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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A22C
管理番号 1064312
異議申立番号 異議2001-72617  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-08-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-09-25 
確定日 2002-07-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3149128号「鶏体の放血方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3149128号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3149128号発明は、平成9年11月17日(優先権主張平成8年11月22日)に特許出願され、平成13年1月19日に設定登録(平成13年3月26日に特許公報発行)がなされ、その後、平成13年9月25日付けでゴーデックス株式会社より特許異議の申立てがなされ、平成14年1月15日に取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成14年3月18日に特許異議意見書の提出とともに訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否

(1)訂正の内容
訂正事項A
【特許請求の範囲】の記載、
「【請求項1】生鶏体の頚動脈を切断し、放血処理する鶏体の処理方法において、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに該鶏体に、パルス幅のデューティ比が10〜50%の範囲のプラス成分の電気パルスを与えることを特徴とする鶏体の放血方法。
【請求項2】 生鶏体の頚動脈を切断1〜10秒後から3〜10秒間前記プラス成分の電気パルスを与える請求項1に記載の鶏体の放血方法。
【請求項3】 鶏体に与える前記プラス成分の電気パルスの周波数が100Hz〜2,000Hzの範囲である請求項1に記載の鶏体の放血方法。」

「【請求項1】生鶏体の頚動脈を切断し、放血処理する鶏体の処理方法において、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに該鶏体に、周波数が700Hz〜2,000Hzの範囲であり、パルス幅のデューティ比が10〜50%の範囲のプラス成分の電気パルスを与えることを特徴とする鶏体の放血方法。
【請求項2】生鶏体の頚動脈を切断1〜10秒後から3〜10秒間前記プラス成分の電気パルスを与える請求項1に記載の鶏体の放血方法。」
に訂正する。

訂正事項B
[1]【発明の詳細な説明】の段落【0007】の記載、
「【課題を解決するための手段】
上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、生鶏体の頚動脈を切断し、放血処理する鶏体の処理方法において、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに該鶏体に、パルス幅のデューティ比が10〜50%の範囲のプラス成分の電気パルスを与えることを特徴とする鶏体の放血方法である。」

「【課題を解決するための手段】
上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、生鶏体の頚動脈を切断し、放血処理する鶏体の処理方法において、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに該鶏体に、周波数が700Hz〜2,000Hzの範囲であり、パルス幅のデューティ比が10〜50%の範囲のプラス成分の電気パルスを与えることを特徴とする鶏体の放血方法である。」
に訂正する。

[2]段落【0012】の記載、
「鶏体頭部又は首部が、溝状電極4中を通過している間に、鶏体3に特定範囲のデューティ比のプラス成分の電気パルスが与えられる。鶏体に与える該電気パルスの好ましい電圧は約10〜60ボルト、更に好ましくは20〜40ボルトであり、好ましい周波数は100Hz〜2,000Hz、更に好ましくは700〜1,000Hzの範囲である。このプラス成分のパルス幅のデューティ比は、パルス波形の1例(プラス側10%のパルス波形)を示す図3(a)及びパルス波形の別の例(プラス側50%のパルス波形)を示す図3(b)に示すように、10%〜50%、好ましくは20〜50%の範囲であるときに最も優れた放血効果が得られる。尚、図示の例では、溝型電極4が正極に、そして線状電極7が負極となっているが、電極の正極及び負極は図示の例とは逆であっても同じ効果が得られる。」

「鶏体頭部又は首部が、溝状電極4中を通過している間に、鶏体3に特定範囲のデューティ比のプラス成分の電気パルスが与えられる。鶏体に与える該電気パルスの好ましい電圧は約10〜60ボルト、更に好ましくは20〜40ボルトであり、周波数は700Hz〜2,000Hzの範囲である。このプラス成分のパルス幅のデューティ比は、パルス波形の1例(プラス側10%のパルス波形)を示す図3(a)及びパルス波形の別の例(プラス側50%のパルス波形)を示す図3(b)に示すように、10%〜50%、好ましくは20〜50%の範囲であるときに最も優れた放血効果が得られる。尚、図示の例では、溝型電極4が正極に、そして線状電極7が負極となっているが、電極の正極及び負極は図示の例とは逆であっても同じ効果が得られる。」
に訂正する。

[3]段落【0021】の記載、
「【発明の効果】上記本発明によれば、生鶏体の頚動脈を切断後に、生鶏体に特定範囲のデューティ比のプラス成分の電気パルスを付与するので、該プラス成分の電気パルスによって鶏体内において急峻な血圧上昇があっても、生鶏体中において毛細血管が破裂することがない。従ってその後の処理において鬱血や血斑が残っていない高級な採肉製品が得られる。又、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに上記プラス成分の電気パルスを与えるので、鶏体が暴れる時間がなく、従って手羽折れ等の鶏体の損傷を少なくすることができる。」

「【発明の効果】上記本発明によれば、生鶏体の頚動脈を切断後に、生鶏体に特定範囲の周波数で且つ特定範囲のデューティ比のプラス成分の電気パルスを付与するので、該プラス成分の電気パルスによって鶏体内において急峻な血圧上昇があっても、生鶏体中において毛細血管が破裂することがない。従ってその後の処理において鬱血や血斑が残っていない高級な採肉製品が得られる。又、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに上記プラス成分の電気パルスを与えるので、鶏体が暴れる時間がなく、従って手羽折れ等の鶏体の損傷を少なくすることができる。」
に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項Aは、【請求項1】に記載された構成要件に、【請求項3】に記載された限定、及び、【発明の詳細な説明】の段落【0012】に開示された周波数が「700Hz〜」という限定を付加するとともに、訂正前【請求項3】を削除しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
また、上記訂正事項Bは、【課題を解決するための手段】、【実施例】、及び、【発明の効果】の記載を、【特許請求の範囲】の訂正に準じて訂正しようとするものであって、これらの訂正はいずれも【請求項3】、及び、【発明の詳細な説明】の段落【0012】の記載に拠るものであるから、当初の明細書の範囲内のものであって、かつ、明瞭でない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。

そして、上記各訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項の規定、及び、同条第3項において準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、この訂正を認める。

3.特許異議の申立ての概要及び取消理由通知

(1)特許異議申立の概要
本件特許異議申立人ゴーデックス株式会社は、甲1〜12号証、及び、検甲1号証の検証申出書を提示して、概略、本件の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。

甲1号証:マルイ農協チキンセンターの山上勝志氏作成の1995年6月21日付け提案書のコピー
甲2号証:山上勝志氏の宣誓書
申3号証:はばたき(マルイグループ社内報)1996年7月号のコピー
甲4号証:山上勝志氏の証明書
甲5号証:オートキラーの後に配置された電気スタナ-と、当該電気スタナ-の制御盤パワーユニット及び電気スタナーの機種がシモンズ社製のSF7000であることを示す銘板と、制御盤パワーユニットの出力波形の写真
甲6号証:山上勝志氏の証明書
甲7号証:電気スタナーの輸入関連書類及び納入時の検収調書
甲8号証:シモンズ社製電気スタナーSF7000の設置・保守マニュアル1994
甲9号証:米国特許公報4092761号
甲10号証:米国特許公報4358872号
甲11号証:THE JOURNAL OF APPLIED POULTRY RESERCH掲載の論文ELECTRICAL STUNNING OF BROILERS I992
甲12号証:特開平8-160号公報
検甲第1号証:マルイ農協チキンセンター(鹿児島県出水群野田町下名1671)に設置された電気スタナー

4.特許異議申立についての判断
(1)本件訂正発明
訂正明細書の請求項1、2に係る発明は、訂正明細書の【特許請求の範囲】の【請求項1】、【請求項2】に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記、2.(1)訂正の内容参照。)

(2)甲各号証の記載事項
[甲1号証]
電気スタナーを使用してきたこと、オートキラー(生鶏体の頚動脈切断機)の前に配置されていた電気スタナー(生鶏体に通電する装置)を、オートキラーの後に配置した結果、手羽折れが減少したこと等が記載されている。
[甲2号証]
前掲の提案書のコピーが、山上勝志氏が1995年6月21日に作成したもののコピーであることを宣誓する旨が記載されている。
[甲3号証]
山上勝志氏の提案が1995年度年間提案賞の優秀提案賞に選出された旨の紹介記事が記載されている。
[甲4号証]
前掲の95年度年間提案賞紹介記事のコピーが1995年に発行されたもののコピーであること及び紹介記事に記載の電気スタナーを1995年当時秘匿することなく使用していたことを証明する旨が記載されている。
[甲5号証]
「SF7000」の記号等が記載されている。
[甲6号証]
前掲の写真が、95年度年間提案賞紹介記事に記載の電気スタナーを2001年9月17日に撮影したものであること、当該電気スタナーはゴーデックス株式会社より購入し1995年当時使用していたこと、当該電気スタナ-が紹介記事の発行当時から今日まで改造されていないことを証明する旨が記載されている。
[甲7号証]
「検収年月日平成4年12月18日」等が記載されている。
[甲8号証]
電気スタナーを使用して16〜20V、200〜400mAのDCパルス電流でスタニングできる旨(第17頁第31行〜第33行)等が記載されている。
[甲9号証]
鶏体を電子的にリラックスさせる方法及び装置に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
・「約45vのDCがショック装置4の電極9と電極11との間に通電される」
(第6欄第67行〜第7欄第1行、訳は異議申立書の記載をもとに、若干の修正を加えたものである。以下同様。)、
・「喉を切って屠殺し作業エリア7を通過した後、家禽6はショック装置4に入り、上電極9と下電極11の間の回路を完成させ、電源装置60からの電流によって第2回目のショックを受ける」(第7欄第53行〜第58行)、及び、
・「第2回目のショックにより屠殺後の家禽の放血が改善され、更に家禽を気絶させリラックスさせて処理プラントの他のエリアへ入る際に家禽が暴れるのを防止する」(第7欄第62行〜第66行)
[甲10号証]
食肉を柔軟にする装置に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
・「図1に示すように、牛10をシャックルに掛けて引き上げ、鼻の高さを地上約6インチとした後、作業員が牛の頭を反らさせつつ喉を切る。尻尾を抑えて反射動による作業員の怪我を防止し、電極を直腸に挿入する。次いで牛に放血させ電極に通電する。」(第5欄第19行〜第22行)、
・「パルス周波数を30ppmとし、デューティー比を50%とし、電圧を約20ボルトとすれば、屠体からATPが効率よく放出されて肉質が効率良く柔軟化される」(第5欄第30行〜第33行)、及び、
・上記約20ボルトの電圧が、DC電圧である旨(図5の回路図、第4欄等の記載)
[甲11号証]
下記の事項が図面とともに記載されている。
・ブロイラーの電気スタニングで、プラス成分のDCパルス電流を含む種々の形態の電流が使用されている旨(第139頁の図3、及び、その説明)、及び、
・「アーバン大学のパイロット処理プラントに於いて1%濃度の塩水浴槽スタナーで、電圧と電流の関係を測定した。一羽の鳥をシミュレートすべく、1500オームの固定抵抗を使用した。AC(60Hz)とDC(矩形パルス波、100Hz、50%デューティー比)電流とを使用して、鳥に所定の電流を通電するのに必要な電圧値を決定した。」(第139頁の右欄の第1段落)
[甲12号証]
家禽の頸動脈を刃物で切断して食肉用に処理する方法において、下記の事項が図面とともに記載されている。
・「切断の1〜2秒前から切断の3〜4秒後まで家禽に25〜60Vの電気を印加すること」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)


(3)請求項1に係る発明
頚動脈切断後の生鶏体にDCパルス電流を与える技術は、検甲1号証について検証するまでもなく甲1号証〜甲8号証から分かるように、本件出願前に日本国内において公然実施されていたものと認める。
そこで、請求項1に係る発明と甲1〜8号証に記載の発明とを対比すると、両者は、「生鶏体の頚動脈を切断し、放血処理する鶏体の処理方法において、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに該鶏体に、電気を与えることを特徴とする鶏体の放血方法」である点で一致しており、下記の点で相違している。
[相違点]
本件請求項1に係る発明では「周波数が700Hz〜2,000Hzの範囲であり、パルス幅のデューティ比が10〜50%の範囲のプラス成分の電気パルス」を鶏体に与えるのに対し、甲1〜8号証に記載のものでは、周波数が約450Hz、パルス幅のデューティ比が約10%のプラス成分の電気パルスを与えている点。

[相違点について]
この点について、甲9号証には、頸動脈切断後の鶏体に、直流電気を与えることが、甲10号証には、頸動脈切断後の屠体に、周波数が30Hzでパルス幅のデューティー比が50%の直流成分の電気パルスを与えることが、甲11号証には、鶏体の処理方法において、周波数が100Hzでパルス幅のデューティー比が50%のプラス成分の電気パルスを用いる例が、そして、甲12号証には、頸動脈切断の3〜4秒後まで家禽に電気を与えることが、それぞれ記載されているものの、頸動脈切断後の鶏体に与える電気として、周波数が700Hz〜2,000Hzの範囲であり、パルス幅のデューティー比が10〜50%の範囲のプラス成分の電気パルスを用いることについては、いずれの証拠にも記載も示唆もなされていない。
しかも、本件請求項1に係る発明においては、頸動脈切断後の鶏体に与える電気として、周波数が700Hz〜2,000Hzの範囲であり、パルス幅のデューティー比が10〜50%の範囲のプラス成分の電気パルスを用いることにより、明細書に記載の
「該プラス成分の電気パルスによって鶏体内において急峻な血圧上昇があっても、生鶏体中において毛細血管が破裂することがない。従ってその後の処理において鬱血や血斑が残っていない高級な採肉製品が得られる。」
といった顕著な効果を奏するものと認められる。
してみると、本件請求項1に係る発明は、甲1〜12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることができない。

(4)請求項2に係る発明
本件請求項2に係る発明は、本件請求項1に係る発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当するから、上記(3)で説示したと同様の理由により、甲1〜12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることができない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、請求項1、2に係る発明の特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
鶏体の放血方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 生鶏体の頚動脈を切断し、放血処理する鶏体の処理方法において、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに該鶏体に、周波数が700Hz〜2,000Hzの範囲であり、パルス幅のデューティ比が10〜50%の範囲のプラス成分の電気パルスを与えることを特徴とする鶏体の放血方法。
【請求項2】 生鶏体の頚動脈を切断1〜10秒後から3〜10秒間前記プラス成分の電気パルスを与える請求項1に記載の鶏体の放血方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鶏体の放血方法に関し、更に詳しくは食鳥(ブロイラー等)の解体作業における鶏体からの効率的な放血方法に関する。尚、本発明において使用される「鶏体」なる用語はブロイラー、あひる、ガチョウ、七面鳥等の家禽を意味する。
【0002】
【従来の技術】
従来、食鳥の解体作業は、処理工場における屠殺、放血、脱毛、中抜き(内蔵除去)、次いで冷却された屠体の大バラシ、更にモモ肉、胸肉、ササミ、手羽等に分ける工程からなっている。
【0003】
上記工程における屠殺及び放血処理は、一般に生鶏体の頚動脈を切断することによって行われているが、生鶏体の頚動脈を切断すると、切断直後に生鶏体が非常に暴れて多数の手羽折れ等の損傷が発生する。そこで従来は生鶏体を炭酸ガス雰囲気に通して生鶏体に麻酔をかけた後に、鶏体の頚動脈を切断して放血処理を行っている。
しかしながら、この方法では、手羽折れ等の鶏体の損傷はないが、炭酸ガスの使用並びに装置の大型化によりコスト高であるという問題があり、現在では殆ど使用されていない。
【0004】
【発明が解決しようする課題】
現在では上記方法に代えて、例えば、特許第2527142号公報に記載のように、生鶏体に電圧を印加して生鶏体を気絶させ、その後に放血処理を行っており、この方法は前記方法のコストの問題を解決し且つ手羽折れ等の問題はないものの、放血処理が十分に行えないという問題がある。即ち、この方法で放血処理した鶏体を後の工程で解体すると、胸肉、ササミ等の採肉製品中に大小の鬱血部や血斑が残り、採肉製品の品質が大幅に低下するという問題がある。
【0005】
このような問題が発生する原因は、生鶏体に電圧を印加して該鶏体を気絶させる際に、生鶏体内部において血圧の急峻な上昇が発生し、その結果毛細血管が破裂することによるものと考えられる。以上の如き採肉製品中に大小の鬱血部や血斑が残るという問題は、物流が屠体(eviscerated chicken)流通である欧米では、鶏肉表面に多少の鬱血があっても大きな問題はないが、我が国では、正肉(portioned meat)流通が主流であるために、上記鬱血部や血斑が残っている採肉製品は低級品となり、大きな問題となっている。
【0006】
従って本発明の目的は、鶏体処理において鬱血や血斑が残っていない高級な採肉製品が得られ、そのうえ手羽折れ等の鶏体の損傷を少なくし得る技術を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、生鶏体の頚動脈を切断し、放血処理する鶏体の処理方法において、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに該鶏体に、周波数が700Hz〜2,000Hzの範囲であり、パルス幅のデューティ比が10〜50%の範囲のプラス成分の電気パルスを与えることを特徴とする鶏体の放血方法である。
【0008】
上記本発明によれば、生鶏体の頚動脈を切断後に、生鶏体に特定範囲のデューティ比のプラス成分の電気パルスを付与するので、該電気パルスによって生鶏体内において急峻な血圧上昇があっても、頚動脈が切断開放状態にあるので生鶏体中において毛細血管が破裂することがない。従ってその後の処理において鬱血や血斑が残っていない高級な採肉製品が得られる。又、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに上記電気パルスを与えるので、鶏体が暴れる時間がなく、従って手羽折れ等の鶏体の損傷を少なくすることかできる。
【0009】
【実施例】
次に好ましい実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
図1は、本発明の方法を図解的に説明する図であり、図1における符号1は、シャックル2及び線状電極7の支持体であり、該シャックル2はその先端部において鶏体3の足首を把持して鶏体3を懸垂する。鶏体3を懸垂したシャックル2は不図示の駆動手段によって電極7に接触しながら図面上矢印方向に移動するようになっている。実線で描かれた鶏体3は、その頚動脈が切断された後、直ちに矢印方向に移動し、一方の端部が開放された溝形状電極4の底部に鶏体の頭部が接触する。この際、電極4の底面には既に放血処理を終えた鶏体から放血された血液が浅く溜っており、該電極4が鶏体の頭部若しくは首部と該血液によって導通している。
【0010】
上記の溝状電極4は、図1に示すように図面上その底部が左方向に幾分下方に傾斜しており、鶏体3から放血された血液は、その傾斜によって電極4の外に流出するが、溝状電極4の底部表面は常に血液によって濡れている。又、実線表示の鶏体3は頭部が垂直に懸垂されているが、上記電極4の溝底部が、上記懸垂状態の鶏体の頭部より幾分高い位置に設定されており、点線表示の鶏体3のように、電極4の溝部に導入された状態では、その頭部及び首部が電極面上を引きずられる状態になっており、更に電極底部は図面上右方向に徐々に上方に傾斜しているので、鶏体の頭部若しくは首部は常に電極表面に接触した状態が維持されている。
【0011】
電極4は特定範囲のデューティ比のプラス成分のパルス発生装置5を介して電源6に接続しており、該パルス発生装置5により、電極4には放血処理時間中上記パルス信号が与えられる。このパルス信号が点線図示の鶏体3に与えられ、鶏体の放血が促進される。尚、シャックル2に接触している前記線状電極7が負極を形成している。次に図2を参照して溝状電極を更に詳しく説明する。溝状電極4の長さ(l)は、処理施設の全体の長さに合わせて決定されるが、通常は約2〜5メートル程度であり、溝底部の幅dは鶏体の頭部がスムースに通過できる幅であって、例えば、その幅(d)は約3〜10cm程度である。鶏体がこの電極4を通過する時間は、処理速度及び電極の長さによって決定されるが通常は約3〜10秒である。
【0012】
鶏体頭部又は首部が、溝状電極4中を通過している間に、鶏体3に特定範囲のデューティ比のプラス成分の電気パルスが与えられる。鶏体に与える該電気パルスの好ましい電圧は約10〜60ボルト、更に好ましくは20〜40ボルトであり、周波数は700Hz〜2,000Hzの範囲である。このプラス成分のパルス幅のデューティ比は、パルス波形の1例(プラス側10%のパルス波形)を示す図3(a)及びパルス波形の別の例(プラス側50%のパルス波形)を示す図3(b)に示すように、10%〜50%、好ましくは20〜50%の範囲であるときに最も優れた放血効果が得られる。尚、図示の例では、溝型電極4が正極に、そして線状電極7が負極となっているが、電極の正極及び負極は図示の例とは逆であっても同じ効果が得られる。
【0013】
上記プラス成分の電気パルスの付与は、鶏体の頚動脈切断後直ちに行うことによって、鶏体の暴れを最小限にすることができるので最も望ましいが、現実的には頚動脈切断後1〜10秒以内、好ましくは2〜10秒以内に行うことができる。電気パルスを与える時間は、鶏体頭部若しくは首部が溝状電極4を通過している時間、例えば、3〜10秒程度、好ましくは2〜5秒程度でよく、これより長い時間であっても問題はない。
【0014】
頚動脈が切断された鶏体は、軽い気絶状態となるので暴れることがなく、手羽折れ等の鶏体の損傷は上記プラス成分の電気パルス処理によって最小限に抑えられ、又、実験結果からの推測であるが、別の利点ももたらされると考えられる。上記電気パルスによって鶏体の血圧が断続的に急上昇するが、頚部動脈が切断開放されているので鶏体内の毛細血管が破裂することなく放血が促進されて十分な放血が為され、後の解体工程を経て鬱血や血斑がない良質の鶏肉が採取される。
【0015】
本発明では、電気パルスは直流及び交流のいずれでも効果はあるが、前記のような特定の周波数で、直流の特定範囲のデューティ比のプラス成分のパルス信号を用いたときに最良の結果が得られるのは、これらのプラス成分の電気パルスが鶏体内の毛細血管を最も破壊しない条件であると推測されている。又、パルスを使用することによって、電極4の底部に血液が溜っても十分なプラス成分の電気パルスを鶏体に与えることができる。
【0016】
実施例1
上記本発明の方法を具体的に実験した。使用場所は九州地方のK処理場であり、実施期間は1996年8月17日から9月11日までである。処理条件としては、鶏体の頚動脈を切断後2〜3秒以内に電圧35Vで、周波数1,000Hzのプラス成分のパルス(デューティ比20%)を4〜5秒間通電した。手羽元損傷比率、手羽先損傷比率及び胸肉鬱血比率の実験結果を表1に示す。
【0017】
比較例1
電気パルスによって気絶させずに、鶏体を放血させた以外は実施例1と全く同様にして実験を行った。手羽元損傷比率及び手羽先損傷比率に関する実験結果も表1に示す。
比較例2
特許第2527142号公報(特開平8-160号公報)の実施例に従って鶏体の頚動脈を切断する2秒前から鶏体に35Vの交流を5秒間通電を行った以外は、実施例1と全く同様にして実験を行った。胸肉鬱血比率の実験結果を表1に示す。
実施例1並びに比較例1及び2のそれぞれにおいて、処理鶏体数は2,000羽/日であり、表1中の各数値は平均値である。
【0018】
【表1】

【0019】
上記表1に基づき、一日当たりの処理鶏体数を仮に50,000羽とすると、比較例1の従来方法の場合には手羽折れ重量(手羽元)は50,000羽×2.8kg×0.52%=728kgとなる。正常な手羽の価格が300円/kg、折れた手羽の価格が150円/kg程度であり、この差150円/kgに折れた手羽の重量をかけると、手羽折れによる1日の損失は109,200円である。
一方、実施例1の本発明方法の場合の1日の損失は、109,200円×(0.17/0.52)=35,700円であり、本発明方法では、比較例1の従来方法に比較して1日当たり73,500円の増益となる。これを1年間(250日稼働)で計算すると、本発明の方法を採用した場合には1年間で1,837万円の増益になる。
【0020】
更に本発明の方法では、前記表1に示すように鬱血若しくは血班のある胸肉の比率は比較例2の従来方法に比べて著しく減少しており、この鬱血若しくは血班胸肉の比率の減少は、上記手羽折れの減少効果に加えて本発明の方法を一層経済的なものにしている。
因に試算する。一日当たりの処理鶏体数を仮に50,000羽とし、1羽の重量が2.8kgとすると、採肉量は比較例2の従来方法及び本発明方法はともに266kg/日であり変わらない。通常、採肉製品はその鬱血の程度でA級品とB級品に分けられ、A級品とB級品の価格の差は100円/kgである。1日当たりの差額は26,600円であり、1年間(250日稼働)で計算すると、その差額は665万円となる。この差額に、比較例2の従来方法と本発明方法の胸肉鬱血比率の比を乗ずると、年間の差は665万円×(0.09/0.18)=3,325,000円となる。従って本発明の方法を採用した場合には、前記手羽折れの減少効果に加えて、更に1年間で3,325,000円の増益になる。
【0021】
【発明の効果】
上記本発明によれば、生鶏体の頚動脈を切断後に、生鶏体に特定範囲の周波数で且つ特定範囲のデューティ比のプラス成分の電気パルスを付与するので、該プラス成分の電気パルスによって鶏体内において急峻な血圧上昇があっても、生鶏体中において毛細血管が破裂することがない。従ってその後の処理において鬱血や血斑が残っていない高級な採肉製品が得られる。又、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに上記プラス成分の電気パルスを与えるので、鶏体が暴れる時間がなく、従って手羽折れ等の鶏体の損傷を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の方法を図解的に説明する図。
【図2】 本発明の方法で使用する電極の1例を示す図。
【図3】 本発明の方法で使用するパルスの波形の1例を示す図。
【符号の説明】
1:支持体
2:シャックル
3:鶏体
4:電極
5:プラス成分のパルス発生装置
6:電源
7:電極
 
訂正の要旨 【特許請求の範囲】に
「【請求項1】生鶏体の頚動脈を切断し、放血処理する鶏体の処理方法において、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに該鶏体に、パルス幅のデューティ比が10〜50%の範囲のプラス成分の電気パルスを与えることを特徴とする鶏体の放血方法。
【請求項2】 生鶏体の頚動脈を切断1〜10秒後から3〜10秒間前記プラス成分の電気パルスを与える請求項1に記載の鶏体の放血方法。
【請求項3】 鶏体に与える前記プラス成分の電気パルスの周波数が100Hz〜2,000Hzの範囲である請求項1に記載の鶏体の放血方法。」
とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項1】生鶏体の頚動脈を切断し、放血処理する鶏体の処理方法において、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに該鶏体に、周波数が700Hz〜2,000Hzの範囲であり、パルス幅のデューティ比が10〜50%の範囲のプラス成分の電気パルスを与えることを特徴とする鶏体の放血方法。
【請求項2】生鶏体の頚動脈を切断1〜10秒後から3〜10秒間前記プラス成分の電気パルスを与える請求項1に記載の鶏体の放血方法。」
と訂正する。
また、明瞭でない記載の釈明を目的として、
(1)【発明の詳細な説明】の段落【0007】に
「【課題を解決するための手段】
上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、生鶏体の頚動脈を切断し、放血処理する鶏体の処理方法において、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに該鶏体に、パルス幅のデューティ比が10〜50%の範囲のプラス成分の電気パルスを与えることを特徴とする鶏体の放血方法である。」
とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、生鶏体の頚動脈を切断し、放血処理する鶏体の処理方法において、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに該鶏体に、周波数が700Hz〜2,000Hzの範囲であり、パルス幅のデューティ比が10〜50%の範囲のプラス成分の電気パルスを与えることを特徴とする鶏体の放血方法である。」
と訂正し、
(2)段落【0012】に
「鶏体頭部又は首部が、溝状電極4中を通過している間に、鶏体3に特定範囲のデューティ比のプラス成分の電気パルスが与えられる。鶏体に与える該電気パルスの好ましい電圧は約10〜60ボルト、更に好ましくは20〜40ボルトであり、好ましい周波数は100Hz〜2,000Hz、更に好ましくは700〜1,000Hzの範囲である。このプラス成分のパルス幅のデューティ比は、パルス波形の1例(プラス側10%のパルス波形)を示す図3(a)及びパルス波形の別の例(プラス側50%のパルス波形)を示す図3(b)に示すように、10%〜50%、好ましくは20〜50%の範囲であるときに最も優れた放血効果が得られる。尚、図示の例では、溝型電極4が正極に、そして線状電極7が負極となっているが、電極の正極及び負極は図示の例とは逆であっても同じ効果が得られる。」
とあるのを、
「鶏体頭部又は首部が、溝状電極4中を通過している間に、鶏体3に特定範囲のデューティ比のプラス成分の電気パルスが与えられる。鶏体に与える該電気パルスの好ましい電圧は約10〜60ボルト、更に好ましくは20〜40ボルトであり、周波数は700Hz〜2,000Hzの範囲である。このプラス成分のパルス幅のデューティ比は、パルス波形の1例(プラス側10%のパルス波形)を示す図3(a)及びパルス波形の別の例(プラス側50%のパルス波形)を示す図3(b)に示すように、10%〜50%、好ましくは20〜50%の範囲であるときに最も優れた放血効果が得られる。尚、図示の例では、溝型電極4が正極に、そして線状電極7が負極となっているが、電極の正極及び負極は図示の例とは逆であっても同じ効果が得られる。」
と訂正し、
(3)段落【0021】に
「【発明の効果】上記本発明によれば、生鶏体の頚動脈を切断後に、生鶏体に特定範囲のデューティ比のプラス成分の電気パルスを付与するので、該プラス成分の電気パルスによって鶏体内において急峻な血圧上昇があっても、生鶏体中において毛細血管が破裂することがない。従ってその後の処理において鬱血や血斑が残っていない高級な採肉製品が得られる。又、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに上記プラス成分の電気パルスを与えるので、鶏体が暴れる時間がなく、従って手羽折れ等の鶏体の損傷を少なくすることができる。」
とあるのを、
「【発明の効果】上記本発明によれば、生鶏体の頚動脈を切断後に、生鶏体に特定範囲の周波数で且つ特定範囲のデューティ比のプラス成分の電気パルスを付与するので、該プラス成分の電気パルスによって鶏体内において急峻な血圧上昇があっても、生鶏体中において毛細血管が破裂することがない。従ってその後の処理において鬱血や血斑が残っていない高級な採肉製品が得られる。又、生鶏体の頚動脈を切断後速やかに上記プラス成分の電気パルスを与えるので、鶏体が暴れる時間がなく、従って手羽折れ等の鶏体の損傷を少なくすることができる。」
と訂正する。
異議決定日 2002-06-11 
出願番号 特願平9-315681
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A22C)
最終処分 維持  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 山崎 豊
渡邊 真
登録日 2001-01-19 
登録番号 特許第3149128号(P3149128)
権利者 リンコ・ジャパン株式会社
発明の名称 鶏体の放血方法  
代理人 吉田 勝廣  
代理人 近藤 利英子  
代理人 吉田 勝廣  
代理人 近藤 利英子  
代理人 坂口 嘉彦  

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