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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01R
管理番号 1060951
審判番号 不服2000-16129  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-10-10 
確定日 2002-07-10 
事件の表示 平成10年特許願第306900号「マルチメータ」拒絶査定に対する審判事件[平成11年 7月30日出願公開、特開平11-201998]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年10月28日(パリ条約による優先権主張1997年10月29日、米国)の出願であって、その請求項1〜10に係る発明は、平成12年1月13日付け、及び平成12年11月8日付け手続補正書で補正された明細書及び図面の記載によれば、特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1には次の事項が記載されている。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)
「【請求項1】 マルチメータであって、
前面および背面、左側面および右側面、上端および底端を有し、かつ片手での操作が可能なサイズを有して縦に細長いハウジングを含み、前記上端および底端は、前記左側面および右側面よりも幅が狭く、かつ前記上端は電流が流れる導体を受けるための固定された窪みを有し、さらに
前記上端の内部に装着されて前記固定の窪みのまわりに延在し、前記電流が流れる導体内の電流を検知するためのC型電流センサと、
前記底端に取付けられた試験プローブ対と、
前記電流センサおよび前記試験プローブ対とに結合されて、測定モードに従う測定値を付与する測定回路系と、
前記マルチメータを保持する片手で操作することが可能なように設けられ、前記測定モードを選択するための回転ノブと、
前記測定回路系に結合され、前記測定モードによる前記測定値を表示するためのディスプレイとを含む、マルチメータ。」

2.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された実願昭59-189780号(実開昭61-104387号)のマイクロフィルム(以下、「引用刊行物1」という。)には、特に第1,2図とともに、次の事項が記載されている。
(ア)「この考案は、電力線など主として電源回路の電流や電圧等を測定するクランプテスタに組み込まれ、設備、装置類の電気回路に対して導通状態の良否を調べるのに利用される導通チェック回路に関するものである。」(第2頁第2〜6行)
(イ)「第1図にはこの考案が適用されたクランプテスタが示されている。同図を参照すると、このクランプテスタの本体1には、2本のテストリード2,3が図示しないバナナプラグ等により抜き差しできるように装着されている。
・・・(中略)・・・
なお、電源回路の電流などを測定する場合には、上記ファンクション切換器4を所定の位置にセットした後ノブ8を押してクランプコア9,10を開き、通常のクランプテスタと同様に被測定電線に外包させて表示器7の値を読み取るようにする。」(第3頁第16行から第5頁第4行)
(ウ)「なお、例えば電流測定などのように測定対象とする電気量が導通チェックと異なる場合には、その被測定信号は信号源20から入力される。この信号源20は、上記第1図から見るとクランプコア9,10に誘起される電流又は電圧などに相当する。上記ファンクション切換器4は、導通チェックの場合とは異なる所定の位置、例えば「電流」などと標記された位置にセットされる。これにより、上記マイクロコンピュータ17は電流測定のプログラムに従って動作を開始する。この場合、マイクロコンピュータ17からは、例えばMSBに相当するレベルのディジタル信号がD/A変換器18に送出される。このディジタル信号はD/A変換器18においてアナログ値に変換され、基準電圧としてコンパレータ16に加えられる。被測定電流信号は、例えばファンクション切換器4に内蔵された図示しない入力回路を介して電圧信号に変換されてからコンパレータ16に送られるようになっている。この信号電圧と上記基準電圧とが比較され、コンパレータ16の出力の1又は0に応じてマイクロコンピュータ17からはLSB方向へ減少するディジタル信号が発せられる。この信号はD/A変換器において上記同様基準電圧に変換され、コンパレータ16により被測定信号と比較される。このようにしてLSBまで順次比較され、その結果被測定信号はディジタル値に変換されて表示器7に表示される。上記のように、この導通チェック回路は例えば電流測定など他の電気量の測定にも共用できるようになっている。」(第8頁第3行から第9頁第11行)
(エ)また、第1図には、「縦に細長い本体1を含み、かつ前記上端には電流が流れる導体を取り囲み導体内の電流を検知するためのクランプコア9,10を有し、さらに、前面の底端側に取り付けられたテストリード2,3と、測定モードを選択するファンクション切換器4と、前記測定モードによる測定値を表示するための表示器7とを含む、クランプテスタ。」が記載されている。

そして、縦に細長い本体1が、前面および背面、左側面および右側面、上端および底端を有することは明らかであり、また、上記記載事項(ウ)のコンパレータ16,マイクロコンピュータ17及びD/A変換器18は、クランプコア9,10およびテストリード2,3に結合された測定モードに従う測定値を付与する測定回路系であるから、上記記載事項(ア)乃至(エ)から、引用刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。(以下、「引用刊行物1記載の発明」という。)
「前面および背面、左側面および右側面、上端および底端を有し、縦に細長い本体1を含み、かつ前記上端には電流が流れる導体を取り囲み導体内の電流を検知するためのクランプコア9,10を有し、さらに、前記前面の底端側に取り付けられたテストリード2,3と、前記クランプコア9,10および前記テストリード2,3に結合されて、測定モードに従う測定値を付与する測定回路系と、前記測定モードを選択するファンクション切換器4と、前記測定モードによる測定値を表示するための表示器7とを含む、クランプテスタ。」

また、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-85462号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、特に第1,2,3図とともに、次の事項が記載されている。
(オ)「本発明は、電線に流れている電流を電線を切断することなく、活線のまま測定する電流測定装置に関し、更に詳しくは、電線路への装着が容易で、且つ、変流器部に可動部分を有しないU字形解放鉄心を用いた電流測定装置に関する。」(第1頁左下欄第14〜18行)
(カ)「第1図は、本発明装置の原理的な構成ブロック図であり、第2図は斜視図である。これらの図において、1はU字形解放鉄心(空芯を含む)を用いた変流器部分で、互いに対向する両側にコイル11,12が設けられ、両脚中央のマークm1,m2を結ぶ線上位置に電線2が通るように構成されている。この変流器部分1は、第2図に示すよう可動するクリップ機構の無い構造となっている。
3はコイル11,12からの信号e0を積分し、電線2を流れる電流iに比例した信号を出力する積分器である。ここで、互いに対向して配置される2つのコイル11,12は、2つのコイル11,12によって挟まれた内側に位置する電線2から発生する磁束φによる起電力e1,e2が互いに和の形(e1+e2)となり、2つのコイル11,12の外側に位置する電線21から発生する磁束による起電力e11,e21に対しては差の形(e11-e21)となるように直列に接続され、前述の和信号(e1+e2)が積分器3に印加されるようになっている。
4は測定電流値を指示する指示計で、ここではディジタル値で表示するようになっている。尚、この場合、積分器3の出力はA/D変換器によってディジタル信号に変換されるものとする。」(第2頁左上欄第13行から右上欄第16行)
(キ)また、第2図には、縦に細長いハウジングを有し、ハウジングの上端に電流が流れる導体を受けるための固定された窪みが形成され、前記固定された窪みのまわりに電流が流れる導体内の電流を検知するためのコイルが設けられた電流測定装置が記載されている。
してみると、上記記載事項(オ)乃至(キ)から、引用刊行物2には、縦に細長いハウジングを有し、ハウジングの上端に電流が流れる導体を受けるための固定された窪みが形成され、前記ハウジングの上端の内部に装着されて前記固定された窪みのまわりに設けられ、電流が流れる導体内の電流を検知するためのU字形解放鉄心及び互いに対向する鉄心の両脚に巻装した2つのコイルを有する電流測定装置(以下、「引用刊行物2記載の発明」という。)、が記載されていると認められる。

さらに、拒絶査定書において周知例として提示された、特開平6-235735号公報(「周知例1」という。)には、図1とともに、「デジタルクランプテスタ1は片手で把持できる比較的細長なボディ2を備え、ボディ2の先端(図中上端)にはクランプCT部3を付設してなる。ボディ2の正面には表示部4と、電源スイッチを兼用した、電源スイッチ/測定モード切り替えスイッチ5と機能指定キー列6を備え、ボディ2の下端には電圧測定端子7と9、抵抗・温度測定端子8と9を備える。端子9は共通コモン端子である。」(段落[0011])と記載され、特開平4-248469号公報(「周知例2」という。)には、図1とともに、「DMM10は、更に、この計器を利用するユーザーの片手に容易にフィットする大きさのケース12を具えている。」(段落[0013])及び「図1に示すように、スイッチ20をDMM10の左側付近に配置する。好適には、スイッチ20の回転ノブ24は、DMM10の左側からわずかに突き出ている。マルチメータ分野において周知の如く、スイッチ20及びボタン22のこれらの位置により、ユーザは片手でDMM10を操作できる。」(段落[0014])と記載され、実願昭56-69860号(実開昭57-182175号)のマイクロフィルム(「周知例3」という。)には、特に第5図に、マルチメータを片手で保持し、レンジ切換ダイヤルを片手で操作する図が記載されている。

3.対比
本願発明と引用刊行物1に記載の発明とを対比する。
引用刊行物1記載の「本体1」「テストリード2,3」「ファンクション切換器4」及び「表示器7」が、それぞれ本願発明の「ハウジング」「試験プローブ対」「回転ノブ」及び「ディスプレイ」に相当することは明らかである。また、引用刊行物1記載の発明の「クランプテスタ」は本願発明の「マルチメータ」に対応し、引用刊行物1記載の「クランプコア」は本願発明の「電流センサ」に対応する。
してみると、本願発明と引用刊行物1記載の発明とは、「マルチメータであって、
前面および背面、左側面および右側面、上端および底端を有し、縦に細長いハウジングを含み、さらに
前記ハウジングの上端に設けた、電流が流れる導体内の電流を検知するための電流センサと、
前記ハウジングの底端側に取付けられた試験プローブ対と、
前記電流センサおよび前記試験プローブ対とに結合されて、測定モードに従う測定値を付与する測定回路系と、
前記測定モードを選択するための回転ノブと、
前記測定回路系に結合され、前記測定モードによる前記測定値を表示するためのディスプレイとを含む、マルチメータ。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明の縦に細長いハウジングが「片手での操作が可能なサイズを有して」いるのに対して、引用刊行物1にはこの構成が明記されていない点。
(相違点2)
本願発明のハウジングが「上端および底端は、左側面および右側面よりも幅が狭い」のに対して、引用刊行物1記載の発明はこの構成を有していない点。
(相違点3)
本願発明においては、「ハウジングの上端は、電流が流れる導体を受けるための固定された窪みを有する」とともに、「上端の内部に装着されて固定の窪みのまわりに延在し、電流が流れる導体内の電流を検知するためのC型電流センサを含む」のに対して、引用刊行物1記載の発明の電流センサは、ハウジングの上端に設けたクランプコアを有するものであって、このような構成を有していない点。
(相違点4)
本願発明においては、試験プローブ対がハウジングの「底端に取付けられている」のに対して、引用刊行物1記載の発明においては、試験プローブ対が前面の底端側に取付けられている点。
(相違点5)
本願発明においては、回転ノブが「マルチメータを保持する片手で操作することが可能なように設けられている」のに対して、引用刊行物1にはこの構成は明記されていない点。

4.相違点の判断
上記各相違点について検討する。
4-1.相違点1及び相違点5について
マルチメータにおいて、ハウジングを、片手で操作が可能なサイズにしたり、回転ノブを、マルチメータを保持する片手で操作することが可能なような構成とすることは、上記周知例1乃至周知例3にみられるように当該技術分野の周知技術であるから、引用刊行物1記載の発明においてこの周知技術を用いることは当業者が容易に想到し得ることである。

4-2.相違点2について
マルチメータにおいてハウジングの上端部の幅や底端部の幅を中央部の幅に対して変えることは、例えば引用刊行物2の第2図や周知例3の第5図に、底端部の幅を中央部に比して狭くしたものが記載されていること、周知例1の図1に、上端部の幅を中央部及び底端部の幅に対して狭くしたものが記載されていること、拒絶の理由に引用された実願昭57-202172号(実開昭59-100268号)のマイクロフィルムの第1図に、上端部及び底端部の幅を中央部の幅に対して狭くしたものが記載されていることにもみられるように、手での扱いやすさなどを考慮して当業者が適宜選択することであるから、引用刊行物1記載の発明において、ハウジングの上端および底端は、左側面および右側面よりも幅が狭く構成することは当業者が適宜選択する設計的事項である。

4-3.相違点3について
非接触型の電流測定装置として、引用刊行物2には、縦に細長いハウジングを有し、ハウジングの上端に電流が流れる導体を受けるための固定された窪みが形成され、前記ハウジングの上端の内部に装着されて前記固定された窪みのまわりに設けられ、電流が流れる導体内の電流を検知するためのU字形解放鉄心及び互いに対向する鉄心の両脚に巻装した2つのコイルを有する電流測定装置が記載されており、また、電流が流れる導体を受けるU字形などの鉄心とこれに巻装した1つあるいは複数のコイルにより電流が流れる導体内の電流を検知する電流センサを構成することは、引用刊行物2以外にも例えば特開平7-167899号公報、特開平7-333248号公報、実開昭63-195270号公報第5図及び第8図、実公昭34-20891号公報などにみられるように周知である。
してみると、引用刊行物2記載の技術的思想を、同じく非接触型の電流測定装置である引用刊行物1記載の発明の電流センサに用いて、ハウジングの上端に設けたクランプコアを含む電流センサに代えて、ハウジングの上端に電流が流れる導体を受けるための固定された窪みを形成し、この固定された窪みのまわりに延在するようなU型やC型の電流センサを設けることは当業者ならば容易に想到し得たものと認められる。

4-4.相違点4について
引用刊行物1記載の発明においては、試験プローブ対が前面の底端側に取付けられているのであり、試験プローブ対を底端側に取り付けることが示唆されているのであるから、前面の底端側に代えて底端に試験プローブ対を取り付けるようにすることは当業者ならば容易に想到し得る事項である。

そして、本願発明の効果も、引用刊行物1及び引用刊行物2に記載された発明並びに上記周知技術から当業者であれば予測し得る程度のものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は引用刊行物1及び引用刊行物2に記載された発明並びに上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-01-29 
結審通知日 2002-02-05 
審決日 2002-02-20 
出願番号 特願平10-306900
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾崎 淳史濱本 禎広  
特許庁審判長 西川 一
特許庁審判官 高橋 泰史
山田 正文
発明の名称 マルチメータ  
代理人 森田 俊雄  
代理人 深見 久郎  
代理人 伊藤 英彦  
代理人 堀井 豊  

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