• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G03F
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  G03F
管理番号 1059639
異議申立番号 異議2002-70576  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-03-04 
確定日 2002-06-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第3205635号「感光性エレメント」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3205635号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯と本件発明について
本件特許第3205635号は、平成5年3月30日の出願(パリ条約による優先権主張(1992年3月31日・米国))であり、平成13年6月29日にその特許の設定登録がなされ、田中二子より特許異議の申立てがなされたものである。
そして、本件の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲請求項1に記載された下記のとおりのものである。
「【請求項1】
(A)(1)支持体、
(2)(i)反応性部分と非反応性部分とを有する有機ポリマーかあるいは反応性部分をもつ少なくとも1つの有機ポリマーと非反応性部分をもつ少なくとも1つの有機ポリマーとの混合物のいずれか、(ii)架橋剤および(iii)触媒との反応生成物を含有する熱により硬化された層および
(3)光硬化性層より順次なる感光性エレメントを像露光し、
(B)露光済みのエレメントに対しウォッシュアウト現像液を適用し、
(C)この板を乾燥し、そして
(D)得られた板を後露光し、
その際、像露光ステップ(A)に先だって、感光性エレメントを支持体を介して約250nmと500nm間の波長をもつ紫外光に露光することにより、熱により硬化された層に対する光硬化性層の接着性が増強されることからなる、フレクソグラフ印刷板の作成方法。」
2.特許異議申立の理由の概要
異議申立人田中二子は、
甲第1号証(特開昭60-146235号公報)、
甲第2号証(日本電子精機株式会社の感光性フレキソ印刷版材「ルナフレックス」カタログ)を提出して、
本件発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるから、また、
甲第1〜2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、
特許を取消すべき旨主張している。
3.甲第1〜2号証に記載される発明
甲第1号証には、
「エチレン性不飽和結合を有する光重合成分を含有する感光性樹脂層を寸法安定な基材上に設けてなる感光性樹脂版材において、該機材と感光性樹脂層の間に下記のA、BおよびC成分を含有する組成物から成る厚さ0.5〜100μの中間層を設けたことを特徴とする感光性樹脂版材。
A 有機溶剤に可溶な分子量5000〜50000の飽和ポリエステル
100重量部
B 分子中に2個以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネート
5〜200重量部
C 分子中にエチレン性不飽和結合を有し、沸点が150℃以上の化合物
0.1〜50重量部」
(特許請求の範囲)《記載事項ア》、
「(技術分野) 本発明は、高度の画像再現性、すぐれた印刷適性および良好な水現像性を有する感光性樹脂版材に関するものである。」(第1頁左下欄末行〜同頁右下欄第2行)《記載事項イ》、
「本発明の接着用中間層組成物のA成分として使用される有機溶剤可溶な飽和ポリエステルとは飽和カルボン酸およびその誘導体と多価アルコール類から合成され、…アルコール類等の通常の有機溶剤単独または混合系の1種類以上に溶解しうるポリエステル樹脂である。」(第3頁左上欄第4〜14行)《記載事項ウ》、
「B成分の多価イソシアネートは、…A成分のポリエステルの末端にある水酸基やカルボキシル基と反応し、さらにイソシアネート基同士による反応や、水との反応が起こって架橋構造を形成して中間層に耐溶剤性を付与する。」(第3頁左下欄第8〜15行)《記載事項エ》、
「C成分は、それ自体が熱または活性光線で重合することによって中間層に耐溶剤性を付与する作用がある。前述したように、B成分の多価イソシアネートも中間層に耐溶剤性を付与する働きをもつので、C成分の作用はB成分に対して補助的な機能を果たす。すなわち、B成分のイソシアネートだけで中間層の耐溶剤性を十分に向上させようとするならば、大部分のイソシアネート基を架橋反応に消費して感光層との接着力発現に寄与する残存イソシアネート基が不足する。しかし、本発明ではC成分の補助機能によって接着発現に必要なイソシアネート基を残すことが可能になると考えられる。」(第4頁左上欄第18行〜同頁右上欄第10行)《記載事項オ》、
「本発明の中間層組成物は、A成分のポリエステルをB成分の多価イソシアネートとC成分の不飽和化合物の双方で架橋して耐溶剤性を付与することに特徴がある。…本発明では、C成分の重合によっても耐溶剤性が付与されるので感光層との十分な接着力発現に必要なイソシアネート基を中間層に安定して残存させ、同時に十分な耐溶剤性を付与することが可能となるものと考えられる。」(第5頁左上欄第5〜18行)《記載事項カ》と記載され、
実施例3として、
ポリエステルフィルム基材(厚さ200μ)の上に、
有機溶剤可溶性の飽和ポリエステル(分子量2万〜2.5万)100重量部、多価イソシアネート 30重量部、エチレン性不飽和化合物 12.5重量部、AIBN系熱重合開始剤 1重量部、有機溶剤等からなる塗工液を塗布してから、120℃のオーブンで10分間加熱して、溶剤除去と中間層の熱硬化を行って、乾燥膜厚10μの熱硬化した中間層を設け、その上に、感光性樹脂層(膜厚490μ)を積層して、感光性樹脂凸版材(全厚700μ)を得たこと、
得られた版材にネガフィルムを密着して像露光し、次いで、水系現像液で洗い出しして未露光部を除去、乾燥して、レリーフ印刷版を得たこと、
該レリーフ印刷版を点検すると、微細なパターンも再現しており、レリーフ部分と基板との接着力も十分であり、印刷テストの結果も良好であったこと《記載事項キ》が示されている。
甲第2号証は、感光性フレキソ印刷版材の製品カタログであり、発行日は不明であるが、該製品取り扱い業者の受付スタンプ印等から、本件の優先権主張日以前に公知の刊行物であると認められる。
甲第2号証には、感光性フレキソ印刷版材を用いて、像露光、現像、乾燥ののち、「後露光」して、フレキソ印刷版を作成することが図面と共に示されており、該「後露光」図の備考欄には、「ベースフィルム側から、後露光しますと、レリーフとベースフィルムの接着力が強固になります。」と記載されている。《記載事項ク》
4.対比・判断
(1)特許法第29条第1項第3号違反について
本件発明と、甲第1号証の実施例3に記載の発明とを対比するに、
後者の「ポリエステルフィルム基材」、「有機溶剤可溶性の飽和ポリエステル」、「多価イソシアネート」、「熱重合開始剤、「感光性樹脂層」、「感光性樹脂凸版材」、「レリーフ印刷版」は、各々前者の「支持体」、「反応性部分と非反応性部分とを有する有機ポリマー」、「架橋剤」、「触媒」、「光硬化性層」、「感光性エレメント」、「フレキソグラフ印刷板」に相当するから、
両者は、「(A)(1)支持体、
(2)(i)反応性部分と非反応性部分とを有する有機ポリマーかあるいは反応性部分をもつ少なくとも1つの有機ポリマーと非反応性部分をもつ少なくとも1つの有機ポリマーとの混合物のいずれか、(ii)架橋剤および(iii)触媒との反応生成物を含有する熱により硬化された層および
(3)光硬化性層より順次なる感光性エレメントを像露光し、
(B)露光済みのエレメントに対しウォッシュアウト現像液を適用し、
(C)この板を乾燥する
フレクソグラフ印刷板の作成方法。」で一致するが、
像露光前の支持体を介しての紫外光露光について、
前者が、熱により硬化された層と光硬化性層との接着性増強のため「像露光ステップ(A)に先だって、感光性エレメントを支持体を介して約250nmと500nm間の波長をもつ紫外光に露光する」ことが必須と規定するのに対して、後者が規定しない点〔相違点1〕及び
後露光について、前者が、光硬化域の増強のため「後露光する」ことが必須と規定するのに対して、後者が規定しない点〔相違点2〕
で明確に相違する。(前掲《記載事項ア〜キ》参照)
異議申立人は、〔相違点1〕、〔相違点2〕に関して、甲第1号証の発明の詳細な説明欄に「熱により硬化された層(中間層)の多価イソシアネートの反応性イソシアネート基は、一部残存して、感光層との接着力発現に寄与する」旨(前掲《記載事項オ〜カ》参照)の記載があることを論拠として、接着性向上に係る露光処理、即ち、像露光前の紫外光露光や、後露光が示唆されている旨、また、それらが構成上の相違点とまではいえない旨主張する。
そこで、異議申立人の指摘する甲第1号証の記載内容を詳細に検討する。
甲第1号証の発明では、熱硬化層と感光層との接着力発現のために、特段の露光処理を行う旨の記載は一切ないから、残存イソシアネート基による熱硬化層と感光層との接着力発現は、像露光を契機にもたらされるものと解釈せざるを得ない。
従って、像露光とは別の接着性向上に係る露光処理が示唆されるとはいえず、異議申立人の主張は認められない。
結局、本件発明は、甲第1号証に記載された発明と同一とはいえず、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
(2)特許法第29条第2項違反について
本件発明と、甲第1号証の実施例3に記載の発明とを対比しての一致点、相違点は上記4.(1)のとおりである。
相違点について、検討する。
甲第2号証には、感光性フレキソ印刷版材を用いて、像露光、現像、乾燥ののち、「後露光」して、フレキソ印刷版を作成する方法、及び、該「後露光」によりレリーフとベースフィルムの接着力が強固になるとの作用効果が記載されているが、「像露光前の支持体を介しての紫外光露光」については、何らの記載も示唆もない。(前掲《記載事項ク》参照)
してみると、甲第1〜2号証から、〔相違点1〕に係る「像露光ステップ(A)に先だって、感光性エレメントを支持体を介して約250nmと500nm間の波長をもつ紫外光に露光する」との本件発明の構成を導き出すことはできない。
そして、本件発明は、上記相違点に係る構成により、「支持体と光硬化性層との間で調整可能な接着性」があり、印刷版の最終用途・形態、や作成時の作業性等に応じて、「接着性-調整露光」の露光時間を調節することにより、接着性増強の度合いを調節できるなど明細書(第6〜10段落、第41〜43段落、実施例欄)記載のとおり、甲号各証から示唆されない特段の作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明は、甲第1〜2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
5.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-05-29 
出願番号 特願平5-71385
審決分類 P 1 652・ 113- Y (G03F)
P 1 652・ 121- Y (G03F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 禎治前田 佳与子  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 伏見 隆夫
阿久津 弘
登録日 2001-06-29 
登録番号 特許第3205635号(P3205635)
権利者 イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー
発明の名称 感光性エレメント  
代理人 西村 公佑  
代理人 高木 千嘉  
代理人 佐藤 辰男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ