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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B24C |
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管理番号 | 1062810 |
異議申立番号 | 異議2000-73899 |
総通号数 | 33 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-11-16 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-10-17 |
確定日 | 2002-06-14 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3033638号「浸炭焼入れ部品の疲労強度向上方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3033638号の請求項1に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1手続の経緯 本件特許第3033638号の請求項1に係る発明は、平成4年6月22日に出願(国内優先権主張平成3年10月17日)され、平成12年2月18日に特許権の設定の登録がなされ、その後特許異議申立人・新東工業株式会社(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、その結果、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成13年3月29日に特許異議意見書が提出されたものである。 2取消しの理由の概要 上記取消の理由の概要は以下の通りである。 本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、本件特許の出願前日本国内において頒布された刊行物1及び刊行物2(これら刊行物は、申立人が提出した甲第1号証及び甲第2号証である。)記載の発明、または、同じく本件特許の出願前日本国内において頒布された刊行物3(刊行物3は、申立人が提出した甲第3号証である。)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって取り消すべきものである。 3当審の判断 (1)本件発明 本件発明は、明細書および図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項1】表面異常層を有する浸炭焼入れ部品に対して直径0.1mm以下の小さなショット玉を用いてショットピーニングを施し、上記浸炭焼入れ部品に圧縮残留応力を付与するとともに、当該部品の表面異常層をマルテンサイトに変態させて当該表面異常層を無くすようにしたことを特徴とする浸炭焼入れ部品の疲労強度向上方法。」 (2)引用刊行物記載の発明 (イ)刊行物1(「自動車技術」1987年6月1日発行7月号Vol.41): 刊行物1には以下の事項が記載されている。 (a)【722ページ左欄第5行〜第9行】 「浸炭歯車材の最表面に異常層と呼ばれる軟化層が生成し、浸炭歯車の強度低下を招くことは一般に知られている。この異常層の改善方法として、種々の試みがなされているが、ショット・ピーニングを行うことにより著しい強度向上が得られることが判り」 (b)【723ページ左欄第14行〜第16行】 「浸炭後にショット・ピーニングを施す方法は、異常層の発生を抑えようとする前述の各方法と異なって、積極的に異常層に残留応力を負荷しようとする工法である。」 (c)【723ページ右欄第8行〜第9行】 「ショット・ピーニングを行うことで、最表面で-30-50kgf/mm2 の圧縮残留応力が付与されたことが判る。」 (d)【724ページ左欄第3行〜第7行】 「表面付近で最大19%の残留オーステナイトが存在する試料において、表面から深さ0.2mmまで存在する量の約20〜50%減少していることが判る。これはショット・ピーニングの塑性歪で残留オーステナイトがマルテンサイト化したためである。」 (e)【724ページ右欄第12行〜15行】 「ショット・ピーニング処理を行ったことで破壊起点が表面から内部へ移行するものが多く、表面異常層の改善により強度向上したことが判る。」 上記の記載事項(a)〜(e)から、刊行物1には、次の発明が記載されていると認める。 浸炭焼入れ部品の最表面に生成する異常層を有する浸炭焼入れ部品に対してショットピーニングを施し、上記浸炭焼入れ部品に圧縮残留応力を付与するとともに、当該部品の表面異常層をマルテンサイト化させて浸炭焼入れ部品の強度を向上させる方法。 (ロ)刊行物2(「材料とプロセス」1991年9月3日発行No.6Vol.4): 刊行物2には以下の事項が記載されている。 (a)【4ページ表題】 「 浸炭鋼の疲れ強さにおよぼすビーズピーニングの影響」 (b)【4ページ1.緒言の第3行〜第7行】 「一方欠点として、材料表面の表面粗さを著しく劣化させるためピーニング後の粗さ改善処理が必要となる。また粗さの劣化に加え、付与された圧縮残留応力値は表面近傍で低下しているため、表面起点破損の原因となりやすい。そこで、材料表面の粗さを劣化させることなく高い圧縮残留応力を付与するピーニング手法として、比較的小径のショット粒を用いたビーズショットピーニングに着目し、浸炭鋼の疲れ強さへの影響を検討したのでその結果を報告する。」 (c)【4ページ、2.実験方法の第4行〜第6行】 「試験片(切欠係数:1.84)に加工しガス浸炭およびガス浸炭窒化処理を施した。その後φ0.1mmとφ0.8mmのショット粒を用いショットピーニングを実施し」 (d)【4ページ、3.結果の第5行〜第6行】 「この結果から面疲れ強さを考慮しφ0.05から0.1mmのショット粒を選択した。」 (e)【4ページ、3.結果の第15行〜第18行】 「疲れ強さの向上は表面粗さの改善と表層部に高い圧縮残留応力を付与することにより、亀裂の発生が抑制されるためと考えられ、その一手法としてビーズショットピーニングは有効と思われる。」 上記の記載事項(a)〜(e)から、刊行物2には、次の発明が記載されていると認める。 浸炭鋼の材料表面の粗さを劣化させることなく表層部に高い圧縮残留応力を付与するためのピーニング法であって、浸炭鋼に対してφ(即ち直径)0.05〜0.1mmのショット玉を用いてショットピーニングを施し、上記浸炭鋼に圧縮残留応力を付与する浸炭鋼のショットピーニング。 (3)対比 刊行物1記載の発明の「浸炭焼入れ部品の最表面に生成する表面異常層」とは本件発明にいう「表面異常層」に相当する。 また、刊行物1記載の発明において、「表面異常層をマルテンサイト化させ」ることは、「表面異常層をマルテンサイトに変態させる」ことである。 そこで、本件発明(前者)と上記刊行物1記載の発明(後者)とを対比すると、両者には次の一致点及び相違点があると言える。 一致点: 表面異常層を有する浸炭焼入れ部品に対してショットピーニングを施し、上記浸炭焼入れ部品に圧縮残留応力を付与するとともに、当該部品の表面異常層をマルテンサイトに変態させて当該表面異常層を無くすようにした浸炭焼入れ部品の疲労強度向上方法。 相違点: ショットピーニングにおいて、前者においては、直径0.1mm以下の小さなショット玉を用いているのに対して、後者においては、ショット玉の直径について言及されていない。 (4)判断 そこで、この相違点につき検討する。 刊行物2には、浸炭鋼の材料表面の粗さを劣化させることなく表層部に高い圧縮残留応力を付与するためのピーニング法において、直径0.05〜0.1mmのショット玉を用いることが記載されている。 そして、刊行物2記載の発明が解決しようとする課題は、表面粗さの改善及び表面起点破壊の解消であり、本件発明が解決しようとする表面粗度の向上および疲労亀裂発生の原因になる表面異常層を無くすという課題と同一である。 そして、刊行物1記載の発明も刊行物2記載の発明も、浸炭焼き入れ部品に対してショットピーニングを施し表層部の表面異常層に圧縮応力を付与するという目的において同一である。 したがって、本件発明の課題を解決するために刊行物2記載の発明を刊行物1記載の発明に適用することは当業者ならば容易に推察できることである。 ところで、刊行物2には、表面異常層をマルテンサイトに変態させることについて記載がない。 しかし、表面異常層を有する浸炭焼き入れ部品にショットピーニングを施して表層部に高い残留応力を付与すればマルテンサイト変態を起こすことは刊行物1に記載されているから、刊行物1記載の発明において、刊行物2記載の発明のショット玉を用いて、表層部に高い残留応力を付与すれば、表面異常層のマルテンサイト変態が起こることは当然予測し得ることである。 したがって、刊行物2には、表面異常層をマルテンサイトに変態させることにつき記載がないが、刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明を組み合わせて表面異常層をマルテンサイト変態させることは当業者にとり容易に想到できることである。 特許権者は、特許異議意見書の第3頁「(4)本件発明と各甲号証との対比(イ)要点」において、「本発明は、浸炭焼き入れ部品の表面異常層をそっくりマルテンサイトに変態させて当該表面異常層を無くす方法であるのに対し、甲第1号証及び甲第3号証に記載されているのは残留オーステナイトをマルテンサイト化する技術であり、両者は明確に区別されるべきものである。なお、甲第2号証にはマルテンサイト化についての記述は見あたらない。」と主張している。 しかしながら、本件特許明細書全体をみても、本件発明における「表面異常層をマルテンサイトに変態させ」るという構成が、表面異常層やその周囲に散在する残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させることを排除するものであると解すべき理由は見あたらないから、特許権者の上記主張は妥当でない。 (5)むすび 以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。 よって、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2001-05-09 |
出願番号 | 特願平4-162380 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Z
(B24C)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 森川 元嗣 |
特許庁審判長 |
小池 正利 |
特許庁審判官 |
播 博 中村 達之 |
登録日 | 2000-02-18 |
登録番号 | 特許第3033638号(P3033638) |
権利者 | 株式会社不二機販 ダイハツ工業株式会社 |
発明の名称 | 浸炭焼入れ部品の疲労強度向上方法 |
代理人 | 山崎 行造 |
代理人 | 前 直美 |
代理人 | 岡田 希子 |
代理人 | 江原 省吾 |
代理人 | 江原 省吾 |