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審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199721136 審決 特許
異議199773380 審決 特許
審判19984525 審決 特許
審判199920128 審決 特許
不服20024614 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1060857
審判番号 審判1997-5963  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1983-03-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1997-04-18 
確定日 2002-07-01 
事件の表示 昭和57年特許願第500822号「単一クロ-ン抗体」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年 4月16日出願公告、特公平 5- 26470、昭和57年 9月16日国際公開、WO82/03089、昭和58年 3月10日国内公表、特表昭58-500366]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.出願の経緯及び本願発明
本願は、昭和57年3月8日(パリ条約による優先権主張、1982年3月8日、英国)を出願日とする特許出願であって、その特許請求の範囲第1,2項に係る発明は、平成11年12月28日付け手続き補正書によって補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められるところ、該第1,2項に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1,2」という。)は次の通りである。
「1.ヒトB型血液型のB型血球の血液型抗原決定基に対する特異性を有し、血液分類試薬としての使用のために前記決定基を有するB型血球の試料と凝集することができるIgM単一クローン抗体であって、該単一クローン抗体は、B型血液型抗原を接種したマウス由来の脾細胞とミエローマ細胞とを融合して生成したハイブリドーマ細胞系から産生され、且つ下記の特性を有する単一クローン抗体:
(a)該抗体と血液型BのB型血球との間の相互作用の平衡定数が2.3×l08M‐1以上;
(b)該抗体と血液型BのB型血球を含む免疫複合体の解離反応の速度定数が3.8×10-4sec-1以下;
(c)該抗体と血液型A1BのB型血球を含む免疫複合体の解離反応の速度定数が0.17×10-3sec-1以下。
2.ヒトB型血液型のB型血球の血液型抗原決定基に対する特異性を有し、血液分類試薬としての使用のために前記決定基を有するB型血球の試料と凝集することができるIgM単一クローン抗体の製造方法であって、B型血液型抗原を接種したマウス由来の脾細胞とミエローマ細胞とを融合して生成したハイブリドーマ細胞系であって、下記の特性を有する単一クローン抗体を産生しうる細胞系を培養する工程を含む単一クローン抗体の製造方法:
(a)該抗体と血液型BのB型血球との間の相互作用の平衡定数が2.3×l08M‐1以上;
(b)該抗体と血液型BのB型血球を含む免疫複合体の解離反応の速度定数が3.8×10‐4sec‐1以下;
(c)該抗体と血液型A1BのB型血球を含む免疫複合体の解離反応の速度定数が0.17×10‐3sec‐1以下。」
II.引用例
これに対して、平成11年6月14日付けの拒絶理由通知で引用された2つの刊行物には、以下のことが記載されている。
1.Vox Sang, 39 (1980), p.134-140(以下「引用例1」という。)
「モノクローナル抗A抗体を評価し、添加剤なしでも、有用な慣用のABO分類試薬として適していることが判明した。このIgM抗A(MH2/6D4)は、抗A産生脾臓細胞とマウスミエローマ細胞系との融合に由来する、永続性のクローン細胞系の組織培養上清に分泌される。この試薬は、特性の判明した抗体を不変且つ無限に産生できるというモノクローナル抗体固有の利点を有する。」(第134頁抄録)
「材料及び方法 融合ミエローマ抗A(6D4)の調整
C3H/He-mgマウス(OLAC)は、ヒトA型結腸癌患者由来組織培養細胞(HT-29, Sloan Kettering Institute のDr.J.Foghより)で免疫した。免疫したマウスからの脾臓細胞(108)は、ポリエチレングリコールを用いた方法により、マウスミエローマ細胞(107)と融合した。このミエローマ細胞は、HAT培地で死滅する酸素欠損細胞から選択された、非分泌型のP3-NSI/1-Ag4-1であった。
融合2週間後に培養上清を試験し、HT-29に対する抗体結合活性を有する細胞をソフト寒天上でクローン化し、大容量に増殖させ、次いで、再クローニング、再増殖させ、大量の抗体製造用及び選択された細胞系の液体窒素貯蔵用にアリコートに分けた。」(第135頁右欄第1〜19行目)
2.日比野 勝, 東医事新誌, Vol.2901,(1934), p.2427‐2432 (以下「引用例2」という。)
「余は多数動物に就て正常血清中に含まれる型的凝集素の種類により各種動物を四型に区別することができた。即ち(1)抗A凝集素のみを有するもの(α’型)、(2)抗B凝集素のみを有するもの(β’型)、(3)抗A並びに抗B凝集素を有するもの(α’β’型)、(4)全く型的凝集素を有しないもの(零型)の四種類であって、余は之を動物の「血清型」Serumtypusと呼んで居る。此の血清型は人血液型における血清の型と同様であって人類においてはα’β’型はO型、α’型はB型、β’型はA型、零型はAB型の血清型を示しておるものである。」(第2427頁 下欄 第19行〜第2428頁 上欄 第2行)
「即ちA型血球免疫に際しては正常血清中に抗A抗体を有するα'型又はα'β'型の動物を選べば容易に抗A型的抗体を作り得るのに反し、その血清中に正常抗体α'を有しない零型又はβ'型の動物であると、少しも抗A凝集素が産生しないか、産生したとしても其の凝集価は非常に低く抗A抗体産生には甚だ不良である。B型血球を次いで免疫する場合も全く之と同様な関係が成立する。即ち元来β'を含有しているβ'型又はα'β'型の動物は容易に抗体を作り得るに対してβ'を持たぬα'型、零型においては殆ど抗体を作らないのである。」(第2428貢 下欄 第15〜23行)
第2428頁 第四表には、ヒトB型血球免疫家兎血清すなわちポリクローナル抗体が記載され、該抗体は、O型血球にて吸着した後、B型血球免疫家兎の血清はB型及びAB型のみに特異的に反応しているデータが示されている。
III. 当審の判断
III-1.本願発明1について
本願発明1と引用例1に記載されたものを比較すると、両者はいずれもヒトの特定の血液型抗原決定基に対する特異性を有する単一クローン抗体である点で一致するものの、
(1)ヒトの特定の血液型として、前者はB型であるのに対し、後者はA型である点、
(2)前者は抗原に対する特定の平衡定数及び解離速度定数を有しているのに対し、後者はそのような特定はなされていない点、
で相違する。
しかしながら、相違点(1)については、引用例2に記載されているように、ヒトB型血球に対するポリクローナル抗体は本願出願前知られており、ヒトB型血球を特異的に認識する抗体を得たいという課題はあった。それゆえ、引用例1より、ヒトA型血球を特異的に認識する単一クローン抗体及びその製造方法が公知である以上、ヒトB型血球を特異的に認識する単一クローン抗体を得る目的で、引用例1記載の発明において免疫源をA型血球に代えてB型血球を適用することは、当業者が容易に想到し得たことと認める。
また、相違点(2)については、本件請求人は平成11年12月28日付意見書において、本願発明1の単一クローン抗体は、高い平衡定数及び低い解離速度定数を有することにより、高結合活性のヒトB型血球に特異的な血液型判定のために臨床的に使用しうる血液分類試薬であるという顕著な効果を奏するのに対し、引用例1、2にはそのような構成は記載も示唆もされていないこと、及び、たとえ引用例1記載の方法において、免疫源をB型血球に代えること自体が容易になし得ることであるとしても、単一クローン抗体の製造にあたり、このような特性を有する細胞系を用いることまでもが、当業者にとって容易であったと認めることができない旨、主張している。
しかしながら、本願発明1に特定される平衡定数及び解離速度定数は、通常の単一クローン抗体における結合活性を示す程度でしかない(下記文献参照)ところ、そもそもヒトB型血球に対して特異的に反応する抗血清(ポリクローナル抗体)が本願優先日当時周知(引用例2参照)であったということは、B型血球の免疫原性は極めて高かったことに他ならないから、通常の単一クローン抗体の製造法を用いて得られるヒトB型血球に対する単一クローン抗体も特異性の高い、即ち本願発明1に特定される平衡定数及び解離速度定数程度の性質を有するものであると認められる。
また、他に本願発明1が高結合活性のヒトB型血球に特異的な血液型判定のために臨床的に使用しうる血液分類試薬であることの裏付けも提出されていない。
したがって、上記出願人の主張は採用できない。
[ James Darnell et al., 「Molecular Cell Biology」3d ed. (1986), p.1299には、「平衡定数Kは、K=[Ag-Ab]/[Ag][Ab]=k1/k2として定義される。平衡定数として典型的な数値は105〜1011(M-1)である。」(第1299頁右欄第6〜9行目)と記載されており、この記載から抗体一般の平衡定数Kは105〜1011(M-1)の範囲内であることが分かる。
特開2002-268号公報 第4頁第6欄 段落番号【0025】には、「モノクローナル抗体のCMーペプチドβ66及びCMーペプチドα61に対する解離定数Kが10-8Mを越える場合、又は解離速度定数k-が10-2s-1を越える場合には、抗体とこれらペプチドとの結合が不安定となるために上記CMーHbを再現性良く測定することが困難になる。特に、解離定数Kが10-8Mを越える場合は、該モノクローナル抗体と該ペプチドの結合能が低下するため測定感度が低下する。効果の観点からCMーペプチドβ66又はCMーペプチドα61に対する解離定数K、及び解離速度定数k-はそれぞれ6×10-9M以下、及び5×10-3s-1以下であるのが好適である。」と記載されており、この記載から、単一クローン抗体の特性として、平衡定数Kの逆数である解離定数が10-8M(すなわち平衡定数K=108M-1)を超える場合は、単一クローン抗体とペプチドの結合能が低下するため測定感度が低下すること、及び解離定数(平衡定数Kの逆数)は6×10-9M(すなわち平衡定数K=1/6×10-9M=1.6×108M-1)以下、解離速度定数は5×10-3S-1以下であることが分かる。
(なお、上記2文献は本願出願後頒布されたものであるが、そこに記載の平衡定数及び解離速度定数は、本願優先日当時においても同様であったと認める。)]
II-2.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の単一クローン抗体の製造方法であり、本願発明1の抗体自体が進歩性を有さない以上、その製造方法である本願発明2も進歩性がない。
IV.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1,2はいずれも上記引用例1、2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-02-22 
結審通知日 2002-02-22 
審決日 2002-02-26 
出願番号 特願昭57-500822
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小沢 誠次鵜飼 健内田 俊生  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 佐伯 裕子
齊藤 真由美
発明の名称 単一クロ-ン抗体  
代理人 蔵合 正博  
代理人 酒井 一  

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