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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 一部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C08J |
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管理番号 | 1061289 |
異議申立番号 | 異議2002-70506 |
総通号数 | 32 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-08-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-02-27 |
確定日 | 2002-06-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3203437号「耐摩耗性プラスチック成形物及びその製造方法」の請求項1、3、5、6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3203437号の請求項1,3,5,6に係る特許を維持する。 |
理由 |
〔1.手続の経緯〕 本件特許第3203437号の請求項1〜6に係る発明は、平成4年6月17日に特許出願(平成3年9月13日を出願日とする特願平3?261456号に基づく国内優先権主張に係る出願)され、平成13年6月29日設定登録がなされ、その後、請求項1、3、5、6に係る発明の特許に対し、旭硝子株式会社により特許異議の申立てがなされたものである。 〔2.本件発明〕 本件特許第3203437号の請求項1、3、5、6に係る発明(以下、「本件発明1、3、5、6」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、3、5、6に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】プラスチック成形品の表面に、中間層を介して又は介さないでSi化合物の非柱状構造からなる硬質膜が形成されてなることを特徴とする耐摩耗性プラスチック成形物であって、テーバー摩耗試験において5000回の回転後にヘイズの変化が5%以下であり、かつ微小硬度試験において、100kg/mm2 以上の硬さを有する耐摩耗性プラスチック成形物。 【請求項3】プラスチック成形品の表面に、Si化合物の柱状構造からなる軟質膜を形成し、中間層を介して又は介さないでSi化合物の非柱状構造からなる硬質膜が形成されてなることを特徴とする耐摩耗性プラスチック成形物。 【請求項5】中間層が耐紫外線層であることを特徴とする請求項1又は3記載の耐摩耗性プラスチック成形物。 【請求項6】耐紫外線層がZnOであることを特徴とする請求項5記載の耐摩耗性プラスチック成形物。」 〔3.特許異議の申立てについて〕 (1)特許異議申立の概要 特許異議申立人、旭硝子株式会社は、下記の文献を提出して次の主張をしている。 <理由1>本件発明1、3、5、6は、甲第1号証、甲第2号証に記載され た発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので あるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたも のである。 甲第1号証(特開昭64?4343号公報) 甲第2号証(「化学大辞典3」、共立出版、p.890〜891) <理由2>本件発明1、3、5、6は、その特許請求の範囲に、その構成に 欠くことができない事項が記載されておらず、また、本件特許の 明細書の発明の詳細な説明は、当業者が容易にその実施をできる 程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていないから 、特許法第36条第4項、第5項第2号の規定により特許を受け ることはできない。 (2)甲各号証の記載事項 i)甲第1号証には、下記の事項が記載されている。 「1.(a)ポリカーボネート基体の表面上に粘着性樹脂質組成物の界面層を施す工程;及び(b)該界面層上にプラズマによって増進された化学的蒸着法によって耐摩耗性表面層を施す工程;を行なうことを特徴とするポリカーボネート基体;該基体上の粘着性樹脂質組成物の界面層;及び該界面層上の耐摩耗性表面層からなる耐摩耗性物品の製造法。」(第1頁左下欄第6行〜第14行) 「3.粘着性樹脂質組成物がオルガノシリコン物質からなる請求項2記載の製造法。」(第1頁左下欄第17行〜第18行) 「4.オルガノシリコン物質はつぎの成分・・・及び (b)式 O ‖ (式中、Xは>C=O又は>C=C-C-OW | CN であり;YはH又はOHであり;ZはH,OH,OQ又はOWであるが、YがHである場合には少なくとも1個のZはOHであり;Qは-CH2(CH2)nSi(R2)x(OR1)yであり;Wは-CmH2m+1であり;x=0、1又は2、y=1、2又は3、x+y=3であり;R1は約1〜6個の炭素原子をもつアルキル又はアルカノイル基であり;R2は約1〜6の炭素原子をもつアルキル基であり;n=0、1又は2そしてm=1〜18である)をもつ化合物からなる有効量の紫外線吸収剤;からなるさらに硬化可能なオルガノポリシロキサン組成物である請求項3記載の製造法。」(第1頁左下欄第19行〜第2頁左上欄第18行) 「オルガノシリコンに基づく界面層がより高硬度をもつことを望む場合には、オルガノシリコン物質はその中に分散された状態のコロイド状シリカを含有し得る。」(第6頁左下欄第12行〜第15行) 「本発明において使用される水性コロイド状シリカ分散物は一般に直径約5〜約150nm(ナノメーター)の範囲の粒度を有する。特に好ましい粒度範囲は直径で約5〜約30nmである。」(第6頁右下欄第9行〜第13行) 「界面層を構成するアクリル系組成物はさらに紫外線吸収剤を含有し得る。」(第8頁左下欄第19行〜第20行) 「本発明の方法によって施される表面層の厚みは約0.025ミクロン〜約10.0ミクロンの範囲であり得る。」(第13頁右下欄第19行〜第14頁左上欄第1行) 「本発明の物品の種々の性質を向上させるための添加剤は界面層及び表面層のいずれか一方又は両方に配合することができ、・・・添加剤を界面層中に配合し得る。添加剤の例は紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、補強剤及び湿潤剤を包含する。」(第14頁左上欄第2行〜第12行) 「実施例1 試験片1〜12のすべては基体としてビスフェノールAに基づく熱可塑性ポリカーボネートを使用したものである。各基体の寸法は・・・0.8ミクロンであった。試験片7及び8はアルキルシラノールの部分縮合物の溶液中のコロイド状シリカの分散物からなるオルガノシリコン物質の界面層を含むものであり、・・・プラズマ発生部位に、載置した。ついで二酸化珪素の表面層をつぎに示す方法によって界面層に施した。シランをヘリウムとSiH4:Heの容量比2:98で予め混合し・・・第I表に示した流速で供給した。これら試験片の各々についてつぎのパラメーター、すなわち反応室圧力、高周波発生器についての周波数値、プラズマ出力基体表面温度及び析着速度、も第I表中に示す。試験片11及び12は・・・多数の試験片についてのデータの代表データである。 第I表に示したデータは、基体上に被覆された界面層をもつ基体に適当な厚みのSiO2層をPECVD法によって施すことにより形成された物品は優れた硬度及び耐摩耗性をもつ物品となることを例証している。たとえば、試験片4,6,7及び10は300回のテーバー回転後にパイレックスに匹敵する耐摩耗性を示した。さらに、試験片2,6及び8は1000回のテーバー回転後でさえもパイレックスに匹敵する耐摩耗性を示した。」(第15頁右上欄第19行〜第17頁左下欄第9行) ii)甲第2号証(「化学大辞典3」、共立出版、p.890〜891)には、酸化亜鉛の物理的性質として「紫外線はよく吸収する。」ことが記載されている。 なお、甲第2号証には、発行年を特定できる記載が何もないが、特許庁において所蔵する「化学大辞典3」(共立出版、昭和47年9月15日第14刷)のp.890〜891には、上記甲第2号証と同じ記載が認められるので、少なくとも上記甲第2号証に記載された事項は本件出願前に知られていた事項と認められる。 (3)特許異議申立人の主張についての判断 <理由1>について ・本件発明1について 甲第1号証には、本件発明1と共通する技術分野であるプラスチック成形品の表面にSi化合物により耐摩耗性の膜を形成した耐摩耗性プラスチック成形品が記載されている。しかし、本件発明1の特徴点である表面の硬質膜におけるSi化合物の非柱状構造を有する点、これに伴うテーバー摩耗試験における5000回の回転後のヘイズ変化が5%以下である点及び微小硬度試験における100kg/mm2以上の硬さを有する点については、甲第1号証に記載も示唆する記載もない。 そして、本件発明1は、上記特徴点を有する構成を採用することにより、従来よりも硬度と耐摩耗性等の物性が優れたプラスチック成形物を得ることができるという本件特許明細書記載の効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとは認められない。 ・本件発明3について 本件発明3は、プラスチック形成品の表面にSi化合物の非柱状構造からなる硬質膜を形成する前に、Si化合物の柱状構造からなる軟質膜を形成することを特徴点とするものであるが、この点については、上記本件発明1の場合と同様に、甲第1号証に記載も示唆する記載もない。 したがって、本件発明3は、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとは認められない。 ・本件発明5について 本件発明5は、本件発明1及び3を引用する発明であり、かつ、中間層を耐紫外線層に限定した発明であるから、上記本件発明1及び3と同様な理由により、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとは認められない。 ・本件発明6について 甲第2号証には、ZnO(酸化亜鉛)が紫外線をよく吸収すると記載されているのみであり、本件発明6は、本件発明5を引用する発明であり、かつ、耐紫外線層をZnOに限定した発明であるから、甲第2号証の記載を参酌しても、上記本件発明1及び3と同様な理由により、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとは認められない。 <理由2>について ・特許法第36条第4項について 本件特許異議申立人は、特許異議申立書において本件発明1、3の効果が得られる構成を得るためには当業者が期待し得る程度を超える試行錯誤が必要である点主張しているが、本件特許明細書の段落番号【0032】〜【0043】及び図4において本件発明1、3の効果が得られる構成を得るための「非柱状構造」及び「柱状構造」を有する膜形成条件が具体的に記載されており、さらに、その発明の実施の形態である実施例1〜23が示されていることから、当業者が容易にその実施をできる程度に、その発明の構成及び効果が記載されていると認める。 ・特許法第36条第5項第2号について 本件特許異議申立人は、特許異議申立書において本件発明1、3における「非柱状構造」という記載は必須の構成、例えば「特定条件による」プラズマCVD法を用いるなどの記載がないので、不明確であると主張している。 しかしながら、本件発明1、3は、本件特許明細書段落番号【0005】でも記載しているように従来技術では得られなかった「非柱状構造」をもつ硬質膜を見いだしたものであり、その構造については、同段落番号【0011】〜【0012】に「柱状構造」、「非柱状構造」の確認方法及び「非柱状構造」をもつ硬質膜の構造が、【0018】〜【0019】に「柱状構造」と「非柱状構造」を順次形成した膜構造及び「柱状構造」をもつ軟質膜の構造についてそれぞれ記載され、さらに、図1、図2及び図5に「柱状構造」と「非柱状構造」が示されていることから明らかであり、本件発明1、3は発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていると認める。 本件発明5、6は、本件発明1及び3を引用する発明であるから、上記本件発明1及び3と同様な理由により、発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていると認める。 したがって、記載不備とはいえない。 なお、本願特許明細書段落番号【0079】の「実施例15は硬質膜(4μm)のみで柱状」における「柱状」は、平成14年5月10日付けで特許権者より提出された釈明書に記載された事項からみて「非柱状」の明らかな誤記と認められる。 〔4.むすび〕 以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張及び挙証によっては、本件発明1、3、5、6についての特許を取り消すことができない。 また、他に本件発明1、3、5、6についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-05-23 |
出願番号 | 特願平4-181628 |
審決分類 |
P
1
652・
534-
Y
(C08J)
P 1 652・ 531- Y (C08J) P 1 652・ 121- Y (C08J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 森川 聡 |
特許庁審判長 |
谷口 浩行 |
特許庁審判官 |
船岡 嘉彦 佐々木 秀次 |
登録日 | 2001-06-29 |
登録番号 | 特許第3203437号(P3203437) |
権利者 | 電気化学工業株式会社 ル・エール・リクイツド・ソシエテ・アノニム・プール・ル・エチユド・エ・ル・エクスプルワテシヨン・デ・プロセデ・ジエオルジエ・クロード |
発明の名称 | 耐摩耗性プラスチック成形物及びその製造方法 |
代理人 | 山口 芳広 |
代理人 | 豊田 善雄 |
代理人 | 渡辺 敬介 |
代理人 | 渡辺 敬介 |
代理人 | 豊田 善雄 |