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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200235443 審決 特許
無効200135480 審決 特許
異議199973920 審決 特許
異議200172607 審決 特許
審判199835415 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) G11B
管理番号 1063685
審判番号 審判1995-13939  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-06-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 1995-07-04 
確定日 2002-07-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第1641076号の特許無効事件である、平成7年審判第13939号についてされた平成9年12月2日付け審決に対する東京高等裁判所の審決取消の判決(平成10年(行ケ)第0040号、平成12年1月20日判決言渡、その後、最高裁判所へ平成12年(行ツ)第145号および平成12年(行ヒ)142号として上告及び上告受理の申立てがなされたが、平成12年7月14日にそれぞれ上告棄却及び上告受理申立て不受理の決定がなされ、東京高等裁判所の判決が確定した。)および平成7年審判第20943号についてされた平成9年12月2日付け審決に対する東京高等裁判所の審決取消の判決(平成10年(行ケ)第0039号、平成12年1月20日判決言渡)があったので、さらに本件特許第1641076号について申立てられた特許無効事件の平成7年審判第13939号・平成7年審判第20943号・平成11年審判第35306号を併合して審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第1641076号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 A、手続きの経緯
本件特許第1641076号の発明は、昭和55年6月9日に出願された実願昭55-80559号(以下、原実願という)を、昭和62年4月16日に出願変更した特願昭62-93714号を基に同日付けで特願昭62-93716号として分割出願されたものであって、平成2年12月26日に特公平2-62917号公報として公告され、平成4年2月18日に設定登録されたものの、平成7年審判第13939号および平成7年審判第20943号、平成11年審判35306号の3件の特許無効の申立てがなされた。
上記特許無効審判事件の内、平成7年審判第13939号についてされた平成9年12月2日付審決に対する東京高等裁判所の審決取消の判決(平成10年(行ケ)第0040号、平成12年1月20日判決言渡、その後、最高裁判所へ平成12年(行ツ)第145号および平成12年(行ヒ)142号として上告及び上告受理の申立てがなされたが、平成12年7月14日にそれぞれ上告棄却及び上告受理申立て不受理の決定がなされ、高等裁判所の判決が確定した。)および平成7年審判第20943号についてされた平成9年12月2日付審決に対する東京高等裁判所の審決取消の判決(平成10年(行ケ)第0039号、平成12年1月20日判決言渡)があったので、平成7年審判第13939号および平成7年審判第20943号、平成11年審判35306号を併合したものである。
なお、判決確定後に、被請求人から、平成7年審判第13939号事件の手続において、平成12年8月31日付で上申書および平成12年10月7日付(但し、特許庁受付は平成12年10月6日)で審判事件答弁理由補充書が提出されている。

B、本件特許発明
設定登録時の本件発明は、設定登録時の特許明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「1 複数のプログラムより成る主情報に対しトータル再生経過時間情報を所定周期で多重記録して成る記録媒体に於て、
プログラム毎に設定されるプログラム再生経過時間情報を前記所定周期で多重記録することを特徴とする記録媒体。(以下、「本件第1特許発明」という。)
2 前記記録媒体はスパイラル状記録トラックを形成するデイスクレコードであることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の記録媒体。」(但し、請求項2は実施態様項である。以下、「本件第2特許発明」という)
(なお、以降「本件特許発明」と表現した場合は、「本件第1特許発明」・「本件第2特許発明」を含めた意味に用いる。)

C、無効審判請求の概要
これに対して、以下の3件の無効審判が請求された。
請求1:平成7年審判第13939号
(請求人:メモリーテック)
請求2:平成7年審判第20943号
(請求人:ディスクラボ・ツルテック・オプテック)
請求3:平成11年審判35306号
(請求人:ディスクラボ・ツルテック)

1、各請求の概要
請求1(平成7年審判第13939号)の概要
(1)請求人 メモリーテックの主張する無効理由
(i):本件特許は、原実願の「映像信号を螺旋状トラックに記録するビデオディスクレコード」・「映像信号の垂直帰線区間」を、「記録媒体」・「所定周期」に変更されているので、原実願から実質的に拡張された発明を要旨とするものであるから分割要件を満たさないので、出願日は遡及せず、現実の分割された出願日である昭和62年4月16日とするべきである。
してみれば、甲第3号証ないし甲第5号証から容易で、特許法29条第2項に該当する。
(ii):又、甲第6号証と同一なので特許法29条1項3号に該当する。
(iii):なお、出願日が遡及するとしても、甲第5号証から容易なので、特許法29条第2項に該当する。
(iv):同様に出願日が遡及するとしても、甲第6号証と同一なので、特許法29条の2に該当する。
従って、以上の各無効理由により、本件特許発明は、特許法123条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。
(証拠)
甲第1号証:原実願55-80559号
甲第2号証:変更出願、特願昭62-93714号
甲第3号証:実開昭57-4092号公報
甲第4号証:図解コンパクトディスク読本(株式会社オーム社)CDのサブコーディング規格が公知であることの立証
甲第5号証:実公昭52-4021号公報
甲第6号昭:特開昭55-129936号公報

(2)被請求人の答弁
被請求人は、平成7年10月23日付で訂正請求をした上、本件特許発明には無効理由がない旨の答弁を行った。
(i)訂正請求の概要
(イ)訂正の目的
本件特許に対し、平成7年7月4日付でメモリーテック株式会社より特許無効の審判が請求されており、この検討に際し発見した明細書の誤記ないし不明瞭な記載の釈明を目的とする。
(ロ) 訂正の内容
a:明細書第3頁第4行(特公平2-62917号公報第2欄第17行)の「複合化」を「復号化」と訂正する。
b:明細書第4頁第11行(2個所)、第14行、第20行および第5頁第1行(同公報第3欄第19行(2個所)、第22行、第4欄第1行および第2行)の「復合」を「復号」と訂正する。
c:明細書第5頁第17行ないし第19行(同公報第4欄第18行ないし第20行)の「記録することも可能であり、また経過フレーム数に代えて残りフレーム数を記録しても良いことは言うを挨たない。」を「記録することも可能である。」に訂正する。
以上の訂正の目的で全文訂正明細書を別紙のとおり提出する。
なお、以上の訂正は、明白な誤記を正しい表記に訂正するものであり、特許法第134条第2項第2号の誤記の訂正ないし同第3号の不明瞭な記載の釈明に相当する。」(訂正請求書第2頁から抜粋)
と、訂正請求をした上、以下の主張をしている。
(ii)被請求人の答弁の概要
イ)乙第1〜9号証に見られるように、ビデオディスク、テープ、DADと同様の記録媒体においては、記録媒体の種類、形式の如何を問わず、複数のプログラムよりなる主情報に対しトータル再生経過時間情報を所定周期で多重記録することが周知かつ普遍的となっているという点でも出願当時の当業者にとっては極めて自明であった。
このようなことから、原実用新案登録出願の出願当時の技術情報に照らして解される原出願の当初の開示に基づけば要旨変更の問題はなく変更分割後の請求の範囲の記載は適法である以上、出願日の遡及は当然のことである。
従って、本件特許の出願日より後の頒布日を有する甲第3号証および甲第4号証は特許法29条の先行技術となり得ず、本件特許は甲号証によって進歩性が阻害されない。
ロ)請求人は、甲第6号証開示の先願発明と本件特許発明との間には、先願発明がトータル残余時間であるのに対して本件特許発明では「プログラム再生経過時間情報」である(以下、第1の相違点という)と、先願発明が「各プログラム毎の残余時間」であるのに対して本件特許発明が「プログラム再生経過時間情報」(以下、第2の相違点という)とがあるとしている。
この第1の相違点を考察すると、甲第6号証には「トータル」残余時間情報の記録に関しての教示も示唆もない。従って比較対照が甲第6号証にない以上、相違判断の前提としての比較をすることはできない。
第2の相違点の存在は先願開示発明と後願の本件特許発明の先後願の発明の同一性を明白に阻却する。
従って、特許法29条の2に該当しない。
ハ)本件特許発明の構成要件が具体的に甲第5号証は提供すると述べるにすぎず、本件特許発明の構成要件が具体的に甲第5号証のどの教示とどの様な関係を持つのかについて何ら指摘していない。
従って、請求人の主張する各無効理由によっては、本件特許発明は、特許法123条第1項第1号により無効とされるべきでない。
(証拠)
乙第1号証:1978年にMagnavox Consumer Electronics Companyにより頒布されたビデオディスクプレーヤー(Model VH 8000)MAGNAVOX MAGNAVISION のサービスマニュアル「FAMILIARIZATION & CIRCUIT OPERATION 」とその抄訳
乙第2号証:1979年12月に頒布されたフィリップス社およびMCA社の2社の提案による規格書「Standard on Philips and MCA optical video disksystem 60Hz/525 lines-M/NTSC」とその抄訳
乙第3号証:昭和54年8月9日に発行された電波新聞電子テクノロジィ第2部エレクトロニクス特集第97号
乙第4号証:昭和55年2月16日公開の特許出願公開昭55-22286号公報
乙第5号証:昭和55年3月29日に公開された特許出願公開昭55-45176号公報
乙第6号証:昭和55年5月発行「放送技術」367頁〜373頁
乙第7号証:昭和54年に頒布された昭和54年電気四学会連合大会の記録
乙第8号証:昭和52年9月頒布の製品紹介パンフレット
乙第9号証:昭和54年11月20日株式会社オーム社発行の「ディジタルオーディオ技術入門」
なお、被請求人は、判決確定後に上申書並びに審判事件答弁理由補充書を提出し、審判事件答弁理由補充書において、乙第10〜18号証を提示して,前記答弁を追加した。
追加された乙10〜18号証
乙第10号証:中島平太郎著「ディジタルオーディオ技術入門」第1版第1刷 昭和54年11月20日オーム社刊、第46〜49頁、57〜89頁
乙第11号証:「NHK技研月報」1979、11、VOL.22 第428〜436頁
乙第12号証:「電波科学」1979年12月号、193〜198頁
乙第13号証:「テレビジョン学会誌」第33巻第1号、通巻第365号、第2〜10頁、第17〜31頁
乙第14号証:「電波新聞」昭和54年4月12日 第2部エレクトロニクス特集 第86号
乙第15号証:無線と実験別冊「PCM/ディジタル・オーディオのすべて」 成文堂新光社 昭和54年11月20日刊 第170〜171頁
乙第16号証:「電波新聞」昭和55年2月7日 第28〜29面
乙第17号証:「日本音響学会講演論文集」昭和53年10月 第263〜264頁 伊藤孝他3名共同発表「3-P-13 改良されたディジタルオーディオディスクシステムの構成」
乙第18号証:「エレクトロニクス」昭和54年3月号 第268〜269頁

請求2(平成7年審判第20943号)の概要
(1)請求人 ディスクラボ・ツルテック・オプテック)の主張する無効理由
(i)甲第1号証には、フレーム周期でプログラム毎の時間情報が順次同期信号と共に多重記録される技術が記載されているので、本件特許発明の第1項の発明は甲第1号証に記載される発明と実質的に同一である。
(ii)甲第1号証に、甲第2号証の表示信号を組み合わせることは容易である。
(iii) 甲第1号証に甲第3号証のライン番号と経過時間を示すトータルフ レームナンバーの技術を組み合わせることは容易である。
(iv)甲第2号証と甲第3号証を組み合わせることは容易である。
(v)SMPTEが周知なことの立証は、甲第4・5・7号証参照。
(vi)各プログラムに対応してインフォメーションコードを記憶しそれを表示するが甲第6号証にある。
従って、以上の各無効理由により、本件特許発明は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
(証拠)
甲第1号証:米国特許第4167028号
甲第2号証:実公昭52-4021号公報
甲第3号証:特開昭55-71365号公報
甲第4号証:NATIONAL TECHNICAL REPORT VOL.19,NO3 JUNE 1973(昭和48-6)「VTR用プログラムセレクタ」
甲第5号証:JOURNAL OF THE SMPTE第83巻(1974年(昭和49)7月号)「A REVIEW OF THE MCA DISCO-VISION SYSTEM」
甲第6号証:米国特許第3931457号(1976年(昭和51)1月6日刊)
甲第7号証:ビデオディスクとDAD入門(昭和58年1月10日)

(2)被請求人の答弁
(i)甲第1号証の背景技術もしくは先行技術は、乙第1号証の部分的訳文によれば、2つのテープを同期させるために時間信号を記録することである。この時間信号は当然に本件発明にいうトータル再生経過時間情報でなければならないことは甲第1号証がSMPTE編集コードの改良発明である目的に照らして自明である。
又、甲第1号証の時間信号は主情報の中のプログラム毎に発生されると主張する審判請求書第11頁第1〜5行「フレーム基準パルスは、デコーダ回路64によって再生され、これは、さらに適切に記録されたテープをもって現在演奏されているテープ部分の相対的な時間位置を示す時間信号を発生させる。」という甲第1号証の記述の基づくが、これは甲第1号証の「relative」の訳語に基づくが、甲第1号証の当該箇所には「その再生中のビデオテープ部分の相対時間位置」と記載されており、換言すればトータル経過時間に相当する。
従って、本件発明は甲第1号証とは同一でない。
(ii)甲第2号証の表示信号7による経過時間表示は明白にトータル経過時間でなければならない。甲第2号証にもトータル経過時間情報に並行して複数プログラムについて個別に再生経過時間を多重記録することについては全く記載教示が無い。
したがって、甲第1号証に甲第2号証を組み合わせても、本件特許発明の進歩性は阻害されない。
(iii)甲第3号証は、請求人も認めるとおり、本件特許発明の表現に従えば、主情報に対しトータル再生経過時間情報を所定周期で多重記録する事についてのみ教示するのみである。
したがって、甲第1号証に甲第3号証を組み合わせても、本件特許発明の進歩性は阻害されない。
(iv)甲第2・3号証は、本件特許発明の表現に従えば、主情報に対しトータル再生経過時間情報を所定周期で多重記録する事についてのみ教示するのみである。
したがって、甲第2号証と甲第3号証を組み合わせても、本件特許発明の進歩性は阻害されない。
以上の各無効理由によっては、本件特許は特許法123条第1項第1号により無効とされるべきでない。
(証拠)
乙第1号証:米国特許第4,167,028号抄訳

請求3(平成11年審判35306号)の概要
(1)請求人 ディスクラボ・ツルテックの無効理由
(i)本件特許は、原原出願(原実願)の「映像信号を螺旋状トラックに記録するビデオディスクレコード」・「映像信号の垂直帰線区間」・「重畳記録」を「記録媒体」・「所定周期」・「多重記録」に変更されているので、原原出願(原実願)から実質的に拡張された発明を要旨とするものであるから、現実の出願日昭和62年4月16日とするべきである。
してみれば、本件特許発明は、甲第4号証・甲第5号証・甲第6号証とそれぞれ同一の発明であるから、特許法29条第1項第3号に反して特許されたものである。
(ii)本件特許は、変更出願・分割出願の要件を満たさないので、甲第4号証・甲第5号証・甲第6号証記載の各発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(iii) 本件特許の発明は、原原出願(原実願)と実質的に同一であり、い ずれも昭和55年6月9日の同一の日に出願されたものであるから特許法39条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、以上の各無効理由により、本件特許発明は、特許法123条第1項第2項の規定により無効とすべきである。
(証拠)
甲第1号証:特公平2-62917号公報(本件公告公報)
甲第2号証:原原出願(原実願)に添付された当初明細書
甲第3号証:国立国会図書館所蔵図書館資料に関する証明書
甲第4号証:ビデオディスクとDAD入門(昭和57年11月1日)に発行され、昭和57年10月22日に国会図書館に受け入れられた文献
甲第5号証:コンパクトディスク読本 昭和57年11月25日に発行され、昭和57年12月10日に国会図書館に受け入れられた文献
甲第6号昭:実開昭57-4092号公報
甲第7号証:被請求人を原告、請求人を被告とする大阪地方裁判所平成11年(ワ)2862号特許権侵害行為差止等請求事件の訴状
甲第8号証:特公昭64-7435公報
甲第9号証:岩波情報科学事典537頁

(2)被請求人の答弁
(i)乙各号証に示されるように、ビデオディスク、テープ、DADと同様の記録媒体においては、記録媒体の種類、形式の如何を問わず、複数のプログラムよりなる主情報に対しトータル再生経過時間情報を所定周期で多重記録することが周知かつ普遍的となっているという点でも出願当時の当業者にとっては極めて自明であった。
このようなことから、原実用新案登録出願の出願当時の技術情報に照らして解される原出願の当初の開示に基づけば要旨変更の問題はなく変更分割後の請求の範囲の記載は適法である以上、出願日の遡及は当然のことである。
したがって、本件特許は甲第4号証・甲第5号証・甲第6号証号と同一の発明ではない。
(ii)本件特許発明の出願変更分割出願は適法であるから出願日は遡及するので、本件特許の出願日より後の頒布日を有する甲第3号証および甲第4号証はおよび甲第5号証は特許法29条の先行技術となり得ず、本件特許はこれら甲号証によっては、進歩性が阻害されない。
(iii)原出願発明と本件特許発明との間には、目的・構成・効果において明白に相違するので特許法第39条第1項第1号により無効とされない。
したがって、請求の主張する無効理由によっては、本件特許発明は、特許法123条第1項第1号により無効とされるべきではない。
(証拠)
乙第1号証:1978年にMagnavox Consumer Electronics Company により頒布されたビデオディスクプレーヤー(Model VH 8000)MAGNAVOX MAGNAVISIONのサービスマニュアル「FAMILIARIZATION &IRCUIT OPERATION 」とその抄訳
乙第2号証:1979年12月に頒布されたフィリップス社およびMCA社の2社の提案による規格書「Standard on Philips and MCA optical video disk system 60Hz/525 lines‐M/NTSC」とその抄訳
乙第3号証:昭和54年8月9日に発行された電波新聞電子テクノロジィ第2部エレクトロニクス特集第97号
乙第4号証:昭和55年2月16日公開の特許出願公開昭55-22286号公報
乙第5号証:昭和55年3月29日に公開された特許出願公開昭55-45176号公報
乙第6号証:昭和55年5月発行「放送技術」367頁〜373頁
乙第7号証:昭和54年に頒布された昭和54年電気四学会連合大会の記録
乙第8号証:昭和52年9月頒布の製品紹介パンフレット
乙第9号証:昭和54年11月20日株式会社オーム社発行の「ディジタルオーディオ技術入門」
乙第10号証:昭和55年5月13日発行「電波新聞」48〜49頁
乙第11号証:平成7年審判第13939号審決

D、当審の判断
平成7年審判第13939号(請求人:メモリーテック)の無効請求を基礎にして本件特許の無効理由の検討を行う。
1、無効理由(i)の内の分割要件の検討
(1)原実願の当初明細書の開示事項
本件特許出願の基礎出願である原実願の当初明細書に、本件特許発明の要旨に相当する技術の開示がなされているか否かについて検討する。
(i)甲第3号証によれば、原実願の当初明細書には、その実用新案登録請求の範囲に「映像信号を螺旋状トラックに記録するビデオディスクレコードに於て、映像信号の垂直帰線区間に、プログラムの再生時間に関連する情報と、プログラムの再生経過時間に関連する情報とを符号化して重畳記録したことを特徴とするビデオディスクレコード。」(1頁5行ないし10行)
と記載され、その考案の詳細な説明に、
「本考案は、残り時間を正確に表示し得るビデオディスクレコードに関する。」(1頁12行、13行)、
「ビデオディスクプレーヤは、再生時ビデオディスクレコードの垂直ブランキング区間の第17H及び第18Hに重畳記録したフレームナンバーを検出することにより再生位置をテレビ画面上に表示すべく構成しており、再生位置の確認をすることは可能である。しかし再生中にプログラムの残り時間を確認するためには、再生されるフレームナンバーやピックアップの再生位置とビデオディスクレコードの外径を検出して大体の残り時間を類推することは可能であるものの、正確な残り時間を確認する方法がなかった。特に、同一レコード面に複数のプログラムが記録されている場合にはレコードの外径やフレームナンバー及びピックアップの再生位置は残り時間を表示するために何の手懸かりにもならない。」(1頁14行ないし2頁8行)、
「そこで本考案は、ビデオディスクレコードの垂直帰線区間に、プログラムのフレーム数と、プログラム毎のフレームナンバーを重畳記録することにより、プログラム毎に残り時間を表示可能にした新規なビデオディスクレコードを提供せんとするものである。」(2頁9行ないし14行)、
「以下本考案を図示せる一実施例に従い説明する。まず、本実施例は、光学式のビデオディスクプレーヤを用いて映像信号を再生する周知のビデオディスクレコードに本考案を採用するものであり、斯るビデオディスクレコードはFM映像信号を螺旋状の記録トラックとして形成するものであり、その映像信号の垂直帰線区間の第17H目と第18H目には、周知の通り上位4ビットの識別符号を含む計24ビットのトータルフレームナンバーがバイフェーズコードとして符号化されて重畳記録されており、ビデオディスクプレーヤも再生時にバイフェーズ信号を抽出して復合化することによりフレームナンバーを検出する回路を配している。」(2頁15行ないし3頁7行)、
「そこで、本実施例は、斯るビデオディスクレコードの垂直帰線区間中第14H目と第15H目に何ら信号が重畳されていないこと及び、ビデオディスクプレーヤがバイフェーズコードに符合化されたフレームナンバーを検出可能にしていることに鑑み、プログラムのフレーム数(S1)とプログラム毎のフレームナンバー(S2)を、前述したフレームナンバーと同様のバイフェーズコードに符号化してそれぞれ第14H目と第15H目に重畳記録するものである。」(3頁8行ないし17行)、
「第2図の回路ブロック図は、斯るバイフェーズコードを読取記憶した後残り時間を演算してテレビ画面の一部に表示せしめる回路を顕わし、まずFM復調回路(1)にて復調された再生映像信号は、バイフェーズコードを復号する復号化回路(2)と垂直帰線区間の各信号多重域に対応して抜取パルスを発する抜取パルス発生回路(3)に入力され、復号された各出力は、対応する14H目、15H目、17H目の各抜き取りパルスに従ってシフトレジスタで構成されるフレーム数記憶回路(4)、フレームナンバー記憶回路(5)、トータルフレームナンバー記憶回路(6)に記憶される。尚、前記各記憶回路に入力されている論理和出力はシフトパルスであり、前記復号化回路(2)より導出される論理和入力は復号出力に同期する同期パルスである。本実施例は前記フレーム数記憶回路(4)と前記フレームナンバー記憶回路(5)の各ビット出力を減算回路(7)に入力して残りのフレーム数を演算しており、減算出力とフレームナンバーを選択入力するマルチプレクサ(8)は制御出力(CN)によって入力信号を選択し、選択出力は次段の切換回路(9)にてフレーム表示を秒表示に換算されてキャラクタジェネレータ(10)に入力され、映像信号に同期するキャラクタジェネレータ出力は映像信号に重畳される。従って再生画像を映出するテレビ画面にはプログラムの経過時間や残り時間が選択的に表示される。」(4頁8行ないし5頁13行)、
「上述せる実施例は、垂直帰線区間にプログラムのフレーム数とプログラムの経過フレーム数を重畳したが、本考案は、フレームに代え秒情報を記録することも可能であり、また経過フレーム数に代えて残りフレーム数を記録しても良いことは言うを俟たない。」(5頁14行ないし19行)
と記載されていることが認められる。
(ii)以上の記載によれば、原実願の当初明細書に記載された考案は、従来のビデオディスクプレーヤは再生時にビデオディスクレコードの垂直帰線区間の第17H及び第18Hにバイフェーズコードとして符号化され重畳記録されたフレームナンバーを検出することにより再生位置をテレビ画面上に表示すべく構成され、これにより再生位置の確認をすることは可能であるものの、正確な残り時間を確認する方法がなかったところ、ビデオディスクレコードの垂直帰線区間中第14H目と第15H目には何らの信号が重畳されていないこと、ビデオディスクプレーヤがバイフェーズコードに符号化されたフレームナンバーを検出可能にしていることに鑑みて、プログラムのフレーム数とプログラム毎のフレームナンバーを、フレームナンバーと同様のバイフェーズコードに符号化してそれぞれ第14H目と第15H目に重畳記録することにより、テレビジョン画面にプログラム毎の経過時間や残り時間等を正確に表示し得るビデオディスクレコードにあるものと認められる。
しかしながら、原実願の当初明細書には、トータル再生経過時間情報やプログラム毎に設定されるプログラム再生経過時間情報を、
(ア)「ビデオディスクレコード」以外のCD-ROM、MD、DVD等の記録媒体にも記録すること、
(イ)「映像信号の垂直帰線区間」以外の箇所に記録すること、
(ウ)映像信号の垂直帰線区間に「重畳」以外の手段で記録することについては、何らの開示も示唆も認められない。

(2)本件特許発明
本件特許発明の特許請求の範囲の記載は、前記B記載のとおりである。
(3)実質的拡張の可否
前記(1)(ii)によれば、
(i)トータル再生経過時間情報やプログラムごとに設定されるプログラム再生経過時間情報を記録する対象を、原実願の当初明細書にあっては「ビデオディスクレコード」であったものを、本件特許発明では「記録媒体」に変更し、
(ii)プログラムの再生時間等に関する情報を、原実願の当初明細書にあっては「映像信号の垂直帰線区間」に記録するものであったものを、本件特許発明においては「所定の周期」で記録することに変更し、
(iii)原実願の当初明細書にあっては「映像信号の垂直帰線区間」に「重畳」の手段で記録するものであったものを、本件特許発明においては「多重」の手段で記録することに変更したものである。
そうすると、本件特許発明は、原実願の当初明細書に開示されていない事項をその要旨とするものと認められる。

(4)被請求人の主張に対する判断
被請求人は、原実願の出願当時の技術状態を念頭において当業者が原実願の当初明細書を読めば、プログラム毎の再生経過時間を表示するという目的解決のために「複数のプログラムから成る主情報に対しトータル再生経過時間情報を所定周期で(多重)記録して成る記録媒体に於いて、プログラムごとに設定されるプログラム再生経過時間情報を前記所定周期で多重(記録)することを特徴とする記録媒体」が開示されていることは自明であるから、本件特許発明は、原実願の当初明細書に記載した事項の範囲内である旨主張する。
しかしながら、本件特許発明は、原実願の当初明細書に記載されていなかった垂直帰線区間を有しない音声やデータ等の他の信号形式を記録する記録媒体、さらに、トータル再生経過時間情報やプログラムごとに設定されるプログラム再生経過時間情報である経過時間情報を垂直帰線区間以外の箇所に所定周期で多重記録することを含むこととなったものであるところ、この点の技術事項が原実願の当初明細書に接する当業者にとって自明のことであることを認めるに足りる証拠はない。
被請求人は、自明の根拠として乙第1ないし乙第9号証を指摘するが、これらの証拠は、いずれもテレビ映像信号の記録形式により情報を記録する場合の本件原実願の技術思想を、垂直帰線区間を有しない他の信号形式を記録する記録媒体に、どの箇所に、どのようにして上記トータル再生経過時間情報やプログラム毎に設定されるプログラム再生経過時間情報を周期的に多重記録するのかについてまで、拡張して適用できる旨の記載も示唆もされていないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、本件特許発明に記載された内容が、当時の技術水準を念頭において原実願の当初明細書に接したとしても、当業者に自明の事項であるということはできないから、被請求人の上記主張は理由がない。
上記点に関して、請求人は、東京高等裁判所審決取消訴訟事件の平成10年(行ケ)40号の判決確定後に、平成7年審判第13939号の手続で、平成12年8月31日付上申書および平成12年10月7日付審判事件答弁理由補充書を提出し、その中で乙第10〜18号証を提示して、自明であることの答弁の追加と、「所定周期」と補正したことは、同一技術の内容を異なる方向から捉えて表現したものにすぎないので、本来この補正自体が不適正であるとされるいわれはないと主張を追加したが、該上申書及び理由補充書を見ても上記「本件特許発明は、原実願の当初明細書に記載されていなかった垂直帰線区間を有しない音声やデータ等の他の信号形式を記録する記録媒体、さらに、トータル再生経過時間情報やプログラムごとに設定されるプログラム再生経過時間情報である経過時間情報を垂直帰線区間以外の箇所に所定周期で多重記録することを含むこととなったものであるところ、この点の技術事項が原実願の当初明細書に接する当業者にとって自明のことであることを認めるに足りる証拠はない。」という判断を覆す証拠及び理由は認められない。

(5)まとめ
以上のことから、本件特許の出願日は、原実願の出願日である昭和55年6月9日まで出願日が遡及することはなく、その現実の出願日である昭和62年4月16日になるものというべきである。
なお、当審の上記判断は、無効審判事件平成7年13939号の東京高等裁判所への審決取消訴訟事件である平成10年(行ケ)40号(上告棄却で判決確定)の判決論旨と同じである。

2、訂正の適否
前記C、1、(2)(i)「訂正請求の概要」に記載したように、被請求人は、平成7年審判第13939号の手続において平成7年10月23日付で訂正請求を行ったので、この訂正請求の適否について検討を行う。
検討に当たって、訂正の適否の基準とする出願日および明細書ならびに図面は、上記D、1の検討で変更出願・分割出願が認められないことから、本件発明の出願日を変更出願・分割出願の日である昭和62年4月16日とすると共に、平成2年12月26日付で公告になった特許明細書及び図面(特公平2-62917号公報参照)並びに分割出願の願書に添付された明細書及び図面(特開昭63-146289号公報参照)を基準とする。

(1)訂正請求の内容
訂正請求の内容は、前記C、1、(2)(i)「訂正請求の概要」を参照

(2)当審の判断
訂正請求a):「複合化」を「復号化」と訂正することは、誤記の訂正と認められる。
訂正請求b):「復合」を「復号」と訂正することは、誤記の訂正と認められる。
訂正請求c):「記録することも可能であり、また経過フレーム数に代えて残りフレーム数を記録しても良いことは言うを俟たない。」を「記録することも可能である。」に訂正することは、
第1点として、訂正前の「記録することも可能であり、また経過フレーム数に代えて残りフレーム数を記録しても良いことは言うを俟たない。」の記載に誤記はなく、誤記の訂正とは認められない。
第2点として、この訂正前の記載を、訂正前の該記載の直前の記述「本発明は、フレームに代え秒情報を」を補ってみると「本発明は、フレームに代え秒情報を記録することも可能であり、また経過フレーム数に代えて残りフレーム数を記録しても良いことは言うを俟たない。」という記載となるが、この記載の意味するところは、フレーム記録、秒情報のいずれかの記録、および、経過フレーム数、残りフレーム数いずれかの記録を行えるというものであり、解釈に疑義を生ずるところは全くなく、意味が明りょうな文章であるので、「記録することも可能である。」に訂正することが、不明瞭な記載の釈明とも認められない。
従って、本訂正は、訂正請求c)において、請求人が訂正の目的とする特許法第126条第1項第2号の「誤記」の訂正でもなく、同法「第3号に規定する「明りょうでない記載の釈明」にも該当しないので、この訂正は特許法126条第1項第2号および第3号の規定に該当しない訂正と認められるのでこの訂正請求は認められない。

3、無効理由C、1、(1)(i)の特許法29条第2項の検討
(1)甲各号証記載の発明の認定
平成7年審判第13939号において請求人メモリ-テック株式会社が提示した甲第1号証と甲第3号証、および、甲第4〜6号証には、以下の発明が記載されている。
(i)実願55-80559号(甲第1号証)の願書に添付された明細書及び図面を撮影したマイクロフィルム(実開昭57-4092号公報(甲第3号証)参照 昭和57年1月9日公開)(以下、合わせて「甲第1・3号証」という)記載の発明
「映像信号を螺旋状トラックに記録するビデオディスクレコードに於いて、映像信号の垂直帰線区間に、プログラムの再生時間に関連する情報と、プログラムの再生経過時間に関連する情報とを符号化して重畳記録したことを特徴とするビデオディスクレコード」(実用新案登録請求の範囲の記載参照)
及び明細書第2頁第16行〜3頁第17行には、「本実施例は、光学式のビデオディスクプレーヤを用いて映像信号を再生する周知のビデオディスクレコードに本考案を採用するものであり、斯るビデオディスクレコードはFM映像信号を螺旋状の記録トラックとして形成するものであり、その映像信号の垂直帰線区間の第17H目と第18H目には、周知の通り上位4ビットの識別符号を含む計24ビットのトータルフレームナンバーがバイフェーズコードとして符号化されて重畳記録されており、ビデオディスプレーヤも再生時にバイフェーズ信号を抽出して復号化(合議体は「復合化」は「復号化」の誤記と認定)することによりフレームナンバーを検出する回路を配している。
そこで、本実施例は、斯るビデオディスクレコードの垂直帰線区間中第14H目と第15H目に何ら信号が重畳されていないこと及び、ビデオディスクプレーヤがバイフェーズコードに符号化されたフレームナンバーを検出可能にしていることに鑑み、プログラムのフレーム数(S1)とプログラム毎のフレームナンバー(S2)を、前述したフレームナンバーと同様のバイフェーズコードに符号化してそれぞれ第14H目と第15H目に重畳記録するものである。」
同じく明細書第4頁第11〜14行目には「FM復調回路(1)にて復調された再生映像信号は、バイフェーズコードを復号する復号化回路(2)と垂直帰線区間の各信号多重域に対応して抜取パルスを発する抜取パルス発生回路(3)に入力され」
の記載がある。
これら記載を総合すると、
「複数のプログラムより成る映像信号に対しトータル再生経過情報を映像信号の垂直帰線区間に重畳して成る映像信号により螺旋状トラックを形成するビデオディスクレコードに於いて、
前記映像信号に対し前記プログラム毎に設定されるプログラム再生経過情報を前記映像信号の垂直帰線区間に重畳すると共に、前記記録トラックに対し前記各プログラムのプログラム時間情報を記録するビデオディスクレコード」
の発明(以下、「甲第1・3号証記載の発明」という)が記載されているものと認める。
(ii)甲第4号証記載の発明
甲第4号証はコンパクトディスクに関するもので、119頁「5・7サブコーディング」の項には、コンパクトディスクに各プログラムのトータルの時間に関するデータを記録するTOCデータの他、各プログラム毎の時間を記録するサブコーディングデータとして、曲のナンバー・インデックス・その曲内の分/秒/フレーム・累計の分/秒・フレームを記録することが図5・22と共に説明されている。
(iii)甲第5号証記載の発明
甲第5号証(実公昭52-4021号公報)は、「記録済ビデオテープ」に関するもので、公報第3頁6欄第19〜29行には
「1フィールド(又はフレーム)を単位として映像信号を記録したビデオトラック上、フィールド始端より所定位置に、記録用映像信号の垂直同期信号に同期してこれより所定数の水平同期信号分だけ遅れて動作する表示信号発生手段よりのテープ進行に伴ない変化し、記録内容又は時間経過等に関連して表示を行なう表示信号を該映像信号を記録したビデオトラック上に重畳記録してなり、再生時、該表示信号により再生画面上に記録内容変化、時間経過等に応じて数字、記号、図形等を表示しうる様にした記録済ビデオテープ」
の発明が記載され、該表示信号の記録に関連して、公報第3頁第5欄第30〜33行には
「又、表示信号を各ビデオトラック毎に記録せず、ビデオトラック数本おき或いは数拾本おきに表示信号を記録し、再生画面上間欠的に表示を行う構成としてもよい。」
という改良発明についての記載がある。
(iv)甲第6号証記載の発明
甲第6号証(特開昭55-129986号公報)には、「レコードのアドレス記録及び再生方式に関するもので、再生すべき信号データを記録する記録チャンネル以外の記録チャンネルに、最終位置を基準として信号データの残余時間に略比例した数値を示すアドレス情報を順次記録」するものにおいて、記録方式として「時分割多重」・「周波数分割多重」等の「多重方法」を採用できること(公報第7頁右上欄参照)が開示されている。

(3)対比
甲第1・3号証記載の発明と本件特許発明との対比を行うが、用いている用語が異なるので、用語の同定を行う。
甲第1・3号証記載の発明の「複数のプログラム」・「信号」・「トータル再生経過情報」・「プログラム毎に設定されるプログラム再生経過情報」および「各プログラムのプログラム時間情報」・「記録」・「レコード」は、本件第1特許発明の「複数のプログラム」・「情報」・「トータル再生経過時間情報」・「プログラム毎に設定されるプログラム再生経過時間情報」・「記録」・「記録媒体」とは対応しているものと認める。
又、本件第2特許発明についても、甲第1・3号証記載の発明と対比すると、
甲第1・3号証記載の「螺旋状トラック」・「ディスクレコード」は、本件第2特許発明の「スパイラル状記録トラック」・「ディスクレコード」に対応する。
してみると、甲第1・3号証記載の発明を本件第1・2特許発明の用語をもって表現すると、
本件第1特許発明に対応しては、
「複数のプログラム」より成る「情報」に対し「トータル再生経過時間情報」をある周期で「記録」して成る記録媒体において、
「プログラム毎に設定されるプログラム再生経過時間情報」を前記ある周期で「記録」する記録媒体。
本件第2特許発明に対応しては、
「前記記録媒体」は「スパイラル状記録トラック」を形成する「ディスクレコード」
では、それぞれ一致すると認められるものの、
本件第1特許発明との相違点
(i)記録する媒体が、甲第1・3号証記載の発明では「ビデオディスクレコード」であるのに対して、本件第1特許発明は「記録媒体」である点。(以下、相違点1という)
(ii)記録する情報として、甲第1・3号証記載の発明が「映像信号」であるのに対して、本件第1特許発明が「主情報」である点。(以下、相違点2という)
(iii) 記録する周期が、甲第1・3号証記載の発明では「映像信号の垂直帰線区間」であるのに対して本件第1特許発明では「所定周期」である点。(以下、相違点3という)
(iv)記録する手段が、甲第1・3号証が「重畳記録」なのに対して、本件第1特許発明では「多重記録」する点で相違する。(以下、相違点4という)
本件第2特許発明との相違点
(v)ディスクレコードとして、甲第1・3号証記載の発明が「ビデオディスクレコード」であるのに対して本件第2特許発明では「ディスクレコード」である点(以下、相違点5という)
これら相違点を以下に合わせて検討する。

(4)相違点に対する当審の判断
(i)相違点1について
本件特許発明の「記録媒体」に、甲第1・3号証記載の発明の「ビデオディスクレコード」が含まれることは、本件特許発明の明細書に記載される実施例が「ビデオディスクレコード」で説明されていることからしても明らかである。
さらに、甲第4号証に示されるように、記録すべき音楽情報に各曲のトータル時間に関する情報としのTOCデータの他、曲毎の録音時間等のサブコーディングを記録することは、記録媒体の一種であるコンパクトディスクの規格として公知である。
したがって、トータルの再生経過時間情報の他、プログラム毎に設定されるプログラム再生経過時間情報を記録する甲第1・3号証においても、同様の時間情報を記録するコンパクトディスクの規格を合わせ考慮することで、「ビデオディスクレコード」にかえて、甲第4号証のコンパクトディスクやMD・DVD等を包含する「記録媒体」とすることに進歩性を認めることはできない。
(ii)相違点2について
本件特許発明の「主情報」に、甲第1・3号証記載の発明の「垂直帰線区間」を含む「映像信号」が含まれることは、本件特許発明の明細書に記載される実施例が垂直帰線区間を含む「映像信号」で説明されていることからしても明らかである。
さらに、甲第4号証に示されるように、記録すべき音楽情報に各曲トータルの時間に関する情報としてのTOCデータの他、曲毎の録音時間等のサブコーディングを記録することは、記録媒体の一種であるコンパクトディスクの規格として公知である。このコンパクトディスクの「音楽情報」はTOCデータやサブコーディングの付加情報に対する「主情報」といえる。
したがって、「映像信号」とトータルの再生経過時間情報の他、プログラム毎に設定されるプログラム再生経過時間情報を記録する甲第1・3号証においても、同様の音楽情報と時間情報を記録するコンパクトディスクの規格を合わせ考慮することで、「映像信号」にかえて、甲第4号証のコンパクトディスクの「音楽情報」等を包含する「主情報」とすることは当業者が容易に想到し得たところである。
(iii)相違点3について
本件特許発明の記録する周期は「所定周期」であるが、この「所定周期」に甲第1・3号証記載の発明にいう「映像信号の垂直帰線区間」も含まれることは、本件特許発明の明細書に記載される実施例が「映像信号の垂直帰線区間」で説明されていることからしても明らかである。
さらに、記録媒体が磁気テープの例であるが、甲第5号証には時間経過に関連して表示を行う表示信号をビデオトラック毎に記録する他、ビデオトラック数本おき或いは数拾本おきに記録する改良発明の記載がある。この甲第5号証の改良発明の記載は、本件特許発明の「所定周期」に相当するものと認められるので、甲第1・3号証記載の発明においても、「映像信号の垂直帰線区間」に代えて「所定周期」とすることも当業者が容易になし得たところと認める。
(iv)相違点4について
本件特許発明のプログラム毎に設定されるプログラム再生経過時間情報を所定周期で記録する手段を「多重記録」するものであるが、甲第1・3号証記載の「重畳記録」が「多重記録」の一種であることは、同じ甲第1・3号証の明細書第5頁第9行目の映像信号の垂直帰線区間に重畳された信号を抜取る構成の説明で「垂直帰線区間の各信号多重域」と「多重」という表現で記載されていることからしても明らかである。
さらに、このような各プログラムの時間に関する信号を映像信号に「時分割多重」や「周波数多重」で多重記録することは甲第6号証に記載されるように本願出願前に公知である。
したがって、甲第1・3号証においても「重畳記録」に代えて「多重記録」とすることは、当業者が必要に応じて採用し得たところにすぎない。
(v)相違点5について
本件第2特許発明の「ディスクレコード」に「甲第1・3号証記載の「ビデオディスクレコード」も含まれることは、本件特許発明の明細書に記載される実施例が「ビデオディスクレコード」で説明されていることからしても明らかである。
さらに、各プログラムのトータルの時間に関するデータを記録するTOCデータの他、各プログラム毎の時間を記録するサブコーディングデータを記録することがディスクレコードの一種であるコンパクトディスクの規格として本願出願前に公知である。
したがって、甲第1・3号証記載の発明においても、「ビデオディスクレコード」を甲第4号証のコンパクトディスクを包含する「ディスクレコード」とすることは当業者が容易に想到し得たところと認める。

(5)、まとめ
本件の特許請求の範囲の第1項及び第2項に記載された各発明は、上記甲第1・3、4〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることが出来たものであるから、該特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
 
審理終結日 1997-11-11 
結審通知日 1997-11-25 
審決日 1997-12-02 
出願番号 特願昭62-93716
審決分類 P 1 112・ 121- ZB (G11B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐野 健一郎小池 隆▲弥▼小松 正小池 正彦  
特許庁審判長 内藤 二郎
特許庁審判官 田良島 潔
犬飼 宏
高瀬 博明
麻野 耕一
登録日 1992-02-18 
登録番号 特許第1641076号(P1641076)
発明の名称 記録媒体  
代理人 本渡 諒一  
復代理人 秋野 卓生  
代理人 梶山 佶是  
代理人 芝野 正雅  
代理人 神戸 真  
代理人 久保田 伸  
代理人 山本 富士男  
代理人 山本 富士男  
代理人 深見 久郎  
代理人 梶山 佶是  
代理人 山本 富士男  
代理人 木島 喜一  
代理人 芝野 正雅  
代理人 早稲本 和徳  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 深見 久郎  
代理人 本渡 諒一  
代理人 梶山 佶是  
代理人 鎌田 邦彦  
代理人 神戸 清  
代理人 栗宇 一樹  
復代理人 七字 賢彦  
代理人 深見 久郎  
代理人 和田 聖仁  
代理人 本渡 諒一  
代理人 堀井 豊  
代理人 鎌田 邦彦  
代理人 山本 富士男  
代理人 梶山 佶是  

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