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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B22C
管理番号 1062836
異議申立番号 異議2001-73301  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-09-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-10 
確定日 2002-08-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第3174034号「鋳型用酸硬化性粘結剤の製法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3174034号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3174034号(以下「本件特許」という。)は、平成11年3月3日に特許出願されたものであって、請求項1〜5に係る発明につき特許権の設定登録がなされた後、平成13年12月10日に特許異議申立人 岡崎ヒュッテナス-アルバータス化成株式会社より、その請求項1〜5に係る発明の特許について、特許異議の申立がなされたものである。

II.本件発明
本件特許の請求項1〜5に係る発明は、明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載されたとおりの、次のものである。(以下、「本件発明1」〜「本件発明5」という。)
「【請求項1】25℃における1段目の酸解離定数(pKa)が2.5〜4.6の酸性触媒の存在下、ホルムアルデヒドとフルフリルアルコールをホルムアルデヒド:フルフリルアルコール=0.2〜2.0:1(モル比)で、かつ酸性触媒とフルフリルアルコールを酸性触媒:フルフリルアルコール=0.01〜0.1:1(モル比)で反応させる自硬性鋳型用酸硬化性粘結剤の製法。
【請求項2】酸性触媒が、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、安息香酸よりなる群から選ばれる1種以上である請求項1の製造方法。
【請求項3】得られる粘結剤中の窒素含量が0.1〜6.0重量%となるように、さらに尿素を添加して反応させる請求項1又は2の製法。
【請求項4】得られる粘結剤中の2,5-ビスヒドロキシメチルフラン含量が14〜63重量%である請求項1から3の何れかの製法。
【請求項5】1段目の酸解離定数(pKa)が2.5〜4.6のカルボン酸を含有する自硬性鋳型用酸硬化性粘結剤製造用触媒。」

III.特許異議申立について
(III-1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人 岡崎ヒュッテナス-アルバータス化成株式会社は、本件出願前に頒布された刊行物として甲第1号証(米国特許第4451577号明細書;1984年5月29日発行)、甲第2号証(特開平4-371338号公報;平成4年12月24日公開)、及び甲第3号証(藤本武彦監修「高分子薬剤入門」三洋化成工業株式会社(1992年11月第1刷発行)第541頁)を提示して、本件発明1〜5は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるので、その特許は取り消すべきものであると主張している。

(III-2)証拠の記載事実
(1)甲第1号証(上記米国特許第4451577号明細書)
(1-1)「要約 フラン系粘結剤及びポリビニルアルコールを含む鋳物用混合物から、硬化した、高度の引張強さの鋳物砂型を素早く製作するための触媒組成物及び鋳造方法が開示されている。触媒組成物を鋳物砂及びフラン系粘結剤と混合する前に、ポリビニルアルコールは特定の熱活性化された強酸塩触媒に組み入れられる。次に、砂-粘結剤-触媒組成物は成型され、この砂型が加熱されると短時間で極めて高度の引張強さが発現される。」(「ABSTRACT」の欄)
(1-2)「本発明のもう1つの目的は、本発明の方法で使用する鋳造用触媒組成物を提供することであって、この組成物を使用し、フラン系粘結剤を硬化して高度の引張強さの砂型を得ることが出来る。
本発明の尚、もう1つの目的は、1時間以上の可使時間を有する鋳造用組成物を提供することであり、その組成物を熱活性化することにより急速な硬化が出来て、しかも硬化時には高度の引張強さを有する砂型が製作される。
本発明の別の目的は、比較的小さい“過硬化”を有するが、所望の“砂落とし“特性を有する鋳造用触媒組成物を提供することである。
本発明の尚、更なる目的は、従来からの製造方法による最少限の加熱によって鋳物砂型を迅速に製作することであり(例えば、加熱模型の中での2分未満か、又はマイクロ波加熱炉の中で5分未満のどちらかの加熱)、その場合、発熱硬化は、低い超周囲温度(low superambient temperature)によって誘発される。
更なる目的として、本発明は、鋳造用触媒組成物が、加熱された模型内部で加熱によって迅速に硬化して(例えば、2分未満で)、成形模型からスムースに、かつ簡単に取り外される鋳物砂型を形成する鋳造業用の方法を提供する。」(第2欄第19〜43行)
(1-3)「本発明によって使用するのに好適なフラン系粘結剤には、液体であるフラン系粘結剤が挙げられる。例示としてのフラン系粘結剤には、フルフリルアルコール自体のホモ重合の生成物、又はビス-ヒドロキシメチルフラン自体のホモ重合の生成物であるフラン系粘結剤が挙げられる。本発明によって使用するのに好適なその他の例示の粘結剤には、フルフリルアルコール及び/又はビス-ヒドロキシメチルフランと、ホルムアルデヒド、又は尿素-ホルムアルデヒドブレンド物との重合生成物が挙げられる。更に、単量体フルフリルアルコールと尿素-ホルムアルデヒド樹脂、及び/又はフェノール樹脂、及び/又はビス-ヒドロキシメチルフラン樹脂との液体混合物であるフラン系粘結剤は特に好適である。本発明によって使用するのに好ましいフラン系粘結剤は、フルフリルアルコールとホルムアルデヒドとの樹脂質のビス-ヒドロキシメチルフラン高度縮合生成物である。」(第3欄第40〜57行)
(1-4)「本発明の方法で使用する触媒組成物で使用するのに好適な触媒には、(a)フラン粘結剤含有ホットボックス鋳造方法で広く使用されるタイプの塩である強酸の塩、及び(b)幾つかの強い有機酸の塩又は擬似塩(pseudo-salt)が挙げられる。フラン粘結剤含有ホットボックス鋳造法で広く使用される強酸塩は、触媒組成物の適切な可使時間(例えば、70℃で少なくとも1時間の可使時間)を発現するのに充分な潜在能力を有すること、及び加熱される条件、例えば150°F超の温度で5分未満で触媒組成物の硬化を急速に促進する強酸塩である。本発明によって使用するのに好適な前記のホットボックス触媒には、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化鋼、硝酸銅、及び硫酸銅が挙げられる。触媒組成物の中に使用するのに好適な触媒には、幾つかの強い有機酸の塩又は擬似塩、即ちその酸のアルミニウム、銅、鉄及び尿素塩も挙げられる。これらの有機酸塩は、弱塩基と、例えばトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、及びメタンスルホン酸のような低級脂肪族-置換スルホン酸及び芳香族-置換スルホン酸から成る群から選ばれる強い有機酸から作られる塩である。そのような塩には、特に、メタンスルホン酸アルミニウム、トルエンスルホン酸アルミニウム、キシレンスルホン酸アルミニウム、フェノールスルホン酸アルミニウム、トルエンスルホン酸銅、キシレンスルホン酸銅、フェノールスルホン酸銅、メタンスルホン酸銅、フェノールスルホン酸尿素塩、トルエンスルホン酸尿素塩、メタンスルホン酸尿素塩、キシレンスルホン酸尿素塩、フェノールスルホン酸鉄、トルエンスルホン酸鉄、キシレンスルホン酸鉄、メタンスルホン酸鉄が挙げられる。」(第4欄第1〜35行)
(1-5)「本発明の方法は、鋳造用の、粘結剤-触媒-ポリビニルアルコール組成物を熱活性化により硬化させることが可能である。この鋳造用組成物は、この組成物を、例えば、約250°Fと350°Fの間のウォームボックス法、及び350°Fと550°Fとの間のホットボックス法の温度を有する加熱模型とを接触させることが伴うホットボックス法及びウォームボックス法を含めて、鋳造用粘結剤を、熱硬化する従来法によって熱活性化することが出来る。これとは別に、マイクロ波加熱炉の中で、模型の中か又は自立型砂型としてのどちらかで、(例えば、マイクロ波加熱により)150°F超の温度に熱活性化することによって、この組成物を硬化させることが出来る。マイクロ波加熱炉の中では、粘結剤-触媒-PVA組成物の中のマイクロ波感受性極性分子(例えば、水)がマイクロ波によって激しく動かされて砂型自体の内部で熱活性化を引き起こす。この砂は、組成物の中の発熱によって付随的に加熱される。本発明によると、鋳造用組成物が熱活性化されると硬化を誘発し、砂型の外面が硬化するので砂型はハンドリング出来るようになる。マイクロ波加熱法で硬化を誘発して砂型を硬化するのに要する時間の量は、5分未満、好ましくは2分未満である。ホットボックス法及びウォームボックス法では、砂型は硬化するが硬化は比較的急速に、例えば2分未満で好ましくは60秒未満で、誘発される。加熱後、硬化した砂型を熱活性化源の接触から取り去り、好ましい実施態様では溶湯を注入する前に、15分ないし30分、最も好ましくは1時間、完全に硬化させる。」(第4欄第60行〜第5欄第24行)
(1-6)「実施例I 本実施例の目的は、砂型を硬化するのに使用する触媒にPVAを加えた時の鋳物砂型の引張強さに及ぼす効果を説明することである。
パラホルムアルデヒド(約91パーセントのホルムアルデヒド)26.16部、フルフリルアルコール62.21部、水9.09部及び酢酸2.49部を、還流装置付きの反応器の中で加熱して還流することによりビス-ヒドロキシメチルフラン樹脂を生成した。この反応混合物は、約8ないし9時間、又は生成物が25℃で70cpsの粘度を有するまで還流条件のもとで反応させた。こうして生成した反応混合物は減圧で蒸留して揮発分を追い出した(過剰のホルムアルデヒド、酢酸及び水)。
試験1-1でも1-2でも使用した粘結剤は、ビス-ヒドロキシメチルフラン樹脂60部と、ビス-ヒドロキシメチルフラン60%とフルフリルアルコール40%の混合物を生成するのに充分な量のフルフリルアルコールとのブレンド物であった。(未反応のフルフリルアルコールは樹脂生成物の中に残るのもあるので必要なフルフリルアルコールの追加量は生成物毎に変動する)。
試験1-1で使用したフェノールスルホン酸尿素塩はポリビニルアルコールを含み(本発明による)、PVA-35・・・28.61部、フェノールスルホン酸溶液(即ち、65%水溶液)61.11部、尿素10.28部を混合することにより生成した。試験1-2で使用した触媒は、PVAを含まず、水28.61部、フェノールスルホン酸61.11部(65パーセント水溶液)、及び尿素10.28部を混合することにより生成した。・・・・こうして得られたそれぞれの砂-触媒-粘結剤混合物は、次に、加熱したそれぞれの数個取成形型模型組立体に装入して犬用ビスケット型引張試験片ビスケットを製作した。それぞれの模型を250°Fの温度に加熱した。表Iに明記した時間、加熱した模型と接触させた状態にした後、硬化した砂型をこの模型から取り外した。」(第5欄第31行〜第6欄第16行)
(1-7)「実施例IV 本実施例は、ウォームボックス法によって、フェノール樹脂を含むフラン粘結剤を硬化する際に使用する場合に、フェノールスルホン酸のアルミニウム塩である触媒にポリビニルアルコールを加える効果を説明する。
フルフリルアルコール70部、約2:1の比のホルムアルデヒド対尿素を含む“Aerotex581”尿素-ホルムアルデヒドシロップ(American Cyanamid社の商標)20部、及びPlenco1617ノボラック樹脂(Plenco Plastics Engineering社の商標)10部を混合して、試験4-1で及び4-2で使用した粘結剤を生成した。
試験4-1で使用した触媒は、フェノールスルホン酸アルミニウム42部、Gelvato1 40-20ポリビニルアルコール(固形分として)(Monsantoの商標)8部及び水50部を混合し、この混合物を約60℃に加熱して混合物の中にポリビニルアルコールを溶解することにより生成した。
試験4-2で使用した触媒は、ボリビニルアルコールを含まないので本発明によるによるものではない。試験4-2の触媒は、フェノールスルホン酸アルミニウムの42パーセント水溶液である。」(第8欄第12〜34行)
(1-8)「実施例VII 本実施例は、ポリビニルアルコールをフラン系粘結剤(本発明によるではない)に加えると、極めて短い滞留時間後には引張強さが増加するが、延ばした滞留時間で硬化した砂型の強度は低下することを説明する。
試験7-1でも試験7-2でも使用した粘結剤は、フルフリルアルコールとビス-ヒドロキシメチルフラン樹脂(実施例1で説明した方法によって生成した)の40/60ブレンド物であった。
試験7-1では、鋳造用粘結剤は、ビス-ヒドロキシメチルフラン樹脂60部と、60パーセントのビス-ヒドロキシメチルフラン対40パーセントのフルフリルアルコールを得るのに充分な量のフルフリルアルコールとを混合することによって生成した。(未反応フルフリルアルコールのなかには樹脂生成物中に残ったままのものもあるので、フルフリルアルコールの必要な追加量は少し変動する。)これによって粘結剤100部が得られる。A-1160Ureidoシラン(Union Carbide Chemicalsの商標)0.30部をこの粘結剤混合物に加える。
試験7-2の粘結剤は、ビス-ヒドロキシメチルフラン樹脂が60部、フルフリルアルコールが34部、PVA-35が6部(Gelvato140-20(Monsantoの商標)の35パーセント脱イオン水溶液)、及びA-1160Ureidoシラン(Union Carbide Chemicalsの商標)0.30部を混合することにより生成した。」(第10欄第24〜50行)
(1-9)「特許請求の範囲
1.a.溶液中の強酸の少なくとも1種の塩、及びb.20℃において固形分4パーセントで1から6センチポアズまでの粘度を有し、かつ約2,000ないし10,000の平均分子量を有する少なくとも1種の水分散性ポリビニルアルコール、を含むことを特徴とする触媒組成物。
2.前記塩が:メタンスルホン酸アルミニウム、トルエンスルホン酸アルミニウム、キシレンスルホン酸アルミニウム、フェノールスルホン酸アルミニウム、トルエンスルホン酸銅、キシレンスルホン酸銅、フェノールスルホン酸銅、メタンスルホン酸銅、フェノールスルホン酸尿素塩、トルエンスルホン酸尿素塩、メタンスルホン酸尿素塩、キシレンスルホン酸尿素塩、フェノールスルホン酸鉄、トルエンスルホン酸鉄、キシレンスルホン酸鉄、メタンスルホン酸鉄、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化銅、硝酸銅及び硫酸銅から成る群から選ばれること、を特徴とする、請求項1に記載の触媒組成物。
3.a.強酸の少なくとも1種の塩を35ないし45パーセントまで、b.水を45ないし60パーセントまで;及びc.1から6センチポアズまでの粘度を有し、かつ約2,000ないし10,000の平均分子量を有する少なくとも1種の水分散性ポリビニルアルコールを5ないし10パーセント、を含むことを特徴とする貯蔵安定性触媒組成物。
4.強酸の前記塩が:メタンスルホン酸アルミニウム,トルエンスルホン酸アルミニウム、キシレンスルホン酸アルミニウム、フェノールスルホン酸アルミニウム、トルエンスルホン酸銅、キシレンスルホン酸銅、フェノールスルホン酸銅、メタンスルホン酸銅、フェノールスルホン酸尿素塩、トルエンスルホン酸尿素塩、メタンスルホン酸尿素塩、キシレンスルホン酸尿素塩、フェノールスルホン酸鉄、トルエンスルホン酸鉄、キシレンスルホン酸鉄、メタンスルホン酸鉄、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化銅、硝酸銅及び硫酸銅から成る群から選ばれること、を特徴とする、請求項3に記載の触媒組成物。」(第11欄第37行〜第12欄第42行)

(2)甲第2号証(上記特開平4-371338号公報)
(2-1)「・・・耐火性粒状骨材1000重量部に対して、フルフリルアルコール、フルフリルアルコール-ホルマリン、尿素-ホルマリン、フェノール類-ホルマリン、メラミン-ホルマリンの少なくとも1種の共縮合物又は混合物乃至はフルフリルアルコールとの混合物が主成分である酸硬化性樹脂5〜50重量部と、フェノールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸の少なくとも1種の強酸と、銅、鉄、アルミニウム、尿素、アミンの少なくとも1種の弱塩基の塩或は付加体を主成分とする硬化剤1〜30重量部とを添加混練したものを、加熱硬化成型してなることを特徴とする高圧鋳造用砂中子。」(特許請求の範囲;請求項1)
(2-2)「本発明は、高圧で軽合金を鋳造するダイカストにおいてアンダーカット部に適用される砂中子に関するものである。更に詳しくは、数10Kg/cm2〜数100Kg/cm2の圧力で軽合金を鋳造するダイカストにおいて、アンダーカット部に適用される砂中子であって、従来公知の耐火物粉末等を無機或は有機バインダーと共に水又は有機溶剤と混合して成る表面被覆剤を塗布して成る高圧鋳造用砂中子に関するものである。」(段落【0001】)
(2-3)「本発明の硬化剤組成物中にpKa(25℃)が4.5以下で、沸点が130℃以上の力ルボン酸を含有させることにより、大幅に砂中子の生産速度を向上させることができる。pKa(25℃)が4.5を超えると酸強度及び酸性度が低い為、その効果が得にくく好ましくない。」(段落【0007】)
(2-4)「本発明において用いられる力ルボン酸としては、クロロ酢酸、乳酸、ピルビン酸等の脂肪族モノカルボン酸、アクリル酸、ビニル酢酸等の脂肪族不飽和モノカルボン酸、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸等の脂肪族ポリカルボン酸、安息香酸、サリチル酸、ケイ皮酸、フェニル酢酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸、クエン酸、オキサロ酢酸等のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。」(段落【0008】)

(3)甲第3号証(上記「高分子薬剤入門」)
(3-1)「フラン樹脂は,次の化学式で示されるフルフリルアルコールに,ホルムアルデヒドを加えて反応させることによって,フェノール樹脂と同様に初期縮合物が生成する。この初期縮合物に少量の酸性触媒を加えると,常温でもさらに反応が進行して高分子化する。鋳物砂用バインダーとしては,フルフリルアルコールを単独で使用するよりも,これと尿素やフェノールを加えた共縮合体にして使用することが多い。このように変性されたフラン樹脂硬化物の強度は高く,砂に対して1%程度の添加で十分にバインダーとしての役割を発揮する。」、と記載されると共に、上記初期縮合物として、2,5-ビスヒドロキシメチルフラン(BHMF)が構造式で示されている。(第541頁)

(III-3)対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と、甲第1号証に記載されたものとを対比すると、甲第1号証には、強酸の塩と水分散性ポリビニルアルコールを含む触媒組成物の発明、及び、前記塩が、メタンスルホン酸アルミニウム、トルエンスルホン酸アルミニウム、キシレンスルホン酸アルミニウム、フェノールスルホン酸アルミニウム、トルエンスルホン酸銅、キシレンスルホン酸銅、フェノールスルホン酸銅、メタンスルホン酸銅、フェノールスルホン酸尿素塩、トルエンスルホン酸尿素塩、メタンスルホン酸尿素塩、キシレンスルホン酸尿素塩、フェノールスルホン酸鉄、トルエンスルホン酸鉄、キシレンスルホン酸鉄、メタンスルホン酸鉄、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化銅、硝酸銅及び硫酸銅から成る群から選ばれるものである上記触媒組成物の発明が記載されており(摘記1-9)、併せて、フラン系粘結剤及びポリビニルアルコールを含む鋳物用混合物から、硬化した、高度の引張強さの鋳物砂型を素早く製作するための触媒組成物及び鋳造方法、及び、触媒組成物を鋳物砂及びフラン系粘結剤と混合する前に、ポリビニルアルコールは特定の熱活性化された強酸塩触媒に組み入れられ、次に、砂-粘結剤-触媒組成物は成型され、この砂型が加熱されると短時間で高度の引張強さが発現されること(摘記1-1)、好適なフラン系粘結剤には、液体であるフラン系粘結剤が挙げられ、例示としてのフラン系粘結剤には、フルフリルアルコール自体のホモ重合の生成物、又はビス-ヒドロキシメチルフラン自体のホモ重合の生成物であるフラン系粘結剤、フルフリルアルコール及び/又はビス-ヒドロキシメチルフランと、ホルムアルデヒド、又は尿素-ホルムアルデヒドブレンド物との重合生成物、単量体フルフリルアルコールと尿素-ホルムアルデヒド樹脂、及び/又はフェノール樹脂、及び/又はビス-ヒドロキシメチルフラン樹脂との液体混合物であるフラン系粘結剤、及び、フルフリルアルコールとホルムアルデヒドとの樹脂質のビス-ヒドロキシメチルフラン高度縮合生成物であること(摘記1-3)、好適な触媒には、(a)フラン粘結剤含有ホットボックス鋳造方法で広く使用されるタイプの塩である強酸の塩、及び(b)幾つかの強い有機酸の塩又は擬似塩が挙げられ、フラン粘結剤含有ホットボックス鋳造法で広く使用される強酸塩は、加熱される条件で触媒組成物の硬化を急速に促進する強酸塩であり、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化鋼、硝酸銅、及び硫酸銅が挙げられ、また、触媒組成物の中に使用するのに好適な触媒には、幾つかの強い有機酸の塩又は擬似塩、即ちその酸のアルミニウム、銅、鉄及び尿素塩も挙げられ、これらの有機酸塩は、弱塩基と、例えばトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、及びメタンスルホン酸のような低級脂肪族-置換スルホン酸及び芳香族-置換スルホン酸から成る群から選ばれる強い有機酸から作られる塩であって、特に、メタンスルホン酸アルミニウム、トルエンスルホン酸アルミニウム、キシレンスルホン酸アルミニウム、フェノールスルホン酸アルミニウム、トルエンスルホン酸銅、キシレンスルホン酸銅、フェノールスルホン酸銅、メタンスルホン酸銅、フェノールスルホン酸尿素塩、トルエンスルホン酸尿素塩、メタンスルホン酸尿素塩、キシレンスルホン酸尿素塩、フェノールスルホン酸鉄、トルエンスルホン酸鉄、キシレンスルホン酸鉄、メタンスルホン酸鉄が挙げられること(摘記1-4)、及び、鋳造用組成物を熱活性化により硬化させること(摘記1-5)が記載されている。また、甲第1号証には、「実施例I」において、パラホルムアルデヒド(約91パーセントのホルムアルデヒド)26.16部、フルフリルアルコール62.21部、水9.09部及び酢酸2.49部からビス-ヒドロキシメチルフラン樹脂を生成し、さらに反応させて得た粘結剤は、ビス-ヒドロキシメチルフラン樹脂60部と、ビス-ヒドロキシメチルフラン60%とフルフリルアルコール40%の混合物を生成するのに充分な量のフルフリルアルコールとのブレンド物であり、触媒として、フェノールスルホン酸尿素塩、または、フェノールスルホン酸溶液と尿素からの生成物を使用し、砂-触媒-粘結剤混合物を、加熱した成形型模型組立体に装入し、硬化した砂型を取り外したことが記載され(摘記1-6)、「実施例IV」において、フルフリルアルコール70部、約2:1の比のホルムアルデヒド対尿素を含む尿素-ホルムアルデヒドシロップ20部、及びノボラック樹脂10部を混合して粘結剤を生成し、触媒として、フェノールスルホン酸アルミニウムを用いたこと(摘記1-7)、及び、「実施例VII」において、鋳造用粘結剤は、ビス-ヒドロキシメチルフラン樹脂60部と、60パーセントのビス-ヒドロキシメチルフラン対40パーセントのフルフリルアルコールを得るのに充分な量のフルフリルアルコールとを混合することによって生成し、或いは、ビス-ヒドロキシメチルフラン樹脂が60部、フルフリルアルコールが34部、PVA-35が6部、及びシラン0.30部を混合することにより生成したこと(摘記1-8)が記載されている。
そして、上記「実施例I」における、パラホルムアルデヒドとフルフリルアルコールとのモル比は、本件発明1におけるホルムアルデヒドとフルフリルアルコールとのモル比と一致している。

してみれば、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と、「触媒の存在下、ホルムアルデヒドとフルフリルアルコールをホルムアルデヒド:フルフリルアルコール=0.2〜2.0:1(モル比)で反応させる鋳型用硬化性粘結剤の製法」の点で一致し、そして、
(イ)本件発明1では、上記触媒について、「25℃における1段目の酸隔離定数(pKa)が2.5〜4.6の酸性触媒」と規定されているのに対して、甲第1号証にはその記載がない点、
(ロ)上記相違点(イ)に伴い、本件発明1では、上記相違点(イ)におけるとおり規定する特定の酸性触媒と、フルフリルアルコールとのモル比について、「酸性触媒:フルフリルアルコール=0.01〜0.1:1」と規定されているのに対して、甲第1号証にはその記載がない点、及び、
(ハ)本件発明1では、上記鋳型用硬化性粘結剤について、「自硬性」と規定されているのに対して、甲第1号証に記載のものは、加熱硬化性(摘記1-1、1-2、1-4〜1-6参照。)である点、
の各点で、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と相違している。

そこで、上記相違点(イ)〜(ハ)について、以下、検討する。
(A)相違点(イ)及び(ロ)について
甲第1号証の「実施例I」には、反応混合物中に、フェノールスルホン酸尿素塩触媒(「試験1-1」)またはフェノールスルホン酸と尿素とを混合することにより生成した触媒(「試験1-2」)を添加することに加えて、酢酸を添加した例が示されており(摘記1-6)、そして、特許異議申立人は、当該酢酸が、本件発明1における「酸性触媒」に相当すると主張している。
そこで、この点について検討すると、酢酸については、本件明細書の「比較例8」に示されるように、その「25℃での酸解離定数(pKa)」は「4.757](段落【0019】表1参照。)であって、本件発明1における、「25℃における1段目の酸解離定数(pKa)が2.5〜4.6の酸性触媒」という、上記相違点(イ)に規定する特定の触媒には該当しない。なおかつ、甲第1号証の上記「実施例I」において用いられている触媒は、上記のとおり、「フェノールスルホン酸尿素塩触媒」または「フェノールスルホン酸と尿素とを混合することにより生成した触媒」であって、酢酸は、これら触媒を含む混合物中に含有されている一成分であって、これを直ちに触媒と言える論拠は見あたらない。以上のとおりであるから、甲第1号証には、上記相違点(イ)に係る、「25℃における1段目の酸解離定数(pKa)が2.5〜4.6の酸性触媒」が記載されていると言うことはできない。
また、触媒が相違する以上、甲第1号証の上記「実施例I」には、上記のとおりの特定のpKaを有する酸性触媒とフルフリルアルコールとのモル比を、上記相違点(ロ)のとおり、「酸性触媒:フルフリルアルコール=0.01〜0.1:1」と規定することが記載されていると言うこともできない。また、甲第1号証には、他に、本件発明1のように、特定の触媒を特定の比率で用いて、上記相違点(イ)及び(ロ)のとおりの特定事項とすることの記載は見あたらない。
一方、甲第2号証には、耐火性粒状骨材に対して、フルフリルアルコール、フルフリルアルコール-ホルマリン、尿素-ホルマリン、フェノール類-ホルマリン、メラミン-ホルマリンの少なくとも1種の共縮合物又は混合物乃至はフルフリルアルコールとの混合物が主成分である酸硬化性樹脂と、フェノールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸の少なくとも1種の強酸と、銅、鉄、アルミニウム、尿素、アミンの少なくとも1種の弱塩基の塩或は付加体を主成分とする硬化剤とを添加混練したものを、加熱硬化成型してなることを特徴とする高圧鋳造用砂中子(摘記2-1)に係る発明が記載されており、そして、上記の硬化剤組成物中に、さらに、pKa(25℃)が4.5以下で、沸点が130℃以上の力ルボン酸を含有させること(摘記2-3)、及び、そのカルボン酸の例として、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸及び安息香酸が挙げられている(摘記2-4)。しかし、甲第2号証には、これらのカルボン酸を、ホルムアルデヒドとフルフリルアルコールとの反応における酸性触媒として、「酸性触媒:フルフリルアルコール=0.01〜0.1:1」として用いることの具体的な記載は見あたらず、また、甲第2号証に記載されたこれらのカルボン酸を、甲第1号証に記載された酢酸に代えて用い得るとする合理的な根拠も見あたらない。また、甲第3号証には、フラン樹脂についての一般的な説明がなされているが、上記相違点(イ)及び(ロ)に係る特定事項を開示する記載は見あたらない。

(B)相違点(ハ)について
甲第1号証に記載された鋳型用硬化性粘結剤は熱硬化性であって、同号証には、自硬性として用いることの記載は見あたらない。これについて、特許異議申立人は、特許異議申立書において、自硬性とするか熱硬化性とするかは用途を限定したことに過ぎない旨主張している。しかし、特許異議申立人の提示した各甲号証の記載を見ても、熱硬化性の粘結剤を、自硬性として用いることの記載はなく、また、熱硬化性の粘結剤を自硬性粘結剤として用いた場合に、熱硬化の場合と同様に、所期の物性が得られると認めうる記載もない。一方、本件発明1に係る自硬性鋳型用酸硬化性粘結剤においては、常温で硬化する自硬性であるとともに、優れた圧縮強度を発現する(段落【0019】表1参照。)との作用効果を奏したものと認められる。してみれば、当該相違点(ハ)に係る特定事項については、甲第1〜3号証の記載に基いて、当業者が容易に想到し得たことということはできない。
そして、本件発明1は、上記相違点(イ)〜(ハ)に係る特定事項を含む前記認定のとおりの特定事項を具備することにより、自硬性鋳型は粘結剤の硬化速度が遅いため鋳型の初期強度が低く、抜型時間がかかり生産性が低下する問題がある(段落【0002】参照。)という従来技術の課題に対して、フルフリルアルコールとホルムアルデヒドとの反応における硬化速度が速く(段落【0003】、【0005】参照。)、なおかつ、上記のとおり、圧縮強度に優れた(段落【0019】表1参照。)自硬性鋳型用酸硬化性粘結剤を得る、という作用効果を奏したものと認めることができる。
してみれば、本件発明1は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということはできない。

(2)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、請求項1乃至その下位の請求項を引用して、本件発明1に係る自硬性鋳型用酸硬化性粘結剤の製法の発明乃至その下位の発明をさらに限定した発明であるので、上記「(1)本件発明1について」の欄で本件発明1について記載したと同様、本件発明2〜4は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということはできない。

(3)本件発明5について
甲第2号証には、耐火性粒状骨材に対して、フルフリルアルコール、フルフリルアルコール-ホルマリン、尿素-ホルマリン、フェノール類-ホルマリン、メラミン-ホルマリンの少なくとも1種の共縮合物又は混合物乃至はフルフリルアルコールとの混合物が主成分である酸硬化性樹脂と、フェノールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸の少なくとも1種の強酸と、銅、鉄、アルミニウム、尿素、アミンの少なくとも1種の弱塩基の塩或は付加体を主成分とする硬化剤とを添加混練したものを、加熱硬化成型してなることを特徴とする高圧鋳造用砂中子(摘記2-1)に係る発明が記載されており、そして、上記の硬化剤組成物中に、さらに、pKa(25℃)が4.5以下で、沸点が130℃以上の力ルボン酸を含有させること(摘記2-3)、及び、そのカルボン酸の例として、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸及び安息香酸が挙げられており(摘記2-4)、そして、これらの具体的に挙げられたカルボン酸は、本件発明1乃至2における「25℃における1段目の酸隔離定数(pKa)が2.5〜4.6の酸性触媒」乃至その具体例として示されている化合物と一致している。
しかし、甲第2号証に記載された上記の鋳造用組成物は、熱硬化して成型するものであって、同号証には、自硬性とすることの記載は見あたらない。そして、当該自硬性の点については、上記「(1)本件発明1について」の「(B)相違点(ハ)について」の欄に記載したとおり、甲第1〜3号証の記載を見ても、当業者が容易に想到し得たことということはできず、したがって、本件発明5は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明ということはできない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する理由及び提示した証拠によっては、本件発明1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-07-18 
出願番号 特願平11-55242
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 有田 恭子  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 池田 正人
市川 裕司
登録日 2001-03-30 
登録番号 特許第3174034号(P3174034)
権利者 花王株式会社
発明の名称 鋳型用酸硬化性粘結剤の製法  
代理人 義経 和昌  
代理人 古谷 聡  
代理人 澤田 忠雄  
代理人 古谷 馨  
代理人 持田 信二  
代理人 溝部 孝彦  

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