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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1063659
審判番号 不服2000-6082  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-08-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-04-27 
確定日 2002-08-14 
事件の表示 平成7年特許願第287611号「非環状ランドを有する配線基板、及びその製作方法」[平成8年8月20日出願公開、特開平8-213730]拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.[手続の経緯と本願の発明]
本願は、パリ条約による優先権主張(優先日1994(平成6)年11月16日、米国)を伴って、平成7年11月6日付で特許出願されたものであって、本願の発明は、平成10年12月25日付手続補正に係る明細書の、特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載されたそれぞれの事項によって特定される次のとおりのものである。
【請求項1】「配線基板上に配置された配線と、
前記基板に形成され内部に電気的に伝導性である物質が付着されたスルー・ホールと、
前記配線及び前記スルー・ホールを接続するランドとを有し、
前記ランドが前記スルー・ホールの一部を囲み、前記電気的に伝導性の物質と前記配線とを接続しており、そして前記ランドの長さが、z-(t0+s)の値の0.1倍から2倍の値を有する(zは、前記スルー・ホールの端と該スルー・ホールに隣接した配線との間に必要とされる最小の間隔であり、t0はエッチング工程での許容誤差又は0であり、そしてsは前記配線相互間に必要とされる最小の間隔である)ことを特徴とする配線基板。」
(この請求項1の発明を、以下、「本願発明」という)
【請求項2】「前記ランドの幅が前記配線の幅より大きく、前記スルー・ホールの幅より小さいか、それに等しい範囲であることを特徴とする請求項1に記載の配線基板。」
【請求項3】「スルー・ホールと配線との間にランドが形成された配線基板の製造方法において、
(a)前記基板上に複数の配線を形成する工程と、
(b)前記スルー・ホールを形成すべき場所に金属層を形成すると共に、該場所と前記スルー・ホールに接続されるべき配線との間の場所に前記ランドとなる前記金属層を形成する工程と、
(c)前記スルー・ホールを形成すべき場所に、前記基板を貫通するスルー・ホールを形成して、該スルー・ホールを形成する場所にあった前記金属層を除去する工程と、
(d)該スルー・ホール内に電気的に伝導性の物質を付着する工程とを含み、
前記ランドの長さがz-(t0 +s)の値の0.1倍から2倍の値を有する(zは、前記スルー・ホールの端と該スルーホールに隣接した配線との間に必要とされる最小の間隔であり、t0 はエッチング工程での許容誤差又は0であり、そしてsは配線相互間に必要とされる最小の間隔である)ことを特徴とする配線基板の製造方法。」
【請求項4】「前記ランドは、レティクルの穴の中心を前記スルー・ホールの中心からずらすように重ねることにより形成され、前記スルー・ホールの中心と前記レティクルの穴の中心との間隔が、d0=z+(rh-ri)+t0-sの式によって決定される(zは、前記スルー・ホールの端と該スルーホールに隣接した配線との間に必要とされる最小の間隔であり、rhは前記スルー・ホールの半径であり、riは前記レティクルの穴の半径であり、sは配線相互間に必要とされる最小の間隔、そしてt0はエッチング工程での許容誤差又は0である)を特徴とする請求項3に記載の配線基板の製造方法。」(なお、明細書では、請求項4中に「rI」とされている記載があるが、「ri 」の誤記とみて、上記のとおり認定する。)

2.[引用例と、その記載事項の概要]
これに対し、原査定の拒絶理由では、本願の優先日より前に頒布された刊行物として、次のものが引用されている。
実願昭59-33948号(実開昭60-146374号)のマイクロフィルム(以下、「第1引用例」という)
特開昭58-196090号公報(以下、「第2引用例」という)
実願昭61-72802号(実開昭62-184783号)のマイクロフィルム(以下、「第3引用例」という)
特開平3-185790号公報(以下、「第4引用例」という)
上記各引用例の主要な記載事項は次のとおりである。
(1)第1引用例の記載事項(a、b)
a 「スルーホールを有した印刷配線基板において、スルーホールの周囲に形成されるランド部を導電パターンとの接続部方向のみに形成するとともに、上記ランド部のパターン幅をスルーホールの直径とほぼ等しく形成し、上記導電パターンの幅をスルーホールの直径より狭く形成することを特徴とする印刷配線基板。」(明細書部分第1頁第5〜11行)
b 「第1図に示すように従来上記のスルーホール1の周囲には、同心円状の導体パターン環であるランド2(以下通常ランド2という)が形成され・・・ている。
しかし、この通常ランド2は印刷配線基板上に占める面積が広く、・・・スルーホール1間に形成可能な導電パターン4の本数に制限を与え・・・高密度に形成できないという問題があった。
・・・第3図に示すように、ランドを取り除き導電パターン3とスルーホール1を直接接続するランドレス・スルーホールが現れてきている。
しかしながら、このようなランドレス・スルーホールでは、パターニング精度が極めて厳しく、製造上困難を要するとともに、スルーホール1と導電パターン3との接続部が小さく、接続の信頼性が低下するという問題点が発生していた。」(同第2頁第1行〜第3頁第5行)
(2)第2引用例の記載事項(c〜e)
c 「基板両面の回路導体間の接続及び及び回路部品の固定に用いるスルーホールを備えたプリント基板において、前記回路導体とスルーホール間に該スルーホールの穴径と等しいかそれより小さい幅の補助ランドを設けることを特徴とするプリント基板。」(第1頁左下欄第5〜9行)
d 「このようなスルーホールを有するプリント基板では、・・・回路導体相互の間隙だけでなく上記ランド7と回路導体間の間隙も保たなければならず、・・・回路導体の本数が該ランド7により制限を受け、回路や部品の実装率を上げることが困難であるといった問題があった。」(第1頁右下欄第3〜9行)
e 「補助ランド10の大きさは上記実施例ではスルーホールの穴径と等しくしたが、該穴径以下でもよいことはもちろんである。」
(3)第3引用例の記載事項(f〜h)
f 「スルホールの径とランド導体部の径の大きさが略同一な状態で重なる印刷配線板において、前記ランド導体部と回路パターンの接続部を含むスルホールの外周縁部にランド導体部と回路パターンとを電気的に接続する補助ランドが設けられていることを特徴とする印刷配線板。」(明細書部分第1頁第5〜10行)
g 「補助ランド7の大きさは、最大の形状でもランド導体部4の大きさとほぼ同一の形状であることが望ましい。その理由は、ランド導体部4よりも補助ランド7の大きさを大きくすると、隣接する回路パターン2やランド導体部4、補助ランド7との導体部の間隔が本来の設計値より小さくなる可能性が高いためである。」(同第5頁第第16行〜第6頁第3行)
h 「補助ランド7の形状は、円、楕円、または四角、八角等の多角形が使用でき、・・・基本的にはスルホール1とマスク3との関係が種々の位置ずれ発生要因により位置ずれを起こしても、回路パターン2と補助ランド7の接続部がスルホール1の外側に位置できるように設計しておけばよい。」(同第6頁第第6〜12行)
(4)第4引用例の記載事項
「銅張り積層板の両面を印刷-エッチング法でエッチングし導電回路を形成する工程と、前記積層板の表面の前記導電回路のランド部を除いた全面に耐はんだ付けレジスト被膜を形成する工程と、次いで前記積層板の両面をポリビニルアルコール被膜で被覆する工程と、前記ランド部に貫通孔を形成する工程と、・・・次いで前記貫通孔壁に無電解めっき被膜を形成する工程とを含むことを特徴とするスルーホール印刷配線板の製造方法。」(第1頁左下欄第5〜17行)

3.[発明の対比]
本願発明(請求項1の発明)と第1引用例の上記aの記載事項とを対比すると、第1引用例記載の「印刷配線基板」は、本願発明でいう「配線基板」に相当しており、以下同様に、「導電パターン」は「配線」に、「スルーホール」は「スルー・ホール」に、「ランド部」は「ランド」に、それぞれ相当している。また、第1引用例における「ランド部を導電パターンとの接続部方向のみに形成するとともに、上記ランド部のパターン幅をスルーホールの直径とほぼ等しく形成」するという記載は、「前記ランドが前記スルー・ホールの一部を囲」むのと同じことを意味している。
そして、第1引用例記載のスルーホールも、ランド部を介して導電パターンと電気的に接続されるのであるから、当該スルーホールの内部には、電気的に伝導性である物質が付着されていることは明らかである。
したがって、本願発明と第1引用例記載の発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点] 「配線基板上に配置された配線と、
前記基板に形成され内部に電気的に伝導性である物質が付着されたスルー・ホールと、
前記配線及び前記スルー・ホールを接続するランドとを有し、
前記ランドが前記スルー・ホールの一部を囲み、前記電気的に伝導性の物質と前記配線とを接続している配線基板。」である点。
[相違点] 「ランドの長さ」、即ち、「非環状ランドに接続された配線の軸に沿って、スルー・ホールの端から配線の端までを測ったときの、非環状ランドの寸法」(【0011】欄参照)に関して、
本願発明では、「z-(t0+s)の値の0.1倍から2倍の値を有する(zは、前記スルー・ホールの端と該スルー・ホールに隣接した配線との間に必要とされる最小の間隔であり、t0はエッチング工程での許容誤差又は0であり、そしてsは前記配線相互間に必要とされる最小の間隔である)」とされる、ランドの長さの規定が示されているのに対し、
第1引用例には、ランドの長さに関する格別の言及がない点。

4.[相違点の判断]
上記相違点として認定したとおり、第1引用例には、ランドの長さを規定する直接的な言及はないが、第1引用例における上記bの記載、更に、第2引用例における上記dの記載及び第3引用例における上記gの記載は、いずれも、ランドが大きい場合は、配線領域が制限されて高密度化が妨げられるし、ランドが小さすぎても、スルーホールと配線との接続の信頼性が低下するという問題点を指摘している。
このような問題点の指摘は、本願発明で、上記ランドの長さの規定に係る技術的な意義に関して、「非環状ランドの長さは、zから(t0+s)を引いた値の2倍を超えることも可能ではあるが、このときは増加した領域をもたらすという目的にはかなわない。より短い長さ、即ちzから(t0+s)を引いた値の0.1倍より短いときは、接続の不良率が増加することになり、好ましくない」(【0011】参照)としていることと、実質上、同趣旨の指摘をしたものといえる。
しかも、第2引用例(上記d)では、回路の設計に際して、「回路導体相互の間隙」のみならず、「上記ランド7と回路導体間の間隙」も保たなければならないことが指摘され、また第3引用例(上記h)では、「スルホール1とマスク3との関係が種々の位置ずれ発生要因により位置ずれを起こしても」、回路パターンと補助ランドの接続に支障がないようにするべきことが指摘されているが、この第3引用例で指摘されているところは、エッチング工程での許容誤差を考慮すべき必要性が示唆されたものといえる。
ただ、上記dのうちの、「ランド7と回路導体間の間隙」という記載は、「スルー・ホールの端と該スルーホールに隣接した配線との間に必要とされる最小の間隔」を直接意味するものではないが、第1〜第3のいずれの引用例においても、ランドあるいはこれに相当する補助ランドは、スルーホールの一部分のみを囲むように設けられており、このようなランドや補助ランドで囲まれていない部分では、当然、スルーホールの端と、隣接する配線との間の間隔が考慮されるべきことになるのは明らかである。
そうすると、第1引用例記載の発明においても、上記第2及び第3引用例の指摘あるいは示唆に基づき、「スルー・ホールの端と該スルー・ホールに隣接した配線との間に必要とされる最小の間隔」(z)、「エッチング工程での許容誤差」(t0)、「配線相互間に必要とされる最小の間隔」(s)に基づく計算値をもとに、ランドの長さを決めることは、容易に想到しうるところというべきである。
尤も、上記第2引用例及び第3引用例の記載は、上記の各「間隔」と「許容誤差」を用いた数式や所定の倍率そのものを示しているわけではないが、第2及び第3引用例では、本願発明における「ランド」に相当する「補助ランド」の大きさに関して、「スルーホールの穴径と等しくしたが、該穴径以下でもよい」(上記e参照)、「スルホールの径とランド導体部の径の大きさが略同一」であって、「補助ランド7の大きさは、最大の形状でもランド導体部4の大きさとほぼ同一の形状であることが望ましい」(上記f、g参照)とされており、これらの記載は、「ランドの長さ」が「スルーホールの直径を超えない」ことを示している。
一方、本願発明におけるランド長さに関する実施例をみると、「0.008インチの直径を持つ」スルー・ホールに対して、「0.006インチの長さを持つランド」(図5)、「0.006インチの直径を持つ」スルー・ホールに対して、「0.006インチの長さを持つランド」(図6)、「0.008インチの直径を持つ」スルー・ホールに対して、「0.006インチの長さを持つランド」(図7)を形成するというものであり(【0016】〜【0018】欄参照)、ランドの長さとして、スルーホールの直径を超えない値が選択されている点では、上記第2及び第3引用例の記載が示しているものと変わるところがない。
このように、本願発明と上記各引用例記載のものとの間で、それぞれの実施例として示される数値に格別の差異が認められず、しかも、それぞれの技術的意義も、上述のとおり同趣旨のものといえる以上、上記相違点で指摘した、本願発明で規定される数式や倍率を格別のものとみるべき根拠がなく、本願発明は、上記第1〜第3引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものというべきである。

5.[請求項2以下の発明について]
本願の請求項2で規定される「ランドの幅が前記配線の幅より大きく、前記スルー・ホールの幅より小さいか、それに等しい範囲であること」は、実質上、上記第1〜第3引用例にも開示されているところである(上記a、c及びg参照)。
また、請求項3で規定される(a)〜(c)の工程と、(d)のうちの、「該スルー・ホール内に電気的に伝導性の物質を付着する工程」は、上記第4引用例にも開示があるように、通常の工程といえるし、ランドの長さに係る規定が格別のものでないことは、上記4.で論じたとおりである。
更に、請求項4で規定される、レティクル(マスク)を使用する点は、第3引用例(上記h)に示唆があり、「スルー・ホールの中心と前記レティクルの穴の中心との間隔」を設定する手法も格別困難とみるべき理由がない。
したがって、請求項2以下の発明は、上記第1〜第3引用例、あるいはこれに加えて第4引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものといえる。

6.[むすび]
以上のとおりであるから、原査定が認定するとおり、本願の各請求項に係るいずれの発明についても、特許法第29条第2項の規定によって、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-03-13 
結審通知日 2002-03-19 
審決日 2002-04-02 
出願番号 特願平7-287611
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 和加子亀ヶ谷 明久  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 刈間 宏信
溝渕 良一
発明の名称 非環状ランドを有する配線基板、及びその製作方法  
代理人 市位 嘉宏  
代理人 坂口 博  

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