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審決分類 |
審判 一部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) B62M |
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管理番号 | 1060409 |
審判番号 | 無効2001-35255 |
総通号数 | 32 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1994-07-14 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2001-06-18 |
確定日 | 2002-06-18 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2820794号発明「自転車用ギアシフトアクチュエータ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2820794号の請求項35及び38に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 (1)本件特許第2820794号(以下、「本件特許」という。)は、1992年(平成4年)3月18日(パリ条約による優先権主張1991年(平成3年)3月20日、米国(US))を国際出願日とする特許出願に係り、平成10年8月28日にその請求項1ないし42に係る発明について特許権の設定登録がなされたものである。 (2)その後、全請求項に係る発明についての特許に対して、平成11年4月23日に本件審判請求人でもある特許異議申立人・株式会社シマノより特許異議の申立てがあり、平成13年4月13日に「特許第2820794号の請求項11ないし13、17ないし24、27ないし32、34、36ないし37、39に係る特許を取り消す。同請求項1ないし10、14ないし16、25ないし26、33、35、38、40ないし42に係る特許を維持する。」との異議の決定がなされ、当該異議の決定は平成13年9月6日に確定した。 2.請求人の主張 請求人は、本件特許の請求項35及び38に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、本件特許の請求項35及び38に係る発明は、本件特許に係る特許出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である、後記の甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項35及び38に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされてものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきであると主張し、証拠方法として次の甲第1号証ないし甲第4号証を提出している。 甲第1号証 実公昭48-33173号公報 甲第2号証 実公昭62-13911号公報 甲第3号証 米国特許第4,900,291号明細書 甲第3号証の2 特表平3-502912号公報 甲第4号証 平成11年異議第71609号異議の決定書 3.被請求人の主張 これに対して、平成13年7月23日付けで審判請求書副本を被請求人に送達し、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは何らの応答もない。 4.本件発明 本件特許の請求項35及び38に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項35及び38に記載された次のとおりのものと認める。 「(35) 前記コントロールケーブルは復帰スプリングを備えたディレーラを駆動し得、前記回転子及び前記ジャッキスプールの一方に設けられたカムがシフトダウン動作において前記ディレーラの復帰スプリングの増加する力を補償する、ことを特徴とする請求の範囲第17又は第18項記載の自転車用ギヤシフトアクチュエータ。 (38) 前記ディレーラは、前記コントロールケーブルを前記ディレーラに向けて偏倚せしめる復帰スプリングを有し、前記回転子及び前記ジャッキスプールの一方にカムを有し、かつ前記カムはシフトダウン方向における前記復帰スプリングの増加する力を補償する、ことを特徴とする請求の範囲第36項又は第37項記載の自転車用ギヤ切換えシステム。」 5.甲各号証とその記載事項 甲第4号証は、上記平成13年4月13日になされた「異議の決定」であり、甲第1号証はその異議の決定における刊行物1(実公昭48-33173号公報)であり、甲第2号証は同刊行物2(実公昭62-13911号公報)であり、甲第3号証は同刊行物4(米国特許第4,900,291号明細書)である。そして、甲第3号証の2(特表平3-502912号公報)は、甲第3号証の「翻訳書」として提出されている。 (1)甲第1号証の記載事項 甲第1号証の記載事項については、甲第4号証の第6頁第14行〜第7頁第32行「2-2-1-1.刊行物1の記載事項の概要」に記載されている内容を援用する。 (2)甲第2号証の記載事項 甲第2号証の記載事項については、甲第4号証の第7頁第33行〜第8頁第18行「2-2-1-2.刊行物2の記載事項の概要」に記載されている内容を援用する。 (3)甲第3号証の記載事項 甲第3号証には、前部及び後部変速機機構がそれぞれの回転可能なハンドグリップシフト作動器によって正確に制御される変速機型自転車シフティングシステムに関して、図面第1図ないし第50図と共に、次の事項が記載されている。 ア)「4. A bicycle derailleur gear shifting system …… said derailleur shifting means.」(第32欄第29行〜第33行) (「4. 前記カム手段が、前記変速機シフティング手段のダウン・シフト方向のとき、前記戻りスプリング手段の増加する力を実質的に補償するように形造られている請求の範囲1に記載の自転車変速機ギヤシフティングシステム。」(翻訳書第1頁左下欄末行〜右下欄第3行)) イ)「Similarly, a rear control cable 64 …… the rear derailleur mechanism 58」(第9欄第25行〜第30行) (「同様に、後部ハンドグリップシフト作動器66が後部変速機機構58と協働し、且つ後部変速機機構58のシフトを制御するように、後部制御ケーブル64が後部ハンドグリップシフト作動器66を後部変速機機構56に連結している。」(翻訳書第7頁左下欄第16行〜第19行)) ウ)「Derailleur return spring 208 …… frame 12a and freewheel 54a 」(第19欄第41行〜第53行) (「変速機戻りスプリング208は、第29図で最もよく判り、そしてピボットピン206の周りに配置されたそのコイルを有している螺旋スプリングであって、平らな、より密接な状態に平行四辺形182をバイアスするようにシフターボディ194を押しているそれぞれのアームを有し、それによりシフターボディ194をフレーム12a及びフリーホイール54aに対して横に外方にバイアスしている。第21図、第27図及び第29図に見られるケーブルクランプ210が、ケーブル180の端をクランプするため外部平行四辺形リンク196に取付けられている。ケーブル180への張力増加が、平行四辺形182を、より開いた長方形形状の方に引き、それによりシフターボディ194をフレーム12a及びフリーホイール54aに対し内方に移動する。」(翻訳書第13頁右上欄第23行〜左下欄第10行)) エ)「However, down-shifting from the smallest sprocket position 268 …… these succesive arcs being designated 282,284,286,288 and 290.」(第24欄第16行〜第31行) (「しかし乍ら、最小スプロケット位置268から最大スプロケット位置278へのダウン・シフトは、フリーホイールのスプロケットからスプロケットへのシフト中、変速機戻りスプリング208にかかる荷重を連続的に増加する。戻りスプリング荷重のこの漸進的増加を保証するため、最小スプロケットくぼみ268から最大スプロケットくぼみ278への連続的カム突出部のカム傾斜面281は、漸進的に増加する機械的利点のため漸進的に平らになっており、それにより連続的ダウン・シフト増加がハンドグリップシフト作動器66に加える実質的に同じ量のトルクで行なうことができる。従って、カム作動面266の形状は、連続シフト位置間の回転アークが漸進的に増加するようになっており、これ等の連続アークが282,284,286,288及び290で示されている。」(翻訳書第16頁右上欄第7行〜第18行)) 6.当審の判断 (1)請求項35に係る発明について 本件特許の請求項35に係る発明は、請求項17又は18に従属しているので、当該請求項17及び18に係る発明について先に検討する必要がある。 まず、請求項17に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項17に記載された次のとおりのものと認める。 「(17) コントロールケーブルをその軸線方向に変位させることで作動せしめられるギヤ切換えシステムを有した多段ギヤ自転車に用いられると共に、前記自転車のハンドルバーに設けられかつシフトダウン方向及びシフトアップ方向において第1軸まわりに選択的に回動可能である回転子を備える手動型の自転車用ギヤシフトアクチュエータであって、 前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回動可能なジャッキスプールと、前記回転子と前記ジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段とを有し、 前記ジャッキスプールは、それが前記コントロールケーブルを引き寄せるシフトダウン方向において回転可能であり、かつ、それが前記コントロールケーブルを解放するシフトアップ方向において回転可能であり、 前記回転子は、固定されたハンドグリップよりも内寄りに設けられ、複数のギヤ指定回り止め位置の1つから他のギヤ指定回り止め位置へ回転可能であり、 前記連動手段は、1つの前記ギヤ指定回り止め位置から他の前記ギヤ指定回り止め位置への前記回転子のシフトダウン方向の回転により前記ジャッキスプールにシフトダウン方向への回転を生ぜしめ、かつ、1つの前記ギヤ指定回り止め位置から他の前記ギヤ指定回り止め位置への前記回転子のシフトアップ方向の回転により前記ジャッキスプールにシフトアップ方向への回転を生ぜしめる、ことを特徴とする自転車用ギヤシフトアクチュエータ。」 そして、上記請求項17に係る発明についての特許は、上記異議の決定により取り消されているが、その取消決定の理由は、甲第4号証第52頁第6行〜第53頁第12行に記載の次のとおりのものである。 「《本件請求項17に係る発明について》 本件請求項17に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「インナーワイヤー16」、「ハンドル杆A」、「回転体4」、「被回転体7」、「握り部B」は、それぞれ、本件請求項17に係る発明の「コントロールケーブル」、「ハンドルバー」、「回転子」、「ジャッキスプール」、「ハンドグリップ」に相当する。 また、自転車に於ける変速機は、通常、多段ギヤを備えたものであり、刊行物1に記載の自転車に於ける変速機の切換操作装置は、本件請求項17に係る発明のギヤ切換えシステムの一部を構成するものであって、当該切換操作装置は、明らかに手動型のもので、本件請求項17に係る発明の手動型の自転車用ギヤシフトアクチュエータに相当する。 更に、刊行物1に記載された発明の回転体4は、明らかに、固定された握り部Bよりも内寄りに設けられおり、また、当該回転体4の外周に形成した歯車歯4’及び被回転体7の外周に形成した歯車歯7’は、回転体4と被回転体7との間の動きを伝える点では、本件請求項17に係る発明の、回転子とジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段に相当するものである。 よって、本件請求項17に係る発明と刊行物1に記載された発明とは、「コントロールケーブルをその軸線方向に変位させることで作動せしめられるギヤ切換えシステムを有した多段ギヤ自転車に用いられると共に、前記自転車のハンドルバーに設けられかつシフトダウン方向及びシフトアップ方向において第1軸まわりに選択的に回動可能である回転子を備える手動型の自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕であって、前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回動可能なジャッキスプールと、前記回転子と前記ジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段とを有し、前記ジャッキスプールは、それが前記コントロールケーブルを引き寄せるシフトダウン方向において回転可能であり、かつ、それが前記コントロールケーブルを解放するシフトアップ方向において回転可能であり、前記回転子は、固定されたハンドグリップよりも内寄りに設けられ、前記連動手段は、前記回転子のシフトダウン方向の回転により前記ジャッキスプールにシフトダウン方向への回転を生ぜしめ、かつ、前記回転子のシフトアップ方向の回転により前記ジャッキスプールにシフトアップ方向への回転を生ぜしめる、自転車用ギヤシフトアクチュエ一夕」である点で一致しているが、次の点で相違している。 相違点:ギヤ指定回り止めに関して、本件請求項17に係る発明では、回転子が、複数のギヤ指定回り止め位置の1つから他のギヤ指定回り止め位置へ回転可能であるのに対して、刊行物1に記載の発明の回転体4には、ギヤ指定回り止め手段に相当する部材が設けられておらず、被回転体7に、回動位置で保持させるための保持機構が設けられている点。 そこで、上記相違点について検討すると、刊行物2には、位置決め体5と操作レバー2との間に、係合部91と係止体92とから成る位置決め機構9を設ける点が記載されており、この点を刊行物1に記載された発明に適用して、刊行物1に記載の発明の回転体4に上記位置決め機構9を設けてギヤ指定回り止めとし、当該回転体4が、複数のギヤ指定回り止め位置の1つから他のギヤ指定回り止め位置へ回転可能であるようにすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。 よって、本件請求項17に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」 上記の請求項17に係る判断を前提に、請求項35に係る発明について検討すると、本件特許の請求項35に係る発明では、上記請求項17に係る発明の構成を前提として、更に、 A:前記コントロールケーブルは復帰スプリングを備えたディレーラを駆動し得、 B:前記回転子及び前記ジャッキスプールの一方に設けられたカムがシフトダウン動作において前記ディレーラの復帰スプリングの増加する力を補償する、 ことを特徴としている。 しかし、甲第3号証には、後部制御ケーブル64が変速機戻りスプリング208を有する後部変速機機構58を駆動することが示されており(上記摘記事項イ、参照)、この記載事項が、本件特許の請求項35に係る発明の上記構成要件Aに実質的に相当することは明らかである。また、甲第3号証には、「前記カム手段が、前記変速機シフティング手段のダウン・シフト方向のとき、前記戻りスプリング手段の増加する力を実質的に補償するように形造られている」(上記摘記事項ア、参照)と記載され、更に、「戻りスプリング荷重のこの漸進的増加を保証するため、最小スプロケットくぼみ268から最大スプロケットくぼみ278への連続的カム突出部のカム傾斜面281は、漸進的に増加する機械的利点のため漸進的に平らになっており、それにより連続的ダウン・シフト増加がハンドグリップシフト作動器66に加える実質的に同じ量のトルクで行なうことができる。」(上記摘記事項エ、参照)と記載されており、これらの記載事項が、本件特許の請求項35に係る発明の上記構成要件Bに実質的に相当することは明らかである。 よって、請求項35に記載の構成要件A及びBは、甲第3号証に実質的に記載されており、請求項17に従属する本件特許の請求項35に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 次に、請求項18に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項18に記載された次のとおりのものと認める。 「(18) 自転車用コントロールケーブルをその軸線方向に移動せしめるべく、自転車のハンドルバーに設けられてかつ前記ハンドルバーと略同軸の第1軸まわりに回動可能な手動回転子を備えるハンドグリップ型の自転車用ギヤシフトアクチュエータであって、 前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、ジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段とを有し、 前記コントロールケーブルの一端部は前記ジャッキスプールに取り付けられ、 前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せる第1方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する第2方向において回転可能であり、 前記回転子は、前記ハンドルバーに固定されたハンドグリップから内寄りの位置に設けられて、ハンドグリップ回転子となり、 前記連動手段は、前記ハンドグリップ回転子が1の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第1方向への回転を生ぜしめ、かつ、前記ハンドグリップ回転子が前記1の方向とは反対の2の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第2方向への回転を生ぜしめる、ことを特徴とする自転車用ギヤシフトアクチュエータ。」 そして、上記請求項18に係る発明についての特許は、上記異議の決定により取り消されているが、その取消決定の理由は、甲第4号証第53頁第13行〜第54頁第30行に記載の次のとおりのものである。 「《本件請求項18に係る発明について》 本件請求項18に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「インナーワイヤー16」、「ハンドル杆A」、「回転体4」、「自転車に於ける変速機の切換操作装置」、「被回転体7」、「握り部B」は、それぞれ、本件請求項18に係る発明の「自転車用コントロールケーブル」、「ハンドルバー」、「手動回転子」、「自転車用ギヤシフトアクチュエータ」、「ジャッキスプール」、「ハンドグリップ」に相当する。 また、刊行物1に記載された発明の回転体4は、明らかに、固定された握り部Bよりも内寄りに設けられおり、また、当該回転体4の外周に形成した歯車歯4’及び被回転体7の外周に形成した歯車歯7’は、回転体4と被回転体7との間の動きを伝える点では、本件請求項18に係る発明の、ジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段に相当するものである。 よって、本件請求項18に係る発明と刊行物1に記載された発明とは、「自転車用コントロールケーブルをその軸線方向に移動せしめるべく、自転車のハンドルバーに設けられてかつ前記ハンドルバーと略同軸の第1軸まわりに回動可能な手動回転子を備える自転車用ギヤシフトアクチュエー夕であって、前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、前記ジャッキスプールとの間の動きを伝える連動手段とを有し、前記コントロールケーブルの一端部は前記ジャッキスプールに取り付けられ、前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せる第1方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する第2方向において回転可能であり、前記回転子は、前記ハンドルバーに固定されたハンドグリップから内寄りの位置に設けられて、回転子となり、前記連動手段は、前記回転子が1の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第1方向への回転を生ぜしめ、かつ、前記回転子が前記1の方向とは反対の2の方向に回転することにより前記ジャッキスプールに前記第2方向への回転を生ぜしめる、自転車用ギヤシフトアクチュエータ」である点で一致しているが、次の点で相違している。 相違点:手動回転子に関して、本件請求項18に係る発明では、手動回転子が、ハンドルバーに固定されたハンドグリップから内寄りの位置に設けられたハンドグリップ型のハンドグリップ回転子であるのに対して、刊行物1に記載の発明の回転体4は、ハンドル杆Aの握り部B側に操作用つまみ部5を形成したものである点。 そこで、上記相違点について検討すると、刊行物4には、上記2-2-1-4.(4-7)で摘記した記載事項及び図面第45図ないし第50図の記載からみて、回転子を、「handlebar(ハンドルバー)372」に固定された「handgrip(ハンドグリップ)374,376」から内寄りの位置に設けられた「handgrip shift actuator(ハンドグリップシフト作動器)378,380」とする点が記載されている。 そして、刊行物1には、上記2-2-1-1.(1-1)で摘記したように、従来技術の問題点が記載されているが、この記載は、ハンドル杆Aの握り部B自体をハンドグリップ回転子とした場合の問題点を記載したものであって、ハンドル杆Aの握り部Bとは別体の回転体4をハンドグリップ型のものとすることの妨げとなる記載ではない。更に、刊行物1には、上記2-2-1-1.(1-4)で摘記したように、回転体4につまみ部5を形成したもの以外に、「その他回転体4の一部をカバー体2から露出させてこの露出部分外周にローレット切りを行なってもよい」旨が記載されており、この記載は、回転体4に操作用つまみ部5を形成することに替えて、上記刊行物4に記載のハンドグリップシフト作動器を適用することの動機づけとなり得るものである。 よって、上記刊行物4に記載のハンドグリップシフト作動器を刊行物1に記載の発明に適用して、刊行物1に記載の発明の回転体4を、ハンドグリップ型のものとすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。 よって、本件請求項18に係る発明は、刊行物1及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」 上記の請求項18に係る判断を前提に、請求項35に係る発明について検討すると、本件特許の請求項35に係る発明では、上記請求項18に係る発明の構成を前提として、更に上記の構成要件A及びBを特徴とするものであるが、上記のとおりこれらの構成要件A及びBは甲第3号証に実質的に記載されており、請求項18に従属する本件特許の請求項35に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)請求項38に係る発明について 本件特許の請求項38に係る発明は、請求項36又は37に従属しているので、当該請求項36及び37に係る発明について先に検討する必要がある。 まず、請求項36に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項36に記載された次のとおりのものと認める。 「(36) 車軸に固着された複数のギヤと機能的に協働せしめられるディレーラと、前記ギヤのいずれか1つから他のいずれか1つに前記ディレーラによって移動せしめられ得る駆動チェーンと、前記ディレーラと機能的に接続される第1端部を有するコントロールケーブルとを備え、前記コントロールケーブルの所定量の移動により、前記ギヤの1つと他の選択された1つとの間で切り換えるべく前記ディレーラを作動させるものであり、自転車のハンドルバーに取り付けられた手動型回転可能シフトアクチュエータを有し、前記シフトアクチュエータは第1軸まわりに回転可能なハンドグリップ回転子を含み、前記回転子はシフトダウン方向及び反対のシフトアップ方向に回転可能である自転車用ギヤ切換えシステムであって、 前記シフトアクチュエータは、前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、前記第1端部とは反対側で前記ジャッキスプールに機能的に接続された前記コントロールケーブルの第2端部とを含み、 前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せるシフトダウン方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する反対のシフトアップ方向において回転可能であり、さらに 前記回転子のシフトダウン方向への回転により前記ジャッキスプールがシフトダウン方向に回転し、かつ、前記回転子のシフトアップ方向への回転により前記ジャッキスプールがシフトアップ方向に回転するように、前記ハンドグリップ回転子と前記ジャッキスプールとの間に設けられた連動手段を有する、 ことを特徴とする自転車用ギヤ切換えシステム。」 そして、上記請求項36に係る発明についての特許は、上記異議の決定により取り消されているが、その取消決定の理由は、甲第4号証第59頁第5行〜第60頁第26行に記載の次のとおりのものである。 「《本件請求項36に係る発明について》 本件請求項36に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「インナーワイヤー16」、「ハンドル杆A」、「回転体4」、「被回転体7」は、それぞれ、本件請求項36に係る発明の「コントロールケーブル」、「ハンドルバー」、「回転子」、「ジャッキスプール」に相当する。 また、自転車に於ける変速機は、通常、複数のギヤを備えたものであり、刊行物1に記載の自転車に於ける変速機の切換操作装置は、明らかに手動型回転可能なもので、本件請求項36に係る発明の手動型回転可能シフトアクチュエータに相当し、当該切換操作装置は、本件請求項36に係る発明の自転車用ギヤ切換えシステムの一部を構成するものである。 更に、刊行物1に記載された発明の回転体4の外周に形成した歯車歯4’及び被回転体7の外周に形成した歯車歯7’は、回転体4と被回転体7との間に設けられた連動手段といえるものである。 よって、本件請求項36に係る発明と刊行物1に記載された発明とは、「コントロールケーブルを備え、自転車のハンドルバーに取り付けられた手動型回転可能シフトアクチュエー夕を有し、前記シフトアクチュエータは第1軸まわりに回転可能な回転子を含み、前記回転子はシフトダウン方向及び反対のシフトアップ方向に回転可能である自転車用ギヤ切換えシステムであって、前記シフトアクチユエー夕は、前記第1軸の方向と異なる方向にある第2軸まわりに回転可能なジャッキスプールと、前記ジャッキスプールに機能的に接続された前記コントロールケーブルの第2端部とを含み、前記ジャッキスプールは、前記コントロールケーブルを引き寄せるシフトダウン方向において回転可能であり、かつ、前記コントロールケーブルを解放する反対のシフトアップ方向において回転可能であり、さらに前記回転子のシフトダウン方向への回転により前記ジャッキスプールがシフトダウン方向に回転し、かつ、前記回転子のシフトアップ方向への回転により前記ジャッキスプールがシフトアップ方向に回転するように、前記回転子と前記ジャッキスプールとの間に設けられた連動手段を有する、自転車用ギヤ切換えシステム」である点で一致しているが、次の2点で相違している。 相違点1:本件請求項36に係る発明では、自転車用ギヤ切換えシステムが、「車軸に固着された複数のギヤと機能的に協働せしめられるディレーラと、前記ギヤのいずれか1つから他のいずれか1つに前記ディレーラによって移動せしめられ得る駆動チェーンと、前記デイレーラと機能的に接続される第1端部を有するコントロールケーブルとを備え、前記コントロールケーブルの所定量の移動により、前記ギヤの1つと他の選択された1つとの間で切り換えるべく前記ディレーラを作動させるもの」であるのに対して、刊行物1には、「複数のギヤ」、「ディレーラ」、「駆動チェーン」及び「コントロールケーブル」とそれら各部材間の関係が、明確には記載されていない点。 相違点2:回転子に関して、本件請求項36に係る発明では、回転子が、ハンドグリップ回転子であるのに対して、刊行物1に記載の発明の回転体4は、操作用つまみ部5を形成したものである点。 そこで、上記相違点について、以下で検討する。 (相違点1について) 自転車用ギヤ切換えシステムにおいて、「車軸に固着された複数のギヤと機能的に協働せしめられるディレーラと、前記ギヤのいずれか1つから他のいずれか1つに前記ディレーラによって移動せしめられ得る駆動チェーンと、前記デイレーラと機能的に接続される第1端部を有するコントロールケーブルとを備え、前記コントロールケーブルの所定量の移動により、前記ギヤの1つと他の選択された1つとの間で切り換えるべく前記ディレーラを作動させるもの」は、従来周知の事項であり(例えば、刊行物4の上記2-2-1-4.(4-1)で摘記した記載事項、参照)、本件請求項36に係る発明の上記相違点1の構成は、上記周知の事項を明示したものにすぎない。 (相違点2について) 上記《本件請求項18に係る発明について》で説示したとおり、上記刊行物4に記載のハンドグリップシフト作動器を刊行物1に記載の発明に適用して、刊行物1に記載の発明の回転体4を、ハンドグリップ回転子とすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。 よって、本件請求項36に係る発明は、刊行物1及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」 上記の請求項36に係る判断を前提に、請求項38に係る発明について検討すると、本件特許の請求項38に係る発明では、上記請求項36に係る発明の構成を前提として、更に、 C:前記ディレーラは、前記コントロールケーブルを前記ディレーラに向けて偏倚せしめる復帰スプリングを有し、 D:前記回転子及び前記ジャッキスプールの一方にカムを有し、かつ前記カムはシフトダウン方向における前記復帰スプリングの増加する力を補償する、 ことを特徴としている。 しかし、甲第3号証には、後部変速機構58が、後部制御ケーブル64を後部変速機構58に向けて偏倚せしめる変速機戻りスプリング208を有することが示されており(上記摘記事項イ及びウ、参照)、この記載事項が、本件特許の請求項38に係る発明の上記構成要件Cに実質的に相当することは明らかである。また、甲第3号証には、「前記カム手段が、前記変速機シフティング手段のダウン・シフト方向のとき、前記戻りスプリング手段の増加する力を実質的に補償するように形造られている」(上記摘記事項ア、参照)と記載され、更に、「戻りスプリング荷重のこの漸進的増加を保証するため、最小スプロケットくぼみ268から最大スプロケットくぼみ278への連続的カム突出部のカム傾斜面281は、漸進的に増加する機械的利点のため漸進的に平らになっており、それにより連続的ダウン・シフト増加がハンドグリップシフト作動器66に加える実質的に同じ量のトルクで行なうことができる。」(上記摘記事項エ、参照)と記載されており、これらの記載事項が、本件特許の請求項38に係る発明の上記構成要件Dに実質的に相当することは明らかである。 よって、請求項38に記載の構成要件C及びDは、甲第3号証に実質的に記載されており、請求項36に従属する本件特許の請求項38に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 次に、請求項37に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項37に記載された次のとおりのものと認める。 「(37) 前記シフトアクチュエータは、前記自転車のハンドルバーに対して固定された構造と前記回転子及び前記ジャッキスプールのうち予め選択された1つを含む回転可能な構造との相互作用から形成されるギヤ指定回り止め手段を含み、前記回り止め手段は前記構造の一方において第1のシフトアップ位置と第2のシフトダウン位置との間で移動可能である、ことを特徴とする請求の範囲第36項記載の自転車用ギヤ切換えシステム。」 そして、上記請求項37に係る発明についての特許は、上記異議の決定により取り消されているが、その取消決定の理由は、甲第4号証第60頁第27行〜第37行に記載の次のとおりのものである。 「《本件請求項37に係る発明について》 刊行物1の上記2-2-1-1.(1-5)で摘記した記載事項のうちのボールとスプリングとから成る保持機構は、本件請求項37に係る発明におけるギヤ指定回り止め手段に相当する。 また、刊行物2には、上記2-2-1-2.(2-2)で摘記したように、係止体92の相対移動を許す隙間dを設ける点が記載されており、この隙間dを利用して、刊行物2に記載の係止体92が、第1のシフトアップ位置と第2のシフトダウン位置との間で移動可能であるようにすることは、当業者であれば容易に想到できた事項である。 よって、本件請求項37に係る発明は、刊行物1,2及び4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」 上記の請求項37に係る判断を前提に、請求項38に係る発明について検討すると、本件特許の請求項38に係る発明では、上記請求項37に係る発明の構成を前提として、更に上記の構成要件C及びDを特徴とするものであるが、上記のとおりこれらの構成要件C及びDは甲第3号証に実質的に記載されており、請求項37に従属する本件特許の請求項38に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 7.むすび 以上のとおりであるから、本件特許の請求項35及び38に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項35及び38に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされてものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-01-22 |
結審通知日 | 2002-01-25 |
審決日 | 2002-02-06 |
出願番号 | 特願平4-509969 |
審決分類 |
P
1
122・
121-
Z
(B62M)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小椋 正幸、岡田 孝博、平城 俊雅 |
特許庁審判長 |
蓑輪 安夫 |
特許庁審判官 |
粟津 憲一 鈴木 久雄 |
登録日 | 1998-08-28 |
登録番号 | 特許第2820794号(P2820794) |
発明の名称 | 自転車用ギアシフトアクチュエータ |
代理人 | 藤村 元彦 |
代理人 | 宮川 良夫 |
代理人 | 小野 由己男 |