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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C04B
管理番号 1061186
異議申立番号 異議2001-70973  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-06-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-30 
確定日 2002-04-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3093897号「高純度アルミナセラミックス及びその製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3093897号の訂正後の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3093897号の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成4年11月13日に特許出願されたものであって、平成12年7月28日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、下田ますみ(以下、申立人Aという)、森田昭司(以下、申立人Bという)、寺尾幸代(以下、申立人Cという)、京セラ株式会社(以下、申立人Dという)、伊藤公也(以下、申立人Eという)より各別に特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成13年9月6日付けで訂正請求がなされ、その後訂正拒絶理由通知され、その指定期間内の平成14年1月28日付けで意見書が提出され、その後再度取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成14年3月4日に上記平成13年9月6日付け訂正請求が取り下げられ、同日付けで新たな訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
請求項1および2の「高純度アルミナセラミックス」(本件特許掲載公報第1頁第1欄第4、10行)の前に、「半導体製造装置用」を挿入する。
(2)訂正事項b
発明の名称の「高純度アルミナセラミックス」の前に、「半導体製造装置用」を挿入する。
(3)訂正事項c
明細書第1頁第15行(本件特許掲載公報第1頁第1欄第14、15行)、同第3頁第16行(同第2頁第4欄第6行)、同第3頁第21行(同第2頁第4欄第12行)、同第3頁第27行(同第2頁第4欄第18行)、同第13頁第6行(同第6頁第11欄第35行)の「高純度アルミナセラミックス」の前に、「半導体製造装置用」を挿入する。
(4)訂正事項d
請求項1の「50ppm以下である」を、「50ppm以下であり、比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下である」と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書第3頁第21行(本件特許掲載公報第2頁第4欄第11行)の「50ppm以下である」を、「50ppm以下であり、比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下である」と訂正する。
(6)訂正事項f
請求項2の「アルミナセラミックス」の前に、「請求項1記載の半導体製造装置用高純度」を挿入する。
(7)訂正事項g
明細書第3頁第24行(本件特許掲載公報第2頁第4欄第13行)の「アルミナセラミックス」の前に、「請求項1記載の半導体製造装置用高純度」を挿入する。
(8)訂正事項h
明細書第10頁第5行(本件特許公掲載報第5頁左欄第2行)の「真比重」の前に、「比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下であり、」を挿入する。
(9)訂正事項i
明細書第7頁第19行(本件特許掲載公報第3頁第6欄第46行)の「アルカリ金属塩を」の後に、「、それらの酸化物が焼結体において、」を挿入する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
上記訂正事項aは、請求項1および2の「アルミナセラミックス」を「半導体製造装置用」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。また、明細書中に「特に半導体製造装置の部材用に好適な高純度アルミナセラミックス」(本件特許掲載公報第1頁第2欄第2、3行)と記載されているから、上記訂正事項aは願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また上記訂正事項b、cは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項aの訂正に伴い訂正後の特許請求の範囲の記載と発明の名称および明細書の記載を整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を行うことを目的とする訂正に該当するものであり、しかも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項dは、請求項2のアルミナセラミックスの比重と平均結晶粒子径を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。また、明細書第4頁表1の実施例における比重3.99、結晶径35、27μmの記載や、明細書中の「異常粒子成長を抑制することができる」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第26、27行)の記載からみて、上記訂正事項dは願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また上記訂正事項e、hは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項dの訂正に伴い訂正後の特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を行うことを目的とする訂正に該当するものであり、しかも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項fは、請求項2の「アルミナセラミックス」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。また、上記訂正事項aについて述べた理由と同じ理由で、上記訂正事項fは願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また上記訂正事項gは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項fの訂正に伴い訂正後の特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を行うことを目的とする訂正に該当するものであり、しかも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また上記訂正事項iは、明細書中の「表1に示した含有量になるように」(本件特許掲載公報第第3頁第6欄第46行)の記載の「含有量」を焼結体における含有量であることを明りょうにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を行うことを目的とする訂正に該当するものであり、しかも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、本件訂正を認める。
3.本件訂正発明
特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、認容することができるから、訂正後の本件請求項1、2に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのものである(以下、それぞれ本件訂正発明1、2という)。
「【請求項1】マグネシア含有量が100ppm以下で、且つ、アルカリ金属酸化物含有量が50ppm以下であり、比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下であることを特徴とする半導体製造装置用高純度アルミナセラミツクス。
【請求項2】請求項1記載の半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスの製造において、焼成体中のアルカリ金属酸化物含有量を50ppm以下、且つ、マグネシア含有量を100ppm以下となるように、原料粉末調整工程、成形工程、焼成工程及び加工工程の各工程でアルカリ金属の混入を抑制、制御することを特徴とする半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスの製造方法。」
4.特許異議申立てについて
4-1.申立人Aの申立ての理由の概要
申立人Aは、証拠方法として甲第1号証を提出し、(i)請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号、第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである旨、(ii)請求項1、2は記載不備であるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第36条第5項乃至第6項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである旨主張している。
4-2.申立人Bの申立ての理由の概要
申立人Bは、証拠方法として甲第1〜8号証を提出し、(i)請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また甲第2号証に記載された発明であるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである旨、(ii)請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである旨、(iii)請求項1、2に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである旨、(iv)本件明細書は記載不備であるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第36条第4項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである旨主張している。
4-3.申立人Cの申立ての理由の概要
申立人Cは、証拠方法として甲第1〜5号証を提出し、(i)請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また甲第2号証に記載された発明であるから、請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである旨、(ii)請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号、第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである旨主張している。
4-4.申立人Dの申立ての理由の概要
申立人Dは、証拠方法として甲第1、2号証を提出し、(i)請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また甲第2号証に記載された発明であるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである旨、(ii)本件明細書は記載不備であるから、請求項1、2に係る発明の特許は特許法第36条第4項乃至第6項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである旨主張している。
4-5.申立人Eの申立ての理由の概要
申立人Eは、証拠方法として甲第1〜8号証を提出し、(i)請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また甲第2号証に記載された発明であるから、請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである旨、(ii)請求項2に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである旨主張している。
4-6.申立人Aの上記4-1.の主張について
4-6-1.甲号各証の記載内容
(1)甲第1号証:特開昭62-187157号公報
(a)「アルミナ含有率99.9重量%以上、アルミナ結晶の平均粒子径2.5μm以下、相対密度98%以上の焼結体からなることを特徴とするアルミナ製粉砕機用部材。」(請求項1)
(b)「本発明は粉砕機用部材に関し、更に詳しくは乾式又は湿式の粉砕機における粉砕媒体、内張材等の部材に関する。」(第1頁左欄第13〜15行)
(c)「上記製造方法においては、成形助剤、水等の種類や、品質の選定、また、粉砕工程、焼成道具等の選定を適宜行うことにより、焼成などにより飛散除去できない成分の混入をできるだけ防ぎ、アルミナ含有量を所定範囲内とすることが必要である。」(第3頁右下欄第10〜15行)
(d)第4頁右下欄第1表の試料番号4に、「Al2O3 99.99、MgO 0.0004、Na2O 0.0004、K2O 0.0003」の焼結体の化学組成が示されている。
4-6-2.上記4-1.(i)の主張について
(1)本件訂正発明1について
甲第1号証の上記(1)(a)、(d)から「アルミナ含有率99.9重量%以上、MgO 4ppm、Na2O 4ppm、K2O 3ppm、アルミナ結晶の平均粒子径2.5μm以下の焼結体からなる粉砕機用部材用アルミナ。」という発明(以下、甲1A発明という)が記載されていると云える。
次に、本件訂正発明1と甲1A発明とを対比すると、両者は次の点で相違している。
(イ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスが半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスであるのに対して、甲1A発明では、粉砕機用部材用アルミナである点
(ロ)本件訂正発明1では、比重が3.99であるのに対して、甲1A発明ではその点が不明である点
そこで、特に相違点(イ)について検討すると、上記(1)(b)から粉砕機用部材とは粉砕媒体、内張材等を指すものであり、甲第1号証には半導体製造装置については何も示唆されていない。
そして、本件訂正発明1は「アルミナセラミックス中のアルカリ金属酸化物を50ppm以下にすることにより、従来、異常粒子成長抑制のため数100〜数1000ppmの添加が一般的とされたマグネシアの含有量を100ppm以下にすることが可能となると同時に、マグネシア添加量が少量でも異常粒子成長を抑制することができる。」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第21〜27行)という知見から、「本発明の高純度アルミナセラミックスは、アルカリ金属成分及びマグネシア含有量が所定量以下で極めて少量であり、半導体製造用の部材材料としてシリコン半導体を汚染するおそれが極めて少なく、特にフッ素系ガスが接触する部位に有効であり、工業上有用である。」(本件特許掲載公報第6頁第11欄第35行〜第12欄第5行)という効果を奏する。
したがって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできず、また甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用した本件訂正発明1の半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスの製造方法であるから、上記(1)と同じ理由で甲第1号証に記載された発明であるとすることはできず、また甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
4-6-3.上記4-1.(ii)の主張について
申立人Aは、記載不備について具体的には次の点を主張しているので検討する。
(イ)「〜以下」のような下限だけを示す数値範囲は発明の範囲が不明確となる。
(ロ)「高純度」は比較の基準が不明確な表現である。
そこで(イ)について検討すると、本件特許の実施例においてアルカリ金属含有量等の具体的数値も示されているので、発明の範囲が不明確であるとまでは云えない。
次に(ロ)について検討すると、本件特許明細書に「半導体製造装置部材として用いて汚染物を放出することがなく汚染源を形成することのないように、不純物含有量が極めて低減された高純度セラミックス」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第4〜6行)と記載されており、「高純度」が「汚染物を放出することがなく汚染源を形成することのないように、不純物含有量が極めて低減された」という定義がされているのであるから、申立人Aの主張は採用することができない。
4-7.申立人Bの上記4-2.の主張について
4-7-1.甲号各証の記載内容
(1)甲第1号証:特開平1-213910号公報
(a)「不純物の含有量が元素基準のppm単位でSi80以下、Mg60以下でSi/Mg比が1〜5、かつ他の金属、アルカリ成分等が一元素60以下、総量70以下であることを特徴とするtanδが10-5レベルで10以下の高低波低損失性のアルミナ磁器組成物。」(請求項1)
(b)「本発明は通信機用のMIC基板、MICパッケージ、マイクロ波コンデンサ、更には高エネルギー粒子加速装置のマイクロ波透過窓等に適した高周波低損失性のアルミナ磁器組成物に関する。」(第1頁左欄第13〜17行)
(c)「平均粒径0.25μで、不純物として元素基準のppm単位で・・・純度99.999%と称される市販のAl2O3・・・不純物が次表に示す含有量となるよう、所定の化合物・・・添加した粉末原料を純水・・・混合を行った。・・・この製粒した粉末を・・・成形、焼成した後、・・・研磨加工した・・・」(第2頁左上欄第4行〜右上欄第15行)
(d)第2頁第1表、第3頁第2表、第4頁第3表の焼成した試料の比重は、3.93〜3.95を示している。
(2)甲第2号証:特開昭60-16861号公報
(a)「・・・内容積2000mlのポリエチレンのボールミルと純度99.995%のアルミナ球石によって15時間混合・・・」(第2頁左上欄第12〜14行)
(3)甲第3号証:特開平4-210484号公報
(a)「この発明による反応性ドライエッチング装置は、プラズマ生成部の容器をアルミナ(Al2O3)で形成したので、容器が混合ガス成分中のふっ素の活性子等と反応することがなく、従来のような容器自体のエッチングは回避される。また容器中のアルミナの含有率を99.98%以上とすれば、誘導損が少なくなり高信頼性で長寿命なプラズマ生成部を備えた反応性ドライエッチング装置が実現できる。」(第2頁第1欄第49行〜第2欄第6行)
(4)甲第4号証:特開昭53-112912号公報
(a)「ほぼ均一なサイズに等しくされたアルミナ粒からなる多結晶アルミナの焼結体において、この焼結体が150ppm以下のマクグシウムを含み、かつ微孔ならびに副次的な相がなく、上記焼結体は改善された光の透過、とくに改善された直線透過をしめす多結晶アルミナの焼結体。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「本発明は、一般に、高密度の多結晶アルミナの透明体、改善された光り全透過と同じく直線(in-line)透過を発揮する透明体に係る。管状形の光学的に改善された物質は、高輝度の電気放電ランプに、光り透過包体として使用されるとき、従来の多結晶アルミナ物質で一般的に得られるよりも高い光り出力を提供する。この改善は、個々のアルミナ粒のサイズならびに形状を均一化すると共に、上記物質の粒境界に微孔ならびに、あらゆる副次的な相を無くすことにある。」(第2頁右上欄第2〜12行)
(c)「本発明の開始物質は、99.99パーセントの純度のアルミナで、このアルミナは、ナトリウムならびにイオンのような、あらゆる粒径成長を促進する不純物がない。」(第4頁右下欄第10〜14行)
(d)「上記第1項における多結晶アルミナの焼結体は、平均の粒径サイズが約26ミクロンの直径であること。」(第6頁右上欄第8〜10行)
(5)甲第5号証:「HIGH-PURITY ALUMINA」住友化学工業株式会社のカタログ(末頁右下にPrinted in Japan 1986-6-2000の記載有り)
(a)第1頁に、精製粉末AKP-20が、純度99.99%up、粒径0.4-0.6μ、Na(ppm)10、Mg(ppm)10で、主用途に高強度アルミナセラミックがあることが記載され、第2頁に特徴として「低い焼結温度(約1,550℃)で高い焼結密度が得られる。」ことが記載され、右下図で焼結密度が焼結温度1500℃位から4.0位であることが示され、第3頁に主用途として高純度、高強度セラミックの製造として「例えば 切削工具、糸道、電子工業用基板類、ルツボ、熱電対用保護管」が記載されている。
(6)甲第6号証:「昭和58年2月17日および18日、大阪科学技術センター8階中ホールで開かれた『高強度高靭性セラミック材料の基礎と応用に関する講習会』において配布された文書」第138〜139頁
(a)「熱間静水圧プレス(H.I.P)が実用化され,比較的低コストで,ほぼ100%の密度をもった微粒,高密度な焼結体が得られる様になったことである。図2に一例として住友電工製Al2O3系工具材料の組織写真を示し,表1には材質特性値を表2には製造工程を示す。住友電工製Al2O3系工具材料は,微細で均一な結晶粒子で構成された高密度多結晶アルミナ質材料である。」(第138頁第1行〜第139頁第2行)
(b)第138頁、表1(住友電工セラミック工具の特性値)には、W80が組成Al2O3、密度が3.96〜3.99であることが記載されている。
(7)甲第7号証:水谷惟恭他著「セラミックプロセシング」技報堂出版株式会社 第1〜9頁、(1987年4月20日)
(a)「不純物の除去は製品になってからはもちろんのこと,製造工程中でも困難である。対策としては,原料あるいは製造工程において不純物の混入を極力避けることである。図-1.3に,製造工程中で予想される不純物の混入とその対策を示した。」(第6頁最終行〜第7頁第2行)
(8)甲第8号証:齋藤勝義著「ファインセラミックスの成形と有機材料」株式会社シーエムシー 第148〜155頁 (1985年8月26日)
(a)第155頁表9・2には、アクリル系バインダーの特性が記載されている。
4-7-2.上記4-2.(i)(ii)の主張について
(あ)甲第1号証を主引用例とする対比・判断
(1)本件訂正発明1について
甲第1号証の(1)(a)には「Mg60ppm以下、アルカリ成分等が総量70ppm以下、比重3.93〜3.95である高周波低損失性のアルミナ磁器組成物。」という発明(以下、甲1B発明という)が記載されていると云える。
次に本件訂正発明1と甲1B発明とを対比すると、両者は次の点で相違している。
(イ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスが半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスであるのに対して、甲1B発明では高周波低損失性のアルミナ磁器組成物である点
(ロ)本件訂正発明1では、比重が3.99であるのに対して、甲1B発明では3.93〜3.95である点
(ハ)本件訂正発明1では、平均結晶粒径が35μm以下であるのに対して、甲1B発明ではその点が不明である点
そこで、特に相違点(イ)について検討すると、上記(1)(b)から甲第1号証のアルミナ磁器組成物とは通信機用のMIC基板、MICパッケージ、マイクロ波コンデンサ、高エネルギー粒子加速装置のマイクロ波透過窓を指すものであり、甲第1号証には半導体製造装置については何も示唆されていない。
次に甲第2〜8号証についても検討する。甲第2、3号証については下記(い)と4-7-3.で述べる。
甲第4号証には、透明体の多結晶アルミナを電気放電ランプに使用することについては記載されているが、該アルミナを半導体製造装置に使用することは何も示唆されていない。
次に甲第5号証には、高純度、高強度セラミックを切削工具、糸道、電子工業用基板類、ルツボ、熱電対用保護管に使用することは記載されているが、該セラミックを半導体製造装置に使用することは何も示唆されていない。
次に甲第6号証には、高密度多結晶アルミナ質材料からなる工具材料は記載されているが、該アルミナ質材料を半導体製造装置に使用することについては何も示唆されていない。
次に、甲第7号証には製造工程で不純物の混入を避けること、甲第8号証にはアクリル系バインダーについて記載されているだけである。
そして、本件訂正発明1は上記4-6-2.(1)で述べた効果を奏する。
したがって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明とすることはできず、また甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用した本件訂正発明1の半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスの製造方法であるから、上記(1)と同じ理由で甲第1号証に記載された発明とすることはできず、また甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
(い)甲第2号証を主引用例とする対比・判断
(1)本件訂正発明1について
甲第2号証には「ボールミルに使用する純度99.999%と称される市販のアルミナ球石」という発明(以下、甲2B発明という)が記載されていると云える。
次に本件訂正発明1と甲2B発明とを対比すると、両者は次の点で相違している。
(イ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスが半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスであるのに対して、甲2B発明ではボールミル用球石である点
(ロ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスがマグネシア含有量が100ppm以下で、且つ、アルカリ金属酸化物含有量が50ppm以下であり、比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下であるのに対して、甲2B発明では不純物が0.001%である点
そこで、特に相違点(イ)について検討すると、甲第2号証には半導体製造装置については何も示唆されていない。
なお甲第1、4〜8号証については上記(あ)で述べたとおりであり、甲第3号証については下記4-7-3.で述べる。
そして、本件訂正発明1は上記4-6-2.(1)で述べた効果を奏する。
したがって、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとすることはできず、また甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用した本件訂正発明1の半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスの製造方法であるから、上記(1)と同じ理由で甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
4-7-3.上記4-2.(iii)の主張について
甲第3号証の上記(3)(a)から「アルミナの含有率99.98%以上の反応性ドライエッチング装置用アルミナ。」という発明(以下、甲3B発明という)が記載されていると云える。
次に本件訂正発明1と甲3B発明とを対比すると、両者は次の点で相違している。
(イ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスが半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスであるのに対して、甲3B発明では反応性ドライエッチング装置用アルミナである点
(ロ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスがマグネシア含有量が100ppm以下で、且つ、アルカリ金属酸化物含有量が50ppm以下であり、比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下であるのに対して、甲3B発明では不純物が0.02%以下である点
そこで検討すると、甲第3号証には、不純物が0.02%以下である高純度アルミナセラミックスを反応性ドライエッチング装置に使用することは記載されているが、「マグネシア含有量が100ppm以下で、且つ、アルカリ金属酸化物含有量が50ppm以下であり、比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下である」という特定の高純度アルミナセラミックスを半導体製造装置に使用することは何も示唆されておらず、また、上記4-6-3.(ロ)で述べた「汚染物を放出することがなく汚染源を形成することのないように、不純物含有量が極めて低減された」高純度セラミックスを半導体製造装置に使用することも何も示唆されていない。
なお甲第1、2、4〜8号証については上記4-7-2.(あ)(い)で述べたとおりである。
そして、本件訂正発明1は上記4-6-2.(1)で述べた効果を奏する。
したがって、本件訂正発明1は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用した本件訂正発明1の半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスの製造方法であるから、上記(1)と同じ理由で甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
4-7-4.上記4-2.(iv)の主張について
申立人Bは、記載不備について具体的には次の点を主張しているので検討する。
「『焼成体加工工程』でアルカリ金属の混入をいかに抑制、制御するか記載がない。」
そこで検討すると、本件特許明細書には「焼成工程 次いで、アルミナセラミックス中のアルカリ金属不純物混入は、焼成工程からの汚染である。・・・特に断熱材の純度と蒸発特性が問題となり、厳格に管理されねばならない。・・・炉材として高純度アルミナ断熱材の使用が望ましく・・・」(本件特許掲載公報第3頁第6欄段落【0014】)と記載されており、焼成加工工程でのアルカリ金属の混入抑制について言及されているから、申立人Bの主張は採用することができない。
4-8.申立人Cの上記4-3.の主張について
4-8-1.甲号各証の記載内容
(1)甲第1号証:「平成2年11月15〜16日、第10回高温材料基礎討論会 講演要旨集」第68〜72頁
(a)「本報では各種の製法による高純度アルミナ粉末より作製した焼結体の高温特性について検討したので報告する。」(第68頁緒言)
(b)第70頁Table1、2には、サンプルBについて、密度(g/cm3)が3.96、Al2O3 99.99、MgO N.D.、Na2O N.D.、K2O N.D.であることや、サンプルEについて、密度(g/cm3)が3.96、Al2O3 99.99、MgO(ppm) 6 、Na2O(ppm) 13、K2O(ppm) 2であることが記載されている。
(2)甲第2号証:特開平2-243561号公報
(a)「酸化アルミニウムの含有量が99.9重量%以上であり残部がMg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La及びCeから選択される一種以上の酸化物及び不可避不純物からなり多結晶焼結体からなることを特徴とする生体用多結晶アルミナセラミックス。」(請求項1)
(b)「本発明は、人工骨、人工関節、人工歯根等として人体に直接、埋入、又は接触させて使用し生体機能の回復及び増強を図るアルミナセラミックスを提供することを目的とする。」(第1頁左欄第14〜18行)
(c)第3頁表のNo.15の欄には、焼結体の化学組成がAl2O3 99.99、MgO(重量%) 0.008、NaO(重量%) 0.0004であり、焼結体密度(g/cm3)が3.96であることが記載されている。
(3)甲第3号証:「粉体および粉末冶金」第39巻第1号 第39〜43頁 (平成4年1月15日)
(a)第40頁Table1には、使用されたアルミナ粉末が、99.99%で、不純物が、3ppmのNa、2ppmのK、1ppmのMgを含有することが記載されている。
(4)甲第4号証:特開平2-255563号公報
(a)「アルミナ99.7〜99.99%(重量)の実質的純アルミナからなる工具用アルミナ焼結体であって・・・」(請求項1)
(b)「本発明においては特にアルミナの異常粒成長を誘発し易いNa.Ca.Si.Ti.Feなどの不純物の侵入を防ぐため徹底した工程のクリーン化で対処した。また焼結具の強度向上のためには結晶粒度の微細化は重要な要因であるが、よく知られているアルミナ粒成長抑制剤としてMgOを微量添加した。」(第2頁右下欄第14〜20行)
(c)第3頁第1表には、密度が3.98g/cm3であることが記載されている。
(5)甲第5号証:特開平5-58757号公報(公開日 平成5年3月9日)(本公開公報は本件出願前頒布された文献でない。)
(a)「高純度アルミナ80〜90wt%に対して単斜晶ジルコニア20〜10wt%の割合で配合し・・・」(請求項1)
4-8-2.上記4-3.(i)の主張について
(あ)甲第1号証を主引用例とする対比・判断
甲第1号証の(1)(a)、(b)から「Al2O3 99.99、MgO N.D.、Na2O N.D.、K2O N.D.であり、密度(g/cm3)が3.96の高純度アルミナ粉末より作製した焼結体。」という発明(以下、甲1C発明という)が記載されていると云える。
次に本件訂正発明1と甲1C発明とを対比すると、両者は次の点で相違している。
(イ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスが半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスであるのに対して、甲1C発明ではその点が不明である点
(ロ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスが比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下であるのに対して、甲1C発明では密度3.96である点
そして、本件訂正発明1は上記4-6-2.(1)で述べた効果を奏する。
したがって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
(い)甲第2号証を主引用例とする対比・判断
甲第2号証の(2)(a)、(c)から「酸化アルミニウムの含有量が99.99重量%、MgO 8ppm、Na2O 4ppmからなる多結晶焼結体からなる生体用多結晶アルミナセラミックス。」という発明(以下、甲2C発明という)が記載されていると云える。
次に本件訂正発明1と甲2C発明とを対比すると、両者は次の点で相違している。
(イ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスが半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスであるのに対して、甲2C発明では多結晶焼結体が生体用多結晶アルミナセラミックスである点
(ロ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスが比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下であるのに対して、甲2C発明では密度3.96である点
そして、本件訂正発明1は上記4-6-2.(1)で述べた効果を奏する。
したがって、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとすることはできない。
次に甲第3、4号証には、それぞれアルミナ粉末、工具用アルミナ焼結体については記載されているが、特定の高純度セラミックスを半導体製造装置に使用することは何も示唆されていない。
次に甲第5号証は本件出願前に頒布された文献ではない。
したがって、本件訂正発明1は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
4-8-3.上記4-3.(ii)の主張について
本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用した本件訂正発明1の半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスの製造方法であるから、上記4-8-2.(あ)と同じ理由で甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
また本件訂正発明2は上記4-8-2.(い)と同じ理由で甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
4-9.申立人Dの上記4-4.の主張について
4-9-1.甲号各証の記載内容
(1)甲第1号証:特開昭62一187157号公報
申立人Aの甲第1号証と同じ。
(2)甲第2号証:「Materials Transactions,JIM」Vol.32,No.11(1991)第1024〜1029頁
(a)「光の散乱を生じる粒界層を減少させるために、粒径を20〜30μmと大きくしていた。しかし、この透光性アルミナセラミックスは粒径が大きいために機械的特性が悪いものである。筆者は、成形後、比較的低温で焼成したアルミナ焼結体にHIP処理を施すことによって、平均粒径を1μm以下に抑え、高い機械的特性を有するとともに透光性に優れた透光性アルミナセラミックスを製造することに成功した。」(第1024頁左欄第10〜21行、訳文、以下同じ)
(b)「4N(99.99%)のα-アルミナ粉」(第1024頁右欄第1行)
(c)「図5には試料A,F について、破面のSEM写真((a)及び(c))と、不純物元素の濃度と破面からの深さ方向への距離との関係((b)及び(d))を示す」(第1027頁左欄最終行〜右欄第4行)
(d)第1027頁の図 5(b)(d)には、不純物元素としてMg,Na,Kがそれぞれ数ppm程度の含有量であることが示されている。
4-9-2.上記4-4.(i)の主張について
(あ)甲第1号証を主引用例とする対比・判断
本件訂正発明1と甲第1号証に記載された発明との対比・判断は、上記4-6-2.(1)で述べたとおりである。
なお、申立人Dは参考資料(特開平3-232226号公報)を提出して、高純度アルミナセラミックスを半導体製造装置の用途に使用することは周知である旨主張しているが、参考資料には「絶縁リングにはより高抵抗である1012〜1014Ω・cmの高純度アルミナ等の材料を使用する。」と記載されているだけであって、高純度アルミナの化学組成、平均結晶粒径については何も示唆されていない。したがって、申立人Dの主張は採用することができない。
(い)甲第2号証を主引用例とする対比・判断
甲第2号証の(2)(c)、(d)から「4N(99.99%)のα-アルミナ粉を原料とし、不純物元素としてMg,Na,Kがそれぞれ数ppm程度の含有量であり、平均粒径を1μm以下に抑え、高い機械的特性を有するとともに透光性に優れた透光性アルミナセラミックス。」という発明(以下、甲2D発明という)が記載されていると云える。
次に本件訂正発明1と甲2D発明とを対比すると、両者は次の点で相違している。
(イ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスが半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスであるのに対して、甲2D発明ではその点が不明である点
(ロ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスが比重3.99であるのに対して、甲2D発明ではその点が不明である点
そして、本件訂正発明1は上記4-6-2.(1)で述べた効果を奏する。
したがって、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとすることはできない。
4-9-3.上記4-4.(ii)の主張について
申立人Dは、記載不備について具体的には次の点を主張しているので検討する。
(イ)本件明細書の記載では出発原料で成分含有量を規定しているのに対し、請求項では焼結体の成分含有量を規定している、(ロ)「高純度」の定義が不明である。
そこで(イ)について検討すると、上記2-1.(9)の訂正事項iで訂正された結果、記載不備は解消された。次に(ロ)については上記4-6-3.で述べたとおりであるから、申立人Dの主張は採用することができない。
4-10.申立人Eの上記4-5.の主張について
4-10-1.甲号各証の記載内容
(1)甲第1号証:「ファインセラミックスカタログ集1987」社団法人日本ファインセラミックス協会 第156頁(昭和61年12月1日)
(a)第156頁に、昭和電工株式会社の高純度アルミナ焼結体(ショウセラムUA)のカタログが示されており、その化学成分として、Al2O3 99.98%、Na2O 20ppm、MgO 60ppmが記載されている。また、密度が3.98g/cm3であることが示されている。また、用途として高温炉用窓、軸受,糸道,ノズル、光消去型メモリーの窓、透明ルツボ、電子部品用基板が挙げられている。
(2)甲第2号証:申立人Cの甲第1号証と同じ。
(3)甲第3号証:「FC REPORT」Vol.7,No.3(平成1年3月15日)
(a)京セラ株式会社の広告欄には、半導体製造関連部品の新材料として高純度アルミナ(99.99%)他が記載されている。
(4)甲第4号証:特開昭63-312642号公報
(a)「エッチング室内に半導体ウエハを導入して該半導体ウエハのプラズマエッチングを行うプラズマエッチング装置において、前記エッチング室の内壁の材料として高純度のアルミナを用いたことを特徴とするプラズマエッチング装置。」(請求項1)
(5)甲第5号証:「実用ドライエッチング技術」株式会社リアライズ社 第114、115、119〜121頁 (平成4年7月7日)
(a)「コンタミネーション損傷 リアク夕を構成している材料や導入ガス中に重金属(Cr,Fe,NI等)が含まれていると、エッチング中にイオン衝撃によってそれがウエハに打ち込まれ、デバイス特性を劣化させる。アルカリ金属(Na,K等)も同様である。したがって、リアク夕内とガス導入ラインからの不純物の混入を可能な限り低く押さえる必要がある。」(第115頁)
(6)甲第6号証:特開昭59-78529号公報
(a)「Fe,Ni及びCrの重金属元素の総含有率が100ppm以下、アルカリ金属元素の総含有率が10ppm以下の半導体製造用炭化珪素質材料。」(特許請求の範囲第1項)
(7)甲第7号証:申立人Bの甲第4号証と同じ。
(8)甲第8号証:「J.Appl.Phys」68(10) 第5329〜5336頁 (1990年11月15日)
(a)「フルオロカーボンプラズマ中でのAl2O3のエッチング特性を明らかにしながら、上述した全ての実験結果を要約しよう。エッチング時の生成物AlFxは室温では蒸発しないけれども、フッ素は明らかにエッチングを増加する。炭素は、容易に脱着されるCO分子を形成することによりエッチングに貢献するが、それま表面で起こっている支配的な反応ではない。イオンエネルギーが非常に低い場合はどのようなエッチング反応も起こらない。正確な依存関係は明らかでないが、エッチング速度はイオンエネルギーに比例する。そのことは衝突イオンが、エッチング反応をひきおこさせるためにあるポテンシャルバリアを超えるためのエネルギーを与えなければならないということを暗示している。全てのこれらの事実は、化学的なスパッタリングがフッ素の化学吸着によって故質されたAl2O3表面で生じていることを示している。Al2O3の化学スパッタリングは、SiF4が一度生成されても活性あるイオン衝撃なしで容易に表面から脱着できるSiO2の場合とは異なる。Al2O3では、フッ素はAlと相互反応してAlFx分子を形成し、そしてエッチング生成物は、物理的なスパッタリングの場合と同様に、直接的な運動量移動により活性イオンによって除去される必要がある。もし、イオンの投入エネルギーがあまりに低くて化学吸着した分子に十分な運動量を伝達できないと、Al2O3はフッ素ラジカルによってエッチングされない。このことは、なぜイオン衝撃が酸化アルミナ膜をエッチングするために必要不可欠であるかを説明している。」(第5332頁左欄下から第9行〜右欄第16行、訳文)
4-10-2.上記4-5.(i)の主張について
(1)本件訂正発明1について
甲第1号証の(1)(a)から「Al2O3 99.98%、Na2O 20ppm、MgO 60ppm、密度が3.98g/cm3である高温炉用窓、軸受,糸道,ノズル、光消去型メモリーの窓、透明ルツボ、電子部品用基板用高純度アルミナ焼結体。」という発明(以下、甲1E発明という)が記載されていると云える。
次に本件訂正発明1と甲1E発明とを対比すると、両者は次の点で相違している。
(イ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスが半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスであるのに対して、甲1E発明では、高温炉用窓、軸受,糸道,ノズル、光消去型メモリーの窓、透明ルツボ、電子部品用基板用高純度アルミナ焼結体である点
(ロ)本件訂正発明1では、高純度アルミナセラミックスが比重3.99であるのに対して、甲1E発明では3.98である点
また、本件訂正発明1と甲第2号証に記載された発明との対比については上記4-8-2.(あ)で述べたとおりである。
そこで、検討すると、甲第3号証には、半導体製造関連部品の材料用高純度アルミナ(99.99%)は記載されているが、該高純度アルミナが、マグネシア含有量が100ppm以下で、且つ、アルカリ金属酸化物含有量が50ppm以下であり、比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下であるという特定の化学組成、比重、平均結晶粒径をもつ高純度アルミナセラミックスであるということについては何も示唆もされていない。
次に甲第4号証には、高純度アルミナを半導体ウエハのプラズマエッチング装置の材料として使用することは記載されているが、該高純度アルミナの化学組成、比重、平均結晶粒径については何も示唆されていない。
次に甲第5号証には、ウエハがアルカリ金属によって損傷することは記載されているが、特定の高純度アルミナセラミックスを半導体製造装置に使用することは何も示唆されていない。
次に甲第6号証は炭化珪素質材料について記載されているにすぎない。
次に甲第7号証については、上記4-7-2.(あ)で述べたとおりである。
次に甲第8号証はフルオロカーボン中でのAl2O3のエッチング特性について述べているにすぎない。
そして、本件訂正発明1は上記4-6-2.(1)で述べた効果を奏する。
したがって、本件訂正発明1は、甲第1、2号証に記載された発明であるとすることはできず、また甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
4-10-3.上記4-5.(ii)の主張について
本件訂正発明2は本件訂正発明1を引用した本件訂正発明1の半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスの製造方法であるから、上記(1)と同じ理由で甲第1〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
5.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1、2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1、2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正後の本件請求項1、2に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
半導体製造装置用高純度アルミナセラミックス及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 マグネシア含有量が100ppm以下で、且つ、アルカリ金属酸化物含有量が50ppm以下であり、比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下であることを特徴とする半導体製造装置用高純度アルミナセラミックス。
【請求項2】 請求項1記載の半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスの製造において、焼成体中のアルカリ金属酸化物含有量を50ppm以下、且つ、マグネシア含有量を100ppm以下となるように、原料粉末調整工程、成形工程、焼成工程及び加工工程の各工程でアルカリ金属の混入を抑制、制御することを特徴とする半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスとその製造方法に関し、更に詳しくは、半導体製造工程において汚染源となるアルカリ金属酸化物の含有量を抑制し、特に半導体製造装置の部材用に好適な高純度アルミナセラミックスとその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種セラミック部材において、アルミナセラミックスは最も多用されている材料であり、従来、その機械的高強度や、電気的絶縁性、耐熱性、耐薬品性等の特性を利用するものであるが、特に、その含有不純物を厳しく管理して使用している場合もある。
例えば、セラミックスのパッケージ用として用いられるアルミナセラミックスは、本来、主機能は電気絶縁性にあった。しかし、アルミナセラミックス中に僅かに含まれるトリウムやウラン等放射性元素から放射されるアルファ線が問題となり、放射性元素の含有量が厳しく管理されるようになった。
また、高圧ナトリウムランプの発光管等に用いられている透光性アルミナセラミックスにおいては、セラミックス中に含まれる鉄等の遷移金属元素が光を吸収することから、セラミックス中の遷移金属等の不純物について厳しい注意が払われるようになっている。
しかし、上記の例は例外的であって、一般的に、アルミナセラミックスに要求される主機能は、構造体部材としての耐熱性や機械的特性等に偏重されており、その純度について特別な注意が払われることは殆どないと言っても過言ではない。
【0003】
一方、進展の著しい半導体製造工程においては、微量含有成分等による汚染が重要な問題となっている。そのため、従来、半導体製造装置用のセラミックス部材に用いられる材料は、主に石英ガラスや炭化珪素であった。これら石英ガラスや炭化珪素は、ウェハを構成するシリコンと同種の元素から形成され、ウェハと部材とが接触した場合や、部材から構成成分の蒸気が揮散される場合でも、シリコンウェハの汚染が生じないという考えのためであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のように石英ガラスや炭化珪素等の珪素元素を主成分とする材料で構成した部材を使用して著しい発展を続けてきた半導体製造工程において、近年、それら珪素系の構成材料についても種々の問題が提起されている。
例えば、最近の半導体製造工程においては、エッチング工程や、CVD成膜工程、レジストを除去するアッシング工程でのフッ素系ガスやプラズマの使用が多くなっている。この場合、部材を構成する石英ガラスや炭化珪素等材料中のシリコンとフッ素系ガスとが反応してシリコン・フッ素化合物を形成する。このシリコン・フッ素化合物は、蒸気圧が高く、常温で部材から気体となって離散する。そのため、上記フッ素系ガスを用いる半導体製造工程において、石英ガラスや炭化珪素等で形成した部材が、著しく腐食されることが明らかになり問題となっている。
即ち、半導体製造工程において、部材に石英ガラスや炭化珪素等珪素系材料以外の無機材料を用いる必要に迫られ、現在、他の代替材料の模索、それら材料の改善改良、高純度化の要望が強くなっている。
【0005】
上記した状況下、高純度でシリコンを汚染せず、且つ、フッ素系ガスに対する耐蝕性を有する材料が種々検討された。それらのうち、アルミナセラミックスがフッ素系ガスに対し比較的耐蝕性を有することが明らかにされた。
アルミナとフッ素系ガスとは、反応により安定なフッ化アルミニウム(A1F3)を生成する。化合物A1F3は、700℃以下では蒸気圧が低く、フッ素系ガスに曝されているアルミナ表面の保護層の機能を有し、アルミナの腐食を防止できることが明らかとなった。
一方、アルミナセラミックスは、従来、半導体レベルでの高純度という視点で捉えられていなかった。そのため、半導体製造装置用部材として用いた場合、シリコンウェハを汚染しない材料としての必要かつ十分な条件は、未だ明確にされていない。
本発明は、上記現状において、従来からの機械的強度、耐熱性等特性に加え、半導体製造装置部材として用いて汚染物を放出することがなく汚染源を形成することのないように、不純物含有量が極めて低減された半導体製造装置用高純度アルミナセラミックス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、マグネシア含有量が100ppm以下で、且つ、アルカリ金属酸化物含有量が50ppm以下であり、比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下であることを特徴とする半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスが提供される。
【0007】
更にまた、請求項1記載の半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスの製造において、焼成体中のアルカリ金属酸化物含有量を50ppm以下、且つ、マグネシア含有量を100ppm以下となるように、原料粉末調整工程、成形工程、焼成工程及び加工工程の各工程でアルカリ金属の混入を抑制、制御することを特徴とする半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスの製造方法が提供される。
【0008】
【作用】
本発明は上記のように構成され、特に、アルミナセラミックス中のアルカリ金属酸化物を50ppm以下にすることにより、従来、異常粒子成長抑制のため数100〜数1000ppmの添加が一般的とされたマグネシアの含有量を100ppm以下にすることが可能となると同時に、マグネシア添加量が少量でも異常粒子成長を抑制することができる。
従って、本発明の高純度アルミナセラミックスは、半導体製造工程で汚染物となり得るナトリウム、カリウム等アルカリ金属の酸化物及びマグネシアが微量であり、半導体製造工程の部材材料として好適である。
一方、アルミナの異常粒子成長にはシリカが関与しているとの考えがあるが、例えば、粒界付近に固溶して濃度勾配を与え、その濃度勾配を保持したまま粒界が移動し難いためであるという説、カルシアとの相互作用説等があり、マグネシアによる粒子成長抑制効果は現時点では明らかでない。
しかし、いずれにしてもセラミックス原料粉末中に含まれる不純物、及び/または、焼成工程等の雰囲気から導入される不純物等と密接な関係があり、本発明は、特に、アルカリ金属元素との関係を確認したものである。
【0009】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
アルミナセラミックスの製造工程は、主として原料粉末の調製、成形、成形体加工、焼成、焼成体加工の各工程から成り立っている。
アルミナセラミックスは、上記焼成工程においてセラミックス原料粉末が焼結し、粒子成長と緻密化が進行して形成される。この場合、マグネシア無添加で焼結させると、焼結時に緻密化より粒子成長が先行するため、得られるアルミナセラミックス中に多くの気孔が残存することになる。また、粒子径が大きくなりすぎるため機械的強度が低下し、その上、アルミナ結晶粒子の熱膨張率の異方性から、粒界にクラックが自然発生する等の不都合が生じるおそれのあることが知られていた。
そのため、従来からアルミナセラミックスの焼成においては、予めマグネシアを異常粒子成長抑制剤として添加して焼結させていた。
【0010】
発明者らは、永年における透光性アルミナセラミックスの製造過程の研究開発に携わり、アルミナセラミックスの焼成中のマグネシアの拳動とセラミックスの異常粒子成長に関し、多くの知見を得た。
即ち、発明者らによれば、焼結中におけるアルカリ金属元素の存在が、異常粒子成長を著しく促進することが知見され、その知見に基づき、本発明においては、アルミナセラミックスの製造工程におけるアルカリ金属元素を可能な限り少なくすることにより、アルミナの異常粒子成長抑制剤のマグネシア添加量を、従来に比して数分の1〜1/10に減少させ得ることを実現すると共に、従来からのアルミナセラミックス高純度化の制限を取り除くことに成功したものである。
【0011】
アルミナセラミックス焼結体中に存在するアルカリ金属元素源は、原料粉末、原料粉末処理水、成形バインダー等各種添加剤及び成形体に接触する部材材料等に含まれる不純物、更に、前記不純物や焼成装置等から放出され焼成雰囲気に含まれるものである。
従って、本発明においては、上記の各アルカリ金属元素放出源中のアルカリ金属不純物を制限し、特に、成形体の焼成時のアルカリ金属元素成分濃度を制御し、得られる焼結体、即ち、アルミナセラミックス中のアルカリ金属酸化物が50ppm以下になるようにする。アルミナセラミックス中のアルカリ金属酸化物が50ppmを超えると、従来のアルミナセラミックスと同様に、添加マグネシア量を増加しなければならないため好ましくない。
【0012】
上記各工程でのアルカリ金属成分の混入経路を詳しく検討すると下記の通りである。
(1)原料粉末
現在工業的に入手できる最高級の高純度アルミナ原料粉に含まれるアルカリ金属成分量は、数ppmから数10ppmのレベルである。
(2)原料粉末処理水
上記原料粉体の処理に使用される水は、イオン交換樹脂とRO膜で処理されたいわゆる純水を使用すれば、不純物導入はppmオーダー以下である。
【0013】
(3)成形添加剤
セラミックス原料粉体を成形する際、成形体に強度を付与するために有機バインダーを添加する。これらバインダー中の不純物レベルは極端に差があり、従来から多用されているポリビニルアルコール(PVA)やメチルセルロースにはアルカリ金属不純物が多く、数1000ppmも含まれている。このようなバインダーの添加率は、原料粉末の1〜2重量%であるため、その添加でアルカリ金属が数10ppm導入されるおそれがある。
一方、アクリル系やマレイン酸重合体をバインダーに用いる場合は、アルカリ金属不純物が数ppm以下の高純度のものを選択することもできる。
(4)成形工程
セラミック原料粉体を加圧成形する場合、粉体の流れを確保するために、一般に造粒が行われる。従って、セラミック原料粉末の成形工程では、造粒工程から始まり、成形型、加工治具等がセラミックス半製品に接触し、これら接触部材から焼結体へ不純物導入がないようにすることも必要である。
【0014】
(5)焼成工程
次いで、アルミナセラミックス中のアルカリ金属不純物混入は、焼成工程からの汚染である。
成形体の焼成は、通常、炉にセラミックス成形体を静置して行われるが、炉内雰囲気中に漂う不純物が問題となる。焼成炉は発熱部と断熱材、ケーシング等から構成され、各構成部材は高温に曝されるためその一部が蒸発して炉内雰囲気を汚染する。
断熱材は熱伝導を少なくするために多孔質になっており、単位体積当たりの表面積が大きく、即ち、蒸発する表面が大きいため、特に、断熱材の純度と蒸発特性が問題となり、厳格に管理されねばならない。半導体製造装置の部材として使用する高純度アルミナセラミックスを焼成するためには、炉材として高純度アルミナ断熱材の使用が望ましく、特に断熱材からのアルカリ金属化合物の放出を少なくすることが望ましい。
炉の加熱発熱部は、一般に、電気ヒーターとガスバーナーに大別でき、純度に関してそれぞれ異なる問題点を持っている。
例えば、電気炉においては、ヒーター材料の蒸発による汚染であり、ガス炉ではガスまたは空気に混入して吹き込まれる微粒子による汚染である。
【0015】
本発明においては、上記のようにそれぞれの各工程での不純物導入経路について制限を加え、アルミナセラミック中のアルカリ金属元素の含有量をチェックすることにより、従来、数100〜数1000ppmが常識的な量とされていたマグネシアの添加量を、100ppm以下と著しく低減することができる上、高温焼成して良好なセラミックスを得ることができる。
【0016】
【実施例】
以下、本発明について実施例に基づき詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
実施例1〜2及び比較例1〜7
酸化ナトリウム(Na2O)5ppm、酸化カリウム(K2O)2ppmであって不純物総含有量40ppmのアルミナ原料粉末100重量部に、水溶性マグネシウム塩およびアルカリ金属塩を、それらの酸化物が焼結体において、表1に示した含有量になるように各配合添加した。
上記各配合原料混合粉体に対し、バインダーとしてアクリル系樹脂を2重量部添加し、更に純水を100重量部加えスラリー状にしたものをスプレードライヤーで造粒した。
各造粒粉末を静水圧成形機を用い、1トン/cm2の圧力で50mm角の厚さ2mmの板状に加圧成形した。
【0017】
得られた各成形体を炭化珪素質の炉芯管に入れ、1000℃で高純度酸素を吹き込みながら仮焼した。更に、得られた仮焼成形体を収容可能な高純度アルミナ質の容器に入れて同材質の上蓋を配置し、高純度水素雰囲気中、1800℃で2時間焼成してアルミナセラミックスの各焼結体を得た。
得られた各焼結体の外観を観察し、比重をアルキメデス法で測定した。その結果を表1に示した。
次いで、各焼結体からダイヤモンドカッターで試料を切り出し、ダイヤモンド粉で研磨し鏡面とした後、更に空気中、1480℃で1時間加熱し、粒界を熱エッチングし、その試料表面の100倍の顕微鏡写真を撮影し、プラニメトリック法で平均結晶粒径を算出した。その結果を表1に示した。
【0018】
【表1】

【0019】
上記実施例及び比較例の結果から明らかなように、アルカリ金属酸化物の総量が50ppmを超えると異常粒子成長が発生し易くなることが分かる。また、アルカリ金属酸化物の総量が50ppmを超え、且つ、マグネシアの量が100ppm以下であると、焼結体中に気孔が残り比重が低下する。一方、アルカリ金属酸化物総量が50ppm以下ならマグネシアが100ppm以下でも、比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下であり、真比重まで緻密化していることが分かる。
【0020】
実施例3及び比較例8
上記各実施例及び比較例で得られたアルミナセラミックスをシリコンウェハと共に加熱して、アルミナ中の不純物をシリコンウェハに転写した後、シリコンウェハを分析して不純物の増加を観察し、各アルミナセラミックスのシリコンウェハに対する不純物の影響を調べた。
即ち、塩化水素ガスを1000℃で2時間パージした石英ガラスルツボ中に、各アルミナセラミックスを入れ、そのルツボ上にシリコンウェハを乗せて、1000℃で2時間加熱処理し、冷却後、加熱処理したシリコンウェハを分析し、アルカリ(Na及びK)及びアルカリ土類金属(Mg)の不純物含有量を検出した。その結果を表2に示した。
なお、加熱処理する前のシリコンウェハの不純物含有量(×1010原子数/cm2)は、Na、K及びMgがそれぞれ2、1及び1であった。
これらの結果から、比較例例2、5及び6で得られた焼結体として良好なアルミナセラミックスが、シリコンウェハに対するマグネシウム汚染が高く、使用範囲が限られることが分かる。
【0021】
【表2】

【0022】
実施例4及び比較例9
実施例1〜2及び比較例1〜7で作製した各造粒粉を用いて、外径38mmφ、内径35mmφ、長さ200mmのアルミナセラミックス管を、外径42mmの金属棒と内径55mmのゴムシリンダーを型として使用し、静水圧成形機にて、1トン/cm2の圧力で成形し、成形体の外周を旋盤を使用して46mmに加工し、実施例1と同様にして仮焼及び水素雰囲気焼成を行い、作製した。
得られた各アルミナセラミックス管に2.45GHz、600ワットのマイクロ波を導波管を用いて照射し、同時に管内にはそれぞれ1トールのCF4及びO2ガスを流した。
上記のようにして100時間照射した後マイクロ波を停止し、管の外表面温度を用いて測定した。また、得られたアルミナセラミックス管をダイヤモンドカッターで切断して、セラミックス表面の侵食損耗を観察した。その結果を表3に示した。
【0023】
【表3】

【0024】
上記の結果から明らかなようにアルカリ金属酸化物の含有量により、マイクロ波の吸収率が異なり、アルミナセラミックスの上昇温度が異なることが分かる。また、アルミナセラミックス管内で発生したフッ素プラズマと、管を構成するアルミナセラミックスとの反応速度は、セラミックス管の外表面温度に依存するため、アルカリ金属酸化物を多く含み管の外表面温度が高いアルミナセラミック管の侵食速度が大きいことが分かる。
【0025】
【発明の効果】
本発明の半導体製造装置用高純度アルミナセラミックスは、アルカリ金属成分及びマグネシア含有量が所定量以下で極めて少量であり、半導体製造用の部材材料としてシリコン半導体を汚染するおそれが極めて少なく、特に、フッ素系ガスが接触する部位に有効であり、工業上有用である。
また、本発明の方法は、アルミナセラミックス製造工程を通し、特に、焼結時における焼成成形体中に含有されるアルカリ金属及び雰囲気中に存在するアルカリ金属の総量を制限的に制御して、異常粒子成長抑制剤のマグネシアの添加量を減少させることができ、従来より著しく高純度なアルミナセラミックスを容易に、且つ簡便な操作で製造することができる。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第3093897号発明の明細書を、本件訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、
(1)訂正事項a
請求項1および2の「高純度アルミナセラミックス」(本件特許掲載公報第1頁第1欄第4、10行)の前に、「半導体製造装置用」を挿入する。
(2)訂正事項b
発明の名称の「高純度アルミナセラミックス」の前に、「半導体製造装置用」を挿入する。
(3)訂正事項c
明細書第1頁第15行(本件特許掲載公報第1頁第1欄第14、15行)、同第3頁第16行(同第2頁第4欄第6行)、同第3頁第21行(同第2頁第4欄第12行)、同第3頁第27行(同第2頁第4欄第18行)、同第13頁第6行(同第6頁第11欄第35行)の「高純度アルミナセラミックス」の前に、「半導体製造装置用」を挿入する。
(4)訂正事項d
請求項1の「50ppm以下である」を、「50ppm以下であり、比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下である」と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書第3頁第21行(本件特許掲載公報第2頁第4欄第11行)の「50ppm以下である」を、「50ppm以下であり、比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下である」と訂正する。
(6)訂正事項f
請求項2の「アルミナセラミックス」の前に、「請求項1記載の半導体製造装置用高純度」を挿入する。
(7)訂正事項g
明細書第3頁第24行(本件特許掲載公報第2頁第4欄第13行)の「アルミナセラミックス」の前に、「請求項1記載の半導体製造装置用高純度」を挿入する。
(8)訂正事項h
明細書第10頁第5行(本件特許公掲載報第5頁左欄第2行)の「真比重」の前に、「比重3.99、且つ、平均結晶粒径35μm以下であり、」を挿入する。
(9)訂正事項i
明細書第7頁第19行(本件特許掲載公報第3頁第6欄第46行)の「アルカリ金属塩を」の後に、「、それらの酸化物が焼結体において、」を挿入する。
異議決定日 2002-03-06 
出願番号 特願平4-327529
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C04B)
P 1 651・ 534- YA (C04B)
P 1 651・ 121- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深草 祐一  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 西村 和美
野田 直人
登録日 2000-07-28 
登録番号 特許第3093897号(P3093897)
権利者 東芝セラミックス株式会社
発明の名称 高純度アルミナセラミックス及びその製造方法  
代理人 石村 理恵  
代理人 石村 理恵  
代理人 木下 茂  
代理人 木下 茂  

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