:15、曲げ剛性率kg/cm2:3500、厚みmm:1.5)。
外層カバー(ハイミラン#1706:25、ハイミラン#1855:25、ハイミラン#1605:25、ハイミラン#1555:20、ハイミラン#1856:15、曲げ剛性率kg/cm2:2500、厚みmm:0.7)。
そして、本件特許に係る明細書の「曲げ弾性率kgf/cm2」は「東洋精機社製スティフネステスターを用い、ASTM D-747に準じて23℃で測定したものであり、」(【0040】参照。)とあるから、刊行物2記載の「曲げ剛性率(kg/cm2)」に等しいものである。
そうすると、刊行物2の実施例6記載のコア、内層カバー、外層カバーはそれぞれ請求項1に係る発明のコア、内層カバー、外層カバーに相当し、刊行物2の実施例6記載のコア直径の38.3mmは、請求項1に係る発明のコア直径の32.7〜38.4mmを満足し、刊行物2の実施例6記載の内層カバー(ハイミラン#1706:50、ハイミラン#1605:35、ハイミラン#1707:15)は、請求項1に係る発明の内層カバー(アイオノマー樹脂を主成分とする樹脂組成物)を満足し、刊行物2の実施例6記載の内層カバーの曲げ剛性率kg/cm2:3500は、請求項1に係る発明の内層カバーの曲げ弾性率kgf/cm2:3500〜6000を満足し、刊行物2の実施例6記載の内層カバーの厚み1.5mmは、請求項1に係る発明の内層カバーの厚み1.1〜2.5mmを満足し、刊行物2の実施例6記載の外層カバー(ハイミラン#1706:25、ハイミラン#1855:25、ハイミラン#1605:25、ハイミラン#1555:20、ハイミラン#1856:15)は、請求項1に係る発明の外層カバー(アイオノマー樹脂を主成分とする樹脂組成物)を満足し、刊行物2の実施例6記載の外層カバーの曲げ剛性率kg/cm2:2500は、請求項1に係る発明の外層カバーの曲げ弾性率kgf/cm2:2300〜5500を満足し、刊行物2の実施例6記載の外層カバーの曲げ剛性率は内層カバーの曲げ剛性率より低く、その差は1000kg/cm2であるから、請求項1に係る発明の外層カバーの曲げ弾性率は内層カバーの曲げ弾性率より低く、その差が500kgf/cm2以上を満足する。したがって、請求項1に係る発明と刊行物2の実施例6に記載された発明を対比すると下記A.及びB.の点で相違するもののその余の点で一致している。
A.請求項1に係る発明が、「コアに初期荷重10kgをかけたときから終荷重130kgをかけたときまでの変形量が、3.5〜6.5mmである」と規定しているのに対し、刊行物2の実施例6に記載された発明にはコアの当該条件での変形量が示されていない点。
B.請求項1に係る発明が、「外層カバーの厚みが、1.1〜2.5mmである」と規定しているのに対し、刊行物2の実施例6に記載された発明の外層カバーは0.7mmであって、規定値の下限に満たない点。
以下上記相違点A.及び相違点B.について検討する
相違点A.について
本件特許に係る明細書の表1及び表8に示される実施例1、2、3、及び6と比較例6を対照して、比較例6がコアの変形量を実施例1、2、3、及び6のコアの変形量4.335mmに対し3.343mmと1mm近く減少させているのは、直径が実施例1、2、3、及び6の35.1mmに対し比較例6は35.1mmと等しく、酸化亜鉛の配合量が実施例1、2、3、及び6の32.8重量部に対し比較例6は30.0重量部と近似しているから、主としてアクリル酸亜鉛の配合量を実施例1、2、3、及び6の26重量部に対し比較例6が35重量部と9重量部増加させたことによると考えられる。(アクリル酸亜鉛の配合量がコア変形量を左右する要因である点は【0018】参照。)
また、本件特許に係る明細書の表8に示される比較例11と刊行物2の実施例6に記載された発明を対照すると、コアの直径は比較例11の38.7mmに対し刊行物2の実施例6に記載された発明は38.3mmと近似し、酸化亜鉛の配合量は比較例11の23.0重量部に対し刊行物2の実施例6に記載された発明は22重量部と近似しているから、コア変形量の変動要因は主としてアクリル酸亜鉛の配合量を比較例11の26重量部に対し刊行物2の実施例6に記載された発明が30重量部と4重量部増加させたことによると考えられる。
そうすると、実施例1、2、3、及び6と比較例6の対照でみたように、コアの直径が35.1mmのときに、アクリル酸亜鉛の配合量の26重量部に対する9重量部の増加で、1mm近くのコアの変形量の減少があるわけであるから、この相関関係を比較例11と刊行物2の実施例6に記載された発明の対照にあてはめてみれば、コアの直径が38.3mm程度で、アクリル酸亜鉛の配合量の26重量部に対する4重量部の増加では、0.5mm相当のコアの変形量の減少があるはずである。
つまり、刊行物2の実施例6に記載された発明のコアの変形量は4.621mmから0.5mm相当を差し引いた4.1mmに近似した値となるはずであるから、請求項1に係る発明のコア変形量3.5〜6.5mmの範囲に納まるものと考えられる。したがって、刊行物2の実施例6に記載された発明のコアに初期荷重10kgをかけたときから終荷重130kgをかけたときまでの変形量は、請求項1に係る発明のコアに初期荷重10kgをかけたときから終荷重130kgをかけたときまでの変形量3.5〜6.5mmを満足しており相違はない。
相違点B.について
刊行物2の実施例6に記載された発明の外層カバーの厚みは0.7mmであるが、これは外層カバーの厚みを0.5〜2.5mm、内層カバーと外層カバーとの総厚を1.0〜4.5mmとする条件(摘記事項の2-ア参照。)のもとに任意に選択されたものである。したがって、外層カバーの厚みを0.7mmに換えて、この条件のもとにその範囲内である値1.1〜2.5mmに外層カバーの厚みを設定することは当業者が適宜なし得たものである。
また、請求項1に係る発明の効果についてみても、請求項1に係る発明のように構成することによって、予期しない格別の効果を奏するようになったものではない。
以上のとおりであって、請求項1に係る発明は、刊行物2の実施例6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(7)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明を引用する形式で記載されており、請求項1に係る発明に加えて、「コアの内部硬度が、JIS-C型硬度計で測定した硬度で、中心部分の硬度と中心以外の部分の硬度との差が5%以下である」ことを発明の構成要件としている。この点に関して刊行物2の実施例6には、コアの硬度についての規定はないから請求項2に係る発明と刊行物1の実施例6に記載された発明とを対比すると2.-(6)でみた相違点A.及び相違点B.に加えて下記C.の点で相違するもののその余の点で一致している。
C.請求項2に係る発明が、「コアの内部硬度が、JIS-C型硬度計で測定した硬度で、中心部分の硬度と中心以外の部分の硬度との差が5%以下である」とコアの内部硬度の態様を規定しているのに対し、刊行物2の実施例6に記載された発明にはこのようなコアの内部硬度の態様が示されていない点。
上記相違点A.〜相違点C.のうち相違点A.及び相違点B.については2.-(6)でみたとおりであるから、以下相違点C.について検討する。
本件請求項2に係る発明が、「コアの内部硬度が、JIS-C型硬度計で測定した硬度で、中心部分の硬度と中心以外の部分の硬度との差が5%以下である」とした点は、高反撥性能で、かつ優れた耐久性を得ることにある(【0015】参照。)。
ところが、刊行物3には、ソリッド内核の耐クラック性を向上するために、硬度のバラツキを抑えることが記載(摘記事項の3-ア.参照。)されている。そして、表1の実施例1及び実施例2には内核硬度分布(JCタイプ)(表面:81,78、中へ5mm:81,79、中へ10mm:81,79、中へ15mm:80,78、中心部:79,76)と記載(摘記事項の3-イ.及び3-ウ.参照。)されている。この実施例1及び実施例2について、中心以外の部分の硬度のうち、中心部分の硬度と最も差の大きい硬度についてその差の百分率をとってみると、それぞれ2.53%及び3.95%となる。そうすると、コアの耐クラック性の向上を意図して、刊行物2の実施例6に記載されたゴルフボールのコアの中心部分の硬度と中心以外の部分の硬度との差の上限の値として、刊行物3の実施例1及び実施例2に記載された内核硬度分布の差の百分率2.53%及び3.95%の値を採用することはそれぞれ当業者が容易に想起し得たものである。そしてこれらの値は請求項2に係る発明の、コアの内部硬度が、JIS-C型硬度計で測定した硬度で、中心部分の硬度と中心以外の部分の硬度との差が5%以下を満足している。また、このゴルフボールのコアは、耐クラック性が向上しているから、耐久性に優れているといえ、本件請求項2に係る発明と共通の効果を奏するものである。
以上のとおりであって、請求項2に係る発明は、刊行物2の実施例6に記載された発明及び刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(8)意見書について
特許権者は、平成13年10月12日付け意見書で、「本件特許に係る明細書の『曲げ弾性率』と刊行物2記載の『曲げ剛性率』とは異なる。本件特許に係る明細書の『曲げ弾性率』は英語で『FLEXURAL MODULUS』と表現され、ASTM-D-790で規定される要領で測定され、刊行物2記載の『曲げ剛性率』は英語で『STIFFNESS MODULUS』と表現され、JIS-K-7106で規定される要領で測定されるものである。」旨主張しているので、以下に検討する。
特許権者は刊行物2記載の『曲げ剛性率』は英語で『STIFFNESS MODULUS』と表現されるとしているが、そのとおりであると考えられる。そして、『曲げ剛性率』は、E=229LM/ab3θで表される(小川 伸 著「英和 プラスチック工業辞典」1992年5月25日 発行 株式会社 工業調査会 第953頁“stiffness modulus”及び“stiffness test[ing]”の項参照)。
一方、プラスチックの「曲げこわさ」試験が、「JIS-K-7106」及び「ASTM-D-747」で測定されるが、これは、ES=4S/bh3×(M0×n)/100φで表される(宮坂 啓象 編「プラスチック事典」1997年9月20日(1992年3月1日 初版) 発行 株式会社 朝倉書店 第992頁 「a.曲げこわさ試験」の項参照。)。
『曲げ剛性率』の式では、θ:[deg]で表され、「曲げこわさ」の式では、φ:[rad]で表され、『曲げ剛性率』の式のMと、「曲げこわさ」の式の(M0×n)/100とは、M=(M0×n)/100であると考えられるから、両者の式のみかけは相違するが、両者の式は等しい内容である。したがって、『曲げ剛性率』と「曲げこわさ」の内容は等しい。
特許権者は、本件特許に係る明細書の『曲げ弾性率』は英語で『FLEXURAL MODULUS』と表現され、「ASTM-D-790」で規定される要領で測定されるものであると主張している。しかしながら、本件特許に係る明細書によれば、『曲げ弾性率』は「ASTM-D-747」に準じて測定して得られたものである(【0040】参照。)。そうすると、先にみたとおり、「ASTM-D-747」は、「JIS-K-7106」とともに「曲げこわさ」を測定するものであったから、本件特許に係る明細書の『曲げ弾性率』が「ASTM-D-747」に準じて測定して得られたものである以上、本件特許に係る明細書の『曲げ弾性率』は、「曲げこわさ」に等しく、さらには刊行物2記載の『曲げ剛性率』に等しい。
すなわち、本件特許に係る明細書の『曲げ弾性率』は、刊行物2記載の『曲げ剛性率』と相違がないものといえる。したがって、本件特許に係る明細書の『曲げ弾性率』と刊行物2記載の『曲げ剛性率』とが異なるとする、特許権者の主張は採用できない。(特許異議申立書に添付の参考資料3の表1-2「ハイミランの銘柄」にも『曲げ弾性率』という項目があるが、測定法は「JIS-K-7106」になっているから、これが表現しているものも、刊行物2記載の『曲げ剛性率』(「曲げこわさ」)のことである。したがって、『曲げ剛性率』(「曲げこわさ」)は、「ASTM-D-747」(本件特許に係る明細書)や、「JIS-K-7106」(参考資料3)によって測定されるが、その結果を、『曲げ弾性率』として表示すること(本件特許に係る明細書及び参考資料3)は、ないことではない。)
(9)むすび
以上のとおりであって、請求項1及び請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1及び請求項2に係る発明の特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-04-04 
出願番号 特願平8-90454
審決分類 P 1 651・ 121- Z (A63B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 神 悦彦  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 前田 建男
白樫 泰子
登録日 1999-07-16 
登録番号 特許第2954526号(P2954526)
権利者 住友ゴム工業株式会社
発明の名称 ソリッドゴルフボール  
代理人 藤村 元彦  
代理人 三輪 鐵雄  

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