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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない A41B
管理番号 1064934
審判番号 訂正2002-39017  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-06-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-01-21 
確定日 2002-09-09 
事件の表示 特許第3055650号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I 手続の経緯

特許第3055650号の請求項1ないし4に係る発明についての手続の経緯は、およそ次のとおりである。
(1)特許出願(特願平7-14577号) 平成7年1月31日(優先権主張平成6年10月14日)
(2)特許権の設定の登録 平成12年4月14日
(3)土山健二より特許異議の申立て 平成12年12月26日
(4)田中正子より特許異議の申立て 平成12年12月26日
(5)訂正請求 平成13年7月2日
(6)取消決定(異議2000-74554号) 平成13年9月19日
(7)取消決定取消の訴え〔東京高等裁判所平成13年(行ケ)第495号〕 平成13年11月2日
(8)本件審判の請求 平成14年1月21日
(9)訂正拒絶理由通知書の発送 平成14年3月14日
(10)請求人より意見書及び審判事件上申書の提出 平成14年5月13日
(11)請求人と合議体との面接 平成14年6月19日
(12)請求人より上申書の提出 平成14年7月3日

II 請求の趣旨

1 本件審判の請求の要旨は、特許第3055650号発明の願書に添付した明細書について、審判請求書に添付した明細書(以下「訂正明細書」という。)のとおりに訂正をすることを求めるものである。

2 訂正の内容は次のア〜エのとおりである。
ア 特許請求の範囲の記載について、
「【請求項1】液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これら両シート間に配置される吸収体とを有する吸収性本体を備え、該吸収性本体における着用者の腹側に位置する腹側部及び背側に位置する背側部それぞれの両側縁部の接合固定により、ウエスト開口部及び一対のレッグ開口部が形成され、使用後に該両側縁部の接合部が引き剥がされて廃棄されるパンツ型使い捨ておむつにおいて、
上記トップシート及び/又は上記バックシートは、おむつの縦方向における強力が1500gf/50mm以上であり、
接合固定される上記腹側部及び上記背側部の両側縁部は、少なくとも上記トップシート及び/又は上記バックシートを含む2枚のシートからなり、該両側縁部の接合強度は1000gf/30mm以上であることを特徴とするパンツ型使い捨ておむつ。
【請求項2】上記両側縁部の接合強度は3000gf/30mm以下であることを特徴とする請求項1記載のパンツ型使い捨ておむつ。
【請求項3】上記ウエスト開口部及び一対の上記レッグ開口部には、それぞれその周縁部全周に亘って実質的に連続したギャザーを形成する弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のパンツ型使い捨ておむつ。
【請求項4】上記ウエスト開口部と一対の上記レッグ開口部との間に存し上記吸収体の配置されている胴周囲部には、その全周に亘って実質的に連続したギャザーを形成する複数の弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のパンツ型使い捨ておむつ。」を、
「【請求項1】液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これら両シート間に配置される吸収体とを有する吸収性本体を備え、該吸収性本体における着用者の腹側に位置する腹側部及び背側に位置する背側部それぞれの両側縁部の接合固定により、ウエスト開口部及び一対のレッグ開口部が形成され、使用後に該両側縁部の接合部が引き剥がされて廃棄されるパンツ型使い捨ておむつにおいて、
上記接合固定は、上記両側縁部において上記トップシートの着用者面同士を当接させ、超音波シール、ヒートシール又は高周波シールによる接合により形成されており、
上記ウエスト開口部及び一対の上記レッグ開口部には、それぞれその周縁部全周に亘って実質的に連続したギャザーを形成する弾性部材が設けられており、
上記トップシートは、おむつの縦方向における強力が1500〜3500gf/50mmであり、
接合固定される上記腹側部及び上記背側部の両側縁部は、少なくとも上記トップシート又は上記トップシート及び上記バックシートを含む2枚のシートからなり、該両側縁部の接合強度〔この接合強度は、上記接合部を、その長さ方向に対する直交方向に30mmの幅の複数の細片に切断し、これらの細片を、それぞれ引っ張り速度300mm/min、180度の剥離角度で引っ張る方法により測定される最大(極限)の力をいう〕は1000〜3000gf/30mmであることを特徴とするパンツ型使い捨ておむつ。
【請求項2】上記ウエスト開口部と一対の上記レッグ開口部との間に存し上記吸収体の配置されている胴周囲部には、その全周に亘って実質的に連続したギャザーを形成する複数の弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載のパンツ型使い捨ておむつ。」
に訂正する。
イ 発明の詳細な説明の段落【0008】の記載について、
「【課題を解決するための手段】本発明は、液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これら両シート間に配置される吸収体とを有する吸収性本体を備え、該吸収性本体における着用者の腹側に位置する腹側部及び背側に位置する背側部それぞれの両側縁部の接合固定により、ウエスト開口部及び一対のレッグ開口部が形成され、使用後に該両側縁部の接合部が引き剥がされて廃棄されるパンツ型使い捨ておむつにおいて、上記トップシート及び/又は上記バックシートは、おむつの縦方向における強力が1500gf/50mm以上であり、接合固定される上記腹側部及び上記背側部の両側縁部は、少なくとも上記トップシート及び/又は上記バックシートを含む2枚のシートからなり、該両側縁部の接合強度は1000gf/30mm以上であることを特徴とするパンツ型使い捨ておむつ(以下、「第1発明」という場合には、この発明をいう。)を提供することにより上記目的を達成したものである。」を、
「【課題を解決するための手段】本発明は、液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これら両シート間に配置される吸収体とを有する吸収性本体を備え、該吸収性本体における着用者の腹側に位置する腹側部及び背側に位置する背側部それぞれの両側縁部の接合固定により、ウエスト開口部及び一対のレッグ開口部が形成され、使用後に該両側縁部の接合部が引き剥がされて廃棄されるパンツ型使い捨ておむつにおいて、上記接合固定は、上記両側縁部において上記トップシートの着用者面同士を当接させ、超音波シール、ヒートシール又は高周波シールによる接合により形成されており、上記ウエスト開口部及び一対の上記レッグ開口部には、それぞれその周縁部全周に亘って実質的に連続したギャザーを形成する弾性部材が設けられており、上記トップシートは、おむつの縦方向における強力が1500〜3500gf/50mmであり、接合固定される上記腹側部及び上記背側部の両側縁部は、少なくとも上記トップシート又は上記トップシート及び上記バックシートを含む2枚のシートからなり、該両側縁部の接合強度[この接合強度は、上記接合部を、その長さ方向に対する直交方向に30mmの幅の複数の細片に切断し、これらの細片を、それぞれ引っ張り速度300mm/min、180度の剥離角度で引っ張る方法により測定される最大(極限)の力をいう]は1000〜3000gf/30mmであることを特徴とするパンツ型使い捨ておむつ(以下、「第1発明」という場合には、この発明をいう。)を提供することにより上記目的を達成したものである。」
に訂正する。
ウ 発明の詳細な説明の段落【0026】中の記載について、
「そして、上記の各々のパートについての接合強度〔接合部8を、その長さ方向に対して30mmの幅に切断してサンプルを作成し、得られたサンプルを引っ張り速度300mm/min の条件で図5に示す矢印方向、即ち180度剥離する方向に引っ張った際の最大(極限)の力〕は、それぞれ1000gf/30mm以上、好ましくは1000〜3000gf/30mm、更に好ましくは1500〜2000gf/30mmである。本実施例では上記の3つのパートとも平均値で約1800gf/30mmである。即ち、本発明においては、上記接合部8を形成する上記両側縁分の接合強度は1000gf/30mm以上である。上記の各パートの接合強度が、3000gf/30mmを超えると、接合部8を実質的に剥がす(引き裂く)ことが困難であり、1000gf/30mm未満であると、装着時に剥がれて(裂けて)しまう可能性が高くなるので、上記範囲内とするのが好ましい。」を、
「そして、上記の各々のパートについての接合強度〔接合部8を、その長さ方向に対して30mmの幅に切断してサンプルを作成し、得られたサンプルを引っ張り速度300mm/minの条件で図5に示す矢印方向、即ち180度剥離する方向に引っ張った際の最大(極限)の力〕は、それぞれ1000〜3000gfノ30mm、好ましくは1500〜2000gf/30mmである。本実施例では上記の3つのパートとも平均値で約1800gf/30mmである。即ち、本発明においては、上記接合部8を形成する上記両側縁部の接合強度は1000〜3000gf/30mmである。上記の各パートの接合強度が、3000gf/30mmを超えると、接合部8を実質的に剥がす(引き裂く)ことが困難であり、1000gf/30mm未満であると、装着時に剥がれて(裂けて)しまう。」
に訂正する。
エ 発明の詳細な説明の段落【0028】中の記載について、
「また、この際の上記の接合固定された接合部8の接合強度は、1000gf/30mm以上である。」を、
「また、この際の上記の接合固定された接合部8の接合強度は、1000〜3000gf/30mmである。」
に訂正する。

III 当審の判断

1 そこで、前記ア〜エの訂正について検討すると、これらの訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするもので、かつ、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないから、本件審判の請求は、平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)第126条第1項及び第2項の規定に適合するものである。
進んで、本件審判の請求が同条第3項の規定に適合するものであるか否かについて検討する。

2 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されている事項により特定される発明(以下順に「第1発明」、「第2発明」という。)は、次のとおりのものである。
【請求項1】液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これら両シート間に配置される吸収体とを有する吸収性本体を備え、該吸収性本体における着用者の腹側に位置する腹側部及び背側に位置する背側部それぞれの両側縁部の接合固定により、ウエスト開口部及び一対のレッグ開口部が形成され、使用後に該両側縁部の接合部が引き剥がされて廃棄されるパンツ型使い捨ておむつにおいて、
上記接合固定は、上記両側縁部において上記トップシートの着用者面同士を当接させ、超音波シール、ヒートシール又は高周波シールによる接合により形成されており、
上記ウエスト開口部及び一対の上記レッグ開口部には、それぞれその周縁部全周に亘って実質的に連続したギャザーを形成する弾性部材が設けられており、
上記トップシートは、おむつの縦方向における強力が1500〜3500gf/50mmであり、
接合固定される上記腹側部及び上記背側部の両側縁部は、少なくとも上記トップシート又は上記トップシート及び上記バックシートを含む2枚のシートからなり、該両側縁部の接合強度〔この接合強度は、上記接合部を、その長さ方向に対する直交方向に30mmの幅の複数の細片に切断し、これらの細片を、それぞれ引っ張り速度300mm/min、180度の剥離角度で引っ張る方法により測定される最大(極限)の力をいう〕は1000〜3000gf/30mmであることを特徴とするパンツ型使い捨ておむつ。
【請求項2】上記ウエスト開口部と一対の上記レッグ開口部との間に存し上記吸収体の配置されている胴周囲部には、その全周に亘って実質的に連続したギャザーを形成する複数の弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載のパンツ型使い捨ておむつ。

3 前記Iの(9)の訂正拒絶理由通知書においては、次の刊行物1〜5を引用した。
刊行物1:実願平3-87029号(実開平5-41523号)のCD-ROM
刊行物2:特開平5-239754号公報
刊行物3:特開昭61-207605号公報
刊行物4:特開平5-317356号公報
刊行物5:特開平4-166150号公報
(1)刊行物1には、「使い捨てパンツ型着用物品」に関して、次の1a〜1fの事項が図面(図1〜2)とともに記載されている(ただし、図1において吸収体4は付番されていない。)。
1a 「透液性トップシートと不透液性バックシートからなり、これら両シートの少なくとも一方が熱溶融性素材を含み、これら両シートからなる前身頃と後身頃の横方向対向側部が溶融接合された使い捨てパンツ型着用物品において、前記前・後身頃の横方向対向側部の接合が間欠的になされ、かつ、該接合部位が前記トップシートとバックシートとが一体になった切れ目のない薄膜で塞がれていることを特徴とする前記着用物品。」《実用新案登録請求の範囲》
1b 「【産業上の利用分野】この考案は使い捨てパンツ型着用物品に関し、より詳しくは使い捨てパンツ型着用物品における横方向対向側部を間欠的に接合してなる使い捨てパンツ型着用物品に関する。」《段落【0001】》
1c 「【従来の技術】従来、使い捨てのパンツ型着用物品、例えばトレーニングパンツやパンツ型の使い捨ておむつ、は一般に柔軟な繊維素材や熱可塑性合成樹脂フィルムなどでトップシートとバックシートとを構成し、必要に応じて両シート間に吸収体を介在させたうえで、これら両シートからなる前身頃と後身頃とを互いに横方向対向側部で接合してパンツ型の形状にしてある。かかる場合の接合手段には超音波融着、エンボス加工、接着、縫合などがある。」《段落【0002】》
1d 「トップシートおよびバックシートの少なくとも一方が熱溶融性素材を含んでいる時には、接合手段のうち超音波融着や熱エンボス加工等の素材を溶融、加圧して接合する手段が利用できる。」《段落【0003】》
1e 「図1はこの考案に係る使い捨てパンツ型おむつの斜視図であって、その一部が切り欠いて示してある。おむつ1は透液性トップシート2、不透液性バックシート3、これら両シートの間に介在する吸収体4、胴周り弾性部材5、脚周り弾性部材6等で構成されている。胴開口部7と脚開口部8の各々の周縁は、弾性部材5、6が収縮しギャザー仕立てになっている。前身頃10と後身頃11の各々の横方向対向側部10A、11Aが間欠的な接合線14により接合してある。《中略》トップシート2とバックシート3とは、外形がほぼ同じであって、吸収体4の周縁より外側ヘ拡がり、その拡がった部分においてホットメルト接着剤により間欠的に接着してある。」《段落【0008】》
1f 「図2は、図1におけるX-X線断面の一部である。接合線14は、超音波融着によって前身頃10と後身頃11の素材が溶融接合した部位14Aと、非接合部位14Bとの交互の繰り返しによって構成されている。接合部位14Aは約7×2mm(幅×高さ)、接合部位14A間は非接合部位14Bであって高さ約2.5mmを有する。接合線14の上端および/または下端には、非接合部位14Bよりも大きめの非接合部位14E、14E’を設けておき(図1参照)、ここを摘持すれば前身頃10と後身頃11とを接合線14に沿って容易に引き裂くことができるようにしてある。接合部位14Aではトップシート2とバックシート3とが溶融して一体となり、接合部位14A全体を塞ぐ滑らかで切れ目のない薄膜を形成している。」《段落【0009】》
そして、図1には、前記1aにいう「使い捨てパンツ型着用物品」の前身頃10の両側にある横方向対向側部10A,10Aと後身頃11の両側にある横方向対向側部11A,11Aとが、着用者面同士を当接させて接合固定されている状態が描かれている。
さて、(i)前記1aにいう「使い捨てパンツ型着用物品」においては、透液性トップシートと不透液性バックシートとこれら両シートの間に介在する吸収体とで「吸収性本体」というべきものが構成されることが明らかであり、(ii)前記1c、1eには、「使い捨てパンツ型着用物品」の一例として「パンツ型使い捨ておむつ」が挙げられており、(iii)前記1e、1fの各末尾の記載によれば、接合される前・後身頃の両側にある横方向対向側部には前記トップシート及び前記バックシートが存在すること、これに図1の記載を参照すると、接合固定は、当該トップシートの着用者面同士を当接させて行われることがそれぞれ理解されるから、刊行物1の前記1a〜1fの記載を、図1〜2の記載を参照しながら総合すると、同刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(便宜上段落を設けた。)。
【引用発明】「透液性トップシートと、不透液性バックシートと(ただし、これら両シートの少なくとも一方が熱溶融性素材を含む。)、これら両シートの間に介在する吸収体とを有する吸収性本体を備え、
これら両シートからなる前身頃及び後身頃それぞれの両横方向対向側部の間欠的な接合固定(ただし、その接合部位は、前記トップシートと前記バックシートとが一体になった切れ目のない薄膜で塞がれている。)により、胴開口部及び一対の脚開口部が形成され、
前記前身頃と前記後身頃それぞれの両横方向対向側部の接合部を接合線に沿って容易に引き裂くことができるようにしてあるパンツ型使い捨ておむつにおいて、
前記接合固定は、前記両横方向対向側部において前記トップシートの着用者面同士を当接させ、超音波融着又は熱エンボス加工による接合により形成されており、
前記胴開口部と一対の前記脚開口部の各々の周縁は、弾性部材が収縮しギャザー仕立てとなっており、
接合固定される前記前身頃及び前記後身頃の両横方向対向側部は、前記トップシート及び前記バックシートを含む2枚のシートからなるパンツ型使い捨ておむつ。」
(2)刊行物2の特許請求の範囲欄、段落【0001】、【0002】、【0006】、【0019】、実施例、比較例、表1等の記載を総合すると、同刊行物には、次の2a〜2bの事項が記載されていると認められる。
2a 「使い捨ておむつの身体に接触する側の表面材に用いる不織布として、長繊維相互間を固着させた不織布であって、例えば、縦方向(つまりMD方向)及び横方向(つまりCD方向)の引張強力の平均値である引張強度が4.2〜5.4kg/5cm(すなわち4200〜5400gf/50mm)のものを使用すること。」
2b 「使い捨ておむつの身体に接触する側の表面材に用いるところの、長繊維相互間を固着させた不織布において、その引張強度を十分なものとすると風合が低下し、風合を向上させようとすると引張強度が低下すること。」
(3)刊行物3の特許請求の範囲欄第1〜11項、4頁左下欄2〜18行、5頁右上欄6〜16行、5頁左下欄7行〜右下欄4行、7頁左上欄10行〜左下欄5行、8頁左上欄4行〜右上欄5行、8頁右下欄18行〜9頁左上欄2行、9頁右上欄4〜10行、9頁右下欄4〜11行、図面(第1〜12図)等の記載を総合すると、同刊行物には、次の3a〜3bの事項が記載されていると認められる。
3a 「前板及び後板の側縁部分の一部を互いに接合した側部シームを具備し、使用後に、この側部シームを手で引き剥がして廃棄するタイプの使い捨てパンツにおいて、パンツの形態保持及び側部シームの引き剥がしの容易達成のために、側部シームの接合強度を約2000グラム/インチ(すなわち約2400gf/30mm)とすること。」
3b 「前記接合強度は、インストロン張力テスタ(すなわちインストロン型引張試験機)のような適当な器具で測定した値であること。」
(4)刊行物4の特許請求の範囲欄、段落【0001】、【0011】、【0017】、図面(図1〜8)等の記載を総合すると、同刊行物には、次の4a〜4bの事項が記載されていると認められる。
4a 「前・後身頃の胴回りの対向側部を互いに重ね合せ、前・後身頃の一方の胴回り対向側部に外側へ延出するように設けた各締結片の基端部を前・後身頃の胴回りの対向側部にそれぞれ重ね合せ、これら重ね合せ部を一体に接合し、これら接合部よりも内側であってこれら接合部にそれぞれ近接する前記前身頃の部位にはこれら接合部に沿って前身頃を後身頃から切り離すための切断線を設けてあり、使用後に、この前身頃に設けた切断線からその対向側部を後身頃のそれから切り離して廃棄するタイプの使い捨てオムツにおいて、着用時や前記切り離し時に前・後身頃どうしの接合部が剥がれないようにするため、前・後身頃どうしの接合部の接合強度(剥離強度)を1000g/インチ(すなわち約1200gf/30mm)以上とすること。」
4b 「前記接合強度(剥離強度)は、接合部を、その長さ方向に対する直交方向に1インチの幅の細片に切断し、この細片を、引っ張り速度100mm/min、180度の剥離角度で引っ張る方法により測定される最大(極限)の力をいうこと。」
(5)刊行物5の特許請求の範囲欄、5頁右上欄17行〜左下欄1行、図面(第3〜5図)等の記載を総合すると、同刊行物には、次の5aの事項が記載されていると認められる。
5a 「パンツ型使い捨ておむつにおいて、ウエスト開口部と一対のレッグ開口部との間に存し吸収体の配置されている胴周囲部には、その全周に亘って実質的に連続したギャザーを形成する複数の弾性部材を設けること。」

4 第1発明について対比判断する。
(1)引用発明において、パンツ型使い捨ておむつが接合線に沿って容易に引き裂くことができるようにしてあるのは、使用後に接合部位を引き剥がし廃棄するためであり、また、第1発明では、パンツ型使い捨ておむつのトップシート及び/又はバックシートを構成する素材並びに両側縁部の接合固定の形態(間欠か連続か。)及び接合部位の状態は任意であるから、第1発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「透液性トップシートと、不透液性バックシートと(ただし、これら両シートの少なくとも一方が熱溶融性素材を含む。)」、「これら両シートの間に介在する吸収体」、「これら両シートからなる前身頃及び後身頃」、「両横方向対向側部」、「間欠的な接合固定(ただし、接合部位は前記トップシートと前記バックシートとが一体になった切れ目のない薄膜で塞がれている。)」、「胴開口部」、「脚開口部」、「前記前身頃と前記後身頃それぞれの両横方向対向側部の接合部を接合線に沿って容易に引き裂くことができるようにしてある」、「超音波融着又は熱エンボス加工」、「前記胴開口部と一対の前記脚開口部の各々の周縁は、弾性部材が収縮しギャザー仕立てとなっており」、「接合固定される前記前身頃及び前記後身頃の両横方向対向側部」は、順に、
第1発明の「液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと」、「これら両シート間に配置される吸収体」、「該吸収性本体における着用者の腹側に位置する腹側部及び背側に位置する背側部」、「両側縁部」、「接合固定」、「ウエスト開口部」、「レッグ開口部」、「使用後に該両側縁部の接合部が引き剥がされて廃棄される」、「超音波シール、ヒートシール又は高周波シール」、「上記ウエスト開口部及び一対の上記レッグ開口部には、それぞれその周縁部全周に亘って実質的に連続したギャザーを形成する弾性部材が設けられており」、「接合固定される上記腹側部及び上記背側部の両側縁部」
に相当する。
そうすると、両者は、結局、次の一致点で一致し、相違点1及び相違点2でのみ相違すると認められる。
【一致点】「液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートと、これら両シート間に配置される吸収体とを有する吸収性本体を備え、該吸収性本体における着用者の腹側に位置する腹側部及び背側に位置する背側部それぞれの両側縁部の接合固定により、ウエスト開口部及び一対のレッグ開口部が形成され、使用後に該両側縁部の接合部が引き剥がされて廃棄されるパンツ型使い捨ておむつにおいて、
上記接合固定は、上記両側縁部において上記トップシートの着用者面同士を当接させ、超音波シール、ヒートシール又は高周波シールによる接合により形成されており、
上記ウエスト開口部及び一対の上記レッグ開口部には、それぞれその周縁部全周に亘って実質的に連続したギャザーを形成する弾性部材が設けられており、
接合固定される上記腹側部及び上記背側部の両側縁部は、少なくとも上記トップシート又は上記トップシート及び上記バックシートを含む2枚のシートからなるパンツ型使い捨ておむつ。」
【相違点1】第1発明では、「両側縁部の接合強度〔この接合強度は、上記接合部を、その長さ方向に対する直交方向に30mmの幅の複数の細片に切断し、これらの細片を、それぞれ引っ張り速度300mm/min、180度の剥離角度で引っ張る方法により測定される最大(極限)の力をいう〕は1000〜3000gf/30mmである」と規定するのに対し、引用発明では、両側縁部の接合強度(以下単に「接合強度」という。)とその数値に言及しない点。
【相違点2】第1発明では、「上記トップシートは、おむつの縦方向における強力が1500〜3500gf/50mmであり」と規定するのに対し、引用発明では、おむつの縦方向におけるトップシートの強力(以下「おむつ縦方向シート強力」という。)とその数値に言及しない点。
(2)これらの相違点について検討する。
(相違点1について)
先ず、(i)刊行物3の前記3aの記載から、使用後に側部シームつまり両側縁部の接合部を引き剥がして廃棄するタイプの使い捨てパンツつまりパンツ型使い捨ておむつにおいて、両側縁部の接合部の引き剥がしの容易達成のために、接合強度を約2400gf/30mmとすることが知られ、(ii)刊行物4の前記4aの記載から、使用後に、前身頃に設けた切断線からその対向側部を後見頃のそれから切り離して廃棄するタイプの使い捨てオムツつまりパンツ型使い捨ておむつにおいて、着用時に前・後身頃どうしの接合部つまり両側縁部の接合部が剥がれないようにするため、接合強度を約1200gf/30mm以上とすることが知られる。
してみると、引用発明のパンツ型使い捨ておむつにおいても、これらに倣って「接合強度は1000〜3000gf/30mmである」と規定することは、刊行物3〜4の記載から当業者が容易に想到しうることである。
そして、第1発明が、「接合強度は1000〜3000gf/30mmである」と規定することによって、当業者の予期しない格別の作用効果を奏するものとは、訂正明細書【0026】等の記載から見ても言えない。なお、接合強度が一定の範囲内にあれば、パンツ型使い捨ておむつの着用中には接合部が剥がれにくく、使用後の脱衣時には接合部が縦方向に引き剥がし易くなるのは当然のことにすぎない。
ところで、第1発明では、接合強度をその測定法により定義している。しかし、当該測定法は、刊行物3の前記3bや刊行物4の前記4bに記載されている接合強度の測定法と実質上差異はなく、しかも、請求人は、本件訂正により、請求項1の記載において、接合強度の測定法を加えるのみで、それがこれら刊行物記載の測定法と異なるとの主張もしていないから、第1発明でことさら当該定義をしたこと自体には格別の意義がないものと認められる。したがって、当該定義によっては、第1発明にいう接合強度と刊行物3〜4記載のそれとを区別することはできない。
(相違点2について)
次に、(iii)刊行物2の前記2aの記載から、使い捨ておむつの身体に接触する側の表面材つまりトップシートに用いる不織布として、例えば、MD方向及びCD方向の引張強力の平均値である引張強度が4200〜5400gf/50mmのものが知られ、(iv)通常、この不織布のMD方向の引張強度は平均値であるこの値より高めであり、CD方向の引張強度は平均値であるこの値より低めであると推定される上、この不織布はMD、CDいずれの方向をも使い捨ておむつの縦方向とすることが適宜できるものであり、しかも、(v)刊行物2の前記2bの記載から、使い捨ておむつのトップシートに用いる不織布の引張強度(第1発明にいう「強力」)と風合とのバランスを考慮し、さらには同不織布の製造コストにも留意して、おむつの縦方向における同不織布の引張強度を、その必要な限度において、前記の数値範囲の下限よりも低い範囲に設定することも(もちろん、その上限よりも高い範囲に設定することも)、引張強度が前記範囲内にない不織布はトップシートとして到底使用し得ないとか、そのような不織布は製造が不可能ないし困難であるなどの特段の事情があれば格別、同刊行物の記載等からはそのような事情は何ら窺われないことから、当業者が実験や試行等及び製造コスト上の技術常識に基づいて適宜にできることであると認められる上、(vi)このように設定した使い捨ておむつのトップシート用の不織布を、使い捨ておむつの一態様である引用発明のパンツ型使い捨ておむつに適用することを妨げる特段の事情も何ら存在しない。
してみると、引用発明のパンツ型使い捨ておむつにおいて、トップシートとして、おむつの縦方向における強力が4200gf/50mmよりも低いもの、ひいては、それが1500〜3500gf/50mmのものを用いることは、刊行物2の記載から当業者が容易に想到しうることである。
そして、第1発明が、「上記トップシートは、おむつの縦方向における強力が1500〜3500gf/50mmであり」と規定することによって、当業者の予期しない格別の作用効果を奏するものとは、訂正明細書【0019】、【0025】等の記載から見ても到底言えない。なお、おむつ縦方向シート強力が一定の数値範囲にあれば、パンツ型使い捨ておむつの使用後の引き剥がし操作時〔特に、刊行物1の前記fの「接合線14の上端および/または下端には、非接合部位14Bよりも大きめの非接合部位14E、14E’を設けておき(図1参照)、ここを摘持すれば前身頃10と後身頃11とを接合線14に沿って容易に引き裂くことができるようにしてある。」との記載から想定されるような、おむつの縦方向に接合部を引き剥がそうとする場合〕に、接合部の側部に存在するトップシートやこれと積層されているバックシートを構成する材料が横方向へ裂けにくくなるとともに、良好な風合も保持することができるのは当然のことにすぎない(請求人は、審判請求書15頁12〜14行において、シートの強力が低いとその風合が良好なものとなることは技術常識であるとしている。)。
(相違点1と相違点2との組み合せについて)
第1発明が、相違点1、すなわち接合強度を1000〜3000gf/30mmとする点と、相違点2、すなわちおむつ縦方向シート強力を1500〜3500gf/50mmとする点とを組み合わせた点にも格別の意義がない。
したがって、第1発明は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 第2発明について対比判断する。
第2発明は、第1発明において、「上記ウエスト開口部と一対の上記レッグ開口部との間に存し上記吸収体の配置されている胴周囲部には、その全周に亘って実質的に連続したギャザーを形成する複数の弾性部材が設けられていること」をさらに規定するものであるが、この点は前記5aのように刊行物5に記載されていて、第2発明は、これを第1発明に単にそのまま付加したものであって、このことに何らの困難性もなく、しかも、これによって当業者の予期しない格別の作用効果を奏するものでもないから、第2発明は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

III 請求人の主張に対して

1 請求人は、前記Iの(10)の意見書で、審判請求書における請求人の主張に対して応えた前記Iの(9)の訂正拒絶理由書9頁2〜24行における認定判断に対して反論するとして、要旨次のカ〜クのような主張をしている。
カ 『パンツ型使い捨ておむつの引き剥がし操作時の横裂けの防止は、本件出願前に当業者にとっては当然の課題ではなかったから、当該課題は当業者にとって自明の課題であるとする認定は事実と相違する。』(意見書12頁18行〜13頁7行)
キ 『横裂けを生じさせることなく接合部を一気に引き裂くことができるという本件発明(第1発明及び第2発明をいう。以下同じ。)の効果は、極めて異質かつ顕著なものであり、公知文献の記載から予測し得ないものであるから、本件発明の接合強度を1000〜3000gf/30mmとする点とおむつ縦方向シート強力を1500〜3500gf/50mmとする点との組み合わせに格別の意義がなく、また、当業者であれば適宜設定することができたとする判断は誤りである。』(同書13頁8〜27行)
ク 『本件発明において、おむつ縦方向シート強力の値が接合強度の値よりも常に低いと言えないことは明らかであるとした認定が誤りであることは、甲第11号証に示すように、接合部位によっては赤丸で示される接合強度が約2800gf/30mmに達していることから見ても明らかである。』(同書13頁末行〜14頁19行)

2 しかし、これらカ〜クの主張は、次の理由により失当である。
(カの主張に対して)
訂正拒絶理由書では、「接合部の引き剥がし操作時の横裂けが起こっては具合が悪いことは当然である」と説示したもので、「パンツ型使い捨ておむつの引き剥がし操作時の横裂けの防止は、本件出願前に当業者にとって自明の課題であった」と認定したものではないが、本審決の前記IIでは、このような説示も認定もしていない。本件発明の容易想到性をいうのにこのような認定が必要でないことは、本審決の前説示に明らかである。
なお、甲第9号証(アンケート調査結果)に見られるように、従来のパンツ型使い捨ておむつでは引き剥がし操作時に横裂けが生じやすく具合が悪いことは、本件出願前に不特定多数の一般消費者においてさえ認識されていることであった。したがって、これを防止すべきことは、本件出願前に当業者にとって当然の課題であったということができる。この課題が長期間放置されていたとも直ちに言うことができないばかりでなく、仮に放置されていたとしても、そのような事情は、本審決における容易想到性の判断を左右しない。
(キの主張に対して)
甲第8号証の1〜3に係る従来品1〜3がおむつ両側縁部の接合部を縦方向に引き剥がす際に横裂けを生じやすいとすれば、それは、おむつのシートを構成する素材の縦方向における強力が弱すぎることも一因であることは当業者が容易に想到し得るから、おむつ縦方向シート強力を一定以上の値にすれば、横裂けを生じさせることなく接合部を一気に引き裂くことができるようになることは、当業者が容易に予測し得ることにすぎない。甲第2号証(実験報告書)、甲第8号証の1〜3(従来品1〜3の各パッケージの表面及び裏面の記載)、甲第9号証、甲第10号証(ビデオテープの記録内容)、甲第11号証(実験報告書)、甲第12号証(花王株式会社製メリーズパンツ及び従来品3の各サンプル)、審判請求書添付の参考資料及び意見書添付の参考資料2-1〜2-3は、いずれもこの認定判断を左右しない。前記Iの(11)の面接において審判請求人が当合議体に直接提示した各サンプルの対比結果についても同様である。
なお付言すれば、本件発明におけるおむつ縦方向シート強力や接合強度の各数値限定又はこれらの組合せに、いわゆる臨界的な意義を認めるに足りる資料は何ひとつ存在しない。出願当初の明細書や特許の設定登録時の明細書において、さらには訂正明細書において、発明の詳細な説明の段落【0025】で、「おむつ縦方向シート強力は、2000〜4500gf/50mmの範囲が好ましい」旨記載されていることから見ても、同強力をことさら1500〜3500gf/50mmに限定した点に格別の意義のあろうはずがない。
(クの主張に対して)
おむつ縦方向シート強力の値と接合強度の値とを、測定幅の単位である50mmを30mmに換算するだけでそのまま比較することが可能であると仮定した場合でも、本件発明におけるこれらの数値範囲から見て、前者(900〜2100gf/30mm)が後者(1000〜3000gf/30mm)よりも常に低いと言えないことは、例えば前者の上限値と後者の下限値とを対比することによっても直ちに明らかとなる。甲第11号証は、「おむつ縦方向シート強力の値が接合強度の値よりも常に低いと言えないことは明らかである」旨の認定を何ら左右しない。

3 さらに、請求人は、前記Iの(12)の上申書で、訂正拒絶理由書8頁4〜21行における相違点キ(本審決にいう相違点2)についての認定判断に対して反論するとして、前記意見書における主張を補充し、本件発明の課題、構成及び効果は、要旨次のサのようなものであること及び本件発明に到達するには要旨次のシのようなステップを全て踏まなければならないことを前提として、要旨スのような主張をしている。
サ 『本件発明は、本件発明者が、
(a)従来品のパンツ型使い捨ておむつにおいては、接合部引き裂き時における横裂けの問題が生じていることを発見し、
(b)これを当業界で初めて解決すべき課題として設定し、
(c)この横裂けのメカニズムを詳細に検討した結果、横裂けが、従来品のおむつ縦方向シート強力の値の不十分さに起因すると推定するに至り、
(d)横裂けを防止するためにおむつ縦方向シート強力の値を如何に高めるかを検討することになり、横裂けを防止するには接合部を引き剥がす力に耐えうるトップシートにすべきであり、そのためにはトップシートの引張強度を接合部の接合強度よりも高くしなければならないとの前提に立ち検討した結果、接合部をヒートシール等により形成した場合、着用中に剥がれにくく、引き剥がし時には剥がしやすい適切な接合強度となるように設定したとしても、その接合強度には不可避的に大きな範囲にわたるばらつきが生じてしまい、接合部の部位により様々な接合強度となり得ること知得し、
(e)これを考慮すると、適切な接合強度の設定と、そのように設定した場合の、接合部各部の接合強度が実際にどの値をとっても横裂けが生じることなく一気に引き裂くことが可能なおむつ縦方向シート強力の値の上限の検討が必要となり、
(f)その検討の結果、(f-1)接合強度は、それがばらつくことを加味して、1000〜3000gf/30mmとすることが適切であること、(f-2)必要な接合強度が1000〜3000gf/30mmの範囲でばらつき得るという前提で横裂けが生じないようにするためには、おむつ縦方向シート強力の値は1500〜3500gf/50mm程度で十分であること、(f-3)したがって、おむつ縦方向シート強力の値を接合強度がとり得る範囲よりも低めの範囲に設定しても、接合部引き裂き時にシートの横裂けは生じないことをそれぞれ見出し、発明の完成に至ったもので、
(g)おむつ縦方向シート強力が1500〜3500gf/50mmであり、かつ、接合強度が1000〜3000gf/30mmであるという構成により、おむつ接合部の引き裂き時にシートの横裂けが起こらず、摘み部分を持ち替えることなく接合部を一気に引き裂くことができる等の顕著な効果を奏するものである。』(以上、上申書2頁1行〜4頁12行)
シ 『刊行物2の記載から相違点キ(本審決にいう相違点2)の構成を想到するためのステップとして、
ステップ1:おむつの接合部を引き裂く際には、おむつ幅方向に加えられた力が、シートに対しては次第におむつ縦方向に作用するようになることを解明し、横裂け防止のためには、おむつ縦方向シート強力を従来品よりも高めなければならないことを着想する。
ステップ2:ステップ1の着想を得た場合、接合部各部の接合強度が実際にどの値をとっても横裂けが生じることなく一気に引き裂くことが可能なおむつ縦方向シート強力の上限値の検討が必要となるところ、「通常、この不織布のMD方向の引張強度は平均値であるこの値より高めであり、CD方向の引張強度は平均値であるこの値より低めである」〔理由(iv)参照〕ことを考慮した上で、あえて、平均値より低めの引張強度を持つCD方向をおむつの縦方向として採用し、さらに、平均値よりもどのくらい低い引張強度を採用すればよいのかを検討しなければならない。
ステップ3:刊行物2記載の不織布においては、特定された平均値よりもCD方向の引張強度が低ければ、当然にMD方向の引張強度は平均値よりも高くなる。このため、ステップ2の検討と同時に、「使い捨ておむつのトップシートに用いる不織布の引張強度と風合とのバランスを考慮して」〔理由(v)参照〕、MD方向の引張強度がどのくらい高くなってもよいかを検討しなければならない。
ステップ4:ステップ1〜3とは別のステップとして、「おむつの引き剥がしは接合部で行われることから、横裂けを防止するためには接合部の引き剥がしに耐えうるトップシートとすることが前提であると考えること」が当業者の常識であったにもかかわらず、おむつ縦方向シート強力の上限値が、接合強度の取り得る最大値より低くても、横裂け防止の課題を解決することができることを見出さなければならない。
ステップ5:前記の常識に反して、さらに、おむつ縦方向シート強力の値が、接合強度の取り得る最小値よりさらに低くても、横裂け防止の課題を解決することができることを見出さなければならない。
ステップ6:接合強度が1000〜3000gf/30mmの範囲でばらつき得るにもかかわらず、CD方向の引張強度を、MD方向のそれとの平均値である4200〜5400gf/50mmよりも相当下回る1500〜3500gf/50mm(すなわち900〜2100gf/30mm)という範囲に設定すれば課題を解決でき、おむつ接合部の引き裂き時に横裂けが起こらず、摘み部分を持ち替えることなく接合部を一気に引き裂くことができることを見出さなければならない。』(以上、同書6頁19行〜7頁6行)
ス 『訂正拒絶理由通知書の「相違点キについて」で示された理由(iv)〜(vi)〔本審決の前記「相違点2について」で示した理由(iv)〜(vi)とほぼ同旨〕は、次のス-1〜ス-5に述べるように、これらのステップ1〜6を当業者が容易に踏むことができるということの説明にはならない。
ス-1 理由(iv)〜(vi)の云々以前に、次の問題がある。接合部引き裂き時における横裂けという問題は、使用者は認識していたかもしれないが、当業者には、それを防止することが課題として認識されていなかった。現に、訂正拒絶理由通知書の各引用刊行物には、当該課題は開示も示唆もされてない。仮に、当業者がこの点を課題として認識したとしても、これらの刊行物を参考にする動機がない。もとより、おむつ引き裂き時に、接合部を引き裂く際におむつ幅方向に加えられた力が、シートに対しては次第におむつ縦方向に作用するようになること、したがって、横裂けを防止するためには、従来品よりおむつ縦方向シート強力値を高めなければならない(ステップ1)という点は、各引用刊行物には開示されていない。
ス-2 理由(iv)にいう「通常、この不織布のMD方向の引張強度は平均値であるこの値より高めであり、CD方向の引張強度は平均値であるこの値より低めであると推定される上、この不織布はMD、CDいずれの方向をも使い捨ておむつの縦方向とすることが適宜できる」という事実があったとしても、課題解決のために、おむつ縦方向シート強力の値を高めなければならないにもかかわらず、引張強度が弱い方のCD方向をおむつ縦方向にする(ステップ2)という動機が生じることの合理的な説明がない。すなわち、課題解決のためには、おむつ縦方向シート強力の値をどこまで上げれば、接合部の各部の接合強度が実際にどの値をとっても、横裂けが生じることなく一気に引き裂くことができるのかを検討しなければならなかったのであるから、通常であれば、むしろ、平均値より高めの値を持つMD方向をおむつの縦方向として採用し、MD方向の引張強度を開示された平均値よりもどのくらい上げれば課題が解決されるのかをまず検討するはずである。したがって、各引用刊行物からは、引張強度が弱い方のCD方向をおむつ縦方向にする(ステップ2)という動機は生じない。
ス-3 刊行物2記載の不織布において、特定された平均値よりもCD方向の引張強度を下げれば、その下げた分だけ、当然にMD方向の引張強度は平均値よりも上がることになる。理由(v)にあるように、「使い捨ておむつのトップシートに用いる不織布の引張強度と風合とのバランスを考慮して」、同不織布のおむつの縦方向における引張強度を当業者が実験や試行等に基づいて適宜するのであれば、おむつの風合が悪くなることを避けるためMD方向の引張強度としてあまり高いものを採用すべきではなく、その結果、CD方向の引張強度としてもあまり低いものを採用すべきではないことになる。したがって、あえて「不織布のおむつの縦方向における引張強度を前記の数値範囲の下限よりも低い範囲に設定すること」を検討する動機付けが刊行物2には見当たらない(ステップ3)。
ス-4 理由(vi)で、「このように設定した使い捨ておむつのトップシート用の不織布を、使い捨ておむつの一態様である引用発明のパンツ型使い捨ておむつに適用することを妨げる特段の事情も存在しないから、引用発明のパンツ型使い捨ておむつにおいて、トップシートとして、おむつの縦方向における強力が4200gf/50mmよりも低いもの、ひいては、それが1500〜3500gf/50mmのものを用いることは、刊行物2の記載から当業者が容易に想到しうることである」というが、おむつの引き剥がしは接合部で行われるため、引き剥がし時のシートの横裂けを防止するためには接合部の引き剥がしに耐えうるトップシートとすることがまずもって先決であることから、当業者であれば、少なくとも、トップシートの引張強度を接合部の接合強度よりも高くしなければならないと考えるのが常識である。この常識に反して、あえて、おむつ縦方向シート強力の値を接合強度がとり得る範囲よりも低めの範囲に設定する(ステップ4〜5)という動機付けが刊行物2には見当たらない。
ス-5 このような構成を持つおむつをもってすれば、接合部引き裂き時にシートの横裂けが生じないという効果があることを予測できたという根拠も刊行物2には見当たらない。刊行物2に唯一開示された「4200〜5400gf/50mm」というMD方向の引張強度とCD方向の引張強度の平均値の記載から、「1500〜3500gf/50mm」というCD方向の引張強度の具体的な範囲を導き出せるという根拠はない(ステップ6)。
それにもかかわらず、訂正拒絶理由通知書には、刊行物2の記載からこれらの数値を当業者が容易に想到し得たと断定する根拠として、要するに、「刊行物2には、不織布として、MD方向の引張強度とCD方向の引張強度の各々について何らかの具体的な数値を持つものまで開示されているに等しい」という考え方が述べられている。しかし、仮にこのような考え方が成り立つとすれば、刊行物2には、両者の平均が当該範囲を満たす限り、無制限に想定されるあらゆる値のMD、CD両方向の引張強度を有する不織布が開示されているという不合理な結論にならざるを得ない。』(以上、同書4頁13行〜10頁末行)

4 しかし、そもそも、前記サの(a)から(f)は、本件発明者としての本件発明の成立過程の事情をいうものにすぎず、しかも、その(d)にいう「その接合強度には不可避的に大きな範囲にわたるばらつきが生じてしまい、接合部の部位により様々な接合強度となり得ること」、(e)にいう「接合部各部の接合強度が実際にどの値をとっても」及び(f)にいう「(f-1)接合強度は、それがばらつくことを加味して、1000〜3000gf/30mmとすること、(f-2)必要な接合強度が1000〜3000gf/30mmの範囲でばらつき得るという前提で横裂けが生じないようにする」は、本件発明を特定する事項に関係がない。また、その(f)にいう「(f-3)おむつ縦方向シート強力の値を接合強度がとり得る範囲よりも低めの範囲に設定」は、前記「クの主張に対して」において説示したとおり、本件発明を特定する事項に対応しておらず、(g)にいう効果が何ら格別のものでないことは、すでに詳述した。
次に、前記シのステップ1〜6は、請求人が独自に仮定したものにすぎず、その内容自体も本件発明を特定する事項に対応しない部分が存在し、しかも、これらのステップを全て踏まなければ本件発明が着想されないというものでもないから、前記スの主張はすでに失当である。そして、本件発明は、本審決に前説示したとおりの理由により、当業者が容易に想到し得るるものである。
なお、ス-1〜ス-5の主張に対しては、以下のとおり付言する。
(ス-1の主張に対して)
横裂け防止のためには、おむつ縦方向シート強力を従来品よりも高めなければならないことを着想するというステップ1が容易に越えられるものであることは、前記「カの主張に対して」及び「キの主張に対して」においてすでに説示したところから明らかである。
(ス-2の主張に対して)
ステップ2で 、「接合部各部の接合強度が実際にどの値をとっても横裂けが生じることなく一気に引き裂くことが可能なおむつ縦方向シート強力の上限値の検討が必要」というが、このようなことは、本件発明においては問題とされていない(訂正明細書の段落【0025】、【0026】等参照)。また、ステップ2で、「あえて、平均値より低めの引張強度を持つCD方向をおむつの縦方向として採用しなければならない」というが、採用できる方向はCD方向に限らない。したがって、ステップ2の前提自体が正しいものとはいえないから、これに依拠するス-2の主張は失当である。
(ス-3の主張に対して)
ステップ3で、「ステップ2の検討と同時に、MD方向の引張強度がどのくらい高くなってもよいかを検討しなければならない」というが、採用できる方向がCD方向に限られるわけではなく、また、本件発明では、トップシートのMD、CDいずれの方向をおむつの縦方向に採用するかも、おむつの縦方向と直角の方向におけるトップシートの強力の値もともに問題ではなく、ステップ3の前提自体が正しいものとはいえないから、これに依拠するス-3の主張は失当である。
(ス-4の主張に対して)
ステップ4〜5では、「おむつ縦方向シート強力の上限値が、接合強度の取り得る最大値より(さらに)低くても、横裂け防止の課題を解決することができることを見出さなければならない」という。
しかし、「接合強度の取り得る最大値」というのが、1着のおむつにおける1本の接合部を複数に分割して考えた場合における各部の接合強度が異なることを前提として、その内の最大値のことを意味しているものとすれば、本件発明では、それを特定する事項から見て、おむつ縦方向シート強力の上限値とそのような意味での「接合強度の取り得る最大値」との関係を問題にしているわけでないから、ステップ4〜5の前提自体が正しいものとはいえない。したがって、これに依拠するス-4の主張は失当である。
また、本件発明では、おむつ縦方向シート強力の上限値が接合強度の下限値よりも大きい場合を明らかに包含しているから、本件発明は、「トップシートの引張強度を接合部の接合強度よりも高くしなければならない」との請求人のいう「常識」どおりの課題解決手段を採用したものである。したがってまた、「おむつ縦方向シート強力の値を接合強度がとり得る範囲よりも低めの範囲に設定するという動機付けが刊行物2には見当たらない」というス-4の主張は、失当である。
(ス-5の主張に対して)
ステップ6にいう「接合強度が1000〜3000gf/30mmの範囲でばらつき得る」は、本件発明を特定する事項に基づかないものであるから、ステップ6の前提自体が正しいものとはいえず、これに依拠するス-5の前段の主張は失当である。本件発明における「接合強度(定義付き)は1000〜3000gf/30mmである」は、1着のおむつにおける1本の接合部を複数に分割して考えた場合における各部の接合強度が異なることを前提として、それがこの数値範囲でばらつき得ることを規定したものとは認められない。
また、本審決は、前説示のとおり、「(v)刊行物2の前記2bの記載から、使い捨ておむつのトップシートに用いる不織布の引張強度と風合とのバランスを考慮し、さらには同不織布の製造コストにも留意して、同不織布のおむつの縦方向における引張強度を、その必要な限度において、前記の数値範囲の下限よりも低い範囲に設定することも、引張強度が前記範囲内にない不織布はトップシートとして到底使用し得ないとか、そのような不織布は製造が不可能ないし困難であるなどの特段の事情があれば格別、同刊行物の記載等からはそのような事情は何ら窺われないことから、当業者が実験や試行等及び製造コスト上の技術常識に基づいて適宜にできることである」と認定判断しており、「刊行物2には、両者の平均が当該範囲を満たす限り、無制限に想定されるあらゆる値のMD、CD両方向の引張強度を有する不織布が開示されている」旨認定したものではないから、ス-5の後段の主張も失当である。

IV むすび

以上のとおりであって、訂正後発明は、特許法第29条第2項の規定により、その出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件審判の請求は、旧特許法第126条第3項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-07-16 
結審通知日 2002-07-19 
審決日 2002-07-30 
出願番号 特願平7-14577
審決分類 P 1 41・ 121- Z (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植前 津子  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 杉原 進
船越 巧子
登録日 2000-04-14 
登録番号 特許第3055650号(P3055650)
発明の名称 パンツ型使い捨ておむつ  
代理人 黒田 薫  
代理人 小林 純子  
代理人 佐長 功  
代理人 井窪 保彦  

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