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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C |
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管理番号 | 1064353 |
異議申立番号 | 異議2001-73105 |
総通号数 | 34 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-04-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-11-12 |
確定日 | 2002-07-01 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3167550号「加工性に優れた冷間鍛造用鋼材」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3167550号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3167550号の発明は、平成6年10月12日に特許出願され、平成13年3月9日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、株式会社住友金属小倉より特許異議の申立てがなされ、特許請求の範囲の請求項1に係る特許に対して取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年4月5日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 ア.訂正の内容 訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の「質量%でC:0.1〜0.6%,Si:0.01〜0.35%,Mn:0.3〜1.65%を含有する」を「質量%でC:0.1〜0.6%,Si:0.01〜0.35%,Mn:0.3〜1.65%を含有し、Bを含有しない」と訂正する。 訂正事項b 特許明細書の段落【0010】の「質量%でC:0.1〜0.6%,Si:0.01〜0.35%,Mn:0.3〜1.65%を含有する」を「質量%でC:0.1〜0.6%,Si:0.01〜0.35%,Mn:0.3〜1.65%を含有し、Bを含有しない」と訂正する。 イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項aは、特許明細書の段落【0023】、表2に記載の鋼の成分値に基づいて、特許請求の範囲の請求項1に記載の機械構造用鋼・冷間圧造用炭素鋼・機械構造用低合金鋼の鋼材の組成をBを含有しないものに限定するものであるから、訂正事項aは特許請求の範囲の減縮に該当する。訂正事項bは、訂正後の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、訂正事項bは、明りょうでない記載の釈明に該当する。更に、訂正事項a及びbは、特許明細書に記載された事項の範囲内において訂正するものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 ウ.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)申立て理由の概要 特許異議申立人株式会社住友金属小倉は、証拠として、甲第1〜3号証を提出し、本件特許の請求項1に記載の発明は甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同請求項1に記載の発明は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、同請求項1に記載の発明に係る特許は取り消すべきである旨主張している。 (2)本件発明 前記2.の項で示したように上記訂正が認められるから、本件特許の請求項1に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「質量%でC:0.1〜0.6%,Si:0.01〜0.35%,Mn:0.3〜1.65%を含有し、Bを含有しない機械構造用鋼・冷間圧造用炭素鋼・機械構造用低合金鋼の鋼材において、熱間圧延後の断面円形の鋼材に1回の脱炭かつ球状化焼鈍処理を施して、鋼材最表層部に0.01〜0.5mmの深さのフェライト脱炭層を有しせしめ、且つ該フェライト脱炭層を含む全脱炭領域層を鋼材半径に対する比として0.039〜0.37の範囲に有しせしめ、内部は球状化セメンタイト組織にしたものであることを特徴とする加工性に優れた冷間鍛造用鋼材。」 (3)引用刊行物記載の発明 当審が通知した取消理由で引用した刊行物1(「JISハンドブック 鉄鋼」(1992年4月20日)日本規格協会 p.1109〜1111、甲第1号証と同じ)には、 冷間圧造用ボロン鋼線材の化学成分(%)として、 SWRCHB220/C0.17〜0.23,Si0.10〜0.35,Mn0.60〜0.90,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB223/C0.20〜0.26,Si0.10〜0.35,Mn0.60〜0.90,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB226/C0.23〜0.29,Si0.10〜0.35,Mn0.60〜0.90,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB231/C0.28〜0.34,Si0.10〜0.35,Mn0.60〜0.90,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB234/C0.31〜0.37,Si0.10〜0.35,Mn0.60〜0.90,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB237/C0.34〜0.40,Si0.10〜0.35,Mn0.60〜0.90,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB320/C0.17〜0.23,Si0.10〜0.35,Mn0.70〜1.00,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB323/C0.20〜0.26,Si0.10〜0.35,Mn0.70〜1.00,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB331/C0.28〜0.34,Si0.10〜0.35,Mn0.70〜1.00,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB334/C0.31〜0.37,Si0.10〜0.35,Mn0.70〜1.00,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB420/C0.17〜0.23,Si0.10〜0.35,Mn0.80〜1.10,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB423/C0.20〜0.26,Si0.10〜0.35,Mn0.80〜1.10,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB437/C0.34〜0.40,Si0.10〜0.35,Mn0.80〜1.10,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB526/C0.23〜0.29,Si0.10〜0.35,Mn0.90〜1.20,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB531/C0.28〜0.34,Si0.10〜0.35,Mn0.90〜1.20,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB620/C0.17〜0.23,Si0.10〜0.35,Mn1.10〜1.40,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB623/C0.20〜0.26,Si0.10〜0.35,Mn1.10〜1.40,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB634/C0.31〜0.37,Si0.10〜0.35,Mn1.10〜1.40,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB637/C0.34〜0.40,Si0.10〜0.35,Mn1.10〜1.40,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB726/C0.23〜0.29,Si0.10〜0.35,Mn1.20〜1.50,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB731/C0.28〜0.34,Si0.10〜0.35,Mn1.20〜1.50,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB734/C0.31〜0.37,Si0.10〜0.35,Mn1.20〜1.50,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB737/C0.34〜0.40,Si0.10〜0.35,Mn1.20〜1.50,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上、 SWRCHB823/C0.20〜0.26,Si0.10〜0.35,Mn1.35〜1.65,P0.030以下,S0.030以下,B0.0008以上と記載され(第1109、1110頁表2)、 「4.1 脱炭層深さ 注文者の指定があった場合、7.2.1の試験を行い、その平均脱炭層深さは、表3による。」(第1110頁第4、5行)と記載され、 表3には、平均脱炭層深さ(mm)として、 (径)15以下/(フェライト脱炭層深さ)0.02以下/(全脱炭層深さ)0.15以下、 (径)15を超え25以下/(フェライト脱炭層深さ)0.03以下/(全脱炭層深さ)0.20以下、 (径)25を超え32以下/(フェライト脱炭層深さ)0.04以下/(全脱炭層深さ)0.25以下と記載され(第1110頁表3)、 同刊行物2(日本鉄鋼協会編「第3版 鉄鋼便覧 第IV巻 鉄鋼材料、試験・分析」(昭和59年1月20日)丸善 p.269、270、甲第2号証と同じ)には、 「冷間圧造用線はその目的で作られた冷間圧造用炭素鋼線材とマンガン鋼、ボロン鋼および低合金鋼の線材を用いて製造される。製造工程は、酸洗い、伸線、表面皮膜処理および焼なましに大別され、これらを組合せにより数通りのフローが存在するが、その代表例を次に示す。・・・ (2)線材→焼なまし→酸洗い→石灰処理→伸線→球状化焼なまし→酸洗い→リン酸亜鉛皮膜処理→仕上伸線→(冷間圧造) ・・・なお前述の工程(2)で伸線を2度に分けているのは仕上伸線で過度な減面率をさけるためと、後の球状化焼なまし時の球状化を促進するための2つの意味がある。・・・高炭素鋼や低合金鋼のように変形抵抗の大きい材料を使用する場合とか、シビアな冷間鍛造を行う場合、鋼を冷間成形しやすい組織に変えるため工程の途中で焼なましあるいは球状化焼なましを行う。」(第269頁右欄第28行〜第270頁左欄第22行)と記載され、 同刊行物3(日本鉄鋼協会編「鋼の熱処理 改訂5版」(昭和60年3月15日)丸善 p.686、甲第3号証と同じ)には、 「脱炭焼なまし・・・鉄鋼の表面から炭素を除去して延性をあたえるための焼なまし.」(第686頁左欄第8〜11行)と記載されている。 (4)対比・判断 本件発明は、「球状化焼鈍-伸線加工工程処理を簡省略した上で、冷間鍛造前の鋼材表層部のみを冷間鍛造加工に必要な脱炭領域に有して、強加工を受ける鋼材表層部の延性を著しく改善し、また、同時に内部に軟質な(「軟質は」は「軟質な」の誤記と認める。)球状化セメンタイト組織を有して強加工可能な冷間鍛造用鋼材を提供する」(特許明細書段落【0009】)ものである。 本件発明と刊行物1〜3に記載のものを対比する。 刊行物1には、C,Si及びMnを含有し、C,Si及びMn量が本件発明と重複する冷間圧造用鋼材であって、鋼材最表層部に所定の深さのフェライト脱炭層を有しせしめた冷間鍛造用鋼材が記載されているが、刊行物1に記載のものは、所定量のBを含有する鋼であり、Bを含有しない本件発明と鋼の組成が相違するものであり、また、刊行物1に記載のものは、本件発明のように、熱間圧延後の断面円形の鋼材に1回の脱炭かつ球状化焼鈍処理を施して、フェライト脱炭層を含む全脱炭領域層を鋼材半径に対する比として所定の範囲に有しせしめ、内部は球状化セメンタイト組織にするものでなく、鋼の組織及び熱処理条件が本件発明と相違する。 刊行物2には、冷間圧造用線材の製造において冷間圧造用線材を球状化焼きなましすることが記載されており、刊行物2に記載のものは、冷間圧造用線材の組織が球状化セメンタイト組織となっていることが明らかであるが、刊行物2には、熱間圧延後の断面円形の鋼材に1回の脱炭かつ球状化焼鈍処理を施して、フェライト脱炭層を含む全脱炭領域層を鋼材半径に対する比として所定の範囲に有しせしめることを示唆する記載がない。 刊行物3には、脱炭焼きなましが鋼材表面から炭素を除去して延性を与えるために行われることが記載されているが、刊行物3には、熱間圧延後の断面円形の鋼材に1回の脱炭かつ球状化焼鈍処理を施して、フェライト脱炭層を含む全脱炭領域層を鋼材半径に対する比として所定の範囲に有しせしめることを示唆する記載がない。 以上のとおり、刊行物1に記載のものは、本件発明と鋼の組成、鋼の組織及び熱処理条件が相違し、更に、刊行物2及び3には、熱間圧延後の断面円形の鋼材に1回の脱炭かつ球状化焼鈍処理を施して、フェライト脱炭層を含む全脱炭領域層を鋼材半径に対する比として所定の範囲に有しせしめる点を示唆する記載がないから、刊行物1に記載のものと刊行物2及び3に記載のものを寄せ集めることにより本件発明を構築できたものとすることができない。 そして、本件発明は、請求項1に記載の事項により、「本発明の冷間鍛造加工前の鋼材においては、鋼材表層部のみが所定の深さの脱炭層を有しているため、焼鈍-伸線工程処理を簡省略した上で強加工を受ける鋼材表層部を冷間鍛造加工に必要な延性を著しく改善することで冷間鍛造時のワレ感受性を向上させる事が出来、付随として金型寿命向上(「低下」は「向上」の誤記と認める。)につながり、低コストで強加工可能な冷間鍛造用鋼材を提供することが可能となった。」(特許明細書段落【0031】)という特許明細書に記載のとおりの顕著な作用効果を奏するものと認められる。 以上のことから、本件発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない 4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 加工性に優れた冷間鍛造用鋼材 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%で C:0.1〜0.6%, Si:0.01〜0.35%, Mn:0.3〜1.65% を含有し、Bを含有しない機械構造用鋼・冷間圧造用炭素鋼・機械構造用低合金鋼の鋼材において、熱間圧延後の断面円形の鋼材に1回の脱炭かつ球状化焼鈍処理を施して、鋼材最表層部に0.01〜0.5mmの深さのフェライト脱炭層を有しせしめ、且つ該フェライト脱炭層を含む全脱炭領域層を鋼材半径に対する比として0.039〜0.37の範囲に有しせしめ、内部は球状化セメンタイト組織にしたものであることを特徴とする加工性に優れた冷間鍛造用鋼材。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、冷間鍛造用の線材又は棒鋼に関わり、球状化焼鈍-伸線加工工程を簡省略した上で強冷間鍛造加工が可能な延性の優れた鋼材に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 強加工を施される冷間鍛造用品として、フランジ付ナットがあげられるが、これら部品は、自動車等の組立自働化に伴い、今後とも生産量の拡大が期待される商品である。フランジ等の張り出し部を有する部品は、従来、強冷間加工性確保のため、粗伸線前後で鋼材の軟化(セメンタイトの球状化)を目的として、複数回の焼鈍処理(SA)を実施している。パーライト生地である素材は、セメンタイトを球状化することにより、軟化が可能である。通常、冷間鍛造加工前に伸線を実施して、線材コイルの寸法精度向上を図るが、伸線により素材の表面硬度が上昇し、金型面圧増加に伴う金型寿命低下につながる。また、冷間鍛造加工が不可能となるため、軟化目的に焼鈍を実施する。 【0003】 表層部のみフェライト層(JIS規定、Dm-F:鋼の表層部でフェライトのみになった脱炭層の表面からの距離)あるいは、全脱炭領域層(Dm-T:表面からの生地の炭素濃度をもつ部分までの深さ)を有する鋼材の対応方法として一つは、鋼材を冷間鍛造時の2相鋼化やクラッド鋼の適用が考えられるが、コスト的・技術的に困難であり実用化が図れない状態である。 【0004】 一般に脱炭処理を行う方法として、鋼片加熱時、圧延後の冷却方法または、製品熱処理等が挙げられる。鋼片加熱時、深い脱炭層を形成させたとしても熱間圧延において断面減少率に比例した割合で脱炭層厚みの減少を伴うもので、目標とする均一な脱炭層を得るには困難である。また、圧延後の冷却による方法においても鋼に均一なフェライト層を有することは困難である。 【0005】 現状行われている脱炭処理としては、高温且つ脱炭性雰囲気下で長時間保持する方法であり、例えば、同出願人が特開平5-287387号で提案した2相域下での加熱保持及び冷却工程で、表層部に炭素量(C%)を低下させたフェライト相を有する表層脱炭線材を製造する方法がある。しかし、上記発明鋼材の成分は、本発明鋼材と基本成分が異なり高Si鋼であり、PC鋼棒の遅れ破壊改善を図ったものである。 【0006】 また、ナット製造用鋼材として、特開昭52-73161号公報に示すように、伸線した鋼材を酸化性又は還元性雰囲気中で脱炭焼鈍処理を行った鋼材の開発は行われているが、単純ナットのような容易に加工される伸線された中間鋼材の開発であり、工具寿命改善及び製品外径精度改善を図ったものである。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 従来鋼材では、各焼鈍前後において脱炭層は認められず、表1に示すような工程フローで強加工を施される製品に対して、軟化を目的として複数回の焼鈍と伸線工程によるコストアップは避けられない。また、冷間鍛造前の伸線工程は、製品強度、寸法管理等の必要性の有無により行っている。 【0008】 【表1】 【0009】 本発明は、球状化焼鈍-伸線加工工程処理を簡省略した上で、冷間鍛造前の鋼材表層部のみを冷間鍛造加工に必要な脱炭領域に有して、強加工を受ける鋼材表層部の延性を著しく改善し、また、同時に内部に軟質は球状化セメンタイト組織を有して強加工可能な冷間鍛造用鋼材を提供するものである。 【0010】 【課題を解決しようとする手段】 本発明は、質量%で C:0.1〜0.6%, Si:0.01〜0.35%, Mn:0.3〜1.65% を含有し、Bを含有しない機械構造用鋼・冷間圧造用炭素鋼・機械構造用低合金鋼の鋼材において、熱間圧延後の断面円形の鋼材に1回の脱炭かつ球状化焼鈍処理を施して、鋼材最表層部に0.01〜0.5mmの深さのフェライト脱炭層を有しせしめ、且つ該フェライト脱炭層を含む全脱炭領域層を鋼材半径に対する比として0.039〜0.37の範囲に有しせしめ、内部は球状化セメンタイト組織にしたものであることを特徴とする加工性に優れた冷間鍛造用鋼材である。 【0011】 【作用】 鋼材表層部の炭素(C%)量変化させた鋼材でワレキズ深さと限界加工率について調査した結果、図1に示すように、線材サイズφ14mmでワレキズ深さの影響調査を行い、人工的に鋼材表面へキズ深さを変化させた直線状のキズを軸方向と周方向の2方向に設け、その鋼材を冷間鍛造加工と等価なプレス加工機で加工歪み0.4を与えた後の製品として有害な鋼材ワレキズ深さ(ワレ出現率=表3に示す評点1以上の鋼材出現率)を調査した。その結果、炭素(C%)量を低減させた鋼材で、キズ感受性は著しく改善されることを究明した。しかし、C元素は安価な強化元素であり、機械構造用鋼、冷間圧造用炭素鋼、機械構造用低合金鋼として、所定の強度を確保する為には、不可欠な元素である。 【0012】 そこで、ネジ、ナット類製造範囲の機械構造用鋼、冷間圧造用炭素鋼、機械構造用低合金鋼のJIS G 3507,4051と4106の成分範囲であるC:0.1〜0.6%,Si:0.01〜0.35%,Mn:0.3〜1.65%において、鋼材表層部のみを一回の熱処理で冷間鍛造加工に必要な脱炭領域を有する事で、表層部の延性を著しく向上させ、内部を軟質な球状化セメンタイト組織にした鋼材の開発を行った。本発明の鋼材では、軟化目的の初期球状化焼鈍と粗伸線工程を省略することが出来る。 【0013】 更に、表層に多少のキズ(深さ0.05mm以内)を保有していても表層部の脱炭による軟質化(延性大)で鍛造時の製品へのワレが発生しないことを確認した。 【0014】 冷間鍛造加工に必要な延性を確保するため、フェライト層(Dm-F)を0.01〜0.5mmにすることと、全脱炭層領域(Dm-T)の鋼材半径(r)に対する比(Dm-T/r)を0.039〜0.37にすることで冷間鍛造加工に必要な脱炭領域となり、表層部の延性が高くなり強加工が可能となる。Dm-Fが、冷間鍛造加工前で0.01mm未満なら通常の鋼材の機械特性を有し、加工特性の変化もない。0.5mmを越すと加工後の製品に脱炭層を有するため、製品に必要な強度確保が困難であり、冷間鍛造前の加工硬化を狙って伸線工程を行っても製品必要強度の保障は出来ない事から、Dm-F=0.01〜0.5mmとした。 【0015】 また、Dm-Tとrの比が0.039未満であると強加工を実施できなく製品にワレが発生してしまい、比が0.37を越すと製品での脱炭組織が残存しているため、製品強度確保が困難となるため、Dm-T/r=0.039〜0.37に限定した。 【0016】 例えば、ナットのような機械構造用部品については、ネジ部で強度を受け持つため、鋼材断面内部の強度は必要であるが、表層部については、あまり強度は必要でない。 【0017】 また、冷間鍛造加工の欠陥は、主に表面キズを起点としてワレを発生するものであり、表層部のみのキズ感受性を改善すれば冷間鍛造加工時の欠陥は著しく改善される。また、鋼材表層部のみ低C%化(脱炭領域を有)して、キズ感受性を低下させることと延性を大きくする事が出来、また、金型への面圧も低くする事が出来るため金型寿命が向上しコスト低減に有効である。 【0018】 そこで本発明は、鋼材表層に所定深さの脱炭層を有すると共に、内部変形能を確保する目的のために、内部を軟質な球状化セメンタイト組織として優れた冷間鍛造加工性を有する鋼材を提供するものである。 【0019】 脱炭方法として図2で示す例図のセメンタイト球状化(SA)のヒートパターンにより、2相域下での加熱保持及び冷却工程及び熱処理時の雰囲気コントロールを行い、冷間鍛造加工時に必要な表層部を低炭素化(C%)した表層脱炭線材を製造する。 【0020】 尚、従来の該球状化焼鈍においては、例えばRX雰囲気(CO:20%,CO2:2%,H2:26%,N2:51%)下で、事前に鋼材表面のスケールを酸洗、ショットブラスト等でデスケーリングを行っているが、鋼材の脱炭領域を有さない〔Dm-F=0,Dm-T/r=1〜2×10-3〕よう従来材の焼鈍雰囲気は、鋼材のカーボン・ポテンシャルと同等になるよう雰囲気(CO,CO2)に調整してセメンタイト球状化焼鈍を実施している。 【0021】 本発明の鋼材は、表層部に脱炭層を有していることから、その脱炭レベルによっては焼鈍前デスケーリングの省略が可能となり、また雰囲気ガスを変更(例えば、N2ガスに変更)して、コスト削減も図ることが出来る。 【0022】 【実施例】 以下、さらに実施例により本発明の効果について具体的に説明する。供試材サイズは、φ14mm,φ21mm、鋼種は表2で示す成分値のJIS G3507規格SWRCH35K,SWRCH45Kの線材コイルである。本発明材は図2のセメンタイト球状化のヒートパターンを用いて脱炭性雰囲気を調整してにおいて、一次均熱(A:740℃)、二次均熱(B:690℃)の雰囲気を変化させて、表層部を脱炭せしめ内部がセメンタイト球状化した組織が得られる焼鈍を実施した。 【0023】 【表2】 【0024】 表3に各々の供試材の焼鈍-伸線工程回数、さらに焼鈍後の脱炭深さ結果を示した。その鋼材を仕上げ伸線、冷間鍛造した後の製品において引張試験を実施し(JIS 4号試験片による)、引張強さ、絞りを調査した。 【0025】 【表3】 【0026】 その結果が表3に示すように、本発明鋼材は、従来の伸線後焼鈍材と同等な製品強度であることを確認し、且つ1回の焼鈍で冷間鍛造加工に必要な脱炭領域とかつ内部をセメンタイト球状化した鋼材を製造する事が可能であることを確認した。 【0027】 また、同表には、脱炭焼鈍後に軸方向と周方向にキズ深さ0.5mmの直線状のキズを付けて、伸線工程を省略し、加工プレス機で加工歪み0.2,0.5を与えた時のワレ発生評点について記述している。 【0028】 比較材のNo.3のように、フェライト脱炭(Dm-F)が0であると1回焼鈍時のワレ発生が評点2となり2回焼鈍が必須になる。同材のNo.5のように全脱炭領域Dm-Tと鋼材半径rとの比が0.37を越える場合、製品時の強度不足が発生する。本発明材のNo.6〜9のような脱炭量があると冷間鍛造加工時の延性と強度を確保することが出来る。本発明材のNo.6の表層断面のミクロ写真の複写図を図3(a)に示す。 【0029】 このNo.6材は、Dm-F:0.07〜0.12mm,Dm-T:0.3〜0.45mmである。 【0030】 また、No.9材の表層断面ミクロ写真の複写図を図3(b)に示す。このNo.9材は、Dm-F:0.2〜0.3mm,Dm-T:0.4〜0.5mmである。 【0031】 【発明の効果】 本発明の冷間鍛造加工前の鋼材においては、鋼材表層部のみが所定の深さの脱炭層を有しているため、焼鈍-伸線工程処理を簡省略した上で強加工を受ける鋼材表層部を冷間鍛造加工に必要な延性を著しく改善することで冷間鍛造時のワレ感受性を向上させる事が出来、付随として金型寿命低下につながり、低コストで強加工可能な冷間鍛造用鋼材を提供することが可能となった。 【0032】 自動車部品のようなある部分の強加工を必要とする製品に対して、今まで熱処理と粗伸線工程を省略を可能とする鋼材の開発によって、部品産業に対して大きな貢献を行う事が出来る。 【図面の簡単な説明】 【図1】 素材ワレキズ深さとワレ出現率の関係を示す図、 【図2】 鋼材表層部を脱炭せしめ、内部を球状化するためのヒートパターンの一例を示す図。 【図3】 (a)は、熱処理で鋼材表面Dm-F:≦0.1mm,Dm-T:0.3〜0.45mm全周均一な脱炭領域を有する表層の組織例を示す金属組織の写真、(b)は、Dm-F:≦0.2〜0.3mm,Dm-T:0.3〜0.5mm全周均一な脱炭領域を有する表層組織例を示す金属組織の写真。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 訂正事項a 特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1の「質量%でC:0.1〜0.6%,Si:0.01〜0.35%,Mn:0.3〜1.65%を含有する」を「質量%でC:0.1〜0.6%,Si:0.01〜0.35%,Mn:0.3〜1.65%を含有し、Bを含有しない」と訂正する。 訂正事項b 明りょうでない記載の釈明を目的として、特許明細書の段落【0010】の「質量%でC:0.1〜0.6%,Si:0.01〜0.35%,Mn:0.3〜1.65%を含有する」を「質量%でC:0.1〜0.6%,Si:0.01〜0.35%,Mn:0.3〜1.65%を含有し、Bを含有しない」と訂正する。 |
異議決定日 | 2002-06-11 |
出願番号 | 特願平6-246125 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C22C)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小川 武 |
特許庁審判長 |
三浦 悟 |
特許庁審判官 |
板谷 一弘 酒井 美知子 |
登録日 | 2001-03-09 |
登録番号 | 特許第3167550号(P3167550) |
権利者 | 新日本製鐵株式会社 |
発明の名称 | 加工性に優れた冷間鍛造用鋼材 |
代理人 | 高野 弘晋 |
代理人 | 岸田 正行 |
代理人 | 岸田 正行 |
代理人 | 森 道雄 |
代理人 | 水野 勝文 |
代理人 | 小花 弘路 |
代理人 | 穂上 照忠 |
代理人 | 小花 弘路 |
代理人 | 水野 勝文 |
代理人 | 高野 弘晋 |