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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C22B |
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管理番号 | 1061066 |
異議申立番号 | 異議2001-72093 |
総通号数 | 32 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2000-11-07 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-07-31 |
確定日 | 2002-04-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3129709号「低酸素高純度チタン材の製造方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3129709号の訂正後の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第3129709号の手続きの経緯は次のとおりである。 特許出願 平成11年 4月22日 設定登録 平成12年11月17日 公報発行 平成13年 1月31日 特許異議申立 平成13年 7月31日 取消理由通知 平成13年10月31日付 訂正請求 平成14年 1月 8日 異議意見書 平成14年 1月 8日 2.訂正の適否 2-1.訂正の要旨 ・訂正事項1 特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5において、もとの請求項1および3を削除し、以下請求項を繰り上げて、下記のとおり訂正する。 「【請求項1】 クロール法によって製造されたスポンジチタンの底部から厚さが塊高さの25%以上の部分と頂部から厚さが塊高さの10%以上の部分とを切断除去し、かつ円筒状塊の円周部から厚さが塊直径の18%以上の円周部分を切断除去して、スポンジチタン塊重量の30%未満に相当する中心部分を採取して高純度チタン材を製造する方法であって、前記スポンジチタンの中心部分の温度が60℃以下になるまで冷却した後、スポンジチタンの中心部分を切断することを特徴とする酸素濃度が200ppm以下で、Fe、Ni、Cr、AlおよびSiをl0ppm以下並びにNaおよびKを0.1ppm以下含有する高純度チタン材の製造方法。 【請求項2】 反応容器内でスポンジチタンの上記中心部分の温度が60℃以下になるまで冷却した後、反応容器から取り出してスポンジチタンの中心部を切断することを特徴とする請求項1に記載の高純度チタン材の製造方法。 【請求項3】 上記反応容器がクラッド鋼で構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高純度チタン材の製造方法。」 ・訂正事項2 特許明細書の段落【0022】を下記のとおり訂正する。 「上述したスポンジチタンの特性を考慮して、反応容器内のスポンジチタンの中心部分の温度が100℃以下、すなわち、切断プレスの加工を伴って温度上昇が見られる場合でも実質的に100℃以下になるまて冷却した後取り出すようにして、その後速やかに中心部分の採取を行うことによって、低酸素で、スパッタリング用ターゲットの作製に適する高純度チタンを製造できることを知見した。本発明は、このような知見に基づいて完成したものであり、下記(1)および(2)の低酸素高純度チタン材の製造方法を要旨としている。以下の説明において、低酸素とは酸素濃度が200ppm以下を意図しており、高純度とは不純物としてFe、Ni、Cr、Al、Siの含有量がl0ppm以下、Na、Kの含有量が0.1ppm以下であることを意図する。」 ・訂正事項3 特許明細書の段落【0023】を下記のとおり訂正する。 「(1)クロール法によって製造されたスポンジチタンの中心部分を採取して高純度チタン材を製造する方法であって、前記スポンジチタンの中心部分の温度が60℃以下になるまで冷却した後、スポンジチタンの中心部分を切断することを特徴とする低酸素高純度チタン材の製造方法である。」 ・訂正事項4 特許明細書の段落【0024】を下記のとおり訂正する。 「上記のスポンジチタンの中心部分は、スポンジチタンの不純物分布を詳細に検討した結果得られたものであり、後述する規定による。」 ・訂正事項5 特許明細書の段落【0025】を下記のとおり訂正する。 「(2)上記(1)と同様に、スポンジチタンの中心部分を採取して高純度チタン材を製造する方法であって、反応容器内でスポンジチタンの中心部分の温度が60℃以下の所定温度になるまで冷却した後、反応容器から取り出してスポンジチタンの中心部分を切断することを特徴とする低酸素高純度チタン材の製造方法である。」 ・訂正事項6 特許明細書の段落【0026】を下記のとおり訂正する。 「上記(1)および(2)の低酸素高純度チタン材の製造方法において、Ni、Cr等の金属不純物の混入を防止するため、反応容器は内側が低炭素鋼、外側がステンレス鋼としてクラッド鋼で構成するのが望ましい。」 ・訂正事項7 特許明細書の段落【0029】を下記のとおり訂正する。 「また、上記(1)の低酸素高純度チタン材の製造方法において、中心部分の温度を60℃以下と規定しているのは、スポンジチタンの熱伝導率を考慮した場合でも、または切断プレスの加工に伴って温度上昇がみられる場合でも、スポンジチタン中心部分の温度が100℃以下を満足することを意味する。」 ・訂正事項8 特許明細書の段落【0031】を下記のとおり訂正する。 「具体的な中心部分の温度としては、60℃以下になるまて冷却することとしている。通常、中心部分の温度制御は、真空分離終了後の冷却時間によって管理される。そのため、反応を終了したスポンジチタンを冷却し、上部からドリルで穿孔して中心部分に熱伝対を挿入したのち、真空分離を行う温度まで昇温する。そして、真空分離を行った後冷却し、冷却開始からの時間と中心部分の温度との関係が実測される。この実測結果に基づいて、真空分離後の冷却時間が管理される。」 ・訂正事項9 特許明細書の段落【0037】に示す表1のうち、発明例Aを削除して、訂正明細書の表1のとおりに訂正する。 ・訂正事項10 特許明細書の段落【0038】を下記のとおり訂正する。 「表1の結果から明らかなように、発明例(No.BおよびC)では反応容器からの取り出し時にスポンジチタン中心部の温度が60℃以下となっているため、含有される酸素濃度はいずれも200ppm以下であった。比較例のNo.Dは中心部の温度が100℃で管理したが、切断加工に伴って温度上昇があり、実質的に100℃を超え、酸素濃度は207ppmと増加が見られた。」 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1および3を削除し、請求項2、4および5を新たに請求項1、2および3に訂正するもので、この訂正は、特許請求の範囲の滅縮を目的とするものである。 訂正事項2〜10は、明細書の詳細な説明の項の記載を、訂正事項1の特許請求の範囲の訂正に整合させるもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 そして、これら訂正事項1〜10は、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、また、特許明細書に記載した事項の範囲内においてなされるものである。 2-3.訂正の適否についての結論 以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項乃至3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.異議申し立て理由及び取消理由についての判断 3-1.本件請求項1〜3に係る発明 上記2-1.の訂正事項1に記載のとおりである。 3-2.異議申立ての理由及び取消し理由 本件各発明は、特許異議申立人東邦チタニウム株式会社の提示した各刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件各発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、本件特許は取り消されるべきものである。 3-3.引用された刊行物に記載の事項 ◎甲第1号証(特許第2863469号公報) 高純度チタン材の製造方法の発明に関し、 「【請求項1】クロール法による高純度チタン材の製造方法であって、クラッド鋼で構成された反応容器を用いて製造されたスポンジチタンの円筒状塊の底部から厚さが塊高さの25%以上の部分と頂部から厚さが塊高さの10%以上の部分とを切断除去し、かつ円筒状塊の円周部から厚さが塊直径の18%以上の円周部分を切断除去してのち、前記の円筒状塊重量の30%未満に相当する中心部分のスポンジチタンを採取し、切断プレスで粒径10〜300mmに切断したのち溶解原料とすることを特徴とする高純度チタン材の製造方法。、・・【請求項3】前記の高純度チタン材が酸素含有量:300ppm以下、Fe、Ni、Cr、Al、Siの各元素の含有量:l0ppm以下であって、残部がチタンおよび不可避不純物からなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の高純度チタン材の製造方法。」(第1頁特許請求の範囲)、 また、「塊内のFe不純物の含有は、NiおよびCrの汚染の場合と同様、還元中の溶融Mgを介する反応容器内面からの汚染によるものであるから、・・中心部においてその含有は極めて少ない。このような分布状況は、Ni、Cr、Feの他、Al、Siの各元素においても同様である。一方、O2による汚染は、反応容器から押し出されたバッチが大気中のO2と接触し、バッチの外表面から汚染されることが原因である・・」(第3頁右欄第21行〜第30行)、「スポンジチタンが長時間にわたり繰り返し加工を受けるため、切断プレス等の加工刃やジョークラッシャーの摩耗によって、これらを構成する素材の摩耗微粉が、スポンジチタン粒に混入することがある。この場合にも金属元素による汚染をおこし、品質低下の原因となっている。」第4頁左欄第8行〜13行)ことが記載されている。 ◎甲第2号証(「溶融塩および高温化学」京都大学工学部原子核工学教室内電気化学協会溶融塩委員会編集兼発行所、平成6年2月4日発行 「チタニウム製錬の現況とその研究開発動向」(第7頁〜第22頁)と題する論文において、 「又機能材料として超電導材、形状記億合金などがあり、最近特に高純度Tiのターゲット材の用途も増加しつつある。」(第10頁第6行〜第7行)、 「2.2精錬工程」の「還元・分離工程」の項に 「還元反応は、ステンレス製のレトルト〔2mφ×5mh〕をAr雰囲気とした後、溶融状態のMgを送入してからTiC14を液体のままその上部から流下させて反応させる。・・・還元の終ったバッチは、高温の状態のまま次段の分離工程に接続され、約1000℃で真空分離が行われる。この真空分離は、Ti-スポンジ魂中に取り込まれたMg、MgC12を蒸発させる必要があるため、その律速はスポンジTi塊中の熱伝導にある。真空分離の初期には、その伝熱はTi(S)、Mg(L)、MgC12(L)を通して行われるがMg、MgCl2の減少と共に、スケルトン状のスポンジTiのみが伝熱を受持つことになる。分離中のスポンジTiの平均空隙率は65%と計算できるので、Ti自体の熱伝導率の悪さとも相まって、律速となっている。分離所要時間も3〜4日が必要であり、更に常温までの冷却時間を加えると還元分離工程で8〜10日間を要する非常に生産性の低い運転をしていると云わざるを得ない。」 「破砕工程」の項に 「Tiは空気や水分との親和性が良いので、充分な時間をかけて室温まで冷却したスポンジTiの大塊を破砕工程にかける。 反応レトルトから油圧により押し抜いたスポンジ塊は、切断機で輪切り状に切断され、品質部位別に仕分けされた後、4段のシャー、2段のブレーキクラッシャシャー、1段のロールクラッシャーを通過させて13mm以下の規格の粒にまて粉砕する。これらのスポンジは、バッチごとに貯蔵され、数バッチを混合してロットを構成させてから、サンプリングを行って品質が確定される。製品はドラム罐に入れ真空引後Arを充填してから保管、出荷される。Kroll法によるTi製錬はバッチ法であるため、一般的にはレトルト等と接触して生成される部位に不純物が多く集積されて、スポンジ大塊の中央部は純度の高い製品となる。」(第14頁第8行〜第15頁第14行〕ことが記載されている。 ◎甲第3号証(「スポンジチタンのマグネシウム熱還元製造」著者M.K.バイベコフ、V.D.ポポフ、I.M.チェルパソフ、1984年、第55頁〜第59頁/翻訳文の第43頁〜第46頁 「商品スポンジチタンに対する技術要求」の項に、「主な不純物混入源は初原料の四塩化チタンとマグネシウムである。窒素と酸素も還元および分離プロセスで、またチタンスポンジの加工.保存の際に空気や水分と接触して混入する可能性がある。鉄、ニッケルおよびクロムは反応器の材料からチタンスポンジに混入する。チタンスポンジには、塩化マグネシウムが存在するため、マグネシウム、酸化マグネシウムおよび塩素などの不純物が存在する。マグネシウムの含有量は少量で、チタンスポンジの質に対するその影響はごくわずかである。酸化マグネシウムは四塩化チタンの最初のバッチとしてマグネシウムを精錬するプロセスでボールの底部に集中する。チタンスポンジの品質を本質的に悪化させるのは塩化マグネシウムの形の塩素である。完全には分離していない塩化マグネシウムあるいは凝縮器から落ち、チタンスポンジに入り込んだこの塩化物は破砕・保管プロセスで空気中の水分と反応し、水酸化マグネシウムが生成され、これはまた精錬プロセスでチタンスポンジを酸素で汚染する。従って、チタンの品質に対する塩化マグネシウムの影響は高い水分吸収能〔加水分解〕およびスポンジの展開面での水分の吸着によって定まる。 このような不純物の性質はまたチタンスポンジの加工および保管技術に対する要求を決定する。まず第一に、チタンスポンジの吸湿性が高いことから分離の際に塩素〔塩化マグネシウム〕を最大限除去する必要がある。スポンジ精製場所は乾燥していなければならず、この操作の時間は最小でなければならない。第二に、少なからず重要な要求は冷却されたボール内部の温度である。実地に確認されたことは、冷却後のレトルト壁の温度が30℃以下の場合、ブロック内部の温度は100℃以下であることである。これによりチタンと空気中の酸素や窒素との相互作用が排除できる。 図21にスポンジチタンブロックにおける様々な品質の金属層の配置図を示す。 マグネシウム、アルゴンおよび戻り凝縮物から成る不純物の大部分は還元処理でブロックの下部に、また一部は反応器壁に集中する。従って、スポンジブロックの底部は品質が最も悪い。壁に隣接するスポンジおよびブロックの上部は品質が落ちる。その理由は反応器壁からの不純物により汚染され、また漏れおよび冷却プロセスにおいてブロック上部の品質が悪化するからである。このように不純物が不均等に分布していることもチタンスポンジの断面に沿ったブロックにおけるチタンスポンジの品質およびその精製方法を決定する。」(第57頁第10行〜第58頁11行/訳文第44頁第7行〜第45頁第11行)、 「レトルト・反応器から横押出しプレス〔図23〕を用いて付着物と一緒にチタンスポンジブロックを引き出す。スポンジの付着部分を前もってレトルト壁から切り欠きして(はぎ取って)おくと、レトルトからブロックを押し出す力がはるかに少なくて済む。機械的にあるいは手でブロックから厚さ20〜60mmの底部と上部のわずかな部分「ハット」を分離する。」(第58頁第19行〜第59頁第6行/訳文第45頁第15行〜第46頁第5行〕が記載されている。 ◎甲第4号証(特開平10一259432号公報) 低酸素チタン材および低酸素チタン溶解素材の製造方法の発明に関して、 「LSIの配線層やバリヤ層をスパッタリング法により形成するために使用されるチタンターゲット材には、最近のLSIの高密度化に伴い、4N(フォー.ナイン(ガス成分を除く金属成分の純度))は勿論のこと、場合によっては5Nないし6Nというグレードのきわめて高純度の品位が要求されている。具体的には、不純物元素であるFe、Cr、Niについては5ppm以下、場合によってはlppm以下であることが要求される。また、Na、Kについてはそれぞれ0.1ppm以下、場合によっては0.05ppm以下であることが要求される。さらに、酸素については250ppm以下であることが要求され、望ましくは200ppm以下、さらに望ましくは150ppm以下がよいとされている。これらの不純物元素の含有率は、低ければ低い程好ましいことは言うまでもない。」(第2頁左欄第40行〜右欄第4行、段落【0002】)、また、 「酸素については、大気と接触する機会の多いスポンジチタンの破砕工程において汚染される可能性が高い。・・このような、切断、選別、粉砕、整粒、包装といった一連の工程・・を経て製造されたチタン材は、各工程を経る毎に比表面積が大きくなるので、大気中の水分および酸素との接触で酸化され易く、しかも、酸化防止の対策を講じることが困難である。このため、破砕して得られたチタン材の中で酸素の低い部分だけを選別して酸素含有率の基準を満足させているのが実状である。・・このように、クロール法で製造したスポンジチタンをもとに低酸素のチタン材を製造する際には、破砕工程のみならず・・する工程を経る間に、酸素含有率をいかにして上昇させないかが重要な課題である。」(第2頁右欄〜第3頁左欄、段落【0005】、【0006】)ことが記載されている。 ◎甲第5号証(特公平4-75301号公報) 「酸素含有量250ppm以下;鉄、ニッケル、クロムの各元素の含有量l0ppm以下;ナトリウム、カリウムの各元素の含有量0.1ppm以下;残部がチタン及びその他の不可避不純物であることを特徴とする薄膜形成用高純度チタン材。」(第1頁第1欄第2行〜第6行)、 「Tiの配線網を形成するときには、ターゲットにTi材を用いるのである。この場合のTi材は高純度であることが必須条件となる。例えば、Ti材に不純物として酸素が含有されている場合には、Ti材自体がもろくなり、形成された薄膜の電気抵抗が大きくなって配線網の溶断等の自己(事故)が多発しはじめ、Fe、Ni、Crのような重金属はVLSIなどと形成された薄膜との界面接合部におけるリーク現象の原因を構成し、Na、Kのようなアルカリ金属はVLSI等のSi中を容易に遊動して素子特性を劣化させるからである。また、U、Thはそれらの放射するα線により素子がダメージを受け結局は素子の動作信頼性が著しく低下するのである。」〔第2頁第4欄第20行〜第33行〕が記載されている。 ◎甲第6号証(「チタン:特性,原料,物理化学的性質,製造法」著者.V.A.ガルマタ、A.N.ペトルニコ、N.V.ガリッキイ、R.A.サンドレル、Yu.G.オレソフ、モスクワ1983)第391頁第40行〜第414頁第2行/訳文:第2頁〜第10頁・図121(第423頁) スポンジチタンの熱真空精製に関し、 「分離プロセスの終了後、循環使用するレトルトコンデンサーを冷却するための水の供給を中止し、電熱保温炉のスイッチを切り、装置をアルゴンで圧力0.02〜0.025MPaまで満たす、同時に炉を空気て満たす。装置は初めのうちは炉中で1073OKまで、続いて冷却装置中で318〜333OKまで冷却され、その後特殊なスタンド内で解体される。」(第412頁第40行〜第413頁第2行/訳文:第9頁第24行へ第28行)こと及び図121が記載されている。 (以下、甲第1〜甲第6各号証を各甲1〜甲6という。) 3-4.判断 3-4-1.本件請求項1に記載の発明は、上記2-1.の訂正事項1に記載のように、クロール法によって製造されたスポンジチタンの塊から周辺部を所定量切断除去して塊重量の30%未満に相当する中心部分を採取して高純度チタン材を製造するに際し、スポンジチタンの中心部分の温度が60℃以下になるまで冷却した後、スポンジチタンの中心部分を切断することを特徴とし、これにより、チタン材中の酸素濃度が200ppm以下、不純物であるFe、Ni、Cr、AlおよびSiをl0ppm以下並びにNaおよびKを0.1ppm以下にした高純度チタン材の製造方法の発明である。 また、本件請求項2に記載の発明は、反応容器内でスポンジチタンの上記中心部分の温度が60℃以下になるまで冷却した後、反応容器から取り出し、請求項3に記載の発明は、反応容器をクラッド鋼で構成したものである。 本件請求項1、2、3に記載の発明を、以下、本件各発明という。 3-4-2.他方、甲1には、クロール法による高純度チタン材の製造方法であって、クラッド鋼で構成された反応容器を用いて製造されたスポンジチタンの円筒状塊の底部から厚さが塊高さの25%以上の部分と頂部から厚さが塊高さの10%以上の部分とを切断除去し、かつ円筒状塊の円周部から厚さが塊直径の18%以上の円周部分を切断除去してのち、前記の円筒状塊重量の30%未満に相当する中心部分のスポンジチタンを採取して高純度チタン材を製造する方法が示され、該高純度チタン材の酸素含有量は300ppm以下、Fe、Ni、Cr、Al、Siの各元素の含有量はl0ppm以下であって、残部がチタンおよび不可避不純物からなることが記載されている。 3-4-3.本件各発明と甲1に記載の事項とを対比すると、両者は、クロール法によって製造されたスポンジチタン塊の所定の中心部分を採取して不純物が少ない高純度チタン材を製造する方法で共通するが、以下の点で相違している。 本件各発明は、スポンジチタン塊の中心部分の切断を、該塊の中心部分の温度が60℃以下になるまで冷却した後に行っているのに対し、甲1には、中心部分を採取するときの塊温度について記載がされていない点、及び、本件各発明は、チタン材中の酸素濃度が200ppm以下で、Na、Kが0.1ppm以下であると規定しているが、甲1では、酸素濃度は300ppm以下としか規定されず、Na、Kについての規定がされていない点。 3-4-4.以下、この相違点について検討する。 甲1の第1,第3,第4頁、及び、甲4の段落0002,0005,0006の記載からすると、「クロール法によるスポンジチタンから低酸素高純度チタン材を製造するに際し、該材中に混入する不純物量は少ないことが要求され、酸素含有量は200ppm以下程度に少なくしたほうがよいこと。」、また、「スポンジチタンと酸素が反応することは好ましくないから、一連の製造工程で酸素との反応を抑制する条件にする必要があること。」は本件出願前に当該技術分野において広く知られているものと認められる。また、チタン材中に不純物や酸素が含有された場合の害については甲5にも記載されている。 そこで、このような低酸素高純度チタン材の製造における周知の課題および技術水準の認識を前提にして、上記相違点をみると、 本件各発明において、反応容器から取り出す段階における円筒状のスポンジチタン塊中心部分の温度を上記のように制御する理由は、「スポンジチタンの熱伝導率は著しく低い値であるため、塊の表面温度が100℃であっても中心部分では100℃を超える温度状態になっており、さらに、切断加工に伴って温度上昇がみられ、表面が活性化して厚い膜厚の酸化膜が形成されるので、切断プレスの加工を伴って温度上昇が見られる場合でも実質的に100℃以下になるまで冷却した後取り出すようにして、中心部分の採取を行い低酸素高純度のチタン材を得る。」(本件段落0021,0022)という知見に基づくものである。 しかして、甲2に、真空分離工程から破砕工程に移る際に、「Tiは空気や水分との親和性が良いので、充分な時間をかけて室温まで冷却したスポンジTiの大塊を破砕工程にかける。」と記載されており、また、甲3には、スポンジチタンブロックの周りは不純物で汚染されており、スポンジチタンの加工および保管技術に対する重要な要求は、冷却された良質金属ボール内部の温度であり、実地に確認されたことは、冷却後のレトルト(反応器)壁の温度が30℃以下の場合、チタンブロック内部の温度は100℃以下であることで、これによりチタンと空気中の酸素や窒素との相互作用が排除できる旨の記載があるから、これらの記載から、酸素との反応によるチタンに含有される酸素濃度の低減のためには、「チタン塊を破砕工程にかける前に充分な時間をかけて室温まで冷却すること」、及び「チタン塊の内部を100℃以下にすると酸素との反応が抑制できること」が示されているものと認められる。 そして、上記のようにチタン材の一連の製造工程で酸素との反応を抑制する条件にする必要があるという技術常識のもと、破砕工程にかける前に充分冷却し塊内部を100℃以下にすると酸素との反応が抑制できることが示されておれば、切断加工時の或程度の温度上昇は自明の事項であるから、その昇温分をも考慮して、塊の中心温度で60℃以下になるまで冷却して後切断加工することは当業者が適宜に設定しうるものと認められる。 また、甲2、甲3及び、甲1の記載から、スポンジチタン塊中の不純物はレトルト反応容器と接触すること等により汚染され、塊周辺部でこれらの汚染が多く、中心ほど純度が高いことも知られているから、本件各発明のように酸素濃度が200ppm以下、Na、Kが0.1ppm以下に低減される点は、甲1のスポンジチタン塊の30%未満に相当する中心部分を採取する事項に、低酸素高純度チタン材を得るに好ましいとされる上記甲2、甲3、甲4の教示に従う手法を採用したことによる結果としての確認事項にすぎない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件請求項1〜3に係る発明は、刊行物甲1〜甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件各発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 低酸素高純度チタン材の製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 クロール法によって製造されたスポンジチタンの底部から厚さが塊高さの25%以上の部分と頂部から厚さが塊高さの10%以上の部分とを切断除去し、かつ円筒状塊の円周部から厚さが塊直径の18%以上の円周部分を切断除去して、スポンジチタン塊重量の30%未満に相当する中心部分を採取して高純度チタン材を製造する方法であって、前記スポンジチタンの中心部分の温度が60℃以下になるまで冷却した後、スポンジチタンの中心部分を切断することを特徴とする酸素濃度が200ppm以下で、Fe、Ni、Cr、AlおよびSiを10ppm以下並びにNaおよびKを0.1ppm以下含有する高純度チタン材の製造方法。 【請求項2】 反応容器内でスポンジチタンの上記中心部分の温度が60℃以下になるまで冷却した後、反応容器から取り出してスポンジチタンの中心部を切断することを特徴とする請求項1に記載の高純度チタン材の製造方法。 【請求項3】 上記反応容器がクラッド鋼で構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高純度チタン材の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、半導体用配線材料の形成に用いられるターゲット用高純度チタン材の製造方法に関し、さらに詳しくは、スパッタリング用ターゲットの作製に適する、含有酸素濃度が200ppm以下と低酸素で、且つ高純度のチタン材を製造する方法に関するものである。 【0002】 【従来技術】 従来から、半導体用配線材料として、高純度の高融点金属材料が使用されている。具体的に配線材料として用いられる金属材料としては、モリブデン、タングステン、ニオブ、チタンまたはそれらのシリサイドがあげられるが、中でもチタンは優れた比強度、加工性および耐食性を有することから、広く使用されている。そして、最近のLSI素子の高密度化にともない、さらに半導体用配線材料に使用されるチタンは高純度であることが要求され、特に含有される酸素濃度に関し一層の低減が要請されている。 【0003】 例えば、酸素含有量に関して、DRAMの主流である64Mビットの配線材料に使用される高純度チタン材では、酸素濃度は250ppm以下が要求される。さらに、近年、本格的な生産が検討され始めた128Mビット、あるいは256Mビットという高い集積度の配線材料に使用される高純度チタン材になると、含有される酸素濃度はさらに低減させて、200ppm以下にするのが望ましいとされる。 【0004】 このような要請に対応して、特公平4-75301号公報には、酸素含有量を250ppm以下に低減し、さらに鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)の含有量が10ppm以下、ナトリウム(Na)、カリウム(K)の含有量が0.1ppm以下である薄膜形成ターゲット用高純度チタン材が開示され、その製造方法として溶融塩電解法で得た粗チタン材を高真空中で電子線溶解する方法が提案されている。このように製造されたチタン材は、薄膜形成ターゲット用としてはもとより、LSI、VLSI、ULSI等の薄膜材料としてみた場合にも、忌避すべき不純物元素の含有量が非常に少ないとしている。 【0005】 確かに、溶融塩電解法と電子線溶解法との組み合わせでは、溶融塩電解法により得られた針状チタンを、高真空中で電子ビームを利用して溶解するので、針状チタンに多く含まれるNaやK等のアルカリ金属が効率的に蒸発させることができ、高い精製効果が得られる。さらに、電子線溶解法は10-5torrという真空条件で行われるため、溶製されたチタン材への酸素濃度の増加はほとんど認められない。 【0006】 ところで、現在、展伸用チタン材の製造方法として工業的に使用されているものには、上記溶融塩電解法の他に、中間原料であるチタン化合物の四塩化チタン(TiCl4)を純チタン金属に還元する方法があり、二つの製造方法に大別される。すなわち、マグネシウム(Mg)を還元剤として熱還元するクロール(Kroll)法、ナトリウム(Na)を還元剤とするハンター(Hunter)法である。 【0007】 これらの展伸用チタン材の製造方法を比較すると、生産性および省エネルギーの観点からはクロール法が最も優れているのに対し、溶融塩電解法は劣るものとなっている。さらに、前記特公平4-75301号公報が開示しているターゲット用高純度チタン材の製造方法では、溶融塩電解法の上記問題に加え、電子線溶解法の高額な装置費用を要することも問題である。このため、従来のクロール法を改善して、ターゲット用高純度チタンを製造する方法が各種試みられている。 【0008】 図1は、クロール法による展伸用スポンジチタンの製造工程を還元〜真空分離〜破砕に沿って説明する図である。まず、還元工程(▲1▼)では、還元炉1内のノズル2からTiCl4を噴霧させて、溶融Mgと反応させる。このとき還元炉1内の反応雰囲気中に酸素等の混入があると、スポンジチタンを汚染することになるので、反応は密閉した鋼製の反応容器3内で行われる。 【0009】 反応に必要なMgを反応容器3に装入して、容器内を不活性なアルゴンガスで置換したのち、加熱昇温してMgを溶融させる。溶融Mgを収容した反応容器3内にノズル2からTiCl4が供給され、Tiと副生物であるMgCl2が生成される。副生物であるMgCl2は適宜反応容器3の外へ抜き取られ、最終的には未反応Mgおよび残留MgCl2を含むスポンジ状または針状のチタンが反応容器3内で得られる。 【0010】 真空分離工程(▲2▼)では、反応容器3を真空分離炉4内に収納して、反応容器3の内部を真空状態とするとともに、さらに反応容器3の外部からその内部を加熱して、反応容器3内のスポンジチタンに含まれる未反応Mgおよび残留MgCl2を蒸発させる。蒸発した未反応Mgや残留MgCl2は真空分離炉4外の凝縮器5によって回収される。真空分離を終えたスポンジチタンは、反応容器3から円筒状の塊として押し出される。 【0011】 破砕工程(▲3▼)では、押し出されたスポンジチタンの塊はその底部、頂部および円周部を除去されてのち、切断プレス6で切断される。その後、ジョークラッシャーで細粒(1/2インチ以下)に破砕される。このように所定の粒径まで破砕されたスポンジチタンは、さらに品質を均一に維持するため混合したのち、アルゴンガスを充填した密閉ドラム缶に入れて保管される。ただし、ターゲット用高純度チタン材の製造においては、酸素成分、金属成分の汚染を回避するため、細粒破砕や混合は実施されない。 【0012】 上記クロール法によるターゲット用高純度チタン材の製造として、特開平7-258765号公報には、反応容器を用いて製造された円筒状のスポンジチタンの中心部分を選別し、これを10〜300mmに切断した後、得られたスポンジチタンを消耗電極として溶解し、高純度チタン材を製造する方法が開示されている。 【0013】 言い換えると、クロール法によって製造された円筒状スポンジチタンは、その塊内部に存在する不純物の分布は均一になっていない。例えば、酸素(O2)による汚染は、反応容器から押し出されたスポンジチタン塊が大気雰囲気中のO2と接触し、塊の外表面から汚染されることに起因する。そのため、採取するスポンジチタンを円筒状塊の中心部に限定することによって、含有される酸素濃度を低減することができるとしている。このため、特開平7-258765号公報で提案される製造方法は、比較的低廉なコストで高純度のチタンを製造できることから、一定の成果を達成している。 【0014】 また、特開平10-259432号公報では、破砕工程における湿度条件、または温度条件を規定することによって、酸素含有量が250ppm以下の高品位を有し、スパッタリング用ターゲットに適用することができる低酸素チタン材の製造方法が提案されている。ここで、提案された方法では、スポンジケーキに残留するMgC12が大気中の水分を吸収することによって、スポンジケーキに含有される酸素量が増加することに着目している。 【0015】 具体的には、スポンジチタンの切断工程、特に破砕工程での雰囲気中の湿度が高いと、スポンジチタン中の酸素含有量が増加し、逆に、破砕工程での雰囲気中の湿度が低くなると、スポンジチタンに含有される酸素が抑制されるとしている。このため、クロール法で製造したスポンジチタンケーキを切断、選別したスポンジチタンを破砕する際に、絶対湿度が「10g-H20/m3以下」の雰囲気下で、さらに望ましくは雰囲気温度も25℃以下に保持して行うようにしている。 【0016】 上記特開平10-259432号公報で提案の方法を実施しようとすると、破砕工程における雰囲気湿度、さらに雰囲気温度を調整するための装置が必要となり、その設置費用および装置を稼働する費用が高純度チタンの製造コストを高騰させることになる。また、酸素含有量の低減には、後工程である破砕工程での雰囲気調整では不十分である。言い換えると、スポンジチタンに含有される酸素を抑制するには、スポンジケーキに残留するMgC12の吸湿を主な問題とするのではなく、大気雰囲気中の酸素に対して活性な状態、すなわち、反応容器から取り出されたスポンジチタンの切断に際して、対策を講じなければならない。 【0017】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、クロール法で含有される酸素濃度が200ppm以下の低酸素高純度チタンを製造することを意図してなされたものであり、反応容器から取り出す段階における円筒状のスポンジチタン中心部分の温度を制御することによって、スパッタリング用ターゲットの作製に適する、低酸素高純度チタンを製造する方法を提供することを目的としている。 【0018】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、前記の課題を達成するため、前記特開平7-258765号公報で提案された方法を用いて、種々の検討を行った。通常、還元反応後、真空分離を終えたスポンジチタンは、その表面温度が100℃以下になるまで冷却された後、反応容器から押出装置等を用いて取り出される。ここで、反応容器から取り出す目安を「表面温度で100℃以下」としているのは、押出装置の作業性、その後の切断プレスの作業性や後述するスポンジチタンの特性を考慮した結果である。 【0019】 従来から、低酸素のスポンジチタンを得るために、反応容器から取り出されたスポンジチタンは、大気雰囲気中に曝される時間を短くするため、可能な限り速やかに中心部分が切断され、切断したまま、若しくは必要ある場合は破砕工程で粒径10〜300mmに調整されて、高純度の中心部分として採取される。採取されたスポンジチタンは、アルゴンガスを充填した密閉ドラム缶に入れて保管される。 【0020】 真空分離後のスポンジチタンの表面は活性であるため、外部から酸化を受けやすく大気雰囲気に曝されると、酸化膜が表面に形成される。このとき形成される酸化膜の厚さはスポンジチタンの温度に依存し、温度が高くなるほど酸化膜が厚くなり、それに伴ってスポンジチタンに含有される酸素濃度も上昇することになる。そして、酸化膜は緻密、且つ強固であるから、一旦表面に酸化膜が形成されると、その後はスポンジチタンの内部に酸素が供給されなくなり、酸素含有量の上昇は殆ど認められない。 【0021】 適正な酸化膜厚さを形成するには、「表面温度で100℃以下」とすることが目安となる。しかし、スポンジチタンの熱伝導率は著しく低い値であるため、表面温度が100℃であっても、高純度チタンを採取する中心部分では100℃を超える状態になっている。さらに切断プレスで切断する際には、切断加工に伴って温度上昇がみられることに留意しなければならない。発明者らの検討結果によれば、切断加工の速度にもよるが、20℃〜40℃の温度上昇が見られ、表面温度が100℃を超えるようになると、厚い膜厚の酸化膜が形成される。 【0022】 上述したスポンジチタンの特性を考慮して、反応容器内のスポンジチタンの中心部分の温度が100℃以下、すなわち、切断プレスの加工を伴って温度上昇が見られる場合でも実質的に100℃以下になるまで冷却した後取り出すようにして、その後速やかに中心部分の採取を行うことによって、低酸素で、スパッタリング用ターゲットの作製に適する高純度チタンを製造できることを知見した。本発明は、このような知見に基づいて完成したものであり、下記(1)および(2)の低酸素高純度チタン材の製造方法を要旨としている。以下の説明において、低酸素とは酸素濃度が200ppm以下を意図しており、高純度とは不純物としてFe、Ni、Cr、Al、Siの含有量が10ppm以下、Na、Kの含有量が0.1ppm以下であることを意図する。 【0023】 (1)クロール法によって製造されたスポンジチタンの中心部分を採取して高純度チタン材を製造する方法であって、前記スポンジチタンの中心部分の温度が60℃以下になるまで冷却した後、スポンジチタンの中心部分を切断することを特徴とする低酸素高純度チタン材の製造方法である。 【0024】 上記のスポンジチタンの中心部分は、スポンジチタンの不純物分布を詳細に検討した結果得られたものであり、後述する規定による。 【0025】 (2)上記(1)と同様に、スポンジチタンの中心部分を採取して高純度チタン材を製造する方法であって、反応容器内でスポンジチタンの中心部分の温度が60℃以下の所定温度になるまで冷却した後、反応容器から取り出してスポンジチタンの中心部分を切断することを特徴とする低酸素高純度チタン材の製造方法である。 【0026】 上記(1)および(2)の低酸素高純度チタン材の製造方法において、Ni、Cr等の金属不純物の混入を防止するため、反応容器は内側が低炭素鋼、外側がステンレス鋼としてクラッド鋼で構成するのが望ましい。 【0027】 本発明において、スポンジチタンの中心部分とは、真空分離後、反応容器から取り出されたスポンジチタン塊の底部から厚さが塊高さの25%以上の部分と頂部から厚さが塊高さの10%以上の部分とを切断除去し、かつ円筒状塊の円周部から厚さが塊直径の18%以上の円周部分を切断除去して、スポンジチタン塊重量の30%未満に相当する部分とすることができる。この中心部分は、スポンジチタンの不純物分布として、02の他、Ni、Cr、Fe等の偏在状況を詳細に検討した結果得られたものである。 【0028】 現状のクロール法の製造技術においては、スポンジチタン塊の重量は、使用される反応容器の容量の応じて6〜10tonが多用されている。本発明者らの検討によれば、上記中心部分の規定は6〜10ton重量のスポンジチタン塊に限定されるものではなく、それ以外、例えば、1Ton〜5Tonのスポンジチタン塊であっても、上記で特定する中心部分が適用できることを確認している。 【0029】 また、上記(1)の低酸素高純度チタン材の製造方法において、中心部分の温度を60℃以下と規定しているのは、スポンジチタンの熱伝導率を考慮した場合でも、または切断プレスの加工に伴って温度上昇がみられる場合でも、スポンジチタン中心部分の温度が100℃以下を満足することを意味する。 【0030】 【発明の実施の形態】 本発明では、反応容器内でスポンジチタンを冷却する場合、または反応容器から取り出してスポンジチタンを冷却する場合に拘わらず、反応容器から取り出したスポンジチタンの中心部分の切断、採取の際に、該当する中心部分の温度を低く制御することによって、その表面に膜厚の薄い酸化皮膜を形成するようにしている。採取されたスポンジチタンの表面に酸化皮膜の形成されると、その内部への酸素供給が困難になるため、その後の酸素含有量の上昇を抑制することができる。 【0031】 具体的な中心部分の温度としては、60℃以下になるまで冷却することとしている。通常、中心部分の温度制御は、真空分離終了後の冷却時間によって管理される。そのため、反応を終了したスポンジチタンを冷却し、上部からドリルで穿孔して中心部分に熱伝対を挿入したのち、真空分離を行う温度まで昇温する。そして、真空分離を行った後冷却し、冷却開始からの時間と中心部分の温度との関係が実測される。この実測結果に基づいて、真空分離後の冷却時間が管理される。 【0032】 さらに本発明では、不純物の濃度を一層低減するため、還元工程および真空分離工程で用いれる反応容器を、内側を炭素鋼とし外側をステンレス鋼として構成されるクラッド鋼製にするのが望ましい。内側の炭素鋼は溶融MgへのNi、Cr等の溶出を回避するために用いるものであるから、JISに規定する一般構造用圧延鋼材(SS330〜SS540)、ボイラ及び圧力容器用炭素鋼(SB410〜SB480)および圧力容器用鋼板(SPV315〜SPV490)等を採用すれば良い。一方、外側のステンレス鋼は高温強度を確保する観点からオーステナイト系が好ましく、JISに規定するステンレス鋼板であるSUS304、SUS304L、SUS310、SUS316、SUS316LおよびSUS321等が用いられる。 【0033】 スポンジチタン中心部分の整粒に関しては、可能であれば、切断プレスでの切断のみとし、ジョークラッシャーでの細粒化を省略することができる。目標とする粒径は10〜300mmであり、さらに好ましくは200〜300mmである。切断プレスのみでは、このような粒径が確保できない場合に、ジョークラッシャーを用いて細粒化すれば良い。極力、細粒化の工程を省略することによって、スポンジチタン中心部分の比表面積を小さくし、大気雰囲気からの酸素汚染を防止することができる。 【0034】 【実施例】 本発明の製造方法による効果を、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。クラッド鋼製反応容器(外側:SUS304Lステンレス鋼/内側:SS400炭素鋼)を用いクロール法によって製造された、真空分離後の重量が約6Tである円筒状スポンジチタン塊(寸法:高さH2000mm×直径D1500mm)を製造した。真空分離終了後からの冷却時間を管理して、スポンジチタン塊の中心部分が所定の温度になると、反応容器から取り出して直ちに中心部分を切断、採取した。 【0035】 中心部の採取に際して、スポンジチタン塊の底部から厚さが550mm(塊高さの28%)の部分と頂部から厚さが250mm(塊高さの13%)の部分とを切断除去し、さらに円筒状塊の円周部から厚さが350mm(塊直径の23%)の部分を切断除去して、塊重量の20%に相当する中心部分(高さ1200mm×直径800mm×重量1,200Kgに相当)を取り出し、切断プレスで粒径10〜300mmに切断して整粒した。 【0036】 実施例では、冷却時間と中心部の温度との関係を実測したデータから推定して、切断開始時のスポンジチタン中心部分の温度を40℃(室温)〜200℃の範囲で変化させた。中心部分を採取した後に、800〜2000Kgを採取して酸素含有量を測定し、その結果を表1に示す。なお、その他の不純物としては、Fe、Ni、Cr、Al、Siの含有量が10ppm以下、Na、Kの含有量が0.1ppm以下であることを確認している。 【0037】 ∴【表1】 【0038】 表1の結果から明らかなように、発明例(No.BおよびC)では反応容器からの取り出し時にスポンジチタン中心部の温度が60℃以下となっているため、含有される酸素濃度はいずれも200ppm以下であった。比較例のNo.Dは中心部の温度が100℃で管理したが、切断加工に伴って温度上昇があり、実質的に100℃を超え、酸素濃度は207ppmと増加が見られた。 【0039】 【発明の効果】 本発明の低酸素高純度チタン材の製造方法によれば、反応容器から取り出す段階における円筒状のスポンジチタンの中心部分の温度を制御することによって、スパッタリング用ターゲットの作製に適する、酸素濃度が200ppm以下の低酸素高純度チタンを製造することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 クロール法によるスポンジチタンの製造工程を還元〜真空分離〜破砕に沿って説明する図である。 【符号の説明】 1…還元炉、 2…ノズル、 3…反応容器 4…真空分離炉、 5…凝縮器 6…切断プレス |
訂正の要旨 |
(3)-1 訂正事項1 特許第3129709号発明の明細書(以下、明細書の訂正箇所は、本件特許公報の訂正個所をもって示す)の特許請求の範囲の請求項1〜5において、もとの請求項1および3を削除し、以下請求項を繰り上げて、下記の通り訂正する。 『 【請求項1】 クロール法によって製造されたスポンジチタンの底部から厚さが塊高さの25%以上の部分と頂部から厚さが塊高さの10%以上の部分とを切断除去し、かつ円筒状塊の円周部から厚さが塊直径の18%以上の円周部分を切断除去して、スポンジチタン塊重量の30%未満に相当する中心部分を採取して高純度チタン材を製造する方法であって、前記スポンジチタンの中心部分の温度が60℃以下になるまで冷却した後、スポンジチタンの中心部分を切断することを特徴とする酸素濃度が200ppm以下で、Fe、Ni、Cr、AlおよびSiを10ppm以下並びにNaおよびKを0.1ppm以下含有する高純度チタン材の製造方法。 【請求項2】 反応容器内でスポンジチタンの上記中心部分の温度が60℃以下になるまで冷却した後、反応容器から取り出してスポンジチタンの中心部を切断することを特徴とする請求項1に記載の高純度チタン材の製造方法。 【請求項3】 上記反応容器がクラッド鋼で構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高純度チタン材の製造方法。 (3)-2 訂正事項2 明細書(特許公報)の段落【0022】を下記の通り訂正する。 『上述したスポンジチタンの特性を考慮して、反応容器内のスポンジチタンの中心部分の温度が100℃以下、すなわち、切断プレスの加工を伴って温度上昇が見られる場合でも実質的に100℃以下になるまで冷却した後取り出すようにして、その後速やかに中心部分の採取を行うことによって、低酸素で、スパッタリング用ターゲットの作製に適する高純度チタンを製造できることを知見した。本発明は、このような知見に基づいて完成したものであり、下記(1)および(2)の低酸素高純度チタン材の製造方法を要旨としている。以下の説明において、低酸素とは酸素濃度が200ppm以下を意図しており、高純度とは不純物としてFe、Ni、Cr、Al、Siの含有量が10ppm以下、Na、Kの含有量が0.1ppm以下であることを意図する。』 (3)-3 訂正事項3 明細書(特許公報)の段落【0023】を下記の通り訂正する。 『(1)クロール法によって製造されたスポンジチタンの中心部分を採取して高純度チタン材を製造する方法であって、前記スポンジチタンの中心部分の温度が60℃以下になるまで冷却した後、スポンジチタンの中心部分を切断することを特徴とする低酸素高純度チタン材の製造方法である。』 (3)-4 訂正事項4 明細書(特許公報)の段落【0024】を下記の通り訂正する。 『上記のスポンジチタンの中心部分は、スポンジチタンの不純物分布を詳細に検討した結果得られたものであり、後述する規定による。』 (3)-5 訂正事項5 明細書(特許公報)の段落【0025】を下記の通り訂正する。 『(2)上記(1)と同様に、スポンジチタンの中心部分を採取して高純度チタン材を製造する方法であって、反応容器内でスポンジチタンの中心部分の温度が60℃以下の所定温度になるまで冷却した後、反応容器から取り出してスポンジチタンの中心部分を切断することを特徴とする低酸素高純度チタン材の製造方法である。』 (3)-6 訂正事項6 明細書(特許公報)の段落【0026】を下記の通り訂正する。 『上記(1)および(2)の低酸素高純度チタン材の製造方法において、Ni、Cr等の金属不純物の混入を防止するため、反応容器は内側が低炭素鋼、外側がステンレス鋼としてクラッド鋼で構成するのが望ましい。』 (3)-7 訂正事項7 明細書(特許公報)の段落【0029】を下記の通り訂正する。 『また、上記(1)の低酸素高純度チタン材の製造方法において、中心部分の温度を60℃以下と規定しているのは、スポンジチタンの熱伝導率を考慮した場合でも、または切断プレスの加工に伴って温度上昇がみられる場合でも、スポンジチタン中心部分の温度が100℃以下を満足することを意味する。』 (3)-8 訂正事項8 明細書(特許公報)の段落【0031】を下記の通り訂正する。 『具体的な中心部分の温度としては、60℃以下になるまで冷却することとしている。通常、中心部分の温度制御は、真空分離終了後の冷却時間によって管理される。そのため、反応を終了したスポンジチタンを冷却し、上部からドリルで穿孔して中心部分に熱伝対を挿入したのち、真空分離を行う温度まで昇温する。そして、真空分離を行った後冷却し、冷却開始からの時間と中心部分の温度との関係が実測される。この実測結果に基づいて、真空分離後の冷却時間が管理される。』 (3)-9 訂正事項9 明細書(特許公報)の段落【0037】に示す表1を訂正明細書の表1の通り訂正する。 (3)-10 訂正事項10 明細書(特許公報)の段落【0038】を下記の通り訂正する。 『表1の結果から明らかなように、発明例(No.BおよびC)では反応容器からの取り出し時にスポンジチタン中心部の温度が60℃以下となっているため、含有される酸素濃度はいずれも200ppm以下であった。比較例のNo.Dは中心部の温度が100℃で管理したが、切断加工に伴って温度上昇があり、実質的に100℃を超え、酸素濃度は207ppmと増加が見られた。』 |
異議決定日 | 2002-03-13 |
出願番号 | 特願平11-115085 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZA
(C22B)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 小柳 健悟 |
特許庁審判長 |
小野 秀幸 |
特許庁審判官 |
酒井 美知子 柿沢 恵子 |
登録日 | 2000-11-17 |
登録番号 | 特許第3129709号(P3129709) |
権利者 | 株式会社住友シチックス尼崎 |
発明の名称 | 低酸素高純度チタン材の製造方法 |
代理人 | 穂上 照忠 |
代理人 | 穂上 照忠 |
代理人 | 森 道雄 |
代理人 | 森 道雄 |
代理人 | 秋山 敦 |