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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B22C
管理番号 1062826
異議申立番号 異議2001-70994  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-03-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-30 
確定日 2002-07-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第3114515号「鋳型製造用粘結剤組成物及び鋳型の製造方法」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3114515号の請求項1ないし10に係る特許を取り消す。 
理由 (I)本件発明
本件特許第3114515号の請求項1〜10に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明10」という。)は、平成6年8月19日に特許出願され、平成12年9月29日に特許権の設定登録がなされたところ、岡崎ヒュッテナス-アルバータス化成株式会社から本件発明1〜10に係る特許について特許異議の申立がなされ、特許取消の理由が通知され、その指定期間内に特許異議意見書が提出されるという経緯を有するものであり、本件発明1〜10は、特許明細書の請求項1〜10に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】フルフリルアルコール,尿素及びアルデヒド類を主成分として重縮合して得られる鋳型製造用粘結剤組成物であって、該粘結剤組成物中の仕込フルフリルアルコール重量%(A)と未反応フルフリルアルコール重量%(B)の差[A-B]が5.0〜60.0であると共に水分量が6.0重量%以下であり、且つ窒素原子含量が0.5〜4.0重量%であることを特徴とする鋳型製造用粘結剤組成物。
【請求項2】[A-B]が15.0〜40.0である請求項1記載の鋳型製造用粘結剤組成物。
【請求項3】水分量が4.0重量%以下である請求項1又は2記載の鋳型製造用粘結剤組成物。
【請求項4】窒素原子含量が0.5〜3.0重量%である請求項1及至3のいずれか一項に記載の鋳型製造用粘結剤組成物。
【請求項5】アルデヒド類がホルムアルデヒドである請求項1及至4のいずれか一項に記載の鋳型製造用粘結剤組成物。
【請求項6】[硫黄原子含量/(燐原子含量+硫黄原子含量)]で示される燐原子と硫黄原子との重量割合が0.01〜0.7である鋳型製造用硬化剤組成物と、請求項1及至5のいずれか一項に記載の鋳型製造用粘結剤組成物との組み合わせからなることを特徴とする鋳型製造用粘結剤-硬化剤組成物。
【請求項7】[硫黄原子含量/(燐原子含量+硫黄原子含量)]で示される燐原子と硫黄原子との重量割合が0.03〜0.6である鋳型製造用硬化剤組成物を用いる請求項6記載の鋳型製造用粘結剤-硬化剤組成物。
【請求項8】耐火性粒状材料と請求項1及至5のいずれか一項に記載の鋳型製造用粘結剤組成物とを含有することを特徴とする鋳型製造用砂組成物。
【請求項9】耐火性粒状材料と請求項6又は7記載の鋳型製造用粘結剤-硬化剤組成物とを含有することを特徴とする鋳型製造用砂組成物。
【請求項10】請求項8又は9記載の鋳型製造用砂組成物を所定の型に充填して、該鋳型製造用砂組成物中に含有されている鋳型製造用粘結剤組成物を硬化させることを特徴とする鋳型の製造方法。

(II)取消理由通知書に記載の理由
(II-1)本件の請求項1〜5、8、10に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
(II-2)本件の請求項1〜10に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1、2、3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
刊行物1:特開昭62-16844号公報(甲第1号証)
刊行物2:米国特許第3644274号明細書(甲第2号証)
刊行物3:特開平5-237587号公報

(III)刊行物の記載
刊行物1:
(1-a)「自硬性鋳型用粘結剤組成物」(発明の名称)、
(1-b)「1.フルフリルアルコール単量体及び一般式(I)

(ただし、式中、nは2以上の整数である)で表わされる化合物を含有し、
式(II)

の化合物は一般式(I)で表わされる化合物の総量に対して70重量%以下含有されてなり、液状を呈する自硬性鋳型用粘結剤組成物。」(特許請求の範囲)、
(1-c)「(産業上の利用分野)本発明は低温での保存安定性のすぐれた自硬性鋳型用粘結剤組成物に関する。(従来の技術)自硬性鋳型用粘結剤としてはフルフリルアルコール-尿素-ホルムアルデヒド共縮合樹脂.・・・等・・・があり,鋳型や中子の製造に広く使用されている。特にフルフリルアルコール,尿素ホルムアルデヒド共縮合樹脂はすぐれた硬化特性,作業性及び高い鋳型強度から各種の大型鋳型用粘結剤として使用されている。」(1頁左下欄18行〜同頁右下欄10行参照)、
(1-d)「また、本発明に係る粘結剤組成物は、フルフリルアルコール単量体を30〜70重量%含有するのが好ましい。30重量%未満では、組成物が液状を呈しにくくなり、多すぎると一般式で表わされる化合物及び式(II)の化合物の含有量が低下するため粘結力が低下し鋳型用粘結剤として使用することが困難となりやすい。特に、-20℃でも液状を呈するためには、50重量%以上が好ましい。本発明に係る粘結剤組成物のフルフリルアルコール単量体と式(II)で表わされる化合物の残部が一般式(I)で表わされる化合物で占められる。一般式(I)で表わされる化合物は,nが2以上のものであるが,最大約20以下のものである。本発明の粘結剤組成物には,nが2以上で約20以下のものがそれぞれ含まれていてもよく,これらのうち一部を含有していてもよい。また、本発明に係る粘結剤組成物は.フルフリルアルコール単量体,一般式(I)で表わされる化合物及び式(II)の化合物に対して約10重量%までの水を含有していてもよい。水の量が多すぎると粘結力の低下.硬化時間の増加など粘結剤としての性能が低下しやすくなる。本発明に係る粘結剤組成物は,次のようにして製造することができる。尿素、ホルムアルデヒド、及びフルフリルアルコールが尿素1モルに対してホルムアルデヒド1〜3モル及び得られる樹脂組成物の窒素含有量が1〜10重量%になるように配合される。この場合,ホルムアルデヒドは、ホルマリン、パラホルムアルデヒドの形態で使用することができる。」(2頁右上欄4行〜同頁左下欄11行)、
(1-e)「〔実施例〕次に本発明の実施例を示す。実施例1 還流冷却器,攪拌装置,温度計を備えた四ツロフラスコに尿素80g,37重量%ホルマリン240g,フルフリルアルコール350g及び20重量%水酸化ナトリウム0.4gを入れ,90℃で30分間反応させた後,8重量%塩酸水溶液1.5gを添加し,90℃で2時間反応させた。ついで.同温度で減圧度600〜700mmHgにて2時間脱水濃縮したのち,フルフリルアルコール490gを加え,さらに90℃で1時間反応させて、自硬性鋳型用粘結剤組成物を得た。」(3頁左上欄9行〜同頁右上欄1行)、
(1-f)「実施例2 37%ホルマリン量を270gに変えた以外は実施例1に準じて行なった。得られた粘結剤組成物の粘度は・・・であり.・・・この粘結剤組成物は,(a)フルフリルアルコール単量体 61重量% (b)一般式(I)で表わされる化合物の総量(一般式(I)中のnの最大値約18) 22重量% (c)式(II)の化合物 11重量% 及び (d)水 6重量% を含有するものであった。」(3頁右下欄10行〜4頁左上欄9行参照)、
(1-g)「実施例3 37%ホルマリン量を320gに変えた以外は実施例1に準じて行なった。得られた粘結剤組成物の粘度は・・・であり.・・・この粘結剤組成物は,(a)フルフリルアルコール単量体 65重量% (b)一般式(I)で表わされる化合物の総量(一般式(I)中のnの最大値約16) 20重量% (c)式(II)の化合物 11.5重量% 及び (d)水 3.5重量% を含有するものであった。」(4頁左上欄10行〜同頁右上欄5行参照)、
(1-h)「応用例 珪砂100重量部にパラトルエンスルホン酸0.5重量部を添加し、ミキサー中でよく混合した。ついで,実施例1で得られた粘結剤組成物1重量%加え,均一に分散混合させて,型内に注型し,常温で1時間成形した。成形後,成形砂型をとりだし,50mm×50mm×50mmの試験片を切出した。この試験片を使用して,オートグラフ試験機により圧縮強度を測定したところ,その強度は7kg/cm2てあつた。」(4頁左下欄16行〜同頁右下欄5行)。

刊行物3:
(3-a)「【請求項1】繰り返し鋳型の製造に使用される再生砂からなるか又は再生砂90重量部以上と新砂10重量部以下からなる砂と、酸硬化性フラン樹脂からなる結合剤と、リン酸、縮合リン酸、リン酸エステル及びリン酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のリン酸系化合物を含有する触媒からなり、成型された鋳型中の窒素含量が 0.3重量%以下であることを特徴とする鋳型成型用砂組成物。・・・【請求項15】繰り返し鋳型の製造に使用される再生砂からなるか又は再生砂90重量部以上と新砂10重量部以下からなる砂に対し、酸硬化性フラン樹脂からなる結合剤と硬化剤とを添加し、該フラン樹脂を硬化させて鋳物用砂型を製造する際に用いる硬化剤であって、リン酸、縮合リン酸、リン酸エステル及びリン酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のリン酸系化合物と、芳香族スルホン酸、脂肪族スルホン酸及び硫酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のスルホン酸系化合物を含有し、かつ硬化剤中の硫黄含量/(リン含量+硫黄含量)で表わされる重量比が、0.01以上、0.7以下であることを特徴とする硬化剤組成物。【請求項16】硫黄含量/(リン含量+硫黄含量)で表わされる重量比が、0.03以上、0.6以下であることを特徴とする請求項15記載の硬化剤組成物。」(特許請求の範囲参照)、
(3-b)「【産業上の利用分野】本発明は、・・・詳しくは、酸硬化性フラン樹脂を硬化させて鋳型を製造する際、・・・再生砂、硬化剤中の硫黄含量/(リン含量+硫黄含量)で表わされる重量比が一定の範囲となる様調製することにより作業環境が良好でガス欠陥のない鋳造品が得られる鋳型成型用砂組成物、鋳型の製造方法及び鋳型成型用硬化剤組成物に関するものである。」(段落番号【0001】参照)、
(3-c)「本発明に使用する酸硬化性フラン樹脂としては、フルフリルアルコール、フルフリルアルコール-尿素樹脂、フルフリルアルコール-ホルムアルデヒド樹脂、・・・等の一種、又は二種以上が使用される。又、公知技術で知られている種々の変性剤等と共に使用されても差し支えない。」(段落番号【0007】参照)、
(3-d)「耐火性粒状材料としては石英質を主成分とする珪砂の他、・・・等の新砂若しくは再生砂が使用され、・・・」(段落番号【0010】参照)、
(3-e)「【実施例】 ・・・実施例及び比較例中の%は重量%を示す。・・・。実施例1 後述の再生砂の調整方法で得られた砂中窒素含量が0.12%、リン含量が0.28%の再生砂 100重量部に対し、85%濃度のリン酸を0.36重量部加え、次いで樹脂中の窒素含量が 1.0%であるフラン樹脂を 0.8重量部添加混練してなる混合砂を用い、鋳型中の窒素含量が0.13%、リン含量が0.37%なる大同式ドーナツ型試験鋳型を作製し、・・・測定した。」(段落番号【0019】参照)、
(3-f)「実施例2〜10 実施例1と同様に所定の窒素含量、リン含量の再生砂に所定のリン含量の触媒、及び所定の窒素含量のフラン樹脂を添加混練してなる混合砂を用い、・・・鋳型を作製し、・・・測定した。」(段落番号【0021】参照)、
(3-g)「実施例14 ・・・樹脂中の窒素含量が 1.0%であるフラン樹脂を 0.8重量部添加混練してなる混合砂を用い、・・・鋳型を作製し、・・・測定した。」(段落番号【0027】参照)、
(3-h)「実施例15〜23 実施例14と同様に・・・所定の窒素含量のフラン樹脂を添加混練してなる混合砂を用い、・・・鋳型を作製し、・・・測定した。」(段落番号【0028】参照)、
(3-j)「実施例49 ・・・樹脂中の窒素含量が 2.5%のフラン樹脂を0.65重量部添加混練してなる混合砂を用い鋳型を作製し、・・・測定した。」(段落番号【0040】参照)、
(3-k)「【発明の効果】 本発明の鋳型成型用砂組成物、鋳型の製造方法及び鋳型成型用硬化剤組成物は、以上述べたように窒素を含有するフラン樹脂とリン酸、縮合リン酸、リン酸エステル及びリン酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のリン酸系化合物及び/又は芳香族スルホン酸、脂肪族スルホン酸等の有機スルホン酸、硫酸等の群から選ばれる1種又は2種以上のスルホン酸系化合物を含有する触媒を用い、且つ再生砂に残留する窒素含量、リン含量、硫黄含量を低減させることにより、鋳型を造型する際に新たに添加されるフラン樹脂の窒素量及び触媒のリン量、硫黄量と、使用する再生砂中に残留していた窒素量、リン量及び硫黄量との和によって決定される鋳型中の窒素含量、好ましくは窒素含量及びリン含量、更に好ましくは窒素含量、リン含量及び硫黄含量を一定の範囲内に調整してなることを特徴とするもので、作業環境が良好で、得られる鋳造品のガス欠陥の発生が大幅に減少し、健全な鋳物が製造でき、実用上非常に有益なものとなる。」(段落番号【0048】参照)。

(IV)比較・検討
(IV-1)本件発明1について
刊行物1には、前記の記載内容からみて、フルフリルアルコール,尿素及びアルデヒド類を主成分として重縮合して得られる鋳型製造用粘結剤組成物が記載され[前記(1-a)、(1-d)、(1-e)参照]、「約10重量%までの水を含有していてもよい。・・・得られる樹脂組成物の窒素含有量が1〜10重量%になるように配合される。」と記載され[前記(1-c)参照]、更に、実施例2には、尿素80g、37重量%ホルマリン270g、フルフリルアルコール840gを反応させ、(a)フルフリルアルコール単量体 61重量% (b)前記一般式(I)(ただし、nが2〜約18の整数)で表わされる化合物の総量 22重量% (c)前記式(II)の化合物 11重量% 及び (d)水 6重量% を含有する前記粘結剤組成物を得たことが記載され[前記(1-e)、(1-f)参照]、実施例3には、尿素80g、37重量%ホルマリン320g、フルフリルアルコール840gを反応させ、(a)フルフリルアルコール単量体 65重量% (b)前記一般式(I)(ただし、nが2〜約16の整数)で表わされる化合物の総量 20重量% (c)前記式(II)の化合物 11.5重量% 及び (d)水 3.5重量% を含有する前記粘結剤組成物を得たことが記載されている[前記(1-e)、(1-g)参照]。
してみると、刊行物1には、フルフリルアルコール,尿素及びアルデヒド類を主成分として重縮合して得られる鋳型製造用粘結剤組成物であり、水分量を約10重量%以下とし、窒素含有量を1〜10重量%とする粘結剤組成物に係る発明(以下、刊行物1発明という)が記載されていると認められる。
本件発明1と刊行物1発明とを比較すると、
両者は、フルフリルアルコール,尿素及びアルデヒド類を主成分として重縮合して得られ、水分量を6.0重量%以下とし、窒素原子含量を1〜4重量%とする鋳型製造用粘結剤組成物に係るものであるという点において一致し、以下の点で形式的に相違する。
本件発明1は、フルフリルアルコール量について、「粘結剤組成物中の仕込フルフリルアルコール重量%(A)と未反応フルフリルアルコール重量%(B)の差[A-B]が5.0〜60.0である」と規定しているのに対し、刊行物1発明には、そのような規定がない点。
そこで、当該相違点について検討する。
本件発明1における「仕込フルフリルアルコール重量%と未反応フルフリルアルコール重量%の差」は、フルフリルアルコールの重縮合度の目安とするものであるとされるところ(特許明細書の段落番号【0008】参照)、刊行物1の実施例2、3について、その仕込フルフリルアルコール重量%と未反応フルフリルアルコール重量%との差を算出すると、その値は、実施例2においては、約18となり、実施例3においては、約14となり、ともに、前記相違点に係る本件発明1の構成を充足するものである。(37重量%ホルマリンに含まれるホルマリン以外の成分の量および粘結剤組成物中に残存する水の量は重縮合度の目安となるものでないから除去して算出した。)
そして、刊行物1発明は、未反応フリフリルアルコールの量を、実施例2,3における場合に限らず、30〜70重量%とする場合も好ましい[前記(1-d)参照]とし、重縮合度が実施例2,3より大きいものも好ましいとするものである。
してみると、本件発明1における仕込フルフリルアルコール重量%と未反応フルフリルアルコール重量%の差の値は、刊行物1にも実質的に記載されていると認められるものであり、前記相違点が、実質的なものであるとすることはできない。
したがって、本件発明1は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである。
なお、特許権者は、刊行物1の実施例には、「この粘結剤組成物は、・・・を含有するものであった。」と記載され、一般に、フルフリルアルコールと尿素とホルマリンとを重縮合させると、刊行物1の一般式(I)、(II)で示される以外のものも生成することが周知であるから、刊行物1の実施例の記載は粘結剤組成物の全量が不明であり、当該粘結剤組成物の全量に対する反応フルフリルアルコール重量%を算出することはできない旨を主張しているが、当該主張は、以下の理由で採用できない。
刊行物1には、「本発明に係る粘結剤組成物のフルフリルアルコール単量体と式(II)で表わされる化合物の残部が一般式(I)で表わされる化合物で占められる。・・・本発明に係る粘結剤組成物は.フルフリルアルコール単量体,一般式(I)で表わされる化合物及び式(II)の化合物に対して約10重量%までの水を含有していてもよい。」[前記(1-d)参照]と記載され、各実施例における水を含めた成分の重量%の合計は100重量%になっていることからみて、刊行物1の実施例における粘結剤組成物の全量は明確であり、前記主張は、粘結剤組成物の全量が不明であるとする前提において誤りである。

(IV-2)本件発明2、3,5について
本件発明2,3,5は、本件発明1を更に限定したものであるが、当該限定に係る「[A-B]が15.0〜40.0である」、「水分量が4.0重量%以下である」、及び「アルデヒド類がホルムアルデヒドである」という内容は、前記したように、刊行物1に実施例として実質的に示された内容である。
したがって、本件発明2,3,5は、本件発明1について述べたと同様の理由により、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

(IV-3)本件発明4,6,7について
刊行物1には、フルフリルアルコール-尿素-ホルムアルデヒド共縮合樹脂を用いた鋳型用粘結剤組成物の硬化に、パラトルエンスルホン酸を用いるとされているところ[前記(1-g)参照]、刊行物3には、フルフリルアルコールと尿素、ホルムアルデヒドを原料とする鋳型製造用フラン樹脂組成物の硬化に酸硬化剤を用いるという点で刊行物1に記載の発明と共通する発明が記載されており、フラン樹脂として、樹脂中の窒素含量が1.0重量%や2.5重量%であるものを用い「前記(3-d)〜(3-j)参照]、硬化剤として、リン酸系化合物とスルホン酸系化合物を含有し、硫黄含量/(リン含量+硫黄含量)で表わされる重量比が、0.01以上で0.7以下、又は、0.03以上で 0.6以下であるものを用いると[前記(3-a)参照]、作業環境が良好でガス欠陥のない鋳造品を製造することができることが記載されている。
してみると、刊行物1に記載の前記発明を実施するに際して、刊行物3に記載された、作業環境が良好でガス欠陥のない鋳造品を製造できるとされているフラン樹脂と硬化剤の組み合わせを用いること、すなわち、フラン樹脂として「窒素原子含量が1.0重量%や2.5重量%である」ものを用い、硬化剤として「[硫黄原子含量/(燐原子含量+硫黄原子含量)]で示される燐原子と硫黄原子との重量割合が0.01〜0.7である」もの、及び、「[硫黄原子含量/(燐原子含量+硫黄原子含量)]で示される燐原子と硫黄原子との重量割合が0.03〜0.6である」ものを用いることは当業者にとって容易なことである。
そして、フラン樹脂及び硬化剤を前記のように選択することは、本件発明4,6,7の構成を採用することに相当する。
また、本件発明4,6,7の、ガス発生がなくなり、作業環境が良好でガス欠陥のない鋳造品を製造することができるという効果は、刊行物3に記載されているところであり、当業者が容易に予想できる効果にすぎない。
さらに、本件明細書中で、表1により説明されるとされる窒素原子含量の限定に伴う鋳型強度に係る効果は、水分量を3.5重量%としたときの効果にすぎず、本件発明4,6,7の全てが有する効果であるとすることはできない。
してみると、本件発明4,6,7は、その構成を採用することにより、当業者が予想できない効果を奏したものであるとすることもできない。
したがって、本件発明4,6,7は、その出願前日本国内または外国において頒布された甲第1、3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(IV-4)本件発明8,9,10について
本件発明8は、耐火性粒状材料と本件発明1〜5に係る鋳型製造用粘結剤とを含有する鋳型製造用砂組成物というものであり、本件発明9は、耐火性粒状材料と本件発明6,7に係る鋳型製造用粘結剤-硬化剤組成物とを含有する鋳型製造用砂組成物というものであり、本件発明10は、本件発明8,9に係る鋳型製造用砂組成物を、型に充填し、当該組成物中の鋳型製造用粘結剤組成物を硬化させるというものであり、耐火性粒状材料とは、珪砂である場合を含むものである。
これに対して、刊行物1には、フラン樹脂を用いた鋳型粘結剤組成物に珪砂と酸硬化剤を配合し硬化させ鋳型を製造することが記載され、刊行物3には、鋳型成型用砂組成物をフラン樹脂を用いた鋳型粘結剤組成物と珪砂と硬化剤とから製造することが記載され、さらに、鋳型を製造するに際して、鋳型製造用砂組成物を型に充填し粘結剤組成物を硬化させることは本件出願前において周知である。
してみると、本件発明8および9で耐火性粒状材料を用いる点は、刊行物1、3の記載から、また、本件発明10で型を用いて鋳型を製造するという点は、前記周知技術から、ともに、当業者が容易に想到できることにすぎない。
したがって、本件発明8,9,10は、(IV-1)〜(IV-3)に記載したと同様の理由により、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1,3に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(V)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜10は、特許法第29条の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1〜10についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-06-11 
出願番号 特願平6-218101
審決分類 P 1 651・ 121- Z (B22C)
P 1 651・ 113- Z (B22C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 有田 恭子  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 雨宮 弘治
池田 正人
登録日 2000-09-29 
登録番号 特許第3114515号(P3114515)
権利者 花王株式会社
発明の名称 鋳型製造用粘結剤組成物及び鋳型の製造方法  
代理人 奥村 茂樹  
代理人 澤田 忠雄  

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