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審決分類 審判 一部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 訂正を認める。無効とする(申立て一部成立) B01D
審判 一部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効とする(申立て一部成立) B01D
審判 一部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て一部成立) B01D
管理番号 1060252
審判番号 無効2000-35231  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-04-27 
確定日 2002-04-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2663960号発明「乾式脱硫装置の運転方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2663960号の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする。 特許第2663960号の請求項3に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2663960号に係る発明は、平成4年7月6日に出願され、平成9年6月20日にその設定登録がされたものである。
これに対し、本件請求人より、平成12年4月27日に、本件発明について、上記特許を無効とする審決を求める旨の審判が請求された。
その後、本件被請求人に対し、上記請求の請求書副本の発送が行われ、本件被請求人より、その指定期間内である平成12年8月14日に審判事件答弁書及び訂正請求書が提出され、さらに、本件被請求人に対し、無効の理由が通知され(発送日平成13年5月15日)、その指定期間内である平成13年6月14日に意見書及び訂正請求書が提出されたものである。
2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
A.訂正事項a
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1における、「SO2ガス及び10%以上のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質を含む排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置を次の数1及びY=-20T+2800で示す範囲内で使用することを特徴とする乾式脱硫装置の運転方法。
【数1】 50 4000
Y ≦ ━━━━T - ━━━━
3 3
ここでY:SO2濃度(ppm dry bases)
T:排ガス温度(℃)」とあるのを、
「100ppm以上のSO2ガス及び10%以上のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質を含む排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置を次の数1及びY=-20T+2800で示す範囲内で使用することを特徴とする乾式脱硫装置の運転方法。
【数1】 50 4000
Y ≦ ━━━━T - ━━━━
3 3
ここでY:SO2濃度(ppm dry bases) (但し、SO2濃度150ppmは除く)
T:排ガス温度(℃)」に訂正する。
B.訂正事項b
本件明細書の特許請求の範囲の請求項3における、「前記数1とY=-20T+2800で示す範囲内に排ガス温度を制御する請求項1又は請求項2の乾式脱硫装置の運転方法。」とあるのを、
「100ppm以上のSO2ガス及び10%以上のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質を含む焼結排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置において排ガスの冷却装置を前段に設けるか又は排ガス源の運転状態を調整して次の数2及びY=-20T+2800で示す範囲内に排ガス温度を制御し、吸着剤の細孔内部に固体化合物が生成してその体積膨張により吸着剤が粉化することによる吸着剤の極度の減量が防止され、しかもO2濃度が高い状態で吸着剤温度が上昇して吸着剤炭素分の自然酸化速度が上昇することによるホットスポットの発生が防止されるように運転する、ことを特徴とする乾式脱硫装置の運転方法。
【数2】 50 4000
Y ≦ ━━━━T - ━━━━ (数1と同じ)
3 3
ここでY:SO2濃度(ppm dry bases) (但し、SO2濃度150ppmは除く)
T:排ガス温度(℃)」に訂正する。
C.訂正事項c
本件明細書の段落【0004】の「SO2ガス」を、「100ppm以上のSO2ガス」と訂正する。
D.訂正事項d
本件明細書の段落【0005】の「SO2ガス」を、「100ppm以上のSO2ガス」と訂正する。
E.訂正事項e
本件明細書の段落【0010】の「SO2ガス」を、「100ppm以上のSO2ガス」と訂正する。
F.訂正事項f
本件明細書の段落【0009】の「排ガス中のO2濃度」を、「排ガス中のSO2濃度が100ppm以上でかつO2濃度」と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
A.上記訂正事項aは、
a-1.「SO2ガス」を「100ppm以上のSO2ガス」とする訂正
a-2.前記「数1」及びY=-20T+2800で示す範囲内から、SO2濃度が「150ppm」の場合を除く訂正
に細分することができる。
訂正事項a-1は、処理すべき排ガスを、SO2ガス濃度が100ppm以上のものに限定するものであり、訂正事項a-2も、先行技術に記載されたSO2ガス濃度「150ppm」の場合を除外するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件発明において、処理すべき排ガス中のSO2ガス濃度が100ppm以上であることは、本件特許明細書及び図面における段落【0006】の「SO2の濃度が300ppm、200ppm、100ppmの場合」という記載及び図2ないし図4に記載されるとおりであるから、上記訂正事項a、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、新規事項の追加に該当しない。
また、その訂正内容からみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。
B.上記訂正事項bは、
b-1.請求項1を引用する請求項3の発明に請求項1の内容を記載して独立形式の表現に変更すると共に請求項2を引用する発明を削除する訂正
b-2.被処理排ガスを「焼結排ガス」に限定する訂正
b-3.排ガス温度を制御するのに「排ガスの冷却装置を(移動層式乾式脱硫装置の)前段に設けるか又は排ガス源の運転状態を調整」することにより行うこととする訂正
b-4.排ガス温度の制御が「吸着剤の細孔内部に固体化合物が生成してその体積膨張により吸着剤が粉化することによる吸着剤の極度の減量が防止され、しかもO2濃度が高い状態で吸着剤温度が上昇して吸着剤炭素分の自然酸化速度が上昇することによるホットスポットの発生が防止されるように運転する」ものであることとする訂正
に細分することができる。
上記訂正事項b-1は、単なる表現形式の変更と、請求項3に記載されていた請求項1と請求項2を引用する発明の内、請求項2を引用する発明を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
上記訂正事項b-2は、被処理排ガスを焼結排ガスに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、焼結排ガスを被処理排ガスとすることは、本件特許明細書段落【0009】に記載された事項であるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
上記訂正事項b-3は、排ガス温度の制御手段を、排ガスの冷却装置か排ガス源の運転状態の調整のいずれかに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、このような排ガス制御手段は、本件特許明細書段落【0009】に例示されているものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
上記訂正事項b-4は、本件特許発明による排ガス温度の制御が、吸着剤の粉化による減量が防止され、吸着剤炭素分の自然酸化速度の上昇によるホットスポットの発生が防止されるように運転することであることを明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当し、係る事項は、本件特許明細書段落【0007】、【0008】及び【0009】に記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
以上検討したように、訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮ないし明りょうでない記載の釈明に該当し、いずれも新規事項の追加に該当せず、しかも実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
C.訂正事項cないしfは、訂正事項aにより訂正された特許請求の範囲の記載に、発明の詳細な説明の記載を整合させることを目的とするものであり、明りょうでない記載の釈明に該当し、いずれも新規事項の追加に該当せず、しかも実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
2-3.むすび
したがって、本件訂正請求は、特許法第134条第5項の規定によって準用する特許法第126条第2、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.当事者の主張
3-1.請求人の主張
本件請求人は、甲第1ないし13号証を提示し、
a)本件請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証、及び甲第5号証に記載された発明であり、また甲第1ないし7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許発明は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである旨、
b)本件請求項2に係る発明は、甲第1ないし3、又は5号証に記載された発明であり、また甲第1ないし7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許発明は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである旨、
c)本件訂正後の請求項3に係る発明は甲第1号証、甲第4号証、甲第6号証ないし甲第7号証に記載された発明であり、また甲第1,4,6,7号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第1項又は第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許発明は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである旨、
d)本件請求項1ないし3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第5項(平成2年改正特許法)の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第4号により無効とすべきものである旨、主張している。
3-2.被請求人の主張
被請求人は、前記訂正請求を行うとともに、訂正後の本件発明は甲各号証に記載の発明と同一ではなく、また甲各号証の記載から容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明は特許法第29条第1項第3号ないし同条第2項の規定に違反するものではなく、また本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものであるから同法第36条第6項に規定する要件を満たすものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号又は同条第1項第4号により無効とされない旨を主張している。
4.請求人が主張する無効理由の検討
4-1.本件特許発明
訂正後の本件発明は、上記訂正請求書に添付された全文訂正明細書及び本件特許出願の願書に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものである(以下「本件発明1」ないし「本件発明3」という)。
【請求項1】100ppm以上のSO2ガス及び10%以上のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質を含む排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置を次の数1及びY=-20T+2800で示す範囲内で使用することを特徴とする乾式脱硫装置の運転方法。
【数1】 50 4000
Y ≦ ━━━━T - ━━━━
3 3
ここでY:SO2濃度(ppm dry bases) (但し、SO2濃度150ppmは除く)
T:排ガス温度(℃)
【請求項2】130℃以下で固体の化合物を生成する物質がNH3,HCl,NaCl,Na2O,KCl,K2O等の1つ又は複数を含んでいる請求項1の乾式脱硫装置の運転方法。
【請求項3】100ppm以上のSO2ガス及び10%以上のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質を含む焼結排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置において排ガスの冷却装置を前段に設けるか又は排ガス源の運転状態を調整して次の数2及びY=-20T+2800で示す範囲内に排ガス温度を制御し、吸着剤の細孔内部に固体化合物が生成してその体積膨張により吸着剤が粉化することによる吸着剤の極度の減量が防止され、しかもO2濃度が高い状態で吸着剤温度が上昇して吸着剤炭素分の自然酸化速度が上昇することによるホットスポットの発生が防止されるように運転する、ことを特徴とする乾式脱硫装置の運転方法。
【数2】 50 4000
Y ≦ ━━━━T - ━━━━ (数1と同じ)
3 3
ここでY:SO2濃度(ppm dry bases) (但し、SO2濃度150ppmは除く)
T:排ガス温度(℃)
4-2.甲各号証記載の発明
ア.甲第1号証(特公昭55-17618公報)
ア-1.「この発明はボイラー等の燃焼排ガス、製鉄所の焼結排ガス・・・等に含まれる窒素酸化物を除去する方法に関するものである。」(第2欄2〜5行)
ア-2.「窒素酸化物を含有する排ガスを150℃以下に温調してアンモニアガスを注入し、活性炭・・触媒からなる触媒層中に通過させ」(第1欄2行〜8行)
ア-3.「次に移動層式反応装置(第2図)の例について説明する。」(第4欄32行)
ア-4.「以下に本発明による効果を説明するため毎時標準1〜10m3の排ガスを処理できる固定層式反応装置による代表例を示す」(第7欄6〜8行)
ア-5.「活性炭触媒を用いてNOx200ppm、酸素14.5%、水分7%、亜硫酸ガス150ppmの製鉄所焼結ガスをSV3000h-1、反応温度90℃で処理した。」(第7欄38〜41行)
イ.甲第2号証(特公平1-54089公報)
イ-1.「硫黄酸化物と窒素酸化物を含有する約100〜180℃の排ガスをアンモニアガスの共存化に、炭素質触媒と接触させて排ガスに脱硫脱硝処理を施す方法に於いて、硫黄酸化物含量が約300ppm以下の前記排ガスを二つのガス流に分割し、第1の排ガス流を炭素質触媒が充填された第1の移動層反応器に導入して脱硫脱硝し、第2の排ガス流を炭素質触媒が充填された第2の移動層反応器に導入して脱硫脱硝し、第1の移動層反応器出口から排出される炭素質触媒を第2の移動層反応器入口に供給し、第2の移動層反応器出口から排出される炭素質触媒を加熱再生後、第1の移動層反応器入口に供給することを特徴とする排ガスの処理方法」(特許請求の範囲)
イ-2.「この2段処理法は低温度で排ガスを脱硫脱硝できる点で優れているが、SOx濃度が比較的低い(約300ppm以下)排ガスを処理する場合には、大仰にすぎる嫌いがあり、・・・この場合、排ガス中のSOx濃度が低く、炭素質触媒に吸着されるSOx量が少ないので、反応器内の触媒の滞留時間を長くすることができる。しかしながら経済性の点で滞留時間を長くすると、たとえ反応温度が150℃前後の低温度でも、炭素質触媒の酸化反応熱の蓄熱によって、触媒層内にホットスポットが発生し、触媒の燃焼事故を招く虞がある。」(第3欄6〜23行)
イ-3.「150ppmのイオウ酸化物、250ppmの窒素酸化物、10%の水分、10%の酸素を含有する120℃の排ガス10000Nm3/hを5000Nm3/hずつに分割し、一方の排ガスにNH3を350ppm注入した後、8.3m3の粒状活性炭を充填した第1の直交流移動層反応器に通過させた」(第7欄2〜7行)
ウ.甲第3号証(特公昭63-1889公報)
ウ-1.「硫黄酸化物を含む排ガスにアンモニアガスを添加した後に脱硫装置に導いて炭素質吸着剤と接触させて排ガス中の硫黄酸化物を除去」(第1欄2行〜4行)
ウ-2.「本発明の実施に際し、装置の形式は移動層方式、固定層方式のいずれも利用できる」(第3欄12〜14行)。
ウ-3.「特に排ガス中のSO2濃度が低い場合(約300ppm以下)には吸着硫黄量が少ないため、活性化に長時間を必要とするので、このような条件では運転当初排ガス中にSO2を添加してNH3無注入で運転して活性化を早めることが可能である」(第3欄41行〜第4欄1行)
ウ-4.「実施例1 微粉石炭にピッチ、水を加えて混練後約4mmφ×5mmの柱状体に加圧成型し、これを燃焼排ガスで850℃の温度で炭化して得られた吸着剤を充填した直交流式移動層反応器にSO2 970ppm、NOx280ppm、H2O 7.8%、O2 5.0%を含有する石炭たきオイラー排ガスを145℃の温度で通過させた」(第4欄19〜26行)
ウ-5.「実施例2 実施例1と同様にSO2 150ppm、NOx250ppm、H2O 9.5%、O2 14%を含有する製鉄所焼結排ガスを、130℃で通過させた」(第4欄35〜38行)
ウ-6.「比較例として運転当初よりNH3を300ppm注入した場合(比較例3)の結果も第3図に示した」(第4欄44行〜第5欄2行)
エ.甲第4号証(特公昭55-17617公報)。
エ-1.「窒素酸化物及び硫黄酸化物を含有する排ガスを150℃以下に温調してアンモニアガスを注入した後に、活性炭…触媒属中に通過させ」(第1欄2行〜8行)
エ-2.「次に移動層式反応装置(第2図)の例について説明する」(第5欄8〜9行)
エ-3.「以下に本発明による効果を説明するために毎時標準1〜10m3の排ガスを処理できる固定層式反応装置による代表例を示す」(第7欄43〜第8欄1行)
エ-4.「活性炭触媒(約4mm×7mm)を用いてNOx200ppm、SOx350ppm、酸素15%、水分8%の製鉄所焼結排ガスをSV2000h-1、反応温度90℃で処理した」(第8欄30〜33行)
オ.甲第5号証(特開昭58-196828公報)
オ-1.「焼結過程後半部の排ガスをそのまま又はNH3存在下で120〜160℃の温度範囲にて脱硫処理する」(第1頁左欄10〜14行)
オ-2.「脱硫および脱硝装置の排ガス処理部を活性炭による移動床で構成」(第3頁左下欄1〜3行)
オ-3.第1図に、焼結機における各ウインドボックス別の硫黄酸化物(SO2)濃度分布が示されている。
オ-4.「SO2濃度の高い排ガスは、廃熱ボイラー22で160℃以下に冷却し集塵後、脱硫装置23にて脱硫に供される。この場合、温度は脱硫の目的からは低い方が良いが低温腐食等を考慮して120℃以上とする」(第3頁左上欄8〜12行)
オ-5.第3頁右下欄表には、ガス温度145℃、装置入口SO2平均濃度500ppm、アンモニア注入濃度250ppm(以上、排鉱側)、及び、ガス温度l05℃、装置入口SO2平均濃度20ppm、アンモニア注入濃度180ppm(以上、給鉱側)、の実施例が記載されている。
オ-6.図2はガス温度145℃、NOx濃度200ppmの条件下での各共存SOx濃度別の脱硝率のデータが示されており(第2頁右下欄2〜4行)、硫黄酸化物(SO2)濃度0、50、250及び1050ppmのケースが記載されている。
カ.甲第6号証(特公昭61-6689公報)
カ-1.「硫黄酸化物あるいは硫黄酸化物と窒素酸化物を含む排ガスにアンモニアガスを注入し、活性炭等の炭素質触媒の充填された直交流式移動層反応器に導き硫黄酸化物あるいは硫黄酸化物と窒素酸化物を同時に除去する」(第1欄2行〜6行)
カ-2.「活性炭触媒(粒径約4mm)の有効充填高さ12m、充填層厚lm、幅0.833mの直交流式移動層反応器を用い、反応器入口の排ガス導入部を上下方向に3分割し、220℃に温調した製鉄所焼結炉排ガス(SO2 500ppm、NOx180ppm、O2 14%、H2O 10%)をそれぞれ3330Nm3/H導入した(SVI000h-1に相当)。尚、アンモニア注入量として、反応器上部入口で300ppm、中間部で450ppm、下部で600ppm注入した」(第5欄12〜20行)
カ-3.「実施例1と同様に140℃に温調した実施例1と同じ排力スを3ヶ所の排ガス導入部よりそれぞれ2380Nm3/H導入した(SV700h-1に相当)。尚、アンモニア注入量として、反応器上部入ロで300ppm、中間部で450ppm、下部で600ppm注入した」(第6欄4〜9行)
キ.甲第7号証(特公昭55-17616公報)
キ-1.「窒素酸化物および硫黄酸化物を含有する排ガスを室温から150℃の範囲に温調して、アンモニアガスを注入し排ガスを活性炭・・触媒からなる触媒層中に通過させ」(第1欄2行〜9行)
キ-2.「次に移動層式反応装置(第2図)の例について説明する」(第4欄35行〜36行)。
キ-3.「以下に本発明による効果を説明するため毎時標準1〜10m3の排ガスを処理できる固定層式反応装置による代表例を示す」(第7欄8〜10行)
キ-4.「活性炭触媒を用いてNOx230ppm、硫黄酸化物470ppm、酸素13%、水分8%の焼結排ガスをSV2000h-1、反応温度80℃で処理した」(第7欄41〜44行)
キ-5.「活性炭を480℃の水蒸気流中で2時間処理した触媒を用いてNOx350ppm、SOx450ppm、酸素10%、水分8%を含む窒素ガスをSV2000h-1、反応温度80℃で処理した」(第8欄33〜37行)
4-3.対比・判断
4-3-1.特許法第29条違反について
【本件発明1】に対して
本件発明1と甲第3号証に記載の発明とを以下に対比検討する。
記載ウ-6における「NH3」は、本件特許明細書段落【0004】において「SO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質」として例示されている物質であり、記載ウ-1からみて、記載ウ-4の「直交流式移動層反応器」が「脱硫装置」であることは明らかであるから、記載ウ-4及び記載ウ-5を勘案すると、甲第3号証には、「150ppmのSO2ガス及び14%のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質としてNH3を含む排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置を排ガス温度130℃で運転すること」が記載されている。そして、排ガス温度130℃、SO2濃度150ppmの条件が、本件発明1の【数1】及び【数2】で示す範囲内の条件であることは明らかである。
したがって、甲第3号証には、「100ppm以上のSO2ガス及び10%以上のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質としてNH3を含む排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置を次の数1及びY=-20T+2800で示す範囲内で使用することを特徴とする乾式脱硫装置の運転方法」が記載されているといえる。
本件発明1では、「(但し、SO2濃度150ppmは除く)」の限定をしているので、この点について、以下検討する。
記載ウ-3からみて、甲第3号証に記載の方法が、SO2濃度150ppmの焼結排ガスのみに適用されると把握されるものではないし、甲第3号証の記載からみて、SO2濃度が150ppmの前後の含有量の時に、全く異なる挙動を示すものと理解することはできないから、該SO2濃度150ppmの記載は、具体的な数値を示して発明の内容を説明しようとしたにすぎないと解すべきである。
してみると、甲第3号証の実施例において、SO2濃度が150ppmと記載されていても、甲第3号証に記載される発明が、SO2濃度150ppmに限られるとするには無理があり、その実施例が参考となる範囲、すなわち、その150ppmの前後の範囲でSO2を含む排ガスの場合も甲第3号証に記載されているのに等しいというべきである。
結局、本件発明1における「(但し、SO2濃度150ppmは除く)」の限定によっても、本件発明1は甲第3号証に記載された発明と区別できないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
【本件発明2】に対して
本件発明2は、本件発明1において、「130℃以下で固体の化合物を生成する物質がNH3,HCl,NaCl,Na2O,KCl,K2O等の1つ又は複数を含んでいる」ことを限定した発明であるが、甲第3号証には、該「130℃以下で固体の化合物を生成する物質」として例示される「NH3」が記載されているのであるから、本件発明1で検討したのと同じ理由で、本件発明2は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
【本件発明3】に対して、
本件発明3は、本件発明1において、被処理排ガスを焼結排ガスに限定すると共に、排ガスの冷却装置を移動層式乾式脱硫装置の前段に設けるか又は排ガス源の運転状態を調整して、本件請求項1に係る発明と同一の数式で示す範囲内に排ガス温度を制御することにより、吸着剤の細孔内部に固体化合物が生成してその体積膨張により吸着剤が粉化することによる吸着剤の極度の減量が防止され、しかもO2濃度が高い状態で吸着剤温度が上昇して吸着剤炭素分の自然酸化速度が上昇することによるホットスポットの発生が防止されるように運転する、ことを特徴とする乾式脱硫装置の運転方法に相当するものである。
これに対し、本件発明1で検討したように、請求人が提出した甲第3号証には、「150ppmのSO2ガス及び14%のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質としてNH3を含む排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置を排ガス温度120℃で運転すること」が記載され、記載ウ-5によれば、上記排ガスは製鉄炉焼結ガスであり、上記SO2濃度と排ガス温度が、本件発明の特定の式の範囲を充足することは前述したように明らかであるが、該製鉄炉焼結排ガスの温度を制御して上記SO2濃度と排ガス温度とすることは記載がない。
甲第2号証には、記載イ-1、イ-2によれば、SOX濃度が比較的低い排ガスを約100〜180℃の温度でアンモニアと共に炭素質触媒が充填された移動層反応器で脱硫脱硝処理する方法に於いて、触媒層内にホットスポットが発生するのを防ぐため、排ガスを2分割して処理することが記載され、記載イ-3の実施例によれば、排ガス中の硫黄酸化物の殆どが二酸化硫黄であると仮定すれば、その運転条件は、本件発明3の数式の範囲内であると認められるが、甲第2号証にも排ガスの温度を制御することについては記載がない。
甲第1号証には、記載ア-5には、活性炭触媒を用いて、酸素14.5%、亜硫酸ガス150ppmの製鉄所焼結ガスを反応温度90℃で処理する実施例が記載されており、その運転条件は、本件発明3の数式の範囲内であると認められ、記載ア-2には、排ガス温度を150℃以下に温調することが記載されているが、記載ア-4によれば反応装置は固定層であって移動層ではないばかりか、記載ア-5の実施例には、焼結排ガスを温調することについての具体的な記載はなく、同一出願人に係る特許公開公報である甲第5号証の第1図に示される製鉄所焼結排ガス中のSO2濃度分布および排ガス温度分布の例をみれば、SO2濃度が150ppmの排ガス温度は100℃以下であるから、むしろ温調されていないことを示している。
甲第4号証には、記載エ-1によれば、排ガス温度を150℃以下に調温することが記載されているが、記載エ-4の焼結排ガスの処理条件は、記載エ-3によれば、反応装置は移動層ではなく固定層であり、しかも本件発明3の数式の範囲外であると認められる。
甲第5号証には、記載オ-1及び記載オ-4によれば、焼結排ガスを160℃以下に冷却した後、120〜160℃の温度範囲にて脱硫することが記載されているが、記載オ-5によれば、その操作条件はいずれも本件発明3の数式の範囲外であり、排ガスの温度を制御して本件発明3の数式の範囲内にすることが記載されているとは認められない。
甲第6号証には、記載カ-1によれば、硫黄酸化物含有排ガスを、アンモニアとともに、活性炭が充填された移動層反応器に導き脱硫する排ガスの処理方法が記載されており、記載カ-2及びカ-3によれば、焼結排ガスを脱硫するに当たり、それぞれ220℃、140℃に調温することも記載されているが、その操作条件はいずれも本件発明3の数式の範囲外であると認められる。
甲第7号証には、記載キ-1によれば、硫黄酸化物含有排ガスを室温から150℃の範囲に調温し、アンモニアとともに、活性炭が充填された反応器に導き脱硫する排ガスの処理方法が記載されているが、記載キ-4及びキ-5の実施例は、記載キ-3によれば、その反応器は移動層ではなく固定層であり、しかもその反応条件はいずれも本件発明3の数式の範囲外であると認められる。
そして、甲第2号証には、SOX濃度が比較的低い排ガスを約100〜180℃の温度でアンモニアと共に炭素質触媒が充填された移動層反応器で脱硫脱硝処理する方法に於いて、触媒層内にホットスポットが発生するのを防ぐことが記載されているものの、甲第1ないし7号証には、本件発明3の構成要件である特定の数式の範囲内に、排ガス温度及びSO2濃度を制御することにより、炭素質吸着剤の粉化及びホットスポットの発生の防止を図ることは記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明3は、甲第1ないし7号証記載の発明と認められないばかりか、同号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもと認めることはできない。
4-3-2.明細書の記載不備について
(1)特許法第36条第5項第1号(平成2年改正特許法)違反
請求人は、(a)数1が根拠としている図3には、式を導くための温度の数値に関する記載がなく、また(b)Y=-20T+2800に基づいて求めた臨界温度は、図4に示されている臨界温度と一致しないので、これらの数値上の根拠が発明の詳細な説明に記載がなく、本件特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第5項第1号の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。
しかしながら、本件発明の構成は、本件特許明細書(平成13年6月14日付訂正請求書に添付された訂正明細書)の段落【0004】「100ppm以上のSO2ガス及び10%以上のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成するNH3,HCl,Na2O,KCl,K2O等の1又は複数の物質を含む排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置を前記数1及びY=-20T+2800で示す範囲内で使用するようにした。」(第1〜5行)、段落【0005】「ハ)排ガス中にSO2,SO3,HSO3,H2SO4と反応し、130℃以下で固体の化合物を生成する物質(例えばNH3,HCl,NaCl,Na2O,KCl,K2Oの1又は複数)を含んでいる。なおNH3は故意に添加したNH3又は排ガス中に自然に含まれるNH3を含むものとする。」(4〜7行)、及び段落【0009】「本発明は上記範囲内で乾式脱硫装置を適用することに加え、上記範囲内に排ガス温度を制御することも含むものである。」(5〜7行)に明確に記載されている。
そして、図3に温度の数値が記載されていなくても、当業者は、この図面に基づいて、SO2濃度を一定とした場合の吸着剤粉化率を実験により求め、容易に本件発明を追試することができるのであり、また、本件発明におけるY=-20T+2800の数式は、図4に示される温度上昇が急激に上昇しない範囲、即ち図4の臨界線の範囲内にあることは明らかであり、臨界温度に対し5℃程度の安全率を見込んだものにすぎず、これらの点をもって、本件発明の数値が明細書に裏付けられていないとはいえない。
したがって、上記請求人の主張は採用することができない。
(2)ホットスポット及び活性炭の粉化の及ぼす影響について
さらに、請求人は、活性炭の粉化やホットスポットは、活性炭の種類や状態により変化するものであり、温度のみでは規定できないものであるから、本件発明で規定する数式の範囲を採用しても、本件発明の作用効果が必ず奏せられるとはいえない旨主張し、証拠として甲第8号証(特開平2-26618号公報),甲第9号証(「ケミカルエンジニアリング」、1988年3月号、42〜48頁),甲第10号証(「公害」13[1]、1〜21頁),甲第11号証(三井鉱山株式会社総合研究所長 辻 和比古作成「試験成績書」),甲第12号証(同 辻 和比古作成「活性炭の酸化速度に関する計算書」),甲第13号証(北山睦夫他著「活性炭工業」再版、昭和50年6月30日発行、434〜447頁)を提示する。
甲第9号証には、活性炭の酸化速度が活性炭の種類などにより異なることが記載され、甲第12号証には、甲第9号証に記載される数式に基づいて計算した酸化速度が、活性化エネルギーが異なる活性炭により変化することが示され、甲第13号証にはホットスポットの発生を防ぐため着火点の低い活性炭や、粉化度の高い活性炭の使用を避けることが記載されているが、ホットスポットの発生は、移動層の特定の部位における熱収支が問題となるのであって、活性炭の酸化速度だけで決まるものでないことは明らかであり、着火点の高低はホットスポットが発生する場合、即ち蓄熱量が放熱量より大の場合にホットスポットに至る時間の長短に関係し、また粉化度もホットスポットの発生する危険性、即ちデッドスペースやポケットスペースの発生の危険性に関係するが、着火点が低く粉化度が高いからといって必ずホットスポットが発生するものではなく、実際にホットスポットが発生するか否かとは無関係である。
また、甲第8号証にはアンモニアの注入の有無により活性炭の粉化度が大きく異なること、また甲第11号証には活性炭の粉化度が活性炭の種類によって異なることを示す試験結果が示されているが、甲第8号証はSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質の相違により粉化度が異なることを示すものではなく、一方、甲第11号証の実験は小型の実験装置で行われたものであり、この様な実験結果により、本件発明の作用効果の存在を否定することはできない。
さらに、甲第10号証には、「焼結炉排ガス中のNOxのアンモニア接触還元触媒の実用化研究」と題する報文が掲載され、焼結炉排ガスの温度や酸素含有量が開示されているにとどまる。
よって、請求人のこれらの主張も採用することができない。
5、むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1及び2に係る特許は、特許法第123条1項第2号の規定により無効とすべきものである。
また、本件請求人の上記主張および証拠によっては、本件発明3に係る特許を無効とすることはできない。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
乾式脱硫装置の運転方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 100ppm以上のSO2ガス及び10%以上のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質を含む排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置を次の数1及びY=-20T+2800で示す範囲内で使用することを特徴とする乾式脱硫装置の運転方法。
【数1】

ここでY:SO2濃度(ppm dry bases)(但し、SO2濃度150ppmは除く)
T:排ガス温度(℃)
【請求項2】 130℃以下で固体の化合物を生成する物質がNH3,HCl,NaCl,Na2O,KCl,K2O等の1つ又は複数を含んでいる請求項1の乾式脱硫装置の運転方法。
【請求項3】 前記数1とY=-20T+2800で示す範囲内に排ガス温度を制御する請求項1又は請求項2の乾式脱硫装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は乾式脱硫装置の運転方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】炭素質吸着剤を用いる乾式脱硫装置は一般に処理すべき排ガス温度が低い程脱硫性能が向上することが知られている。従って、装置を小型化する為には排ガス温度をできるだけ下げる必要がある。一方、排ガス中のO2濃度が高い(10%以上)と、SO2濃度が高くなった場合に、これがガス吸着剤に吸着される際に発生する吸着反応熱によって吸着剤の温度が上昇するが、その度合はO2濃度が低い場合(10%未満)に比べ、急速に高くなることが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】炭素質吸着剤を使用する乾式脱硫装置を安全かつ経済的に運転する方法を提供する。
【0004】
【課題を解決するための手段】100ppm以上のSO2ガス及び10%以上のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成するNH3,HCl,Na2O,KCl,K2O等の1又は複数の物質を含む排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置を前記数1及びY=-20T+2800で示す範囲内で使用するようにした。
【0005】
【実施例】本発明の適用される排ガスの条件は以下の如くである。
イ)排ガス中に100ppm以上のSO2ガスを含む。
ロ)排ガス中に10%以上のO2を含む。
ハ)排ガス中にSO2,SO3,HSO3,H2SO4と反応し、130℃以下で固体の化合物を生成する物質(例えばNH3,HCl,NaCl,Na2O,KCl,K2Oの1又は複数)を含んでいる。なおNH3は故意に添加したNH3又は排ガス中に自然に含まれるNH3を含むものとする。
【0006】さて、既にしられているように、排ガス温度が低くなると、吸着剤へのSO2及びその他の成分の吸着速度が増す。すなわち、SO2等は吸着剤層におけるガス上流側の極く薄い範囲内で吸着され、その薄い範囲内での吸収剤1g当りのSO2等の吸着量が極度に高くなる(図1の実線参照)。このSO2等の吸着量が極度に高くなる現象は、ガス中のSO2濃度と排ガス温度により、図2の如く変化することがテストの結果判明した。即ち図2の例で示すと、SO2の濃度が300ppm,200ppm,100ppmの場合、何れの場合も排ガス温度が低くなると吸収されるSO2量が急上昇している。
【0007】ところがSO2等の吸着量が極度に増加すると、炭素質吸着剤がもつ細孔は、その細孔内部で生成した固体化合物(NH4,HSO4,(NH4)2SO4,Na2SO4,K2SO4,NH4Cl等)の体積膨張(体積増加)によって破壊され、吸着剤表面から粉化し、吸着剤の減量が極度に増加する(図3参照)。そこで、この吸着剤の粉化、減量の問題を解決すべく実験を重ねた結果、排ガス中のSO2濃度と温度の関係が前記数1で表わされる範囲であれば、この極度の吸着剤の減量を防ぎ得ることが判明した。
【0008】一方、排ガス中にO2が10%以上ある状態でSO2濃度が高くなると、吸着反応熱によりO2が10%以下の場合より約10℃も吸着剤温度が上昇することがテストの結果判明した(図4参照)。O2濃度が高い状態で吸着剤温度が上昇すると、吸着剤の炭素分の自然酸化速度が上昇し、ついには吸着剤中にホットスポット(Hot spot)が発生する恐れがあり、着火の危険性が生じる。テストの結果、吸着剤の急速自然酸化発生点とSO2濃度の関係がY=-20T+2800の範囲内であれば、ホットスポットを防ぐことができることが判明した。
【0009】以上の結果から排ガス中のSO2ガス濃度が100ppm以上でかつO2濃度が10%以上ある場合には、前記数1及びY=-20T+2800の共通範囲内、即ち図5の斜線で示した範囲内に於て、炭素質吸着剤を使用した乾式脱硫装置を運転すれば、吸着剤の極度の消耗を防ぎ、かつホットスポット(Hot spot)の発生を防止することができる。本発明は上記範囲内で乾式脱硫装置を適用することに加え、上記範囲内に排ガス温度を制御することも含むものである。例えば、排ガスの冷却装置を前段に設けるか又は排ガス源の運転状態を調整することで可能である。以上は排ガスとして焼結排ガス、ゴミ焼排ガス又は電気炉排ガスの処理等に適用することができる。
【0010】
【効果】100ppm以上のSO2ガス及び10%以上のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成するNH3,HCl,Na2O,KCl,K2O等の物質を含む排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置を前記数1及びY=-20T+2800で示す範囲内で使用するようにしたことにより、吸着剤の消耗が少なく、しかも吸着剤温度の上昇によるホットスポットの発生を防止することができ、安全かつ経済的に乾式脱硫装置を運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】排ガス上流側吸着剤の単位重量当りの吸着されるSO2量と温度の関係を示すグラフ。
【図2】排ガス上流側吸着剤の単位重量当りの吸着されるSO2量と温度の関係を示すグラフ。
【図3】排ガス温度と吸着剤酸化率の関係を示すグラフ。
【図4】排ガス温度と吸着剤層内温度上昇の関係を示すグラフ。
【図5】排ガス温度と排ガス中のSO2濃度の関係を示すグラフにおいて本発明方法を実施する範囲を示す図。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.特許第2663960号明細書中特許請求の範囲の請求項1の「SO2ガス及び10%以上のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質を含む排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置を次の数1及びY=-20T+2800で示す範囲内で使用することを特徴とする乾式脱硫装置の運転方法。
【数1】

ここでY:SO2濃度(ppm dry bases)
T:排ガス温度(℃)
」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として「100ppm以上のSO2ガス及び10%以上のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質を含む排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置を次の数1及びY=-20T+2800で示す範囲内で使用することを特徴とする乾式脱硫装置の運転方法。
【数1】

ここでY:SO2濃度(ppm dry bases) (但し、SO2濃度150ppmは除く)
T:排ガス温度(℃)」と訂正する。
2.特許第2663960号明細書中特許請求の範囲の請求項3の「前記数1とY=-20T+2800で示す範囲内に排ガス温度を制御する請求項1又は請求項2の乾式脱硫装置の運転方法。」とあるのを、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として「100ppm以上のSO2ガス及び10%以上のO2を含み、かつSO2,SO3,HSO3,H2SO4等と反応して130℃以下で固体の化合物を生成する物質を含む焼結排ガスに対し、炭素質吸着剤を使用する移動層式乾式脱硫装置において排ガスの冷却装置を前段に設けるか又は排ガス源の運転状態を調整して次の数2及びY=-20T+2800で示す範囲内に排ガス温度を制御し、吸着剤の細孔内部に固体化合物が生成してその体積膨張により吸着剤が粉化することによる吸着剤の極度の減量が防止され、しかもO2濃度が高い状態で吸着剤温度が上昇して吸着剤炭素分の自然酸化速度が上昇することによるホットスポットの発生が防止されるように運転する、ことを特徴とする乾式脱硫装置の運転方法。
【数2】

ここでY:SO2濃度(ppm dry bases) (但し、SO2濃度150ppmは除く)
T:排ガス温度(℃)」と訂正する。
審理終結日 2002-02-01 
結審通知日 2002-02-06 
審決日 2002-02-19 
出願番号 特願平4-200132
審決分類 P 1 122・ 534- ZD (B01D)
P 1 122・ 113- ZD (B01D)
P 1 122・ 121- ZD (B01D)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 野田 直人  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 唐戸 光雄
西村 和美
登録日 1997-06-20 
登録番号 特許第2663960号(P2663960)
発明の名称 乾式脱硫装置の運転方法  
代理人 長濱 範明  
代理人 名越 秀夫  
代理人 生田 哲郎  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長濱 範明  

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